知り合いと恋人なパラレルワールド6

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 先輩を自宅に匿っていた数日はずっと背中合わせで寝ていたが、翌朝は先輩の腕の中で目を覚ました。
 先輩は既に起きていて、どうやらこちらが目覚めるのを待っていてくれたらしい。
「おはよう」
「おはよう、ございます?」
「なんで疑問形だよ」
 おかしそうに笑う先輩は随分と機嫌が良さそうだ。まだ寝ぼけてふわふわとしながらも、ホッとして、それから良かったと思う。けれどそう思う反面、覚醒しきっていない頭では、何が良かったのかがわからない。
 なんでそう思うのだろうと、寝る前のことに思いを馳せた。そうして思い出してしまった色々に、顔が熱くなるのを自覚する。
 ひどい顔をしながら、向こうとの接点が無くなったと落ち込む先輩を、向こうの自分の代わりにしていいとまで言って誘ったのは自分だ。キスをして、服を脱がされ肌を撫でられ、お尻の穴を弄られながら足の間を突かれて、いやらしい声をあげながら先輩の手の中に何度も精を吐き出した。
 先輩がイッて終わった後の記憶はイマイチはっきりしないが、疲れきってぐったりと横たわる自分の体を、先輩に温かなタオルで丁寧に拭かれたことは覚えている。
 恥ずかしさにそっと目を伏せたら、やはり先輩が笑う気配がした。けれどそれは柔らかで優しい気配だった。
「体、大丈夫か?」
「あ、はい」
「久々で辛かったろ? というか、やっぱ下手だったよな」
「えっ? いや、めちゃくちゃ気持ち良かったですけど」
 あれなんかオカシイという既知の違和感がありながらも、開いた口からは思考より先に言葉が滑り落ちる。
「だいたい先輩より先に、俺ばっか3回もイッたじゃないすか」
「は? ってまさか……」
 どうやら先輩も違和感に気付いたらしい。慌てたように体を起こすと、ベッド脇の充電スタンドに置かれた携帯に手を伸ばす。
「戻って、る……」
 暫く2台の携帯を弄っていた先輩は、やがて呟くようにそう告げた。それからこちらに向けた背中が小さく震えだす。
 やっぱりと思いながらも、それを素直に喜ぶことは出来なかった。胸の奥のどこかがシクシクと痛い。
 まさか寝ている間に入れ替わってしまうなんて思ってもみなかった。なんでこのタイミングで戻ってしまうのだと、恨む気持ちをどこへ向けていいのかわからない。
「おかえり、なさい」
 それでもどうにか、震える背中に向かって告げる。
「ああ」
「戻ってこれて、良かった」
 それは自分自身を納得させるための言葉だった。
 こちらの世界に馴染むための、先輩の苦労も苦悩も、一番近い場所で見てきた。元の世界へ帰れたのなら、それはきっと喜ぶべきことなのだ。
 いつ自分の手の一切届かない場所へ帰ってしまうかもわからないような相手を、好きになった自分が悪い。この落胆は、それを忘れて、このままここに居続けるのだと、自分に都合よく解釈してしまった結果だろう。
「バカだな」
「え?」
 携帯を戻して振り向いた先輩は、少し赤い目をしていたけれど、既に泣いては居なかった。
「この状態で目覚めてお互い最初は気付かなかったってことは、お前も向こうの俺と寝たってことだろ」
「まぁ、そうですけど」
「本心は、戻ってくるなよってとこじゃないのか?」
 自虐的な笑みに、なんだかカッと怒りが湧いた。
「先輩こそ、向こうのビッチな俺とヤッて、戻ってきたくなくなってたんじゃないですか?」
「いや。戻ってこれて良かったと思ってる」
 自分でもわかるほど剣のある言葉を投げつけてしまったのに、それを受けても先輩は、むしろ穏やかな声を返してくる。
「向こうのお前には、向こうの俺が必要だ。俺じゃ所詮、よく似た代わりにしかなれねぇよ」
「そんなの……」
