叶う恋なんて一つもない

 叶う恋なんて一つもないと言って、泣きそうな顔で笑う幼馴染が、今現在想いを寄せているのは、我がクラスの担任教師で来春には結婚が決まっている。彼が泣きそうになっているのは、今朝教師の口から直接、その結婚の事実が語られたせいだ。
 叶う恋がないのではなく、恋を叶える気がないんだろう?
 なんてことを内心思ってしまうのは、毎度毎度好きになる相手が悪すぎるせいだ。そもそも恋愛対象が同性というだけで、恋人を見つけるハードルが高いというのに、女性の恋人持ちばかり好きになる。酷い時は妻子持ちの男に恋い焦がれて、苦しいと泣いていたことさえあるのだ。
 幼稚園からの付き合いで親同士の仲も良く、そこからさき小中高等学校ずっと同じだったせいで、あまり無碍にも出来ずに愚痴に付き合い続けてきたが、正直バカじゃないかと思っている。
 妻子持ちなんか問題外だし、女性の恋人が発覚した時点で恋愛対象から外せよと思うのに、どうしよう好きになったみたいと言い出すのは恋人発覚後が大半だ。要するに、最初からその恋は叶える気なんかなく始めているのだと、そろそろ自覚すればいいのに。
 なんか男が好きみたい。同性愛者とかホモとかゲイとかそういうやつかも。なんて言って、やっぱり泣きそうな顔で相談してきたのは中学に上がった頃で、お前にしかこんな話できないからなんて言葉に絆されていたのがいけない。いい加減、あまりに不毛な恋の話に飽き飽きしていた。
「だったらいい加減、叶う可能性がある恋をしろよ」
「えっ?」
 いつもなら一通り好きに喋らせて、そういう相手ってわかってて好きになったんだからそれで辛い思いをするのは仕方ないだろ、程度の慰めにもならないような言葉しか吐かないからか、相手は泣きそうになっていた目を驚きで見開いた。
「正直、お前の叶わない恋話にはうんざりしてる」
「え、でも、俺、話聞いてもらえるのお前くらいしか……」
「知ってる。だからずっと、お前がそれでいいなら仕方ないと思って話聞いてきたし、たとえ叶わない恋でも好きって気持ちがあると毎日が楽しいって言ってたから、苦しいって泣くのも含めて恋を楽しんでるのかと思ってヤメロとも言わずに居たけどさ。けど、そんな恋ばかり選んできたくせに、叶う恋がないって泣くくらいならもうヤメロよ。そんな恋をするのはやめて、叶う可能性がある恋をすればいい」
「だって好きって気持ちは、心のなかに自然と湧いてくるものだよ? 叶う可能性がある恋なんて選べないし、そもそも可能性があるかどうかなんてわからないんだけど」
「でもお前は、叶う可能性がない恋ばかり選んできただろ。なんで恋人持ちばっかり好きになるんだよ。恋人がいればお前には振り向かないってわかってるから、だから安心して恋が出来るってだけじゃないのか?」
 その指摘はまったくの想定外だったようで、やはりビックリしたように目を瞠った後、そんなこと考えたこともなかったと言った。
「じゃあまずは自覚するトコから頑張れば? でもって、彼女やら嫁やらが居ない相手を意識的に好きになってみろよ。それだって同性相手は無理って言われる可能性高いけど、でも恋人持ちや妻帯者よりは多少、恋が叶う可能性もあるだろ?」
「自覚、か……」
 呟くように告げて、相手は黙りこんでしまう。まぁ欠片も考えたことがなかったようだから、しばらく放っておけばいいかと、手近にあった雑誌を手に取りペラリと捲った。
「ね、あのさ」
 やがておずおずと声を掛けられて、目を落としていた紙面から顔をあげる。
「何?」
「それってさ、相手、お前でも良いの?」
「は?」
「そういや話聞いてもらうばっかりで、お前の恋話とか聞いたことないよね。お前、男もというか俺も、恋愛対象になる?」
「待て待て待て。そりゃ確かに、恋人居ないやつを意識的に好きになってみろとは言ったけど、そこでなんで俺を選ぶんだよ」
 まさか自分に火の粉が掛かって来るとは思っておらず、さすがに慌ててしまった。
「それはまぁ、お前なら好きになれそうかもって思ったから?」
「付き合い長いし、そりゃお互い嫌っちゃいないだろうけど、だからって安易にもほどがあるだろ」
「だってお前が言った通り、俺、多分、叶わない恋じゃないと安心して相手を好きになれないんだよ。でもお前なら、叶わないって確定してなくても、好きになれそうな気がする」
「お前自分が言ってることの意味、マジでわかってんの? その恋叶ったら、俺と恋人になるって意味だぞ?」
「わかってるよ。というか、叶わないからヤメロ、とは言わないんだね」
 可能性ありそうといたずらっぽく笑うから、もしかして揶揄われているんだろうか?
「叶わないって断言したら、お前、逆に安心しきって俺相手に辛い恋始めそうだろ。言えるわけ無い」
 自分相手に辛い恋を患って泣かれでもしたら、どう対応していいかわからないし、それこそうっかり応じてしまいかねない。でも彼と恋人になりたい気持ちがあるわけでもなかった。
 正直、今の今まで、まったくの他人事でしかなかった。
「というか、お前、俺からかってる?」
 いっそ揶揄っててくれた方がましだったが、すぐに揶揄ってないと否定されてしまう。
「からかってないよ。意識的に、お前を好きになってみよう、とは思い始めてるけど」
「気が早い。というか先生の結婚話に泣いてたくせに、切り替え早いな」
「うん。お前の話に驚いて、ちょっとどっか行った。辛いの吹っ飛んだから、感謝してるし、それもあってお前好きになってみたい気にもなってる」
「マジかよ」
「割と、本気」
「嫌っちゃいないが、お前を恋愛対象と思って見た事は一度もないぞ?」
「いいよ。だからさ、」
 好きになってみてもいいよね? と続いた言葉に、嫌だダメだとは言えなかった。

