寝ている友人を襲ってしまった

 尿意で目覚めてしまった早朝、さっさとトイレを済ませて二度寝しようと思ったはずが、トイレから戻る時に目にしてしまったソレが気になって、ベッドに入っても再度眠気がやってくることはない。
 早朝とは言え、起きた時に部屋は既に薄明るかった。ベッドの横に敷いた布団には、昨夜泊めた友人が気持ちよさそうに寝息を立てていたのだが、夜中に暑かったのか掛布は脇に押しやられた上、シャツがめくれて腹が見えていた。
 余計なお世話かもと思いながらも、家に泊めたせいで風邪でも引かれたら申し訳ないので、取り敢えずでシャツを引き下ろし腹を隠してやったが、今にして思えば余計な親切心など出さずにいれば良かった。
 その時、意図せずして友人の股間に手の甲が軽く掠ってしまったのだ。
 んっ、と漏れた吐息にドキリと心臓が跳ねたのは一瞬で、友人は起きる気配もなく健やかに眠り続けていたから、鼓動が早くなっていくのを感じながら、探るように見つめていた友人の顔から視線をそっとずらしていった。
 ほんの一瞬、それも手の甲に触れただけでも、友人の股間が硬く膨張しているのはわかっていた。いわゆるアサダチというやつだ。
 視線を移動した先、ラフでゆったりめの部屋着なのに、股間部分だけはっきりと盛り上がっていた。
 大っきそう。
 そう思ったらますます鼓動が早くなって、体の熱が上がった気がする。
 そこそこ長い付き合いなので、合宿やら旅行やらで一緒に風呂に入ったことはある。さすがにそうジロジロと見たりはしなかったが、通常時でも自分に比べたら断然立派だったのだから、大っきそうではなく事実大きいんだろう。
 見てみたいという衝動をどうにか堪えてベッドに潜り込んだが、そんなわけで、二度寝どころじゃなくなってしまった。
 ソワソワするような、モヤモヤが腰に溜まるような、とある場所がなんとなく切なくキュンとなってしまう、その理由ははっきりわかっている。
 好奇心から尻穴を弄る遊びを始めたのはもう随分と前で、最近では気分と体調によっては尻穴を玩具で擦って絶頂を決めれる程度に自己開発済みだ。
 別にホモってわけじゃないから男と付き合ったことはないし、付き合いたい気もサラサラないけれど、無機物じゃない本物のペニスで尻穴をズコズコされる想像を、したことがないとは言えない。というよりも最近はかなり興味がそちらへ傾いている。
 布団の中、もぞもぞと動いてズボンと下着を脱ぎ去った。どうにも我慢ができない。
 ベッド脇の棚の引き出しをそっと開けて、ローションボトルを取り出した。極力アチコチ汚さないようにと考えた結果、蓋を開けたそれを直接アナルへ押し当て、アナルを意識的に拡げながら中身を押し出していく。
(あっ、あっ、入って、く……)
 声は噛んだが、ローションを強制的に流し込む初めての感覚にゾワゾワと肌が粟立った。
 邪魔でしかない掛布を外せないまま弄るのも、感じても声を出してしまわないよう飲み込むのも、もちろん初めての経験だ。
