エイプリルフール禁止

エイプリルフールの攻防の二人の1年後です。

 就職先は実家から通える範囲で探したので、大学を卒業後は一旦実家へ戻っているが、元々実家住まいだった恋人は、逆に実家を出ることにしたらしい。同じように実家から通える範囲で就職先を探したと言っていた相手が、実家からそう遠くはない場所でわざわざ一人暮らしを始める目的なんて、致す場所が欲しいからに違いない。
 恋人になってからの1年は遠距離ながらも相手がそこそこの頻度でこちらのアパートに通ってくれたし、長期休暇中はほとんど一緒に住んでるような状況だったので、誰の目を気にすることもなく部屋の中でイチャつけたけれど、双方実家住まいとなるとそうはいかない。
 実家に戻ったらどうしようかな、とは思っていたけれど、まさか相手がさっさと一人暮らしを開始するとは思わなかった。相変わらず、無駄に行動力だけはある男だ。
「これ、お前の分の合鍵な」
 実家に戻った翌日の夜に呼び出されて、初めてお邪魔した彼の部屋で、真っ先に差し出されたのが銀色に光る1本の鍵だった。
「え、いきなり合鍵渡すとかある?」
 そこそこの頻度で通ってはくれたし長期休暇中は同居に近かったが、さすがにアパートの合鍵を渡したりはしなかったので、受け取ってよいのかを迷ってしまう。
 すると、こちらの躊躇いを感じ取った相手に手を取られて、開かされた手のひらの上に鍵を落とされた。しかもそれを握り込ませるようにして、相手の両手で自身の拳が包まれる。
「お前のが早く帰れる日もあるはずだから持ってて」
「早く帰れる日?」
「週末だけじゃなくて、平日も、気が向いたら会いに来てくれたら、嬉しいなって」
 さすがにルームシェアを持ちかけるのは早すぎるかと思ったけど、やっぱりできれば一緒に住みたいし、お前がいる家にただいまって帰ってくるのとかめちゃくちゃ憧れる。なんて言われて嬉しくないわけがない。
 就職先は実家から通える範囲で探してると伝えたとき、ホッとした様子で、じゃあ俺もそうすると言われたし、その時に、お前がこっちで就職先探すなら俺もこっちで探そうと思ってたと言われたから、卒業後にルームシェアという可能性も一応は考えていたのだ。
 でもそんな話は一切ないまま、事後報告で一人暮らしを始めたことを聞いたので、これはヤるための部屋の確保だなと思い込んでいたけれど。でも相手も一緒に暮らすことを考えてくれていたらしい。
「わかった。じゃあ、預かっとく」
「預かるだけじゃなくて使って欲しいんだけど」
「わかったわかった。ちゃんと、使うよ」
「あと確認しておきたいんだけど、入社式って4月1日?」
「そうだけど」
「何時に家出る予定?」
 なんでそんなのを気にするんだ。と思ったところで気づいてしまった。
「待て。まさか早朝から俺の出社待ちする気じゃないだろうな」
「いやぁだって、なぁ」
「なぁ、じゃない」
「お前待ってたら俺が遅刻しそう、とかならさすがに諦めるけど」
「エイプリルフールに会うのは禁止で」
「え?」
「そもそも俺に、これ以上どんな嘘仕掛けたいわけ?」
 好きって言われても今更嘘とは思わないけど、嘘と思って辛かったことを思い出すし、嘘でも嫌いとか言われたらそれはそれで辛い。そう訴えれば、相手はとたんに申し訳無さそうな顔になる。
「あー……そこまで深く考えてなかった。わるい。ずっと続けてたイベントだし、しつこくお前に会いに通ったおかげで今があるわけだから、と思ったら、今年もなにかやらないとって思っただけというか」
「じゃあ尚更、4月1日には会いたくないし、来て欲しくないな」
「なら2日は?」
「え、2日の朝に俺の出社待ちすんの?」
「お前が嫌じゃなければ、朝一でお前に好きって言いに行く」
 4月1日ならこいつが家の前で好きだとか言ってても、未だにやってるの? と笑われるだけかもしれないけれど。
 エイプリルフールでもない平日の朝、社会人になった男が家に押しかけてきて好きだと告げられる。というシチュエーションを想像して、それもちょっとないなぁと思ってしまう。嫌ではないけど、親とかご近所にどう思われるかまで考えると、色々と面倒くさい。
 さすがにまだ、毎年エイプリルフールに好きだと言いに来ていた男とガチで恋人になった、なんて話を親には出来ていない。
「なら朝一で好きってメセ送ってよ。夜は俺が会いに来るから」
「え?」
 これ使っていいんだろ、と言いながら手の中の鍵を見せれば、相手はその案に満足したらしく、嬉しそうに笑ってみせた。

