まるで呪いのような(目次)

キャラ名ありません。1話+19話の全20話。
生まれた時からマンションのお隣さん同士な幼馴染二人の話。中学3年生×高校1年生。
生まれ月の関係により学年が違うせいで、昔から攻め側が受け側にかなりの執着を見せていて、受けはずっと自分たちは両想いだと思っていた。
「はっかの味を舌で転がして」が攻め視点で、受けが高校に入学した春の話。ここで、攻めの気持ちに恋愛感情はなかったと受けが知る。
続編に当たる「まるで呪いのような」は受け視点で、攻めの高校受験が終わった頃の話。
恋愛感情ではなかった攻め相手の片想いが辛くなってた受けが、攻めの激しすぎる執着を自分なりに納得して幸せを見出す話なのですが、受けが何度も泣きます。攻めも一度は泣きます。つまり、どちらかが泣きそうだったり、泣いてしまっている場面がかなり多いです。
今回、あまり激しい性表現はしてないつもりですが、行為中、流血はないものの受けが痛いと喚くような噛み付き表現があります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

はっかの味を舌でころがして

まるで呪いのような
1話 幼馴染の進学先
2話 合格祝いを持って
3話 恋人をやめたい
4話 もう待てない
5話 修正不能の人生
6話 キモくて怖い執着心
7話 もう逃がす気がないから
8話 謝りたくない
9話 ゴメン
10話 自分の内側
11話 お互い様
12話 春休み初日
13話 妄想の中身
14話 妄想を実現(R-18)
15話 何度も噛まれる
16話 仕切り直す
17話 正常位がいい(R-18)
18話 抱かれる(R-18)
19話 もう両想いを疑わない

 
 
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まるで呪いのような19(終)

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 彼の腕の中で、好きだ好きだと繰り返す。そのたびに頷かれて、同じ数だけ好きだと返されて、嬉しさでボロボロと泣いてしまうのをさすがに少し心配されたけれど、これが嬉し泣きだってことは多分ちゃんと伝えられたと思う。
 この一年近く、自分ひとりの片想いが辛くて辛くて仕方がなかった。自分が想うのと同じくらい、彼にも想われたかった。でももうわかった。こうして抱かれることで思い知った。
 自分たちはやっぱりちゃんと両想いなんだって事を、もう疑ったりするのはやめようって思った。こうしてちゃんと、欲しがられているのがわかったから。こちらがして欲しいからではなく、彼自身の気持ちから、どうしても抱きたいんだって言ってくれたから。恋人としての触れ合いなんか無くても、自分が彼から離れていくことさえなければ、彼は満足なのかなって思っていた部分はたしかにあったと思う。でも今日、恋人になったからこそ欲しいと思ってしまう触れ合いを求めているのは、自分だけじゃないってはっきりわかった。
 彼の執着がドロドロのキモくて怖いものだとしたって、そこまで恐れる必要なんてないんだってことも、わかったと思う。だって彼は、彼の中の化物がこちらに牙を剥かないようにと、かなり必死に、もの凄く気をつけてくれているみたいだ。彼が自分にと向けてくれる優しさは、間違いなく本物だった。
 こちらをギュッと抱きしめて、何度も好きだと繰り返してくれる彼の息が、乱れている。本当に、優しい。
「いつまでもグズグズ泣いててゴメン。辛くて泣いてるわけじゃないから。大丈夫だから、続き、して」
 お前のほうがずっと辛そうだよと、うっすら笑って告げれば、相手もどこか気まずそうに笑いながら、実は結構限界ギリギリでヤバかったなんてことを言う。
「ありがと。ホント、大好き。だから、……ぁ、……ぁあっ」
 動いてって口に出す前に、ゆっくりと体を揺すられた。とはいえ様子を見るようにゆるやかに揺らされていたのは僅かな時間だけで、ゴメンもう無理って宣言の後は、けっこうガツガツ貪られてしまったのだけれど。でもそんな時でさえ、酷い声で泣き喘がされながらも、間違いなく幸せだった。


