友人の友人の友人からの恋人1

女装して出歩いたら知り合いにホテルに連れ込まれたの続きです。視点は相手側。

 知り合った当初、その子は友人の友人の友人、くらいの距離に居た。見た目がかなり好みだったから、距離を詰めて友人になるか、男も行けそうなら口説いて恋人にしたいと、かなり初期段階で思っていた。しかし人見知りなのかシャイなのか、元々の友人には笑顔だって見せるのに、なかなか打ち解けてくれる気配がなかった。
 そんな子と偶然街中で出会って、チャンスとばかりに声を掛けたら、特に嫌がることなくお茶を一緒してくれた。彼はその時、大変可愛らしい女装姿だったから、ここぞとばかりに可愛いと繰り返した。男に可愛いは禁句というか嫌がられることも多いけれど、女装子なら可愛いは間違いなく褒め言葉になるだろう。
 ただの女装子で男は対象外という可能性もあったが、もしかしたらの可能性にかけて口説きまくれば、少々躊躇いを見せつつもラブホテルにまでついてくる。これはもう、よほど体の相性が悪くない限りこのままお付き合い開始もありえるというか、ぶっちゃけその時点で、交際スタートしたな、くらいの気持ちになっていた。さすがに、男も有りの子だとこんな形で知ることになるとは思っていなかったが、今日の出会いに乾杯、ってくらい浮かれていたし、なんてラッキーなんだろうと思っていた。なのに。
 ラブホの部屋に入ってから、キスも未経験の童貞を拗らせまくった結果の女装で、好奇心でラブホについてきていて、つまり男の自分相手にセックスなんて欠片も考えていなくて、それどころかキスすら嫌だと思われている事実が発覚した。完全に騙されていた。
 正直、未経験の真っ更な体に突っ込むのは無理にしても、言いくるめて手コキかフェラくらいは行けるのでは、と思う気持ちもなくはなかった。だって既にラブホの部屋の中にいたのだ。でも、ファーストキスが男なんてマジ勘弁と、必死に言い募る半泣きの顔に、ラブホまで付いてきて今更何言ってるのとは言えなかった。
 だから代わりに、連絡先を交換しあって、友人の友人の友人って関係から友人になった。
 それ以降、たまに女装姿の彼とデートをしている。彼女いない歴=年齢の非モテ童貞と自分を卑下する彼に、じゃあ女性のスマートな扱い方を教えてあげるから、自分の身でもって体感すればいいよと言った結果だ。まさかそれで本当に女装姿でデートしてくれるようになるとは思わなかった。
 ちなみに、女装子とそういう仲だったことはあるにはあるし、女性の友人だってそれなりにいるが、彼女が居たという過去はない。性愛対象はずっと男だけだからだ。でも聞かれてないから、その事実は告げてない。
 割とはっきり君狙いだよって言ってる男を、そんな簡単に信じちゃダメだよ。なんてことも、もちろん思うだけで口に出して言ったことはない。
 ちょっとチョロすぎて心配になるし、彼のことを知るほどに見た目だけじゃない素直な可愛さに気付かされる。ああもう、ほんと、早く落としたい。
 ただ、一度ラブホまで連れ込んで押し倒しかけたからか、ガードはそれなりに固かった。手を握ったり腰を抱き寄せたりを拒むことはないが、雰囲気を作って顔を覗き込むと途端に警戒されてしまう。ファーストキスを奪われてたまるか、みたいな気持ちが透けて見えるのが、これまた結構可愛いかったりする。
 ガードは固くとも隙だらけだからキスなんて奪おうと思えば簡単に奪えてしまうんだけど、その結果、彼に悲しまれたり嫌われたりするのが嫌で手が出せない。でもそろそろキスくらいは出来るようになりたい。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

