親戚の中学生を預かり中1

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 コンコンと部屋のドアを叩いても無反応だった。部屋にいるのは確実だから、ヘッドホンで音楽でも聞いているのかも知れない。
「入るぞー」
 再度ドアを叩いてついでに声もかけてから、ゆっくりとドアを開いた。
 ドアの隙間からこぼれるのは蛍光灯の明かりではなく窓から差し込む夕日の赤色だったから、あれ? と思いながらそのまま大きくドアを開いて中を覗く。
 目的の人物はベッドの上だった。ベッド脇にまで近づき見下ろしても、相手の反応は何もない。
 穏やかとは言い難い、眉を寄せた難しい顔をしているけれど、部屋に差し込む夕日のせいもあってどこか色めいて見える。ドキリと心臓が跳ねるのは、自身の中にある下心を自覚しているせいだろう。
 夏休みの間だけ預かる事になった、と言われて突然連れてこられた、一応は親戚らしいこの子の抱える事情について、詳しいことは聞いていない。相手は7つも年が違う中学生で、ついでに言うなら受験生で、親からはあまり構ったりせずそっとしといてやれと言われているのに、どうにも気になってちょくちょく部屋を訪れてしまう。
 口実としてお菓子やらを持参するせいだろう。邪険に追い返されはしないが、もちろん歓迎されてもいない。でもその塩対応になぜか少しホッとする。
 親へ見せる礼儀正しさや愛想の良さに、親自身は全く違和感がないようだけれど、それを見ているとなぜかハラハラするのだ。怯えているような、無理をしているような、そのくせそれを綺麗に隠しきって笑おうとする様子が、どうにも媚びて見えてしまう。
 相手の事情の詳しいことは聞いていないが、親の離婚問題に受験生を直面させたくない、程度のことは聞いている。だからまぁ、離婚問題を抱える親の間で、親に気を遣いながら生活していたなら、大人へ向ける態度がああなるのも仕方がないと、納得出来ないことはないのだけれど。
 見下ろす寝顔がますます歪んで苦しげな息を漏らすから、思わず伸ばした手で頭を撫でた。少しでも楽になって欲しかったこちらの気持ちと裏腹に、相手はビクッと大きく肩を跳ねると、ゆっくりと瞼を上げていく。恐る恐る開かれていく瞳が、こちらの顔を捉えて一度大きく見開かれ、それから何かを迷って揺れる。
 声が掛けれないまま見つめてしまえば、小さく諦めの滲む息を吐いた後、今度はニコリと笑ってみせる。艶やかに、と言えそうなその笑みの威力を、相手は間違いなく自覚している。
「する?」
 疑問符の乗った短な言葉に、けれど何を聞かれたのかわからなかった。
「貢いでくれるお菓子代程度はしてもいいけど」
「は?」
「フェラで良い?」
「ふぇっ!?」
 何を言い出しているんだと驚くこちらを見つめる相手の目は酷く冷めている。
「俺をそういう目で見てる自覚、あるよね?」
 塩対応なのはこちらの気持ちに気づかれてるせいもあるかも、と思うこともないわけではなかったが、まさか相手から直球で指摘されるなんて思わず、何も答えられずに居たら相手に強く腕を引かれて体勢を崩した。
「うわ、ちょっ」
「今更何慌ててんの。やるならさっさとしちゃおうよ。あまり騒ぐとおばさん来ちゃうかもよ?」
 ベッドの上に膝をつくように乗り上げてしまったこちらのズボンのフロントボタンに、躊躇うことなく伸ばされる手を慌てて掴んで阻止した。

続きました→

 
 
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HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

いつか、恩返し(目次)

