知ってたけど知りたくなかった3(終)

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 ダメだダメだと思っているのに、慣れた体は弟の指をあっさりと受け入れて、それどころか気持ちが良くてたまらないと訴えてくる。弟が相手だというのに、否応なく感じてしまうのが辛い。弟が相手だからだと、頭のどこかではわかっているから尚更だ。
 嫌だと逃げかけるたびに力で押さえつけられてしまえば、逃げ出せないのだと思い知っていくばかりだけれど、だからってこのまま抱かれてしまってもいいとは思えない。なのに、血の繋がりなんかクソくらえと言い切った相手に、どう引いて貰えばいいのかなんてわからない。
「なぁ、なぁ、やめよって」
 それでも繰り返し、止めようと訴えかける。どうしていいかわからなくても、弟の手に感じていても、この行為を受け入れているのだと思われたくない。
「こんな感じてて、まだ言うのかよ」
「だって俺じゃなきゃダメな理由、ある? だいたいお前、彼女いた事あるだろ。まだ、引き返せるから。だから」
「ふーん。じゃ、兄貴じゃなきゃダメな理由があればいいって事?」
「だからっ、ないだろ、そんなのっ」
「あるけど」
「嘘だっ」
「言っていいの? 兄貴が俺を好きだから、って」
 それを聞いて胸の中に広がったのは絶望だ。ぶわっと涙が盛り上がってしまうのを止められないし、言わんこっちゃないと嫌そうに舌打ちされればさらなる涙を誘う。
「酷い……」
「どっちがだ。つか泣くなら言わすなよ」
「わかってんなら、引けって。てかお前が俺を好きなの、俺のせいだろ。俺が、無意識にだったにしろ、お前を誘惑してたせいでお前までその気になったとか、親に合わす顔がない」
「あー……なるほど。で、逃げたのかよ。アホらし」
「なんでだよっ。だってお前、彼女が」
「あーはいはい。女抱けるから何なの。男でも兄貴なら抱けるし問題ないって、今から証明してやるけど?」
「ちがうっ。俺がお前を好きだからって、俺なんか相手にする必要ないって、言ってんの」
「無理」
「だから、なんでっ」
 聞いても答えは返ってこなくて、アナルを弄りまわしていた指が抜けていく。続いてコンドームを取り出すのを見て、この隙に逃げられないかと体を起こした。こんな格好で外には出れないけれど、トイレに閉じこもるくらいは出来るだろう。
「おいこらっ。まだ諦めてなかったのか」
 しかしベッドを降りる事すら叶わないまま、弟に腕を掴まれて引き倒される。
「バカなの? 逃げれるわけ無いだろ」
「だとしても、お前にこのまま抱かれるわけに行かないの」
「へぇ? ゴムなしでしてって、わかりにくくお願いされてんのかとも思ったんだけど」
「は?」
「逃げられないのも、逃げたら酷い目に合うのもわかっててやってんなら、これもう、ゴム着けるの待てなかったってことでいいかなって」
 挿れるねと宣言されて確かめてしまった弟のペニスは剥き出しだ。
「ダメ、だ、ぁ、ぁああっっ」
 もちろん静止の声なんて聞いてもらえず、挿入の快感に甘く声を上げてしまう。ヤダヤダ言ってたってこんなに気持ちよさそうにして、とでも思ったんだろう。満足気に笑われた気がするから、いっそ消えてなくなりたい。
「だめだって、も、お前、ナマでとか、信じられない……」
「ゴム無しでしたことは?」
「あるわけないだろ」
「じゃあ初めては俺が貰ったってことで。てか丁度いいから、俺に種付けされて、俺のものになるんだって思い知れば?」
「いや何言ってんの」
「本気だけど」
「お前とはこれっきり。二回目なんかないから」
「それに大人しく頷くわけ無いだろ。あんたこそ、二度と他の男に足開くなんてないから」
 ああそうだと何かを思い出したようにベッドの上を探った相手が手に取ったのは携帯で、カメラをこちらに向けてくる。嘘だろと思いながらも、嘘だろと声に出すことは出来ず、呆然と見つめてしまうしかない。
「これ、動画な。てわけで、俺の声も入ったし、兄弟でセックスしてる証拠とったから。これでも諦められないなら、このまま撮影し続けて、弟相手にアンアン善がってる姿も撮ってあげるけどどうする?」
 無言のままブンブンと首を横に振れば、取り敢えずは気が済んだのか携帯は手放したけれど、ますます追い詰められてしまった事実を前に途方に暮れる。そんな自分に、仕方がないと言いたげに、大きくため息を吐かれた。
「言っとくけど、兄貴が俺を好きなのかもって思ったのは今日だし、俺に似た男とラブホ入るとこ見るまで、本気で、俺が気持ち悪くて逃げたんだと思ってたから」
「見るまで……って、え、見てた?」
 またしても、嘘だろと思いながらも口には出せない。信じたく、ない。でも嘘じゃないんだってのは、その顔を見ればわかってしまう。
「たまたまだけど、その偶然に感謝してるよ。連絡もなく押しかけたのは、帰宅直後に捕まえて、あの男に抱かれたのか、抱いたのか、確かめたかったから」
「もし俺が、抱く側だったら、諦めてた?」
「男有りってわかって諦めるかよ。まぁ即抱いて俺のものにするのは無理だった、ってだけだな」
「自分が抱かれる側になる発想はないのか」
「ぜってー抱いてくれないくせに何言ってんだ。俺が抱かれる側になるとして、押さえつけて勃たせて経験もない穴に突っ込ませるって、無理がありすぎんだろ」
 確かにそれは無理そうだ。黙ってしまえば、またしても小さくため息を吐かれてしまった。
「ついでにいうと、あの男と恋人だって言われても、奪う気満々で来てるから。あんたが無意識に俺を誘ったせいで好きになったかなんて正直どうでもいいけど、もしそうだとしてもそれを気に病む必要なんかないし、なんで好きになったかより、今、どうしようもなく兄貴が好きだってことのがよっぽど重要なんだよ」
 俺が好きだから逃げる、なんてのは許さないと、強い視線に射抜かれてとうとう白旗を上げた。

