煮えきらない大人3(終)

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 通学定期を手に入れた後は、可能な限りカフェに通う生活になった。とは言っても、当然、連日入り浸りというわけには行かない。
 小遣いは限られているのでバイトはしなきゃ資金が足りないし、でも、ここでバイトしたいという提案は、人手は足りてるとあっさりお断りされている。
 なので曜日や時間帯をあれこれ変えながら、なるべく週に1回は訪れるようにしていた。そしてタイミング良く店長不在かつ自分以外の客が居ないとき、つまりは店内に二人きりのときだけ、隙を見て「好きです付き合ってください」という告白を繰り返してもいた。まぁ、返事は変わらず「もうちょっと考えさせて」で逃げられているんだけど。
 ただ、いつまで待つのが妥当なのかの判断が難しい。
 今までまともに意思表示もしないまま、いつか大人になったら付き合えるという未来を勝手に思い描いていたのは事実なので、とりあえずはっきりと意思表示を続けよう、くらいのつもりで繰り返す告白を、多分、相手は楽しんでいる。だって考えさせてってお断りしてくるくせに、困るとか迷惑とかって素振りはなくて、どこか嬉しそうな気配まで滲んでいる。
 まぁ相手が楽しいならいいか、なんて思える余裕はさすがにない。むしろ、嬉しいならさっさとOKしてくれって気持ちが膨らむのは当然だと思う。
 脈はありまくりなのに、進展する気配がない。という事実には間違いなく焦らされていた。
「あれから半年ほど経ちますけど、まだ、考え中ですか?」
「え?」
 驚いたような声を出されたのは、告白タイムは帰る間際のことが多いせいだろう。今日は、ドリンクを運んできたその場で、立ち去る前の彼を引き止めるように声をかけている。
「好きです、付き合ってください。でも今日もまた、考えさせてって逃げるつもりですよね?」
「あー……怒って、る?」
「怒ってはないですけど焦らされてキツくなってるとこはあります。だからせめて、あとどれくらい考えれば答えが出そうか、教えてほしいです。というか二十歳になったらと思ってるなら、あと1年待ってって、言って欲しいです」
 正直に言えば、この前誕生日を伝えたときに、そう言ってもらえるかなと期待していた。普通に、じゃあお祝いねと言われて、カットケーキがサービスされて終わりだった。
「あー……」
 この話題を持ち出すのは店内に二人きりのときだけ、と相手もわかっているだろうに、困ったように店内を一度ぐるっと見回したあと、相手は観念した様子で対面の席に腰を下ろす。しかしその様子から、とうとうOKが貰える、という期待はまったく湧き上がってこなかった。それどころか、困った顔を崩さない彼を正面にして、不安が膨らんでいく。
「やっぱ、今の状態を続ける気はもうない感じ?」
「ええ、まぁ。でも期限切ってくれるなら、待てます。その日が来るまで、今まで通り告白続けてって言われるのは構わないです」
 返答がずっと「考えさせて」から変わらないのが、とにかくキツい。
「そっか。じゃあ正直に話すけど、答えはもう出てる。お付き合いは出来ないよ」