 ベッドと布団とで多少の段差はあるものの、もし途中で友人が起きてしまったら、異変に気づかれずにすむはずがない。なのに、不自由さも友人に気づかれるかもしれない危険も、快感を倍増させていくばかりだ。
「……っは、ぁ、……ぁんっ、んんっ」
 少しずつ吐き出す息が荒くなり、堪えきれずに時折音を乗せてしまっても、未だ友人が動き出す気配がない。
 さきほど見た股間の膨らみを思い浮かべ、友人の朝勃ちペニスを引きずり出してハメたらどれほど気持ちがいいんだろう、なんてことを考えながら弄り続けたせいか、あまりに起きない友人に少しずつ大胆になる。
 まるで、友人に気づかせたいみたいだと思った所で、小さな笑いが零れ落ちた。
 気づかれたらもう友人では居られないだろう。それを残念に思う気持ちはあるが、このままだといつかまったく知らない男とアナルセックスを経験する日が来るだろうことを思えば、初めてはこいつが良いなと思ってしまっているらしい。
 そっとベッドを降りて、覚悟を決めて眠る友人のズボンと下着とを引きずり下ろした。
 少し身じろがれたが、大きな反応はなく、友人の目は閉じたままだ。
(ああ、これは……)
 もしかしなくても起きてるんじゃと思ったが、起きていて止めないのなら、それはもう合意ってことで良いんじゃないだろうか?
 勝手すぎかなと思いながらも、少しだけ勇気だか希望だかを貰ってしまったのも事実だった。
 そのまま友人を跨いで腰を落としていけば、堪えきれずに漏れる声が二種類。
「あ、ぁあっ、ぃいっっ」
「くぅっ、ぁ……」
 もちろん一つは自分ので、もう一つは友人のものだ。
「ね、全部入った、けど」
 尻が完全に相手の腰の上に乗った所で一息ついて、今更だけどようやく声を掛ければ、見下ろす先で友人の目が気まずそうに開いていく。
「おはよ」
「はよ……って、おいコラ。これ、のんきに挨拶交わせるような状況じゃなくね?」
「いつ起きたか知らないけど、起きてて止めなかったんだから同罪でしょ」
「それは、まぁ……つか、お前、これ、いつから? 普通に女好きだったよな?」
 そこそこ付き合いが長いので、実は互いの彼女を交えてのダブルデート、なんてことをした過去もある。
「あー……それは後で説明するから、取り敢えず、俺が動くかお前が動いてくれるか、どっちか選んで欲しいんだけど」
 このまま話してて萎えられたら残念すぎるという、それこそ残念すぎな思考で続きを急かした。
「え、てっきりこのまま逆レイプ的にお前が腰振るのかと思ってたけど、俺が動くのもありなの?」
「あり。ていうか、してくれるなら、されたい」
 本物チンコは初めてだから、と言ったら驚いた様子で目を瞠った後、上体を起こしてきた相手に体勢を入れ替えるように押し倒された。
「色々聞きたいことありまくりだけど、取り敢えず、いいんだな?」
「うん。あ、でも、出来れば俺も一緒に気持ちよくなれるようにやって、欲しいかも?」
 言えば、何を言っているんだとでも言いたげな顔で当たり前だろと返ってきたから、寝ている友人を襲ってしまってホント良かったと思った。