キャラ名ありません。全35話。
同じ市内在住の同い年な従兄弟。メインは大学時代の4年間。
幼い頃から視点の主は従兄弟と競い合ってきたが、高校入学後に力量の差を認めて謝罪。その後、家庭の事情から従兄弟に同じ大学の同じ学部学科へ入学して貰うことになり、そこで大きな借りができる。
親元を離れた大学生活中、従兄弟と恋人ごっこをしたり、従兄弟に恋愛的な意味で好かれてると知ったり、従兄弟の誘いに乗ってセックスしたりで、最終的にはごっこをはずした恋人になります。
視点の主は好奇心旺盛で、その好奇心に付け込まれるような形で抱く側も抱かれる側も経験しますが、描写は抱く側の方が多め。
恋人ごっこを開始する前、視点の主は彼女持ちで非童貞。従兄弟は高校時代に彼女が居たけれど童貞。後ろはどちらも非貫通です。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 一緒の大学へ行こう
2話 従兄弟のゲイ疑惑
3話 形だけの恋人
4話 お酒解禁
5話 従兄弟の好きな子
6話 今後も今まで通りで
7話 試していいよ
8話 どっちでもいい
9話 便利な言葉「好奇心」(R-18)
10話 もう挿れて(R-18)
11話 きっと好奇心ではない(R-18)
12話 憐れで、健気で、愛おしい(R-18)
13話 優越感と見下し
14話 可愛いと繰り返す
15話 交代
16話 童貞なんて聞いてない(R-18)
17話 集中させて(R-18)
18話 抱く側でも可愛い(R-18)
19話 相互アナル弄り(R-18)
20話 背面騎乗位(R-18)
21話 チャレンジ(R-18)
22話 炒飯とスープ
23話 微妙に噛み合わない
24話 win-winな関係
25話 嬉し泣き
26話 好きを言う理由
27話 もう少し、このままで
28話 大学卒業後の進路
29話 欲しかったもの
30話 卒業後は同棲決定
31話 今だから言える
32話 親近感
33話 そろそろ知ってて
34話 恩を返すために
35話 抱き潰された(R-18)

 
 
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昔と違うくすぐり合戦

 自分は脇が、幼稚園からの付き合いのそいつは足の裏が特に弱くて、昔から時々、何かの拍子にくすぐり合戦のような事は起きていた。互いにゲラゲラ笑いあうと、喧嘩だったり不機嫌だったりが、なんとも些細なものに思えてどうでも良くなる感じがするからだ。
 けれど中学に入学以降はそんな戯れはグッと減った。相手の体の成長が早くて、体格差が出来てしまったせいだ。
 力で勝てない圧倒的な不利さに、自分から手を出すことは当然無くなったし、押さえ込まれて泣くほど笑わされるのが数回あって本気で怒ったら、相手からも手を出されることがなくなった。
 しかしとうとう自分にも成長期が来た。ぐんぐんと背が伸び、既に殆ど成長の終わっている相手との身長差が、目に見えて縮んでいくのは嬉しくてたまらない。
