エイプリルフール禁止

エイプリルフールの攻防の二人の1年後です。

 就職先は実家から通える範囲で探したので、大学を卒業後は一旦実家へ戻っているが、元々実家住まいだった恋人は、逆に実家を出ることにしたらしい。同じように実家から通える範囲で就職先を探したと言っていた相手が、実家からそう遠くはない場所でわざわざ一人暮らしを始める目的なんて、致す場所が欲しいからに違いない。
 恋人になってからの1年は遠距離ながらも相手がそこそこの頻度でこちらのアパートに通ってくれたし、長期休暇中はほとんど一緒に住んでるような状況だったので、誰の目を気にすることもなく部屋の中でイチャつけたけれど、双方実家住まいとなるとそうはいかない。
 実家に戻ったらどうしようかな、とは思っていたけれど、まさか相手がさっさと一人暮らしを開始するとは思わなかった。相変わらず、無駄に行動力だけはある男だ。
「これ、お前の分の合鍵な」
 実家に戻った翌日の夜に呼び出されて、初めてお邪魔した彼の部屋で、真っ先に差し出されたのが銀色に光る1本の鍵だった。
「え、いきなり合鍵渡すとかある?」
 そこそこの頻度で通ってはくれたし長期休暇中は同居に近かったが、さすがにアパートの合鍵を渡したりはしなかったので、受け取ってよいのかを迷ってしまう。
 すると、こちらの躊躇いを感じ取った相手に手を取られて、開かされた手のひらの上に鍵を落とされた。しかもそれを握り込ませるようにして、相手の両手で自身の拳が包まれる。
「お前のが早く帰れる日もあるはずだから持ってて」
「早く帰れる日?」
「週末だけじゃなくて、平日も、気が向いたら会いに来てくれたら、嬉しいなって」
 さすがにルームシェアを持ちかけるのは早すぎるかと思ったけど、やっぱりできれば一緒に住みたいし、お前がいる家にただいまって帰ってくるのとかめちゃくちゃ憧れる。なんて言われて嬉しくないわけがない。
 就職先は実家から通える範囲で探してると伝えたとき、ホッとした様子で、じゃあ俺もそうすると言われたし、その時に、お前がこっちで就職先探すなら俺もこっちで探そうと思ってたと言われたから、卒業後にルームシェアという可能性も一応は考えていたのだ。
 でもそんな話は一切ないまま、事後報告で一人暮らしを始めたことを聞いたので、これはヤるための部屋の確保だなと思い込んでいたけれど。でも相手も一緒に暮らすことを考えてくれていたらしい。
「わかった。じゃあ、預かっとく」
「預かるだけじゃなくて使って欲しいんだけど」
「わかったわかった。ちゃんと、使うよ」
「あと確認しておきたいんだけど、入社式って4月1日?」
「そうだけど」
「何時に家出る予定?」
 なんでそんなのを気にするんだ。と思ったところで気づいてしまった。
「待て。まさか早朝から俺の出社待ちする気じゃないだろうな」
「いやぁだって、なぁ」
「なぁ、じゃない」
「お前待ってたら俺が遅刻しそう、とかならさすがに諦めるけど」
「エイプリルフールに会うのは禁止で」
「え?」
「そもそも俺に、これ以上どんな嘘仕掛けたいわけ?」
 好きって言われても今更嘘とは思わないけど、嘘と思って辛かったことを思い出すし、嘘でも嫌いとか言われたらそれはそれで辛い。そう訴えれば、相手はとたんに申し訳無さそうな顔になる。
「あー……そこまで深く考えてなかった。わるい。ずっと続けてたイベントだし、しつこくお前に会いに通ったおかげで今があるわけだから、と思ったら、今年もなにかやらないとって思っただけというか」
「じゃあ尚更、4月1日には会いたくないし、来て欲しくないな」
「なら2日は?」
「え、2日の朝に俺の出社待ちすんの?」
「お前が嫌じゃなければ、朝一でお前に好きって言いに行く」
 4月1日ならこいつが家の前で好きだとか言ってても、未だにやってるの? と笑われるだけかもしれないけれど。
 エイプリルフールでもない平日の朝、社会人になった男が家に押しかけてきて好きだと告げられる。というシチュエーションを想像して、それもちょっとないなぁと思ってしまう。嫌ではないけど、親とかご近所にどう思われるかまで考えると、色々と面倒くさい。
 さすがにまだ、毎年エイプリルフールに好きだと言いに来ていた男とガチで恋人になった、なんて話を親には出来ていない。
「なら朝一で好きってメセ送ってよ。夜は俺が会いに来るから」
「え?」
 これ使っていいんだろ、と言いながら手の中の鍵を見せれば、相手はその案に満足したらしく、嬉しそうに笑ってみせた。

