酔った勢いで兄に乗ってしまった話

※ 兄×弟です。乗った=騎乗位。

 食欲をそそるいい香りに意識が浮上する。なんで自室じゃなくリビングで寝てたんだと思いながら体を起こせば、ローテーブルの向こう側、味噌汁椀と箸とを手にした兄とバッチリ目があい、一瞬で昨夜何があったかを思い出す。
「ぅ、あっ、痛っ」
 声を詰まらせながらも慌てて立ち上がろうとして、でも叶わなかった。腰に響いた痛みに呻いて眉を寄せる。
 腰というか、腿というか、尻の穴と言うか、つまりは昨夜のヤラカシの影響が思いっきり体に残っていた。
「大丈夫か?」
 心配そうに声をかけてくる兄の声はいつも通りだ。
 まさか、こちらと違って昨夜の記憶がないのだろうか。昨夜は兄も相当飲んでたはずだから、可能性はゼロじゃないけど。
 だったら、痛いのは頭で、二日酔いが酷くて、辺りで誤魔化せるだろうか。なんて思ったのもつかの間。
「お前、昨日結構むちゃしてたし、あんま無理すんなよ。で、切れてはなさそうだったけど、痛いのはやっぱ尻の穴なの?」
「むちゃ、って、てか、切れてない、とか、えっ、なんで」
 尻の穴、なんて単語が出た以上、兄にも昨夜の記憶はばっちり残っているようだけれど、言われた言葉が理解できない。というよりは多分、したくない。
「昨日、終わった後一応確認した。お前、爆睡してて起きなかったけど」
「な、なんでっ、そんなこと」
「いやだってお前、けっこう強引にねじ込んだろう?」
 痛いって泣いたじゃんと言われて、そうだっけ? と思う。どうやら自身の記憶のほうが一部飛んでいる。
「もしかして、覚えてない? てかどこまで覚えてる?」
 言われて昨夜に記憶を馳せる。はっきりと思い出せるのは、自分の下で色っぽく喘ぐ、兄の可愛い顔ばかりだった。それと、ずっと焦がれていた兄のちんぽが、ちゃんと勃起して自分の体の中にあるという充足感。
 尻穴で兄のちんぽを擦り立てるのに必死で、自分の動きに合わせて兄がアンアン気持ちよさそうにするのが嬉しくて、その瞬間に自分の体が痛かったかなんてのは全然覚えてなかった。
「まさか、俺に乗っかって腰振ったことも記憶にないの?」
「それはさすがに……てか、言い方ぁ」
 見た目だけの話で言えば、童顔かわいい系の兄のが断然女役にふさわしい、はずだ。兄弟だからそこまで顔のつくりに大きな差はないんだけど、なんせ、こちらは長年体育会系に所属してガッツリ作り込んだ筋肉をまとっているので。背だって5センチは兄より高いので。
 でも乗ったは乗ったでも騎乗位で、可愛い兄のことをずっと性的に見ていたのは事実でも、抱きたいのではなく抱かれたい側だった。強引にだろうと初めての体に兄のちんぽを受け入れられたのだって、兄に抱かれる妄想で、尻穴をいじるオナニーをしていたせいだ。
「まぁ突っ込んでたのはこっちだけど、でも、そうとしか言えないだろ。てか一応言っとくと、俺、怒ってないわけじゃないからな?」
「それは、ごめんなさい」
 お前が寝落ちた後大変だったんだぞと、多大な呆れを含んだ声で言われて、そこは素直に謝った。
 兄をイカセて満足した後、後始末もなにもないまま寝落ちただろうことはわかる。だって片付けをした記憶が全くないし、でも満たされて目を閉じた方の記憶はちゃんとある。