 トロトロとした幸せな微睡みから目覚めたのは夕方近くで、部屋の中からでも、外が薄っすらと暮れかけているのがわかる。慌てて体を起こそうとして、体に走った痛みにあっさり撃沈した。やはりさっきの行為で、体にはかなりの負担が掛かっていたようだ。
「おい、大丈夫か?」
 こちらの呻き声に反応して、すぐさま飛んできた声の主は当然彼なのだけれど、その声が発せられたのは自分の隣からではなく、勉強机が置かれた辺りからだった。というか、机の椅子に腰掛けて、勝手に漫画を読んでたらしい。
「なんで、隣に、いないの?」
「え?」
「けっこう寝ちゃってたみたいだから、暇持て余したんだろうし、帰らなかっただけマシかもだし、マンガ読むなとは言わないけど。でも初めて抱き合った後だよ? 目が覚めた時に、すぐに触れるくらい、もっと近くに居てほしかったんだけど」
「あー……それは、先に言ってて欲しかった」
「いやゴメン。変なこと言って」
 幸せを引きずって酷く甘ったれた気持ちのまま、ついつい口に出してしまったという自覚はあった。
「そうじゃなくて」
 椅子から立ち上がって短な距離を歩いてきた相手が、そのまま布団の中に潜ってくる。
「言っててくれたら、ガッカリさせなくてすんだのにってだけ。で、やっぱ体痛いか?」
 布団に潜ってきながらも相手から触ってこないのは、どうやらさっきあからさまに呻いたせいらしい。
「ゆっくり動けばそうでもない。と、思う」
「触っていいのか?」
「いいよ。というか、撫でられたいしギュッてされたい」
 言いながら、なんか随分恥ずかしいことをあっさり口に出してないかと、ふと我に返ってしまって顔が熱くなっていく。
「照れんな」
「無理です」
「なんで敬語」
「恥ずかしいから」
「今の会話の、どこが恥ずかしかったのか、全くわかんねぇんだけど」
 そりゃあね。あれだけ泣き顔晒しながらガッツリ抱かれたくせに、撫でてとか抱きしめてとか言うのが恥ずかしいなんて気持ち、わからなくても仕方ないけど。
「ただまぁ、俺は嬉しい、かな」
「え、何が?」
「お前が俺に触ってって、自分から言ってくれるのが」
「そういうもん?」
「この前、頼んで触ってもらうのなんて惨めだとか言われたから」
「あー……うん、それはもう、ないと思う。けど、自分からしてってお願いするの、普通にかなり恥ずかしいよ?」
「そういうもん?」
「そういうもんです」
 ふーんと納得してるのかしてないのかわからない様子を見せながら、それでも優しく髪を梳くように頭を撫でられて、うっとりと目を閉じる。
「寝るなよ?」
 またウトウトと微睡みに落ちていこうとしたら、優しい手つきで眠りを誘っている本人から、そんな忠告を受けてしまった。
「というかそろそろ起きないと、おばさん帰ってきそうなんだけど」
「あっ……」
 そうだったと思って慌てて重い瞼を押し上げる。さっき慌てて体を起こそうとしてしまったのも、今が何時か確かめるためだった。
「何時?」
「まだ一時間弱はあるから慌てる必要ない。けど、もっかい寝るのはマズい。多分」
「だな。てか考えたら、昼食いそびれて腹減ってる」
 母が用意していった昼飯が、手付かずでそのまま残ってるってのも、色々マズい気配しかない。この時間を手放すのはかなり惜しいけれど、でももう本当に起きないと。
 そう思いながらも名残を惜しむみたいに、あともう五分だけって思いながら、ギュッと相手の体に抱きついた。

<終>

 
 