お題箱から <尻穴をいじるのはまっていたら寝てる友人のあさだちに我慢できずについついそれを拝借してしまう話>

 
 
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120分勝負 うっかり・君のそこが好き・紅

 部活終了後、部室で着替えていたら一足先に帰り支度を終えた後輩がススッと寄ってきて、先輩これどうぞと小さな横長の箱を差し出された。意味がわからず着替えの手を止めて相手を見つめてしまえば、先輩にあげますと言いながらそれを胸元に押し付けてくる。
「お、おう……じゃ、サンキューな」
 何がなんだかわからないまま受け取り、取り敢えずで礼を言った。しかし受け取っても後輩は隣を動かない。つまり、この場で中を確認しろということか。
 仕方なく手の中の箱を開けて中身を取り出す。出てきたのは多分口紅だった。なんでこんなものをと思いながら首を傾げてしまったのは仕方がないと思う。
「先輩にはそっちの色のが絶対似合うと思うんですよね」
 そんな自分に気付いたようで、隣から説明するかのような言葉が掛かったが、それを聞いて一気に血の気が失せた。
「はい、お前居残り決定な」
 周りに聞こえるように声を張り上げ、戸惑う後輩を横に残して着替えを再開する。後輩がなんでとかどうしてとか尋ねてくる声は無視をした。だって相手をする余裕なんてまるでない。内心はひどく動揺し焦っていた。
 どうしようどうしようどうしよう。一体どこまで知られているんだろう。
 昨年の文化祭後、先輩たちが引退して演劇部の部長を引き継ぎ、部室の鍵閉めをするようになってから、誘惑に負けるまでは早かった。なんだかんだと理由をつけて他の部員たちを先に帰した後、中から鍵を掛けた密室で、部の備品を借りてひっそりと女装を繰り返している。
 成長期を終えたそこそこガタイのある男に、ピラピラのドレスも、長い髪も、ピンクの頬も紅い唇も、何一つ似合わないのはわかっている。姿見に映る自分の姿の情けなさに、泣いたことだってある。それでも止められないのは、変身願望が強いからなんだろう。
 長い髪のかつらを被って、丈の長いスカートを履いて、胸に詰め物をして化粧を施せば、そこにいるのは醜いながらも全く別の誰かだったからだ。
 演劇部へ入ったのだって、役を貰って舞台に立つことが出来れば、その時だけでも別の誰かになれるかもと思ったからだ。昔から、自分のことが好きになれず、自分に自信が持てずにいる。
 部長になったのだって、部を引っ張って行きたい意志だとか、仲間の信頼が厚いとかそんなものはあまり関係がなくて、単に面倒事を嫌な顔をせず引き受ける利便さから指名されたに過ぎないとわかっていた。そんな頼りない部長のくせに、部室の鍵を悪用し、部の備品で好き勝手した罰が当たったのかもしれない。
 先日うっかり鍵を締め忘れたままで居残った日がある。もし後輩に知られているとしたら、きっとその時に見られたのだろう。
 反応しないこちらに諦めたようで、後輩は近くの椅子に腰掛け、部員たちが帰っていくのを見送っている。自分も着替え終えた後は近くの椅子に腰を下ろしたが、もちろん内容が内容なので会話を始めるわけに行かず、取り敢えずで携帯を弄って時間を潰した。
「で、なんで俺が居残りなんですかね?」
 やがて部屋に残ったのが二人だけになった所で、待ってましたと後輩が話しかけてくる。それを制して一応廊下へ顔を出し、近くに部員が残っていないことを確認してからドアの鍵を掛けた。一応の用心だ。
「それで、お前、あんなのよこしてどういうつもり? てかどこまで知ってる?」
 声が外に漏れないように、さっきまで座っていた椅子を後輩の真ん前に移動させて、そこに腰掛け小声で尋ねる。なるべく小声でと思ったら、しっかり声が届くようにと知らず前屈みになっていたようで、同じように前屈みになった後輩の顔が近づいてくるのに、思わず焦って仰け反った。
「ちょっ、なんなんすか」
「ご、ごめん。てか近すぎて」
「まぁいいですけど。で、どういうつもりも何も、さっき言ったまんまですよ。先輩には、あの色のが似合うと思ったから渡しただけです」
「だから何で男の俺に口紅なんかって話だろ。ていうか、つまりはあれを見た、ってことだよな?」
「先輩が居残って女装練習してるのって、やっぱ知られたらマズイんですか?」
 練習という単語に、そうか練習と思われていたのかとほんの少し安堵する。じゃあもう練習だったと押し通せばいいだろうか?
「知られたくないに決まってんだろ。あんな似合わないの」
「まぁ確かに、似合ってるとは言い難い格好では有りましたけど、やりようによってはもうちょいそれっぽくイケると思うんですよね。だから尚更、一人で練習しないで人の意見も取り入れるべきじゃないですかね?」
 知られたくないなら他の部員たちには内緒にするから、ぜひ協力させてくださいよと続いた言葉に目を瞠った。
「な、なんで……?」
「なんで、ですかね? 先輩の女装姿に惹かれたから、とか?」
「何言ってんだ。似合ってなかったの、お前だって認めたろ」
「だからその、似合ってなかった所が、ですよ。これ俺が弄ったらもっと絶対可愛くなるって思ったというか、なんかこう、とにかく先輩のあの格好が目に焼き付いて、気になってたまらないというか」
「なんだその、一目惚れしました、みたいなセリフ」
「あー、まぁ、それに近い気もします」
 何言ってんだという苦笑に肯定で返されて、なんだか体の熱が上がっていく気がする。
「せっかく二人だけの居残りですし、今から、ちょっとあの口紅、試してみません?」
 衣装とかつらも俺が選んでいいですかと、すっかりその気な後輩に押し切られるようにして、その日から時々二人だけの居残り練習が始まってしまった。

「一次創作版深夜の真剣一本勝負」(@sousakubl_ippon)120分一本勝負第71回参加

 
 
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好きだって気づけよ2(終)