「お前しばらく酒禁止な。まぁ、俺だけ飲んだりもしないけど」
「はい」
「あと、体治ったらでいいから、もっかいちゃんと抱かせて」
「は、えっ!? なんで???」
 素直にハイと言いかけて、慌てて飲み込み疑問の声をあげた。
「てかさ、お前がさ、俺追っかけて同じ大学に来た辺りから、お前の気持ちにはなんとなく気付いてたんだよね」
「えっ」
「あと、お前が同じ大学通うなら借りる部屋一箇所にしたら出費抑えられる、って、お前の合格聞いたときに、実は俺も親にそれ提案したんだよね。お前が既に、そういう方向で親説済みだったけど」
「え、と、それは、どういう……?」
「最初は、俺が一緒だったら家事とか押し付けられて楽できそう。みたいな下心かと思ってたけど、でもお前、けっこう家事もしっかりやるし、重たい物欲しい時の買い出しとかは率先してやってくれるから、むしろ俺のが得してるし。とか考えると、わざわざ兄貴と一緒にくらしたい理由って何よと思ってさ。だってお前、親の金の心配するようなタイプじゃないだろ。たださ、」
 そこで一回口を閉じた兄の視線が、頭から腹のあたりまでを上から下へ向かって降りていく。
「ただ、なに?」
「お前が抱かれたい側、ってのは、考えてなかった」
 いつか押し倒される可能性は考えてたけど、酒の勢いで突っ込まされるとは思ってなかった、らしい。
「だろうね」
「けどまぁ、考えてなかっただけで、違和感はないんだよな」
「なにそれ」
「お前けっこう甘ったれなとこあるし、体はデカくなっても、2個しか違わないおにーちゃんにすごいなーとか、えらいなーとか、ありがとーって、頭ヨシヨシされて素直に喜んじゃうタイプだし。だから、実は俺に抱かれたいって言われても、あんまり違和感はないなって」
 そこまであからさまに甘えてたつもりは無いし、本音を言えば、もっともっと構われたいくらいなんだけど。だって、そんな甘えたな自分を前にして、兄が嫌な顔をする事が殆どない。呆れたような顔をする事はあるけど、でもそれも、形だけって感じだし。
「それ言ったら兄貴は2個しか違わない弟相手に、ニコニコしながらヨシヨシすんじゃん」
「それな。だからさ、お前が俺の上で必死に腰振って、すげー苦しそうなのに、俺が気持ちぃって喘ぐたびに満たされてますみたいな顔してんの見たらさ、お前のこと、気持ちぃって喘がせながら抱いてやりたいな、って」
 思っちゃったんだよね、と兄が優しい顔で笑いかけてくる。
「あんまり甘やかすのはお前のためにならないかと思って自制してたけど、でも抱く相手、ってことなら、セックス中なら、もっとデロデロに甘やかしても許されそう」
 そんな事を言われてしまったら、今すぐにでも抱いてくれないかなって思ってしまう。まぁ、思うだけでなく口から出ちゃったんだけど。
「それはダメ。体が治ってからだって言ってるだろ」
「はーい」
 でしょうね、と思いながら、そこは素直に頷いておいたけど。でも、体が治れば。多分、そう遠くないうちに。
 兄に思いっきり甘やかされつつ抱いて貰えるのだと思うと、その日が楽しみで仕方がない。