 良く似た代わりにしかなれないなんて、そんなのは自分だって同じだ。弱っている所に付け込んで、それでもいいと誘ったくせに、今こうして辛いのは、自分の覚悟が甘かっただけだ。
 泣きそうになる気持ちをグッと堪えたら、伸びてきた手がわしゃわしゃと頭を撫で回した。
「悪い。お前も同じだな」
 苦笑いの申し訳無さそうな顔に、確信してしまう。
 きっと自分は、この人のことも好きになる。

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知り合いと恋人なパラレルワールド5

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 ベッドの上へと引き上げられて押し倒される。
 柔らかなキスは最初だけで、すぐに貪るような激しいものとなって、あっさり翻弄されるばかりになった。
 ドキドキとして恥ずかしくて、肌に触れる手は熱くて気持ち良いけれど、やはり少し怖くもある。そんなこちらの躊躇いと不安は、どうやら先輩にも伝わってしまうようだ。
「逃げ出すならここが最後だぞ」
 キスと肌に触れる手を止めて、怒っているような、それでいて泣きそうな顔をしながら見下ろしてくる。そんな顔で睨まれたって、逃げ出せるはずがない。
「誘ったの、俺ですよ?」
「お前ってやつは、ほんっと……」
 先輩はハッと何かに気付いた様子で、途中で言葉を飲み込んでしまう。向こうの自分と比較されたのだ、ということはわかってしまった。
 自分自身だけを見てもらえないのは、確かに切なくて遣る瀬無い気持ちになるが、わかっていてこのチャンスに踏み込んだのは自分自身だ。
「経験ないんで、向こうの俺ほど楽しませてはあげられないと思いますけど、今は向こうの俺の代わり、でもいいですよ?」
「なんでそう言えるんだ、お前は」
 先程言葉を途中で飲んだのは、向こうとこちらの俺を、似ていても別人として扱ってくれているからだ。似ているからといって代わりにしてはいけないと、ずっとそう思って接してくれていたのだと、踏み込むほどに強く感じている。
 けれどきっと、そう接してくれたからこそ、自分は先輩へ惹かれてしまうのだ。別世界では恋人だったのだからと、先輩への気持ちが育つ前に恋人としての振る舞いや体の関係を求められていたら、それこそ全力で逃げ出していたに違いない。
「だって先輩が向こうの俺を好きなのは事実だから。でもそれは俺にとってそう悪い話でもないですよね」
「どこがだよ」
「向こうの俺も、ここにいる俺も、結局は俺だから、です。だから俺のことも、好きになってください。まずは体から、でもいいんで」
「お前はバカだ」
「でもそんなバカなとこも、好きでしょ?」
 グッと言葉に詰まってしまった先輩に、図星と言って笑ってみた。
「ああ、好きだ」
 途中でやっぱなしはさせないから覚悟しろよ、などと言った割に、やはり先輩は優しくて甘い。後ろを弄られあまりの違和感に身を竦ませて耐えていたら、結局、そこに突っ込まれたのは指だけだった。
 四つ這いになって掲げた尻に指を出し入れされながら、閉じた足の隙間を先輩のペニスに突かれるのが、あんなに気持ちが良いとは驚きだ。それはちょっとペニスを扱かれただけで、あっさり吐き出してしまう程の快楽だった。
 先輩が吐き出すより前に、自分ばかり3度もイッてしまったが、おかげで先輩がイッて終わったのだと思った途端、ベッドに崩れて呆然となった。何度も吐き出してスッキリと体は軽いのに、体の奥の方に快楽の余韻が残っている。

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知り合いと恋人なパラレルワールド4

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 その日は先輩がサークルに顔を出さず、新規契約した方の携帯へ連絡を試みるが返事が貰えず、不安になって先輩のアパートへ向かった。