1話戻る→

 意気消沈した彼女の隣を歩きながら、弟の考えていることが本当にわからないと思う。まさか彼女本人にクズ女だのブスだの言って泣かせるなんて思わなかった。
 元々若干のツンデレ傾向にあるとは思っていたし、もっと幼かった頃は好きな子にちょっかい掛けすぎて嫌われるなんて事もあったけれど、暴言吐いて泣かせるような真似をしたら関係は悪化しかしないと理解できる程度には成長したと思っていたのに。
 それとも弟も彼女を好きだという考え事態が間違いなのか?
 でもだとしたら、わざわざ自分に隠れて彼女と会う意味がますますわからない。
 結局彼女の隣を歩いていても、考えるのは弟の事ばかりだった。
 それでもなんとか彼女に弟の非礼を詫び、家の前まで送り届けた後は真っ直ぐ自宅へ帰る。部屋に戻れば、まだ不貞腐れたままではあったが弟はちゃんと在室していた。
 弟は二段ベッドの上段を使用しているのに、下段であるこちらのスペースで仰向けに寝転がりながら膝を立てて足を組んでいる。ドアの開閉に気付いてチラリと投げられた視線は依然としてキツかった。
 その視線を受けながら部屋の中を移動し、並んだ勉強机の自分の方の椅子に腰掛けて、自分も二段ベッドの下段を睨み返す。
「何その態度。言い訳があるなら聞くけど、一応、怒ってるのは俺の方だからな」
 言えば大きなため息とともに体を起こし、ベッドの端に腰掛ける。
「別に。言い訳なんかないけど」
「お前さ、彼女が好きなの?」
「はぁあああああ?」
 聞けば随分と大きな呆れ声で返された。ああやっぱりと思う反面、じゃあなんでと思う気持ちが益々大きくなる。
「どこをどう見たら、俺がアレを好きって話になんの? 頭大丈夫?」
「だって俺に隠れてこっそり会ってる意味がわからない。俺の彼女だから、俺のふりすれば彼女と一緒に遊べるとか考えてたのかと思って」
 弟は険しい顔になって、ふーんと鼻を鳴らした。なんだかバカにされているようで腹立たしい。
「じゃあ仮に、俺が兄貴の彼女を好きでこそこそしてたとして、それ知ったアンタはどうすんの? 俺が本気なら仕方ないとか言って、身を引いてくれるわけ?」
 優しいお兄ちゃんは俺のために彼女と別れてくれそうだよねと、今度は完全にバカにした口調で告げてくる。ホントなんなの。腹が立つ。
「お前が本気だってならそれも考えるけど、でも違うんだろ。それとも前言撤回して、彼女が好きだから彼女と分かれて下さいって、俺に本気でお願いする?」
 正直に言ってご覧よとこちらも煽るように告げれば、弟は興ざめしたと言わんばかりにハッと鼻で笑った。
「ばっかじゃないの」
「お前に言われたくないよ」
「だいたいアンタだって本気でアレが好きってわけじゃないだろ」
「アレって言うのヤメロ。後、好きだから付き合ってるに決まってる」
「どこがだ。俺に譲れる程度にしか好きじゃないって、今自分で言ったくせに」
 さっさと別れちまえよと続いた言葉に、やっぱ好きなのと聞いてしまったのはさすがに失敗だったらしい。一度がっくりと肩を落とした弟は、ベッドから立ち上がると無言でこちらに向かって歩いてくる。怒っているよりは呆れているような気はするけれど、感情がわかりにくい冷ややかな表情で圧迫感が凄い。
「ちょっと、何……」
 目の前に立たれて必然的に見上げる形になり、背筋に冷たいものが流れる気がする。きつい視線で睨まれたって怖くなんかないけれど、この冷ややかな無表情はさすがに少し怖いと思った。
「俺が好きなのはアンタだよ」
「は?」
「兄貴だって俺を好きだろ?」
「いやそりゃ弟だし、互いが一番の理解者だと思ってるし、好きか嫌いかで言えば好きに決まってるけど」
「そういう話じゃないのわかってるくせに。アンタは付き合ってる彼女を俺に譲れちゃうくらい、俺が好きなんだよ」
「いやいやいや。何言ってんの」
「何言ってんのはこっちのセリフ。男同士だし、兄弟だし、双子だし、認めたくないのかもしれないけど、いい加減俺を好きだって気づけよ、ばーか」
 アレにわざわざ接触したのなんか、二人の仲を円満に裂くために決まってんだろと言った弟は、でももうバレたからどうでもいいやとなんだか随分と投げやりだ。
「どういう、意味……?」
「この展開はかなり予定外だったけど、本気でアンタ落としにかかるから。って意味?」
「何言ってんの。俺たち兄弟なんだけど」
「だからそれ今更だって」
 ニヤッと笑った顔が近づいて、えっ、と思う間に柔らかな唇が自分の口に押し当てられていた。

