結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話2(終)

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 勝手に家に上がられて、無断で写真を撮られて、こちらの弱みを突かれて、いったいどこに感謝すればいいのか。
「余計なお世話だ。つか合鍵とか聞いてない!」
「余計なお世話されたくなかったら、せめてあの人との電話の時くらい、何事もなくやれてる演技し通しな。お前の強がりなんかバレバレっぽいぞ」
「そんなこと言ったって……」
 大丈夫だって演技なら今だってしてる。
「まぁ長年一緒に暮らしてた親みたいな相手を、高校生のガキンチョが欺くのは難しいよな」
「ガキじゃない」
「とか言っちゃうところが十分ガキなの。寂しいって素直に言えたら、あの人の代わりにはなれないまでも、俺がお前を構ってやってもいいけど?」
「絶対お断りだ。というか合鍵置いて今すぐ出ていけ」
「嫌でーす。お前に拒否権なんかあるわけないだろ。さっきの写真、お姉さんに送られたくないよな?」
 ニヤリと笑って告げられたそれは、明らかに脅迫だった。
「女装して泣き暮らしてるなんて知ったら、あの人きっと、お前が心配で飛んで帰ってくるぞ?」
 追い打ちをかけられて胸の中に絶望が広がっていく。
「どーすればいいの」
「なんだって?」
 ぼそりと吐き出した言葉は相手に届かなかったらしい。
「どうすれば、姉さんに言わないでくれるの」
「寂しいから構ってって、お前が素直に言えたら」
 素性ははっきりしている上に姉から合鍵を渡されているような男でも、自分からすればぽっと出の、はっきり言えば得体の知れないこんな男の言いなりになるのは心底嫌だったけれど、背に腹はかえられない。
「寂しいから、かま……って」
「うん、いいよ。じゃ、取り敢えず一緒に飯でも食おうか」
 嫌々口に出したのなんて丸わかりだろうにそこは一切スルーで、一転機嫌よく頷いた目の前の男は、キッチン借りるぞと言い残してさっさと部屋を出ていってしまった。
 慌てて追いかければ、キッチンテーブルの上には食材が詰まっているらしきスーパーの袋が置かれていて、男はそこを覗き込んで何やらあれこれ取り出している。
「何してんの……?」
「何って、一緒に飯食おうって言ったろ」
「あんたが作るの?」
「お前が作ってくれるならそれでもいいけど。いややっぱ、一緒に作ろうか」
「なんで!?」
「構ってあげるって言ってるの。今はカップ麺やらコンビニ飯やらばっか食ってるみたいだけど、料理は出来るって聞いてるぞ」
「だって自分のためだけに作るご飯、楽しくないし美味しくない」
「だから俺が来たんでしょーが」
 ふわっと柔らかに笑われた気がして、一瞬どきりとした。驚いて何度か瞬いた先に見えたのは、呆れた苦笑顔だったから見間違いだったのかもしれない。
 ほらやるぞと急かされて、渋々並んでキッチンに立ち、言われるまま料理を手伝った。
 作り慣れているのかやたらと手際が良い上に、指示慣れもしているのか、何をすればいいのかわかりやすい。更に、完全自己流で覚えたこちらの手際を褒めながらも、より効率の良いやり方やらも教えてくれたから、思いの外その時間を楽しんでしまった。
 しかもいざ出来上がったものは、ビックリするほど美味しい。
「なにこれ、メチャクチャ美味い」
「そりゃ一応プロだもん」
「は? あんた料理人なの?」
「そうなの。というかお前、本当に俺に興味欠片もないよね。近所ってほど近くはないけど、隣市に義弟が住んでるって聞いてなかった?」
 そう言われて、そういえば聞いていたなと思い出す。でも職業までは聞いてない。
「そういや姉さんが出ていく前、何かあった時には義兄さんの弟が近くにいるからそこ頼れって、住所と電話のメモ貰った気はする」
「で、そのメモは?」
「結婚式の後にグシャグシャに丸めて捨てた」
「なんでっ!?」
「泣き虫のシスコンって笑った男に頼る気なんかなかったから」
 目の前に座る男をギッと睨みつけたけれど、相手はそんな視線にびくともしない。それどころか、おかしそうに笑っている。
「何がオカシイんだよっ」
「その頼りたくなかった男に弱み握られて、今後は構い倒されるのとか可哀想だなって思って?」
 まったく可哀想だなんて思ってないのはバレバレだ。むしろ楽しくて仕方がないくらいのことを思ってそうだ。
「可哀想とか嘘ばっかり」
「そりゃあ幸せにしてあげる予定だからね」
 ギョッとしてどういう意味だと聞けば、寂しくて泣くのは今日で終わりだよと、さっき一瞬だけ見た柔らかな笑顔を向けられ、やはりどきりと心臓が跳ねた。

