罰ゲーム後・先輩受8

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 裸で潜り込んだベッドの中、キスを繰り返しながら互いに相手の勃起ペニスを刺激し合う。
 吐き出すタイミングはなるべく合わせたいけれど、相手の興奮を煽りまくって先にイかせる満足感や、逆に先にイかされてしまう場合の抗いきれない快感に飲み込まれる恍惚感も知っているから、そこまで同時に達することにこだわってはいない。だからもうイキたいと訴えた相手の期待を裏切るように、刺激を与えていた手の動きをピタリと止めてしまうなんて意地悪をするのは初めてだった。
「せんぱい……?」
 あと少しで気持ち良く吐き出せるところを突然阻害された相手は、驚きと苦痛を混ぜ込みながら戸惑っている。
「ねぇ、お前にとってこれって、やっぱセックスではない感じ?」
「は?」
「俺にとってはこの時間も十分恋人とのセックスなんだけど」
「知ってます。てか、誰かに何か言われたんすか?」
 噂を気にするとか珍しいと言われたので、噂じゃなくて友人から心配されただけと返した。
「お前、俺とはセックスしてないって、先輩たちに言ってんの? 事実と違うことを認めたり言ったりした時は知らせてって、言ったよね?」
 でもこれはセックスじゃないって認識なら、セックスしてないという主張こそが彼にとっての事実だ。ただこちらがセックスという認識だと知っているのだから、彼自身がセックスと扱わないのであれば、それも知らせておいてもらわないと困る。
「あー……俺に突っ込むのは絶対ナシってのを先輩がオッケーしたから告白した、てのは言ったっすね」
 告白した日の部活の時にと続けたあと、だからセックスしてないとは言ってない、と訴えた相手の声は申し訳無さそうだった。
「そ、っか。ゴメン。それは確かにお前は事実しか言ってないな」
 自分たちの恋人関係が、突っ込むのはナシな関係だというのをそんな初期に明言してたとは知らなかったが、男同士で恋人になってもそこまで下世話な噂があまりたってないのはそのせいかとも思う。誰も知らせてこないだけで、下衆な勘ぐりで聞くに堪えない系の噂もあるんだろうと思っていた。いや実際どうなのかという部分は不明なままだけれど。
 あとちょっとの所を留めてしまったのを詫びるように、止めていた手をゆるりと動かした。
 落ちた興奮を再度煽ろうとキスを仕掛けていけば、今度は相手がそれを押しとどめる。唇が触れる前にスッと頭を引いて、同時にペニスを弄る手も掴まれ動きを止められてしまう。おかげで、こちらのペニスも放り出されてしまった。
「待って下さい。何、言われたんすか。てか何を心配されたんすか」
 今日反応イマイチなのそのせいですよねと言われて、反論ができない。触ってと言ってベッドに誘い込んだのはこちらなのに、相手の興奮を煽る事ばかり必死になっていた。相手に触れたくてたまらない時は触らせてと誘うし、触ってと誘う時は興奮しきって相手に快楽をねだってしまうことも多いから、いつもと違う様子にオカシイと思うのは当たり前だ。
「お前、俺がお前に本気でメロメロっぽいっての、あいつに聞いて確かめたりした?」
「しました」
「あいつそれ、肯定してたろ?」
「もしかしたら俺より先輩のが本気になってきてるかも、なんてことまで言ってたっすけど、さすがにそれは言いすぎっすよね」