「はぁ!? ちょっ、えっ、なんで!?」
 意味がわからないと言えば、ごめんねと謝られてしまった。謝られたいわけじゃないのに。
「理由は? てか告白するたびあんな嬉しそうにされたら、絶対脈アリって思いますよね?」
「理由は前に言ったのと一緒だよ。歳が離れすぎてて、お付き合いが上手くいくイメージが全然持てないっていうのと、一回りも年下の真っ更な子に手ぇ出せる気がしないから。で、脈アリって思わせたのは申し訳ないけど、実際嬉しかったし、この状態でいいって言ってくれるなら、可能な限り引き伸ばしてたかったんだよね」
 いつ追求されるかなと思ってたけどここまでかぁと、相手は残念そうに苦笑している。
「期待持たせて焦らして引き伸ばしてたの事実だし、嫌われる覚悟は、できてる」
「いや、嫌いになったりしませんけど。あと諦める気もないですけど」
 とっさに口に出せば、相手は呆気にとられた顔になる。
「えっ……」
「だって俺と付き合いたいって、本音のとこでは思ってますよね? だから嬉しそうな顔するんですよね? 本当に嫌われる覚悟ができてる、って言うなら、付き合いましょうよ。とりあえず付き合って、うまく行かなくて、喧嘩とかするのもいいんじゃないですか。嫌われてもいいって思ってるなら、怖くないでしょ? もう無理って、俺に思わせたらいいじゃないですか。もちろん俺は、そうならないように頑張りますけど」
 呆気にとられた顔が、嫌そうに歪む。喧嘩してもう無理って言われる想像でもしたんだろうか。
「ちなみに、お付き合いしてみた結果、情けないとことかダサいとことか見せられても、一回りも年上なのに気持ぃセックスして貰えなくても、それで幻滅する予定もないです」
「ちょ、待って待って待って。なにそれ?」
「いやなんか、もしかしてうまく伝わってないのかな、みたいな気がして」
 嫌われる覚悟があるなら付き合えばいいと説きながら、嫌われて離れていくのは許容できても、幻滅されたりを恐れてる可能性があることに気づいてしまった。年の差をかなり気にしているから、付き合ってボロを出したくないのかも知れない。
「うまく伝わってないって、なにが?」
「ほとんど一目惚れだったの事実だし、カッコイイって思ってるのも事実だけど、別に、カッコイイ年上彼氏が欲しいなんて理由で、付き合ってって言ってるわけじゃないんですよ。ってのが」
 え、違うの。という声は聞こえてこなかったけれど、間違いなく、そう思っている。
「だって、カッコイイ年上彼氏が欲しいなら、その条件に合う別の誰かでもいいって話になるじゃないですか。しかも元々は7か8くらいの差だと思ってたわけだし、条件で選ぶなら一回りも年上の相手、わざわざ選びませんって」
「そ、っか……」
「で、ちょっとは前向きに考えてくれる気になりました?」
「う、あ、でも……」
 まぁここであっさり頷いてくれるような人なら、ここまで焦らされることなくとっくにOKされてるんだろうけど。でもちょっとは進展した気がするので、今日のところは良しとする。
 返す言葉を探して口ごもる相手を見ながら、運ばれてきたドリンクにようやく手を伸ばした。

