フラれた先輩とクリスマスディナー

 サークルの先輩から、今から出て来れないかという連絡が入ったのは土曜の夕方だった。確か一日早いクリスマスを彼女と過ごすと言って浮かれていたはずだ。
 フラれたんですかと直球でメッセージを送れば、うるせー来るのか来ないのかどっちだと返って来たので、奢りなら行きますと返して家を出る支度を始める。家を出る直前にチェックした返信には、奢ってやるから急げと書かれていた。
 呼び出された先は最寄り駅から二駅ほど移動したターミナル駅の改札で、こちらの顔を見るなり遅いと文句を言いかけた先輩は、途中で言葉をとめて訝しげに眉を寄せる。
「どうです? ちょっとは可愛いですか?」
 さすがにスカートやらは履いていないが、ぱっと見ただけでは性別不詳な格好をしてきていた。性別不詳と言うか、普段大学へ行く時に着ているものより、格段に可愛らしい服を選んできた。ついでに言うと、目元にちょっとだけメイクもしている。
「つか何だよそのカッコ」
「彼女にドタキャンされた先輩に、彼女のために用意したディナー奢ってもらうお礼に、彼女のふりしてあげようかと。というか、俺に声かけたの、そのためじゃないんすか?」
 男性平均並の身長があるので、女性と考えたら背はかなり高い部類に入ってしまうが、母親譲りの女顔だという自覚はある。昔はしょっちゅう、今でもたまに、素で女性に間違われる事があるくらいだから、そのせいで呼ばれたのだと本気で思い込んでいたのだけれど。
「ばっ、……ちげーよっ!」
「じゃ、なんで俺なんです?」
「お前の家、確かこの辺だったっての覚えてただけだ。てか一番はやく来れるの、お前だと思ったんだよ」
 そう言った先輩は、そこで急いでいたことを思い出したらしい。時計を確認するなり、とにかく行くぞと歩きだす。
 連れて行かれたのはそこそこ名の知れたホテル内のレストランで、もしかしなくてもしっかり部屋まで押さえてあった。さすがに不憫過ぎる。思わずうわぁと声を漏らしてしまったが、先輩は黙れと言い捨て、さっさとレストランの中へと入っていく。
 料理はコースで決まっていて、飲み物は先輩がシャンパンをボトルで注文した。最初、自分だけ酒を頼んでもいいかと言った先輩に、先週誕生日だったので一緒に飲めますよと返した結果だ。ただ、一緒に飲めますとは言ったものの、実際にはほとんど飲まなかった。
 一口飲んだ瞬間、マズっと思ってしまったのが、先輩にあっさりバレたせいだ。
 美味いと思えないなら無理して飲むなよと言われて、ドリンクメニューのノンアルコール欄を突きつけられてしまえば、大人しく引き下がるしかない。しかし、ソフトドリンクにしろノンアルコールカクテルにしろ、どれもこれもめちゃくちゃ高い。選べない。
「あの、」
「なんだよ」
「水でいいです」
「値段気にしてんなら余計なお世話」
「いやだって、」
「パーッと金使いたい気分なんだから付き合えって」