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まるで呪いのような18

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 あんなに泣かれても止められないくらいやっぱりお前を抱きたいし、あんなに泣きまくったくせにそれでもまだちゃんと俺に抱かれてくれる気でいるお前の、泣きまくって酷くなった顔が可愛くないわけないだろと彼は続ける。その後、笑わせたいし、泣かせたくないし、でも泣かせたら泣かせたでこんなに可愛いと言って、真っ赤に腫れているだろう目元にそっとキスをくれた。
「ほ、本気で、言ってる?」
「言ってる」
「ホントに、萎えない?」
「萎えない。むしろギンギン」
 手を取られて彼の股間に導かれれば、ゴムの膜を被った熱の塊に指先が触れる。握ってと促されて、おずおずとその熱を握りしめた。
 初めて触れる自身以外の勃起ペニスは、ゴムを装着済みというのもあってか、やっぱりなんだか得体が知れないもののように思えたし、これが今から自分のお尻の穴に入ってくるのだと思うとどうしても体が震えそうになる。
「悪ぃ。怖がらせるつもりじゃなかった」
 握る手をそっと剥がされた後、今度はその手を強めに引かれて、少しばかり浮いた体を抱きしめられた。ギュッと背に回る腕に力が入って、互いの肌が密着して気持ちが良い。抱き返しながら、ホッと安堵の息を吐いた。
 好きだ、好きだよ、と繰り返してくれる優しい声は、やっぱり自分のためにと彼が与えてくれるものだけど、でももう、それでいいって十分に知ってる。好きだと言われるたびに頷いて、時々自分も好きだと返せば、やっぱり相手も頷いてくれた。
 ああ、なんて、嬉しい。こういう時間を、ずっと彼と持ちたかったんだなって、しみじみと思う。
「ありがと。落ち着いた。怖くなくはないけど、も、多分、大丈夫」
 だから挿れてと言えば、少し浮いたままだった背がベッドマットの上に降ろされ、なんどかチュッチュと唇を吸われたあとで彼が上体を起こしていく。足を開かれ腰を抱えられて、その場所に彼の熱の先が触れた。
 穏やかに抱き合って好きって言い合っている間も、萎えたりはしなかったらしい。その状態でオアズケされる苦しさがわからなくはないから、彼がくれた優しさも気遣いも、やっぱり嬉しいばっかりだった。
「挿れる」
「うん」
「我慢できないくらい痛かったら、言って」
「うん」
「息吸って」
「え、う、うん」
「吐いて」
 言われるまま息を吸って吐いてしている中で、少しずつ先程まで散々指で弄られ拡げられていた場所に、また圧がかかって拡げられていく。
「ぁ、っ……あぁっ……んんっっ」
「息して。吸って」
 もれ出る声が恥ずかしくて隠そうとしたら、必死な声が息をしてと促してくる。思わず見つめてしまった相手は、切羽詰まった顔でこちらを見下ろしていた。
 彼を受け入れる自分だけが大変な思いをしているわけじゃない。彼もまた、早く抱きたい繋がりたい自分のものにしたいって衝動と戦って、なるべく乱暴にしてしまわないようにと努めてくれているのだ。それがわかって、嬉しいのに、なんだか胸が詰まる。
 またじわっと涙が浮いてしまったけれど、でも多分顔は笑っているだろう。頷いて、言われた通りに、息を吸って吐いてを頑張って繰り返す。相手は一瞬躊躇う様子を見せたけれど、なにも言わずにまた少しずつ、奥へ奥へと入ってきた。
「はい、った」
 尻タブに彼の腰が密着している。涙でぼやぼやになった視界で相手を必死に見つめながら、何度も首を縦に振って、もういいよねって気持ちで腕を伸ばした。
 やっと繋がれた彼に、自分も触れたい。触れて、そしてぎゅって抱きしめてほしかった。

続きました→

 
 