高校時代の一人訪問話を書いてみたらやっぱりイマイチで、まるっと書き直して結局大学入学後の話になりました。多少リクエストに寄れた気がするので、このお話はここまでにしたいと思います。
リクエストどうもありがとうございました〜

 
 
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煮えきらない大人2

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「昔、まずは大人になってから、って言いましたよね?」
「え、えっ、ちょっ……ええ〜」
 店長の息子だという彼が店に立つようになったのは中学に上がった頃で、一目惚れに近かった。ジロジロと眺めた挙げ句、その視線に気づいた彼に向かって、どうすればあなたの恋人になれますかとド直球に聞いたのだ。怖いもの知らずのマセガキだった自覚はある。
 クラスの女子なんかより初対面の男にトキメイている事実には自分自身かなり驚いたけど、でもなぜか、今すぐ意思表示しておかないと他の誰かに取られちゃう、って思ってしまった。
 その時に、子供と恋人になるのは無理だなぁと笑われて、まずは大人になるところから頑張ってと言われたのを、こちらは片時だって忘れてないのに。
「まさか忘れて、ってことはないですよね? だって俺のこと、ちゃんと意識してくれてるし」
「いや、いやいやいや」
「どういう反応なんですか、それ」
「もしかして本気、だった?」
「本気でしたけど。ていうか本気じゃないのに男相手に告白すると思ってんですか?」
「だって君がそれ言ったの、初回だけだよ? 初対面でそんなの言われて、本気にすると思うのってのもあるし、次会ったときは好きとか付き合いたいとか恋人とか一言もなかったから、若気の至り的な何かで衝動的に言っちゃった系って思ってた」
「それは恋人の条件がまず大人になれだったからでしょ」
 だって、しつこく告って困らせるのも、それで嫌われるのも避けたかった。初回の告白だけでも自分のことを覚えてくれたし、小さなデザートがオマケされたりのちょっとだけ特別な扱いをしてくれてたから、今はそれでいいって思ってた。
 大人が子供に手を出したら犯罪ってのを知ってからは、だから大人になれって言われたんだと思ったし、大人になるのを待っててくれてるんだって信じてた。意識されてるのがバレバレの態度に待たせて悪いなって思ってたし、早く彼が安心して手を出せる年齢になりたいとも思ってたし、高校卒業したらOKにならないかなって期待もしてた。
 その前提が今、目の前で崩れかけている。
 大人の定義が高校卒業なのか、二十歳なのか、就職したらなのかは考えてたけど、告白本気だったの? なんて聞かれる想定は欠片もなかった。
「てか本気にしてなかったなら、なんで、俺のことそんな意識してるんです?」
「し、てない、よ」
 さすがにそれは無理がありすぎる。じゃあなんで、定休日の今日、二人きりで特別メニューを振る舞われてるんだって話になってしまう。
「嘘ばっかり。てかあなたがお店手伝うようになってから、あなた狙いの女性客めっちゃ増えたって聞いてますよ。でも恋人居ない歴着々と重ねてるの、俺が大人になるの待っててくれてるからじゃないんですか?」
