Wバツゲーム3

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 土曜日は午前中授業なので、そこまで熱心ではないバスケ部の練習も、当然いつもより断然早く終了する。さすがに夕飯には早いので、今までの彼女だったらデートと称してどこかをうろつくか、家に呼んでダラダラ一緒に過ごしていた。
 自分が恋人とどんな風に過ごすのかは、別れた彼女たちの口から徐々に広まったようで、最近では週末は家に来たがる子ばかりに告白されるから、必然的に家で過ごすことが多いけれど。
 彼女らが家に来たがる理由は大きく分けて二つあって、一つは得意料理を振る舞ってくれることで、もう一つはエッチなことをするためだ。でもさすがに罰ゲームで新しく恋人となった彼には、そういった思惑はないだろう。
 しかしいざ、一緒に帰る道すがらこの後どうするか聞いてみたら、当たり前のように先輩の家に行きますよと返ってきたから驚いた。
「ご飯、作ればいいんすよね?」
 先に調味料と調理器具の確認させて貰ってから買い物に行きたいですと、淀みなく告げられる言葉に驚きはさらに大きくなる。
「本気で言ってんの?」
「え、でも、恋人にご飯作って欲しいんじゃ?」
「俺の話が色々耳に入ってるのはわかるけど、別にそれ強制じゃないから。うち来るのはもちろんいいけど、一緒にゲームしたり何かDVD見たりとかすれば良くない? 無理して変なもん食わされんのやだし、食事は宅配でも食べに出るんでも構わないからさ」
「ああ、そこっすか。あの俺、料理できますよ?」
 そんな変なもん食べさせるつもりはないと言い切られてしまえば、じゃあお願いしますと言うしかなかった。そして料理出来ると言い切っただけあって、歴代彼女たちの作ってくれた食事と比べても遜色ないどころか、相当上位に食い込むレベルでかなり美味しかった。素直に感動したし驚いた。
 彼には今日、驚かされてばかりだ。
 しかし本日最大の驚きは食後に訪れた。使った食器は流しに置いておけば週明けに通いの家政婦さんが洗ってくれるからと言ったのに、このままにしておくと朝食を作る時に邪魔になるのでと返されて、相手が今夜泊まるつもりで訪れていることを知らされたせいだ。
「あのさ、泊まるのは構わないし、朝ご飯も作ってくれるなら普通に楽しみなんだけどさ」
「はぁ、……だけど、なんすか?」
「ちょっと一回、腹割って話をしようか」
 彼が何を聞かされていて、恋人として何をしようとしているのか、聞いておかないのはマズすぎると思った。というかただそれっぽく一緒に過ごす恋人ごっこをするだけのつもりでいたけれど、まさかエッチなことまで彼の中では想定されているのだろうか。律儀で真面目な性格なのはこの数日でもう十分わかっていたが、罰ゲームだからでどこまで受け入れる気で居るんだろう?
 しかも罰ゲームだからと言ったって、彼の罰ゲームはこちらに交際を申し込んだ時点で終了しているわけで、これは成り行きでこちらの罰ゲームに付き合ってくれているだけなのに。
 というか、罰ゲームどうこうを置いておいて、もしエッチなことをして欲しいと思われていたらどうしよう。さすがに男相手の経験なんて一切持っていないのに、求められたらこちらも応えるべきなのか。
「それ、食器洗った後でいいすか」
 グルグル巡る思考に内心かなり動揺しているこちらには気付いていないのか、律儀で真面目だけれど若干マイペースな相手の言葉に些か気が抜けながら、もちろんそれでいいと返した。
「話するなら、お茶、淹れましょうか?」
「あー、うん。じゃあお願いしようかな」
「わかりました。じゃ食器洗ってくるんで」
 そう言って重ねた食器を手に彼はキッチンスペースへ消えていく。
 律儀で、真面目で、若干マイペースだけど、そういえば気遣いも上手い。こちらの動揺は間違いなく伝わっているし、だからこそ食器洗いを優先させたのだと、気が抜けたおかげで気付いてしまった。

続きました→

検索の結果、土曜授業ある高校も多いらしいので、授業有りの設定にしてみました。

 
 