親友に彼女が出来た結果

 長いこと彼女のカの字も気配がなかった幼馴染の親友が、ある日突然、興奮気味に彼女が出来たと報告してきた時は驚いたが安心もした。だって長いことずっと、親友である自分にべったりな男だったから。
 べったりだったとはいえ、自分たちの間にあるのは友情だったし、彼女を作らない彼と違ってこちらは何度か彼女を作った。それを嫌がられたことはない。普通に祝福されたし、彼女がいる間は気を遣ってか少し距離を置いてくれたし、つまり、彼の中に自分へ向かう恋愛感情やら独占欲やらは別段ありはしないのだ。
 彼女を作らないのだって、そんな気になれないとか、好きって思える女子が居ないとか、出会いを待ってるだけだとか、なんとも曖昧な感じではあったが、彼女を作らない理由を濁して躱しているのではなく、至って真面目に本気でそう思っているのもわかっていた。
 だからそんな彼に彼女が出来たというのは、確信を持って彼が好きだと言える女性に出会えたことを意味しているし、本当に喜ばしいことで、ちゃんと祝福してやるべきなんだって頭ではわかっている。わかっているが、興奮気味に彼女の素晴らしさやらを捲し立てている親友に、おめでとうも良かったなも言ってやれそうにない。
 彼に彼女が出来たことで、自分の中に彼への恋愛感情や独占欲やらが潜んでいたことに、いまさらながら気づいてしまったのだ。などという話ではない。問題は、彼が一目惚れして口説き落としたというその女性の特徴が、どう控えめに聞いたってあちこち自分と被っている事だ。
 なんでそんな相手を選んだと、文句の一つも言いたい気持ちになる。だってまるで、自分の性を否定されたみたいな感じがする。彼の想いが友情止まりだったのは、自分の性別が男だったせいなんだと突きつけられたも同然だ。自分の中に、彼へ向かう恋愛感情や独占欲やらがあるわけではないけれど、もしもいつか、そういう感情を向けられたらきっと受け入れてしまうんだろう、程度のことは考えていたというのも大きいかも知れない。
 せめて、お前が女だったら付き合いたかった、程度のことは言ってくれてても良かったんじゃないのか。男だから対象外なんだって、はっきり言っといてくれればよかったのに。そう言われていたなら、自分に似た女を見つけたから付き合うことにした、みたいな現実を苦笑しながらももっと祝福できたと思うのに。
 そんなこちらの微妙にもやもやした感情に気づかないくらい、理想そのものという彼女を手に入れた相手の興奮には逆に感謝するべきかもしれないけれど。

 結局、彼女が出来た報告を受けたその時におめでとうは言えなかったけれど、その日の夜にはちゃんともやもやを飲み込んで、翌日からは長年の親友として祝福もしたし応援もした。だって彼に彼女が出来た、という事象そのものは間違いなく喜ばしいことなのだ。
 自分たちが築き上げてきた、親友という関係が変わるわけでもない。だから自分に彼女が出来たときのように、少しだけ気を遣って距離を置きながらも、基本的にはなんら変わらない日々を過ごしていた。
 なのにある日、突然、深刻な顔で彼が告げた。
「俺さ、もしかして、お前のことが好きなのかな」
「は?」
「いや、もちろん好きは好きなんだけど、その好きじゃないっていうか」
「んん? ごめん。全く話が見えない」
 いつになく歯切れが悪く、もたもたと言い募るのを聞いていれば、確信を持って好きだと言える彼女が出来たことで、逆に、無自覚なまま抱え続けていた本当の想いとやらに気づいてしまったかも知れない。みたいな話だった。
 本当の想いというのはつまり、幼馴染の親友に恋している可能性で、彼の言う幼馴染の親友というのは自分だ。
 あっけに取られながら、なんでそんなものに気づいたのだと聞けば、原因は彼のスマホのロック画面らしい。バカみたいな話だが、彼のロック画面は自分の写真だ。彼女ができたんだから彼女にしないのかと指摘したことが一度だけあるが、この写真が気に入っているんだと譲らないので放っておいた。
 いやでも考えてみれば彼女だって、なんで彼氏のスマホのロック画面がその彼氏の親友だという男の写真なんだって思うだろうし、彼女相手にも同じように、この写真が気に入ってるからと変えることを拒んだのだとしたら、本当はその男が好きなんだろうと疑いたくなっても仕方がないかも知れない。どうせこの男は悪気もなにもなく、彼女相手に自分の話をペラペラと喋っているだろうし、よほど鈍くなければ、彼女として選ばれた理由の中に親友と似ているからというのが入っていることに気付いているだろう。
「いやいやいや。彼女にそう指摘されたって、そこは、そんなわけないって否定しないとダメだろ」
「それは、だって、否定出来ないような気も、しちゃって。あいつが、お前に似てるって思ってる部分は、俺だって言われるまでもなく、わかってたし」
「お前ね。そこ自覚あって選んだ彼女なら、もっと大事にしろって。俺はどう頑張ったって、女にはなれないんだから」
「男同士でも、あり、ってことはないのか?」
「は?」
「彼女に言われるまで、考えたこともなかったんだよ。お前と付き合う、なんてこと」
 バカじゃないのと言えば、しょんぼりと項垂れごめんと返された。
「で、結局どうしたいんだよ。俺を好きかもしれないから、俺と付き合ってみたいの?」
「お前が、付き合ってくれるなら」
「その場合、彼女は? お試し交際だからって、二股なんか許さないけど。せっかく見つけた理想の彼女、手放したら二度と女となんて付き合えないかも知れないぞ」
 不思議そうな顔で、でもお前が居ると返してくるこの無自覚さってなんなんだろう。友人として最高だって、恋人として付き合ったら上手くいかない可能性なんて、一切考えていないみたいだ。
「本気で言ってんなら、まずは彼女と別れて、それから改めてちゃんと告白して」
「え、俺と付き合うのか!?」
 この流れで、なんでそんな風に驚くのかさっぱり分からない。そう思いながらも、ちゃんと告白してくれたらねと返して置いた。