有坂レイへのお題は『貴方と私でひとつ・「好きだって気付けよ、ばーか」・やわらかい唇』です。https://shindanmaker.com/276636

 
 
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好きだって気付けよ1

 生まれた時からどころか、母のお腹の中に居た時から、自分たちはずっと一緒だった。もっと言うなら一卵性の双子だから、ずっと一緒どころか元は一つだ。
 時には親でさえ間違うほどそっくりな自分たちは、ずっと互いが一番の理解者で、なんでもわかり合えていた。
 なのに最近、弟が何を考えているのかわからない。なんて思ってしまうことが増えている。
 せっかく出来た初めての彼女を、さんざんブスだなんだと貶しまくったくせに、何故かその彼女と出掛けているフシがある。しかも、自分になりすまして。
 彼女と話していて、時々違和感を感じることがあったのだが、それは自分が彼女との会話を忘れているのか、彼女が別の誰かと混同しているのかと思っていた。でも違う。きっと自分になりすました弟が、彼女と会っていたのだろう。
 確証はない。実際に弟が彼女と出掛けたり親しく話している姿を見たわけじゃない。でもそうとしか思えなかった。
 元は一つの自分たちは、なんだかんだ好みだって似ている。結局のところ弟だって、彼女のことを好きなのかもしれない。そう思うと、胸の何処かが少し苦しい。
 初めて出来た彼女だから大事にしたいとは思うけれど、自分の代わりでいいから少しでも彼女と話したいデートしたいと思うほど弟が思い詰めているなら、きっと自分は身を引くだろう。そんな自分の性格を、弟がわからないはずがない。だからこそ、隠れてコソコソと会われているのが辛いし、出来れば気の所為にしたかったのに。
 弟の態度にあからさまな変化はなく、そんな弟を疑うことに罪悪感を感じたりもしたが、もんもんとする日々に耐えられたのはひと月が限度だった。本当に弟が自分になりすまして彼女と会っているのか、確かめずには居られないほど、こちらの気持ちが追い詰められてしまった。
 やったことは簡単だ。休日に彼女と出かける予定を立てて、当日の朝、具合が悪いと言って彼女に断りの連絡を入れただけ。そしてそれを、せっかくデートだったのに残念だと弟に漏らしただけ。
 弟はデート云々をまるっとスルーしつつ、早く治せよとこちらの体調をかなり心配げに気遣ってくれたが、暫くすると買い物に行ってくると言って家を出ていった。もちろんこっそり後を追いかけたのは言うまでもない。
 はるか前方を歩く弟がどこかに電話をかける姿を見ながら、それでもまだ、相手が彼女ではないことを祈っていたのに。
「会ってて欲しくなかったな」
 彼女と合流するのを見届けた後、そう言って声をかけたら、彼女はえらく驚いた顔をして、弟は不貞腐れたような顔になった。
 聞けば彼女は本当に何も気付いていなかった。彼女とのやり取りはほぼラインを使っているのをいいことに、彼女の携帯に登録した電話番号はいつの間にか弟のものに変えられていて、弟は電話で彼女とやりとりしていたらしい。
 彼女が酷いと怒るのは当然だ。なのに弟は、彼氏とその弟の区別もつかないようなクズ女だと嘲り、こんなブスとはさっさと別れりゃいいとまで言って彼女を泣かせたので、思わずその頬を叩いてしまった。
 ギラリと睨まれたけれど、こちらが悪いなんて欠片も思っていなかったので、呆れたと言わんばかりにため息を吐いてみせる。
「最近お前、ちょっとオカシイぞ。帰って少し頭冷やせ」
「アンタは? 体調悪いくせに、一緒に帰らないつもり?」
「泣いてる彼女放っておけるわけないだろ。後ごめん、体調不良っての、嘘だから」
「ああ、つまり、最初っから全部罠かよ。クソがっ」
「凄むなって。彼女が怖がるだろ。彼女送ってから俺も帰るから、そしたら一回しっかり話、しよう」
 それだけ言って、まだグスグスと泣いている彼女を促し、取り敢えずは急ぎその場を離れることにする。まっすぐ帰ったかは怪しいけれど、少なくとも弟が自分たちを追ってくることはなかった。