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Wバツゲーム2

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 昼ご飯を一緒に食べながらお互いに簡単な自己紹介を済ませ、連絡先を交換し、放課後は相手の部活が終わるのを教室で待つ。自己紹介で気楽な帰宅部だよと笑っておいたから、待ってると伝えた最初、相手は長時間待たせる事になるのでと渋ったけれどそこは譲らなかった。
 だって罰ゲームのせいとはいえ、自分たちはいま恋人なのだから。
 どこの部活にも所属せず帰宅部なのはこっちの都合だし、恋人の部活が終わるのを待つのだって慣れている。だから気にする必要なんてない。
 そう言ったらモテるんですねと返ってきたから、でも二股とかはしたことないよと、慌てて誠実な男である事をアピールして置いたが、今回恋人になったのは、自分の性別すら今朝まで知らなかったような相手だということを失念していた。
 まぁ自分たちの罰ゲームによる交際は面白おかしく広がっているだろうから、どうせすぐ、自分のことはアレコレ相手の耳に入るだろう。二股はしない程度の誠実さはあっても、それなりの頻度で彼女が変わる、恋人にするには不向きな男だってことも。
 決して全国なんて目指さない、はっきり言えば県大会に進むことすらない我が校のバスケ部の練習は、十八時半が終了時間だ。夏が近いこの時期はまだ日が沈みきっておらず、軽やかな足音が勢い良く近づいて来るのに合わせて顔を上げれば、教室の窓からは綺麗な夕焼けが見えていた。
 教室のドアの前で足音が止まり、一拍以上置いてからゆっくりとドアがスライドしていく。
「遅くなりましたっ!!」
 中を窺う様子の相手と目があった瞬間、ドアを開ける動作と似合わない勢いで相手が声を放ち、それから深々と頭を下げる。ここへ来るまでに随分と急いだのか、息が上がって肩が揺れている。
「お疲れ様。そんな急がなくて良かったのに」
「いえ。かなり待たせてしまったので」
 慣れてるって言ったのにと思いつつ、苦笑しながら机の上を素早く片付け、カバンを手に席を立つ。
「じゃあ帰ろうか。駅前のコンビニかファミレスかファーストフード、どっかしら寄りたいんだけどいい?」
 一品おごるよと言ったらビックリした顔で、待たせた上に奢られる理由がないと返された。
「お前を待ちたくて待ってたのはこっちの都合。どっかしら寄りたいのも俺の都合。お前の時間大丈夫なら、一緒に飯食ってから帰りたいんだよね」
「デートってことすか?」
「ん? あー……うん、まぁ、そんな感じ」
 デートではないなと思ったけれど、恋人という関係だから相手を誘っているのは事実なので、まぁいいかと肯定すれば、相手はわかりましたと神妙に頷いてみせる。
 そのまま連れ立って、黙々と並んで駅までの道を歩いた。バスケの話題にあまり触れたくないなと思ったら、あっと言う間に話題が尽きたせいだ。
 相手からも特に話題提供はなく、この相手と最低一ヶ月と思うと前途多難な気がした。チラと窺う相手は会話がなくとも平然としていて、特に不満そうではないのが幾分救いだったが、平然としすぎていて内心どう思っているかはさっぱりわからない。
 それでも駅が近づけば、この後どこへ寄るかを決めなければならない。しかし、やっと会話が戻るとホッとしつつどこがいいかと聞いたら、あっさりどこでもいいですと返されて、会話というほどの会話にはならなかった。
 結局、軽めからガッツリまで好きに選べるファミレスに入って、自分は普通にハンバーグのセットを頼み、相手は奢ると言ったのを気にしたのか一番価格の安いパスタを頼んだ。
「ずいぶんガッツリ食べるんすね。夕飯、食べれなくなりませんか?」
「俺はこれが夕飯だから。お前こそ、パスタ一人前頼んでたけど平気? もしこれで夕飯食える量減りそうなら、一ヶ月は夕飯少なめにって親に頼んどいて」
「え、まさか毎日、帰りに一緒に食事するんすか?」
「うん。そのつもり」
 今までの彼女ともそうしてきたしと言ったら、ますます驚かれてしまったが、驚かれる理由はもちろんわかっている。恋人だからで済まないおかしなことをしている自覚はある。
「あ、親に言いにくいなら、あまり腹に響きにくいサラダとか小さめのデザートとか、後はドリンクだけとかでもいいからさ。時間ないなら諦めるけど、時間大丈夫ならなるべく俺の夕飯に付き合って?」
「はぁ……」
 納得はされてないなと思ったけれど、自分から細かい事情を話す気にはなれなかったし、相手も聞いては来なかった。そして料理が届けばまたお互い無言でそれらを平らげていく。
 こんなでも一人よりは全然マシだけれど、やっぱり付き合ってと告白してくれる女子たちとは全然違う。思っていた以上に罰ゲームは罰ゲームなのだなと、零れそうになるため息を飲み込んだ。

続きました→

 
 
