まるで呪いのような8

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 どうしていいかわからないまま固まっていたら、すぐに背を撫でる手が止まって、それからそっと彼の熱が離れていった。思わず顔を上げてしまえば、眉間にしわを寄せた渋面でこちらを見つめていた相手と視線が絡む。
 すっと寄せられた相手の顔は不満そうなものから不思議そうなものに変わっていて、何かを探るみたいにジロジロと見てくるから、困るというかなんだか焦る。目を合わせるのを躊躇って、視線があちこちさまよってしまう。
「もしかして、あのまま触ってても、良かった?」
 嫌なんだと思ったと言うから、嫌じゃないと慌てて否定した。
「やじゃない。やじゃないけど、でも、」
「でも、何?」
「その、急だったから、どうしていいか、わかんなくて」
「それは嫌なのと違うわけ?」
「違うよ」
 そうなんだと呟いた相手は、やっぱりまた眉間にしわを寄せて、難しいなとぼやいている。
「それで、泣き止んだっぽいけど、お前の話ってもう出来るの? ビックリして涙止まっただけで、落ち着くまでもっと待てってなら、その間俺はまたお前に触っててもいいの? それとも、嫌じゃなくてもどうしていいかわからなくなるから触らないでとか思うの? その判断を俺に察しろってのは、正直かなりキツイんだけど」
「あのさ、なんで、俺に触ろうって、思ったの」
「さっき、俺に触られたいって言ってたし、そう思ってるなら、泣いてる時は抱きしめて慰めたら嬉しいと思うのかと、思って」
 ああ、やっぱり結局、こちらが嫌じゃないか、嬉しいと思うかどうかが、彼の行動の判断基準なのか。泣いているこちらに胸が騒いで、抱きしめ慰めたいと思ってくれたわけじゃない。諦めにも似た気持ちが胸の中にじわりと湧いていく。
「でもさっき泣いた時、お前、触ってこなかったじゃん」
 指摘すればすぐに、迷ってたんだと返された。頼んで触って貰うのは惨めだなんて言われた直後に触ったんじゃ、結局頼まれて触ってるのと同じになりそうで、惨めだって泣いてるこちらを余計惨めに思わせそうだったと言われて、確かにそれはありそうだと思ってしまった。ただ、触ったほうが良さそうだから抱きしめて慰めたって言ってしまったら、結局同じだってところまでは気が回らないらしい。
「そうだね。多分、凄く惨めになって、きっともっと泣いちゃってたよね」
 自嘲気味に認めれば、相手はなんだか気まずそうだ。でもこんなの、自嘲せずにいられない。
「お前がさ、好きって言ってくれたり、キスしてくれたり、キスさせてくれたり、今みたいに泣いたら抱きしめて背を撫でてくれようとするの、全部、俺を満足させるためだよね。恋人なんだからセックスしようって言ったら、お前、応じるんだろ。俺相手に抱かれる想像はしたことなさそうだったけど、俺がなにがなんでも抱く側がいいって主張したら、きっと折れて俺に抱かれてくれるんだろ?」
「でもお前は、それじゃダメ、って話なんだろ」
「そうだね」
「お前が欲しがるもの渡してもお前が満足しないらしいのは、わかってる。でもお前が本当に欲しがってるものを、俺は持ってない。渡せない」
「うん。それは、知らなかった。お前はちゃんと持ってて気付いてないだけだって思ってたから、それは、欲しがって困らせて、ゴメン」
「なんでそうすぐ謝るかな。俺のが絶対酷いこと言ってるし、しようとしてるのに」
 相手はまた困った様子で泣きそうな顔になっているから、何かが引っかかって、その引っ掛かりを引きずりながら口を開いた。
「そういやお前、俺に謝りたくないって思ってる? ぽいな?」
 思考より先に言葉が吐き出されて、自分の吐き出す言葉で確信する。
「それってお前の執着を育てたのが俺だから? 俺の自業自得で、自分は悪くないって思ってんの?」
「違っっ!」
「謝るようなことしてないって主張じゃないなら、なんなの?」
「それ、は……」
 この質問は彼をかなり動揺させたらしい。謝りたくないと思っている事に、気づかれたくなかったのかもしれない。
「俺の場合は、謝って、許してもらうような、ものじゃない、と思う、から?」
 何度も言葉をつまらせた挙句、語尾が上がって疑問形になっている。もちろん、どういう意味かと聞き返した。