 
 
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秘密の手紙

 朝学校へ行ったら、下駄箱の中の上履きの上に一通の手紙が置かれていた。
 超簡素な茶封筒という不穏な気配しか無いそれの中には、ペラっと一枚のメモが入っていて、そこには「お前の想い人を知っている」と短な一文が印刷されていた。
 ザッと血の気が引く思いをしたのは、脅迫されているのだと察したせいだ。
 いつか誰かに気づかれるかも知れない不安は、自身の中に湧いた恋情を認めた瞬間から常に付きまとっていたが、それが現実になったのだと思った。
 この手紙の差出人は誰だ。相手の要求は何だ。
 そんなことばかりを考えながらなんとかその日の授業を終え、大半の生徒が下校した後に、自身の下駄箱に封筒を置いた。朝受け取った茶封筒からメモを抜き、お前は誰だ、要求は何だ、という短なメモを書き綴ったノートの切れ端を入れている。
 蓋のない下駄箱なので、こんな場所でメモのやり取りをしたいとは到底思えないのだが、相手が誰かもわからない状況ではこうするしかない。
 果たして、翌日の朝にはその封筒は消えていた。
 さらにその翌日、また上履きの上に茶封筒が乗っている。中には、「告白すればいいのに」というメモが入っていて首を傾げる。
 誰だ、という問いに答えがないのは想定内だったが、要求は何だという問いへの答えがこれ、というのが良くわからない。
「何かあった? 一昨日もずっと変な顔してたけど、今日もなんか悩んでるよね?」
 休み時間にそう声をかけてきたのはまさに想い人その人で、さすがに詳細を話せるわけがない。
「あー、まぁ、ちょっと」
 色々あってと濁してみたが、相手はそう簡単に引き下がってはくれなかった。
「俺にも話せないようなこと? それとも教室じゃ無理って話?」
「両方」
 正直に答えてしまったのは多分失敗だった。
「え、マジに俺には話せない何か抱えてんの?」
 余計気になると言われても、話せないものは話せない。追求をどうにか誤魔化して、帰りがけには「無理」の二文字だけ書いたメモを入れた封筒を自身の下駄箱に置いた。
 返信は翌々日ではなく翌朝には届いていて、しかも今回の中身は短な一文ではなく、しっかり手紙と呼べるような長い文章が綴られている。まぁ、コピー用紙への印字に茶封筒、というところは変わらないんだけど。
 いわく、二人は両思いだから早く告白してくっつくべきだとか、相手はこちらの告白を待っているだとか、今どき男同士での恋愛はそこまで禁忌ではないだとか。
 なんだか随分と熱心に、告白するよう促されている。
 なんだこれ。と思うと同時に、さすがに差出人の正体を知りたくなってきた。だって随分と相手の心情に対して断定的だ。
「何? 俺の顔に何かついてる?」
 昼休みに一緒に昼飯を食べながら、想い人の顔をマジマジと見つめまくったら、さすがに居心地が悪そうに聞いてくる。
「昨日、お前には話せないって言った悩みについてちょっと考えてて」
「お、やっぱ俺に相談しようかなって思った?」
「そうだな。近日中には、話せるかもな」
「なにそれ?」
「今すぐは話せないってこと」
「は? 勿体ぶってないでさっさと話せよぉ」
 放課後残ろうかと言うので、今日は早く帰るからと断って、その言葉通りに大半の生徒が下校するのを待ったりせず、けれど返信の茶封筒は上履きの上にしっかり乗せて学校を出た。といっても、そのまま学校をくるっと半周して、裏門からこっそり現場へ戻ったのだけれど。