<終>

同じお題で書いた別のお話はこちら → それはまるで洗脳

 
 
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知ってたけど知りたくなかった2

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 焦るこちらがおかしいのか、フッと小さな笑いを吐いた後で弟の顔がゆっくりと近づいてくる。とても見ていられないし、キスなんかされてたまるかと、ぎゅっと目を閉じ顔をそむければ、弟の顔は首筋に埋まってそこで大きく息を吸い込まれた。というよりは、嗅がれた。
 カッと体の熱が上がるくらいに恥ずかしい。季節的に汗臭い可能性は低いけれど、問題はそれじゃない。普段決して香るはずのない、甘ったるい匂いがしているはずだとわかっているせいだ。
「泊まりにならない、恋人でもない相手とで、ちゃんと楽しめた?」
「な、なに、言って……」
「こんな匂いさせて、どっから帰ってきたかなんて聞くまでもない」
「そ、それは、でも、お前には関係な、いっってぇ」
 顔を埋めたままの首筋に齧りつかれて痛さに喚く。ふざけんなと殴ってやりたいが、両手首とも捕まれベッドシーツに縫い付けられているし、蹴り上げたくても腿辺りに弟の腰がどっしり乗っていて動かせそうにない。
 多少体を捻ったところで、何の抵抗にもなっていない。
「や、ちょっ、やだっ」
 噛んだ所を舐められて体が震える。恐怖の中に紛れもなく快感が混じっているから泣きそうだった。
「これ以上痛くされたくなかったら、ちょっと大人しくしてて」
「んなの、やだ、って」
「痛くされるのが好き?」
「アホかっんなわけなぃったぁ! ちょ、やだぁっ」
 痛い痛いと繰り返しても今度は放して貰えなかった。しかもじわじわと圧が増していると言うか、肌に歯が食い込んでくるようで怖い。
「わか、わかったから、や、やめて」
 もう従うしかないのだと諦めて訴えれば、あっさり開放されて弟の顔が離れていく。今度は宥めるみたいに舐めてはくれなくて、それを少しばかり残念に思ってしまった事が辛い。相手は正真正銘、血の繋がった弟だって言うのに。
 自分が家を出たのは、弟にこんな真似をさせないためだったはずなのにと思うと、今度こそ本当に泣けてくる。心が痛い。
 ただの仲良し兄弟のままでいたかった。離れて過ごすうちに、気の迷いだったと気付いてくれたらと願う気持ちは、どうやら叶わなかったらしい。
 目元を腕で覆って泣くこちらに、弟が何を思うのかはわからない。黙々とズボンと下着を剥ぎ取られ、開かれた足の間に躊躇いもなく触れられて身が竦んだけれど、腕を外して弟の顔を確かめる気にはなれなかった。
「やっぱ抱かれる側かよ」
 小さな舌打ちとともに乾いた指先が少しだけアナルに入り込む。痛みではなく、ゾワッと肌が粟立つ快感を耐えて、歯を食いしばった。
「最っ悪」
 吐き捨てるような言葉とともに指を抜かれて、あれ? と思う。この体を知られたら、これ幸いと抱かれてしまう未来しか想像していなかったのに。というか、やっぱり抱かれる側か、ってどういう意味なんだ。まるで知っていたような口振りだが、自分がゲイだって事すら家族に伝えたことはない。
「やっぱりって……?」
 気になりすぎる展開に、腕を下ろしておずおずと弟を伺えば、弟は小さなパックの封を切っている所だった。中身を手の平に出していくのを、思わずマジマジと見つめてしまったけれど、のん気に眺めている場合じゃない。
「なに、してんの」
「カマトトぶんなよ。わかんだろ」
 抱くんだよとはっきり言い切られて、じゃあさっきの「最悪」ってのは何だったんだと思う。
「俺にドン引きだったんじゃ?」
「知ってたらもっとさっさと手ぇ出してたのにってだけ」
「お前に手ぇ出されたくないから、家を出た、とは思わないの?」
「男にそんな目で見られるのが気持ち悪くて逃げた。って思ってたんだよ。でも、あんた自身が男有りなら、大人しく引き下がってられっか」
「男は有りでも、お前は無しだろ」
「兄弟だから?」
「そうだよ」
「血の繋がりなんかクソくらえ、って思ってんだけど」
「俺はそうは思ってない」
「悪いけど、それを受け入れてやる気が俺にない」
 ムリヤリされたくないなら暴れんなよと言いながら、ローションに濡れた手が伸びてくるのを、どうしていいかわからなかった。

続きました→

 
 