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まるで呪いのような17

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 フッ、フッ、とせわしなく息を吐く。ギュッと閉じた瞼からは時折涙があふれてしまう。それらは自分の手でグッと顔に押し付けているタオルが吸い込んでくれるが、タオルで口を塞いで息を詰めすぎれば、そうなっている原因とも言える男が背後から、呼吸はしてと促してくる。
 ほぼうつ伏せた状態で、腰が浮くようにと下に枕とクッションを重ねられ、尻タブを開かれて彼の目にそんな場所を晒すというだけでも、恥ずかしすぎて息なんて止まりそうなのに。晒したアナルを撫でられて、彼がちゃっかり持ち込んでたローションを塗りたくられて、揉まれて、今はもうずっぷりと指が一本埋まってしまっている。しかも、いざ指が入りそうって時に、やっぱり怖くなって本気で逃げようとしてしまったら、またガップリとしかもかなりの強さで噛まれて、痛い痛いと喚いている内に指が入ってた。
 酷すぎると詰りたい気持ちはもちろんあったけれど、中に入れた指を動かすことはしないまま、こちらが落ち着くまでゴメンも好きだもたくさん繰り返されて、宥めるみたいなキスを降らされたら、結局受け入れてしまうしかない。抱いていいと言ったのは自分だし、むしろ嬉しいとも言っちゃったし、ここまできてやっぱり嫌だを本気で言ったら、今度こそ間違いなく犯される。むりやりに体を拓かれて、互いの体も心もズタボロにするような、そんなセックスをしてしまう。
 抱かれたいななんて、ふわふわと彼に求められる幸せを考えて浸っていた妄想と、現実はあまりに違った。恥ずかしくて居た堪れなくて怖くて、まだそこまで痛みはないけど、違和感だけならもうとっくに耐えられないレベルに入ってる。
 ただ、こちらが相手を拒否する態度や感情を出さなければ、相手もまた必死で衝動をこらえて、優しく丁寧に扱ってくれようとしているのもわかるから、どうにか耐えているって感じだった。
 それに、どうしても抱きたいんだとか、体ごと俺のものにさせてとか、ゴメンを重ねる中にチラチラと混ざり込んでいる言葉がたまらなく嬉しい。好きって気持ちが良くわからないという彼の剥き出しの欲望は、こちらが欲しがるから好きって言ってくれてるだけって気持ちを、簡単にふっ飛ばしていくようだった。
 自分が彼に向ける、生身のセックスを想像できないような幼く拙い好きなんかより、ドロドロな執着心を抱えた彼の好きは、あまりに大きくて情熱的でクラクラする。まぁ、やっぱりこんなに好きなんじゃないかと思っているのは自分だけで、彼は今こうして晒している欲望を、今後も恋愛的な意味も含めた好きとは別物として扱うんだろうけれど。
 未知なものはどうしたって怖いし、泣くことは許されていたからそこは我慢せずにひたすら泣きまくってしまったけれど、おかげで、そろそろ挿れられそうだから一旦指抜くわと言われる頃には、涙はほとんど枯れていた。
「このまま、挿れん、の?」
 泣きまくった影響か、尋ねる声はガサガサだ。
「そりゃあ……っつか、それ、どーゆー意味で聞いてんの?」
 コンドームを装着している彼を直視できずに居るくせに、こんなことを言ってもいいのかなとは思ったけれど、でもやっぱり出来ればちゃんと向き合って、抱き合う形で挿れて欲しい。
「その、出来れば正常位? がいいな、って、思って」
「ああ、そういう……」
 やっぱり言わないほうが良かっただろうか。何やら色々考えさせてしまっているようだ。
「あの、やっぱいい。お前の好きに抱いて欲しい、し」
「いや、いい。しよう、正常位」
 体をひっくり返されて、あっさり後悔した。向き合って抱き合いたいと思った気持ちは本当でも、やっぱり彼の顔を直視できそうにない。なのに慌てて握ったままのタオルを顔に押し付けようとしたら、それもあっさり取り上げられてしまった。
「ゴメンな。すげーひでぇ顔になってる」
 困ったような苦笑顔に、胸がざわざわして不安になる。
「ご、ゴメン。やっぱいい。正常位がいいとか全然嘘だった。無理。後ろから。うんそう、後ろから抱いて欲しい」
 ぐっと顔ごと上半身を捻って、ひっくり返された体をまたもとのうつ伏せに戻そうとしたのに、肩を捕まれ阻止される。
「何そんな焦ってんの? てか顔逸らすなって」
「だっ、て……てか顔近い近い」
「お前が逃げるからだろ。で、何?」
 さあいざ挿入って段階でこんなことで待ったをかけられているんだから、不機嫌そうな声の理由なんて聞かなくたってわかる。なんで正常位がいいなんて言っちゃったんだろう。
 枯れたと思った涙がまたじわりと滲んでくるのがわかる。既にひでぇ顔だと苦笑された顔が、ますます不細工に歪んでしまう。
「ぶ、ぶさいく過ぎて、萎えたら、困る」
「は?」
「いっぱい泣いたから。顔酷いし、向き合って抱いてとか、無茶言った」
「おまっ……」
 一度言葉を詰まらせた相手はその後数回深呼吸をして、それから酷く真面目な声で、かわいいよと吐き出した。

続きました→

 
 