 何も知らずに好き勝手噂する見知らぬ他人の言葉と、友人としてそこそこの付き合いがある第三者の目線からの言葉は違う。当事者に見えていないものが見えている場合もあるだろう。今回の場合で言えば、後輩の本気とこちらの本気度合いは、当初と逆転してしまったように見えているようだ。しかも随分と短期間で。
 もちろん、最初っからこちらこそが本気で、後輩を誑かしてマジ惚れさせて告白までさせたのだというイメージを強めたいこちらの意図に、まんまと嵌ってくれているという見方もできるけれど。でもその辺りもなんとなくわかっててなお、こちらの方が本気になってきてると言われたような気もしている。実際、そういう自覚が自分自身にもあるから、余計にそう思ってしまうのかもしれない。
「俺も言われた。俺のほうが本気になってきてるっぽいって。で、そんな本気で今後もセックス無しで大丈夫なのかって心配されたけど、俺はセックスしてるつもりだし、お前が先輩らにそんなことまで話してるって聞いてなかったから、動揺はしたかな」
「それ、なんて返したんすか?」
「それって?」
「セックス無しで大丈夫かって部分」
「言えないからノーコメントで。って言ったら変なこと聞いてゴメンって謝られて終わりだよ」
 それを聞いた相手は、なんとも言えない表情で思い悩んでいる。
「どうした? お前もあいつに、もっと何か言われた?」
 ああきっと、何か言われている。しかもこちらに伝えるのを迷うような何かを。
 言うかを躊躇う様子の相手に、なるべく柔らかな声が響くようにと意識しながら聞かせてと伝えれば、躊躇いは残したままでそれでも口を開いた。
「先輩が今後もっと本気になって、突っ込みたいって言い出したらどーする? って」
「で、なんて答えたの?」
「俺が振られて終わります、て言ったら、爆笑されましたけど」
 その時を思い出したのか、眉間にしわを寄せている。
「言わないよ。そういう約束だから。お前に突っ込むより、お前と恋人してたいよ」
 大丈夫って気持ちを込めて甘やかに囁いたのに、相手の表情が緩むことはなかった。
「逆も、ないっすよね?」
 こわごわと尋ねられる言葉の意味がわからず、小さく首を傾げてしまう。
「突っ込んで、とも言わないで、欲しい、です」
 なるほど。男同士なら逆だって考えるべきだった。
 突っ込んでも子供が出来る心配はないという部分で、繋がり合うセックスをしてみたい興味は確かにある。抱いていいって言われたら喜んで抱くだろうとも思っていた。でも自分が抱かれる側になるという発想はしたことがなかった。出来るかどうかで言えば、出来ないことはないような気もする。この後輩相手なら、喜んで受け入れてしまうかもしれない。
 でもこの様子だと、抱きたいと言ってくれることはないんだろう。
「突っ込んでって言われたらどーする? とも聞かれたの?」
「はい」
「その場合もお前が振られて終わりになるの?」
「はい」
 躊躇うことなく肯定されて、思いの外胸が痛んだ。
「俺がお前と繋がりたいほどお前を好きになったとしたら、その場合はお前が振られるんじゃなくて、俺が振られるんだよ」
 心の底が冷えるような気がして、ペニスはもう完全に萎えている。
 ごめんと謝って、初めて、抜きあうために触れ合ったのを途中で中断した。