「書き出し同一でSSを書こう企画」第1回「叶う恋なんて一つもない」に参加。
https://twitter.com/yuu0127_touken/status/739075185576267776

 
 
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初恋は今もまだ(目次)

キャラ名はありません。共通10話+親友4話+友人6話の全20話です。
社会人になっても時々飲み会をしてる高校時代の友人グループで、長いこと親友への恋心を抱えている視点の主と、やっと視点の主への恋心が芽生えた親友と、その親友が視点の主を試したことに怒った友人との三角関係っぽい話。
10話から先分岐して、親友と友人とそれぞれ別の恋人エンドを作りました。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
エロ描写は控えめで挿入はなしですが、それっぽいシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 親友の爆弾発言
2話 トイレへついてくる友人
3話 友人の提案
4話 恋人宣言
5話 手をつないだ帰り道
6話 デートに来たのは
7話 親友とカラオケ店へ
8話 親友からの告白
9話 友人に会いたい
10話 白紙に戻して

親友1 今の気持ち
親友2 キスしてみたい
親友3 親友姉登場
親友4 キスだけじゃ、足りない(R-18)

友人1 他人事にはさせない
友人2 友人はバイセクシャル
友人3 初恋の終わり
友人4 キスされたくない?
友人5 友人の部屋へ
友人6 触られてみた結果(R-18)

 
 
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解禁日(目次)

キャラ名ありません。全6話。
既に恋人な同級生二人の話。童貞(視点の主)×アナル処女。
真面目な優等生タイプの恋人に高校生のうちはしたくないと言われて、高校から大学へ進学した4月1日がセックス解禁日。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 ルームシェア開始
2話 まずは胸から(R-18)
3話 早く、して(R-18)
4話 揺れる不安(R-18)
5話 ちょっと休憩
6話 膨らむ幸せ(R-18)

 
 