 
 
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大晦日の選択

* 恋人になれない、好きな気持ちを利用されてる、ハピエンとは言い難い微妙な関係の話です

 大晦日暇なら来てよ、という連絡がきたのはクリスマス当日の25日だった。タイミングからして、どう考えても恋人にふられたのだろう。
 予定は既に入っていたが、結局、大して迷うことなくそちらに断りの連絡を入れて、31日は夕方から相手の家にお邪魔した。
 着いてすぐから、こちらをもてなす気満々で用意されていた、茶菓子 → ディナー → 酒と軽いツマミ類という順に、延々と食べ続けている。まぁ、わかっていたので腹は空かせてきたし、もう慣れたといえる程度には繰り返しているので、食べるペースには気をつけている。
 さすがに、いくら食べてもあっという間に腹が減っていた10代とは違う。今でもかなりの大食いだと思うけれど、昔の食べっぷりを知っている相手はちょっと不満そうだ。
「もうお腹いっぱいだよ」
「じゃあ、最後にアイス。そのウイスキーにも合うはずだし、どう?」
「わかった。それで最後ね」
 言えばウキウキとキッチンに消えていく。
 グラスに残ったウイスキーをちびちびと舐めながら待つこと数分、器を片手に相手が戻ってっくる。
 差し出された器の中には、キレイな小ぶりの丸が3色詰まっていた。白とピンクと緑だ。
 相変わらず、いちいち手間がかかっている。
「ありがと。何味?」
「バニラと桃とマスカット」
 ふーんと相槌を打って、スプーンで掬ってまずは緑から口に入れる。甘酸っぱくてかなり濃厚にマスカットの味がする。どこの? なんて聞きはしないが、きっとお高いんだろう。そういう味だ。
「ん、美味しい」
「良かった」
 へへっと笑った相手が、テーブルの向かいから身を乗り出してきて口を開けるから、そこにも一匙すくって突っ込んでやった。
 何やってんだろなぁと思うが、普段食べれないような高級食品をあれこれと腹一杯食べさせて貰う代わり、と考えれば安いものだ。
「満足した?」
「まぁ、それなりに」
「まだ尽くしたりないの? それとも甘えたりない方?」
「んー、どっちも、かな」
 曖昧に笑った後、相手の視線がゆるっと下がっていく。テーブルがあるから腹から下は隠れているのに、その視線が何を思ってどこを見つめようとしているかは、問わなくてもわかっていた。
「ねぇ、」
「やだよ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「だって聞かなくてもわかってるもん」
 初めて抱かせて欲しいと言われたのは、酒を飲める年齢になったときだった。それから何回か誘われて、でも、その誘いに応じたことはない。
「めちゃくちゃ優しくするよ?」
「知ってる。だからやだ」
 男相手の性行為が初めてだろうと、尽くしたがりを目一杯発揮した相手にドロドロに甘やかされながら、きっと気持ちよく抱かれてしまうんだろう。
「なんで? 俺のこと、好きなんだよね?」
「じゃなきゃ来てないよ」
「なら、」
「俺が慰められるのは、ご飯一緒に食べるとこまでだって言ったじゃん」
 自分の中では、セックスは恋人とするものだ。だからどんなに好きな相手に誘われたからって、それが失恋を慰めて欲しいなんて理由では断るしか無かった。
「それとも、俺と恋人になってくれんの?」
「それは……」
 そこで言い淀んでしまう相手は、一度だって「恋人になって」の言葉を発したことがない。抱かせてとは言うくせにだ。
 彼が恋人に選ぶ相手と、自分と、何が違うのかはわからない。別れた時に呼ばれはするが、恋人を紹介されたことはないし、どんな相手だったかを相手が話すこともないからだ。
「ほらね。てわけで、俺はそろそろ帰るから」
 もう一匙すくったアイスを相手に突き出しながら、言外に、甘やかすのはこの器が空になるまでだと訴える。
 大人しくそれを口に入れて飲み込みはしたものの、相手はやはり不満そうな顔を隠さなかった。
「大晦日なのに帰っちゃうの?」
「帰るよ」
「一緒に年越しするつもりだったんだけど」
 一緒に初詣も行こうよと誘う顔はなんだか必死で、年越しを一人で過ごすのが嫌なんだというのだけは良くわかって、諦めの溜息を一つ吐く。
 こちらの好きって気持ちを良いように利用されているだけだ。とは思うのに、突き放して関係を断つことが出来ない。
「泊まりはやだ。けど、帰るついでに一緒に初詣くらいはしてもいいよ」
「外、かなり寒いよ!?」
 明日の昼ぐらいに出かけたいと主張されたけれど、さすがにそこまで譲れない。
「一緒に出かけるか、玄関で俺を見送るか、俺はどっちでもいいよ」
 譲る気がないとわかったらしい相手が、苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、諦めの溜息を吐き出した。どっちを選んでそんな溜息を吐き出したのかは、まだわからない。