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罰ゲーム後・先輩受7

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 夏休みを目前に控えた授業の合間の休憩時間に、友人たちと夏休みの予定を話す。長期休暇中だってやっぱり一人で食事をするのは極力避けたいし、たとえ恋人が居たとしても連日一緒に過ごすなんてさすがに無理だし相手を束縛しすぎだと思うので、友人たちとの予定も積極的に入れていく方針だ。
 ただ今年は受験もあるので、既に夏期講習の予定がびっちりめに入ってもいる。それを知った後輩は部の練習がない時はバイトをすると言っていたから、実際、夏休みだからと一緒に過ごす時間が増える可能性は少なかった。むしろ減りそうな気配が濃厚だ。
 平日も家に連れ帰るようになった件はもちろん友人たちも知っているから、夏休み中は完全に一緒に暮らしだすのかと思ってたとからかい半分に言われたけれど、いくら相手が男でも週末以外は今後も泊める気ないと返せば、今度は本気で驚かれた。
「なんで、って、あんまあいつが居る事に慣れたくないから?」
 あいつが居ないと安眠できない。なんて状態になったら二学期から生活できなくなると続けてやれば、ゾッコンすぎると爆笑された。
 かなり盛ってはいるけど、可能性としてなくはないような気もしてる。
「ほら俺、あいつにメロメロだからねぇ」
 どうせ何言ったって好き勝手解釈して噂されるのだから、仲の良さを見せつけておけばいい。
 それに、クラスメイトの前で大々的な告白を受け入れるという形でスタートしてしまったけれど、自分のほうが相手に執着していると思われていた方が、相手の今後にとっては多少マシなのではと思いはじめてもいた。自分と交際した過去が、彼にとってほんの少しでもプラスになってくれたらいいのにと、そう願ってしまう気持ちがある。
 自分のことはどう噂されたっていいと思っているのは今まで通りだけれど、自分のせいで恋人があれこれ言われるのが嫌だなと思う感覚はなかなかに新鮮だった。自分の交際をネタ扱いされるようになってからは、自分も告白してくる女の子たちも、わかっていて付き合っていたというのが大きいかもしれない。
 やはり罰ゲームさえ無ければ後輩みたいなタイプから告白されることはなかっただろう気持ちが強いんだろう。罰ゲーム中にたぶらかしたのは事実で、恋人本人がいくら納得済みで覚悟済みと繰り返したって、どうにも巻き込んだ負い目が降りかかる。
 告白は向こうからでも、こちらが頼み込んで一緒に居て貰ってるってイメージが定着するくらい、自分こそが相手に執着していると思われたいのかもしれない。とうとう男でも良くなったたちの悪い先輩にロックオンされた可哀想な後輩、というイメージを周りに植え付けたいのかもしれない。
 噂なんてどうでもいいと思っていたのに。それは不思議な感覚でもあった。
 もちろんその友人たちの中には、彼を最初の罰ゲームに巻き込んだ張本人も居たけれど、彼はなんだか渋い顔をしている。お前だって思ったよりメロメロっぽいとか言って笑ってたくせに。
 その彼から一応確認だけどというメッセージが入ったのは夜だった。後輩が帰宅した後を狙ったようなタイミングだった。
 ゲスなこと聞くから答えられないなら無視していいと前置いて、夏休み中に関係進展とかは考えてないのかと聞かれて首を傾げる。
 どういう意味かと返信すれば、お前の方が思った以上に本気っぽくなってきたけど、今後もセックスは無しってスタンスで大丈夫なのかという心配をされてビックリした。バスケ部の先輩相手に、自分たちの関係がどの程度まで進んでいるか話したなんて報告は、一切されていなかったからだ。
 突っ込んでないけどセックスはしてる。と言いたい気持ちはないわけではないけれど、さすがにこれを返信は出来ない。言えばセックスの定義から説明する羽目になりそうだし、突っ込んでないものをセックスと認識しないタイプだったら更に面倒くさい。そもそも彼がどんな風にその話をしたのか詳細を一切知らないのも問題だし、友人に恋人とのリアル性事情を聞かせたくない気持ちもある。抜きあうだけでも間違いなく恋人としてのふれあいで、男同士盛り上がってうっかり互いに抜きあった、みたいなものとは明らかに違う。もちろんそれだって、ネタとして笑い話に出来るタイプもいれば隠し切るタイプだっているだろう。そして自分はネタとしてでも友人にそういった話題を提供出来るタイプじゃない。
 正直に、話せないからノーコメントでと返せば、相手はあっさりわかったと引き下がり、変なこと聞いて悪かったという謝罪が返された。