 自身の下駄箱が見える位置に身を潜めて、封筒を手に取る「誰か」を待つ。今日中に現れなかったら、明日は早朝から張り込みだと意気込んでいたけれど、下駄箱周辺の人気がなくなった途端にその「誰か」はあっさり現れた。
 やっぱりと思いながらも、しっかり封筒を手に取るのを待ってから声をかける。
「やっぱお前だったんだ」
「えっ……なん、で」
「なんでもなにも、お前以外にお前の気持ちそこまで断定できるやつに心当たりがなかった」
 これは、少なくとも共通の友人の中には、という意味でしかなく、こちらの知らない友人に相談していたという可能性はある。頼まれて取りに来ただけと言い逃れることだって可能だろう。でも彼からの反論はなく、どうやらあっさり認めてしまうらしい。
 そっか、と力なく返した相手の手の中で、クシャッと茶封筒が握り込まれている。ちなみに、差出人を捕獲する気満々だったのでその封筒に中身はない。
「両想いだってわかってんなら、こんな回りくどいことしてないで、お前から告白するんでも良かったんじゃねぇの?」
「できるわけ、ないだろ」
「なんで?」
「そんなの、お前が俺を本当にそういう意味で好きなのか、なんて、わかんないし」
「はぁ?」
「だって、お前の言動にもしかして? って思うの、俺がそうだったらいいのにって思うせいかも知れないじゃん」
 最後の方は声が震えていて、なんだか虐めてでも居るみたいだ。というか目には涙も滲んでいて、こんな場面なのになんだかドキドキしてしまう。
「で、どうなの?」
「どうなの、って?」
「俺、……ふられる?」
 視線が合ったのは声をかけた最初だけで、ずっと僅かにそらされていたのだけれど、とうとう逃げるように俯かれてしまった。良い返答が貰える自信がないと言わんばかりだ。
「ぜひお付き合いしたいけど」
「マジで!?」
 バッと勢いよく頭を上げた相手の顔は信じられないと言いたげで、でも、泣きそうだった目だけは希望に満ちてキラキラと輝いている。
 その様子の愛らしさに、思わずプッと吹き出してしまったら、からかわれていると思われたようだ。酷くショックを受けた顔をされ、また俯くように頭を下げかける相手に、慌てて謝罪の言葉を投げた。
「ごめん。からかってない。まじで、付き合いたいって思ってる」
 下げかけた頭をグッと上げた相手は、さすがに疑惑の眼差しだ。
「ほんと。本気。さっき笑ったのは、嬉しそうなお前が可愛かっただけ」
 言い募れば、可愛いに反応してか少し照れくさそうにしながらも、信じるぞと脅すみたいな言い方で告げてくるから、やっぱりまた笑いそうだった。

相手側の話を読む→

ChatGTPに出してもらったお題  ”秘密の手紙” – 1人の主人公がもう1人の主人公に秘密の手紙を送ることから始まる物語。を使用しました。

更新再開します。結局小ネタ期間になりましたので、更新期間は1ヶ月ほどになりますがまたよろしくお願いします。

 
 
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可愛いが好きで何が悪い(目次)

キャラ名ありません。全56話。
大学の同期生で、プリンセスな女装も似合う美形×可愛いもの好き男前(視点の主)。
幼少期の夢の国でのプリンセスコスプレで、相手の性別を勘違いしたまま互いに初恋していた2人が、大学で再会して恋人になる話です。