リクエストは「弟を構いたいけどお互いいい年なので自制している童顔な兄×めちゃくちゃお兄ちゃんに甘えたいけど素直になれないガチムチ系弟の二人が酒に酔ってやらかす話」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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自棄になってても接触なんてするべきじゃなかった

 夜の相手が欲しい時に利用するその店には、あまり顔を合わせたくない人物も出入りしていて、普段ならその姿が見えた段階で回れ右して別の店を利用するか諦めるかするのだけれど、その日はどうにも自暴自棄になっていて、わざわざ相手の目に留まる様に行動し、そのまま相手を引っ掛けた。
 その段階では、わかってて自分の誘いに乗ったのか覚えていないのか判断がつかなかったけれど、多分、相手は覚えていない。まぁ彼とのいざこざがあったのはもう10年ほど前の話で、あの頃は互いに学生でもあったし、相手はともかく自分の方は減量に成功して見た目もそれなりに変わったから、気づかれなくても納得ではある。
 連れ込んだホテルの一室で、酷くして欲しいと頼んでみたら、相手は平然とした顔で、どういう方向でと問うてくる。罵って欲しいのか、肉体的に痛めつけて欲しいのか、オナホみたいに扱って欲しいのか、それとも快楽責めでもしてあげようか、と。
 この相手に優しくされたくなかっただけで、好きに扱ってくれという意味での酷くして、だったから、一番近いのはきっとオナホ扱いだった。なのにちょっとした好奇心で、快楽責めなんて出来るのかと聞いてしまった。
 興味あるんだ? と意地悪そうに笑う顔に、昔の記憶がチラついてイライラする。だから、そんな自信あるんだ? と煽り気味に返してやった。
 フフンと笑いながらその体で思い知ればと返されて、せいぜい楽しませてくれよと応じたときは、まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
 せっかくラブホだしと、室内に置かれたアダルトグッズの自販機から次々と玩具を取り出した相手に、結局そういったものに頼るのかと鼻で笑ってられたのは最初だけだ。結局の所、そんな無機物相手にどこまで感じられるかは、使い手の技量に掛かっている。
 自慰行為に玩具を利用することはあったが、自分の意志で動かすのと、他者の手で使われるのはあまりに違った。酷くしてと頼んで始めた快楽責め、というのも大きいのだろうけれど、弱い場所を的確に探られて、執拗に責め立てられるとどうしようもない。
 最初のうちは比較的緩やかな刺激で何度かイカされ、こんなもんかと思っていたのに。どうやら、こちらの体力がある程度削られるのを、そうして待っていただけらしい。
 強い刺激に逃げ出したくなったころには、相手にがっちりホールドされて、そこからが多分、本当の意味での快楽責めの始まりだった。
「ぁ、ぁ゛あ゛っ、や゛ぁ」
「いいよ、イキなよ」
「も゛、やだぁ、む゛り、ぁ゛、むりぃ」
「だいじょぶだいじょぶ」
 射精できなくなってからが本番だよと笑う相手の手には貫通型のオナホが握られていて、もちろん自身のペニスがそれを貫いている。お尻に突き刺さっているバイブも、相手の手によってしっかり固定され、ウネウネとした動きが前立腺を抉り続けていた。
「ぁ、ぁ゛、ああ゛っ」
 ブルブルと体が痙攣し、絶頂する。お尻の穴もギュウギュウとバイブを締め付けているのに、前立腺を抉る動きはそのままだから、イッても終わらない快感に、いい加減おかしくなりそうだった。

 いつ意識を手放してしまったのかわからない。気づいた時には部屋の中は明かりが落とされていて、相手が隣ですこやかな寝息を立てていた。
 体を起こすとあちこちが痛い。普段使わない筋肉を酷使したせいでの、いわゆる筋肉痛だ。
 どうにかベッドから抜け出してシャワーを浴びに行く。意識を手放した後放置されはしなかったのか、ある程度後始末は済んでそこまでベタついてはいなかったが、だからってそのまま服を着込むのは躊躇われた。
 そうしてバスルームから戻ると、部屋の明かりがついていて、相手がベッドの上にあぐらをかいて座っていた。
「満足できた?」
 こちらの姿を認めるなり掛けられた言葉がそれで、ムッとしながらもおかげさまでと返しておく。想像以上の行為で望み通りなんかではなかったが、相手の言葉通り、快楽責めというものをこの体で思い知ることは出来た。
「じゃあ、俺と付き合う?」
「意味がわからない」
 即答で返せば、だって俺昨日イッてないんだよねと返されて、どうやら昨夜は玩具以外突っ込まれなかったらしい。
「途中で意識飛ばしたのは悪かった。けど、抱かなかったのはそっちの意志だし、お前となんか二度とゴメンだ」
「酷っ。満足したって言ったのに。てか酷くしてっていったのそっちなのに」
 あんなに頑張ったのにと言われたって、もともと一夜限りの相手を探していたのだ。じゃなきゃ、こいつを誘ったりするわけがない。
「お前と恋人とかありえない」
「それってもしかして、昔のこと、まだ引きずってるから?」
「は?」
 認識されていないと思っていたから、突然昔のことと言われて焦った。
「避けられてるなとは思ってたけど、じゃあなんで、昨日は俺を誘ったの?」
「覚えて……ってか俺ってわかってたのか……」
「そりゃあ、好きな子、忘れたりしないだろ」
「は?」
「好きだったんだよ、お前のこと。でも素直にそれを認められなくて、お前にキツくあたってたのは認める」
「はぁ? 好きだったからいじめた、なんてのが通用するわけ無いだろ。俺はお前が大っ嫌いなんだけど」
「だよね! 知ってる!」
 だから今まで声掛けたりしなかったのに、でも昨日は誘ってくれたから期待しちゃったんだよと嘆く相手に、なんとも言えない気持ちになる。
 そして結局、チャンスを頂戴と食い下がる相手に絆された。といっても連絡先を交換しただけだけれど。
 ちょっと仕事で嫌なことが続いて自棄になってたからって、やっぱり誘うべきじゃなかったんだろう。今更知りたくなかった事実と、相手の押しの強さに辟易する。なのに、筋肉痛という副作用はあるものの、意識が落ちるほど強引にイカされまくった体と心は、随分とスッキリしているから困る。