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まるで呪いのような7

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 しばし互いを見つめ合った後、揃って大きく息を吐く。
「どっちから言う?」
「お前から」
 言えば再度小さく息を吐いてから、わかったと頷き話し出す。
「さっきも少し言ったけど、お前を先輩って呼ぶの、好きじゃない」
「それは知ってるよ」
「特に学年が変わる4月が嫌い」
「それも知ってる」
「うん。ただ、知ってるお前に気遣われるのは嬉しいけど、それも嫌い」
 初耳だと言えば、嬉しいが勝ってたから言わなかったのだと返された。
「お前、俺に凄く気を遣うよね。それって俺が怒ったり拗ねたりすると面倒くさいからだろ?」
 すぐに肯定できずにためらえば、怒ったり拗ねたりしないから認めていいよと言われたけれど、やっぱり頷くことなんて出来ない。
「お前の機嫌が悪い時、面倒くさいと思うことがないとは言わないけど、そもそもそこまでお前に気遣ってる自覚がない」
 慣らされ過ぎと言って笑った相手は、笑っているのに泣きそうにも見えた。
「恋人になった俺が同じ学校行ったら、お前、今以上に俺を気遣わなきゃならなくなると思ったんだよ。お前はきっとそれも受け入れちゃうだろうけど、これ以上お前の目指してる人生の妨げになりたくないし、恋人って関係があれば、学校行ってる間くらいお前と離れてても大丈夫って思ってた。実際、小学校と中学校ってほぼ隣なのに、お前が中学に上がっちゃった時より、お前が遠い高校通ってても、今年のがずっと気持ち楽だったし」
 ずっと恋人になって良かったと思っていたと言った相手は、それから少し申し訳なさそうに、でもお前は俺のっていう安心感のためだけに恋人になったとも言えると続けたから、胸がきゅっと締め付けられて痛い。
 やっぱり、だとか、そうだと思った、だとか。そんな言葉が頭の中を巡っている。
「多分お前も知ってた、だろ?」
 そっと尋ねられて、でも頷けなかったし、知ってたと吐き出すことも出来なかった。唇が、震えている。
「高校上がったら、別れてって言われるかもとは思ってた。でももう逃がす気なんてなかったから、お前と同じ高校は通わなくていいって、思った。ただ、同じ高校に行っても、お前に別れ話出されると思ってたから、同じ高校に通わないから別れるって言われてるらしいのだけ、すごい想定外」
「だ……って、」
 咄嗟に吐き出した声は酷く震える涙声で、慌てて唇を噛み締めた。しかもそんな自分の声に触発されたみたいに、とうとうまた涙がこぼれ落ちるから、抱えたままだった膝にもう一度顔を埋めてしまう。
「ちょっと、待っ、て」
 落ち着いたらちゃんと自分の話もするから。できるだけ正直に、惨めな片想いも晒すから。そんな気持ちを込めながら、どうにかそれだけ吐き出した。
 だってだってと膨らむ想いに胸が苦しい。なんでなんでと脳内にあふれる言葉は煩雑でまとまりがない。胸の中も頭の中もぐちゃぐちゃになっていて、悲しくて苦しくて辛いのがどこから来ているのかわからないまま、ただただ涙になってあふれて行くようだった。
 そんな中、横から伸びてきた腕にグイと引き寄せられて抱きしめられる。さっき泣いた時は放置だったくせに。驚いて硬直してしまえば、耳元で嫌かと短く問われた。それは酷く優しい声音だった。
 嫌なわけがない。ただ、なんでこんなことをするのかわからなくて余計に混乱するし、なのに嬉しいのがますます切ない気分にさせるし、落ち着くどころじゃなくなってしまう。
「どんだけでも待つから、お前に触らせてて」
 やはり優しいままの、なんだか少し甘ったるい声音と、そっと背を撫でる手。こんな彼を、自分は知らない。