あなたは『この人の幸せが自分にとって一番大切なのに、どうして喜んであげられないんだろう、どうして涙が出てしまうんだろう、と自己嫌悪に陥る』誰かを幸せにしてあげてください。
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結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話1

 何度も呼び鈴が鳴って意識が浮上したが、出れるわけがないとすぐに居留守を決め込んだ。
 軽い頭痛は泣いたせいで、意識が戻ればやはり今も鼻の奥と、擦り過ぎた目の端がヒリリと痛い。たいして幸せな夢なんて見れないけれど、それでも現実よりは幾分ましだと、逃げるようにまた目を閉じた。
 そのままもう一度眠れるはずだったのに、カチャリと部屋のドアが開いて心臓が飛び跳ねる。
「なんだ、居るんじゃん。てか凄い格好だな」
 慌てて飛び起きれば、部屋の入口には見知らぬ男が立っていて、ポケットから取り出した携帯を何やら操作していた。
 次にはカシャリと音が響いて、写真を撮られたのだと気付いて血の気が失せる。
「呆然としすぎ」
 苦笑した相手が近づいてくるので、恐怖とともに必死で後ずさる。とは言っても狭い部屋の中なので、あっと言う間に壁際に追い詰められた。
「目ぇ真っ赤。また泣いてたの?」
「だ、誰?」
 目線を合わすように腰を落とした相手が手を伸ばしてくるのを咄嗟に払って、なんとか声を絞り出す。相手はびっくりした様子で目を瞠った後、おかしそうに笑いだした。
「俺のこと覚えてないの? お前の義理の兄になった人の弟なんだけど」
 結婚式で会ってるよと言われて、嫌なことを思い出した。この人が義兄の弟だと言うなら、あの日もやっぱり泣かれているのを見られた上にシスコンすぎと笑われた。
「顔、違う」
「それを言うなら顔じゃなくて髪型。あと今日はメガネってだけでしょ。それに見た目だったら、そっちのがよっぽど大きく変わってる」
 姉弟だけあってそうしてるとお姉さんによく似てると言われて、写真を撮られたことを思い出し慌てる。
「写真、消せよ」
「嫌だね。というか女装が趣味なの? それともお姉さん恋しさで、そうやって自分の中の彼女の面影見て寂しさ紛らわせてる?」
 キュッと唇を噛み締め回答を拒否した。簡単に言い当てられたのが悔しかったのもあるし、認めたらどうせまたシスコンと笑われるのがわかりきっている。
「寂しいなら寂しいって言って、結婚なんかしないでって言えば良かったのに。というか、お前が大丈夫だからってあの人の背中押して結婚させたんだろ?」
 確かに姉は何年も付き合い続けていた彼との結婚を渋っていた。原因は自分にある。
 両親の死後、歳の離れた姉がずっと親代わりだった。責任感の強い優しい姉は、自分が高校を卒業するまでは結婚しないと言っていた。けれど彼氏の転勤が決まって、できれば結婚して付いてきて欲しいと言われて悩んでいたから、付いていきなよとその背を押したのは自分だ。
 だって誰よりも幸せになって欲しい人の、足手まといになんてなりたくなかった。
 金銭的には親の残してくれた遺産があるので特に問題はないし、働く姉を助けて家事だってそれなりにこなしてきたのだから、一人暮らしに大きな不安なんてなかった。はずだった。
 毎日を一人で過ごすことが、自分以外誰も居ない家の中が、こんなに寂しいなんて知らなかった。
「なのにそんなグズグズ泣いてんの知ったら、あの人結婚したこと後悔しちゃうよ?」
「お前に言われたくない」
 そんなの言われなくたってわかっている。やっぱり結婚しなければよかったなんて、自分のせいで思わせたくない。姉には笑っていて欲しい。心配なんてかけたくない。
 なのに一人が寂しすぎて、姉が結婚する前の日々に未練たらたらで、家の中に姉の気配が欲しくて女装して過ごすのが止められない。
 そんな自分に自己嫌悪しながら、泣き疲れて寝ていただなんて、姉に知られるわけには行かないのに。
「つうかそもそもなんでアンタがここに居るんだよ。どうやって入った。完全不法侵入だろ」
「あ、やっとそこ? どうやって入ったって、そんなのお前の姉さんから合鍵預かってるからに決まってる。ついでに言うと、そのお姉さんに心配だから様子見てって頼まれたから、わざわざ来てやってんだけど」
 やれやれと言った様子で感謝しろよと告げられたけれど、感謝なんか出来るはずがなかった。