ギリギリですが大晦日更新できました!
でもめっちゃ微妙〜
なんで大晦日にこんな微妙なもん書いてるんだと思いながら書いたけど、書いちゃったからには出しておきます。

 
 
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今更エイプリルフールなんて

 4月1日がエイプリルフールだということはわかっているが、下らない嘘を吐きあって笑えるような人間関係が成立していたのはせいぜい学生時代までで、社会人となってからはそう縁のあるものではなかった。どちらかというと、企業やらが仕込むネタを楽しむ日、程度の認識だ。
 だから、担当という形で一年近く仕事を教えていた昨年の新入社員の男からの、彼女が出来たという報告も、ただただ単純におめでとうと返した。そんなプライベートの報告は別にしなくてもいいのだけれど、浮かれて誰彼かまわず伝えたいのかも知れないし、そんな内容を話せる相手が他にいないのかも知れない。
 たあいない雑談の中で聞いた、休日に友人と遊びに行った話なども覚えてはいるが、その友人とどのような関係かは知らない。恋人どうこう話せるような相手ではないのかも知れないし、もしかしたらその話に出てきた友人が彼女となったのかも知れない。その友人の性別を聞いた記憶はなかった。
「それだけっすか?」
「それだけ、って、おめでとうじゃ不満なのか?」
「そういうわけじゃ……」
「そんな顔で言われてもな。で、なんて言ってほしかったんだよ」
「っていうか、彼女できたなんて嘘おつ、とか、お前が好きなの俺だろ、みたいなのないんすか?」
「は?」
 とっさに、何言ってんだこいつ、という気持ちから疑問符を飛ばしてしまったが、そういや思い当たるフシがないこともないなと思い出す。
「あー……そりゃ好意はちゃんと感じてたけど、ていうか好きとは言われたことあったけど、でもそれ、俺が担当で良かった程度の意味かと思ってたっていうか、恋愛方面絡んでとか思ってなかったし、彼女出来ましたって報告に、お前俺が好きだったろ、とか返すほど自信過剰でもないし」
 というかあれらは本当に恋愛方面込みでの好意なんだろうか。どう思い返しても、担当に恵まれて良かった、という気持ちをノリと勢いで「好き」という単語にしたようにしか思えないのだけれど。
 しかしそれを確かめてしまうのは躊躇われて、そこはグッと言葉を飲み込んだ。
「いやだから、そんなマジに取られても困るというか、そもそも、おめでとうでスルーされると思ってなかったと言うか」
「ん? どういう意味だそれ」
「えー……っと、だからその、今日、なんの日か知ってますよね?」
 今日がなんの日かと言われてようやく、エイプリルフールのネタだったのだと思い至る。
「つまり、彼女が出来たは嘘ってことか」
「そ、です」
 絶対嘘ってわかった上で乗ってくれると思ってたのにと、不満げに口先を尖らせているけれど、会社でエイプリルフールの嘘を振られるのなんて初めてだったのだから無茶を言うなと言いたい。というか言った。
「えー、マジっすか」
「マジだよ。だからな、今日も、来年以降も、エイプリルフールがやりたいなら、相手は学生時代の友達とか家族だけにしとけよ」
「えー」
「えー、じゃない」
「せめて先輩だけでも、来年も相手してくださいよ〜」
「なんでだよ」
「だって嘘ってわかってたら乗ってくれますよね?」
「いや乗らない」
「なんでっすか!?」
「じゃあ例えば俺が、お前俺が好きだったろ、って返したら、お前それになんて返す?」
「先輩が付き合ってくれんなら今すぐ彼女振ってきます!」
「言うと思った。つまり、お前と嘘ネタでやりあうと大事故起こる未来しか見えないからだ」
 それを耳にした誰もが、エイプリルフールの面白ネタと思ってくれるわけじゃない。もしエイプリルフールと気づかれずに本気にされたらどうするんだ。というか多分気づかれない確率のが高い。
「でも俺、先輩とだったら誤解されてもいいっていうか、まじに付き合うことになってもいいんですけど」
「嘘おつ。てかやめろって言ったそばから!」
 少しばかり声を荒げてしまったが、相手は満足げに笑っている。
「そういうとこ、ほんと好きなのに〜」
「わかった。それは信じるから、仕事しろ仕事」
「はーい」
 機嫌よく自分のデスクへ戻っていく相手の背を見送りながら、これは来年も何かしら仕掛けてきそうだと思って、深い溜め息を一つ吐き出した。エイプリルフールなんて、自身にはもう直接関係のないイベントだと思っていたのに。