 嬉しいついでに、相手の部屋に上がり込んで一緒に借りてきた映画を見ている時、隣で胡座をかいて座る相手の足の裏を指先でツツツとなぞってやった。ビクッと大きく体を跳ねて、驚いた顔で勢いよくこちらに振り向いた相手に、ひひっと笑ってみせる。少しムッとした顔で相手の指先が脇腹を突いて、やっぱりツツッとその指先が脇を撫で下ろしていく。
 ゾワゾワっと肌が粟立って、身を竦めながらも、やっぱりひひっと笑いが溢れた。後はもう、懐かしむみたいに互いに相手の弱い場所を狙ってくすぐり合う。
 しかしやはり体の小さかった子供の頃とは違う。ぎゃはぎゃはゲラゲラ全身で笑って、部屋をのたうち回るようなスペースはもうないのだ。バタバタと暴れれば部屋のアチコチに体を打ってしまう。
「あいたっ、ちょ、ひゃっ、待っ、ひゃうっ、おいぃっっ」
 早々に懐かしさのあまり自分から仕掛けたことを後悔し、相手をくすぐる手を緩めて待ったを掛けたのに、相手の手は容赦がなく、こちらの脇を揉むのを止めない。
「ば、っか、も、あふぁ、や、アハっ」
 バカもう止めろと訴えたいのに、まともに言葉なんて出せないし、体格差はかなり縮んだもののやっぱり相手の方が力は強いしでなかなか逃げ出せない。
 またぐったりするまで泣くほど笑わされるのかもと思いながら、それでも必死に身をよじれば、自分を見つめる相手の顔が目に映ってドキリとした。
 こちらもつい先ほどまでは彼をくすぐりまくって居たのだから、上気して赤らむ頬は笑ったせいだとは思う。思うけど、でもなんか、妙に色気があるというか、エロいというか。え、なんだこれ。
 その顔がゆっくりと近づいてきて、音もなく軽く口を塞がれれた後、またゆっくり顔が離れていく。それをぼんやり眺めながら、あ、くすぐり終わってる、という事に気付いて大きく安堵の息を吐いた。
「お前さぁ」
「あ、うん、何?」
「何、じゃなくて。つか、今、何されたか理解出来てる?」
 キスしたんだけど、と言われて、ああ、あれはキスされたのかと理解した途端、ボッと顔が熱くなる気がした。
「なななな、なんで?」
「反応おっそ!」
 つーかさーと呆れた声音の相手が、ぽすんともたれ掛かってくる。
「お前がひゃんひゃん可愛く喘ぐから勃った」
「喘いでねぇよ」
「後お前、自分で気付いてないかもだけど、お前も勃ってっから。ちんぽおっ勃ててひゃんひゃん喘いでクネクネされんの目の前にして、勃起すんなってのは無理」
「はあああああ??」
 何を言っているんだと盛大に驚けば、無言のまま伸びてきた手に、ふにっと股間を揉まれてしまう。
「ひゃぅんっ」
「ほら、今、ぜったい、ひゃんて言ったろ」
 エロ過ぎなんだよと不貞腐れたように言いながら、股間をグニグニ遠慮なく揉みだす手のがよっぽどエロいと思った。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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週刊創作お題 新入生・再会