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罰ゲーム後・先輩受6

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 翌週月曜、相手の部活が終わるのを待たずに帰ったら、火曜日にはもう、あまりうまく行ってないらしいなんて噂が流れたらしいから笑うしかない。
 真相を聞かて事実を話すこともないわけではないが、自分の噂にほとんど興味がないのはそれなりに周知されてもいたから、わざわざ聞きに来られる事はほとんど無く、噂はやっぱり恋人である後輩から耳にした。正直に、買い物と夕飯の下ごしらえをして貰うことになったからだと話してしまったけれど、本当にそれを言って良かったかどうかを確認されたからだ。
 噂に関しては、事実と違うことを言ったり肯定した時には知らせて欲しいけれど、後はどう扱ってもいいし、相手するのが面倒ならそういうのは先輩に聞いてと言って逃げとけと言ってあった。それでも時々こうして、認めてしまった事実について報告してくることがある。今回は相当驚かれてしまったらしく、少々不安になったらしい。
「先輩って、俺にメロメロなんすか?」
 驚いた相手に、そんな指摘をされたようだ。まさか後輩の男相手にここまでメロメロになるとは思わなかったとかなんとか。
 それ友人にも指摘されたなと思いながら、ふはっと息を吐き出すように笑った。恋人にメロメロって、校内で流行ってんだろうか?
 恋人のために、一人でスーパーに買い物へ行ったりキッチンに立つという姿が、今までの自分からはイメージできないんだろうことはわかる。平日に恋人を家に引き入れることも今まではほとんどなかったのも大きいかもしれない。
 つまり、そこまでしてやりたくなるほど、この後輩が特別なんだって思われてしまうんだろう。
 こいつにメロメロを否定する気はない。可愛くて仕方がないと思っているし、少しでも長く恋人関係が続けばいいとも思っている。
 でも特別だからあれこれしてやるわけじゃない。先に買い物して出来る範囲で夕飯の用意をするのは、自分自身の欲求を手早く確実に満たすために必要だからしているだけだ。
「うん。メロメロ」
「まったく本気っぽくないすね」
「俺がお前を置いて先に帰るのは、お前といちゃいちゃチュッチュする時間作るためにだよ?」
「でもそれ、相手が俺じゃなくてもやるっすよね?」
「やらないよ?」
 それは女の子が相手なら家じゃなくてもいちゃいちゃチュッチュ出来るからで、必要になればやるだろうと指摘されてしまい、そこまで言われてしまえばその通りと認めるしか無かった。
「結局、俺が男で、先輩にとって初めての同性の恋人だから、先輩からの扱いが違って見えるてだけなんすよね」
 呆れ混じりの吐息をこぼすが、今までの彼女たちとたいして変わらないのに、と思っているならそれはそれで正しい認識とはいえないかもしれない。
 この後輩を手放したくない、振られたくないという気持ちは、告白されたから取り敢えず付き合ったという彼女たちに感じていた思いより、間違いなく強かった。振られたらまた暫く寂しいフリー期間になる、という以上の喪失感を味わうのがわかりきっていて恐れている。
 それに恋人が可愛くて仕方がないって気持ちだって、久々に思い出して浮かれ気味な自覚があった。
「それはどうかな。多分、ちゃんと本気でお前にメロメロしてるよ。それに俺を長く見てきた友人も、思ったよりお前に本気でメロメロになってるみたいだって言ってたし」
「ホントすか?」
 疑わしそうな目を向けられたので、小さく苦笑しながら指摘してきた友人が誰かを教えてやった。彼にとっても部活の先輩なのだから、気になるなら自分で確かめたらいい。