 
 
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好きって言っていいんだろ?

ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」 → ツイッタ分2020年−2「クリスマス」の二人です。

 クリスマスに呼ばれてから先、学校で渡されるのではなく、彼の家で菓子を振る舞われることもじわりと増えて、先月のバレンタインもチョコケーキを彼の家で食べた。
 バレンタインが日曜だったのもあるし、翌日だろうと学校でチョコ関連の品を渡すのはさすがに抵抗があるし、家ならラッピングや食べやすさを気にする必要がなく、盛り付けにだって凝れるから、というのが相手の言い分だ。
 特に予定もない日曜に呼び出されたって、こちらは菓子を振る舞われるだけなので、なんの文句もない。ただ、バレンタイン当日に、凝った手作りチョコケーキを躊躇いなく振る舞ってくる、というのをどう解釈していいかは難しい。
 学校で渡すのは躊躇われると言う程度には、バレンタインとチョコというものを意識してはいたようだけれど、チョコケーキそのものは多分家族向けに作ったもののお裾分けに違いなくて、自分のために用意されたなどと驕れる要素はほぼ皆無だったからだ。なんせ、皿に乗って出てきたのはカットケーキだったので。
 でも自信作という割には、こちらの様子をいつも以上に気にかけていたのが気になるし、めちゃくちゃ美味いと誉めたら嬉しそうにはにかんでいたのも気にかかる。気にかかると言うか、あれは期待したくなるような顔だった。相手ももしかしたら、恋愛的な要素を含んで、自分に好意を持っているんじゃないのか。
 解釈に悩むのは、自分の中に期待があるから。というのが多分一番正しいのだけれど、要は、彼は菓子作りが好きで彼の菓子を絶賛する自分に食べさせることを楽しんでいるだけ、というスタンスを貫き通すかどうかを迷っている。
 もっと言うなら、ずっと貰いっぱなしなので、ホワイトデーを理由にして、何かしら返そうというのは決定事項なのだけれど、そこに美味い菓子をありがとう以上の感情を乗せていいのかを迷っていた。
 あのチョコケーキに何かしらの意味があったなら、こちらだって躊躇うことなく想いを返せるのに。以前、自分の口から言ってしまった、好きなのはお前の作る菓子だけという断言や、そんな心配は必要ないとはっきり言われているせいで、期待からくる勘違いを疑ってしまう。
 結局迷いながらも、とりあえずでホワイトデー当日の予定を聞けば、マカロンを作るなどと返ってきて驚いた。ついでのように、月曜にお裾分けを渡すつもりだったが食べに来るかと言われれば、頷く以外ない。まぁ当日会えるのが確定したので良しとする。
 そうしてやってきたホワイトデー当日、用意したお返しを手に彼の家に訪れれば、手の中の荷物に気づいた相手が何だそれと問うてくる。そこそこの大きさがあって、しかも明らかにプレゼント用らしきラッピングがされていれば、気になるのは当然だろう。
「ああ、これはホワイトデーのお返し」
「え、僕に?」
「お前以外ないだろ」
 ほらやるよと、相手の胸にプレゼントを押し付けてやれば、開けていいかの言葉とともに、袋の口を閉じるように結ばれているリボンが解かれていく。
 ここはまだ玄関先なのだが、こちらをリビングだったり彼の部屋だったりへ案内する時間も惜しいらしい。待ちきれないのがありありと分かる、期待の滲んだ様子で中身を取り出した彼が、驚きと喜びとを噛みしめるようにして破顔するその一部始終を、こちらもつい、ジッと見守り続けてしまった。
「気に入ったか?」
「うん。それはもう」
 顔を見ればわかるし、そもそも彼が過去に「それいいな」と言っていたものを選んでいるのだけれど、それでも一応確認すればすぐに肯定が返った。
「じゃあ、使ってくれ」
 渡したのは、自分が使っているボックス型リュックと同型の色違いだ。
「ありがと。さっそく明日から使うよ。でもこれ使ったら、お揃いになるけど、いいの?」
「ダメならそれをプレゼントに選ぶとかしないだろ」
 むしろそれを狙っている部分もある。
「まぁそうか。てかさ、じゃあ返せとか言われても困るんだけど、これ結構値段するよね? チョコケーキ一切れに対して大げさじゃない?」
「それは、今まで結構色々貰ってきてるし」
「ああ、なるほど。いやでもまさか、お返し考えてくれるタイプと思ってなくて、どうしよう、なんか今、めちゃくちゃ感動してる」
「まぁ俺も、今、わりと感動してるような気もする」
 だってこれ、期待からくる勘違いだけじゃないだろ。プレゼントを渡してから先の、彼の一連の動作や表情や言葉に、嬉しくて仕方がないその様子に、彼にも同じ想いがありそうだと思ってしまった。
「え、何に?」
「俺、お前のこと、好きになったみたいなんだけど」
「え? は?」
「って言っても、大丈夫そうなことに、感動してる」
 お前も俺のこと好きだろ? とまでは続けなかったけれど、多分通じたのだろう相手の顔が、じわじわと赤く染まっていく。
「好きなの、僕の作るお菓子だけ、って言い切ってたくせに、ズルい」
「それは撤回するけど、ズルいってなんだよ」
「お菓子だけじゃなくて、僕自身に惚れさせて、あの言葉は撤回するね、ってやりたいのは僕の方だった」
「惚れさせて、ってとこまでは成功してるだろ。その結果がこれだろ」
「そうだけどそうじゃない。いやまぁ、先を越されて悔しい、くらいの意味だよ」
「そうか?」
 まだ他に何かありそうな気配に首を傾げてみたが、マカロンはもう出来上がってるから上がっての言葉に、そんな一瞬の疑問はあっさり霧散していった。

この2人は、どっちも自分が抱く側を主張して揉めるカップルになりそうな予感がしてる。ので、またそのうちうっかり続くかも知れない。

 
 