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2回目こそは

 大学付属の私立高で出会ったそいつとは、高校と大学の7年間、なんだかんだつるんで一緒に居ることがかなり多かった。さすがに就職先は別で、ものすごく遠くはないものの仕事帰りにちょっと誘えるような近さではない距離に離れて、あまりの喪失感にようやく自分の気持に気付いた。
 気付いたばかりで動揺の酷い中、相手から近くまで行く用事ができたから飲もうと誘いが掛かって、結果、アルコールの力を借りて勢いで告白した。驚いたことに両想いだった。
 そしてそのままの勢いでヤッてしまったが、さすがにそれは失敗だった。無知は罪だ。しばらくケツ穴が痛くて泣いた。
 でもその程度で気持ちが変わることはなく、距離はあっても月に一度か二度は時間を作って会うようになったし、旅行の計画なども立てた。初回の失敗が尾を引いて、突っ込むようなセックスはないものの、手で抜きあうような事は何度かしていた。
 そんな関係が一年弱続いた頃、相手に後ろを弄りたいと言われた。どうしても無理なら自分を開発するから、そしたらお前は俺を抱けるか? とも聞かれた。要するに、お前と繋がるセックスがしたいと言われて、後ろを弄る許可を与えた。彼を抱けないことはないけれど、どちらかと言えば抱かれたい。だってあれはあれで、痛かった以外は結構良い思い出になっていたのだ。
 そんなわけで今現在、たっぷりのローションと共に、彼の指がその場所を拓こうとしている。
「ァッ……んっ……も、そろそろ……」
「まだ、だ」
 彼自身、初回がトラウマ気味なのか、結構拡がったと思うのになかなか挿れてはくれない。痛みはほぼないし、多分もう大丈夫だと思うのに。
 ハフハフと喘ぎながら、若干疲れて目を閉じた。中に入っているのは指だけど、彼のペニスが出入りするイメージを重ねて見る。というよりは、以前抱かれた時の事を重ねた。
 多少酔ってはいたが、何度も繰り返し思い出していたのもあって、容易に思い出せる。好きだと繰り返されながら、激しく熱を穿たれ求められ、体は痛いのにそれでも胸の中はトロトロの幸せに満ちていた。
 早くあの時みたいに、たくさんの好きと一緒に激しく突かれたいなと思う。いやでも、今指が出入りしてるくらいのスピードで、時間を掛けてゆっくり捏ねられながら、好きって言われてキスされるのも多分きっとたまらなく幸せだ。
「ぁっ、…あっ、ぁんっ……!?」
 零す自分の声が甘ったるく響いてしまい、慌てて目を開け両手で口を覆う。妄想で善がるなんてさすがに恥ずかしい。
「なんで口隠すんだよ。いい声、聞かせてくんねーの?」
「だっ、って……」
 手の中に吐き出す声はくぐもっていて、相手にははっきり届かなかったかもしれない。
「お前のいい声、聞きたい」
 じゃあ早く突っ込んで、あの時みたいに好き好き言って。なんて言えたら良いのかもしれないけれど、手で口を覆ったまま首を横に振るのが精一杯だった。
「まぁ、声我慢してるのも、可愛いっちゃ可愛いけどさ」
 可愛いなんて言われて、体の熱が上がっていく気がする。
 一度想像したらそう簡単にリセットは出来ず、目を閉じなくても、好きだ好きだと繰り返す相手の声が頭のなかを回っている上、そんな追撃をされたらたまらない。手で口を覆っていても、零す息の甘さも熱さも到底隠し切れない。
「ふぅっ、んんっ、ん、んんっ」
「そろそろ、いいか?」
 ようやくかと思いながら必死で頷けば、やっと指が引きぬかれていく。足を開かれ熱い塊が押し付けられて、期待がゾクリと背筋を走った。

 
 