「いやいやいやいや」
「なんでそこ否定なんですか」
「だって幾つ違うと思ってんの」
「え、……7か、8、くらい?」
 実際どれくらい年齢差があるかなんて考えたことがないけれど、初めて会った頃の彼は専門学校に通いながら店を手伝ってるとかなんとか言ってたような記憶があるから、多分、20歳前だった。
「そんな若く見えてた? まぁチャラかった自覚はあるんだけど」
 苦笑した相手は、初めて会ったときにはもう25だったと続ける。
「ええっ!?」
 さすがにそれは想定外過ぎた。てことは、12か13は上ってことか。
「俺、大学出てるし、飲食全く関係ない会社に一回就職もしてんだよ。でも色々あってあっさり退職しちゃってね」
 そしてその後も何やら色々あって、結局親の店を継ぐことにしたらしい。
「あー、まぁ、思ったより年食ってるのはわかりました。でもそれってそこまで問題ですか? 俺は別に、あなたが幾つでも、そこまで気にしないですけど」
 言っても相手はうーんと唸っている。
「てか問題って年齢差だけなんですか? 本気にしてなかったってなら、男はない、とか言われる可能性もあるのかなって、思ってるんですけど」
「あー……それは問題ないっていうか、さっき言った色々あったの中に、俺がゲイってのも含まれてるんだよね。女性客増えようが恋人居ない歴重ねてんのもそれのせいっていうか、君が大人になるの待ってたからってわけじゃないっていうか」
 なんとも煮えきらない態度で、いまいちはっきりしない。
「とりあえずはっきりさせたいんですけど、俺のこと、好きですか?」
「そりゃ、嫌ってたらこんなお祝いしないよね」
「そういう言い方ずるいですよ。じゃあ俺のこと、抱けそうですか? それとも元々ゲイなら抱かれたい側です?」
「うん、だから、そういうのはね。一回りも年下の子相手に、手なんか出しちゃダメでしょ、って」
「出来るのか出来ないのかを聞いてるんですけど。ちなみに俺は、ゲイだなんて知らなかったから自分が抱かれる側になればいいって思ってましたし、抱かれたいって言われる想定はなかったです。まぁ、抱かれたい側って言われても諦める気ないんで頑張りますが」
 諦める気がないと言い切ったからか、相手が酷く困った様子で、抱かれたい側じゃないから変なこと頑張らないでと言う。でも抱けるのかって部分は結局うやむやにするらしい。まぁうやむやにして無理ってはっきり言わないあたりが、抱けるって意味なんだろうけど。
「ていうか、本気って思ってなかったから、もうちょっと考えさせてほしいんだけど」
 せっかく作った料理が冷めちゃうからと言われたら、さすがに了承を返すしかない。それに想定外の話を色々と聞かされたこっちも、今後に向けて対策を練り直す必要がありそうだ。
「そうですね。じゃあ一旦この話は終わりにしますけど、成人年齢下がって成人済みだし、もう大人になったってことで、今後は俺ももっと本気で恋人狙っていきますから」
 それだけ宣言して、頂きますと手を合わせる。対面では、困っているような諦めているような、そのくせどこか嬉しそうでもある、なんとも言い難い顔をした相手が、成人は二十歳でいいのになぁとぼやいていた。