有坂レイへの今夜のお題は『鳴かせる / 大人の玩具 / 唐突な告白』です。https://shindanmaker.com/464476

 
 
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お隣さんがインキュバス

 深夜とも言える時間帯、終電でなんとか辿り着いたマンションはなんだか少しいつもと違う。 
 不穏な気配の原因はすぐにわかった。エレベーター前で揉めている二人の男がいる。
 騒がしくはないが、小声で何やら言い争っているのがわかった。
 疲れた体で階段を使う気はせず、かといってその二人の間に入っていく勇気もなく、さっさと終わってくれないかと思いながら、ぼんやりとその二人を眺めてしまう。
 やがて片方の男がこちらの存在に気づいて何か言ったようだ。ちらりとこちらを確認したもう一人の男が、結構派手な音を立てて相手の頬を叩く。
 さすがに驚いて目を瞠っているうちに、頬を叩いた側の男がつかつかとこちらに向かってくるから焦った。しかし特に絡まれることはなく、通りすぎる時に軽く舌打ちされた程度で済んでホッとする。
「すみません、変なところ見せちゃって」
 叩かれた頬をさすりながら残された男がペコリと頭を下げた。
「あー……いえ。その、大丈夫ですか」
「大丈夫です。気にしてくれるなんて優しいですね」
 にこりと人懐っこそうに笑った相手は、エレベーター使いますよねと続けながらボタンを押す。これはこの男と一緒に乗り込むしかなさそうだ。
「4階ですよね?」
「そうですけど……」
「俺、隣に住んでますけど、もしかして顔わすれちゃいました?」
 こちらの警戒心が伝わったのか、相手が苦笑する。
 言われてみれば確かに、以前、隣に越してきたと挨拶に来た男と同一人物らしい。その挨拶以降、一度も顔を合わせたことがないので、隣には自分よりも少し若いだろう男が住んでいるという情報だけが頭に残っていて、顔などすっかり忘れていた。
「え、あ、あー……すみません。ご挨拶頂いたとき以来だったので」
「いいですいいです。俺、人の顔覚えるの得意なんで」
 一緒にエレベーターを降りた男は、自宅の一つ手前の部屋のドアを躊躇いなく開ける。
「おやすみなさい、いい夢を」
 最後にそう笑った顔が、廊下の薄明るい蛍光灯の下ですら、なんだかキラキラと輝いて見えた。