続きました→

あなたは『この人の幸せが自分にとって一番大切なのに、どうして喜んであげられないんだろう、どうして涙が出てしまうんだろう、と自己嫌悪に陥る』誰かを幸せにしてあげてください。
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青天の霹靂

 父親同士が親友だとかで、互いの家は同県とはいえ端と端の遠さなのに、幼い頃は良く二家族揃って出かけたり、長期休暇中は相手の家に泊まったり、逆に泊まりに来たりと割合仲が良かった。けれど成長するにつれ、互いの溝は分かりやすく深く広がっていった。
 理由ははっきりしている。父親たちも学生時代の大半を捧げていたという、とある競技の才能が自分にはないからだ。
 部活のレギュラー程度なら努力だけでもどうにかなるが、その上となると難しい。競技自体は楽しいが、地域の選抜は当たり前でユースの県代表にも選ばれるような活躍をしている相手とは、はっきり言って既に生きている世界が違う。県代表になれば一緒にプレイできるよと、だからお前も選ばれなよと、何の躊躇いもなく口に出来る子供というのは残酷だ。
 多分それが決定打で、自分は彼をやんわりと避けるようになった。元々県の端と端で、中学に上がってからは部活優先だったから、プレイベートで会うのなんて年に一度か二度程度になっていたし、県大会などではお互い部の一員として参加しているのだから、顔を合わせたってそうそう親しく話込むこともしない。なので避けると言ってもあからさまに突き放したわけではなく、前より少しそっけない程度でしかなかったけれど。
 残念ながら、自分たちのように息子同士も競技を通じて親友に、などと思っていただろう父親たちの望みは叶うことなく、力量の差がありすぎて同じ道を進むことも、同じ景色を見ることも出来そうにない。
 そう悟って、大学に進学すると共に、真剣に競技に打ち込むのは止めた。競技そのものは好きだから、練習日が週に三回程度の社会人サークルに参加はしたが、大会などでそこそこの成績を収めている大学公認の部活は練習を見に行くことすらしなかった。
 納得済みの選択で、そこに未練なんてない。社会人サークルでも十分に楽しかったし、それなりに充実した大学生活を送っていた。
 しかしその生活は、翌年の春にひとつ下の彼が同じ大学に入学してきて一変した。
 最初の衝撃は、彼が進学する大学を知った父からの報告電話で、最初は絶対に嘘だと思った。うちの大学に進学する意味がまったくわからなかったからだ。
 確かに大学の部活もそれなりに強い。でも全国大会常連校という程ではないし、彼なら他からも色々スカウトが来ていたはずだ。
 次の衝撃は、ちゃっかり同じアパートの空き部屋に入居を決めて、近所になったから宜しくと挨拶に来たときだ。こちらが避けていたのはある程度感じていただろうに、なんのわだかまりもありませんという顔で笑っているのが若干不気味ではあったが、そこはお互い大人になったということで、こちらもなんとも思ってない風を装い宜しくと笑って返した。確かに知った顔が近所にいたらお互い心強いだろう。
 そして今現在、三つ目の衝撃に耐えている。大学の部活に初参加してきたという彼が、怒りの形相で訪れていた。
 大学で競技を続けていると聞いたから来たのに、なんで部活に入ってないんだというのが彼の怒りの理由らしい。
「続けてはいるよ。社会人サークルだけど」
「社会人サークル? それ本気で言ってんの?」
「本気も何もそれが事実だって」
「だからなんでっ!?」
「何でって、将来のこと考えたら学業疎かにしたくないし、それには体育会系のがっつり部活はキツすぎるよ」
「ねぇ、どこまで俺を裏切れば気が済むの?」
 キッと強い視線で睨まれて、さすがに一瞬たじろぐ。それでも競技の関係しないところでまで負けたくはない。
「裏切るってなんだよ」
 腹の底から吐き出す声は不機嫌丸出しだったが、相手は欠片も怯む様子がないから悔しい。
「いつか一緒にプレイしようねって約束したろ」
「馬鹿か。お前、それいつの話だよ。俺にはお前と違って県代表に選出されるような力ないって、さすがにもうわかってんだろ」
「わかってるよ。だから同じ大学入れば一緒にプレイできるって思って入学したのに、なんで部活入ってないんだよって話をしてんだろ」
「いやだから、大学の部活は俺にはハードすぎるって」
「今からでも入ってよ」
「お前、俺の話、聞いてた? というか一緒にプレイしようねなんて子供の約束、とっくに時効だろ」
「俺まだ諦めてないんだけど」
「しつっこいな。だいたいお前、俺に避けられてたの気づいてただろ。そこまで鈍くはないだろ? それで良くそんな事言いにこれるよな」
 避けてたと明言したら、強気の顔がクシャリと歪んだ。
「こんなに好きにさせておいて、どうしてそんな酷いことばっか言うんだよ」
「はぁああああ?」
 好きなのにーと、でかい図体をして駄々をこねる子供みたいにその場に泣き崩れた相手を明らかに持て余しながら、それでもなんとか会話を続けてみた結果、彼の言うところの好きは間違いなく恋愛感情の好きらしいと判明して、一瞬気が遠のきかける。しかもはっきりと仲の良かった小学生時代からという年期の入りようだ。
 全く、欠片も、知らなかった。気付いていなかった。
 あまりの展開に思わず天井を見上げながら、青天の霹靂ってこういうのを言うんだろうなと思った。