 何度もドアチャイムを鳴らし、預かっている合鍵を使うべきか悩み始めた所で、ようやくドアが開かれる。ホッとしたのも束の間、先輩のひどい顔に、すぐさま何かがあったのだと悟った。
「どうしたんですか!?」
 勝手に入れと言わんばかりに、あっさり回れ右して部屋の奥へと向かう背に問いかける。しかし返事はやはりない。
「何が起きたんですか、先輩」
 部屋に入ってからもう一度、部屋のドアの少し先で佇む先輩の肩を掴み、体ごと強引に振り向かせながら問う。先輩は泣いていたのかと思うくらいに赤くなった目で、こちらを睨みながら触るなと吐き捨てた。
 そんな拒絶は初めてで、こちらの方こそ泣きそうになる。けれど怯んでもいられない。
「嫌です」
「後悔すんぞ」
 今の俺は冷静じゃないからと自嘲気味に笑うから、絶対に向こうの自分との間で何か揉めているのだと思った。
「喧嘩でもしてるんですか?」
「そんなんだったらどんなにいいか」
 深い溜息を吐き出しながら、肩を掴む手を払いのけた先輩は、よろけるようにしてベッドの端に腰掛ける。
「繋がんねぇんだよ」
 俯いて両手で顔を覆ってしまったから、その表情はわからない。
「繋がらない……って、メールの返事が来ないんですか?」
「違う。返事が来ないんじゃなくて、互いのメールが届かない。その頻度がどんどん上がって、今日、とうとうアドレス不在のエラーが出た。もう、向こうとの接点が無くなったんだ」
 その話に、掛ける言葉がすぐには見つからなかった。
 目の前の先輩はこんなにも落ち込んでいるのに、あちらの世界との関係が絶たれて、仄かな悦びを感じている自分を自覚してもいた。最低で最悪だと思いながらも、これはチャンスだと囁く悪魔の誘惑に惑わされる。
 結局その誘惑に負けて、一歩二歩と先輩との距離を詰めた。
「先輩……」
 ベッドに腰掛ける先輩の目の前に膝をつき呼びかける。
「俺が居ますよ。俺じゃ、だめ、ですか?」
 意を決してかけた言葉に、反応はなかなか返ってこなかった。それどころか先輩は、両手で顔を覆って俯いたまま、身動き一つしない。
 焦れてもう一度先輩と呼んだら、ようやくそろりと顔を覆う手が外される。
「お前……」
「はい」
「自分が何言ってるか、わかってんのか?」
「わかってます」
「お前、ノンケだろうが。いくら似てたって、お前はお前で、俺の恋人のあいつじゃない」
「前に、向こうの俺もこっちの俺もほとんど同じだって言ってたじゃないですか。それ、見た目だけじゃなくて、性格とか、雰囲気とかも、かなり似てるってことですよね?」
 まだ先輩へ向かう恋心を確信する前、恋人だという関係以外に向こうの自分とこちらの自分で違いがあるのかと、興味本位で聞いたことがある。その時の先輩は流石に少し困った様子で、お前はやっぱりお前だよと言った。
「俺に惚れてないとこ以外は、って言ったろ。落ち込んでる今、んなこと言われたら縋りたくなるからヤメロ」
「先輩に惚れてますよ、俺」
 別の世界では恋人として仲良くやっているのだから、元々惹かれ合う素質があるに違いない。
 向こうへ飛んだ先輩とはあまり親しく交流していなかったので、先輩自身も同じなのかはわからない。けれど周りに何の違和感も持たせずサークルに溶け込んでいるから、やはりほとんど同じなのだろうと思う。
 向こうへ飛んだ先輩が男同士にどういうスタンスかなんてこともさっぱりわからないが、向こうの世界でも自分たちは結局恋人に収まっているかもしれない。むしろそうであれば良いなと思いながら、更に言葉を続けた。
「だから良いです。縋られたら、むしろ嬉しいかも」
 本心からだとわかるように、にこりと笑って見せる。先輩はやはり眉を寄せて不満気だけれど、そんな所も好きなのだと、想う気持ちが溢れるだけだった。
 辛くて仕方がないと吐露しながらも、まだこうして自分を気遣い、一線を置こうとしてくれる。