 明日は彼女へ贈るクリスマスプレゼントを一緒に選ぶ予定だったそうで、そのために用意していたお金を使ってしまいたいらしい。ますます不憫だと思ったけれど、さすがにもう、うわぁと声に出してしまうことはしなかった。しなかったけれど、振られたんですかと聞くことはした。
「つまり急用ができてドタキャンってわけじゃなく、フラれたってことでいいんですかね?」
「聞くな」
「奢ってもらってるし、泣き言なり愚痴なり文句なり、なんでも聞いたげますけど」
「いやいい。飯まずくなりそうなことしたくねぇし」
 迷う素振りもなく断られて、ああくそカッコイイな、と思ってしまった。
「ホテルレストランで食事して、そのままホテルお泊りして、翌日はプレゼント買いに行くようなデートをドタキャンして振るって、先輩いったい何したんです?」
「お前な。その話はしなくていいっつの」
「フラれた理由、聞いてないんですか?」
「おい。いい加減にしとけ。つかなんでんなの聞きたがるんだよ」
「だってこんないい男をこのタイミングで振る理由、わかんないんすもん」
 嫌そうに眉を寄せていた先輩が、少し驚いたような顔をしてから笑い出す。
「いい男、ね。別に煽てなくていいぞ。さっきも言ったけど、お前に奢ってんのは、お前の家が一番近かったってだけだし」
「本気でいい男だって思ってますけど。あと、さっき言った彼女のふりしてあげましょうかも、割と本気だったんですけど」
「は?」
「傷心な先輩を、彼女の代りに慰めてあげよう。ってつもりで出てきたんで、もうちょい落ち込むなりして下さいよ。つかフラれたくせに隙なさすぎじゃないですか?」
 あ、ちょっと余計なことまで言い過ぎた。これ以上漏らさないよう、慌てて口を閉ざした。
「なんだそりゃ。慰めなんていらねーし」
 先輩はまるで気づかなかったらしく、ホッと胸をなでおろす。さすがにこれ以上この話題を続けるのはやめておこうと、その後はサークルの話題をメインに乗り切った。
 ただ、シャンパンをほぼボトル一本飲み干した先輩はいつの間にかかなり酔っていて、仕方なく足元がフラフラの先輩をチェックイン済みだという部屋まで連れて行く。
 ダブルの大きなベッドに先輩をごろりと転がし、じゃあ帰りますねと声を掛けたら、服の裾をガッツリ握られ引き止められた。
「なんすか? 何かしておいて欲しいことでもありますか?」
「今、俺、隙だらけなのに帰んの?」
「はい?」
 言葉は返らず、酔ってトロリとした目で睨みつけてくるからドキリとする。
「えっと、慰めはいらないって……」
「慰めろとは言ってない。後、俺がフラれた理由、多分、お前」
「は? えっ? なんすかそれ」
「さぁ?」
 くふふと笑った相手は、多分間違いなくただの酔っ払いだった。しかもその後目を閉じて、握っていた服もあっさり手放してしまう。
「えー……」
 零した声に返るのは寝息だ。その寝姿を眺めながら、取り敢えずシャワーを浴びようかなと考える。
 さすがにあんな意味深なセリフを吐かれて、そのまま帰る気にはなれない。どこまで覚えてるかわからないけれど、明日絶対問い詰めると心に決めて、バスルームへ移動した。