こちらに頂いたコメントからのリクエストでした

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

兄弟ごっこを終わりにした夜

兄弟ごっこを終わりにした日の続きです

 十八の誕生日に告白すると決めていたらしい弟は、告白後は積極的に関係を深めていくとも決めていたらしい。
 もうじゅうぶん待ったからという彼の言い分もわからなくはない。ただ、いつかは兄弟という一線を超えるだろう予感は随分前からあったものの、それはもう少し先だと思っていたし、恋人という立場を得て一気に距離を詰めてこようとする相手に、こちらは思いっきり圧倒された上に尻込みしていた。
 十八を超えたとは言え、高校生相手に、しかも半分は血が繋がっている弟相手に、彼の保護者である自分が手を出していいものか、という躊躇いはどうしたって大きい。
 だから本当なら、枕片手に一緒に寝たいと押しかけてきた弟を、部屋に迎え入れてはいけない。追い返すべきなんだろうと頭ではわかっていた。
「恋人になったんだから、これからは毎日一緒に寝て。とまで言わないから、休みの前の日くらい、いいだろ」
「お前は俺の理性を試したいの?」
「そうだよ。だから、その気になったらぜひ襲って」
「そういうのはまだダメって、昼間も言ったろ」
 昼間、ねだられて、軽く触れるだけのキスは与えた。相手は不満そうだったけれど、互いの口内を探り合うようなキスをしてしまったら、理性が持ちそうにないからとそれ以上は許さなかった。その時にも一度、話はしたのだ。
 恋人になったからって、即セックスまでする関係にはなれないよと、こちらの気持ちも事情も話して聞かせた。したい気持ちがないわけじゃないことも教えて、あんまり煽るなよって、言ったはずなんだけど。
「それは聞いたけど。でも恋人になったんだって思えるようなこと、もっとしたい」
 そういう気持ちはないのかと問いたげな視線に、ないわけないだろと思いながらも口には出さず、代りに諦めるみたいな溜め息を一つ。
「わかった。いいよ。一緒に寝よう」
 やったと零しながら小さくガッツポーズを決める相手の子供っぽさに、どこかホッとしてしまうのは、相手のことをまだまだ子供だと思うことで、自分の中の理性を支えたいからなのかも知れない。
 結局、寝るまででいいから手を繋いでというお願いも聞き入れて、並んでベッドに横になりながら手を握る。子供の手じゃないけれど子供みたいな体温に、また少しホッとしながら、さっさと寝てしまえと目を閉じた。
 頭をもたげかける欲望は封じ込めて、何でもない振りをして、むりやり意識を眠りへと落としていく。