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カレーパン交換

 自室の勉強机の上に置かれた黒い袋の中身はカレーパンで、昨日コンビニで買ってきたものだ。有名なチョコブランドとのコラボ品で、発売情報は事前に得ていた。
 バレンタインというイベントに乗っかって、チョコを渡しながら想いを告げたい気持ちはない。むしろこの胸の中に抱える恋情は隠し通したい。でも好きな相手にチョコを渡すという、ドキドキだったりワクワクだったりは味わってみたい。
 そんな自分にとって、チョコ入りカレーパンというのは絶好のアイテムに思えたのに。これならおもしろネタとして購入しやすいし、あまりバレンタインだのチョコだのを意識させることなく、相手にも渡しやすそうだと思ったのに。
「はぁあああ」
 目の前のカレーパンを見つめながら盛大に溜息を吐いた。
「なんで、今年に限って日曜なんだよ……」
 吐き出す声は恨めしさがありありと滲んでいたが、それも仕方がないと思う。平日だったら学校で弁当を食べるついでに取り出して、面白そうだったから買ったと言って、半分わけてやるなどで相手に食べさせることが簡単にできるのに、日曜じゃそうもいかない。
 仲はそれなりに良いし、映画やら買い物やらで休日に一緒に遊びに行くことだってしないわけではないけれど、カレーパンを渡すために会うとか意味がわからない。というよりも、せっかくバレンタインやらチョコやらを意識させないためのカレーパンなのに、そんなことをしたらさすがに気づかれそうだ。
 だってカレーパンを包む袋にははっきりとコラボしたブランド名が書いてあるし、このブランド名を見たらチョコを意識せざるを得ないし、わざわざ呼び出してこれを渡したら、きっとチョコを渡すのとそう変わらない。それじゃカレーパンである意味がない。
 元々、バレンタインなんてイベントは自分の想いには無関係だと思っていたのだから、好きな相手にチョコを渡してみたいなどという、乙女じみた野望を捨ててしまえばいいのはわかっている。でもこのカレーパンの発売情報を見た瞬間に、これなら俺でも渡せるじゃん! と浮ついた気持ちが忘れられない。
 諦めきれないまま、手の中の携帯を弄った。さっきから何度も、相手に今日会えないかと問うメッセージを書いたり消したりしている。会って渡したら意味がないと思うのに、どうにかしてさりげなく渡す方法はないかと模索している。
「うわっ!」
 そんな中、相手から暇かどうかを問うメッセージが届いて、思わず驚きの声を上げてしまった。すぐさま暇だけどと返せば、次には、近くまで来てるから遊ぼうというメッセージが届く。
 向こうから申し出てくれるなんて、なんて都合がいい。
 机の上のカレーパンはそのままにこの部屋に呼び、ちょっとでもカレーパンに興味を示したら面白そうだったから買ったと告げて、一緒に味見をすればいい。この流れなら、当初の予定とそう変わらない。
 しかし、ウキウキで遊びに来た相手は、部屋に入った瞬間に、あっ! と声を上げて立ち止まってしまった。視線の先はカレーパンだ。
 ちょっとでも興味を示したら、というレベルじゃない反応にドキリとする。
「あ、いや、これはその、なんか面白そうだったから買ってみただけで、誰かにあげるつもりとかは、あ、じゃなくて、誰かに貰ったものじゃなくて、その、あー……」