続きました→

「大学生くらいの受けと一回り以上年上の攻めで、いい歳してこんな年下の子に手を出すのは流石に…と葛藤している攻めと、大人って大変だな…とそんなモダモダしてる攻めを観察してる受け」の再チャレンジです。
年下すぎて手を出せない攻めは想像しやすかったんですが、惚れられてるのわかってて観察するだけで待ってられる大学生受けが想像できなくて、こんな形になりました。
これ、大学合格報告した日とか、もっと前の一人でこそっと訪問した日あたりを書いたら、もうちょっと攻めを観察してる話になりますかね?
そうすると今度は「大学生くらいの受け」から外れちゃうかな〜って気もして、ううーん難しい。
一応次回、ちょっとそっちもチャレンジしてみようかと思います。

 
 
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煮えきらない大人1

 closeの札がかかった扉を開ければチリンと軽やかな音が鳴る。
「いらっしゃい。待ってたよ」
 来訪に気づいて厨房から顔を出したのはこの店の二代目で、ニコニコと楽しげな顔にこちらの頬も緩んでしまう。
「こんにちは。えと、今日はありがとうございます。楽しみに、してます」
 少しばかり緊張しながらもペコリと頭を下げれば、誘ったのこっちなんだからむしろ来てくれてありがとうだよと、やっぱり笑顔で返される。期待してていいよ、とも。
「じゃ、用意するから座って待っててくれる?」
 テーブル席のがいいかなと続いた言葉に軽く頷いて、一番奥のテーブル席へ向かって歩く。両親と訪れるときの定位置だ。
 物心ついたころから年に数回、親に連れられて訪れていたこのカフェは、両親が学生時代によく利用していたという思い出の場所らしい。近くに両親が通っていた大学があって、春からは自分も通うことになっている。
 進学先をその大学に決めた最大の理由が、この店だってことは誰にも言ってないけど。でも二代目はもしかしたら気づいてるかもしれない。なんせ、高校に上がって行動範囲が広がってからは、何度か一人でこっそりと訪れていたから。
 それに、合格が決まった先日、春からはもっと頻繁に通えるようになるって、わざわざ知らせに来てもいる。しかも浮かれて、ちょっとどころかかなりテンション高めだった。思い出すたび、少々恥ずかしいくらいに。
 でもそんなテンション高めの報告をしたおかげで、こうして合格祝いを貰ってるんだけど。
「お待たせ〜」
 そんな言葉とともに、次々と皿が運ばれてくる。お皿はどれも見たことがあるのに、メニューにない料理ばかりが盛られているから驚いた。
「すごいですね。てか多すぎません?」
 どのお皿も、一品一品そこそこの量がある。せっかくの特別メニューを残したくはないけど、どう見ても一人で食べ切れる量じゃない。
「ちょっと張り切りすぎたとこあるのは認める。けどまぁ、二人分だと思えばそこまででもないだろ」
 そっちの若さに期待してる部分もあるけどと言いながら、これで最後だよと大きめのグラタン皿が中央に置かれた。
「二人分」
「さすがに今日はね。一緒に食べようって思ってさ。わざわざ定休日に来てもらったの、そのためだもん」
 取皿使ってねと言われて、初めて、カトラリーケースの横にお皿が数枚積まれていることに気づく。一緒に食べよう、なんて言ってもらえると思ってなくて、いっきに鼓動が早くなる。
 どうしよう。嬉しさと期待で緊張が増してしまう。
「飲み物なにかいる?」
「いや、水で良いです」
 じゃ、座っちゃうねと言って、相手が対面の席に腰を下ろす。こんな風に向かい合って食事をするなんて当然初めてで、思わず相手を凝視してしまえば、その視線に気づいた相手が照れくさそうに笑った。
「お酒飲める年齢なら、ここでワインの1本も開けたいとこだよな」
「俺のことは気にせず、別に飲んでもいいですよ?」
「いや、いいよ。お酒飲めるようになったら、また祝わせてよ」
「それはもちろん、嬉しい、です。けど……」
「けど?」
 言っていいのか迷えば、言葉尻を拾って訪ねてくる。
 18歳になって成人したけど、ほんの数年前までは20歳で成人だったわけだし。急かすつもりはないんだけど、でも高校卒業も目前だし、そろそろ言葉が欲しい気持ちもある。
「えっと、それは期待していい、やつなんですかね?」
「メニューの話? 食べたいものあるなら、言ってくれれればなるべく希望に沿うように頑張るけど」
「あ、いや、そういうのじゃなくて」
 なんだろ? と首を傾げる相手にはなんの含みもなさそうで、わざとはぐらかしてるようには見えなかった。前からだけど、意識してくれてるのバレバレなのに、こっちの気持ちには鈍いところがある。
「あー、その、いつ告白してくれるのかな、って」
「えっ???」
 めちゃくちゃ驚かれたことに驚いた。なんでだよ。