そこまで重い表現はしてないと思いますが、攻めは継母からの性的虐待経験あり。幼い頃に実母を亡くし、中学時代から父の後妻(継母)と肉体関係を持っていて、弟と妹が実子という可能性があります。
継母との関係の影響から、攻めの女性経験値高め。コミュ力も高めで交際範囲がかなり広そう。
受け(視点の主)は高校時代に彼女が居たので童貞ではないけど、可愛いもの好きな趣味を優先していて交際経験はその彼女一人だけです。夢の国通いという趣味を知られたくなくて、大学での交友範囲はあまり広げない方針。
大学では2人は基本距離を置いてますが、大学生活描写はほとんどないです。

視点の主が男前過ぎて、攻めばっかり泣きます。
抱かれてるのに抱いてるみたいだと感じるセックス描写もあります。
攻めも抱いてるのに抱かれてるみたいと思っているので、精神的には完全にリバ。肉体的には受け攻め固定ですが、攻めが自分で自分のお尻拡張やってた内容有り。
攻めは、抱かれるのは無理でも抱くならできる、って言われたら抱かれる側になってもいいから視点の主と関係持ちたいって思ってるので。
攻めが割と一途に視点の主を好きで、健気な努力してます。
女装もその一つで、視点の主の好みに寄せて少しでも好きになって貰いたいだけで、女装が好きとか趣味とかではないです。
視点の主は攻めのそういう健気さに落ちた所ある。

攻めが女装したままセックス。が一番の目的でしたが、内心受け攻め逆転したようなセックスだけじゃなくて、素のままの攻めに抱かれて気持ちよくなる受けも見たいなと思ってしまった結果、達成後の2回戦もダラダラと書いてしまって相当長いです。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的描写が多目な話のタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 夢の国と再会と
2話 あのときはありがとう
3話 写真交換
4話 すっかり友人
5話 夏休みの帰省
6話 姉に連れられ海の家
7話 ファミレスお茶会
8話 花火大会へ
9話 迷子ハンター
10話 デートって言うな
11話 夏休み明け
12話 継母との関係
13話 実家脱出
14話 切られたドレス
15話 届いたドレス
16話 育った初恋プリンセス
17話 内緒って言ったのに
18話 誰にも取られたくない
19話 元カノ
20話 拒否はできない
21話 口元を汚したプリンセス(R-18)
22話 恋人になってもいい
23話 周りの反応
24話 助けてあげて
25話 部屋の惨状
26話 勝手に自己開発
27話 情けなさが募る
28話 当たり前、の違い
29話 発想が男前すぎる
30話 甘えている
31話 泣いてたのがショック
32話 ローションは優秀
33話 慣らすとこから全部
34話 準備万端揃ってる
35話 現代コーデのプリンセス
36話 目一杯好みに寄せる
37話 じれったい程ゆっくり(R-18)
38話 延々と興奮を煽り合う(R-18)
39話 確かめずに居られない(R-18)
40話 手の中で脈打つ熱(R-18)
41話 69(R-18)
42話 可愛くて、愛しい(R-18)
43話 化粧を落として2回戦
44話 好奇心でバイブ挿入(R-18)
45話 最弱モード(R-18)
46話 性感帯探し(R-18)
47話 期待してる(R-18)
48話 初めてでこんなにも(R-18)
49話 もうちょっと待って(R-18)
50話 ゆるふわな刺激(R-18)
51話 奥の鈍い痛みすら(R-18)
52話 可愛く喘げよ(R-18)
53話 お前が愛しい(R-18)
54話 一緒にイこうね(R-18)
55話 昨夜を思い出しながら
56話 可愛いが好きで何が悪い 

 
 