 焦って口からこぼれていく言葉はどれもこれもが最悪だ。このカレーパンがバレンタインのチョコを意識した品だと、自ら暴露してしまった。
 これでもう、さりげなく相手にチョコを渡すのなんて絶対に無理。このカレーパンを買ってきた意味がなくなった。
「くそっ」
 自らの盛大な失態に悪態をつけば、相手はそんな動揺しなくてもいいのにと笑う。
「バレンタインコラボのチョコ入りカレーパンを自分で買ったからって、そんな恥ずかしがるような事じゃないだろ。面白そうだったから買った、だけでいいじゃん」
「わかってんよ」
「それにさ、もしお前がバレンタイン用の包装された可愛いチョコを買ってたって、チョコ貰えなくて自分で買っちゃう可哀想なやつ、なんてこと、俺は思わないぞ?」
「いや、そうじゃねぇよ。つか、つまり俺がこれを誰かにやるつもりで買ったとか、誰かから貰ったとかは、欠片も思わねぇってことかよ」
「最初に言った、面白そうだから買った、が事実だと思ったけど。それとも、誰かにあげたくて買ったものだから、あんなに焦った?」
 またしても完全に墓穴を掘った。チッと舌打ちして視線をそらせば、図星だ! という言葉に追い打ちをかけられる。
「え、まじで? お前、チョコ渡したいような相手いるってこと? え、誰だよそれ。俺の知ってるやつ?」
「あーあーあーあー、うーるーせー」
 続けざまに質問が飛んできて、それを遮るように声を荒げて机に近づいていく。
「これは、俺が自分で食うために買っただけ」
 取り上げたカレーパンの袋を思い切り開封し、中身にかぶりつこうとしたその時。
「待って!」
 手の中から相手がカレーパンの袋を奪っていった。
「何すんだっ!」
「自分が食べてみたくて買っただけなら、これじゃなくて俺が買ってきたやつ食って」
「は?」
「俺が、買ってきたのを、食え」
 言い含めるようにゆっくりと吐き出されてくる声は、どこか怒りを孕んでいる。
「え、なんで?」
「俺のは明確に、お前に食べさせるために買ってきたものだからだ」
「え、なんで?」
「今日がバレンタインだから」
「え、つまり、お前からの……チョコ?」
 最後の部分は言うのをかなり躊躇った。けれど確かめずにはいられなかった。
「そーだよ! ほらっ」
 鞄から取り出された黒い袋が突きつけられる。紛れもなく、先程まで机の上に置かれていたカレーパンと同一のものだ。
「まじかよー」
 受け取った袋を抱えながらへなへなとしゃがみこんでしまえば、同じようにしゃがんだ相手が、俺からのじゃ食いたくないかと問うてくる。少しだけ不安のにじむ声に慌てて首を横に振った。
「つかお前、勇気あんな」
「いや俺だって、お前が誰かにチョコ渡したがってるの知らなきゃ、言うつもりなんて無かった。面白そうだから買ってきた、だけでいいと思ってたよ」
「そ、っか」
「そう。だからこれは返すけど、これの代わりに、俺が渡したそっちの未開封のを誰かにやるのとかだけはナシな」
「んなことするわけないだろ。てかそっちはお前が食えよ」
「え、やだよ。だってこれ、お前が誰かにあげるつもりだったチョコだろ」
「誰か、っつーか、お前な」
「え?」
「俺がそれ渡したかった相手、お前」
「え、え、つまり……」
 俺たち両想いだなと告げれば、ここまで一切照れる様子もなく堂々としていた相手の顔が、みるみる赤く染まっていった。