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罰ゲーム後・先輩受5

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 玄関を施錠した直後、さっさと奥のリビングへ向かっている数歩先の後輩へ手を伸ばした。
 チョンと指先が触れただけで振り向いた相手に、キスさせてと告げながら短な距離を詰めていく。掴んだ手首を軽く引いたが素直に引き寄せられることはなく、驚いたらしい相手が身を固めてしまったので、それならばと逆に廊下の壁へ追い込んだ。
「えっ、……」
 驚き戸惑う相手を壁に押し付けるようにして、顎を捉えて唇を塞ぐ。呆けて緩んだ唇の隙間へ舌を差し込めば、応じる気になった様子で口が開かれ相手の舌が伸びてくる。それを絡め取って吸い上げて甘噛んでやれば、んっ、と甘やかな音が漏れ聞こえた。
 スキンシップの補給なんてつもりは毛頭なく、めいっぱい感じさせるつもりで繰り返すキスに、相手は応じつつもかなり困惑しているらしい。こんな性急さを見せるのは初めてだから、当然の反応だろう。むしろ嫌がって逃げられるかもと思っていたので、困惑しつつもキスを受け続けている事に、胸の中の愛しさが膨らんだ。
「っは、カワイすぎ」
 思ったままを口からこぼしながら、Tシャツの裾から手を忍ばせる。直接触れた手の平の下、腹筋がビクッとわななくのを楽しんでから、ゆるりと肌を撫で上げた。
 もちろんキスは続けたままだが、指先に意識を向ける分、あまり深くは探らずチュッチュと軽く吸い上げ啄むものが多くなる。顔を離す時間も多くなって、相手と視線が絡むことも増えた。やはり戸惑いと困惑を滲ませた表情をしているけれど、嫌がり耐える様子はないので安心しながら、相手の戸惑いも困惑も丸呑みして封殺するような気持ちでニコリと笑ってやった。
 あまり胸は感じないとわかっているけれど、弄ればきちんと反応して、小さいながらもふっくら尖って存在を主張してくるし、繰り返せばいずれ胸でも感じるようになるかもしれない。物理的な快感を得られるようになるか、胸を弄られるというその行為に興奮できるようになるか、どちらだっていいけれど、そうなったら嬉しいだろうなと思うだけで自分自身も興奮していく。
 乳首が固くなってきた所で、ベロリとシャツを捲り上げた。舌を出して、舐められることを意識させるようにゆっくりと頭を寄せていけば、胸の先へ舌先が触れるより随分と早く、胸と頭との間に差し込まれた相手の左手がそのまま額に押し当てられる。
 押しのけてくるほど強い力は掛からないものの、結構しっかり阻まれてそれ以上頭を寄せることは出来なかった。
「それ以上はダメっす」
 熱に浮かされたような掠れた声が興奮を煽るのに、その内容はきっぱりはっきり拒絶だったし、譲らない意思も見えている。
「なんでダメ?」
 無理強いする気はないので素直に頭を上げながら、未練混じりに問いかけた。相手だってそれなりに興奮できているようなのだから、このままここで抜きあったってさして問題はなさそうなのに。
「制汗剤掛けまくってるんで、多分マズいっすよ。あと、やっぱイロイロ汚い。暑い。食材痛みそう。が理由、すね」
「んんんんっ」
 思わず唸った。確かに日中暑い日も多くなって、閉め切っていた家の中は北向きの玄関さえもムンムンと蒸し暑い。
 よほどあれこれ買い込まない限りは買い物袋は全て相手が持ち帰るのが定着しているが、キスで翻弄されている間も落とすことなく持ち続けたその袋の中に、要冷蔵品がいくつも入っていることは自分だってわかってはいるけれど。何もこんな暑い中で盛らなくたって、冷房効かせてシャワーを浴びて、それからゆっくり触れ合うだけの時間があることもわかっているけれど。
 思いの外冷静ですねと思ったら、残念な気持ちとともにこちらの興奮も流れ落ちていくようだった。
「あー……そういうのは興奮と気持ちよさで頭沸騰させて、忘れてても良い事項じゃない?」
