追いかけて追いかけて14

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 手頃なホテルを見つけるまでの間、相手の話術に引き出されるに任せて、互いの性体験を暴露しあった。もちろん、今までそういった話題が二人の間で語られたことはない。ノリは実験内容やらを語ったり、相手の仕事の話を聞いているのとそう大差ないのがどこか不思議で、でもだからこそ、下世話な好奇心による猥談とは全く違うのだと思わされる。
 男相手の経験はもちろん、女性相手の経験もほぼないと相手に知っておいてもらうこと。逆に相手はちゃんと、男性とも女性とも交際経験があって童貞ではないどころか処女でもないと自分が知っておくことは、多分必要なんだろう。
 さすがに男を抱いたことも抱かれたこともあるってのは衝撃で、しかもその相手は同一人物だってのもなんだか驚きだったし、童貞貰って欲しいかと聞かれたのは予想外もいいところだったけど。ただ、彼が男性とお付き合いをしていたのは彼が高校生の頃だというし、抱かれた経験がないわけじゃないという程度の話だったから、抱かせて欲しいなんて事は言わなかった。というか、される想像はしたことがあっても、相手を抱く想像はしたことがない。
 うっかりそうこぼせば、実験前の注意事項確認みたいな雰囲気から一転して、興味津々に何をされる想像をしていたか根掘り葉掘り聞いてくるから、思いっきりたじろいで正直に答えることなんて出来ないままアタフタする。そうしている間に車はスルッと建物の中に吸い込まれて、ラブホに着いたのだと意識するとともに忘れていた緊張が蘇り動揺が加速した。
 先にさっさと車を降りた相手を視線だけで追えば、ゆっくりと正面を回ってきたたかとおもうと、助手席側のドアを容赦なく大きく開ける。
「緊張しちゃって出てこれないなら、さっきみたいにキスしてあげようか?」
 にこっと笑う顔は優しいというより楽しげで、降りなきゃ本気でキスされると思って、思いっきり首をブンブンと横に振った。
「じゃあ出ておいで。十数える間に出てこないとキスするよ」
 いーち、にー、と数え始めた相手に、慌ててシートベルを外して車の外に転がり出る。そんなに慌てなくてもいいのにと、慌てさせた本人が言うのはなんだか少し理不尽だ。
「慌てちゃって可愛いから、やっぱりちょっとキスしていい?」
 いたずらっぽく笑うのがどこまで本気かはわからない。でも許可したら間違いなくされてしまうのはわかるから、こちらが返せるのはダメですの言葉だけだ。
「さっき以上に誰かに見られる心配なさそうだけど」
 平日の午後という時間帯のせいか駐車場もガラガラではあるけれど。もしこのタイミングで他の客と会ってしまうような事が起きたら、どれだけ運が悪いんだって話だけど。
「スリルとか求めてないんで、するなら二人っきりになってからが、いいです」
「それは確かに。じゃあ、部屋に入ったらいっぱいキスしよう」
 ふふっと笑った相手が背を向けて歩きだす。くんっ、と体を引かれてこちらも歩き出してから、手を繋がれている事に気づいた。いつ繋がれたのかわからないのが驚きで、でも相手の手の温かさになんだかホッとしているのも事実だった。
 ああ、いつの間にか緊張も消えてる。酷い動揺も、狼狽も、随分と落ち着いている。
 本来の性格もあるのだろうけれど、いつも以上に気遣われているのがわかる。この人を好きになって良かったって、思ってしまう。
 色々と危惧するべき事項を投げ捨てて、誘いに乗ってしまったけれど、誘って貰えたことが今更しみじみと嬉しい。恋人にもセフレにもならないと言い切った後でも、欲しいならあげるよって言ってくれたのが嬉しい。
 欲しがったのは確かに自分で、でも実のところ、何を貰えるのかははっきりわかっていなかった。いったい何が貰えるんだろう。どんな妄想で抜いてたかは結局ほとんど口に出来なかったけど、想像の中の彼のように、優しく笑いながらたくさんのキスを落として、この肌に触れてくれるだろうか。
 少なくとも、取り敢えず部屋に入ったらキスはする。いっぱいする。他にどんなことをしてくれるのか。貰えるものは何もかも、全部もらって帰りたいなと思った。

続きました→

 
 
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