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自棄になってても接触なんてするべきじゃなかった

 夜の相手が欲しい時に利用するその店には、あまり顔を合わせたくない人物も出入りしていて、普段ならその姿が見えた段階で回れ右して別の店を利用するか諦めるかするのだけれど、その日はどうにも自暴自棄になっていて、わざわざ相手の目に留まる様に行動し、そのまま相手を引っ掛けた。
 その段階では、わかってて自分の誘いに乗ったのか覚えていないのか判断がつかなかったけれど、多分、相手は覚えていない。まぁ彼とのいざこざがあったのはもう10年ほど前の話で、あの頃は互いに学生でもあったし、相手はともかく自分の方は減量に成功して見た目もそれなりに変わったから、気づかれなくても納得ではある。
 連れ込んだホテルの一室で、酷くして欲しいと頼んでみたら、相手は平然とした顔で、どういう方向でと問うてくる。罵って欲しいのか、肉体的に痛めつけて欲しいのか、オナホみたいに扱って欲しいのか、それとも快楽責めでもしてあげようか、と。
 この相手に優しくされたくなかっただけで、好きに扱ってくれという意味での酷くして、だったから、一番近いのはきっとオナホ扱いだった。なのにちょっとした好奇心で、快楽責めなんて出来るのかと聞いてしまった。
 興味あるんだ? と意地悪そうに笑う顔に、昔の記憶がチラついてイライラする。だから、そんな自信あるんだ? と煽り気味に返してやった。
 フフンと笑いながらその体で思い知ればと返されて、せいぜい楽しませてくれよと応じたときは、まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
 せっかくラブホだしと、室内に置かれたアダルトグッズの自販機から次々と玩具を取り出した相手に、結局そういったものに頼るのかと鼻で笑ってられたのは最初だけだ。結局の所、そんな無機物相手にどこまで感じられるかは、使い手の技量に掛かっている。
 自慰行為に玩具を利用することはあったが、自分の意志で動かすのと、他者の手で使われるのはあまりに違った。酷くしてと頼んで始めた快楽責め、というのも大きいのだろうけれど、弱い場所を的確に探られて、執拗に責め立てられるとどうしようもない。
 最初のうちは比較的緩やかな刺激で何度かイカされ、こんなもんかと思っていたのに。どうやら、こちらの体力がある程度削られるのを、そうして待っていただけらしい。
 強い刺激に逃げ出したくなったころには、相手にがっちりホールドされて、そこからが多分、本当の意味での快楽責めの始まりだった。
「ぁ、ぁ゛あ゛っ、や゛ぁ」
「いいよ、イキなよ」
「も゛、やだぁ、む゛り、ぁ゛、むりぃ」
「だいじょぶだいじょぶ」
 射精できなくなってからが本番だよと笑う相手の手には貫通型のオナホが握られていて、もちろん自身のペニスがそれを貫いている。お尻に突き刺さっているバイブも、相手の手によってしっかり固定され、ウネウネとした動きが前立腺を抉り続けていた。
「ぁ、ぁ゛、ああ゛っ」
 ブルブルと体が痙攣し、絶頂する。お尻の穴もギュウギュウとバイブを締め付けているのに、前立腺を抉る動きはそのままだから、イッても終わらない快感に、いい加減おかしくなりそうだった。