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エイプリルフールの攻防

 まだ寝ていた春休みの朝、チャイムを連打されて起こされた。渋々玄関の戸を開ければ、そこには思いもかけない人物が立っている。
「え、何? なんでお前?」
 そこに居たのは地元の知り合いだった。いや、知り合いというか犬猿の仲というか、あまり良好とは言い難い関係を長年続けてきた元同級生だ。
「寝ぼけてんのか? お前に愛を囁きに来たに決まってんだろ」
 にやりと笑ってみせるから、今日がエイプリルフールだったことを思い出す。
「まさか今年も来るとは思ってなかった」
 大学への進学を決めて、先日引っ越してきたばかりのこのアパートは、実家から片道三時間オーバーの場所にある。
「もはや恒例行事だ」
「というか住所良くわかったな」
「お前の親に聞いたら、笑いながら教えてくれたぞ」
 思わず何やってんだよ母ちゃんと呟いてしまったら、相手は楽しそうに笑いながら、離れても仲良くしてやってねって言ってたぞなんて言うから、親は自分たちの関係を大きく誤解しているらしいと知った。
 いや、毎年毎年、春の玄関先で告白ごっこをしている息子たちを見ていたら、そう誤解するのも仕方がない。
「お前、どんだけ俺好きなんだよ」
「始発で駆けつける程度には、愛してるよ」
 にやりと笑い返してやったら、ふわっと笑いつつも真剣な声のトーンで告げてくるから、ああくそダメだと内心では既に白旗を振った。嘘だってわかってても嬉しいとか頭沸いてる。
「照れんなよ。可愛いな」
 顔赤くなってんぞと指摘されて、言われなくてもわかってると思いつつ、相手の腕を掴んで取り敢えず家の中に引き込んだ。どう考えても玄関の戸を開けながらする会話じゃない。
「今年はやけに積極的じゃないか」
「引っ越してきたばっかだし、近所に見られたくない」
「ああ、まぁ、確かに。配慮不足で悪かった」
 素直に謝られて拍子抜けだ。どうやら親含む実家近辺では、エイプリルフール限定の遊びとして認識されている自覚が、こいつにもちゃんとあったらしい。
「つーかお前も、本当によくこう長いことこんなバカなこと続けるよな」
「お前に正面切って好きだといえるのはこの日だけだしな」
「でももういい加減俺も慣れきってるし、そうそうお前が楽しい反応もしてないんじゃないの?」
 言いながら、初めて好きだと言われた大昔へ思いを馳せる。あれはまだ小学生の頃で、多分たまたま出くわしただけだった。普段何かと衝突することが多かった相手に、いきなり好きだと言われて腰を抜かす勢いで驚いたら、こいつは爆笑してエイプリルフールだと言ったのだ。もちろんその後、自分たちの関係が悪化したのは言うまでもない。
 その後数年は何もなかったのに、中学三年の春にわざわざ自宅まで押しかけてきたこいつは、またしても好きだと言って驚かせてきた。過去にエイプリルフールと笑われた事なんて忘れていたから一瞬本気にした。中学に上がってからはそこまで険悪な仲ではなかったし、好きな女子にすら告白できない自分と違って、男相手に告白するという勇気を純粋に凄いと思って、好きな子いるからゴメンと誠意を持って丁寧にお断りしたのだ。なのにこいつはにやりと笑って、エイプリルフールと一言残して帰っていった。もちろんその後、自分たちの関係は悪化した。
 そして高校に入学してからは、毎年4月1日に実家を訪れ、お前が好きだと言うようになった。さすがにもう信じることもなく、嘘つきと追い返したり、はいはいお疲れ様ですと軽く流してみたりしたのだが、昨年、嘘だとわかっているのにトキメイてしまって慌てた。おかげで、高校三年次はひたすらこいつを避けて生活するはめになってしまった。
「お前の反応がおかしくて続けてるってより、待ってる、が正しいな」
「待ってるって何を?」
「お前が俺に好きだっていうのを」
「は?」
「こんだけ嘘の好きを並べ立ててるのに、お前は驚くか呆れるかで、自分も嘘をつき返そうとはしないんだよな」
「ああ、その発想はなかったわ」
 そうか。嘘ってことにして好きって言っていいのか……
「じゃあ、俺もお前のこと、好きだよ」
 口に出してみたら、思いのほか恥ずかしい。だって嘘だけど、嘘じゃないから。
「そうか。ならやっと、両想いだな」
 グッと腰に手が回ったかと思うと、ふふっと楽しげに笑った相手の顔が近づいて、軽く唇が塞がれる。
 すぐに離れていく顔を呆気にとられて見つめてしまったら、満足気な顔でにやりと笑う。胸の奥を鋭い何かで突かれるような痛みが走るくらい、それは酷く嫌な顔だった。
「バカすぎだろ。お前の反応、まだまだめちゃくちゃ楽しいぞ?」
「死ねっ!」
 閉じたばかりの玄関扉を開いて、グイグイと相手を押し出した。
 ガチャリと鍵を閉めて、閉じたドアに額を押し付ける。ぐっと歯を食いしばっていなければ、泣いてしまいそうだと思った。

続きました→

 
 
