ゴムの数がオカシイ

 先週末は恋人の家にお泊りして、当然のように抱かれたのだけれど、あの日ベッドの中で一瞬感じた違和感の正体がわかったのは、週も半ばを過ぎてからだった。
 ずっとなんだかモヤモヤとして、恋人に対する不信感のようなものが胸の中に巣食っていた。でも思い返しても思い返しても、あの日の彼に、普段と違う様子なんてまるでなかったから、自分は一体何をそんなに不安がっているんだろうと思っていた。
 原因はどうやら、あの日彼が新しく開封したコンドームの箱らしい。時々面白がって、どこからか変なコンドーム(イボがついてたり香りがついてたり、時には味までついてたりする)を調達してくることもあるけれど、基本的には使っている銘柄はいつも一緒だ。今のところそれが一番お気に入りってのは知っているし、あの日開けた箱もいつも通りの同じ箱だった。
 なのになぜそれが原因かと言えば、問題はコンドームの数だった。新しいものを開けるということは、使い切ったということだ。一箱12個入りだけど、前回新しいのを開けてから、どう考えてもそんなに使っていないと思う。
 少し忙しい日々が続いて、なかなか会えなかったから尚更、そこまで減っている事がオカシイとしか思えない。オカシイというか、つまり、他の誰かに使ったんじゃないかという、疑惑だ。
 浮気なんてするタイプじゃないと思ってるし、そこそこ長い付き合いの自分たちの間で、相手の隠しごとに気づかないなんてことはあるだろうか。それとも、付き合いが長いからこそ、本気で隠されたら気づけないって事なんだろうか。
 最近は関係も安定していたから、こんな風に相手を疑って気持ちを揺らす事が久々だった。でもどうせ週末はまた会うんだし、その時にでも軽く聞いて確かめればいい。
 なのに恋人の家を訪れて、玄関先で顔を合わせた瞬間から、ビックリするほど気持ちが激しく揺れてしまった。あっさり涙目になったものだから、こんな自分を目にした相手も相当驚いている。
「は? え? どした? なんか会社で嫌なことでも起きてんの?」
「そ、じゃな……」
「ああ、うん、話は聞くから。とりあえず玄関じゃなくてリビングまでは行こ。お茶淹れるから、座って、落ち着いて、ゆっくり話そ」
 心配げにそう促してくれる相手の優しさに、グッと胸をつまらせる。疑って申し訳ないって気持ちで一杯になる。でも、ちゃんと確かめないと、このままだと疑惑に自分が押しつぶされてしまうのも、もうわかる。
 浮気されてるかもってちょっと考えただけでこんな風に泣けるくらい、いつのまにか、こんなにも好きで好きで仕方がなかったなんて、知らなかった。しんどい気持ちの片隅に、こんな状態になっている自分自身に驚いている自分がいる。
「先に、寝室、行きたい」
「うぇっ!?」
 めちゃくちゃ驚いているのは、こちらが事前にシャワーを浴びたい派だってことも、抱き合う前に準備が必要だってことも、彼がちゃんと知っているからだ。
「今すぐ抱いてってんじゃなくて、ちょっと、確かめさせて」
「何を? てかまぁいいや。何か気になってんなら、お好きにどうぞ?」
 何の警戒もしていないところから、やっぱり浮気なんてしてるはずがないと思うのに、気づかれるはずがないって自信からかもと疑う気持ちが湧いてくるから、本当に自分の思考が嫌になる。
 ゴメンと一言呟いてから、真っ直ぐに寝室へ向かってドアを開けた。コンドームやローションがどこにしまわれているかは当然わかっている。引き出しをあけて、先日開封したばかりの箱を手に取った。
 箱を開けて、中身の数を確認する。やっぱり、あるべきはずの数よりも、足りない。
「あの、これ」
 手の中の箱を、相手に向けて突き出した。相手はわけがわからないという顔をしながらも、律儀に頷き、それがどうかしたかと、話の先を促してくれる。
「うん。それが?」
「数、オカシイ、よね?」
「は? 数?」
「そう、数。これ、この前新しく開けてた箱でしょ。で、あの日俺に使った数より、減ってる」
「あ? あー……ああ、なるほど? つまり、俺が浮気してるかもって?」
「まぁ、そう」
「お前、自分で抜く時、ゴム使わない派? というか使わないからこその、浮気疑惑だよな」
 こちらが何を疑って、涙目になったり寝室に突撃したりしてるかに気づいた相手は、困ったような、それでいて笑いをこらえているような、どうにも微妙な顔を見せている。
「自分で抜く時? って?」
「まんまその通りだって。オナニーする時、シーツや布団に垂らして汚すの嫌だし、後始末面倒だからゴム使ってすんだよね」
「は? え? マジで?」
「マジで。てわけで、浮気なんてしてないから安心して? てか浮気疑って心配になって、さっき泣きそうになってたのかと思うと、今すぐぎゅーぎゅーに抱きしめて、そのままベッド押し倒して抱き潰したいくらい可愛いんだけど」
 とうとうニヤニヤがおさまらないって感じに表情をがっつり崩してしまった相手に、こちらはいたたまれなさでいっぱいになりながら。
「抱き潰すのは、夜にして」
 言えば了解と言いながら伸びてきた腕に、先程の言葉通りぎゅーぎゅーと抱きしめられた。

 
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