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まるで呪いのような16

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 彼が自分の前で泣くのは何年ぶりだろう。恋人止めたいって持ちかけた先日だって、みっともなくグズグズ泣いていたのは自分だけで、何度か泣きそうだとか泣いてるみたいだと思うような顔は見たけれど、結局彼が本当に涙を流すことはなかった。
 どうにもならない学年差に不機嫌な様子はよく見せたけれど、子供の癇癪で怒って泣き叫ぶような姿を見せていたのはせいぜい小学校低学年くらいまでな気がする。その後も時折、悔し泣きのような姿は見てきたけれど、辛いとか苦しいとか悲しいとか、そんな感情が漏れてくるような泣き姿は見た記憶がない。こんな風に泣く彼を、今日、初めて知った。
 あの日はゴメンって言われても、放さないからなって宣言されてるみたいな感じで、縋られてるような気にはならなかったけれど、これは確かに、放さないでくれと必死に縋られているようにしか感じない。
 じゃあ彼は、こんな風に何度もゴメンと繰り返しこちらをがんじがらめに捕まえながら、次の手とやらを考えているんだろうか?
 だったらいいな。なんて思っている自分がおかしくて、ついついクフッと笑いを漏らしてしまったら、腕の中の体がビクついた。なんだかますます愉快な気分になって、クスクスと笑い続けてしまう。
「お゛い゛っ」
 耳の横で唸るように響いた不機嫌丸出しの酷い声に、また少し笑ってしまった。
「お前さ、こういうの、もっと見せなよ」
「な゛、んでっ」
「お前が泣いて謝りながら、お願いだから放さないでって縋られるの、悪くない。執着されてるってより、必要とされてるみたいでちょっと嬉しい。で、ゴメンの言葉で俺を縛り付けて、その間にお前は次のどんな手考えてんの?」
「おまえっ、ほんっと、もう、クッソ悔しいぃぃっっ」
 抱きしめる腕を跳ね除けるようにガバリと起き上がった相手は、袖口で涙をゴシゴシ拭った後、すっかり強気な顔で仕切り直すと宣言した。泣いた目だけは真っ赤なままだったけれど。
「仕切り直すって、何を?」
「セックス」
「は?」
「まさかお前があんなネタで抜いてるとか思ってなかったってのもあるけど、お前に噛み付くの止められない自分にもビックリした。から、優しくする努力も甘やかす努力もするし、お前にいっぱい好きって言って色んなとこキスして抱きしめるから、笑わすの無理で泣かすと思うけど、抱かせて」
「え、ちょ、なんで」
 今までこちらがして欲しいこと優先みたいな態度を一切崩さず、求められてる気がちっともしないと思わせてきた彼の口から、まさか抱かせてなんて言葉が出てくるとは思わず驚いた。
「だから、お前に噛み付くの止められなかったから」
「なぁ、お前が俺に噛み付く理由って、結局なんだったわけ? お前、妄想の中でも俺に噛み付いてんの? で、噛みつかれる俺はそれに感じたりしてたの?」
 もっと強く噛んで泣かしてもいいよって言ってああなったんだから、きっと妄想の中でも泣かされてはいないだろう。
「噛み付いてるし感じてるけど」
「マジかよ。ムリだろ、普通に考えて」
「ただの妄想なんで」
「だよな。つか、だったら痛がってるだけなんだからヤメロ……って、ああ、止められないのか……」
 優しいのと甘ったるいのの中に噛まれて痛いのが混ざるの、ホント気が散るどころじゃないから、出来れば止めて欲しいんだけど。でも、止められないならそれも受け入れてくしかないのかもしれない。慣れるようなものかはわからないけど、彼は自分を噛みたいんだって思えば、まぁ耐えられなくもないだろう。
 なんてこちらは噛まれる前提での覚悟を固めようとしているのに、相手はだから抱かせてって言ってんだろと言ってくる。そういうのは、もう少しわかりやすく理由も一緒に言って欲しい。
「俺を抱いたら、噛まなくなるようなもんなの?」
「多分」
「なんで?」
「お前に優しくしたいし感じさせたいし気持ち良くなって欲しいのに、ぜんぜんそうならないどころかお前どんどん冷めてくし、お前がもう止めて欲しいって思ってるから、だったらこのまま犯してやろうかって思っちまうことがあって、まぁ、つまり、俺は思ったよりずっとお前を抱きたいみたいだった」
「待て待て待て。サラッと犯すとか言ったぞ、今」
「な、ホント、噛むだけで済んで良かったよな」
「なんだそれっ」
 この後も彼との微妙に噛み合わない会話を続けた結果というか、多分あまりはっきりと言いたくなかったらしい彼の気持ちを根気よく引きずり出した結果、ようやく、彼があんなにガブガブやってたのは犯したいって衝動を堪えるためだったことと、噛むだけで済まずに本気で襲ってしまう前に抱かせて欲しいって話なんだと理解した。

続きました→

 
 