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知ってたけど知りたくなかった1

お題箱より「スレンダーな兄が、自分より体格が良い弟に襲われ、快楽に逆えず兄としての尊厳をへし折られる、的な短編。年齢差は3歳位」な話

 終電で帰宅した夜遅く、音に気をつけながら静かに上り終えたアパートの階段上で、ギクリとして足を止めた。
 自宅のドア前に座り込んでこちらを睨んでいた塊が、ゆっくりと立ち上がる。三歳下の弟だ、という事にはさすがにすぐに気付いたが、なぜここに居るのかはわからない。
「今日は、帰ってこないのかと思ってた。おかえり」
 掛けられた声は穏やかだけど、顔は不満げで怒っているようにも見えた。ポケットから取り出して思わず確認してしまった携帯には、やはり弟からの来訪を告げるような連絡はない。
「あんま脅かすなよ。めっちゃビビった。で、なんで、居るの?」
「ちょっと、今日中に確かめたいことがあって……」
 様子がおかしいのはあからさまだから、余程の何かを抱えているらしい。親のことか、就活か、大学関係か、バイト先関係か。別に相談に乗るくらいは構わないけれど、もう実家を出ているのだから、いきなり部屋に押しかけてくるのはどうなんだ。
「だとしたって、連絡くらいしろよ。週末だし、帰ってこないことだって、あるんだぞ」
 実家と同じノリで、帰ってきたなら話聞いてよと押しかけてくるには、今は互いの部屋の距離が有りすぎる。もう数歩で行き来できる隣の部屋ではないのに。
「ほら、入って」
 鍵を開けてドアを引き促せば、大人しく家の中に入っていく。勝手知ったるとばかりに暗い中をどんどん部屋の奥へと進んでいく相手を、廊下や部屋の明かりをつけつつ追いかける。
「今日はもう、帰ってこないのかと思ってた」
 テーブルセットもソファもない部屋なので、座る場所がそこしかなかった、というのはわからなくもないのだけれど、何の断りもなく部屋の奥に置かれたベッドに腰を下ろした弟が、疲れた様子で大きく息を吐く。会った最初も同じことを言われたが、どうやら、なかなか戻らない自分によほど焦らされていたらしい。
 連絡もなく来るからで、自業自得だ。でも、ギリギリ終電に間に合って良かったなと思う程度には、この勝手な弟の来訪を受け入れてしまっている。
「まぁ今日は、泊まりになるほど盛り上がんなかったからな」
「へぇ。てことは、今日一緒に居たのって、恋人とかではないんだ?」
「週末に恋人と過ごしてたら、間違いなく帰ってきてないだろ。良かったな、俺に恋人居なくって」
「そうだね」
 うっかりアパートの廊下で一夜を過ごさなくて済んで、という意味の自虐だったのに、相手はムスッとしていてそっけない。
「なぁ、お前、ホント、どうしたの?」
 自分もベッドに近づいて、真正面から相手を見下ろしてやる。弟といいつつ、とっくの昔に背を抜かれ、ずっと運動部だったせいか横幅だって下手したらひょろい自分の倍くらいありそうなので、いつもは見上げなければいけない相手を見下ろせるのはちょっとだけ気分がいい。
「兄ちゃんが聞いてやるから、話してみ」
 久々に兄貴風を吹かしている気分の良さと、相手の不機嫌さに釣られて、相手の頭に手を乗せてヨシヨシと撫でてやれば、じっとこちらを見上げていた目がゆるっと細められて、口の端が上がっていく。しかし、頭を撫でられて多少なりとも機嫌を良くするなんて、図体はデカくなってもなんだかんだ可愛いとこはある、なんて思ったのもつかの間、頭に乗せていた手を掴まれ引かれて慌てる。
「おわっ、ごめっ、え、ちょっ」
 前のめりに弟にぶつかった体はあっさり抱きとめられて、気づけばベッドに背中が付いていた。
「えっ……?」
 こちらをベッドに押さえつけるようにして上から見下ろしてくる弟の顔は、もちろん欠片も笑っていない。ジッと見つめてくる顔に焦るのは、そこに紛れもなく男の欲を感じ取ってしまったからで、早く逃げなければと思うのに、こんな体勢を取られて逃げられるわけがないとも思う。
 力で無理なら冷静に言葉で、とも思うけれど、焦る頭の中はヤバいだとかマズいだとかどうしようばかり浮かんでいて、相手を引かせる言葉なんて全く思い浮かびそうになかった。

続きました→

 
 
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前世の記憶なんて無いけど3(終)