有坂レイへの3つの恋のお題:青天の霹靂/こんなに好きにさせておいて/いつまでも交わらない、ねじれの関係のように shindanmaker.com/125562

 
 
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叶う恋なんて一つもない

 叶う恋なんて一つもないと言って、泣きそうな顔で笑う幼馴染が、今現在想いを寄せているのは、我がクラスの担任教師で来春には結婚が決まっている。彼が泣きそうになっているのは、今朝教師の口から直接、その結婚の事実が語られたせいだ。
 叶う恋がないのではなく、恋を叶える気がないんだろう?
 なんてことを内心思ってしまうのは、毎度毎度好きになる相手が悪すぎるせいだ。そもそも恋愛対象が同性というだけで、恋人を見つけるハードルが高いというのに、女性の恋人持ちばかり好きになる。酷い時は妻子持ちの男に恋い焦がれて、苦しいと泣いていたことさえあるのだ。
 幼稚園からの付き合いで親同士の仲も良く、そこからさき小中高等学校ずっと同じだったせいで、あまり無碍にも出来ずに愚痴に付き合い続けてきたが、正直バカじゃないかと思っている。
 妻子持ちなんか問題外だし、女性の恋人が発覚した時点で恋愛対象から外せよと思うのに、どうしよう好きになったみたいと言い出すのは恋人発覚後が大半だ。要するに、最初からその恋は叶える気なんかなく始めているのだと、そろそろ自覚すればいいのに。
 なんか男が好きみたい。同性愛者とかホモとかゲイとかそういうやつかも。なんて言って、やっぱり泣きそうな顔で相談してきたのは中学に上がった頃で、お前にしかこんな話できないからなんて言葉に絆されていたのがいけない。いい加減、あまりに不毛な恋の話に飽き飽きしていた。
「だったらいい加減、叶う可能性がある恋をしろよ」
「えっ?」
 いつもなら一通り好きに喋らせて、そういう相手ってわかってて好きになったんだからそれで辛い思いをするのは仕方ないだろ、程度の慰めにもならないような言葉しか吐かないからか、相手は泣きそうになっていた目を驚きで見開いた。
「正直、お前の叶わない恋話にはうんざりしてる」
「え、でも、俺、話聞いてもらえるのお前くらいしか……」
「知ってる。だからずっと、お前がそれでいいなら仕方ないと思って話聞いてきたし、たとえ叶わない恋でも好きって気持ちがあると毎日が楽しいって言ってたから、苦しいって泣くのも含めて恋を楽しんでるのかと思ってヤメロとも言わずに居たけどさ。けど、そんな恋ばかり選んできたくせに、叶う恋がないって泣くくらいならもうヤメロよ。そんな恋をするのはやめて、叶う可能性がある恋をすればいい」
「だって好きって気持ちは、心のなかに自然と湧いてくるものだよ? 叶う可能性がある恋なんて選べないし、そもそも可能性があるかどうかなんてわからないんだけど」
「でもお前は、叶う可能性がない恋ばかり選んできただろ。なんで恋人持ちばっかり好きになるんだよ。恋人がいればお前には振り向かないってわかってるから、だから安心して恋が出来るってだけじゃないのか?」