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まるで呪いのような6

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 口の中が嫌な感じに乾いていく。でも目は逸らせないし、口を開くことも出来ない。
「俺が、怖い?」
 やがてゆっくりとして単調な声が、確かめるように問いかける。怖くないよと言ってやるべきなのかもしれない。でも心にもない否定を口に出したってどうせ相手は気づくだろう。
「沈黙は肯定、だろ?」
 ほら、何も言わなくてさえ、伝わっている。
「そりゃ……あんな話聞かされたら、こわい、よ」
 震えはしなかったが、乾ききった口から発する声は掠れてしまった。
「うん。自分でもわかるよ。俺のお前への執着、すげーキモいし怖い。こんなの、お前のくれる好きと、同じになんてなりようがない」
 思いの外穏やかに頷かれた後、少しだけ震えた声が続く。その声に胸の深い所が共振したような気がして、いつもとは違う感じに切なく疼いた。
「お前に自覚しろって言われたから、色々考えたてみたんだよ、これでも」
「うん」
「でも考えるほどに、自分の異常性ばっか自覚する。お前が俺じゃない誰かを好きになったり、恋人作ったりする前に気づけたのだけは、良かったと思ってるけど。でもお前が欲しいような綺麗な想い、どんだけ探しても、俺の中にはありそうにない」
 彼の声はもう震えたりしていない。それどころか、落ち着いた静かな口調だった。なのに苦しくて仕方がないと、泣き叫ぶ彼の姿が脳裏に浮かんでくる。
 さっきとは全く別の理由で、また泣いてしまいそうだった。だって知らなかった。気づかなかった。望むような想いが返らないと嘆いてばかりで、彼にそれを求めることが、こんなにも相手を苦しめていたなんて思いもしなかった。
「ゴメン」
「なんでそっちが謝んの?」
「俺の、俺を恋愛感情で好きになってってのも、お前にとっては呪いだったんだろうなって、思うから」
「そんなの言われたら、俺、どんだけお前に謝り倒さなきゃなんねぇんだよ。お前が言うところの俺の呪いのせいで、お前の人生、これからさきもずっと狂いっぱだし、しかも逃さないって宣言までしてんのに」
「でもその呪い、俺だけが苦しいわけじゃないから。お前自身の呪いに、さらにお前を苦しめる呪いを、俺が上掛けした感じになってるかな、って」
 何かを考えるように少しの間黙ってから、相手は困ったみたいに、そんなんだから俺に呪われんだよと言う。意味がわからない。
「俺のお前への執着が俺自身を苦しめるのはただの自業自得だけど、ただ、その執着心ここまで育てたのお前なんだよね。って言ったら責任取ってくれる?」
「えっ?」
 唐突過ぎる責任を取れという言葉に酷く動揺した。いったい何を要求されるのか、全く想像がつかない。
「恋人やめないで」
「ああ、なんだ」
 そんなことかと思って安堵したら、相手はやっぱり困ったように笑っている。
「お前が欲しい好きをあげれないし、怖いっていった相手なのに、どうしてそんなあっさり受け入れちゃうんだよ。お前がそうやって俺のキモい執着を受け入れてきた結果が今だって、本当にわかってんの?」
「あー……俺が育てたって、そういう意味か」
「やっぱりわかってなかった」
「いやでもわかってたって、こんなの、受け入れる以外ないだろ」
 それとも今なら恋人をやめさせてくれるってことなんだろうか。聞いてみたら、それはダメだと即答されたから、ますます何が正解なのかわからなかった。
 困って首を傾げれば、相手はもどかしげに口を開く。
「あのさ、俺のお前への執着が、取り返しつかないほどキモ怖いものに育ってるのわかったろ。なのにそれ、本当に受け入れてくれる覚悟で言ってんの?」
 それ以外の道がないのに何を言っているんだと言いたいところだけれど、多分きっと不安なんだろう。覚悟があるよと言葉で欲しいのだ。
 つまり、彼の言う責任取って恋人のままでいてというのは、彼自身が異常だと自覚しているほどの執着を受け入れる覚悟を持ってくれという話らしい。
「なぁ、俺に必要な覚悟って何? これから先も、お前以外を恋愛的に好きにならないとか、お前以外の恋人を作らないとか、お前以外とキスもその先もしないとかだけ? それとも執着育ったから、俺にお前以外の友達作るなとか言い出すの? 俺をお前以外の誰とも関われないように閉じ込めたいとか、そういうのも考えてたりすんの?」
「恋人でいてくれるなら、友達作るなとか閉じ込めようとかまで思わないよ。なんで高校別のとこ選んだと思ってんの。お前が、俺の恋人になったからだよ?」
「え?」
「まぁ同じ学校入ったらまた2年は先輩と後輩になるのも嫌だったけど」
「待てよ。なんで俺と恋人だったら、同じ学校を選ばないの?」
 一緒に通学したり、また一緒に部活したり、授業は別にしても一緒に過ごす時間は確実に増えるのに。
「お前が同じ高校通うなら、俺、お前に恋人やめたいなんて、言わなかったけど」
 恋人だから同じ学校を選ばなかったと言った相手に驚かされたように、こちらの言葉に相手も相当驚いたようだった。