 そう言いながらも、続ける気はないから安心してというように、相手を追い越してリビングへ向かって歩きだす。ついでに相手が持ったままのスーパーの袋を、奪うように取り上げてやった。
「逆に、なんでそんなエロスイッチ入ってんのかわかんねーんすけど」
 慌てて追ってきた相手が、再度手の中のスーパーの袋を奪っていく。別にたいした意味があってやったわけではないから、大人しく手を離して食材たちは彼の手に委ねた。
 代わりに、拗ねたふりで口を尖らせて見せる。
「だってお前が可愛くおねだりしてくれるって言ったから」
「は?」
「お前が可愛く俺に甘えてくれるの、夜までなんて到底待てない。ずっと、夜どころか家までだって待ちたくないなー今すぐ引き寄せて抱きしめてチューしたいなーって思ってたの。それを理性で押さえ込んでたのが、家の中入ったらはじけ飛んだよね」
「ちょ、変にハードル上げてくるの止めてくださいよ。その期待に応えられるほど可愛く甘えるのとか多分無理なんで」
「大丈夫。お前が思ってるより、お前ずっと可愛いからね?」
 言えば、可愛い顔して何言ってんすかと、尖らせていた口先をムニッと摘まれてしまった。
「だーってお前が甘やかされてくれないと、俺が甘えるしかないかって気になるし?」
「じゃあさっさと冷房入れて、先にシャワー行って下さい」
 つまりはエロいことは夜までお預けではなく、夕飯の支度を始める前に一度抜き合うのはオッケーらしい。先週の土曜はさすがに即ベッドなんてことはなく、くっついてテレビを見ながら近づいた距離感を噛みしめるように堪能して過ごしたから、そう思うと、やはり今日はしょっぱなから随分と急ぎ気味だ。
 きっと毎日軽く触れるだけのキスで焦らされていた分も大きいんだろう。いやでも、無ければ無いでスキンシップ欲しさにムラムラするんだろうから、結果は同じかもしれない。だったら無いよりあったほうが断然良いな。
 なんて事を考えながらシャワーを浴びていたら、食材を片付け終わった相手がしれっと入ってきたので驚いた。
 もちろんそのまま風呂場で抜きあったし、めちゃくちゃ嬉しかったけれど、この方が手っ取り早いと思ったとか言い放った相手は、相変わらずちょっと情緒が足りない。いやまぁ確かにそうかもしれないけど。この後の彼の作業を思えば当然かもしれないけど。というかそれってもしかしなくても、手伝いもせず出来上がるのをダラダラ待ってる自分のせいか?
「なぁ、俺が手伝えるようなことってある?」
「夕飯の支度ですか?」
「そう。キッチン狭いし、俺が隣に並んだら逆に邪魔?」
「俺の側から離れたくない。って意味で受け取っていいんすか、それ」
 指摘されて、それもないとは言えないと思う。
「えー……えー……あー、じゃあ、まぁ、それでもいい」
「先輩ってどれくらい料理できるんすか? 包丁握ったこと有ります?」
「林檎の皮は包丁で剥ける。程度には出来るよ?」
「凄いっすね。なんだ。やらないだけでやれば出来る系なんすね」
「そういや手伝ってって言われたこと無いな。つまり出来ないからやって貰ってると思われてた、のか?」
「いや多分、あのキッチンで隣立たれたら邪魔だからっす」
「おいこら。結局邪魔なのかよ」
 まぁそうだろうと思ってたけど。結局手伝えることはないらしいと思って小さくため息を吐きだしたら、提案なんですけどと言って相手が口を開く。
「俺が部活上がるの待たずに、先輩が先に買い物して帰って、簡単な下処理とかしといてくれたら、俺がキッチンに立つ時間めちゃくちゃ減りますよ?」
 狭いキッチンに無理矢理二人で立つよりよっぽど効率よくないですかと言われてしまえば、これはもう頷くしかなさそうだ。どうせ一緒に帰ったって、手を繋げるわけでも腰や肩を抱けるわけでもないのだから、二人きりになれる部屋の中でこそ一緒に過ごせる時間を増やしたい。
 決まりですねと笑った相手は、結局可愛く甘えられなくてすみませんと笑顔のまま続けたけれど、笑った顔はやっぱりちゃんと可愛かった。

