エイプリルフールの攻防2

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 大学2年目の春は、やはりわざわざ始発でアパートまでやってきた相手を部屋に上げて、好きだの言葉に好きを返し、舌を触れ合わせる深いキスを自分から仕掛けて行った。相手の驚く顔が見れて、少しだけ溜飲が下がった。
 お前も懲りないよなとフフンと笑い、今までの鬱憤を晴らすべく嘘に驚くなよと嘲って、ざまーみろと付け加えれば、相手が嫌そうに眉を寄せたのでますます気分が良かった。しかも自主的にさっさと帰ってくれたので、初めて勝ったような気がして嬉しかった。
 でも同時に、仕掛けたキスに丁寧に応じてきた相手を、そのキスに感じてしまった自分を、しばらく忘れられなくて苦しかった。
 3年目の春も懲りずに訪れた相手を、同じように部屋に上げてキスを仕掛けていったら、押し倒されて撫で回された挙句、手で握られ擦られ相手の手の中に吐精してしまった。やめてとか嫌だとかの言葉はキスで封じられていたし、力は明らかに相手の方が強い。でも本気で抵抗しきれなかったせいだという事もわかっている。
 大学進学で物理的な距離が大きく開き、年に一度エイプリルフールに会うだけの相手なのに、他の誰かを好きになる事は出来なかった。そして4月1日の朝にドアを開けて相手の顔を見ると、やはり好きなのだと思い知るのだ。
 強引にされた事よりも、その手を拒否出来なかった事が辛くて涙が抑えられず、相手を相当驚かせた上に随分と気まずそうな顔をさせたから、結果的に相手に一矢報いる事は出来たらしい。
 ただ、泣いてしまったショックもあり、無理矢理追い出すタイミングを逸したせいで、気まずそうな相手に優しく宥められたのは、その後もかなり引きずる事になった。
 ぐずぐずと泣く自分を緩く抱きしめそっと背を撫でてくれながら、しかし決して謝る事はせず、代わりとばかりに可愛いかったとか感じて貰えて嬉しいだとか好きだとか繰り返されて、嬉しいのに苦しくて辛くて涙はなかなか止まらなかった。だってエイプリルフールであるこの日に彼の吐き出す言葉が、嘘だという事を自分は知ってしまっている。
 そして大学4年の今年も、よくまあ顔を出せると思いながらも部屋の中へ迎え入れ、今年も来てくれて嬉しいと笑う。嬉しいのは嘘じゃないけど、見せる笑顔は嘘だった。全く笑えるような気分じゃないのに笑えるのだから、この数年で随分と嘘が上手くなってしまった。
「喜んで貰えて俺も嬉しい」
 柔らかに笑い返されながら、腰に回った腕に引き寄せられる。ドキドキを隠して、慣れたフリで自分から顔を寄せ唇に触れた。
 軽く何度か触れた後で舌を伸ばせば、簡単に迎え入れられ舌先をチュウと吸われて甘噛みされる。ぞわっと肌が粟立って、腰に何かが集まり重くなる。
「あっさり感じて、相変わらず可愛いな」
 ふふっと笑われながら押し倒してくる相手の背を、腕を伸ばして抱いてみた。昨年同様触れられる覚悟も、それどころか抱かれるつもりまである。
 自分の意思で受け入れるのだから、少なくとも、彼がこの部屋にいるうちは泣き顔を見せずに過ごせるはずだ。
「今年は、最後まで、抱いてくれる?」
 相手の顔を直視しながら口にする勇気はなかったから、引き寄せた彼が覆いかぶさって来た後に、そっとその耳に吹き込んでみた。
 腕の中でギクリと小さくはねる体。しかし相手の驚きに、してやったりと笑える余裕はない。
「ねぇ、好きだよ」
「ああ。俺も好きだ」
 好きの言葉に反応して、すぐさま好きが返された。
「ほら、せっかく両思いなんだから、最後まで、しよ?」
 相手の躊躇いを感じながら、それでさと言葉を続けていく。
「でさ、もう、終わりにしてよ。お前は楽しいのかも知れないけど、俺はやっぱり嘘吐くの向いてないし、年一回の遊びってわかってても、遊びと割り切って今日だけの事に出来ないんだよ。お前が好きだよ。今日は嘘で良いけど、今日が終わったら無くなる訳でも、反転して嫌いになれるわけでもないからさ。だから、終わりにさせて」
 なんせ今日はエイプリルフールなので、これすら嘘と思われるかも知れない。だから一応、エイプリルフールだけど今日は全部本当の事しか言ってないよと言ってみた。
「わかった。終わりにする」
 これ本当なと耳元に囁かれた言葉に、ホッとし過ぎて体の力が抜けていく。
「でも、今日このままお前を抱くのは無理」
「ああ、うん。いいよ」
 言われて、確かにそうなるよなと、内心苦笑するしかなかった。
「本気で好きとか言ってる男に、好きだの可愛いだのの嘘言ったって面白くないよな。本気で抱かれたがってる相手なんて抱けないってならそれでいい。お前、俺が喜んだら悔しいもんな」
 抱かれるつもりでそれなりに体を慣らしてあったから、少し残念でもあったけれど、でも自分ばかりが好きなセックスなんて、しなくて済むならしない方が良いと思う気持ちもある。
「違う。そうじゃなくて、お前を抱くのは明日にさせてくれ」
「は? 明日?」
「今日が終わったら、もう一度、お前に好きって言う。今日のうちに俺も本気でお前が好きだって言っても、どうせお前、信じられないだろ。まぁそれも全部俺のせいだけどな」
 明日、全ての本当を話すよと、柔らかで優しい声が鼓膜を震わせた。

続きました→

 
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