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思い出の玩具

 小学四年生の秋ごろまで住んでいた市にある大学への進学が決まった時、昔の友人知人に会えたりするのだろうかという期待はした。少し珍しい苗字だから、覚えてくれている人だって居るかもしれない。
 そんな期待はもちろん、大学生活に慣れるとともに消えていった。
 昔の友人と言ったって、引越し後にまで交流が続くような相手じゃなかったわけだし、小学生が大学生に成長したら顔でわかるなんてことも起こらない。そもそも同じ市内と言っても端と端ってくらい離れている上、最寄り駅だって違うのだから、それはもう昔住んでいた場所に戻ってきたとは言わないって事にも気づいていた。
 だから、バイト中に話しかけてきた客が、昔この辺りに住んでませんでした? と、昔住んでいた近辺住所を言った時には随分と驚かされた。肯定したら随分と嬉しそうに笑って名前を告げられたが、その名前には確かに聞き覚えがあった。
 相手は胸のネームプレートで気づいたと言ったから、バイト先がネームプレート必須で良かったなと思ったのを覚えている。
 その男にゆっくり話がしたいと誘われて、バイト後に近くのファミレスで一緒に食事をし、連絡先を交換した。
 それからは時々会って一緒に遊ぶようになった。相手はたまに、昔一緒に遊んでいたという他の仲間も引き連れてくる。とは言っても、昔話に花を咲かせるという事はそんなに多くはなかった。気の合う友人が一人増えた、くらいの感覚だ。
 それでも一緒に遊んで色々と話をしているうちに、昔のこともあれこれと思い出してくる。
 そういや、引っ越しするときに何か貰わなかったっけ? という事を思い出したままに口にしたら、相手にかなりの動揺が走って驚いた。その場はなぁなぁで流されてしまったが、そんな対応をされたらむしろ気になるってもんだろう。
 長期休暇で帰省した際に、部屋中ひっくり返す勢いで探してみたら、それは出てきた。小さな変形ロボットのおもちゃで、当時はやっていたアニメのものだと思う。
 確かにこれだ。しかしなんでこれを渡されたのかはわからない。あの時、彼は何と言ってこれを渡して来たんだっけ?
 古い記憶を辿りながら手の中のおもちゃを弄りまわしていたら、ぽろりと何かが落ちて、しまった壊したと慌てる。しかしそれと当時に、思いがけない部分が開いて、中には小さくたたまれた紙が一枚仕舞い込まれていた。
 下宿先にそれを持ち帰り、さっそくファミレスに相手を呼び出してそれを見せる。
「ちょっ、それっっ!」
「探したら、出てきた」
「そ、そうなんだ。で、なに? 持ってきたってことは、返してくれたりするの?」
 テーブルの上に伸ばされた手に慌てて、とっさにそのおもちゃを、広げた自分の手で覆い隠した。その手の上に相手の手が乗っかり、次には相手が大慌てで乗った手を引っ込める。一瞬触れた熱と相手の赤くなった顔に、嬉しいという気持ちが湧いたから、覚悟を決めた。
「あのさ、これ貰った時、なんて言ったか、覚えてる?」
「さ、さあ、なんて言ったかなぁ。なんせずい分昔のことだし?」
 ああこれ、絶対覚えてる。良かった。
「これ、お前の気持ちらしいよ」
 俺の気持ちだから持ってってと押し付けられたのを、メモ発見とともに思い出していた。
「そそそそそうなんだ。まぁ、大事にしてたおもちゃだったしな」
 相手の動揺が酷くて、なんだかいじめているみたいな気分になる。別に責めるつもりなんて欠片もないのに。
「これ見つけた時、弄ってたら妙なとこが開いて、ちっさなメモが出てきてさ」
「うっ」
「こういう玩具、まったく詳しくなかったから、気づかなくってごめん」
「い、いやいやいや。俺が勝手に押し付けたものだから。気づいてくれなくてもいいって、思ってたやつだし」
「あのさ、これって、今も有効だったり、する?」
「えっ?」
「今のお前の反応みて、ちょっと期待はしてるんだけど。でも、そんなの昔の思い出の一つで、むしろ黒歴史。ってことなら、これはお前に返すよ」
「え、あの、何気持ち悪い事してんだよって罵倒とか、……じゃなく?」
 ああ、そういう心配をしていたのか。
「メモ見つけた時、正直嬉しかった」
 好きだ、と3文字だけ書かれた小さな紙。子供だった彼が、どんな想いを込めて綴り、隠したそれを渡してきたのかと思うと、その記憶の中の小さな男の子が、たまらなく愛しいって気持ちが湧いた。
「こうやって再び出会えたのも、お前とは何かの縁があったりするのかなって、思った」
 だからさ、と更に言葉を続けようとしたら、相手が眉を下げたほんのり泣きそうな顔で先に言葉を発した。
「でもお前、普通に女、好きじゃん。俺が気持ち悪く、ないわけ?」
「気持ち悪くないよ。というか、もし気持ち悪かったら、メモには気づかなかったことにしてそっと距離置くくらいするって」
「そんなの言われたら、期待、するけど。てか俺、お前に初恋して、それ結構拗らせてる自覚あるんだけど」
 初恋で、しかも拗らせてるのか。でもそれを聞いても、気持ちが変わることはなかった。
「期待して、いいよ」
 言ったらますます泣きそうな顔で、今もお前が好きだと返された。

 
 
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