続きました→

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こんな関係はもう終わりにしないか?

「こんな関係はもう終わりにしないか?」
 深刻な顔をした相手に告げられた言葉を、寝起きの頭はなかなか理解できない。したくない。それでも終わりという単語に反応し、ただただ胸がきゅううっと苦しくなって、なんでと吐き出す声は細く掠れていた。
 始まりは本当に酷かったものの、昨夜まではそれなりに、互いに都合よく気持ちのいいセックスが出来ていたはずなのに……
 
 自分たちは親友と呼べるほど親しくはなく、言うなれば高校時代に部活が一緒だった程度の友人で、それでも関係が切れずに居たのは進学した大学が学部違いとは言え同じだったことと、就職先が割合近かったと言うだけだ。
 たまに会って酒を飲み、互いの会社の愚痴を吐くような関係を二年くらい続けて居たその当時、相手は学生時代から続いていた彼女と別れて一年以上が経過していて、新しい恋人が出来ずに風俗へ行くかを迷っていた。そして自分の方は、ネットで見かけたアナルオナニーに好奇心から手を出し、すっかり嵌まり込んでいた。
 その日もそこまで酔っては居なかったが互いに酒は飲んでいて、やっぱり風俗に行ってみたいが病気が怖いだとかグズグズ言って躊躇う相手に、俺でいいなら相手するけどと言ってしまった。
 失くしたくないほどの親友だったなら、逆に誘えなかっただろうと思う。誘うことで関係が切れたって、さして痛くもない相手だったのは大きい。
 こちらも長らく恋人が居ないことは知られていたし、オナニーライフ最高という話はチラと出しても居たので、そのオナニーの中にアナルを使ったアナニーも含まれていると教えてやれば、相手は当然ながらかなり驚いていた。
 やってみてもやらなくても、もう二度と酒も食事も付き合わないと言われようと構わないという態度で居たら、相手は見せてよと言いだした。何をと返せば、アナニーをと言われて、今度はこちらが盛大に驚く羽目になった。
 それでも今、こうしてセックスする関係になっているのは、アナニーするこちらの姿に相手が勃ったということを意味している。
 かなり自己開発済みではあっても、人にアナルを弄らせたことはなかったし、当然男に抱かれたこともなかったが、相手はそれをちゃんと考慮してくれた。つまりは、友人の男相手でも、びっくりするほど優しいセックスをしてくれた。
 風俗へ行くか迷っていた割に、出したいだけの自分本意なセックスではなく、むしろ一緒に気持ちよくなれることを目的としたセックスだった事に、結構驚いたのを覚えている。
 さすがに初回から感じまくるなんて事はなかったが、特別嫌な思いをしたわけではなかったから、またしたいという相手を拒むことなく続けた結果、あっと言う間に体は相手とのセックスに慣れてしまった。その日の体調や気持ちにも大きく左右される物の、アナニーするより気持ち良くなれる事があると知ってしまった。
 ついでに言えば、たまに会って酒を飲む関係は、都合のつく週末は会ってセックスする関係に変わっている。会うのはもっぱら自宅になり、居酒屋とはとんとご無沙汰だ。
 学生時代の恋人とは就職を機に遠距離となってしまって続かなかったと聞いたが、こんなにセックスの上手い相手を逃した彼女は随分と勿体ないことをしたのではと、自分も大概下半身中心の下世話なことを思ったりもしている。
 だって本当に、時々めちゃくちゃキモチイイ。