コラボカレーパンこのコラボカレーパンが発売されるニュースを見て、今年のバレンタインネタはこれに決まりだなと思いました。笑

 
 
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ツイッタ分(2020年-2)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その2です。
その1はこちら→

有坂レイへのお題は「君がいる日常」、アンハッピーなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

この気持ちに気づく前は、当たり前に君がいる日常はただただ幸せだった。でも気づいてから先は違う。一緒に過ごす時間の幸せが、少しずつ恐怖の感情に塗り替わっていく。結局嫌われるなら、気持ちを知られての嫌悪より、勝手に消えたことへの怒りがいい。だから君がいる日常を捨てる俺を追いかけないで

有坂レイへのお題は「実らなくても恋は恋」、あからさまなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

これはもう恋なのだと思う。相手は実の弟で、自分は兄で、つまり血が繋がっている上に同性だ。実るはずがないどころか、そもそも実らせる気など欠片もない。だからせめて、この好きって気持ちが恋だってことを、自分だけでも認めてあげたい。


クリスマス(ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」の二人です)

 随分疲れた顔をしてるから、なんて理由で差し出された袋の中にはカップケーキとか言うらしいものが入っていて、明らかに手作りとわかる見た目と包装だったけれど、めちゃくちゃに美味しかった。もっと食べたくてまた持ってこいよと言ってみたら、渡されたのはカップケーキではなくクッキーだったけれど、それもやっぱりすごく美味しくて更に次をねだった。
 お菓子作りが得意な彼女持ちなんだと思っていたし、羨ましさと妬ましさも含んでのタカリだった自覚はある。くれと言えばそう強い抵抗もなく渡されるから、こんな不義理な男がなぜモテるのだと不思議に思うこともあった。まぁそれに関しては、結局顔かと、一応は納得していたのだけれど。
 それがまさかそいつ本人の手作りで、菓子作りが趣味と知ったのは数ヶ月ほど前だ。その時に、彼女の手作り菓子を巻き上げてるつもりだったのを知られてドン引かれ、菓子のおすそ分けを停止されそうになったけれど、食い下がって謝って止めないでくれと頼み込んでなんとか事なきを得た。
 既に彼の作る菓子の虜なのだと、彼自身に伝わったせいだろう。頻度も量も変わらず、いろいろな菓子を渡してくれる。
 しかも、貰った菓子はだいたいすぐにその場で食べるのだけど、美味いと言って食べる姿を見る目は、以前よりもはっきりと嬉しそうだ。
 作った相手が目の前にいるということで、こちらも前よりは詳細に味の感想を言うようになったせいか、得意げにこだわりの部分を話してきたりもするし、リクエストに応じてくれることもある。
 キラキラと目を輝かせて楽しげに語ってくれる様子から、本当に菓子作りが好きなことは伝わってくるのだけれど、顔の良さでモテてるんだろうと思っていたような美形の、キラキラな笑顔を直視するはめになったのだけはどうにも対応に困っている。