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Wバツゲーム1

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 昼休み中の下らない遊びの中で、告白されたら相手が誰だろうと最低一ヶ月はお付き合いする。などという罰ゲームを言い渡された翌日の一限が終わった直後、三年の教室に自分を訪ねてきたその一年生男子に見覚えはなかった。それどころか相手だって、多分こちらのことはたいして知らない。
 相手が待つ教室の入口まで歩く途中、相手の顔が苦々しげに変わったのが印象的だったが、理由はすぐに理解した。
「好きです。付き合って下さい」
 意を決した様子でよく通る大きな声で告白してきたくせに、最後に小さく舌打ちした上に、男じゃねぇかと呟いた声まで聞こえてしまったからだ。
 なるほど。確かに男女どちらにも使われるような名前だが、どうやら相手はこちらの性別すら知らずに訪ねてきたらしい。
「何? 罰ゲーム?」
「そおっす」
 正直でよろしい。
 こちらの罰ゲームについては内容が内容なので、昨日の放課後には既にかなり広範囲に周知されていたと思う。だって万が一、知らずに本気の告白なんてしてくる子が居たら大変だ。
 そんなわけで、今の自分に告白なんて真似事をしてくる可能性が高いのは、同じように罰ゲームでだろうと思っていたし、相手が男なのもはっきり言えば想定の範囲内だった。むしろ、罰ゲームで良かったとすら思う。
「いいよ。じゃあ宜しく」
「えっ!?」
 今後一ヶ月ほどは、この見知らぬ一年生と恋人ごっこをするんだなぁなんて思いながら了承を告げたら、相手が心底びっくりした声を上げるから、こちらの方こそ驚いた。
「何驚いてんの。俺の罰ゲーム知ってて来たんでしょ?」
「なんすか、それ」
 本気で驚かれた上、訝しげに眉を寄せるから、もしかしなくても本当に知らないらしい。マジかと思いながら苦笑する。
 知らずに来たなら可哀想に。
「俺今、最初に告白してきた相手と一ヶ月以上お付き合いする罰ゲーム、発動中なんだよね」
 目の前の一年生はゲッと呻いた後、忌々しそうにやられたと呟いている。
「そっちの罰ゲームの内容は?」
 聞けば、自分相手に好きだから付き合ってくれと言ってくるだけだったらしい。相手まで指定されてた事に多少の疑問を持ちつつも、見知らぬ一年生に告白されてオッケーするわけがないと気楽に考え、だったらさっさと済ませてしまえと一限終了と同時にやってきたようだ。
「まぁどう考えても嵌められたよね、君」
「そっすね」
「でもまぁあんな堂々と告白してきた以上、俺の罰ゲームにも付き合ってくれるよね?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
 素直に肯定が返されて、ペコリと頭まで下げた相手に驚く。てっきり、冗談じゃないとゴネられると思っていた。
「じゃあ昼休みになったらまた来て。一緒にご飯食べよ」
「はい」
 やっぱり素直に了承を告げる相手に、授業始まるからそろそろ戻りなと告げて、慌てて去っていく背中を見送る。
 そういや制服のネクタイから学年だけはすぐにわかったけれど、名前すら聞かないままだった。こんな罰ゲームをやらされていることや、本人の雰囲気的にも、何がしかの運動部に所属しているのだろうとは思うが、何をやっているのかも聞きそびれてしまった。
「かわいー年下の恋人ゲットおめっとさん」
 自分の席に戻る途中、そう声を掛けてヒヒヒと笑ったのは、もちろん昨日のゲームに参加していた友人の一人だ。
「お前、あいつ知ってる?」
「うちの後輩」
「てことはあいつの罰ゲーム考えたのお前かよ」
 正解と笑った相手はバスケ部だ。期待の新人君だよーと続いた言葉は軽かったが、そこに嘘はないだろう。長身の自分と並んで目線がそう変わらなかったことだけでも、バスケではきっと重宝される。
「こっちの事情知らされてないとか、可哀想だろ」
「それなのにお前の罰ゲームにも付き合うって言ってくれるいい子だったろ?」
「まぁな」
「可愛がってあげてね。練習とか見に来てもいいからね」
 罰ゲームを使って後輩をけしかけてきた本当の目的は多分それなんだろうと思った。自分も過去にバスケをやっていたことをこの友人は知っているし、辞めてしまったことを未だに随分と惜しんでくれている。
「行くわけ無いだろ」
「気にしないのにー」
「俺が気にするんですー」
 相手の口調に乗ってこちらも軽く返しながら、一ヶ月とは言え恋人ごっこをする相手がバスケ部だったことに、小さなため息を吐き出した。

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