続きました→
どうしてもクリスマスネタやりたかった。二人はほんのり両片想い。先輩は彼女に男への恋情がバレて振られた感じ。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

スライム+聖水=ローション

 お使いの帰り道、上方から名前を呼ばれて振り仰げば、年上の幼馴染が柔らかな笑顔を振りまきながら、お土産あるから上がっておいでと誘う。帰ってたんだと嬉しく思いながら、すぐ行くと返して小走りに玄関へと向かった。
 小さな町で子供も少ないから、幼い頃は本当に良く一緒に遊んで貰っていた。年の差がそこそこあるので、さすがに最近は一緒に遊ぶ事も殆どないし、そもそも相手はもうこの町を出ている。今は少し離れたところにある街で、薬師の見習いだかなんだかをやっているらしい。
 町民全員顔見知りなこの町で、在宅している日中に鍵を掛けている家は少ない。一応ドアを開けた最初にお邪魔しますと声を掛けたが、あとは勝手知ったるとばかりに、ずんずんと家の奥へと進んで階段を上がった。階段を上がって一番手前のドアが、先程彼が顔を出していた部屋のもので、ドアも叩かず勢いよく部屋の中に飛び込んだ。
「久しぶり!」
「うん、久しぶり。大きくなったね」
「なんで居るの? 仕事は?」
 さすがに辞めたのか聞くのは憚られて、でも、聞かずにはいられなかった。
「全然こっち帰れなかったくらい忙しかったのが少し落ち着いたから、店主が長めにお休みくれたの。一週間はこっち居る予定」
「本当に? また遊びに来ていい?」
「うん。どうせ家に居てもヒマしてると思うし、こっちいる間はいつでも遊びにおいで」
 やったと両手をあげて喜べば、相手も嬉しそうにニコニコしたまま、懐から何かが詰まった小瓶を取り出してみせる。
「何ソレ?」
「さっき言ってたお土産」
「何入ってるの? 食べ物? というか飲み物?」
 青みがかった液体のようにも見えるけれど、でも液体にしては揺れがないようにも見えた。
「食べても毒はないけど、食べたり飲んだりするものではないかなぁ」
 そう言った彼は、スライムのカケラだよと言葉を続ける。
「は? え? スライム?」
「そう。お前もそろそろ町の外出るの解禁になるだろ?」
 一番最初に出会うモンスターが多分コレと言いながら、彼は瓶の蓋を開けてそれを手の平に向けて傾けている。ドロリというかボトッといった感じで瓶の中から落ちてきたそれは、彼の手の平の上に乗ってプルンプルンと揺れている。
「どうしたの、これ」
「ここ帰る途中で見つけたのを、一部持ち帰ってきただけ」
「おみやげとして?」
「そうそう。怖くないから手を出して。両手でお椀作る感じに」
 言われるまま突き出した両手の中に、やっぱりボトリとスライムが移される。それは見た目通り、少しひんやりしていて弾力があった。
「うひっ」
「初めて触る?」
「うん。てかカケラだからって、町中入れていいの、コレ」
 町の中にモンスターを持ち込まないルールは徹底されている。いくら最弱モンスターと言ったって、スライムも例外ではないはずだ。
「あまり良くないかもね。だから内緒だよ。これからすることも全部」
「すること? これを俺にくれるって話じゃないの?」
「違う違う。こんなの持ってるのバレたら、お前が怒られちゃうだろ」
「じゃあ、どうすんのさ」
「それを今から見せてあげるんだって」
 これなーんだ、と言って、さっきの瓶よりもさらに小さく細長い瓶を取り出して掲げて見せる。今度の中身は間違いなく、無色透明の液体だった。
「水?」
「ただの水じゃないよ。聖水」
「って教会の?」
「そう。それ。これをスライムに垂らすの。スライムそれしかないから落とさないでよ」
 傾けられた瓶の口から聖水が数滴、スライムの上にこぼれ落ちる。その瞬間、プルンプルンだったスライムがドロっと溶け出し驚いた。なにこれ気持ち悪い。
「うわっっ」
「大丈夫だから落とさないで」
 再度強めに落とすなと言われ、気持ち悪いと思いながらも、手の平から溢れてしまわにように力を入れる。
「え、でもどうすんの。溶けてるよ、これ。なんかヌルヌルして気持ち悪い」
「手をこすり合わせるみたいにして、手も指もヌルヌルまみれにしておいて。お前の手の熱が移って、だんだん暖かくなるから」
「ええええ。やだー」
「俺は他の準備があるの。どうしても無理ならそのまま持ってるだけでいいよ」
 そう言った彼はその場にしゃがみ込むと、こちらのズボンのベルトに手を伸ばしてくる。
「ちょ、ちょ、準備って何。何しようとしてんの」
「お前のズボン脱がそうとしてる」
「だからなんで!」
「わかるだろ。お前にチンコ弄るとキモチイイって教えてやったの、誰だよ」
 性的なことの多くを彼から学んだのは確かだ。体が大人に近づくとちんちんから白い液が出るようになるとか、定期的にその白いのを自分の手で出さないとダメだとか、そのやり方とか。その白い液がなんなのかとか、子供の作り方とか。
「そ、だけど、今更恥ずかしいってば」
「それこそ今更隠すような仲じゃないだろ。お前の可愛い子供おちんちん、どーなったか見せてよ」
 そろそろムケた? なんてデリカシーの欠片もない発言に体の熱が上昇する。優しげな相貌と甘い声音に騙されがちだけれど、いたずら好きの愉快犯ってことも、言いだしたら聞かない頑固者だってことも、身を持って知っている。
「ねぇ、まさかと思うけど、このスライムをチンコに塗って扱くとキモチイイとかって話なの?」
「その通りだけど、なんでまさかなの。ヌルヌルめちゃくちゃキモチイイから、楽しみにしてな?」
 そう言った本人の顔が既にめちゃくちゃ楽しそうだった。