 そんなことがあったからか、変な夢を見てしまった。
 さっきはありがとうございましたとキラキラの笑顔を振りまくお隣さんに起こされて、別に何もしてないと言うこちらの訴えをスルーされて、ニコニコ笑顔のまま覆いかぶさってきた相手と、あれよあれよという間に体を繋げていた。しかも、自分が抱かれる側で。
 夢だからなんだろう。抱かれるなんて経験は初めてなのに、痛いどころか、ひたすらに気持ちが良かった。
 自分の口から女みたいな嬌声が漏れ出ているのが不思議で仕方がない。セックスが上手いっていうのはこういうことを言うんだろう。それを思い知らされるような手管の数々に、善がり泣く以外出来なかった。
 恋人に振られたのがもう1年近く前だし、忙しすぎて自己処理すらご無沙汰だったせいか、散々イカされまくった後の目覚めはなんともスッキリしている。
 ただ、下着が汚れていなかったのは不思議だったし、お尻の穴がムズムズしていてなんだか恥ずかしい。その場所が、まるで夢のとおりに気持ちが良くなりたいと期待しているみたいで嫌だ。

「お疲れさまです。今日もけっこう遅かったですね」
 どういう仕掛けかわらかないが、自室がある階でエレベータを降りて歩き出した矢先、隣室のドアが開いて男が出てくるから驚く。
 思わず足を止めてしまったが、相手の顔をまっすぐに見返したところで、昨夜の夢を思い出してしまった。顔に熱が集まるのがわかって、なんとも気まずい。
 そっと視線を外せば、相手がふふっと小さく笑う気配がした。
「俺のこと、意識、してくれてますよね?」
 嬉しいなぁと呑気な声の後、相手の気配がぐっと近づいてくる。
「今夜も、楽しみましょうね」
 耳元で囁かれた声に慌てて一歩後ずさり、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。気まずいなどと言って、視線を外していられない。
「どういう意味だ」
「やっぱ覚えてないか。そもそもあの状態じゃ、聞こえてたかも怪しかったけど」
「だから、どういう意味だ」
「俺ね、インキュバスなんですよ。あなたのこと結構気に入っちゃったんで、変な夢見たなぁじゃなくて、今日はちゃんとリアルで可愛がってあげたくて、帰ってくるのを待ってたんです」
 何を言われているのかわからないものの、楽しげに笑っている顔がやっぱりキラキラと輝いて見えて、だからおいでと伸ばされた手を拒めなかった。

さ~て、今週の有坂レイにぴったりのBLシチュエーションは~?
1.ビンタ
2.お隣さん同士
3.相手がインキュバス
の三本です!!
来週もお楽しみに~!
https://shindanmaker.com/562913

 
 
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ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
 