 その指摘はまったくの想定外だったようで、やはりビックリしたように目を瞠った後、そんなこと考えたこともなかったと言った。
「じゃあまずは自覚するトコから頑張れば? でもって、彼女やら嫁やらが居ない相手を意識的に好きになってみろよ。それだって同性相手は無理って言われる可能性高いけど、でも恋人持ちや妻帯者よりは多少、恋が叶う可能性もあるだろ?」
「自覚、か……」
 呟くように告げて、相手は黙りこんでしまう。まぁ欠片も考えたことがなかったようだから、しばらく放っておけばいいかと、手近にあった雑誌を手に取りペラリと捲った。
「ね、あのさ」
 やがておずおずと声を掛けられて、目を落としていた紙面から顔をあげる。
「何?」
「それってさ、相手、お前でも良いの?」
「は?」
「そういや話聞いてもらうばっかりで、お前の恋話とか聞いたことないよね。お前、男もというか俺も、恋愛対象になる?」
「待て待て待て。そりゃ確かに、恋人居ないやつを意識的に好きになってみろとは言ったけど、そこでなんで俺を選ぶんだよ」
 まさか自分に火の粉が掛かって来るとは思っておらず、さすがに慌ててしまった。
「それはまぁ、お前なら好きになれそうかもって思ったから?」
「付き合い長いし、そりゃお互い嫌っちゃいないだろうけど、だからって安易にもほどがあるだろ」
「だってお前が言った通り、俺、多分、叶わない恋じゃないと安心して相手を好きになれないんだよ。でもお前なら、叶わないって確定してなくても、好きになれそうな気がする」
「お前自分が言ってることの意味、マジでわかってんの? その恋叶ったら、俺と恋人になるって意味だぞ?」
「わかってるよ。というか、叶わないからヤメロ、とは言わないんだね」
 可能性ありそうといたずらっぽく笑うから、もしかして揶揄われているんだろうか?
「叶わないって断言したら、お前、逆に安心しきって俺相手に辛い恋始めそうだろ。言えるわけ無い」
 自分相手に辛い恋を患って泣かれでもしたら、どう対応していいかわからないし、それこそうっかり応じてしまいかねない。でも彼と恋人になりたい気持ちがあるわけでもなかった。
 正直、今の今まで、まったくの他人事でしかなかった。
「というか、お前、俺からかってる?」
 いっそ揶揄っててくれた方がましだったが、すぐに揶揄ってないと否定されてしまう。
「からかってないよ。意識的に、お前を好きになってみよう、とは思い始めてるけど」
「気が早い。というか先生の結婚話に泣いてたくせに、切り替え早いな」
「うん。お前の話に驚いて、ちょっとどっか行った。辛いの吹っ飛んだから、感謝してるし、それもあってお前好きになってみたい気にもなってる」
「マジかよ」
「割と、本気」
「嫌っちゃいないが、お前を恋愛対象と思って見た事は一度もないぞ?」
「いいよ。だからさ、」
 好きになってみてもいいよね? と続いた言葉に、嫌だダメだとは言えなかった。

