夕方のカラオケで振られた君と

 自分がバイトするカラオケは、昼の11時半から19時半までの8時間が昼のフリータイムになっていて、2時間以上歌うのであればそちらが得になる料金設定になっている。
 その男性二人組は開店と同時にやって来て、片方の男が迷うことなくフリータイムで二人分の申し込みをした。
 彼の事は少しだけ知っている。近くの高校に通っている学生らしく、いつもは学校帰りの夕方に友人たちと歌っていく事が多い。
 同じく近くの大学に通い、夕方はだいたいバイトに入っている自分とは、遭遇率も高かった。だいたい4〜6人くらいでやって来るが、受付をするのは決まって彼なので、軽い世間話くらいはする事もある。
 その彼が、いつものメンバーとは全く雰囲気の違う、真面目で大人しそうな男を連れて来店したのが、まず驚きだった。しかも二人利用というのも、自分が知る限り初めてだ。
「学校は春休み?」
 大学はとっくに春休み期間で、だからこそ自分も平日のこんな時間からバイトに入っている。いつもは制服の彼も今日は私服だし、高校もどうやら春休みに入ったようだ。
 わかっていつつも、受付ついでに問いかける。
「あっ、はい」
 緊張と動揺と興奮とが滲む硬い声に、更に感じてしまう違和感。
「どうした?」
「えっ?」
「なんか、らしくないけど」
「あーまぁーちょっと」
 ごにょごにょと言葉を濁され、触れられたくないらしいと深追いはせず、伝票ホルダーにルームナンバーと利用人数と退室時間の記された紙を挟んで渡した。
 恋人だったりして。なんて事を部屋に向かう二人の背中を見送りながら思ってしまったのは、彼のツレに対する態度が明らかにいつもの友人たちに対するものとは違っていたからだ。気を使いつつも馴れ馴れしく、そのくせどこかぎこちない。
 彼らが恋人なら少し残念だなと思ってしまうのは、同性が恋愛対象な自分にとっては、時折訪れる彼が魅力的に映っていたからだ。それとも、彼も同類かもしれないと喜ぶべき場面なのだろうか?
 なんて事をつらつらと考えていたら、そのツレの男が、入店から1時間もしないうちにレジカウンター前にあらわれた。とはいってもこちらに用がある様子ではなく、どうやらそのまま帰るらしい。
「お帰りですか?」
「……はい」
 思わず声をかけてしまえば、彼は気まずそうに会釈して、そそくさと出入り口の扉を通って行ってしまった。
 その直後、彼らが入った部屋からの入電があり、何品ものフードメニューを注文された。ツレは帰ってしまったのに、どう考えても一人で食べる量じゃない。そうは思いながらも、注文が来た以上は次々と料理を作り運んでいく。
 最初に運んだ数品はすごい勢いで食べ尽くされて、次の料理を運ぶ時には空になった前の皿を下げるという調子だったが、さすがに途中からはテーブルの上に料理の皿が並んでいく。
 しかも部屋の空気は訪れるごとに重く沈んでいくようだった。
 ペースは落ちたものの変わらず黙々と料理を食べ続ける彼からは、いつもの明るさも楽しげな様子も一切抜け落ちている。必死に何かを耐えているようにも見えた。
 帰ってしまった彼と喧嘩でもしたのだろうか。しかし何があったかなど聞ける立場にはいない。
「あのっ!」
 注文された最後の料理を運び、部屋を出ようとしたところで呼び止められる。
「他にも何か?」
「いやその……これ、一緒に食べて、貰えないかなって……」
「はっ?」
 思わず漏れてしまった声に、相手はすまなさそうな顔で言葉を続ける。
「振られたからやけ食い。って思って頼んだけど、やっぱ頼みすぎだったから」
 振られたんだ!? と言う驚きと、そりゃこの量を一人で食べるのは無理だと頷く気持ちとが同時に押し寄せて言葉に詰まってしまったら、相手は泣きそうな顔を隠すように俯いて、ごめんなさいと言った。
「仕事中に無理言ってすみません。大丈夫なんで戻って下さい」
 少し震える硬い声に後ろ髪引かれつつも一度退室した後は、手すきの合間にバイト仲間に電話をかけまくった。
 ようやく急な代打を引き受けてくれる相手を見つけて、その相手が到着したのは既に夕刻だったが、幸い彼はまだ退室していない。
 慌てて着替えて向かう先はもちろん彼の居る部屋だ。
「お待たせ」
「えっ?」
「食べに来たよ」
「な、なんで?」
「一緒に食べてって誘ってくれたのそっちでしょ?」
 びっくり顔で目をぱちくりさせる様子はかわいいが、その目元は泣いたのか赤くなっている。
 遠慮なく彼の隣に腰を下ろし、その顔を覗き込むようにグッと顔を寄せた。
「泣いたの?」
 慌ててのけぞろうとするのを阻止するように腕を掴めば、ますます慌てたようだった。
「実は、チャンスだと思ってる」
「ちゃ、…ンス?」
「一緒に来てた男の子に振られたって事は、俺を好きになって貰える可能性、ゼロじゃないよね?」
「それ、って……」
 にっこり笑って頷いて、君が好きだと告げてみた。

有坂レイさんは、「夕方のカラオケ」で登場人物が「振られる」、「春」という単語を使ったお話を考えて下さい。
shindanmaker.com/28927

 
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