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これを最後とするべきかどうか

* 別れの話です

 元々ねちっこいセックスをする相手ではあったけれど、今日はいつにも増して執拗で、前戯だけで既に2度ほど射精させられている。なのに未だ相手はアナルに埋めた指を抜こうとはせず、器用な指先で前立腺を中心に弱い場所を捏ね続けるから、早く挿れて欲しいとねだった。
「ね、も、欲しっ、お、おちんちんがいぃ、や、も、ゆびだけ、やぁ」
「指だけでも充分気持ちよくなれてるくせに」
 羞恥に身を焼きながら口にすれば、相手は満足げに口角を持ち上げたけれど、まだ挿入する気はないらしい。恥ずかしいセリフでねだらせたいのだと思っていたのに。
「もう2回もだしてるのにな」
 片手が腹の上に伸びて、そこに散って溜まった先走りやら精子やらを、肌に塗り込むみたいに手の平でかき混ぜる。ついでのように腹を押し込まれながら、中からぐっと前立腺を持ち上げられる刺激に、たまらずまた、ピュッとペニスの先端から何かしらの液体が溢れたのがわかって恥ずかしい。
「ぅあぁ」
「ほら、気持ちいい」
 クスクスと笑いながら、新たにこぼれたものも腹の上に伸ばされた。労るみたいな優しい撫で方だけど、一切気が抜けないどころか、また腹を押されるのではと不安で仕方がない。
「怯えてんの?」
 こちらの不安に気づいたらしい相手は、やはりどこか楽しげに口元に笑みを浮かべている。にやにやと、口元だけで笑っている。
 何かが変だ、と思った。しつこく責められることも、焦らされるのも、意地悪な物言いも、経験がある。でもいつもはもっとちゃんと楽しそうなのに。
 そういうプレイが好きってことも、そういうプレイを許すこちらへの好意も伝わってくるし、だから一緒に楽しめていた。
「ど、したの?」
「どうしたって?」
 思わず問いかけてしまえば、相手は全く疑問に思ってなさそうな顔と声音で問い返してくる。いつもと違うという自覚が、本人にもあるらしい。
「なんか、へん、だよ」
「そうか?」
 答えてくれる気がないことはすぐにわかった。腹の上に置かれたままだった手が、するっと降りて半勃ちのペニスを握ったからだ。
「やだやだやだぁ、な、なんでぇ、またイク、それ、またイッちゃうからぁ」
「イケよ。もう何も出ないってくらい搾りきったら抱いてやる」
「な、なに、それぇ……」
「わかるだろ。言葉通りだ」
「む、むり、やぁ、やだぁ、あ、あっ、だめ、あ、いくっ、いっちゃう」
「イケって」
 射精を促すように強く扱かれながら、アナルに埋めた指を素早く何度も前後されれば、あっという間に昇りつめる。
「でるっ、んんっっ」
 ギュッと目を閉じて快感の波をやりすごす間は、さすがに手を緩めてくれたけれど、それでも動きを止めてくれているわけじゃない。特にお尻の方は、お腹の中の蠢動を楽しむみたいに、ゆるゆると腸壁を擦っている。
「はぁ、っはぁ、も、やめっ」
 軽く息を整えてからどうにか絞りだした声に、相手が薄く笑うのがわかった。


 暴力でしかないような酷いセックスだった。言葉通り何も出なくなってから体を繋げて、泣きながら空イキを繰り返す羽目になって、いつの間にか意識が落ちて、目が冷めたら一人だった。
 テーブルの上には別れと今までの感謝とを伝える短なメッセージが残されていて、ああ、本当に終わりなのだと改めて思う。
 最後の方の記憶は少し曖昧だけれど、泣いて謝られたことは覚えている。相手の泣き顔なんて初めて見たから、あまりの衝撃に曖昧な記憶の中でもそれだけはかなり鮮明だ。
「くそっ」
 いろいろな憤りを小さく吐き出して、寝乱れた髪をさらに掻き毟ってボザボサにしてやる。
 追いかけたい気持ちと、このまま手を切るべきだと思う気持ちと。この仕打を許さないと思う気持ちと、許して相手の存在ごと忘れてやりたい気持ちと。
 どうしたいのか、どうするべきか、まずはじっくり考えなければと思った。

受けが追いかけちゃう続きはこちら→

有坂レイへの今夜のお題は『嘘のつけない涙 / 体液まみれ / 恥ずかしい台詞』です。https://shindanmaker.com/464476

 
 
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それはまるで洗脳

お題箱より「スレンダーな兄が、自分より体格が良い弟に襲われ、快楽に逆えず兄としての尊厳をへし折られる、的な短編。年齢差は3歳位」な話その2
その1はこちら → 知ってたけど知りたくなかった