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 眼下にしっとりとして膨らみの半減した尻尾が、戸惑うように震えている。付け根から毛並みに沿うように撫でてやれば、気持ち良さげな吐息をこぼしながら、後孔をきゅうきゅうと締め付けてくる。
「ぁ、ぁ、ぁあ」
「気持ちよさそ。そろそろ尻尾でイケんじゃない?」
 勝手にお尻振っちゃダメだよと言いながら、腰は動かしてやらずに、尻尾だけを何度も撫でた。
「や、ぁ、むり、むり、ですっ」
「そう言わずに、もーちょい頑張ろうよ。ねっ」
 しつこく尻尾を撫でながら、尾の先を持ち上げそこにペロリと舌を這わせた。
「ひっ、ぁっ、だめだめだめ」
 怯えた声音のダメを無視して、尻尾の先を咥えてちゅうちゅう吸ってやれば、びくびくと体を震わせてとうとう絶頂してしまう。
「ほら、できた。お前は本当に可愛いね」
「ぁ、……ぁぁ……」
 いいこいいこと褒めるように更に尻尾を数度撫でてやってから、ようやく尻尾を開放して相手の腰を両手で掴んだ。
「じゃ、尻尾でもイケるようになったご褒美タイムといこうか」
 好きなだけイッていいからねと告げて、ぐっと引いた腰を勢いよく叩きつける。
「ぁあああっ」
 相手の体が仰け反って痙攣し、敏感になっている体は、その一撃だけで軽く達してしまったらしかった。しかしもちろん、手を緩めてやるようなことはしない。
 そのまま激しく腰を振って追い詰めていく。
 相手の体のことは知り尽くしている。彼の性感帯を一から全て開発し、慣らし、躾けてきたのは、前世の自分と今の自分だからだ。一途な彼は、生まれ変わりを待つ間も、その体を誰にも触れさせずに来たらしい。本当に、どこまでも可愛い男だった。
 さて今日はあとどれくらい、人型を保てていられるだろうか。性も根も尽き果てて、人のカタチすら保てず晒すケモノの姿が、酷く愛しくてたまらなかった。
 なんせ、初めてその姿を晒させた時、それが引き金になって前世の記憶を取り戻したくらいだ。
 前世の記憶が戻ったせいで、その後しばらくあれこれと揉めたけれど、結果だけ言えば、恋人にはなれた。というか恋人どころか、指輪を与えて便宜上嫁にした。前世からの主従関係が生きている以上、相手はこちらに逆らえないのだから当然の結果だ。
 むりやり得た関係が虚しくはないのかと思うかもしれないが、そんなことは欠片も思っていない。
 記憶は戻ったが、自分たちの関係まで丸っと全て過去に戻ったわけじゃない。記憶が戻ったので、全くなんの力もないただの人の子、よりは多少マシではあるけれど、それでも、知識があるだけの大した力も持たないただの人の子だ。
 そこには以前あった柵はなく、あるのは、彼が延々と待ち続けてむりやり繋いだ二人だけの縁なのに。
 自分たちがツガイとなったところで、誰も咎めはしないだろう。事実、記憶が戻って、彼とツガイとなってからも、なんの干渉も起きていない。まぁ、様子見、という可能性も高そうだけれど。
「あぁ……ァぁ…………ハァ、ハァ……」
 布団の上に伏した体がとうとう狐の姿となり、目は閉じられ、開いた口から荒い息だけを漏らしている。覆いかぶさるように、しっとりと濡れた毛皮をギュッと抱きしめ、最後の一発を注いでやってからそっと繋がりを解いた。
 ホッとしたように息を吐いて、そのまま寝落ちてしまった体を、なんども優しく撫でてやる。
 いつの間にやら外はすっかり明るくなっていて、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。毛皮を撫でるのにあわせ、差し込んだ朝日の下でキラと相手の毛皮が光ったように見えたが、正確には光ったのは毛皮ではなく、毛皮に埋もれているチェーンのネックレスだ。
 こうして、人型が保てない程に抱いてしまう時があるから、指に通すことが出来ないだけで、そのチェーンには与えた指輪が通されている。毛皮の中からツツッとその指輪を引き出してやれば、まるで輝かしい未来を指し示してでも居るように、銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。

 
 