「書き出し同一でSSを書こう企画」第1回「叶う恋なんて一つもない」に参加。
https://twitter.com/yuu0127_touken/status/739075185576267776

 
 
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憧れを拗らせた後輩にキスを迫られたので2(終)

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 気持ち悪いですよねと続いた言葉に、そんな事ないとは返せなかった。目の前の相手に恋愛感情を抱かれていることが、気持ちが悪かったわけではない。むしろそう言われて、確実に心臓は喜びで跳ねたのだ。
 けれどそれを認めてしまうのは怖かった。相手は全くと言っていいほど知らない後輩で、しかも男なのに、この教室から投げかけられた視線だけで、あっさり告白が嬉しいレベルで意識しているなんて。
 なんと返せば良いのかわからないまま黙り込んでしまえば、相手はこちらの視線から逃れるように、立ったままのこちらを見上げるように上向けていた顔を少し下げた。
「すみません。もう、貴方を追いかけるのは止めます。だから、あの、気持ち悪いのは承知で、お願いします。最後に一度だけ、キス、して貰えませんか?」
 唐突な内容のお願いに、またしても反応ができない。頭が下がって俯いて、フッと小さな溜息を吐かれて、なぜか酷く動揺した。
「おかしな事言って、本当に、すみません。今の言葉も、俺のことも、どうか忘れて下さい」
 机の脇に掛かっていた鞄を手に立ち上がった相手は、やはり俯いたまま、帰るので失礼しますと言って歩き出す。脇を通り抜けようとする。
 とっさに腕を掴んで引き寄せて、その勢いのまま相手の顎を捉えて唇を重ねた。
 もちろん触れたのは一瞬で、すぐに顔を離したけれど、今度は相手が驚きの顔のまま硬直している。心臓が痛いほどに跳ねていて、その顔を見ていられない。なのに、触れた唇が熱くて、もう一度触れたい欲求が湧いていた。
 その欲求に抗えず、もう一度その唇を奪ってから、相手の体を抱きしめる。抱きしめてしまえば、相手の顔を見ずに済むから。などというのはやはり言い訳で、それも結局は自分自身の、相手に触れたい欲求なんだろう。
 しかし、咄嗟に動いてしまったものの、この後どうすれば良いのかわからない。抱き合うまま互いに動けず、口を開くことも出来ず、ただ闇雲に時間だけが過ぎていく。
「あの……」
 やがて、腕の中から小さな声が聞こえてきた。
「ご、ゴメン」
「あ、いえ……」
 思わず謝ってしまったが、結局また沈黙が降りてしまう。もちろん抱きしめる腕はそのままで、体もくっついたままだった。
「期待、しますよ?」
 どうしようどうしようとグルグル巡る思考の中、再度腕の中から小さな声が聞こえてくる。
「俺に期待されても、いいんですか?」
 それは多分、腕を離して開放しろという意味なんだろう。けれどここで離してしまったら、彼に諦められてしまう。追いかけるのを止められてしまう。
 なんで視線一つでここまで相手を意識して受け入れてしまうのかなんてわからないけれど、元々考えるということが苦手な筋肉脳なので、答えの出ない問題に悩むくらいなら、自分の感覚を信じて突き進んでしまえと思った。
「う、うん。……いい、よ」
 覚悟を決めて頷けば、彼の腕がそっと背中に回されるのがわかった。