この年上の幼馴染とスライムローション使った兜合わせがやりたかったはずだったのに辿り着くまえに力尽きた。そのうち気が向いたら続くかも。
続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

なんと恋人(男)が妹に!?

 ゆさゆさと揺すられ意識が浮上すると共に、「おにーちゃん起きて」などと耳慣れない単語と随分可愛らしい声が聞こえてくる。可愛らしいというか媚びた感じというか、つまりはわざとらしさの滲んだ声だ。
 妹なんて生まれてこの方一度だって居たことがないのに、これはいったいどういう事だろうか?
 夢の中で夢から目覚める的な状況で、ようするにこれはまだ夢の中なのかもしれない。
「おにーちゃんってば!」
 再度呼ばれて揺すられて、おにーちゃんとはやはり自分らしいと思いながらも未だ重い瞼をどうにか押し上げた。
「おはよ」
 そう言ってにこりと笑うのは恋人によく似ているが、ストレートの髪と胸元に柔らかそうな膨らみを持つ可愛らしい女性で……
 ああ、これは夢でも何でもない現実だ。
「うっわ。ちょっ、何やってんだお前」
 合鍵は渡してあるので、勝手に部屋に上がり込んでと言うつもりはないが、週末の朝っぱらから女装姿で強襲される理由がわからなくて慌ててしまう。
「あれ、もうばれた」
 そう言いつつも、相手は随分と楽しげだ。
「そりゃわかんだろ。てか何? どういう事?」
 これ何入ってんのと言いながら胸元へ伸ばした手は、おにーちゃんのエッチという言葉とともにはたき落とされ掴むことが出来なかった。まだ続くのかこの設定。
「つかホント、説明欲しんだけど」
 言いながら取り敢えず体を起こせば、同時に相手も、寝ているこちらを覗き込むように折り曲げていた腰を伸ばす。なので結局、相手を見上げる距離にそう差は出来なかった。
「さて今日は何の日でしょう?」
 そんな出題されたところで、わからないものはわからない。何かの記念日ということはないはずだ。
「あれ? わかんない?」
「わかんねぇって」
「4月1日だよ?」
「だからそれが……ってまさかエイプリルフール?」
「大当たり〜」
 にこにこ顔で返されたけれど、エイプリルフールってこういうイベントだったっけ?
「つまり、これはどんな嘘?」
「なんと恋人が妹に?」
「疑問符ついてんぞー」
「まさか妹と恋人だったなんて?」
「だから疑問符付いてるって」
 しかし妹と言い張っているだけで、恋人という事実は変わらないらしい。
「あー、つまり、禁断の近親相姦セックスプレイを楽しみましょう的な?」
 決して倦怠期ではないはずだが、いつもとは違うプレイで刺激をと言うなら、それはそれで大歓迎ですよ?
「ちっがーう。いや別にお前が俺の女装姿でも勃つってならやるのは構わないけど、そうじゃなくて」
「あ、やっていいんだ。じゃあぜひ、おにーちゃんって呼ぶのもそのままで」
 言ったら驚かれた上に若干引かれた気がする。お前が恋人って設定にしたくせに。
「まぁそれは後で楽しむとして、そうじゃなくて、何?」
「あー……だから、せっかくエイプリルフールが土曜日でお前と会えるから、何かしら言って驚かしてやりたかっただけだよ。でも何か嘘つくって考えても、嫌いになったとか別れましょうとか、万が一本気にされたらシャレにならないもんばっか浮かんでくるから発想を変えてみた」
 要するに、普段絶対やらないような事をしてみせたら驚くと思ったらしい。そりゃまぁ驚きますよね。まだ恋人になる前、女装とか意外と違和感ないっていうか似合いそうって言った時にめちゃくちゃ嫌そうにしていたから、恋人になった後も女装してみてなんて言った事なかったけど、寝起きに想像以上のもん見せられたらそりゃあ驚くし慌てるに決まってますよ。
「焦ってるお前見れたから満足した」
「そりゃ良かった。じゃ、次は俺を満足させてよ」
 どういう意味かと首を傾げる仕草も、カツラと服装のせいかいつも以上に可愛らしい。
「禁断の近親相姦プレイ」
「え、マジでやるのか?」
「やりますよ。というかお前すっかり素に戻ってるけど、裏声でおにーちゃん言うの忘れないでね?」
 逃さないよと言うように、手を伸ばして相手の手首をギュッと掴んでやった。