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前世の記憶なんてないけど2

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 こんなはずじゃなかった、と思いながら、先程から飛び出している獣の耳に舌を這わす。
「ぁ、あっ、あっ」
 泣いているような声を上げていやいやと首を振るものの、おとなしく脚を開いて後孔を指で解されている相手は、こちらに脅迫されて仕方なく体を差し出している。
「ねぇ、耳、気持ちいいんじゃないの?」
 後ろキュッと締まったよと告げながら、もう一度耳へと顔を寄せた。逃げんな、と囁いてやってから、再度舌を這わせて、ちゅっとしゃぶりついて、はむと甘噛んでやる。
「ひ、ぁ、ぁ、ぁぁ」
 ふるふると体を震わせて、腸内に入り込んでいる二本の指をぎゅうぎゅうと締め付けて、細い悲鳴を上げながらも、こちらの命じた通り、相手は頭を振ることなく耳を嬲られ続けている。
 脅迫して相手の抵抗を奪ったのはこちらだけれど、肉体的な拘束など一切与えていない。なのに言葉一つでここまで従順な相手に、理不尽な怒りを感じてもいた。
 理不尽だと思える程度には理性があって、怒りの原因が嫉妬だということも理解できている。
 彼がこちらの言葉に従うのは、彼が前世の自分を崇拝レベルで愛しているせいだ。前世なんて未だ欠片も思い出せないし、彼の勘違いとか思い込みという可能性すらあるのに、間違えるはずがないと言ってそこは彼も譲らない。
 それならせめて、今の自分のことも、過去の自分と同じように愛してくれればいいのに。求めてくれればいいのに。
 はっきり明言されてはいないが、彼の話しぶりから、間違いなく、前世の自分とは体を繋ぐような仲だったはずだ。
 もう一度出会えた喜びと、尽くすのが嬉しくて仕方がない様子と、なにより自分に向かって真っ直ぐに突きつけられる好意に、勘違いしていた。今の自分のことも、好いていてくれるのだと、思っていた。自分とも体を繋いで想いを交わせるような仲になりたいのだろうと、思っていた。
 でもどうやら、違ったらしい。
 確かに、彼に直接そう望まれたことはなかった。記憶を思い出して欲しそうな様子はあったけれど、それすらさっさと思い出せなどと言われたことはないのだ。
 記憶がなくても傍に置いて貰えるだけで、少しでもお役に立てればそれだけで嬉しくて仕方がないと言われ続けていたし、恋仲になりたいとも、抱かれたいとも、一度だって言われていない。要するに、勝手に勘違いしていただけだった。
 せめてその勘違いに、もっと早く気付けていればよかった。いくら尽くしてくれると言っても、前世ではそういう仲だったとしても、男だし、人じゃないし、と迷っている内に気づいていれば、むしろ安堵しつつ、なんだそうかとあっさり引き返していただろう。
 つまりは、彼の好意と執着とに報いてやりたくて、彼を好きになる努力をしてしまったし、いろいろな覚悟まで決めてしまった。なのにいざその覚悟を示して関係を進展させようとしたら、そんなつもりはなかったと拒否されて、更には申し訳ないことをしたと頭を下げられ恐縮されて、今まで通りただ傍にいて世話を焼いていたいだけだなんて言われても、わかったなんて言ってやれるはずがない。
 結果、傍にいて役に立ちたいと言うなら、性欲処理にだって付き合うべきだと言ってしまった。

続きました→

 
 