 好きなのはお前が作る菓子だけと断言した際に、対抗するように、好きなのは菓子を作ることだけだからご心配なくと断言されているのに。最近は菓子を食べながらドキドキしてしまうことがあって怖い。美味い菓子が好きなだけのはずが、美味い菓子を作ってくれる相手のことまで好きになっている可能性を、そろそろ否定しきれない気がするからだ。
「メリークリスマス」
 そう言って差し出された透明な袋の中には、いかにもクリスマスな感じの型で抜かれたクッキーが数枚入っていて、やっぱりクリスマスを意識したらしい赤と緑のリボンが掛かっている。ただ、思っていたよりはシンプルだ。もっと気合の入りまくったものを作ってくるかと思っていた。
「まぁそれはオマケみたいなものだからね」
「は? オマケ?」
「ガッツリデコレーションしたケーキとか、学校持ってこれないし」
「つまりこれの他にデコレーションケーキを作ったって事か?」
「だけじゃなくて、ほかも色々。だってクリスマスだし、僕の趣味家族公認だし」
 彼が自宅で作る菓子の大半は、家族が消費しているというのは聞いたことがある。
「ああ、なるほど。家でパーティーとかするタイプか」
「しないの?」
「しない」
 大昔はそんなこともしていたような記憶があるが、両親は共働きで一人っ子となると、家族揃ってクリスマスパーティーなどもう何年も記憶にない。イベントという認識はあるようで、少しばかり渡される小遣いが増える程度だ。
「じゃあ来る?」
「は?」
「うちの家族に混ざってパーティーする?」
「え、なんで?」
「いやだって、なんか、食べたそうな顔したから」
「そりゃ興味はあるけど」
 彼が作る、学校には持ってこれないという菓子を食べてみたい気持ちはある。それを食すなら、彼の家に行かねばならないのもわかる。わかるけど。
「無理にとは言わないけどさ。でも実は、お前に予定ないなら誘おうと思って、お前の分のゼリーとかも用意してある」
「……行く」
 そこまで言われて、行かないという選択肢は選べないだろう。
 自分の分が既に用意されていると聞いた上で、楽しみだとキラキラな笑顔を振りまかれたら、なにやら期待しそうになる。でも相手は、作った菓子を美味しいと絶賛する人物に食べさせたいだけなのだとわかっているから、零れそうになる溜め息を隠すように、貰ったクッキーを口に詰め込んだ。


今年は6月の5周年を機に不定期更新となり、結果、殆ど更新のない状態ですが、それでも覗きに来て下さっている皆さんにはとても感謝しています。本当にどうも有難うございます。
結局、不定期更新になってから先に書けたものは少ないですが、最悪1年の長期休暇になる覚悟もしての隔日更新停止だったので、チャット小説という新しいことにチャレンジできたり、名前を呼び合うカップルが書けているという点では結構満足してたりです。
CHAT NOVELさんに納品済みの残り2作品の後日談はすでに書き上げてあり、年明け6日と8日にそれぞれ公開されるそうなので、それを待っての投稿となります。これは年明けのご挨拶でもう少し詳しく色々お知らせ予定です。
今年は新型コロナの影響で生活が大きく変わりましたし、この年末年始も色々と制限がありますが、感染対策を取りつつ少しでも楽しく過ごせればと思っています。
今年もあと残り数時間となりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

 
 
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