エイプリルフールネタを書かずに居られなかった。
次回更新(別れた男の弟が気になって仕方がないの続き)は2日の夜か3日の午前中になります。4日からはまた通常通り更新予定です。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

卒業祝い

 次の日曜に三時間ほど時間貰えませんかと、ひとつ下の後輩に打診された時から、なんとなく予測は付いていた。
 後輩と自分はいわば同士で、簡単に言えば二人とも性愛の対象が同性だった。知ったのはたまたまで、というよりは、なんとなくそうかなとカマをかけたらあっさり相手が引っかかった。
 正直とてつもなく嬉しかった。はっきり同性愛者だと自覚のある人間は、自分の周りでは今のところ彼だけだ。それまでは仕方がないと思いながらも、やはり心細く思っていた。自分と同じと思える相手が近くに居ることが、こんなにも心強いとは思わなかった。
 きっと彼も同じだったのだろう。昨年度の文化祭実行委員会で一緒だったと言うだけの、はっきり言ってかなり薄い関係だし、学年だって違うから学校ではたまにすれ違って挨拶をする程度の接点しかないのに、気づけば頻繁にメッセージをやりとりする仲になっていた。
 それでもそこに恋が生まれたり、セックスをするような関係に発展したりしなかったのは、彼には長年想い続ける相手がいたのと、とりあえずやってみたいなんて理由で他者と触れ合う軽さが一切なかったからだ。
 そもそもカマをかけたのだって、きっと好きな男が居るんだろうと思ったせいだし、最初っから想い人がいる相手に恋なんてしようがない。いくら身近で同じ姓嗜好を持つのが彼だけだからといって、無理やり自分に振り向かせようとはさすがに思わなかった。行為だけでもと誘ったのだって一回だけで、きっぱり断られて以降はしつこく誘ったりもしていない。
 それで関係がギクシャクしたり、ギクシャクで済まずにバッサリ切られてしまったら元も子もない。そんなことになるくらいなら、男が好きだということを隠さずに済む、素の自分を互いにさらけ出せる、居心地のいい友人的なポジションを維持する方を選ぶに決まってる。
 なのに今、行為の誘いをはっきりきっぱり断ってきたはずの相手が、率先して自分をラブホに連れ込んでいた。
 男二人でラブホを訪れたのに、すんなりと部屋まで到達できたあたり、きっと事前に色々調べてきたんだろう。
 真面目で、几帳面で、そしてとても臆病な子なのに。その彼にこんなことをさせている責任の半分くらいは、多分きっと自分にある。
「数日早いですけど、卒業、おめでとうございます」
 部屋の中を一通り見回した後、くるりと体ごと振り返って後輩が告げた。声が固いのは緊張のせいだろう。
「ああ、うん。それは、ありがとう?」
 返すこちらの声は、戸惑いが滲みまくった上に、最後何故か語尾が上がってしまった。けれどそれへの指摘はなく、彼は用意していたのだろう言葉を続けていく。
「今日のこれは卒業祝いって事で。シャワー、使いますか? 口でして欲しいとか言い出さないならどっちでもいいです。あと俺の方は一応来る前に使ってきたんですけど、もう一度浴びてきたほうが良ければ行ってきます」