 いつ意識を手放してしまったのかわからない。気づいた時には部屋の中は明かりが落とされていて、相手が隣ですこやかな寝息を立てていた。
 体を起こすとあちこちが痛い。普段使わない筋肉を酷使したせいでの、いわゆる筋肉痛だ。
 どうにかベッドから抜け出してシャワーを浴びに行く。意識を手放した後放置されはしなかったのか、ある程度後始末は済んでそこまでベタついてはいなかったが、だからってそのまま服を着込むのは躊躇われた。
 そうしてバスルームから戻ると、部屋の明かりがついていて、相手がベッドの上にあぐらをかいて座っていた。
「満足できた?」
 こちらの姿を認めるなり掛けられた言葉がそれで、ムッとしながらもおかげさまでと返しておく。想像以上の行為で望み通りなんかではなかったが、相手の言葉通り、快楽責めというものをこの体で思い知ることは出来た。
「じゃあ、俺と付き合う?」
「意味がわからない」
 即答で返せば、だって俺昨日イッてないんだよねと返されて、どうやら昨夜は玩具以外突っ込まれなかったらしい。
「途中で意識飛ばしたのは悪かった。けど、抱かなかったのはそっちの意志だし、お前となんか二度とゴメンだ」
「酷っ。満足したって言ったのに。てか酷くしてっていったのそっちなのに」
 あんなに頑張ったのにと言われたって、もともと一夜限りの相手を探していたのだ。じゃなきゃ、こいつを誘ったりするわけがない。
「お前と恋人とかありえない」
「それってもしかして、昔のこと、まだ引きずってるから?」
「は?」
 認識されていないと思っていたから、突然昔のことと言われて焦った。
「避けられてるなとは思ってたけど、じゃあなんで、昨日は俺を誘ったの?」
「覚えて……ってか俺ってわかってたのか……」
「そりゃあ、好きな子、忘れたりしないだろ」
「は?」
「好きだったんだよ、お前のこと。でも素直にそれを認められなくて、お前にキツくあたってたのは認める」
「はぁ? 好きだったからいじめた、なんてのが通用するわけ無いだろ。俺はお前が大っ嫌いなんだけど」
「だよね! 知ってる!」
 だから今まで声掛けたりしなかったのに、でも昨日は誘ってくれたから期待しちゃったんだよと嘆く相手に、なんとも言えない気持ちになる。
 そして結局、チャンスを頂戴と食い下がる相手に絆された。といっても連絡先を交換しただけだけれど。
 ちょっと仕事で嫌なことが続いて自棄になってたからって、やっぱり誘うべきじゃなかったんだろう。今更知りたくなかった事実と、相手の押しの強さに辟易する。なのに、筋肉痛という副作用はあるものの、意識が落ちるほど強引にイカされまくった体と心は、随分とスッキリしているから困る。

有坂レイへの今夜のお題は『鳴かせる / 大人の玩具 / 唐突な告白』です。https://shindanmaker.com/464476

 
 