 それは、なるほどメスになるってこういうことか。などという、ネットで拾った情報に納得してしまうくらい衝撃的な快感だ。
 頭の中がキモチイイばっかりになって、何度も白く爆ぜて、ペニスの先からドロドロと精子を吐き出してしまう。善がり啼いてクタクタになって、何もかも放り出して寝落ちするのは、たまらなく贅沢だなと思う。
 思いの外優しいセックスをするこの相手は、事後もそれなりに甲斐甲斐しく、最近では寝落ちても体を拭き清めてしっかり朝まで寝かせてくれるようになった。それはすなわち、やった日の夜は泊まって行くようになったという意味でもある。
 最初の一回は気絶したと焦った相手に必死で叩き起こされたし、その後もしばらく休んだ後でそろそろ後始末をと言って起こされていた。勝手に帰っていいから起こさないでくれと言って合鍵を渡したのは、そのまま寝ていたかったと思うことが増えたからで、つまりはめちゃくちゃ気持ち良くなれる頻度が増えた頃でもあった。
 しかしなぜかその鍵は使われることなく、朝目覚めた時におはようと笑う相手と対面することとなり、最初の一回だけはさすがに驚いたが最近はもうそれが当たり前になっている。
 だから今朝も、いつもと同じように、優しい笑顔と共におはようと言って貰えるはずだった。
「なんか、あった?」
 神妙な顔をした相手に問えば、冒頭のセリフが返されて今に至る。
「なんでって、正直最近しんどくなってきたっつうか」
「しんどい、って俺が寝落ちた後始末の話なら、しないで放っておいてくれて全然いいんだけど」
「いやそうじゃなくて」
「じゃあ、男同士でセックスするのなんか不毛とかいう話? 恋人になってくれそうな女の子でも出来た?」
 会社の愚痴は今でもそれなりに言い合うが、そういや恋愛方面の話はすっかりしなくなっていた。
 あの日、このまま縁が切れてしまっても惜しくないと思っていたはずの相手は、今はもう、出来れば手放したくない相手へと変わってしまっている。それでも、自分が風俗行くよりはマシ程度の相手であることはわかっていたし、恋人ができそうだというならこんな関係を続けている場合じゃないこともわかっていた。なのに相手はあっさりそれを否定する。
「昨夜のが、不毛だと思いながらセックスされてる、なんて思われるセックスだったならちょっとショックなんだけど」
「男同士のセックスに嫌気が差したわけでも、恋人できそうって話でもないなら、都合よくセックスできる今の関係を終えたいくらいのしんどい事って、一体何?」
 わけがわからなくて、幾分きつい言い方になってしまった。相手は困った様子で眉尻を下げながら、都合が良すぎるのが嫌になったと返してきた。ますますわけがわからない。
「都合がいい事の、何が嫌なのかわかんないんだけど」
「いやだから、そのさぁ……」
「いいよ。はっきり言って」
「えっと、だからお前と、恋人になりたいなって、思って」
「は? 恋人?」
「セフレみたいな今の関係、もう、やめたい。恋人として、お前のこと甘やかしてみたい」
 真剣な目に見つめられて、じわじわと頬が熱くなるのを自覚する。ズルいズルいズルい。どんなに優しいセックスをされてたって、この男と恋人として付き合いたいだなんてことは、考えてはいけないと思っていたのに。
「ダメ?」
 唐突過ぎるし男の恋人を作る覚悟なんて欠片も出来ていない。アナニー嵌ってたって、男に抱かれて気持ちよく善がってたって、恋愛対象は今も一応女のつもりだ。
 だから今は、せめて考えさせてと答えるべきだと頭ではわかっている。なのに口からはダメじゃないと吐き出されていた。

