雨が降ってる間だけ

 ふと隣に気配を感じて集中が途切れる。気配に向かって振り向けば、長めの髪をひと結びに後ろに垂らした浴衣姿の青年が、そわそわもじもじ落ち着きのない様子でこちらを窺っていた。
「ああ、雨、降り出したんだね」
 コクンと頷く彼に、じゃあ寝室に行こうかと言って立ち上がる。予報では、降り出したらしばらく強めの雨が続くようだから、前回みたいに途中でお預けなんてことにはならないだろう。
 おとなしく数歩後ろをついてくる彼を寝室に招き入れ、ベッドの上に押し倒せば、先程よりも更に落ち着きをなくした男が、期待に顔を赤く染めている。
「雨が降るの、待ち遠しかった?」
 可愛いなぁと思いながら赤くなった頬をゆるりと撫でてやれば、やっぱりコクリと頭が縦に揺れた。
「前回、イキそびれたまま雨上がったもんな。今回は雨長引きそうだし、いっぱい気持ちよくなろうな」
 告げれば嬉しそうに笑って、早くと言わんばかりに両腕が首に回される。引かれるまま顔を寄せて、初っ端から相手の口内を貪るみたいな深いキスを仕掛けていく。
 慣れた様子で絡められる相手の舌を吸い上げながら、浴衣の合わせを広げて露出させた肌に手を這わした。弄り回した胸の突起が硬さを増したら、指先で摘んで押しつぶすように転がしてやる。
「んんぅっ……」
 ビクビクと体を震わせ、苦しげに、けれど甘ったるく、鼻に掛かった息が口端から漏れた。彼の体はすっかり自分に慣らされきっている。
 血走った目でこちらを睨み、部屋の中の物をあれこれ投げつけてきていた男が、まさかこんな変貌を遂げるとは思わなかったが、彼は長年抱えている何かが癒やされているようだし、こちらも充分に楽しんでいるし、ヤバイと噂の格安物件を問題なく利用できているしで、いい事づくしだと思う。
 つまり彼は、人の形をしているが、いわゆるこの家に憑いた、人ではない何かだった。言葉は通じるし会話も出来なくはないが、彼は彼自身のことを語らないので、幽霊のたぐいなのか妖怪と呼ばれるようなものなのか今ひとつわからない。
 ポルターガイスト現象の頻繁に起こる格安の一軒家を借りたのは、仕事柄金があまりなかったのと広めの作業スペースが欲しかったからだ。
 舐めて掛かっていたと後悔するのは早かった。なんせ、皿でも飛ぶのかと思っていたら、狙ったように仕事中に仕事道具ばかりが舞った。
 相手はこちらが心底苦痛に思う嫌がらせを心得ていると思ったが、いかんせん、引っ越しにも金が掛かるし、同じ規模の別の家を借り続けられる財力だって無い。
 そんなわけで、とある雨の日、仕事場で仕事道具をアチコチに移動させている不機嫌で不健康そうな和装の男を見つけた瞬間に、何だお前ふざけんなと喧嘩を売っていた。その姿を見た瞬間から、相手が人でないことも、ポルターガイストを起こしているのがコイツだともわかっていたが、得体の知れないものへの恐怖はなかった。和装だったり髪が長かったりはあるものの、見た目はごくごく普通の人の姿をしていたからかもしれない。
 まさか見えていると思わなかったらしい相手は心底驚いて、それから手の中のものをこちらへ投げつけてきた。額の端をかすめていったそれに、こちらの怒りのボルテージは上がっていったし、触発されるように相手もどんどんと険しい顔付きになった。
 手当たり次第、手に触れたものをこちらに向かって投げてくる相手に、飛んでくるものを避けたり払ったりしながら近づいていったのだが、だんだん怯えたような表情になっていくのが印象的ではあった。
 相手に触れられるほど近づいた後は取っ組み合いへと発展したが、なんというか、相手は思いの外非力だった。仕事場の床に押さえ込んで、仕事道具に二度と触るなと脅せば、なんだか透けるみたいに青い顔をして必死にイヤイヤと首を振っていた。なぜかそれに劣情を催し、気づけば男を犯していたのだが、さんざん仕事の邪魔をされたという思いがあったからか、相手が泣いて嫌がるほどに、胸がスッとするようだった。
 数度相手の中に射精したところで、色々と冷静になり、さすがにやり過ぎたと身を離す。息も絶え絶えに横たわる体は、人ならざるものとわかっていても、罪悪感が芽生える程度に人とそう変わらなかった。つまり、見知らぬ男をいきなり犯しぬいたような気持ちになって、内心慌てながら洗面所へ向かって走ったのだが、タオルやらを持って戻った時には彼の姿は消えていた。
 それからパタリと仕事道具が舞うような現象がなくなり、なんだかやらかした感はあるが一安心と思っていたのだが、代わりとばかりに何かの気配を感じるようになった。見えないが、彼がそばにいる。見張られている。そんな日々になんとも居心地の悪い気分を味わいながらも、やっぱり引っ越しはできずに居たら、ある日またふと彼の姿が目に入った。手を伸ばしたら普通に触れたのだが、触れられた彼はこちらに見えていることに気づいていなかったのか、やはり相当驚いた顔をした。その後、こちらの手を振り払って彼は逃げた。
 雨が降ると彼が見える、と気づくまでにも彼との攻防は色々とあったが、初回に犯したことをほぼ土下座で謝り、お詫びに優しくさせて欲しいと頼み込んでどうにか再度彼に触れるチャンスを手に入れた。その頃にはもうすっかり情がわいていたから、言葉通り思いっきりその体を甘やかしてやったのだが、結果的にはそれで彼に懐かれた。のだと思う。
 それ以来、雨が降ったら彼を抱いている。たまに最中に雨が上がってしまうアクシデントも起こるが、彼との関係は概ね良好だと思う。
「ぁ、っぁ、ぁん」
 控えめながらも連続的に気持ち良さげな声が漏れている。
「ここ、気持ちぃ?」
 聞けば素直に首が縦に揺れた。聞き漏らしそうなほど小さな声ではあるが、きもちぃと教えてもくれる。抱くほどに彼は可愛くなる。
 だんだんと仕事が軌道に乗り始め、多少金銭的な余裕も出てきたのだけれど、この格安物件生活を手放す気にはなれそうにない。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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知り合いと恋人なパラレルワールド(目次)