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まるで呪いのような5

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 静かな部屋の中に、自分が鼻をすすり上げる音だけが、時折響いている。別に優しく慰めて欲しいわけじゃないけど、だからって何も言われず宥められることもなく、放置されるとも思ってなかった。
 こんな自分を見て、彼は何を思っているんだろう?
 お前のせいでこんなに辛いと、泣いて責めたいわけじゃないけれど、実質そうなっているのは確かだ。呆れているか、怒っているか、ただただ持て余しているかわからないけど、せめて、もういい加減潮時なんだと、理解してくれてたら良いなとは思った。
 ホント、こんな関係、続けるべきじゃない。
「そろそろ落ち着いたかよ」
 どうやらこちらの涙が止まるのを待っていたらしい。その声はやはりどこか苛つきを抑えているような気配がした。
「ん、ゴメン。いいよ。大丈夫。だから、言いたいことあるならどうぞ」
「お前が嫌がることしか言えそうにないんだけど」
 気まずそうに言い募られて、思わずフッと笑うみたいな息が漏れた。今更だ。気遣われた優しい言葉なんていらない。
「何言ったっていいよ別に」
 少しばかり顔を横に向けて、相手の顔を確認した。腿に肘を置いて組んだ手に口元を押し付けるようにして、前かがみに前方を睨みつけているようだった相手が、それに気づいて同じように少しだけ顔をこちらに向ける。酷い仏頂面だった。
「最後にお互い言いたいコトぜんぶ言って、それで終わりにしよ」
 もう一度、フッと笑って柔らかに語りかける。対象的に、相手はグッと眉間に力を入れたから、ますます機嫌が悪そうだ。
「あー……じゃあ言うけど、お前が泣いて嫌がろうと、恋人関係解消する気ねぇし、言いたいこと言い合うのは賛成だけど、それで終わりにはなんねぇし、しない」
 さすがに目を瞠ってしまった。相手は仏頂面のまま、絶対だと付け加えた。
「お前の執着心、ホント、おかしい」
 声が震える。相手は嫌そうに笑って見せたが、これはたぶん自嘲というやつだ。
「知ってる。俺は、多分間違いなく、お前に対する感情がかなりおかしい」
「でも俺と恋人になったのは俺のためで、俺がお前を好きだなんて言い出さなきゃ、お前は俺と恋人になってなかったろ? 上手く行ってないのに、元に戻ろうってのが、なんでダメなんだよ」
「だって俺と恋人やめたって、狂ったお前の人生、修正なんかできっこないし。だったらこのまま、俺に責任取らせとけよ」
「なんでだよ。もう修正できないとは限らないだろ」
 限るよと言い切る声は酷く冷たくて、どこか絶望に満ちている。
「お前の人生の修正は出来ないんだよ。というより、元々お前にはまっとうな道なんて用意されてない」
 ゾクリと背を走ったのは多分恐怖だ。どういう意味だと問う声は、やっぱり震えてしまった。
「元に戻るんじゃなくて、お前が俺を好きだと言わなかった場合で考えたほうが、多分わかりやすい。もし俺があのままお前の親友を続けてたとしても、お前が他に恋人作るのは許さないし、邪魔するし阻止するし、最悪寝取ったりもありえる。もちろん、今ここでお前と恋人関係やめたって同じ。更に言うなら、お前が俺との友情切っても同じ」
「何それ」
「相当ヤバイよね。お前が俺から逃げようとしたら、かなり過激なタイプのストーカーになると思うんだけど、逃げ切れる自信ある?」
 無理だと思ったけど、無理だと認めるのもなんだか怖い。黙ってしまったら、相手は大きく息を吐きだした。
「とまぁ、お前との関係を突き詰めてくと、相当やばい発想しか出てこねーんだよ。だから俺にとっては、お前が俺を好きだって思ってくれたってのは間違いなくかなりありがたい状況で、この関係絶対手放したくないわけ」
 そこで一度言葉を切った相手が、じっとこちらを見つめてくる。先程までの怖い冷たさはない。でもなんだか全く知らない人物を見ているような気もした。

