あと少しこのままで

キスしたい、キスしたい、キスしたいの続きです。

 日付けが変わる30分程まえ、明日は祝日だしとだらだら雑誌を捲っていたら、控えめに部屋のドアがノックされた。少し前に玄関ドアが開閉された音は聞こえていたが、こんな時間に従兄弟が部屋を訪れるのは珍しい。
「なにー?」
 ベッドから起き上がりつつ、ドア越しにも聞こえるだろう声量でとりあえずそう返せば、やはりそっとドアが開いた。
「起きてて良かった」
 顔を覗かせた従兄弟の、軽やかな声とどこか浮かれた表情に、そう深刻な問題が起きたわけではないらしいと思う。
「何かあった?」
「うん。焼き鳥あるからちょっと晩酌付き合わない?」
「食べる!」
 即答してうきうきで部屋を出る。
 リビングへ行けば、ソファの前のローテーブルの上、ざっと15本程度の焼き鳥が無造作に皿に盛られていた。
「てかさ、どーしたのこれ」
 今までも出張土産とかいうお菓子類は何度か渡された事があるけれど、こんな土産は初めてだ。
「お前にって思って買ってきた」
「え?」
「今日飲んでた店、焼き鳥すんごく美味かったんだよ。で、途中、大学生の従兄弟が同居中で若いからか肉ばっか食ってるっつー話したら、土産に持ってってやれって言われてさぁ。この店の焼き鳥、お持ち帰りしても美味いんだって」
「なにそれ優しい。てか乗せられて買っちゃった系?」
「うっせ。お前はありがたく食っとけばいーの」
「食うよ。食うけど!」
「食うけど?」
「やっぱ最近、なんかちょっとオカシクない?」
 どこらへんがと問われて口ごもる。なぜなら、従兄弟の変化のきっかけは、やはりあの日のキスにある気がしているからだ。それとも自分が意識しすぎなだけだろうか?
「なんか、シタゴコロ的な……」
「まぁ、否定はしない。そりゃ多少はあるよな、下心」
「あんのかよっ」
「そう警戒すんなって。食ったらならキスさせろ、なんてことは言わんから」
「本当に?」
 ホントホントと軽いノリと、やはり目の前の美味しそうな焼き鳥の誘惑に負けて、いそいそとソファに腰掛けた。
 食ってていーぞと言って、いったん併設の小さなキッチンに引っ込んだ従兄弟は、冷蔵庫を開けてからお前なに飲むのと問いかけてくる。
「晩酌付き合えって俺にも飲めって事じゃないの?」
 二十歳になった時、お祝いで飲みに連れて行って貰って以降、たまーに誘われて一緒に飲んでいたから、今日もそれだと思っていたのに。
「と思ったけどやっぱなし。お前今日は酒禁止」
「なんで!?」
 何を飲むかの返事はしていないのに、戻ってきた従兄弟はビールの缶とペットボトルのお茶とグラスとを器用に抱えている。
「今日の俺は下心があるから。てかお前のせいで下心湧いちゃった~」
 お前が酔ったらイタズラしそう。なんてどこまで本気かわからない笑顔と共にお茶とグラスを差し出されたら、黙って受け取る事しか出来ない。
「でも乾杯はして?」
 隣に座った従兄弟はプルタブを上げてビールの缶を軽く掲げて見せる。
 お茶で? とは思いつつも、望まれるままグラスをカチンと合わせてやれば、酷く嬉しげだ。やたら幸せそうに崩れかけた頬と口元が目に入って、なるほど既に少し酔ってるのだとようやく気付いた。そういえば、この焼き鳥を買った店で飲んできたのだと言っていたのを思い出す。
「どーした?」
「今、どんくらい酔ってんの?」
「酔ってないよ?」
「嘘ばっか。けっこー飲んだろ」
「まぁ飲んだけど。でも帰ってからシャワー浴びてさっぱりしたし、もうあんま残ってないって」
 ジロジロと見つめる従兄弟は確かに風呂あがりで、しかも綺麗に髭も剃られている。
「明日、仕事は?」
「さすがにないよ。あったらこの時間に追加で飲まないって」
 前から休前日の夜にもこんなに小奇麗にしていただろうか?