 擽ったいような心地よいようなふわふわした気持ちと、妙な暑さと息苦しさに意識が浮上する。
「ぁ……っ……んっ……」
 最初、それが自分の口からこぼれているとは、わからなかった。そもそも、今夜は一人で寝ていたわけじゃないことすら、すぐには思い出せなかった。
 だんだんと寝る直前のやりとりを思い出して、寝ている自分の体を彼がまさぐっているのだと言うことに気づいた途端、一気に覚醒する。
 相手の手を払い除けて、勢いよく上体を起こし、思いっきり睨みつけてやる。とはいっても部屋の中は暗いので、こちらの怒りは伝わっていないだろう。自分だって、相手もこちらへ顔を向けている程度のことはわかるものの、さすがにその表情まではわからないから、彼が今どんな感情を抱いているかなんてわからない。
「どういうつもりだ?」
 仕方なく言葉で彼に問いかける。
「性感開発?」
「は?」
「起こすつもりはなかったんだけど、加減がわからなくて。気持ち良く寝てたとこ、起こしたことは、ゴメン」
「してたことに対する謝罪はないの? てか性感開発っつった?」
「性感開発って言ったし、それへの謝罪はない、かな」
「なんで!?」
「だって初めてする時、少しでもキモチイイ方がいいと思って」
 いつかはする気があるんだろと続いた言葉に違和感が拭えない。
「というのは建前で、あんまりあどけない寝顔晒されて、ちょっとこっちの理性が飛んだ」
 彼は間違いなく日本語を話しているのに、何を言われているのかやっぱり良くわからなかった。
「わかってないな」
 同じように相手も上体を起こしたかと思うと、ぐっと顔を寄せてくる。酷く真剣な顔に覗き込まれてのけぞれば、肩を押されてそのままベッドに仰向けに倒れ込む。焦るばっかりで何が起きたのか理解が追いつかないのに、相手はやっぱりまた間近にこちらを見下ろしている。
「高校生の弟に手を出すの躊躇うってなら、俺が襲うのもありだよなって、話」
「は?」
「自分が抱かれる側になる可能性、考えたことなかったろ。でも俺も男なんで、十も年上の男でも、血のつながる兄でも、好きな相手を抱きたいって気持ちもそれなりにある」
「ええっ!?」
「抱く気で居るみたいだったから、それなら抱かれる側でいいと思ってたけど、思ったより理性強そうで簡単には誘われてくれないのわかったから、待てないし、抱きたい気持ちだってあるわけだし、じゃあ体から落としてくのもありかなと」
 気持ちよさそうな声上げてたし素質ありそう、だなんて言葉、もちろん受け止められるわけがない。待て待て待てと騒いでも、いっこうに体の上からどいてくれない相手の重みに、焦りばかりが加速していく。

有坂レイへの3つの恋のお題:あどけない寝顔/はじけとんだ理性/何でもない振りをして
https://shindanmaker.com/12556

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

兄弟ごっこを終わりにした日

 彼とその母親がこの家に住むようになったのは、中学に入学する直前の春休み中だったと思う。父の再婚を反対しなかったというだけで、もちろん彼らを歓迎する気持ちなんてなかったが、だからといって追い出そうと何かを仕掛けるような事もしなかった。
 子供心に両親の仲が冷え切っているのはわかっていたし、家の中から母が消えた時にはもう、なんとなくでもこの未来が見えていたというのもある。
 本当なら父だって、新しい妻と幼い息子の三人で、新たな家庭を築きたかったはずだ。単に、父は自分を捨てるタイミングを逃しただけなのだ。
 母の行動の方が一歩早かった。もしくは、自分を置いていくことが、母の復讐だったのかもしれない。なんせ、当時二歳の弟は連れ子ではなく父の実子だった。つまり自分とも半分血が繋がっている。
 自分は両親どちらにとってもいらない子供だったから、再婚するから出て行けと言われなかっただけマシだ。だから家族の一人として彼らに混ざろうなんて思わなかったし、必要最低限の会話しかしなかったし、練習のハードそうな部活に入って更には塾にも通い、極力家に居ないようにしてもいた。
 高校からは逃げるように家を出て寮生活だったし、もちろん大学も学校近くにアパートを借りたし、社会に出ればもっともっと疎遠になっていくのだろうと、あの頃は信じて疑わなかった。それでいいと思っていたし、そう望んでいた。
 父とは疎遠どころか二度と会えない仲になったので、あながち間違いではないのかもしれないが、望んでいた形とは全く違うものとなったし、まさかまたこの家に住む日がくるなんて、あの頃は欠片も思っていなかったけれど。