「軽々しくんなこと言うな。俺がその気になって困るのお前だぞ」
「困りませんよ。向こうの俺とこっちの俺がほとんど同じ性格なら、先輩を好きになるのは当然だし、先輩と恋人になれたらきっと俺だって幸せです」
 ベッドの上に落ちている先輩の手へ、そっと自分の手を重ねて置いた。
「先輩が、好きです」
 ぎゅっと先輩の手を握りこめば、先輩の泣きそうな顔が近づいてきて、唇が柔らかに押し付けられた。

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知り合いと恋人なパラレルワールド3

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 何の進展もないまま数日が経過し週末がやってきた。
 先輩は大学をずっと休んでいるが、休みの理由は、家庭の事情で祖父母の田舎へ行っている事になっている。それには、電波の届かないド田舎なので携帯は通じない、というもっともらしいオマケも付いている。
 実際はずっと自分の部屋に匿ったままだった。大学近くのアパートなので、下手に外出して誰かに見られるのも面倒で、気軽に出歩くことも出来ない。
 こちらへ来てしまった先輩と、向こうの自分とはその後も頻繁にメールをやり取りしているようだけれど、その内容はほとんど聞いていない。
 そんな状態の先輩が、週末になってようやく動くことに決めたらしい。というよりは、今後暫く、もしくは最悪このままずっとこの状態が続く可能性があることを、仕方なく受け入れたようだった。
 いつまでも恋人でもない後輩宅へ居座り続けるのが申し訳ない、という気持ちもあるんだろう。まず最初にしたのは鍵交換の交渉と2台目の携帯の新規購入だった。
 学生証も免許もあったし、クレジットカードや銀行のキャッシュカードは問題なく使えたので、それらの作業はスムーズに進み、先輩は世話になったの言葉と合鍵を1本残して自宅へ戻っていった。合鍵を預かったのは、もしまた突然入れ替わるようなことがあった時に、こちらへ戻ってきた先輩に渡すよう頼まれたからだ。
 ホットする反面、どこか寂しいような気持ちになってしまうのは、先輩と暮らしたほんの数日で、先輩に心惹かれるようになっていたからなんだろう。
 大して広くもない部屋の中、先輩と過ごす時間は心地が良かった。
 翌週から先輩は普通に大学へ通いサークルにも顔を出すようになった。平気そうに振舞っているが時折やはり憂いた顔をしている事もあり、何かと気になり自分から話しかける。
 内容が内容なので、結局どちらかの部屋へ寄って近況を聞くことも多く、共に過ごす時間は以前に比べて格段に長くなった。事情を知らない周りは急に懐いてどうしたと、多少驚いても居るようだが、事情は当然説明できないので、話してみたら気が合ったと言って濁している。
 先輩の話によれば、授業内容や周りの人間に多少違いがあるものの、基本的には問題なく過ごせているらしい。向こうとのメールは今も変わらず頻繁に続けているようで、向こうへ飛んだ先輩も、同じように向こうに馴染んで生活出来ているらしいとも言っていた。
 思うところは色々とあるだろうけれど、どこまで踏み込んで聞いて良いのかはやはり迷うことも多くて、結果、先輩の様子見のつもりが自分の話ばかりしている気もする。大変なのはどう考えても先輩の方なのに、他愛無い相談にも丁寧なアドバイスをくれたり、くだらない話を振っても笑って付き合ってくれた。
 ますます心惹かれていることには気づいていたが、走りだした気持ちを止める術なんて知らない。
 別の世界の自分とは恋人なのだと聞かされていたから意識した、という可能性はもちろんあるだろう。そもそも男を恋愛対象としたことがなかったから、それがなければ、気の合う良い先輩止まりだった可能性も高そうだ。
