生きる喜びおすそ分け6

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 嫌がることをする気はないから安心していいと言われて、バスローブに触れていた手がスッと放される。
「まずは少し落ち着こうか。で、落ち着いたら何をして欲しいか教えて」
「えっ……」
 上手く出来るかはともかくとして、して欲しいことをしてあげたいよ、という主張らしい。そんな事を言われたら、ますますどうすればいいかわからない。
 男に抱かれた経験は確かにあるが、あの時は誘われて頷いた側であって、自分から積極的に抱かれに行ったわけではなかった。その相手とは、それこそ体だけ気持ちよくして貰うようなセックスを何回かしたけれど、恋人という関係にはならずに今はもう疎遠になっている。
 男相手の経験はそれだけで、つまりはそこまで抱かれ慣れてなんかいない。ついでに言うなら、経験どころか知識もそう多くはない。だって憧れの上長相手に恋人だなんて関係になるまで、男相手のセックスにそこまで興味がなかった。
 気の合う相手であれば、誘われてあっさり抱かれてしまえる程度には男も有りだし、抱いてくれと言われた経験はないけれど、多分そっちも同じだと思う。ただ、恋愛もセックスも女性相手のほうが楽だし楽しいと思っているのも事実だ。
 正直今だって、男同士のセックス自体に興味があると言えるのかは少々怪しい。どちらかといえば、そういう誘いを掛けたらどうするんだろう、という相手に対する興味からの衝動という気がしている。
 恋人関係を解消する気でいたからこそ、最後にちょっと試してみただけというか、拒否される前提だったと言うか、まさかこんなトントン拍子に応じて貰えるなんて思ってなかった。
「もしかして、そこまで経験豊富ってわけでもなかったりする?」
 身を固くしたまま口を閉ざし続けるこちらに何かを察したらしい。疑問符が付いているものの、訝しむと言うよりは確信に満ちた断定に近く、声音はこちらを気遣ってくれているのか柔らかだった。
「あの、はい……」
「なんだ。てっきり、こういうの誘い慣れてるんだと思っちゃったよ」
「慣れてない、です」
「もう一度確認していいかな。男に抱かれたことがあるのは事実? それと、本当に俺と、したいって思ってる?」
「抱かれたことは、あります。あと、俺としてもいいって思ってくれるなら、してみたいのも、本当、です」
「それ、恋人なんだからセックスはするべきだ、みたいな義務感とか固定観念とかで言ってないよね?」
「恋人だからしたいならしてあげるって言ったの、そっちでしょ。義務感で抱いてくれるんですよね?」
「ああゴメン、そういう意味で聞いたわけじゃなくて。というか、男と付き合うことに慣れてて、恋人になったのにセックスがないのが不満だった、って話じゃなさそうだって思ってさ」
 もしかしたら凄く無神経で酷いことを聞くけど、なんて前置かれて胸がキュウと締め付けられる。これ以上聞きたくない。
「もしかして俺は君に、結構ガチに惚れられてたりするのかな?」
 ちょっと憧れてるだけの尊敬する先輩です、と明るく笑って返せたら良かったのに。グッと喉が詰まってしまって何も言えない。呼吸すらままならなくて、吐き出す息が震えているのがわかる。
 そんなこちらの様子に、相手が心底申し訳なさそうにゴメンネだなんて言うから、とうとう涙が溢れてしまった。

続きました→

 
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