 父と後妻が揃って事故で亡くなったという連絡が来たのは、大学四年の冬の終わり頃だった。卒論は提出済みで、もちろん就職先も決まっていて、後は卒業を待つばかりというそんな時期だったのは有り難かったが、後処理はなかなかに大変だった。
 父はやはり元々の性格がクソだったようで、どうやら性懲りもなく浮気をしていたらしい。事故という結論にはなったものの、事故を装った後妻による心中じゃないかと疑われていたし、実際自分もそうだったのじゃないかと思っている。幸い血の繋がった新たな弟妹の出現はなかったが、父と付き合っていたという女は現れたし、遺産を狙われたりもした。
 でも何より大変だったのは、残された弟のケアだった。ちょうど中学入学直前という時期だったから、昔の自分とダブらせてしまったのだろうと思う。
 彼もまた、冷え切った両親の仲にも、父の浮気にも、元々気づいていたようだったし、両親の死は母の無理心中と思っているようだった。自分は両親に捨てられたのだと、冷めきった表情でこぼした言葉に、グッと胸が詰まるような思いをしたのを覚えている。
 放っておけないというより、放っておきたくなかった。
 半分血が繋がっているとは言え、互いに兄弟として過ごした記憶なんて欠片もなく、年も離れている上に七年もの間別々に暮らしていた相手が、今後は一緒に暮らすと言い出すなんて、相手にとっては青天の霹靂もいいところだろう。
 それでも、施設に行くと言う相手を言いくるめるようにして、彼の新たな保護者という立場に収まった。
 そうして過去の自分を慰めるみたいに、自分が欲しかった家族の愛を弟相手に注ぎ込んでやれば、相手は思いの外あっさり自分に懐いてくれた。そうすれば一層相手が愛おしくもなって、ますます可愛がる。そしてより一層懐かれる、更に愛おしむ。その繰り返しだった。
 それは両親から捨てられた者同士、傷の舐めあいだったかもしれない。それでも自分は彼との生活に心の乾きが満たされていくのを感じていたし、父は間違いなくクソだったけれど、彼という弟を遺してくれたことだけは感謝しようと思った。
 ただ、やはり今更兄弟としてやり直すには無理がありすぎた。自分が家を出た時、彼はまだ小学校にも上がっていなかったし、そもそも中学生だった自分が彼と暮らした三年間だってほとんど家にはいなかったし、彼を弟として接していた記憶もない。父の後妻同様、同じ家に暮らす他人、という感覚のほうが近かった。それは彼の方も同じだろう。
 便宜上、彼は自分を兄と呼んではくれていたが、互いに膨らませた情が一線を超えるのは時間の問題のようにも思える。兄として慕ってくれているとは思っていないし、自分だってもうとっくに、過去の自分を慰めるわけでも、弟として愛しているわけでもなかった。

 それでもギリギリ一線を超えないまま、兄弟ごっこを続けること更に数年。
 ある土曜の日中、彼はふらっと出かけていくと、暫くして花束を抱えて帰宅した。真っ赤なチューリップが束になって、彼の腕の中で揺れている。
「どうしたんだ、それ。誰かからのプレゼント?」
 今日は彼の誕生日だし、誰かに呼び出されて出かけたのかもしれないと思う。でもいくら誕生日だからって、男相手にこんな花束を贈るだろうか? 贈るとして、それはどんな関係の相手なんだろう。
「違う。自分で買ってきた」
 そんな考えを否定するように、彼ははっきりそう言い切った。差し出されたそれを思わず受け取ってしまったけれど、全く意味がわからない。
「え、で、なに?」
「今日で十八になったから、もう、いい加減言ってもいいかと思って」
「待った」
 とっさに続くだろう言葉を遮ってしまった。
「高校卒業するまでは、言われないかと思ってた。んだけど……」
 彼が十八の誕生日をその日と決めていたなんて思わなかった。さすがに想定外で焦る。
「待てない。もう、じゅうぶん待ったと思う」
 けれど、お願い言わせてと言われてしまえば拒否なんてできない。自分だって、この日を待っていたのだから。
「あなたが好きだ」
 そっと想いを乗せるように吐き出されてきた柔らかな声に、手の中の花束をギュッと握りしめる。
「兄弟としてじゃない。兄さんって呼んでるけど。事実半分とは言えちゃんとあなたは俺の兄なんだって知ってるけど。わかってるけど。でも何年一緒に暮らしても、やっぱりあなたを兄とは思えない。兄としては愛せない。愛したく、ない」
 真っ直ぐに見据えられて、あなたはと問い返された。彼だってこちらの想いに気づいているのだから、その質問は当然だろうし、自分だってちゃんと彼に想いと言葉を返さなければ。
「こんな俺に、誰かを愛するって事の意味を教えたのは、間違いなくお前だよ。お前以外、愛せないよ」
「なら、これからも愛してくれますか。これからは、恋人として」
 大きく頷いて見せてから、手の中の花束をグッと相手の胸に押し付けるようにして、そのまま花束ごと相手のことを抱きしめてやった。