 先輩は向こうの自分とこちらの自分を、しっかり分けて別人として見てくれている。けれどふとした瞬間に気づいてしまう、優しい瞳や、柔らかな笑みや、切なげに寄る眉。
 それらは自分を通して恋人に向けられたものであって、決して自分自身へ向けられたものではないのだ。それに気づいた時のなんとも言えない切ない気持ちは、やはり恋愛感情によるものなんだろう。
 好きな人に既に想い人が居るという状態は珍しい事ではないかもしれないが、それが別世界の自分自身というのは珍しいどころの話じゃない。ライバルが自分自身だなんて、馬鹿げてる上に遣る瀬無いことこの上なかった。

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知り合いと恋人なパラレルワールド2

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 結論から言えば、自分と先輩が恋人として付き合っているらしいパラレル世界があり、そちらの先輩とこちらの先輩がどうやら入れ替わってしまったらしい。
 なぜ入れ替わりなのかと言えば、唯一元の世界と繋がっている先輩の携帯による、向こう世界の自分情報だった。繋がっているとは言っても、現状通話は出来ないらしい。それどころか、向こうの自分とのメール以外、ほぼ全ての機能が使えないガラクタと化している。
 入れ替わり直後に自分を訪れ事が発覚した先輩はともかく、向こうへ飛んでしまった先輩は、それなりにパニックを起こしていたようだ。なぜなら、自宅の鍵が開かない上、携帯が同様に使えないガラクタと化していたからだ。
 即座に警察だとかの発想がなく、繋がらない携帯を手に、自宅前で途方に暮れていてくれたのが幸いした。
 イカレタとしか言いようのないメール内容と、全然繋がらない電話に焦れた向こうの自分が、深夜にもかかわらず先輩の暮らすアパートに押しかけたせいで、こちらの先輩は向こうの自分に保護された。さすがに目の前でやりとりした結果、向こうの自分もこの異常を受け入れたようで、混乱する先輩に事情を説明しつつ自宅へ連れ帰ったようだった。
 その後は奇妙な4人での話し合いとなった。話し合いとは言っても、当然やり取りはメールだけだ。しかも、向こうへ飛んだ先輩の携帯から、自分のアドレス宛にメールを送って貰ったりもしてみたが、それは他のアドレス宛同様、宛先不明の不着エラーが返されるとのことで、こちらの先輩と向こうの自分とだけが繋がっている。
 メールだけでチマチマと現状をやりとりするのは億劫だったが、それも仕方がない。
 結局、いくら話し合ってもわけがわからないこの状態の打開策などなく、暫く様子見ということにはなったが、それに関しても問題は山積みだ。
 向こうへ飛んだ先輩が自分の家に入れないなら、こちらへ来た先輩だって入れないに決まってる。それでも一応、確認のため先輩のアパートまで付き合って、落ち込む先輩を慰めつつ自宅へ引き返す。
 その時点でほぼ朝だった。
 怒涛の夜をこえて、二人共疲れきっている。先輩は流石に授業どころじゃないようで大学には行かないと言うし、自分も今日は午後からだったので、帰宅後ひとまず眠ることにした。
 学生の一人暮らしの部屋に、来客用の布団など存在しない。かと言って、落ち込む先輩にそこらで適当に寝て下さいとも言えず、自分だって自室の床でなど寝たくない。結果、狭いベッドに背中合わせで横になるしかなかった。
「襲わないでくださいよ」
「んな元気ねぇよ。てかそもそもお前は俺の恋人じゃないだろ」
 不機嫌そうな声が背中の向こうから返さえる。
「あ、そこちゃんと区別してくれてるんですね」
「あたり前だ。まぁ、向こうの俺の身がどうなってるかはわかったもんじゃねぇけど」
「向こうの俺って、そんな節操無く男誘うヤツなんですか?」
「まぁかなり積極的ではあったな」