「あのさ、本気かどうかなんて聞くまでもないのわかってんだけど、それでも聞かせて。初めてが好きじゃない相手で、ホントにいいの?」
 自分としてみないかと誘った時は、そういうことはやっぱり本当に好きな相手としたいのでと言って断られたのだ。あの時彼は、乙女みたいなこと言ってすみませんと恥ずかしそうにしていたけれど、こちらはこちらで、やってみたい好奇心だけで誘ったことを恥じていた。
「好きじゃない相手、ではないです。一番ではないですし、きっと恋でもないんですけど、それでも先輩のこと、あの時よりずっと好きになってるので。先輩となら、経験しておくのも悪くない、って気になりました」
 あの時自分は彼に、お互い経験しておくのも悪くないと思わない? と言って誘っていた。あの時よりは好きになっている、してみてもいいと思えるくらいに好きになっている。そう言って貰えて嬉しい気持ちは確かにあるのに、今にも苦笑が零れ落ちそうだ。
 その言葉が嘘だと思っているわけじゃない。ただ、長いこと彼が想い続けていた相手に、最近かわいい彼女が出来てしまったという、別の理由があることを知ってしまっているだけだ。
 想い人の名前をはっきりと聞いたことはないが、さすがに一年以上恋バナを聞いていればわかってしまう。その相手との直接の接点だってないが、相手は同じ学校の生徒だし、もっとはっきり言えば彼と同学年でこちらからすれば後輩だし、その相手が所属している部活の部長だった男とは同じクラスで仲もいいほうだ。ついでに言えば相手の彼女となった女子が部のマネージャーだったものだから、卒業間近のこの時期なのに、元部長の羨望混じりの愚痴という形で、自分の耳にまであっさりその情報は届いてしまった。
 しかしこちらが知っていることを、彼は知らない。だから指摘する気はないけれど、でも卒業祝いだなどと言わず正直に、失恋したから慰めてとでも言ってくれれば良かったのにと思う気持ちは確実にある。
「それに、先輩が卒業してしまうのは、やっぱり寂しいです」
「卒業するからって、連絡断ったりしないよ? 辛いことがあったら、いつだって連絡してきていいんだからな?」
「でも、先輩の大学、遠いじゃないですか。卒業式の翌日に引っ越しって、言ってましたよね」
 また独りになると続いた声は、ほとんど音にはなっていなかったけれど、まっすぐに見つめていたせいで唇の動きと共に聞き取ってしまった。そして酷く不安げに瞳が揺れるのまでも捉えてしまったら、想い人に彼女が出来たからという理由がどれくらいの割合で含まれていようが、そんなのはどうでもいいかと思ってしまった。
 恋が出来る相手ではなかったけれど、自分だってやはり彼のことは好きなのだ。多分、今のところ一番に。
 数歩分離れていた距離をゆっくりと詰めた。好奇心でしてみたいのではなく、好きだからこそ相手に触れたいと思う。
「じゃあ、卒業祝い、貰ってく」
「はい」
 頷いた彼の瞼がそっと閉じられるのを待ってから触れた唇は柔らかく、けれどかすかに震えているようだった。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