続きました→

 
 
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片想いが捨てられない二人の話2(終)

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 カレンダーを見ながらため息を吐き出す。卒業後、一度だって顔を合わせていない元生徒の誕生日を、忘れられずにいることが忌々しかった。
 交際相手の性別に強いこだわりはないが、相手の年齢は気にするし、ましてや自校の生徒との交際などありえない。そう信じてきたし、今だってその気持ちは一貫して持ち続けてもいる。
 生徒から恋愛的な意味での告白を受けることはあっても、当然、今まで問題を起こしたことはなかった。そもそも明日二十歳の誕生日を迎えるはずの彼とだって、彼が在校中、教師と生徒という立場を逸脱したことは一度だってなかったのだから、要は自身の気持ちの問題でしかないのだ。
 元々ダメ元で告白してくる場合が多いというのもあると思うが、自身の信念や立場やらを丁寧に説明してお断りすれば、大概の子は素直に諦めてくれる。彼が現れるまでは、多少手こずることはあっても、個々の間で話がつく経験しかなかった。
 そういう意味で、周りの多くを巻き込んで手を変え品を変え告白を繰り返した彼は、間違いなく特別で特殊ではあった。けれど途中からは完全に目的が変わっていたし、事実、卒業後の接触は一度だって無い。
 わかっていたことだ。わかっていたから、卒業したあとであれば考える、なんてことすら言えなかった。そんな言葉で、未来ある若者を惑わしていいはずがない。
 彼にとっては、卒業と同時に簡単に手放せる想いだった。
 それは充分に想定内であったから、繰り返される多種多様のアプローチに心揺らされた自身が未熟だっただけ、という気持ちも大きい。だからこそ、小さなきっかけで思い出すたびに、こんなにも苦々しい気持ちになるのだ、ということまでもわかっているのだけれど。
 口からは再度ため息がこぼれていく。
 酷い未練だ、と思った。まさかこんなにも引きずることになるなんて、欠片も思っていなかった。
 その約束を口にしたのは、彼が入学してきたばかりの頃だ。といっても場所は結構特殊で、彼が入院中の病室だった。彼は入学早々、事故にあって入院していた。
 たまたま帰路の途中で寄りやすい病院だった、というのもあって、見舞いに訪れる頻度は確かに少々多めだったかもしれない。でもクラスに馴染む前に長期離脱という目にあった生徒を気にかけるのは当然だと思ったし、彼自身、新生活早々の困難に不安を覚えているのが明らかだったから、できる限り協力してやりたかった。
 酒が飲める年齢になったら、オススメの日本酒が飲める店に連れて行ってやる。それは些細な雑談から派生した、その当時は、叶うかどうかなどどうでもいい約束でしかなかった。というよりは、叶わない前提の約束と言ってもいい。
 同窓会などで元生徒と酒を酌み交わす機会はあるかもしれないが、元生徒と個人的に食事に行くような繋がりを持つ未来なんて、正直いえばまったく想像が出来ない。それは彼に限らず言えることだけれど、あれだけアプローチを掛けてきた相手とですら、卒業とともにバッサリ切れてしまうのだから、学校という空間はやはり相当特殊だと思う。
 三度目のため息。重症だと思いながらも、今夜はどうにも引きずっている。
 彼との関係はとっくに切れている。二十歳になったなら飲みに行くか、なんて誘える立場に自分はいない。わかっているのに、振り切れない想いがやるせなかった。
 卒業したら手放せてしまうような想いで、散々こちらを振り回して、しつこいアプローチでこちらの心を奪っていった相手が、いっそ憎らしいとすら思う。こちらの気持ちに気づきもしないで、という苛立ちを、最後の最後まで口にせずに卒業する彼を見送れたことだけは、きっと、教師としての矜持を守れたと誇っていい。
 いやでも、こちらの苛立ちや憎しみにも似た感情には、気づかれていたかもしれない。卒業を間近に控えたあの日、閉じ込められた狭い生徒指導室で、怯えるような顔をさせてしまったから。
 せめて、笑顔の彼を見送れていれば、こんなにも引きずらなかったのだろうか。思ったところで今更すぎるし、抱える未練とは、これからも長い付き合いになりそうだ。
 再度ため息を吐き出しかけたその時、机の上に置かれたスマホが着信を告げて震えた。こんな時間の知らない番号からの発信に、訝しみながらも通話ボタンを押す。
「あっ……」
 電話の先、小さく息を呑んだ相手のひどい緊張が伝わってきて、こちらの鼓動も跳ね上がった。
 だってこの先にいるのは、きっと……