続きました→

有坂レイへのお題【押し付けた花束/「これからも愛してくれますか」/まだ僕が愛する意味を知らなかった頃。】
https://shindanmaker.com/287899

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

週刊創作お題 新入生・再会

 新入生代表挨拶で登壇した男の見た目に懐かしさは覚えなかったが、告げられた名前には懐かしさがこみ上げる。少し珍しい名前だから、多分人違いではないはずだ。
 入学式後のホームルームを終えた後は、真っ先にその新入生代表挨拶をした男のクラスへ向かった。
 タイミングよく、帰るためにか教室を出て来たところを捕まえて、久しぶりと声をかける。
「久しぶり? 俺らどっかで会ったことある?」
 こちらを見上げてくる相手は、酷く不審気な顔を見せているが、それは当然の反応だろう。なんせ会うのは10年ぶりくらいだし、中学に上がってから思いっきり背も伸びて随分と男臭くなってしまったから、幼稚園の頃の可愛らしさの面影なんて欠片もないのはわかりきっている。
 ただ、名乗ってもわかってもらえなかったというか、全く思い当たる節がないと言わんばかりの、更にこちらへの不審さが増した顔には、正直言えばがっかりした。だって昔、あんなに何度も好きだって言ってくれてたのに。大きくなったら結婚しよって、言ってくれたことさえあるのに。
 それとも同姓同名の別人で、こちらの勘違いって可能性もあるだろうか。そう思って幼稚園の名前を出して、そこに通ってなかったかと聞けば通ってたけどと返ってくる。
「俺も、その幼稚園通ってた。で、結構仲良かった、つもりなんだけど……」
「お前みたいなやつ、記憶にない」
「いやそれ、成長してるからだから。昔の俺は! それはもう、めちゃくちゃ可愛らしい子供だったから!」
 言えば相手はプッと吹き出し、自分でそれ言うかよと言ってゲラゲラと笑い始めてしまう。相手にだって幼稚園生の頃の面影なんてほぼないと思っていたけれど、楽しげに笑う顔は間違いなく、昔の彼と同じ笑顔だった。
 若干置いてけぼりの戸惑いは有るものの、それでも懐かしさにそんな彼の笑顔を見つめてしまえば、急に相手が笑うのを止めてこちらを見つめ返してくる。ドキッと心臓が跳ねるのがわかった。
「あれ? やっぱ俺、お前のこと知ってるかも」
「いやだから、絶対知ってるはずだし、何度か互いの家にお泊りしあったくらい仲良かったんだってば!」
「は? お泊り?」
「したよ。家の場所もだいたいは覚えてる。はず」
 遠い記憶を掘り返しながら、おおよその場所を告げれば相手は惜しいが近いと返しながらも、随分と渋い顔になってしまった。何かヤバイことを言ってしまったかと、別の意味で心臓が煩い。
「あー……思い出した。ような気がする、けど……マジかよ……」
 思い出したと言いながらも、相手は焦った様子で視線を彷徨わせるから、わけがわからないながらも不安は増して行く。思い出してくれて嬉しいって気持ちには、到底なれそうにない。
「あの……もしかして、仲良かったと思ってたの俺だけで、思い出したくない嫌な思い出、とかだった……?」
「いやそうじゃないけど。つかお前、仲良かったって、どこまで記憶残ってんの? あ、いや待って。ここで聞きたくない。どっか別のとこで話そう」
 教室前の廊下なものだから、自分たちに向かってチラチラと興味深げな視線が投げられているのには、もちろん自分だって気づいていた。久々にこの地に帰ってきた自分と違って、彼には同じくこの高校へ入学した友人も知人も多いだろう。
 結局そのまま連れ立って学校を出て、彼に促されるまま向かうのは、どうやら彼の家のある方向だ。まさか自宅に招待してくれるのかと思いきや、彼は人気のない小さな公園の入り口で立ち止まり、ここでいいかと中に入っていく。
 一つだけ置かれたベンチに早々に腰掛けた相手に倣って、自分もその隣に腰掛けた。
「あー……で、さ」
「うん」
「単刀直入に聞くけど、お前が俺の知るアイツだとして、お前、俺に好きって言われたりプロポーズされたりキスされた記憶って、残ってる?」
 さっそく口を開く彼に相槌を打てば、顔を自分が座るのとは反対側に逸らしながら、そんなことを聞いてくる。
「好きって言われたり、大きくなったら結婚しよって言われたのは、覚えてる。けど、俺たち、キスまでしてたの?」
「あああああ。本当に相手お前かよっ! つか覚えてんのかよっ」
 彼は顔を両手で覆うと、深く項垂れてしまう。
「ご、ゴメン。そんな嫌な思い出になってるとか、思って、なかった」
「嫌な思い出っつーか、お前、なんで俺に声かけた?」
 顔を上げた彼は、今度はしっかりこちらを向いて、まっすぐに見据えてくる。やっぱりまた、昔と一緒だと懐かしさが胸に沸いた。
「懐かしかった、から」
「それだけ?」
「それだけ、って……?」
「あー……いや、いいわ。お前、見た目めちゃくちゃ変わったけど、中身あんま変わってないな」
「そう、かな?」
「そうだよ。多分。だってお前、わざわざ俺に、俺の初恋相手が戻ってきましたよーって知らせてくれたってことの意味、全く考えても意識してもいないだろ?」
「は? えっ?」
 ほらなと言って柔らかに笑うその顔だって、やっぱり懐かしいものなのに。昔は嬉しいばっかりでこんなにドキドキしなかったはずだと思いながら、ジワジワと熱くなる頬をどうしていいかわからずに持て余した。