 ぐじゅ、だとか、ちゅぷ、だとか。下腹部で発している湿り気を帯びた卑猥な音を聞きたくない。しかしどんなに耳を塞ぎたくても、両手は背の後ろで脱ぎかけた衣服でもって拘束されている。
 ノックもなく部屋に押し入ってきた弟の顔を見た瞬間に、両親が泊まりで出かけると知っていたのに、自分もどこかへ外泊しなかった事を後悔したが遅かった。
 三つ下の弟は長いこと運動部で鍛えてきたからか、身長はそこまで差がないものの、細身体型の自分と違ってガッシリとした筋肉をまとっている。つまり体格的にも筋力的にも、最初からこちらに勝ち目なんか欠片もない。
 弟の気持ちにはなんとなく気付いていながら長いこと放置していたのも、半月ほど前に意を決した様子でなされた告白を手酷く振ったのも自分だ。だが、それ以降あからさまにこちらを避け続けていた弟が、親の留守を狙ってこんな真似を仕掛けてくるとは、さすがに予想できなかった。
 あっという間に詰め寄られて、引きずられるようにベッドの上に投げ出された後、無理やり服を剥ぎ取られて行く間に、敵わないとわかっていながらも一応は抵抗した。身を捩って手足をばたつかせれば、早々に腕も足も手早く拘束されてしまったが、それでもなお、やめろ、バカ、正気に返れ、俺はお前の兄貴だぞと、必死に声を上げもした。
 けれど弟は手を止めることなく、黙々と作業に没頭している。視線を合わそうとはしないから、酷い真似をしているという意識はちゃんとあるんだろう。
 何をする気かという目的は、尻の谷間にローションを垂らされ、尻穴に指を突っ込まれればさすがに理解しないわけには行かないが、到底受け入れられるわけがない。自分の想いが受け入れられなかったからと言って、こんな強行が許されるはずがないし、許してはいけない。
 なのに。
 しつこく尻穴をかき混ぜられて、時折、ありえない感覚に襲われている。腰が甘くしびれるような、いわゆる快感と呼べそうなもの。
 わざとらしくクチュクチュと音を立てられるのに合わせて、あああと溢れてしまう声だって、だんだんと嬌声じみている。
 嘘だ嘘だ嫌だダメだと思うのに、体は間違いなく、この行為を気持ちがいいものとして捉え始めていた。
「ひぅっ!」
 ずっと尻穴ばかりを弄られていたのに、突然さらりとペニスを撫でられ息を飲む。
「ぅっ、ぁっ、や、めっ、やだぁっ」
 尻穴を弄られながら勃起している、という事実を知らしめるように、何度か育ったペニスを根本から先端まで往復していた手が、とうとうそれを握って扱き出す。そしてすぐさま、尻穴に突っ込まれた指が、同じリズムで穴を前後しだした。
「ぁっ、やっ、ぁあっ、だめだめだめっ」
 たぶん数分も保たなかった。あっという間に弟の手の中で射精すると同時に、尻穴をきゅうきゅうと締め付けてしまうのがわかって恥ずかしい。
 大きく息を吐いて、終わった、と思った。こんなこと許してはいけないのに、弟の手でイカされてしまった。
 じわりと浮かぶ涙を隠すようにシーツに顔をすりつけながら、意識的に深めの呼吸を繰り返す。
「気は、済んだのか。済んだなら、ぁ、えっ、ちょっ」
 まずは拘束を解かせて、それから説教を。なんて考えを嘲笑うかのように、また尻穴に埋められた指がグニグニと動き出す。
 
 そこから先、弟の手で何度絶頂させられたかわからない。
 手足の拘束は弟と繋がる直前には解かれたが、それはつまり、弟を受け入れたのと同義でもある。黙々とこちらの体を弄り回していた弟は、こちらが確実に快感に抗えなくなった辺りから少しずつ言葉を発するようになったが、諦めて受け入れろと繰り返すそれはまるで洗脳だった。
 尻穴とペニスとを同時に弄られて上り詰める快感を知った後、追い詰められてイキたくてたまらなくなったところで刺激を止められるのを繰り返されたら、頼むからイカせてくれと泣いてねだってしまったし、そこに、弟の恋人になればなんていう条件を出されて突き返せはしなかった。
 こんな強引な方法で、と軽蔑する気持ちも、叱りつけたい気持ちもあるが、弟に抱かれて絶頂する自身を、随分と愛しげに見つめる目を前にしたら何も言えそうにない。
 それでもちょっとした意趣返しで、絶頂時に縋り付く弟の肩や背に、思い切り爪痕を残してやった。弟は痛いと言いながらも満足げに笑っているから、ちっとも仕返しになっていない可能性のが高いけれど。

 
 
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