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そういえば一度も好きだと言っていない

 ふと気がついた。そういえば一度も好きだと言っていないな。
「好きだ」
 思った次の瞬間には、口からそう零していた。
「え、何を?」
 見下ろす先、目をぱちくりさせて聞いてくるから苦笑する。確かに突然だったとは思うが、この状況で何をと問われるとは思わなかった。
「お前を、に決まってるだろ」
「えっと、何の冗談?」
「冗談で言うかよ。本気で好きだと思ってる」
 言えば嫌そうに眉を寄せる。随分と酷い反応だ。
「今更過ぎでしょ」
「だって言ったことなかったなって思って。というかお前の反応、俺の予想と全然違うんだけどどういうことなの」
「ならどういう反応と思ってたわけ?」
「言われなくてもわかってる。もしくは、やっと言ってくれて嬉しい。のどっちか」
 大真面目にそう思っていたのに、相手はハッと鼻で笑いやがった。
「これってただの性欲処理だよね」
「まぁ最初はな」
「今もだよ。下らないこと言ってないでさっさと突っ込んで腰振れよ」
 確かにその言葉も最もだ。そろそろ挿れても大丈夫そうだと、相手の後孔から指を抜いた所だったし、見下ろす相手は両足を開いて寝転んでいる。
「ほら、早く」
「わーかったって」
 軽く持ち上げた両足を腰に絡めて引き寄せるように力を込めてくるから、悪戯に腰へ絡む足を外すようにして抱え上げた。
「ぁっ、あっ、いぃっ」
 ゆっくりと体重を掛けてペニスを埋めていけば、甘えるような声が鼓膜を震わす。
 初めてこの男を抱いた時から、挿入する際にはかなりの頻度で聞かされてきた声だ。さすが自分から誘ってくるだけあって、随分と抱かれることに慣れた体なのだと思っていた。
 なのに今はその声がわざとらしい。
 そう思うようになってしまったのは、本当に感じ入った時の彼を知ってしまったからだった。
 突っ込まれて揺すられて擦られるだけでキモチイイなんて嘘ばっかりだ。甘ったるくアンアン零すから騙されていた。
「ぅぁっ、バカっ! そこ、やめろって」
 馴染むのを待ってからゆるりと腰を動かせば、すぐさま抗議の声が上がる。
「なぁ、ココ。これが前立腺で、あってるだろ?」
「なに、言って……」
「さすがに調べたわ。というかなんで今まで調べようともしなかったんだろな」
 慣れた様子の相手に、慣れた様子で誘われて、言われるまま突っ込んでいた。突っ込む場所が尻の穴という心理的抵抗は気持ちよさの前であっさり砕けて散ったし、突っ込む側なら相手が男でも女でも大差ないな、なんてことを思っていた自分は、あまりに男同士のセックスに対して無知だった。
「なんで慣れたふりしてたの?」
「えっ?」
「やり慣れてるはずなのに前立腺すら未開発とか、俺が納得行く説明できんの?」
「ど、……ゆ、意味……」
「ホントに慣れてるってなら、最初っから前立腺擦られてイキまくってトコロテンとかいうのしたり、尻だけでイッちゃうメスアクメとかいうのキメて見せたら良かったのに」
「ちょっ、なっ……」
 すっかり言葉を失くしている相手に、もう一度真剣な気持ちと声とで伝えてみる。
「お前が、好きだよ。都合がいい性欲処理だけ続けたかったら、お前の体の変化は無視してた。だからさ、慣れたふりして誘ったのは性欲処理でいいから俺に抱かれたかったくらい、俺が好きだったからだって言ってよ」
 言った途端、相手の目にぶわわと涙が盛り上がってしまってさすがに焦る。
「あ、その、ゴメン。お前が遊び慣れた様子で誘うから、俺もなんか意地になってたのか、遊び相手に惚れたら負けだとか思ってたみたいで。とっくにバレてるだろと思ってたのもあるってのは言い訳だけど、変な意地はらずに、お前が可愛いとかお前を好きになったとか、自覚した時に言っときゃ良かったんだよな。ホント、ごめん」
 一度も好きだと言わないせいで、こちらの好意を隠すせいで、相手もまた想いを隠すのではないかと、さっきふと気づいてしまった。そしてそれは当たりだったと、もう確信している。
「今、そんなの言われたら、信じちゃうよ……」
 泣きかけた声は小さく震えていた。目の縁に溜まった今にも零れそうな涙を指先で拭いながら、出来る限り優しい声音になるよう気を遣いながら口を開く。
「信じてよ。で、お前も俺が好きって言って?」
 促すように頼み込んでやっと、ずっとお前を好きだったという言葉が、相手の口から告げられた。

有坂レイの新刊は『 ふと気がついた。そういえば一度も好きだと言っていないな。 』から始まります。https://shindanmaker.com/685954

 
 
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