弟の親友がヤバイ8

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 弟と幸せにと丸投げした方が、彼にとっても幸せなのではと思う気持ちはもちろんあった。弟が彼を想う気持ちは本物だと思うし、あの弟ならば傷付いた彼を幸せにも出来そうな気がする。
 ただそこには兄としての欲目や、弟の恋を応援したい気持ちやらも当然含んでいるだろう。更に言うなら今回の件の発端が弟で、そこに至る原因が自分にあるなら、責任を取るのは兄である自分の方だという気持ちもある。
 しかし責任という気持ちは、余計に彼を傷付けないだろうか?
 彼に対して恋愛感情が湧くかと言えば正直かなり微妙だ。それでも、同情だったり罪悪感だったり責任感だったりが根本にあろうと、もしまだ本当に自分を求めているというなら、彼の想いに応じてやりたい気持ちも嘘ではなかった。
 というところまで考えて、そういや弟の話しか聞いていなくて、彼自身からは復讐としか言われていない事実に気づく。弟の話を鵜呑みにしていたが、彼自身に別の思惑はないのか、そもそも弟の計画に乗って告白する気があったのか、恋人になりたいという気持ちがあるのか、まずはそこを確かめるべきじゃないのかと思った。
 応じる方向で彼と直接話しをしたい。まずは誤解をといて、それから彼の本心を自分の耳で聞きたい。そう弟に告げに行ったら、弟は笑ってそう言うと思ってたと言った。兄さんってやっぱり結構チョロいよねと続けられたのには少し納得がいかない。
 もし自分が彼に応じるとして、それで弟は構わないのかという疑問に対しては、彼の想いを応援したい気持ちがなかったらこんな計画は立ててないし、もっと早い段階で普通に口説いてたよと返されて納得した。
 自分が悩んでいる間ずっと彼と何やら連絡を取り合っていたらしい弟は、ものの数分で駅前のカラオケに呼び出しを完了し、これ以上泣かせたら許さないからねと釘を差しつつも自分を送り出してくれた。一緒に行く気はないようだ。
 カラオケ店の前で待つこと数分、やってきた彼は黙ったまま軽く頭を下げる。どうしたって気になってしまう目元はまだ少し赤いままで、顔色はあまり良くなく全体的にどこか疲れた様子だった。
 取り敢えず入ろうと促した言葉にも黙って頷くだけの彼を連れて入店したが、もちろん歌いに来たわけではないので、部屋に入っても機器類に触れることはしない。
「まず、一番先に言っておきたいんだけど、俺は別に弟を恋愛対象にはしていない。可愛いけど、大事な弟ってだけだ」
 小さな部屋の中、テーブルを挟んで向かい合って席につき、少し気まずい沈黙が流れた後で口を開いた。
「聞きました」
 彼の様子に、会話が出来るかを危ぶんでいたくらいだったので、はっきりと発せられた声にまずはホッとしてしまう。
「彼が貴方に何を話したか、貴方がなんと答えたか、多分、ほぼ全て聞いてます」
「そ、そうか」
 何やら連絡を取り合ってた中身がそれだったんだろうというのはわかったが、だったらそれも送り出すときに言っておいて欲しかった。
「でも俺は、弟を信じてはいるけど、盲信してはいないんだ」
「盲信、ですか」
「そう。弟からの情報だけじゃ全然足りない。というか、弟の話は補足的なものであって、俺が直接君から聞いてるのは、復讐って言葉と、後は弟に手を出されたくないなら抱かれろって脅迫だ」
「確かに」
「始めっから、俺を脅迫して抱くつもりだった? それとも、俺が素直に君の手でイかされてたら、弟の計画通り告白する気だった?」
「告白する気は、ありましたよ、一応。でも何しても、手だけじゃなくて舐めてすら反応がなかったから、その時点で色々絶望しました」
「いやだからそれ、酷いことされたら萎えちゃう系なんだってば」
 言ったら少し険しい顔になって睨まれる。ああまだそんな顔を向けてくる気概が残っていて良かったと、やはりまた少し安堵した。
「でも俺は、逆の立場で貴方にイかされてるんです」
「穴があったら入れたい盛りの男子中学生と、仕事で日々ヘロヘロになってる社会人とを一緒にするなって」
 苦笑しつつ続ける。
「本当に、幼い君に、酷いことをしたと反省してる。だからその結果の恨みも、生まれてしまった恋心も、君がまだそれを望むならだけど、受け止めたいと思ってる」
「恨みも?」
「そう、恨みも」
「絶望して、すんなり脅迫してでも抱いてしまえって発想が出てくるくらいには、エグい妄想もかなりしてきてますけど」
「うんまぁ、それは、わかってる」
 言えば相手は少し驚いたように目を瞠った。
「本当ですか? あいつの中の俺、けっこう美化されてますよね? その俺に同情したから付き合ってやろうって話じゃないんですか?」
 美化されてるって自覚あるのかと思ったらなんだか笑いそうだった。笑ってしまうのを堪えて、コホンと一つ咳払いしてから口を開く。
「あーうん、それは違う、かな。いやあいつの目を通した君の姿に、罪悪感煽られまくったのはあるから、それも一つの要因ではあるけど。でもさ、あいつが知らないことがあるってのも、話し聞いててわかってるし」
「あいつが知らないこと?」
「あの日、俺がどんな言葉で君を責めたか、弟は知らなかった。君に脅迫されたと言ったら、あいつ凄く驚いてたし。君たちは親友で、かなり色々と深い部分まで話をしているみたいだけど、でも弟が全てを知っているわけじゃない。あいつだって、君にあいつ自身の全てを見せているわけじゃない」
「それは、まぁ、確かに……」
「だから俺は、君自身の言葉を聞きに来たんだよ。弟から大体の事情は聞いた。君の気持ちも弟経由で聞いた。でも、君自身からは、復讐したいとしか聞いてない。今の君の気持ちはどうなってる?」
 そんなことを聞かれると思っていなかったとでも言うように、彼は口元を隠すように手を当てて考え始めてしまった。

続きました→

 
 
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「弟の親友がヤバイ8」への2件のフィードバック

  1. 書きたい事が膨らんでしまうのはあると思います。
    私みたいな、「もうちょっと状況説明してー」 なんてこともあるでしょうし(ごめんなさい)。

    弟くんの画策? のお蔭で当人同士の話し合い。本音を言い合って歩み寄りが出来る・・よね?

  2. mさん、コメントありがとうございます(*^_^*)
    本日更新分では終われませんでしたが、でも次回更新で終われそうかなと思います。
    不要なものを削って必要な物を残していく、というのを模索中ですが、ついダラダラとあれもこれもと詰め込みたくなってしまうんですよね。

    なお、本音を言い合っての歩み寄りはベッドの中でということになりました(笑)

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