バレンタインに彼氏がTENGAをくれるらしい

 あちこちでバレンタイン用のチョコレートを見かけるようになったので、一応バレンタインをどうするか聞いてみたら、せっかく恋人になったんだから贈り合おうと返された。マジかよと思ってしまったのは、そんな世間のイベントに踊らされる真似はしたくないと返ってくる予定だったからだ。
 恋人なんて関係になったのは昨年末で、それまでは長いこと友人として付き合ってきた。だから相手があまりバレンタインというイベントを好きではない事だって知っている。
「お前、バレンタイン嫌いじゃなかった?」
「嫌いだったけどもう平気」
「どういうこと?」
「本命からは絶対に貰えない、自分から渡すことも出来ない、そんなイベント欠片も楽しくないだろ。でも今年は違うから」
 お前とだったらしたいよと酷く真面目な顔で返されて、とたんに顔が熱くなった。
 彼に長いこと想われていたというのは、恋人になるかどうか迷っていた時に聞かされて知っているのだけれど、それとこれとが繋がっているとは全く気付いていなかった。
 なるほどと思うと共に、さてどうしようかとも思う。
 こんな理由を聞かされて、やらないつもりで聞いたなんて言えない。しかも贈り合おうということは、自分だけが用意するわけではないらしい。相手も用意すると言っているのに、自分からどうするか聞いておいて、買えないなんてとても言えそうになかった。
 しかし、男も買う側にしたい販売店側の思惑が透けるような、逆チョコだの俺チョコだのという単語も聞かないわけではないけれど、長いこと女性から貰うもの、女性が買うもの、という意識だったものが、男の恋人ができたからとそう簡単に変われるはずもない。
 わかったとは言ったもののどうしようか焦るこちらに気付いたのか、相手はおかしそうに笑って、チョコである必要もバレンタイン用商品である必要もなく、ただせっかくの初イベントだから一緒に楽しみたいだけだと言った。
「ついでに言うと、俺、お前に贈るもの既に決まってるからさ」
「マジで!?」
 今度は思ったまま口から飛び出た。
「え、何くれんの?」
 秘密と言われるかと思ったが、相手はあっさり口を開く。
「TENGA EGG LOVERS CHOCOLAT DESIGN」
「ん?」
「バレンタイン用の、チョコっぽいデザインのテンガ」
 なんだそれってのと、テンガって聞こえた気がして思わず聞き返してしまえば、相手はわかりやすく言い換えてくれた。やっぱテンガって言ったのか。
「テンガって、あのテンガ?」
「あのってのがわかんないけど、いわゆるオナホのテンガだね」
「ちょ、待てよ。お前、バレンタインで俺にオナホくれる気なの?」
 それはいったいどういうつもりで?
 ずっと好きだったと言われて、恋人になって、キスをして、互いの体を触りあって、でもまだ体を繋げるようなセックスは未経験だ。そんな関係でオナホをプレゼントされるってことは、つまりまだまだ突っ込ませる気はないって意味だろうか。というか、遠回しに突っ込ませろって言われている可能性はあるのだろうか。
 俺はお前に突っ込むからお前はオナホに突っ込んどけよ、みたいな?
「結構可愛いデザインなんだよ。中の凹凸がハート型でさ。ほらこれ、可愛くない?」
 ぐるぐるとオカシナ事まで考え始めているこちらに気づかない様子で、何やら携帯を弄っていた相手が件のテンガ画像を見せてくる。
「いやちょっと、そういう話じゃなくて。それを俺にくれるって、つまり一人でオナっとけって意味なのって聞いてんだけど」
「えっ。違う違う。一緒にする時、使いたいなって思ってさ。というかバレンタインにそういうこと、する気なかった?」
「えーと、つまり、オナホ使ったかきっこしよって話?」
「まぁ端的に言うとそうなるかな」
 プレミアムボックス通販済みなんだよねと続いたから、つまりはバレンタインに五個のテンガを贈られるらしい。オナホ使った相互オナニーを想像してまぁそれもありかとは思ったものの、チョコではなくとも結局相手が選んだ物はバレンタイン商品だし、ますます何を贈ればいいのかわからなくなった。