キャラ名ありません。全11話。
大学のサークルの先輩×後輩(視点の主)。
先輩攻ですが、先輩の方が視点の主より頭ひとつ分小さいです。
もともと二人は顔見知り程度のあまり親しくない関係ですが、二人が恋人なパラレルワールドがあり、そちらの先輩とこちらの先輩が入れ替わってしまったことで、視点の主が先輩を好きになります。
入れ替わりが戻った後、先輩と恋人になるエンド。

下記タイトルは内容に合わせた物を適当に付けてあります。
エロ描写は控えめで挿入はなしですが、それっぽいシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 先輩訪問
2話 パラレル世界の存在
3話 惹かれていく
4話 繋がらないメールと告白
5話 代わりでもいい(R-18)
6話 戻ってきた先輩
7話 それでも先輩が好き
8話 先輩からの話
9話 2つの世界の違い
10話 誘われる
11話 先輩と恋人(R-18)

 
 
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忘れられない夜 / 無抵抗 / それだけはやめて

 さんざん指を突っ込み弄りまわしていた理由をなんだと思っているのか、いざ挿入しようとしたら、か細い声で「それだけはやめて」などと言いだした。
「は? 今更だろ」
 鼻で笑って、拡げた穴の入口に性器を押し当てる。しかしそのまま一息に押し込めなかったのは、目の前の体が小さく震えていることに気づいてしまったからだった。
「お願いだから入れないで」
 懇願する顔は半泣きではあるが、熱に浮かされたような色っぽさが強すぎて煽られる。だいたい、つい先程まで、こいつはケツ穴を弄られながら善がり泣いていたのだ。必死さのにじむ口調や小さく震える体から、本気で嫌がっているのかもと思わなくはなかったが、泣き顔なんて逆効果でしかない。
「そういう割にゃ、逃げようともしてねぇじゃねーか」
 最初からほぼ無抵抗で好き勝手させたくせに、最後の最後でダメとはいったいどういうことなのか。
「逃げないよ。逃げたいわけじゃない。でも入れるのはダメだ」
「意味わかんねぇ。俺が好きなんだろ?」
 ここ最近、教室内でずっと視線を感じていた。控えめで目立たない存在感の薄い男だったから、クラスメイトなのに名前すら知らなかった。なんで見てるのと話しかけたら、めちゃくちゃ驚いた顔をした後、嬉しそうに笑って好きだからだと言った。
 君のことを好きでずっと見てた。話しかけてもらえて凄く嬉しい。
 そう言って笑った顔がとても可愛くて、がぜん興味が湧いた。それから時々話をするようになり、先日の放課後、とうとう彼とキスをした。今まで男を性愛の対象にと考えたことはなかったけれど、彼とのキスに嫌悪感はまったく湧かなかった。頬を染めて嬉しそうにはにかむ顔が愛しいとさえ思った。
 好きだ好きだと繰り返されるのに絆されたのか、やや中性的で整った顔が性別を曖昧にさせるのか、もともと好みの顔なのか。そのどれも、という気はしている。