「ビッチな自分とかやだなぁ」
 自分が抱かれる側というのもなんだか納得がいかない。しかも高校時代から、何度もいろんな男に抱かれる人生だったなんてゾッとする。
 先輩に抱いてくれと自分から頼んだなんて笑えない冗談にしか思えないし、それに応じた先輩にも驚きだった。今この背中の向こうにいる男は、自身より頭一つ分もデカイ男なんかに欲情出来るらしい。
「うへぇ」
 自分と先輩とのエッチを妄想しかけて思わず妙な声を漏らしてしまった。
「バカな想像してないでさっさと寝ろよ」
「頭ン中読まないでくださいよ」
「今の流れじゃわかりやすすぎんだろ。未経験のその気もない相手に、手なんか絶対出さねぇから心配すんなよ」
「心配なんてしてませんって。そんなんされたら全力で逃げますし」
「おー、そうしろそうしろ」
 投げやりに応えてから、そろそろ黙れと続けた先輩に、すみませんと返して口と目を閉じる。背中の熱はこの短いやり取りの間に既に馴染んでいて、その熱に誘われるようにして、あっという間に眠りに落ちた。

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知り合いと恋人なパラレルワールド1

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 夜も遅い時間、無遠慮に何度もチャイムを鳴らされ、若干イライラとしながら玄関先へ向かう。
「どなたですか?」
『俺だっ』
 何だコイツと思いながら、そっとドアスコープへ顔を寄せてドアの向こうを窺えば、そこに居たのは大学で自分が所属するサークルの先輩だった。
 特に親しいわけではないし、一人暮らしをしているこの家に呼んだこともない。その人がなぜ、半ば怒りを露わにしつつもドアの向こうに立っているのかわからない。
 サークルでの彼を見る限り、連絡もなく押しかけてくるようなタイプではないと思っていたのに。
 それでも相手が先輩となれば無下に追い返すわけにも行かない。
 仕方なくドアを開けば、自分よりも頭ひとつ分ほど背の低い相手は、不機嫌に自分を見上げてくる。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「どうしただと?」
「いやあの、なんでそんな不機嫌なのか、さっぱりわからないんですが……」
「はぁあ?」
 こちらの返答は更に相手の怒りに油を注いだ様子で、相手のこめかみがピクピクと震えている。
「まぁいい、取り敢えず上がるぞ」
「え、ちょっ、」
 何勝手に上がろうとしてるんですかと言う言葉を告げる前に、先輩はこちらの体を押しのけて中に入り込んでしまう。
 いったい何が起きているのかわからない。それでも尋常ではない先輩の様子に、自分が何かやらかしたのだということだけは察知して、血の気が失せる思いだった。
「おい、何やってんだ。お前も早く来い」
 狭いキッチンを抜けて部屋の入口で振り向いた先輩が呼んだ。
「あ、は、はいっ」
 慌てて後を追えば、部屋に入った先輩は勝手知ったるとばかりに、さっさと小さなローテーブルの前に腰を下ろしている。視線で座れと促され、仕方なく先輩の対面に腰を下ろせば、先輩は自分のキーケースから鍵を一本取り出した。
「俺に無断で鍵変えたって事は、俺とは別れる、って意味だと思っていいんだな?」
「は?」
「だとしても、一言何かあってもいいんじゃないのか。今日夜に行くって連絡はしたよな。それを締め出すとか、別れの意志を示すにしたって悪意がありすぎだろう。別れたいなら、まずは自分の口でそう言えよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。さっきから何言ってるか、俺にはさっぱりわからないんですけど」
「わからない、だと?」
「ひぃっ」
 腹の底から響くような声は明らかに怒気を孕んでいて、つり上がった眉と鋭い視線が心底怖い。