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まるで呪いのような4

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 もう待てないんだと訴えれば、やっぱり相手は意味がわからないという顔をする。そりゃそうだろう。恋人になって、好きだと言って、キスもする関係になっている上に、今まさに、キス以上の行為にも及ぼうとしている。そんな積極性を見せてなお、恋人からもう待てないって言われたら、一体何をと思うのは当然だ。
 そして根本的な自分たちのズレを、言って相手が理解できるのかも正直怪しい。そもそも相手に自覚があるのかさえわからない。実のところ、恋人と定めた以上、彼の中では執着心を恋愛感情と認識している可能性もあった。
「お前にして欲しいことなら、最初からずっと言ってる。俺を、恋愛感情で好きになって、って」
 いろんな想いが溢れかけて、声が震えて喉に詰まる。しかもそれを聞いた相手が、酷く気まずそうな顔をしたから、どうやらちゃんと自覚があったらしいことにも気づいてしまった。
「何度も、好きだって言ってる」
「うん」
 苦々しげに吐き出されてくる声に、こちらもそれを肯定するように頷いてみせる。
「でも、お前が好きなの、幼なじみで親友な俺、だろ」
「なんで、それじゃダメ、なんだよ。恋人になったし、キスだって何度もしてる。キス以上のことだって、お前相手なら多分出来るよ?」
「だってお前、俺に抱かれたいって思ったことある?」
 俺はあるよ、なんてもちろん言わない。言えるわけがない。そして相手ももちろん、肯定なんて返してこない。
「逆でもいいよ。俺を抱きたいって思う?」
「考えたことなら、ある」
 渋々と吐き出されてくる声に、正直だなと思う。そしてそう思ったまま、それは口からこぼれ出た。
「正直だね。つまりしたいって思ったことはない、って事でしょ」
「いやだから、考えたって言ってんだろ」
「だからそれ、出来るかどうか考えた結果出来るって思っただけで、別にしたいと思ってるわけじゃないだろ」
「あー……お前で抜いた事あるけど、って話、だけど。つうか俺のおかず、今はほぼヒャクパーお前なんだけど」
「うぇっ!?」
 嘘でしょって言ったら、嘘じゃねぇと即答されたけど、さすがに恥ずかしいのか今度は相手が顔を背けてしまった。
「ただ、恋人いんのに恋人以外で抜くのどうなんだって気持ちでつーか、お前脳内でいじくり回しながらイケるのと、恋愛感情とは多分別な気がするっつーか、んなことしといてこんなこと言うのどうかとも思うけど、好きってやっぱよくわかんねぇって思ってる部分は確かに、ある」
 なんとも気まずい沈黙が降りた。
 お前で抜いてるなんて告白をうっかり喜んでしまうほど、自分は彼の想いに飢えているのに、恋人以外で抜くのは悪いって気持ちからしてるだけみたいに取れる発言や、やっぱり好きって気持ちはわからないと認める発言に、気持ちが落ち着かなく揺れている。
「それに、お前で抜いてるけど、だからってお前の体を実際にいじり回したいとか思ってるわけじゃないし」
 沈黙に耐えかねたのか、顔は背けたまま、ボソボソとした彼の声がさらに続いた。
「えっ、えっ……なんで?」
 そこまでしといて現実の自分は対象外とか意味がわからない。
「なんでってなんだよ。つかお前こそどうなんだよ。俺で抜いたりしねぇの?」
「そりゃ、もちろんお前で抜くけど……」
「じゃ一緒だろ。お前だって俺で抜いてたって、実際には俺に触りたいとか弄らせろとか言ってこないんだから」
「言わないだけで、思ってないわけじゃない」
「じゃあ言えよ。なんで言わないんだよ」
 だってそんなの、言ったらしてあげるって返ってくるのがわかりきっているからだ。
「なんで、わかんないんだよ。お前が今、実際に俺を弄り回したいとは思ってないって、言ったんじゃないか。お前は俺に触りたいなんて思ってないのに、俺だけお前に触られたいって思ってんだよ? そんなお前に、お願いして触って貰って、俺が惨めじゃないとでも思うの?」
 ああダメだ。泣いてしまう。
 下ろしていた足をベッドの上に引き上げて、抱え込んだ膝に顔を埋めるようにして背を丸めた。