続きました→

 
 
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罰ゲーム後・先輩受4

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 夕方、部活を終えて教室まで迎えに来た相手が、慣れた様子で顔を寄せて来る。手の平を軽く突き出しさえぎれば、相手はすぐに素直に身を引いていく。
「土曜はしなくていいよ」
 このキスがこちらのスキンシップ欲求を満たすために与えられているものなら、土曜の今日は必要がない。家に帰ってから好きなだけ相手に触れられるのだから。
「土曜は?」
 なのに相手は少し不思議そうに自分が発した言葉の一部を繰り返す。
「そう。土曜は。学校でしなくても家帰ってから出来るだろ?」
 だから早く帰ろうと言うように、カバンを手に立ち上がった。けれど相手はそんなこちらをじっと見つめてくる。
「どうした?」
「先輩たちに、止めさせるように言われたからじゃないんすか?」
 その口ぶりから、ランチタイムにキスの噂云々の話題が上がったことを、彼も知っているようだと思う。
 そういうお前は何言われたの、とは聞かずに、言われてないよと返した。
「本気の恋人ならキスもその先も俺とお前の自己責任。ってことで良いみたいよ」
「俺は、噂になるなってのは無理でも、あんま派手にやらかしてると後々面倒くさいぞって言われたんすけど」
 眉を寄せて何かを考える様子を見せる。多分それ以外にも色々言われたんだろう。というか何がどう面倒なことになるか、彼らなりの危惧を聞かせたに違いない。
 こっちが何言われようと知ったこっちゃないという態度を貫いているから、そうそう大きな揉め事にならないだけで、元々女子たちとの相手をコロコロ変える緩い付き合いだって快く思っていない層は居た。
 彼も決して噂に振り回されるようなタイプではないけれど、自分同様に何言われても知ったこっちゃないという態度を貫けるかはわからない。たとえ適当にあしらえたとしても、それが気持ちの負担にならないとも限らない。自分だって、人の噂の的になってあれこれ言われる煩わしさに、一々心が乱されずに済むようになるまでには、それなりに時間がかかっている。
 お前が恋人にしたのはそういう相手なのだと、知らせておきたい先輩心もわからなくはなかった。明確に自分との交際を反対されたり非難されたりしているわけではないのだから、むしろありがたい助言の範疇と思ったほうが良さそうだ。
「それ、お前だって校内でキスすんのヤメロとは言われてないんじゃないの」
「家行ってやれって言われたっす」
「なら土曜以外も家寄ってく?」
「いいんすか?」
 喜色の滲んだ声音に、もちろん良いよと返す。相手の気持ちが上向いたのを感じて、ついでに帰ろうと促せば、今度は素直に頷き、歩き出した自分の横を付いて来る。
「けど、お前が夕飯作るのは無しな」
「え、ダメなんすか」
 さっきの嬉しそうな声と真逆の、ショボショボと情けない声になって笑いそうになった。こんな反応で楽しげに食事を作ってくれるから、つい、こちらも甘えすぎてしまうんだ。
「いやだってお前、普段部活終わるの何時よ。そっから買い物して夕飯作ってとかやらせるの、申し訳ないにも程があるだろ」
「あー……じゃあ、ちょっと考えてみます」
「考えるって何を?」
「作りおきとか、後はまぁ、先輩に甘えてみるとか?」
「え、俺に甘えるってどんな?」
 思わずワクワクで聞き返してしまえば、後輩がぷふっと小さく吹き出した。
「そっすね。一緒に帰るんじゃなくて、先輩が先に帰って買い物してくれるとか。米研いで炊飯器セットしてくれるとか。俺が可愛くお願いできたら、やってくれたりしないっすかね」
 米は前日に俺がセットしても良いんすけどねと、やはりどこか楽しげに提案される。
 それくらい全然やれそうだけど、即座にわかったやるよと返すのはあまりに悔しい。だって甘やかされるばかりじゃなく、甘やかしてやりたいこちらの気持ちを、利用させて下さいと言われたも同然じゃないか。
「じゃあ後で可愛くお願いしてみて」
 少しだけ顔を寄せて、ベッドの上でねと耳元に囁いてやれば、平然と了解を返されてまったく可愛げがない。でもその後口数を減らした相手の横顔をふと窺えば、どう可愛くお願いするかを考えているのか、耳と目元をうっすら赤く染めながら思い悩んでいる風だったので、やっぱりたまらなく可愛い。
 家にたどり着くにはまだまだ掛かるのに、気を抜くとにやけかける口元を引き締めて歩くのは大変だった。