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:教室、表情:「無表情(or驚いた顔)」、ポイント:「抱き締める」、「相手にキスを迫られている姿」です。 shindanmaker.com/19329

 
 
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憧れを拗らせた後輩にキスを迫られたので1

 放課後のグラウンドから見上げるとある教室。ここ最近、同じ顔が毎日のようにグラウンドを見下ろしていた。教室の位置から考えて、相手は下級生らしい。
 誰を見ているんだろう。
 結構な頻度で目が合う気がするから、もしかして自分を見ているんだろうか?
 さすがに自意識過剰かとも思ったがどうにも気になる。しかも、こちらがあまりに気にするせいで、部活仲間にもあっさりバレてしまった。
 毎日のようにうちの部を見ている奴がいて気になると言ってごまかしたせいか、ちょっとお前勧誘してこいなどという話になり、翌日は部活に直行せずその教室を訪ねてみた。
 教室の扉をガラッと開けたら、中は既に彼一人で、振り向いた相手が驚きに目を瞠る。
「あれ?」
 声を上げたのは自分だ。グラウンドからの距離では気付かなかったが、知っている顔な気がした。しかしどこで会っていたのかは思い出せない。
「あー……あのさ、ちょっと、いいか」
 黙って見つめ合う空間に耐えられなくなったのも自分が先で、取り敢えず勧誘だけはしておくかと声をかけた。
 頷くのを待って、彼が座る窓際の席まで近づいていく。
「あのさ、うちの部、気になるならこんなとこからじゃなくて、もっと近くで見ないか? それでもし興味湧いたら、ちょっと時期外れたけど、今から入部でも俺たち歓迎するしさ」
 相手は少し困ったように軽く俯いて考えこんでしまう。
「あーいや、無理に、とは言わないけど」
「スミマセン……」
「や、謝らなくていいって」
 顔を上げた相手は申し訳無さそうに苦笑していた。
「あの俺、足、ダメなんですよね。怪我で、走れなくて……」
「あー…ああー、ゴメン。そっか、うん、本当ゴメン」
「謝らないで下さい。未練だってのはわかってて、でも、つい、見るの、止めれなくて」
 気にさせてすみませんとまた謝られて、いやいやいやこっちこそ意識しすぎてゴメンと、謝罪合戦を繰り広げたのち、おかしくなって二人一緒に笑ってしまった。
「あのさ、も一個気になる事あるんだけど、ついでに聞いていいかな」
 笑いの衝動が収まってからそう切り出せば、どうぞと落ち着いた声が返される。
「俺たち、どっかで、会ってない?」
「ああ、会ってますよ」
 あっさり肯定が返って驚いた。
「え、どこで?」
「小学生の頃、試合で。その頃は俺の足もまだ大丈夫だったから」
「あ、経験者?」
「だから未練なんですって」
 やっぱり相手は苦笑顔だ。
「あー……」
「それにしても、良く、気づきましたね」
「なんとなく? でもお前は気付いてて、俺を、見てた?」
「はい」
 またしてもあっさり肯定が返ってきたが、今度は驚くというよりもどこか安堵に近い気持ちが湧いた。
「あ、やっぱ俺を見てたんだ。しょっちゅう視線合う気がしたし、熱い視線にもしかして惚れられてる? とまで思ってさ、自意識過剰過ぎだろ俺、とか思ってたわ」
 笑って流しておしまいにするつもりが、思いの外真剣な相手の目とぶち当たってしまって、笑いかけて開いた口を思わず閉じてしまう。
「それ、自意識過剰でも何でもなく、事実ですよ、って言ったら、どうします?」
「えっ?」
「ちょっと憧れの人でもあったんで、俺が覚えてるのは当然なんですよね。というか、この学校受験したのも、半分以上はもう一度貴方に会いたかったからですし」
 憧れ拗らせてなんか恋愛感情っぽくなっちゃって、俺も困ってるんですよと苦笑する顔は、なぜかもう見慣れたものになってしまった。

続きました→

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:教室、表情:「無表情(or驚いた顔)」、ポイント:「抱き締める」、「相手にキスを迫られている姿」です。 shindanmaker.com/19329

 
 
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