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罰ゲームなんかじゃなくて1

 同じ学部学科の同級生であるそいつとは、必修科目で顔を見る程度の仲でしかなく、かろうじて名前はわかっているが、多分向こうはこっちの名前も把握してないんじゃないかと思う。
 大学の敷地はそこそこの広さがあるし、いくつも並ぶ校舎の脇道ですらない建物の影にいたそいつに気づいたのは、休講を忘れて早く来すぎてしまい、時間を持て余して一人きりで構内散策をしていたことが大きいと思う。
 耳は割と良い方で、話し声が聞こえて近寄ってみたら、そいつが入り込んだ野良猫を構って笑っていたのだ。
 猫に向かって柔らかに笑う顔を見て、そんなふうに笑うんだと初めて知った。だってあまり人とつるむ気がないようで、誰かと話してる姿すら滅多に見かけないし、その時には笑顔なんて見せてなかったから、無愛想なイメージしか持っていなかった。
 そこで声を掛けてしまえば良かったのかも知れない。けれど多分相手は一人で行動するのが好きで、今ここに自分が踏み込んだら、せっかくの猫との時間を邪魔してしまうだけだろう。
 結局相手が猫と別れるまで見守ってしまった上に、自分がいる方向とは別方向に去っていったから、見てたということすら知られないままその時間は終わった。
 気づかれなかったのに、その直後の講義で同じ教室内に相手の姿を見つけて、なんだかソワソワしてしまったし、あの光景が忘れられなくて時々あの場所を覗くようにもなってしまったけれど、その後同じ光景に出会えたことはない。あの野良猫とすらあれっきりだし、夢でも見てたと忘れられたなら、良かったのに。
 しばらくして、そんなにあいつが気になるのかと、普段つるんでいる友人たちの一人に聞かれた。普段つるんでいる連中には、相手を意識しているのが丸わかりらしい。
 あの日のことは誰にも話していないし、なんとなく教えたくもなくて曖昧に濁していたら、からかい混じりに惚れただの何だの言われるようになって、そう言われ続けると、なんだか本当に相手を好きな気がしてくるから怖い。
 あの笑顔をもう一度みたいとか、できれば自分に向けて笑ってほしいとか。それってつまり、相手からの好意を欲しているってことで、好きってよりは好きになって欲しい方向だとは思うものの、あれをきっかけに相手に惚れてしまったのだと思えないこともない。
 なんてことをぐるぐると考えて、思い込みとも言える想いをバカみたいにつのらせて、相手も一緒の必修科目に身が入らないというやばい状況になり、いっそ玉砕してこいと周りに囃し立てられるまま、講義終わりに呼び止めて告白した。
 さすがに驚いたみたいで目を瞠ってまじまじと見つめ返されたのが印象的で、それすら、珍しいものを見たと思って食い入るように見つめ返してしまう。
 それに対して嫌そうに眉を寄せたから、絶対に断られると思ったのに。というよりも、そもそもが玉砕覚悟の突撃だったのに。
「わかった。いいよ」
「え?」
「おつきあい、してみても」
「え、え、まじで? いいの? じゃあ、じゃあっ、とりあえず連絡先交換しよっ」
 まったく熱のないそっけない対応ではあったが、OKされたのには違いなく、食い気味に連絡先の交換を持ちかければ、やっぱり引かれ気味ではあったものの、渋られることなく教えてくれた。
 やっぱり人とつるむのはあまり好きではないらしく、こちらの友人たちの中に引き入れるのは失敗したけれど、こちらが友人と離れて彼の隣で講義を受けることや、友人たちとは離れた席での学食利用などは出来るようになって、ポツポツとではあるが相手のことを教えてもらって、最初のうちはひたすら毎日が楽しくて仕方がなかった。
 でも友人たちに指摘されるまでもなく、恋人らしい進展はなにもない。構内で二人で過ごすことはあっても、休日に一緒にでかけたことすらないのだから、正直言えば未だ友人以下の関係だった。

続きました→

 
 
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ここがオメガバースの世界なら(目次)

キャラ名ありません。全16話。
隣に住む同じ年の幼馴染で高校生。
受けが腐男子。中学時代から攻めが好きでBLを読むようになった。
2歳年上な攻めの姉が腐女子で、受けが同じ高校に入学してきたことで腐友になる。攻めの姉は受けが弟を好きだと、腐友になる前から知っている。
ここがオメガバースの世界なら、という腐トークを聞いてしまった攻めが受けは姉狙いと勘違いし、妨害する気で受けの項を噛んだために仮想の番が成立。
そんな二人が恋人として付き合うまでの話ですが、双方とも自分たちが両想いだとは気づいてません。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
視点が途中で何度か交代しているので、タイトル横に(受)(攻)を記載しています。
途中、互いに抜きあう関係になりますが、性的な描写はありません。

1話 腐友とお茶会(受)
2話 闖入者(受)
3話 告白なんてしてない(受)
4話 Ωとして当然の選択(受)
5話 噛んでもいいよ(受)
6話 高校2年の夏の初め(攻)
7話 退院(攻)
8話 姉からの荷物(攻)
9話 読書(攻)
10話 アルファの振る舞い(攻)
11話 想い人の腕の中(受)
12話 手を出す、の意味(受)
13話 拒絶なんてできない(受)
14話 後ろめたい関係(攻)
15話 衝動で奪うキス(攻)
16話 本当には番じゃないから恋人に(受)

続編「オメガバースごっこ」目次へ→

 
 
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