「俺を揶揄ってるならいい加減にしろよ」
「揶揄ってなんかない、です」
「自分から誘って俺をその気にさせて、それで俺が本気になったらこの仕打だろ。揶揄ってないならなんなんだ。俺を翻弄して楽しいか?」
「いやいやいや。俺が誘うって何をですか。何に本気になったんですか。てかさっき別れるとかどうとか言ってましたけど、そもそも俺らにサークルの先輩後輩以外の関係って何もないですよね。先輩ウチくるの初めてじゃないですか。その鍵なんですか。俺は鍵変えてなんかないですよ」
 先輩が口を挟めない勢いでべらべらと言い募った。だって本当に何を言われているかわからない。
「は? 何とぼけたこと言ってんだ。俺たち半年前から付き合ってただろ。俺は何度もこの部屋に来てるし、この合鍵は一昨日までは確かにこの家の鍵だった」
「ないないないです。なんすかそれ。付き合うって、俺たち男同士じゃないですか」
「お前がそれを言うのかよ」
「言いますよ。そりゃ言いますって。人生初の恋人が男とか勘弁して下さいよ」
「何言ってんだお前。恋人だったかは知らないが、高校時代からいろんな男に抱かれまくってたくせに」
「はあああ? なんすかそれどこ情報ですか。ないですないですありえないっ」
「お前がそう言ったんだろ。そう言って、俺に抱いてくれって迫ったんじゃねーかよ」
「何なんですかその妄想っ!」
 もしかして自分が知らなかっただけで、かなり危ない人だったのだろうか。この人の頭は大丈夫なのかと危ぶむ中、先輩は更に恐ろしいことを口にする。
「妄想じゃねーよ。俺はお前を何度も抱いてる」
「いやいやいや。俺は先輩にも先輩以外の男にも、抱かれた経験なんて一度たりともないですからっ」
「太もも」
「は?」
「太ももに3つ並んだホクロあるだろ。後、へその真下にも」
 確かにある。しかもどちらも下着に隠れるような際どい位置だ。いや、たとえ温泉やら銭湯やらに一緒に行ったとしても、言わなければ気づかないだろう位置にそれらのホクロはある。
「なんで知って……」
「見たからに決まってんだろ」
「いつ、ですか?」
「んなのセックスの時以外ねーだろが。あんな際どい場所のホクロ、それ以外にどう気づけってんだよ」
 口ぶりから、確かに知っているのだろうと思った。思ったがまるで納得行かない。
 そんな中、先輩の携帯がメールの着信を告げて小さく震えた。それを確認する先輩の眉間に深くシワが刻まれていく。
「おい。お前のメールアドレスってこれとは別か?」
 見せられた携帯の画面はアドレス帳で、そこには自分の名前と電話番号とメールアドレスと、ご丁寧に誕生日やら好物やらまでメモされていた。
 なにこれ怖い。
 自分の携帯にはもちろん先輩のアドレスなど登録されていないし、教えた記憶も一切ない。
「おい、どうした?」
「なんで、俺のアドレスが登録されてるんですか?」
「お前と恋人関係だったからだが、正直、ちょっと俺も良くわからない」
「は?」
「今、お前からメールが来た」
「出してませんよ」
「んなの目の前にいりゃわかってる。でも、お前からメールが届いたんだ」
「それ、なんて書いてあったんですか?」
「待ってるから早く来て、だとよ」
「意味わかりません」
「俺にだってわかんねぇよ」
 不可解過ぎる現象に、先輩の怒りの勢いもどうやら削がれたようだった。
「あの、ちょっと話を一度整理してみませんか?」
「あー……そうだな。お互い言い分が違いすぎるみたいだし」
「じゃあ、取り敢えずお茶いれます。お互い少し落ち着きましょう」
「だな。よろしく頼む」
 応じる様子を見せた先輩にひとまず安堵して、隣の小さなキッチンに移動する。
 湯が沸くのを待ちながら、今日は長い夜になりそうだと思った。

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