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罰ゲーム後・先輩受3

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「あー、くそ。甘やかされてんなぁ」
 にやけかける口元を隠すように覆いながら、思わずこぼした言葉を拾ったのは、隣りに座る友人だった。
「思い出し笑い? やっらしー」
「うるせっ」
「まぁなんつーかさ、あいつお前に思った以上に本気らしいんだよね。つかマジに惚れてるっぽいんだよね」
「知ってる」
「お前に本気で惚れちゃう当たり、ちょっと何かズレてるとこもあるけど、根が真面目なすっげー良い子なの」
「知ってる」
「だよな。ならいいわ」
 友人はそれで済ませてくれる気になったらしいが、さすがに他のメンバーにとってはそれで済む問題じゃないようだ。
「良くねーよ!」
「けしかけた俺らの責任って話、したろ」
「キスしてるのマジとか、それ以上も時間の問題じゃねぇの」
 とっくにキス以上に進んじゃってるけどと、聞こえてくる言葉に苦笑していたら、やっぱり隣の友人が、こいつも思ったよりはあいつに誑かされてるっぽいから大丈夫などと言い出してギョッとする。
「え、どういう意味だ、それ」
「だってお前、あいつに甘やかして貰ってんの、嬉しいみたいだったから。あっさり振られたくなくて慎重になってるってのも、事実っぽいし」
 さらりと告げられる言葉に、顔が熱くなる気がする。しかも他のメンバーが揃って、マジで!? みたいな顔で見つめてくるから尚更だ。
「真面目従順系のいい子だけど、バスケはすごい勢いでガンガン上達してるような奴だもんな。あいつがお前に本気だってなら、落とされたのはお前の方じゃん? お前があいつを都合よく利用するために、誑かして惚れさせて恋人にしたってわけじゃないんだろ?」
「俺と恋人になるデメリットは教えまくったし、止めとけって話ならしたけど、それでも俺を選んだあいつを利用してるのも、事実っちゃー事実だよ」
 きっぱり拒絶出来ただろうところをそうせずに、寂しさを彼の想いで埋めている。
 はっきり自覚があってやったことではないけれど、誑かされて好きになったとは言われた気がするし、罰ゲームが終わることが寂しくてたまらなかったのも事実だし、無意識に彼が自分と恋人となることを選ぶように誘導してなかったとは言い切れない気もしていた。
「いやそれ、どう聞いても、お前が折れて受け入れたって話だし」
「まぁ、それはそう、なんだけど……」
 言われれば、そういう見方も出来ないことはない、気もする。でもやっぱり、自分が誑かされているというよりは、自分が相手を誑かした結果が今なんだろうという負い目のようなものは強い。
 けれど曖昧に同意してしまえば、友人はにっこり笑ってパンと一つ手を打った。
「はい、じゃあ、俺らが思ってた以上にあいつは雄で、こいつに好き勝手されて泣くような玉じゃないのは再確認できたから、キスもそれ以上も本気の恋人だってなら本人たちの責任ってことで」
 友人の鳴らした音が合図だったかのように、みんな揃って昼飯終了とばかりにガタガタと椅子を揺らして立ち上がる。
「ちょ、おい、待て」
「悪い悪い。だろうなってのはわかってたんだけど、せっかく一緒に昼飯食ってんだから、一応確認しておくかって思ってさ」
「だってお前の噂聞く限りじゃ、あんまあいつに不利って感じでもないしなぁ」
「でも一応、いたいけな一年生ではあるわけだから」
「万が一、百戦錬磨のお前の手に掛かって泣かされたら可愛そうだなぁという、先輩心もないわけじゃないっつーだけでな」
 慌てて声を掛けたが、銘々随分と好き勝手に言葉を吐くと、満足した様子で部活があるからと学食を出ていってしまった。残っているのは自分と、隣の席の友人だけだ。
「お前は、部活は?」
「行くよー」
「じゃなんで残ってんの」
「お前が不満そうだから?」
「いやだって何が何だかわかんねーっつーか、お前ら、俺に釘刺したかったんじゃないわけ?」
 校内でキスしてるって噂を認めたから、もっと何やら色々言われるんだろうと思ってたのに。
「したいって言われて断らなかったんだろ。クギ刺すとしたらお前じゃなくて後輩の方。性的に緩い相手選んじゃったんだからお前がしっかりしなさいねーくらいは言うかもだけど、言ってもどうせ止めないだろ」
「俺に、止めさせろとは言わないの?」
「平日も家連れ込んで夕飯食えば? とは思うけど、それが無理なら外でチュッチュするより学校内でチュッチュしてから帰るほうがマシな気はする」
「だよねー」
 平日の夕飯をファミレスやらファーストフードではなく自宅でと言うのも有りな気はしていた。ただコンビニ弁当買って帰って一緒に食おうという提案を相手が飲むかは問題だ。相手が作るとか言い出しそうで、部活上がりにそこまで面倒かけるのが嫌だなとは思うし、その確率が高そうで家で食べないかとはなかなか言い出せずにいる。
「噂もさ、今更お前が校内で男とキスしてたって聞いたって、ああやっぱ本当にあの一年男子が恋人になったんだ、って思われるだけだと思うんだよな」
「いや別に、噂はどうでもいいけど」
 言えば知ってると苦笑された。
「むしろ、お前があっさり俺らに噂認めたのがビックリだったわ」
「俺が誤魔化したって、あいつにその噂持ってったら、あいつが認めるに決まってる」
「ですねー。じゃあ何で俺らは、あいつじゃなくてお前に確認したんでしょう?」
「え、なんでだろ?」
 唐突の質問に、素でさっぱりわからず首を傾げる。
「お前の反応を見ただけに決まってんじゃん。お前もそれなりに本気であいつのこと考えてくれてるっぽいのがわかったから、俺らは安心してお前にあいつを預ける気になったわけですよ。いや安心しては言いすぎだけど」
 そこでニヤリと人の悪い笑みを浮かべてから、友人は更に続ける。
「あと、俺からすると、お前が思ったより後輩にメロメロっぽいのわかって楽しかったわ」
「ちょ、メロメロって」
 こちらがあわあわするのを更に面白げに見つめたあと、友人はカラの皿が乗った目の前のトレーに手をかけながら席を立つ。
「さて、俺もそろそろ部活行くけど、なんか言っておきたいこととかある?」
 別にないよと出来る限り素っ気なく返しながら、自分も学食のトレーを手に立ち上がった。

続きました→

 
 
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