せんせい。11話 追わない

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「今追いかけないと、確実にあの人は手に入らないぞ?」
 どんな気持ちで今泉はその言葉を吐き出しているのだろう?
 心配気な声に、美里は軽く首を振る。作ろうとした笑顔は失敗して、今泉に余計心配そうな顔をさせてしまったが、それは仕方がないだろう。
「いいんだ。お前の言う通りだからな」
 追いかけても、きっと美里が望む形で、雅善を自分のモノにはできないだろう。大切なものを自分の手で傷つけてしまう前に、その手を放せるにこしたことはない。
「どっちにしろ、俺の手には入らないさ。それに、お前に付き合うのも、意外と楽しいかも知れないと思って」
 2年半もの間を共に同じ部の中で過ごしてきた相手で、友人としては充分に好意を抱いている相手なのだ。
 向けてくれる気持ちにも、先ほどのキスにも。嫌悪感は湧かなかったし、きっと、その気持ちに応えられる日が来るだろうという予感めいたものがある。けれどそんな美里の気持ちまでは計りきれない今泉は、自嘲気味な笑みを口元に浮かべただけだった。
 それに気付いて、美里は今度こそしっかりと笑って見せた。
「心配しなくても、ちゃんとお前を、好きになるよ」
「本気で、俺をそういう対象として見れるって言うのか?」
「ああ。さっき、キスだってしただろ?」
 サッと軽いキスを掠め取ってから、美里は片目を閉じて見せる。
「というわけで、取りあえずデートでもしてみないか?」
「デー……ト……?」
「ま、普段出掛けるのと大差ないかもしれないけどな。気持ちや心構えが違えば、何か変わるかもしれないし。そういうのも含めて、お前と付き合ってみるのも面白そうだと思ったんだ」
 お友達から宜しくお願いします。って感じだよなと笑う美里に、今泉は小さく溜息を吐き出した。
「お前って、そういう奴だよな」
 返される言葉には充分予測がつくだろうに、口にせずにはいられないという様子だ。それは美里の方も、当然了承済みの付き合いの長さな訳で。
「そういう所も、好きなんだろう?」
 今泉の予測通りの言葉を、予測通りの口調でもって告げてやりながら。この友人としてのいい関係を崩すことなく、恋人としての新しい関係を作っていけたらいいなと願った。

 

 

**********

 サッカーで選ばなかった大学には、同好会に毛が生えた程度のクラブしかなかったが、楽しむためのサッカーをするにはそれで充分だった。
 1年でありながらあっさりレギュラーの座に就いた美里と今泉は、初の練習試合にも気楽な調子で挑んでいたのだが、高校時代に培ったコンビプレーによって、対戦成績が今ひとつのチーム相手に快勝したとなれば、先輩達の機嫌はすこぶる良くて。殊勲賞だのなんだのと言いながら、試合後には食事を奢ってくれた。
 膨れた腹を抱えて帰路につく。さすがに同居にまでは踏み切らなかったものの、大学入学と同時に家を出て、隣り合った部屋を借りた二人が向かう建物は同じだ。
「じゃあ、また後でな」
 部屋の前で立ち止まった美里にそう告げて通り過ぎようとする今泉の腕を、美里はすかさず伸ばした手で掴む。
「え、おい!?」
 抗議の声を上げる今泉を気に掛けることなくドアの鍵を開けた美里は、そのまま今泉を玄関先へと引きずり込んだ。
「何サカッてんだか」
 呆れた口調に、出来る限り余裕の笑みで返しながら。
「サカッてんのはお互い様だろ?」
 閉じたドアに背中を押し付けて、そのまま玄関先でキスを奪う。密着させた股間の昂りは、同じように硬さを増した今泉のソレとぶつかりあった。
 小さなうめき声と、続いて吐き出される熱い吐息。唇の先で受け止めながら、美里は口の端に小さな笑みを浮かべる。
 色っぽいだとか可愛いだとか、そんな言葉を嫌っているのを知っている。確かに、普段の彼であれば自分同様カッコイイという表現が一番似合うのだろうが、それでもやはり、こういう時に今泉が無意識に見せる表情は、色のある可愛さなのだ。
 昼間の試合中に見た勝気な表情に煽られて、試合終了時からずっと、美里はあの瞳を情欲で溺れさせたい欲望に駆られていた。
「んんっ……」
 触れたキスを深い物に変えて弱い部分を舐め上げてやれば、腕を掴んでいた手の平に、肌の粟立つ感触が伝わってくる。
「いいだろ?」
 耳朶を食みながら囁いた。
「夜まで、待てないのかよ?」
「俺にお預け食らわせたいなら、待ってもいいけど」
 掠れかけた声が鼓膜を震わせるのに、美里は舌先で今泉の耳朶を弄りながらも悪戯っぽく笑う。
 きっと焦らされた分の報復を、その身体にしてしまうだろう。それを悟ってか、今泉も諦めたように美里の背中に腕をまわした。
「洗濯物、今日の内にやっておきたかったんだけどな……」
 試合で汗を吸って汚れたユニフォームをさっさと洗ってしまいたい気持ちは美里にもわかる。そしてそのセリフが、今から応じることへの要求なのだと言うことも。
「後で俺が一緒に洗っといてやるよ」
 行為によって今泉の身体へ掛かる負担を思えば、それくらいなんでもないことだ。
 むしろもっとワガママいっぱいに甘えてくれたっていい。というよりも、甘えて欲しい。
 そんな美里の思いとは裏腹に、今泉の要求は至って控えめだ。始まるキッカケの影響か、今はまだ友人として過ごした時間の方が長い故の照れや遠慮か、もともとの性格か。
 それでも。
「明日の朝飯」
 続いて出された要求に、やはり少しづつ変わって来ているのかなとも思う。そういう要求が、過ごす時間と共に少しづつ増えていくのかも知れない。そして、このまま今夜は泊まって行くと、明確には言わないところすら可愛いかも知れないなんて、そんな風に思うようになった自分自身も。
 この気持ちの行きつく先を、少しばかり楽しみにしている。
「はいはい。それも俺が作ってやるって」
 だからベッドへ。
 耳元へ囁き、せっかくまわして貰った腕を惜しみながらも身体を離した美里は、その手を引いて部屋の奥へと向かった。

<END No.2>

 
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