バレンタインに便乗したくて書いちゃった。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

初めて抱いた日から1年

 ひと月前と半月前と先週と何度も頼み込んで、サラリーマンな年上彼氏に平日の休みをもぎ取ってもらった。
 どうしてもその日に休んで欲しい理由は、出来れば前日まで知らせたくなくて教えていない。だって知ったら絶対休みなんか取ってくれない。理由も告げず、お願いと繰り返し頼むその行為が、どれだけ子供じみたわがままかって事はもちろん自覚している。
 実際子供だし。というセリフは、大学生となってしまった今はもう使えないし、そもそも使いたいとも思っていないのだけど。せっかく長年の片想いを叶えて、一回りも年上のその人を恋人にして、さらには相手を抱くことも出来るようになったのだから、子供みたいな真似はいい加減卒業した方がいいとも思ってるけど。
 でもやっぱり、幼少期から長年培ってしまった関係の脱却は難しい。だってそもそも、相手が抱かれる側になってくれたのだって、自分の盛大なわがままを、結局根負けした相手が仕方なしに受け入れてくれたようなものなのだ。
 そしてやっぱり今回も、今は忙しい時期だから休みは難しいと言われていたのに、なんだかんだ調整して休みにしてくれたのは、相手がこちらのしつこい要望に折れてくれたからに他ならない。
「で、明日を休みにさせた理由は? どこか出かけるのか?」
 大学入学と同時に相手の家に転がり込んでいるので、今自分たちが居るのはリビングだ。家賃と生活費の一部は支払っているが、格安設定なこともわかっているので、家事全般は自分が担当している。今彼が話しながら食べている夕飯も、作ったのは自分だった。
「出かけないよ。俺は学校もあるし」
「は?」
 ならなぜ休みを取らせたと言いたげだ。脳内ではきっと、辻褄が合う理由を必死で探しているのだろう。
「今日は抱かせて」
「平日だぞ」
「だから明日休んでもらった」
 あからさまに嫌そうな顔をしたので、だって特別な日だよと語気を強めに告げてみた。
「特別な日?」
 今度はまったくわからないという顔をしている。まぁそれは想定内だ。この日にこだわってるのは自分だけだってちゃんと知ってた。
「そう。特別な日。記念日」
「記念日……? ってまさか、俺を初めて抱いた日、とか言い出す気じゃないだろうな?」
「あれ? 覚えてた?」
「特別な日で記念日と言われて、去年何をしたかと考えたら、それくらいしか思い当たることがない」
「初めて抱いた日から一年ってのもあるけど、俺が初めて告白したのもこの日。それから数年経って、ようやく告白を受け入れてもらえたのもこの日」
「えっ……?」
「さすがにそこまでは覚えてなかったろ。去年、ちょっと強引に抱いちゃったのはさ、日付も関係してたんだよね」
 恋人になれた日が告白した日と被っていたのはただの偶然のはずだけれど、初めてのセックスをこの日にというのは、随分と前から決めていた事だった。
「来年以降も、この日だけは絶対抱くから。普段はそっちの体力に合わせてあんまりムチャもしないでしょ。でも今日だけはちょっとだけムチャさせて?」
 言ったらなんとも言えない顔をしつつも、諦めたような溜息が一つ落とされる。
「休めるのは明日だけなんだから、そこは考慮してくれよ」
「そこはまぁ、多分、大丈夫……と思う。体力任せに抱き潰したりはしない。予定」
 さすがに12も歳の差があると、セーブしてるつもりでもついついやり過ぎて、過去に何度か抱き潰している。おかげで最近は、休前日しかさせて貰えないし、翌日休みでさえ二回もイかせればあっさりギブアップされてしまう。一度のセックスで一回イけば、それでもう充分らしい。
 まぁ、折角の休みを一日ベッドの中で過ごしたくはないだろうし、たった二回でも午前中はベッドの中という場合も多いので仕方がない。
「予定じゃなくて確実に抱き潰すな。もし明日一日で回復できないような抱き方したら、来年以降は断固拒否だからな」
 それはようするに、ムチャさえしなければ来年以降もこの日だけは絶対に抱くという宣言までも、了承してくれたということだ。
 わかったと頷いて、ありがとうと目一杯の笑顔を向けた。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