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まるで呪いのような15

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 さっきみたいな、痛い痛いと喚いてしまうほどの強さで噛まれることはなかったけれど、服を脱がされていく間、相手の唇はずっと剥き出した肌のどこかに触れていたし、抵抗しようとしたり逃げようとするたびに歯を立ててきた。本気で抵抗すれば、本気で逃げれば、容赦なく相手も本気で噛み付いてくるんだろう。
 そのくせ、いざ全ての服を剥ぎ取られた後は、アチコチに優しいキスを降らされる。唇を肌の上から離している時には、何度も好きだと繰り返してくれる。甘やかに名前を呼んでくれる。
 そんなことをされたら恥ずかしいばかりかと思っていたけれど、実際は羞恥よりも困惑が勝っていた。だって時折やっぱり、優しく触れるだけの唇が開かれて肌に歯が当たって、こちらが痛いと漏らすまで噛まれてしまう。
 ちょっとでも痛そうな声を漏らせばすぐに開放してくれるけれど、優しいキスや好きをくれる相手と、噛み付いてくる相手とのギャップが激しすぎた。
 噛まれるのがなくたって、恥ずかしいばかりできっとキモチイイなんて思えないと思っていたのに、優しい部分にだけ集中して気持ちよくなるなんて到底無理だ。優しくされながら噛まれるなんていう、全くわけがわからない状況に興奮出来るわけもない。自分で触ってないし、相手も触れてこないペニスは、もうすっかり萎えてしまった。
「痛……った」
 声を上げればやっぱりすぐに顎の力は弱まって、宥めるみたいに舌が這う。ただ、噛まれる頻度や強度が僅かにだけど少しずつ上がっていってるのは、きっと気のせいじゃないはずだ。
「好きだ」
 熱い吐息と一緒に吐き出される言葉には、どんな想いが篭っているんだろう。本当にこちらを喜ばせたい必死さで繰り返してくれているのか、なんだかもうわからない。
 すでに惰性となって繰り返しているだけかもと疑う気持ちもあるし、もっと別の何かかもと思う気持ちもある。もっと別の何かは、とても漠然としていて検討もつかないのに。
 本気で抵抗して止めさせようとしたら、本気で噛みつかれて最悪流血沙汰になるんだろうなという妙な確信だけはあったから、内心どれだけ困惑してても黙って好きにさせてしまっているけれど、本当にそれでいいのかはわからない。というか多分ダメな気配しかない。
 彼がしたいという、泣かすかもしれない酷いことって、なんなんだろう?
 本当はもっと強く噛み付いて、痛い痛いと泣かせたいのが本心なら、いっそやってしまえばいいのに。
「ぃっ……」
 また、噛まれた。今は仰向けに押し倒されていて、腹の方から上に向かってキスを落としてきていた相手が、ここで一旦終了とでも言うみたいに噛んだのは右肩だった。宥めるように舐められて、そして繰り返される好きの言葉。けれど今回はそのあとゴメンと続いてドキッとする。
「え……」
「好きだよ。こんなに好きで、こんな好きしかなくて、本当に、ゴメン」
 顔の真横から告げられる声は変わらず甘やかだけれど、言葉の内容と一致しない甘さに胸が騒いだ。どんな顔をしているか知りたくても、彼自身の頭が邪魔で振り向けない。
 焦りながらも必死で考えた。何を返すのが正解なのか。彼が欲しい言葉が何か。
「いいよ」
 声に出したら、自分自身、それでいいって気持ちになった。本気で噛みつかれるのが嫌だから抵抗しないんじゃなくて、酷い真似をされてもいいと思っているから抵抗しないんだと、曖昧だった自分自身の気持ちが定まっていく。
「俺も、お前が好きだよ。だからいい。お前の好きなように触ってって、俺が言ったんだよ。もっと強く噛みたいなら、痛いって言っても止めなくていいよ。だって痛くて泣いちゃってもいいんだろ? お前が俺を泣かせたいなら、泣かされても、いい。お前が俺にしたいこと、知りたい」
「違う。ゴメン、違う。優しくしたいし甘やかしたい。本当にそう、思ってる」
「うん」
 もちろん彼のそんな気持ちを、嘘だなんて思っちゃいない。
「泣かせたくない。笑わせたいんだ。ホントに」
「うん」
「ゴメン。わかんない。出来ない。こんなに出来ないなんて、思ってなかった。ほんっと、キモチワルイ」
「お前……」
 泣かせるかもとは聞いてても、泣くかもなんて話は聞いてないぞと思いながら、震えている体に腕を回して抱きしめてやった。

続きました→

 
 
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