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雨が降ってる間だけ

 ふと隣に気配を感じて集中が途切れる。気配に向かって振り向けば、長めの髪をひと結びに後ろに垂らした浴衣姿の青年が、そわそわもじもじ落ち着きのない様子でこちらを窺っていた。
「ああ、雨、降り出したんだね」
 コクンと頷く彼に、じゃあ寝室に行こうかと言って立ち上がる。予報では、降り出したらしばらく強めの雨が続くようだから、前回みたいに途中でお預けなんてことにはならないだろう。
 おとなしく数歩後ろをついてくる彼を寝室に招き入れ、ベッドの上に押し倒せば、先程よりも更に落ち着きをなくした男が、期待に顔を赤く染めている。
「雨が降るの、待ち遠しかった?」
 可愛いなぁと思いながら赤くなった頬をゆるりと撫でてやれば、やっぱりコクリと頭が縦に揺れた。
「前回、イキそびれたまま雨上がったもんな。今回は雨長引きそうだし、いっぱい気持ちよくなろうな」
 告げれば嬉しそうに笑って、早くと言わんばかりに両腕が首に回される。引かれるまま顔を寄せて、初っ端から相手の口内を貪るみたいな深いキスを仕掛けていく。
 慣れた様子で絡められる相手の舌を吸い上げながら、浴衣の合わせを広げて露出させた肌に手を這わした。弄り回した胸の突起が硬さを増したら、指先で摘んで押しつぶすように転がしてやる。
「んんぅっ……」
 ビクビクと体を震わせ、苦しげに、けれど甘ったるく、鼻に掛かった息が口端から漏れた。彼の体はすっかり自分に慣らされきっている。
 血走った目でこちらを睨み、部屋の中の物をあれこれ投げつけてきていた男が、まさかこんな変貌を遂げるとは思わなかったが、彼は長年抱えている何かが癒やされているようだし、こちらも充分に楽しんでいるし、ヤバイと噂の格安物件を問題なく利用できているしで、いい事づくしだと思う。
 つまり彼は、人の形をしているが、いわゆるこの家に憑いた、人ではない何かだった。言葉は通じるし会話も出来なくはないが、彼は彼自身のことを語らないので、幽霊のたぐいなのか妖怪と呼ばれるようなものなのか今ひとつわからない。
 ポルターガイスト現象の頻繁に起こる格安の一軒家を借りたのは、仕事柄金があまりなかったのと広めの作業スペースが欲しかったからだ。
 舐めて掛かっていたと後悔するのは早かった。なんせ、皿でも飛ぶのかと思っていたら、狙ったように仕事中に仕事道具ばかりが舞った。
 相手はこちらが心底苦痛に思う嫌がらせを心得ていると思ったが、いかんせん、引っ越しにも金が掛かるし、同じ規模の別の家を借り続けられる財力だって無い。
 そんなわけで、とある雨の日、仕事場で仕事道具をアチコチに移動させている不機嫌で不健康そうな和装の男を見つけた瞬間に、何だお前ふざけんなと喧嘩を売っていた。その姿を見た瞬間から、相手が人でないことも、ポルターガイストを起こしているのがコイツだともわかっていたが、得体の知れないものへの恐怖はなかった。和装だったり髪が長かったりはあるものの、見た目はごくごく普通の人の姿をしていたからかもしれない。