リクエストは「先生×生徒(高校生)で、生徒がどんなにアプローチしても在学中はいっさい言葉にも態度にも出さない先生の両片思いの話」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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片想いが捨てられない二人の話1

 叶う見込みなんて欠片ほどもないような片想いを、もうずいぶん長く続けている。相手は面倒見がやたら良くて生徒との距離もかなり近い教師で、高校1年時の担任だった男だ。
 入学早々事故って入院というアクシデントに見舞われた自分の病室に、結構な頻度で見舞いに来てくれたその人は、退院後も何かと気にかけてくれたから。こちらも一人出遅れてしまった不安から頼りまくってしまったし、わかりやすく懐いてもいた。
 ただ、自分だけが突出して頼りまくったり懐きまくっていたわけではない。だって面倒見が良くて生徒との距離も近い教師が、人気がないはずがない。
 そんな相手に、どうやらガチ恋しているらしいと気づいたのはいつだっただろうか。始まりはわからないけれど、この想いを初めて伝えた日のことは覚えている。
 一生徒として扱われるのではなく、もっと特別な存在になりたい欲求を持て余して、突撃掛けて華麗に躱されたのは3年に上がった春だった。高校卒業まで1年を切ってしまった、という事実に焦ったんだと思う。それに実のところ、勝算ありって、信じていた。
 彼を慕う生徒は大勢いるが、積極的に絡みに行く生徒はそこまで多くはなかったし、その中でもかなり構って貰っている方だという自負があったのと、交際相手の性別にこだわりはないらしい情報を得ていたせいだ。
 長いこと彼を慕って周りをうろついていたせいで、本気っぽかった女生徒がいつの間にやら離脱している現象を数件把握してもいた。でも男の自分は変わらずに構って貰えているのだから、交際相手の性別にこだわりはなくても、どちらかといえばゲイよりなのだと思っていたのもある。
 大きな勘違いをしていた。本気っぽかった女生徒たちが離れていったのは、自分よりも先に彼に告白していただけだ。告白した結果、無理を悟って去っただけに過ぎない。
 そうして引いていった彼女たちは聡明だと思う。少なくとも自分のように、嫌われたり軽蔑されたりはしなかったのだから。
 思春期の若者が寄り添ってくれる身近な大人に惹かれてしまうことそのものは、ある程度仕方がないこととして彼も受け入れているようではあったから、告白時に応じる可能性が一切ないことを説明された段階で大人しく引いていれば、慕ってくれた生徒の一人として彼の記憶に残れたかもしれない。
 でも自分には失恋を認めて引くなんてことは出来なくて、最初の告白を丁寧にお断りされて以降もしつこく手を変え品を変えアプローチし続けた。相手が頑なになればなるほどこちらも躍起になって、段々と派手に迫るようになったせいで、夏が終わる頃には同学年どころか下級生の一部にまでも認識されていたようだった。
 一種の娯楽化だ。最終的に先生が落ちるかどうか、というのを興味津々に見守られていた。
 いい加減に諦めろと諭す声もあったが、応援してくれる声も多くて、自分自身、だんだんと卒業式を期限としたゲーム感覚になっていたのかもしれない。
 卒業式を間近に控えたあの日、数人の協力者を得て、先生とともに生徒指導室に閉じ込められた。狭めの空間に二人きりで、最後のチャンスとばかりに自身の服に手をかけた時の、軽蔑と落胆と、憎悪すら感じるあの目を、忘れられない。
 その目を前に怯んでしまった。何も、出来なかった。
 丁寧にお断りされた最初から叶う見込みなんてない想いだった。それをしつこく迫り続けて、嫌われるまでしたのに。卒業して、彼とは会うこともなくなったのに。
 未だに想いが欠片も風化する気配がなくて、カレンダーを前に泣きそうだと思った。
 明日、自分は二十歳になる。酒が飲める年齢になる。
 あれは恋なんてするずっと前の入院中の雑談で、彼が覚えているとはとても思えないけど。覚えてたとしても、そんなの無効って言われそうだけど。
 でも、間違いなく、いつか酒が飲めるようになったら一緒に飲みに行きましょう、という約束をした。
 病院食が口に合わなくてつらいって話から、好物の話になって、日本酒が好きだと教えてもらって、まだ飲めないのにって拗ねて、じゃあいつか飲めるようになったらって……
 スマホを持つ手も、画面に触れる指先も、かすかに震えている。我ながらバカみたいだと思っているし、そもそも連絡がつくのかも怪しいのに、どうやら試さずには居られないらしい。

続きました→

 
 