 忙しい従兄弟は休日出勤も多い上に、こんな風に夜間一緒に過ごすことはめったにないので分からない。いや、たとえあったとしても、きっと覚えてなかっただろう。だらしなく小汚いおっさんだったあの朝が珍しかったのは確かだが、キスの上書きなんて話がなければ、従兄弟の普段の格好など気に留める事もなかったのだ。
 ああ、やっぱり自分が意識しすぎている。
「お前、本当にあれトラウマになってんのな」
 従兄弟を見つめたまま黙ってしまったら、苦笑とともにそう言われたけれど、唐突過ぎて意味がわからない。
「どういう事?」
「だってさっきから、何度も繰り返し思い出してんだろ。俺にキスされたこと」
 ごめんと謝る顔は一転して真剣だった。
「もう少しこのまま様子見ようかと思ってたけど、やめるわ」
 そんな前置きの後、従兄弟は続ける。
「キスなんてたいしたことないだろーって流しちまおうかと思ってたけど、なんかお前どんどん意識してるっぽいし逆効果だったよな。本当、ごめん。寝ぼけてやらかしたことだから、二度としない、とは言えないけど。でももう、あんな醜態晒さないようにはするつもりだし、キスしようなんてことも、もう言わない。それでもお前が不安になるってなら、一緒に飯食ったりするの一切やめてもいいけど、どうする?」
 生活費を持つんじゃなくて家事負担分はバイト代みたいな形で定額払うよ、なんてことまで言われて、かなり本気の提案なのだと思う。もしこれに頷いたら、どうなるんだろう? 頭のなかはいっきに真っ白だった。漠然とした不安だけが押し寄せる。
「ついさっき、シタゴコロあるって言ったくせに」
「うん。一緒に住んでんだから、お互い家に居るときくらい、お前と普通に楽しく過ごしたいって下心は、ある」
「なにそれ。本気で言ってんなら、俺が酔ったらイタズラするかもって言ったのなんなんだよ」
「お前酔っ払うとちょっと可愛いから、そんな状態で俺意識されんの嫌だな~って思っての牽制。まぁ、言葉が悪かったのは認める。お前あれで余計身構えたもんな」
 すぐに答えだせとは言わないから、俺との生活どうするのが理想か考えて。と言って従兄弟はビールの缶を片手に持ったまま立ち上がる。
「焼き鳥はせっかく買ってきたんだからお前が食べろよ。全部食べなくてもいいけど、明日の朝、もし手付かずで残ってたら俺は泣くからな!」
「なんだその脅迫。食うよ。てかちょっと待って」
 とっさに伸ばした手でシャツの裾を握った。
「俺をからかって遊んでるわけじゃなくて、本当にキスする気だったなら、……キスして、いいよ」
 従兄弟を見上げつつ、かなりの覚悟でそう告げたのに、従兄弟は困ったように笑う。
「今のお前にキスしたら、ほらたいしたことないだろ、なんて言えない感じになりそうだからダメ」
 まさか断られるとは思っていなくてショックだった。意識させてごめんともう一度謝ると、従兄弟は服の裾を握る手をそっと撫でてくる。力が抜けてしまった手の中から、服の布が逃げていく。
 お休みと言ってリビングを出て行ってしまった従兄弟の背を見送る頭のなかは、やはり酷いとかズルイとかの単語でいっぱいだった。

レイへの3つの恋のお題:寝ぼけてキスをした/キスしたい、キスしたい、キスしたい/あと少しだけこのままで
http://shindanmaker.com/125562

お題は消化したけど、これこんな所で終わりにしていいのか……?

 
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1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

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