お題箱より4/8日配信「新入生」4/13日配信「再会」

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

60分勝負 同居・灰・お仕置き

 ルームシェアという名の同棲を始めて半年。仁王立ちして怒り心頭に発する同居人の前で、正座し深く頭を下げている。
 彼の怒りの原因は自分が煙草の灰を落として焦がしたラグなので、これはもう言い訳のしようもない。
 以前から何度も、煙草を止めろとまでは言わないが、疲れているときや眠い時に吸うのは止めろと言われていたのに。彼が出張で居なかった昨夜、寝る前の一服のつもりで火をつけたくせにそのままウトウト微睡んでしまって、気づいた時にはラグに焦げ目がついていた。
 小さな焦げ目の段階で気づけたのだけは本当に良かったが、彼が帰宅する前に同じラグを調達して証拠隠滅を図るのは絶対に無理だとわかっていたし、だから今のこの状況は想定内でも有る。想定内では有るのだけれど、でも実際に彼の怒りを目の当たりにすると、恐怖で体が萎縮し震えてしまう。
「以前言ったこと、覚えてますよね?」
 冷たく降る声に禁煙しますと返せば、それだけじゃないでしょうと今度は幾分柔らかな声が落ちてくる。その声に恐怖が増した。
「寝ながら煙草吸ってるの見つけたらお仕置きしますよって、約束しましたよね?」
「…………はい」
 ああ、今回は一体何をされるんだろう。
 基本優しく、普段はこちらに尽くしてくれることが多い年下の恋人のお仕置きは、ビックリするほどえげつない。だってお仕置きですからと柔らかに笑う顔に、今ではもう本気で震えが走るほど恐怖する。
 恐怖はするんだけれど、でもそれが嫌で嫌で仕方がないってわけじゃないのが、ホントどうしようもないなと思う。マゾっ気なんか、自分には欠片もないと思っていたのに。
 今ではもう、そのギャップごと、彼のことを愛している。ただ、いつか彼のお仕置きを求めて、わざと彼の怒りを買うような真似をしてしまいそうだとも、感じている。
 もちろん今回の件はわざとなんかじゃないけれど。でもそろそろ自分たちは、もっと腹を割った話し合いが必要なのかもしれない。

「一次創作版深夜の真剣一本勝負」(@sousakubl_ippon)60分一本勝負第169回参加

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