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大事な話は車の中で

 ちょっとツラ貸せ、などという不穏な誘い文句で連れ出された先にあったのは見慣れぬ車で、助手席側のドアをわざわざ彼の手で開かれた後は「乗って」と促される。
「何この車」
「レンタカー借りた」
 そんなのは見りゃわかるし、当然、聞きたいのはそんなことじゃない。
「なんのために?」
「お前とドライブ行きたくなって」
「やだよ」
 絶対嘘じゃん。と思うと同時に、口からは拒否の言葉が飛び出ていた。
「つれねぇな。お前と、ちょっと大事な話がしたい」
 いいから乗れよと再度促す声は固い。
「俺、お前とは距離置きたいって、言ったと思うんだけど。乗らないし、話し合いに応じる気もないよ」
「あんな一方的な友達やめる宣言、納得できねぇって言ってんだよ」
 まぁそうだろうね、とは思う。思うけれど、話し合ってどうにかなるようなものでもないのに、という気持ちが断然大きいのも事実だ。
「理由、ちゃんと話したじゃん」
 大学で出来た友人の1人である彼とはなんだかめちゃくちゃ気が合って、同じバイト先を選んだり、長期休暇中にレンタカーを借りて一緒に遠出してみたりと、かなりべったりした付き合いをしてきた。
 これはちょっとマズいかも、と思ったのは結構前なのに、それからもズルズルと1年位はそんな関係を続けて、いよいよヤバいと思ってからは、不審に思われない程度にゆっくり距離を開けてきた。つもりだった。
 けれどそれを察した相手は黙って疎遠になってはくれなかったし、離れた分の距離をグイグイ詰めようとしてくるし、それを上手く躱せる何かをこちらは所持していなかった。
 だから先日、これ以上友人関係を続けられない理由をはっきりしっかり告げたのに。恋愛的な意味で好きになったことも、友人として近い距離で過ごすのがもういい加減キツイってことも、全部ぶっちゃけて、もう友人として一緒に過ごすことはしないと宣言したのに。
「友達とドライブ行きたいなら、俺じゃない別の友だち誘いなよ」
「んなこと言ってねぇだろ。お前以外と行ってどうする」
「だぁから、そういうの、ほんと、もう無理なんだって」
 どうしたって期待したくなるけど、彼の中に自分と同じ想いがないことははっきりしている。異性愛者だってことも、今現在狙ってる女の子がいることも、その子の名前と顔と血液型と好物まで知ってる。だって先日まで、めちゃくちゃ気が合う一番の友人、って立場に居たんだから。
「んじゃ俺とデートして。っつったら、大人しくこれに乗るわけ?」
「は?」
「お前が、期待するから乗れないとか言うなら、期待していいから乗れよって言ってる」
「はぁ? はぁあ? 意味分かんないんだけど」
「それを説明するから乗れっつーの。てかお前と大事な話がしたいっつってんだろ。一方的な友達やめる宣言が納得行かない、ってのも、もう言った」
 わかったら乗れとしつこく促す声に、けれど足は動かない。だって混乱は増すばかりだ。
 全く動こうとしない、そんなこちらの様子に焦れたのか、相手が大げさにため息を吐いた。
「だいたい、お前がもし本気で俺と話すのも嫌だって思ってんなら、ツラ貸せにだって付いてこないだろ」
「まぁ、それは……」
 確かにそうだ。一方的な友達やめる宣言が気に食わないのは多分わかってて、だから、ちょっとくらいはその不満を聞くべきかなとは思っていた。ただ、ドライブに誘われるなんてかなり想定外だし、気持ちをさらけ出してしまった今、車という密室に二人きりになるのなんて絶対嫌だ。
「ねぇ、なんで車なの。話がしたいってだけなら別の場所でも良くない?」
「逆に聞くけど、お前、俺のこと自室に入れる気ある? 話あるから部屋来いって言ったら来るわけ?」
「いや、無理」
 即座に否定したら、ほら見ろって顔をされてしまった。
「話の内容考えたら、誰にも話聞かれないような場所がいいだろ。って思ったのと、まぁ、これはお前次第だけど、そのままラブホ直行とかも有りか無しかで言えば有り、って思って」
「は? なんて?」
「だから、」
「あ、いや、繰り返さなくていい」
 最後の方は若干声を落とされていたけれど、聞こえなかったわけではない。聞き返したのは、その内容を理解したくない拒否反応ってだけだ。
 だから再度ラブホと言いかけた相手の言葉を慌てて遮った。
「あー、だから、それくらいの覚悟決めて誘ってっから、とりあえず大人しくここ乗ってくんね?」
 頼むから、と続いた言葉にふさわしい、懇願するような目で見つめられて、ぐらりと気持ちが揺れる。乗れよの命令には逆らえるのに、頼まれてしまうと途端に弱い。だって、好きな相手のお願いだ。
 ああ、でも。できれば、ラブホなんて単語が出る前に、覚悟が決まればよかった。
 顔が熱くて仕方ないし、それは絶対相手にも伝わっている。だってこちらが車に乗る気になったのを察して安堵の表情を見せている。
 悔しいなと思うのに、でももう、足は車に向かって一歩を踏み出してしまった。

頂いたお題は「急なドライブに誘われて動揺する受け」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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