 先に進みたい気持ちと裏腹に、家が逆方向だからと一緒に帰ることすらままならなくて、人の消えた夕暮れの教室で押し倒してしまった先刻も、彼は歓迎する素振りで喜んでいたはずだった。だからまさか、ここまで来てダメと言われるとは思っていなかった。
「好きだよ。それ以外のことなら、何したっていい」
「なら咥えろよ。口でイかせてくれたら、突っ込むのは諦められるかもしんねーし」
「わかった」
 体制を入れ替えたかと思うと、躊躇いなく口を寄せてくる。
「うっ……」
 熱い舌に絡め取られて思わず呻いた。口内に含まれ、柔らかに食まれ吸われ、唇と舌とを使って扱かれれば、あっという間に射精感が押し寄せる。しかし同時に、こんなテクをどこで覚えてきたんだという疑問が湧いた。一つ疑問に思うと、何もかもが怪しく感じてくる。初心者同然の自分が弄ったくらいで、善がり泣くほど尻の穴が感じるのだってオカシイのではないだろうか。
 初めてじゃないんだ。
 そう思ったら、急に怒りのような悲しみのような、独占欲と嫉妬がぐちゃぐちゃに混ざり合って押し寄せてきて、股間に顔を埋めて丁寧に奉仕してくれている相手を突き飛ばしていた。
「ご、ゴメン、何か気にさわった、かな?」
 それに答えずのしかかり、ダメだと懇願する声を無視して、欲望のままに突き上げる。
 ダメだと繰り返すくせにやはり抵抗はほぼなくて、乱暴に揺さぶっているのにそれでも感じるのか、ダメだと吐き出す合間合間に甘い吐息を零している。それがまた悔しくて、そのまま中に放ってしまったが、その頃にはもう彼も諦めた様子でダメとは言わなくなっていた。
「ぁ……ぁあ……」
 絶望の混じる吐息と共に、中に出されながら彼もまた極めていたが、さすがにこの状況で事後の甘さはカケラもない。吐き出して冷静になってしまえば、そこにあるのは気まずさだけだ。
「悪い。我慢できなくて……」
「うん。いいよ。でも今日はもう帰ってくれる?」
「いや、そういうわけには」
 やるだけやって相手を置いて帰るなんてあまりにあんまりだと思ったが、一人で大丈夫だからと強く言われて、結局先に教室を後にした。
 その日以降、彼はぱったりと姿を消した。それどころか、彼が居たという事実さえ綺麗さっぱり消え失せた。彼のことを覚えているのは自分一人だけで、だんだん自分の記憶にも自信がなくなっている。
 もしかして自分が作り上げた空想上の友人だったのか、はたまた学校にありがちな怪談にでも巻き込まれていたのか。それでも、暗くなった教室で彼を抱いたあの熱も、善がる彼の零した熱い吐息も、まだ生々しく覚えている。
 誰一人彼を覚えていなくても、自分は忘れないし、忘れたくないと思った。
 もし、あの時彼の言葉を聞いて抱かずに居たら。もし、彼一人を残して帰ったりしなければ。彼は今もまだこの教室で自分を見つめてくれていたのだろうか?
 そんな後悔を胸に、たった一度のあの夜を思いながら、頭のなかでは今日も彼を抱き続けている。

レイへの今夜のお題は『忘れられない夜 / 無抵抗 / それだけはやめて』です。
http://shindanmaker.com/464476

 
 
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