 まさか見えていると思わなかったらしい相手は心底驚いて、それから手の中のものをこちらへ投げつけてきた。額の端をかすめていったそれに、こちらの怒りのボルテージは上がっていったし、触発されるように相手もどんどんと険しい顔付きになった。
 手当たり次第、手に触れたものをこちらに向かって投げてくる相手に、飛んでくるものを避けたり払ったりしながら近づいていったのだが、だんだん怯えたような表情になっていくのが印象的ではあった。
 相手に触れられるほど近づいた後は取っ組み合いへと発展したが、なんというか、相手は思いの外非力だった。仕事場の床に押さえ込んで、仕事道具に二度と触るなと脅せば、なんだか透けるみたいに青い顔をして必死にイヤイヤと首を振っていた。なぜかそれに劣情を催し、気づけば男を犯していたのだが、さんざん仕事の邪魔をされたという思いがあったからか、相手が泣いて嫌がるほどに、胸がスッとするようだった。
 数度相手の中に射精したところで、色々と冷静になり、さすがにやり過ぎたと身を離す。息も絶え絶えに横たわる体は、人ならざるものとわかっていても、罪悪感が芽生える程度に人とそう変わらなかった。つまり、見知らぬ男をいきなり犯しぬいたような気持ちになって、内心慌てながら洗面所へ向かって走ったのだが、タオルやらを持って戻った時には彼の姿は消えていた。
 それからパタリと仕事道具が舞うような現象がなくなり、なんだかやらかした感はあるが一安心と思っていたのだが、代わりとばかりに何かの気配を感じるようになった。見えないが、彼がそばにいる。見張られている。そんな日々になんとも居心地の悪い気分を味わいながらも、やっぱり引っ越しはできずに居たら、ある日またふと彼の姿が目に入った。手を伸ばしたら普通に触れたのだが、触れられた彼はこちらに見えていることに気づいていなかったのか、やはり相当驚いた顔をした。その後、こちらの手を振り払って彼は逃げた。
 雨が降ると彼が見える、と気づくまでにも彼との攻防は色々とあったが、初回に犯したことをほぼ土下座で謝り、お詫びに優しくさせて欲しいと頼み込んでどうにか再度彼に触れるチャンスを手に入れた。その頃にはもうすっかり情がわいていたから、言葉通り思いっきりその体を甘やかしてやったのだが、結果的にはそれで彼に懐かれた。のだと思う。
 それ以来、雨が降ったら彼を抱いている。たまに最中に雨が上がってしまうアクシデントも起こるが、彼との関係は概ね良好だと思う。
「ぁ、っぁ、ぁん」
 控えめながらも連続的に気持ち良さげな声が漏れている。
「ここ、気持ちぃ?」
 聞けば素直に首が縦に揺れた。聞き漏らしそうなほど小さな声ではあるが、きもちぃと教えてもくれる。抱くほどに彼は可愛くなる。
 だんだんと仕事が軌道に乗り始め、多少金銭的な余裕も出てきたのだけれど、この格安物件生活を手放す気にはなれそうにない。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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