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まるで呪いのような3

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 改めて、恋人やめたいんだけど、と口に出す。恋人という関係だけ解消して親友に戻りたい、というのであれば、相手の執着心を刺激しにくいのではと考えた、姑息な言い回しであることは認める。
「なぁこれ、どうやって使えばお前的に満足なの?」
 なのに相手は、こちらの恋人止めたいって言葉をまるっと無視した言葉を吐いた。
「は?」
「捨てないし、引き出しにも入れないし、使う。けど使い方わかんねぇから教えて」
「捨てろよ」
「ヤダ」
 どうやらこちらの言葉を無視したわけじゃなかったらしい。恋人云々に触れずとも、恋人関係をやめる気はないという彼の意思が、嫌というほど伝わってくる。
「貰ってもたいして嬉しくもないようなもの、むりやり使おうとする必要ないだろ。あと、恋人やめたいとは言ったけど、お前の親友やめたいとまでは言ってないからな」
「でも親友やめたいって言われてるのとほぼ同じだから、むりやりだって使う必要はあんだよ。あと、一応言っておくけど、嬉しくないとは言ってないから」
 熱のない声だった。
 勉強机の椅子を引いて、向き合って話せるよう横向きに腰掛けて話していた相手が、ケースを手に立ち上がり、そのままベッドに腰掛けているこちらへ向かって歩いてくる。
 つり上がった眉も、キュっと引き結ばれた口も、まるで苛立ちを押さえ込んでいるようだった。だからこの後彼に何を言われたとしても、みっともなく泣いたりしないように、相手の怒りを受け止める覚悟を決めるしかない。
 相手はベッドヘッドの棚に置かれた目覚まし時計の隣にケースを置いた後、今にも肌が触れ合いそうなほどの近さで隣に腰を下ろした。
「使うってのとは違うかもだけど、取り敢えず、あそこ置いときゃ毎朝目に入る。中身は後で筆箱入れる」
 やっぱり何かを酷く押さえ込んだような声ではあったけれど、いきなり別れを切り出したこちらを、糾弾してくる気はまだないらしい。
「で?」
「で、って?」
「恋人やめたいってのは、好きって言ったりキスしたりだけじゃ不満だってことだろ? で、何したら恋人って満足すんの、って聞いてる」
 察しろとか無理っぽいんだけどと零しながら、相手は少し身を乗り出して、こちらの顔を覗き込んでくる。何かを探るような冷たい視線が痛くて、何かを見透かされてしまうのが怖くて、逃げるようにそっと顔を背けてしまう。
「キス以上のこと、すりゃいいの?」
「は?」
 驚いて背けた顔を戻した先、相手は真剣な目でこちらを見つめていた。冗談でも何でも無く、本気で言っているらしい。
「男同士でもセックス、できんだろ?」
「待て待て待て。するわけないだろ」
「なんで? 付き合ってからの期間考えたら、むしろ遅い方じゃね?」
 突っ込んだり突っ込まれたりは無理にしても、取り敢えず抜き合いくらいなら今すぐ出来そうだけどと言った相手は、いきなり股間に手を伸ばしてくる。
「ひぇっ」
 驚きすぎて妙な声を上げてしまえば、フッと息を吐くように笑れて、けれどそれによって相手の纏う空気が、ようやく少しばかり緩んだ気がした。
「や、ちょ、なっ、」
 もちろん握られた最初は全く反応なんてしていなかったけれど、確かめるようにグニグニ揉まれて、焦っているうちにそれはあっさり形を変えていく。
「出来そうだな。で、どうすんだよ」
「どうするって、何、が」
「このまましていいの? てか気持ち良くイカせてやったら、恋人やめるっての、撤回する気ある?」
「撤回、は、しない」
「なら、どうして欲しいのか、何したら満足すんのか、教える気になったら言って」
 それまで取り敢えず続きしとくと言いながら、股間に置いた手が再度動き出すから、慌ててその手首を押さえるように握った。
「やめろって」
「俺のポンコツな察し能力が、取り敢えず続けろって言ってる。ていうか、ホント、何していいかわかんねぇんだって。だから言えよ。なるべく、叶えてやるから」
「だから!」
 思わず叫んだ。
 違う。そうじゃない。何かをねだって、それを叶えて貰えば、満足できるって話じゃない。
 胸が軋んで痛い。怒りをぶつけられてるわけじゃないのに、結局、みっともなく泣いてしまいそうだった。

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