 新入生代表挨拶で登壇した男の見た目に懐かしさは覚えなかったが、告げられた名前には懐かしさがこみ上げる。少し珍しい名前だから、多分人違いではないはずだ。
 入学式後のホームルームを終えた後は、真っ先にその新入生代表挨拶をした男のクラスへ向かった。
 タイミングよく、帰るためにか教室を出て来たところを捕まえて、久しぶりと声をかける。
「久しぶり? 俺らどっかで会ったことある?」
 こちらを見上げてくる相手は、酷く不審気な顔を見せているが、それは当然の反応だろう。なんせ会うのは10年ぶりくらいだし、中学に上がってから思いっきり背も伸びて随分と男臭くなってしまったから、幼稚園の頃の可愛らしさの面影なんて欠片もないのはわかりきっている。
 ただ、名乗ってもわかってもらえなかったというか、全く思い当たる節がないと言わんばかりの、更にこちらへの不審さが増した顔には、正直言えばがっかりした。だって昔、あんなに何度も好きだって言ってくれてたのに。大きくなったら結婚しよって、言ってくれたことさえあるのに。
 それとも同姓同名の別人で、こちらの勘違いって可能性もあるだろうか。そう思って幼稚園の名前を出して、そこに通ってなかったかと聞けば通ってたけどと返ってくる。
「俺も、その幼稚園通ってた。で、結構仲良かった、つもりなんだけど……」
「お前みたいなやつ、記憶にない」
「いやそれ、成長してるからだから。昔の俺は! それはもう、めちゃくちゃ可愛らしい子供だったから!」
 言えば相手はプッと吹き出し、自分でそれ言うかよと言ってゲラゲラと笑い始めてしまう。相手にだって幼稚園生の頃の面影なんてほぼないと思っていたけれど、楽しげに笑う顔は間違いなく、昔の彼と同じ笑顔だった。
 若干置いてけぼりの戸惑いは有るものの、それでも懐かしさにそんな彼の笑顔を見つめてしまえば、急に相手が笑うのを止めてこちらを見つめ返してくる。ドキッと心臓が跳ねるのがわかった。
「あれ? やっぱ俺、お前のこと知ってるかも」
「いやだから、絶対知ってるはずだし、何度か互いの家にお泊りしあったくらい仲良かったんだってば!」
「は? お泊り?」
「したよ。家の場所もだいたいは覚えてる。はず」
 遠い記憶を掘り返しながら、おおよその場所を告げれば相手は惜しいが近いと返しながらも、随分と渋い顔になってしまった。何かヤバイことを言ってしまったかと、別の意味で心臓が煩い。
「あー……思い出した。ような気がする、けど……マジかよ……」
 思い出したと言いながらも、相手は焦った様子で視線を彷徨わせるから、わけがわからないながらも不安は増して行く。思い出してくれて嬉しいって気持ちには、到底なれそうにない。
「あの……もしかして、仲良かったと思ってたの俺だけで、思い出したくない嫌な思い出、とかだった……?」
「いやそうじゃないけど。つかお前、仲良かったって、どこまで記憶残ってんの? あ、いや待って。ここで聞きたくない。どっか別のとこで話そう」
 教室前の廊下なものだから、自分たちに向かってチラチラと興味深げな視線が投げられているのには、もちろん自分だって気づいていた。久々にこの地に帰ってきた自分と違って、彼には同じくこの高校へ入学した友人も知人も多いだろう。
 結局そのまま連れ立って学校を出て、彼に促されるまま向かうのは、どうやら彼の家のある方向だ。まさか自宅に招待してくれるのかと思いきや、彼は人気のない小さな公園の入り口で立ち止まり、ここでいいかと中に入っていく。
 一つだけ置かれたベンチに早々に腰掛けた相手に倣って、自分もその隣に腰掛けた。
「あー……で、さ」
「うん」
「単刀直入に聞くけど、お前が俺の知るアイツだとして、お前、俺に好きって言われたりプロポーズされたりキスされた記憶って、残ってる?」
 さっそく口を開く彼に相槌を打てば、顔を自分が座るのとは反対側に逸らしながら、そんなことを聞いてくる。
「好きって言われたり、大きくなったら結婚しよって言われたのは、覚えてる。けど、俺たち、キスまでしてたの?」
「あああああ。本当に相手お前かよっ! つか覚えてんのかよっ」
 彼は顔を両手で覆うと、深く項垂れてしまう。
「ご、ゴメン。そんな嫌な思い出になってるとか、思って、なかった」
「嫌な思い出っつーか、お前、なんで俺に声かけた?」
 顔を上げた彼は、今度はしっかりこちらを向いて、まっすぐに見据えてくる。やっぱりまた、昔と一緒だと懐かしさが胸に沸いた。
「懐かしかった、から」
「それだけ?」
「それだけ、って……?」
「あー……いや、いいわ。お前、見た目めちゃくちゃ変わったけど、中身あんま変わってないな」
「そう、かな?」
「そうだよ。多分。だってお前、わざわざ俺に、俺の初恋相手が戻ってきましたよーって知らせてくれたってことの意味、全く考えても意識してもいないだろ?」
「は? えっ?」
 ほらなと言って柔らかに笑うその顔だって、やっぱり懐かしいものなのに。昔は嬉しいばっかりでこんなにドキドキしなかったはずだと思いながら、ジワジワと熱くなる頬をどうしていいかわからずに持て余した。

お題箱より4/8日配信「新入生」4/13日配信「再会」

 
 
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まるで呪いのような(目次)

キャラ名ありません。1話+19話の全20話。
生まれた時からマンションのお隣さん同士な幼馴染二人の話。中学3年生×高校1年生。
生まれ月の関係により学年が違うせいで、昔から攻め側が受け側にかなりの執着を見せていて、受けはずっと自分たちは両想いだと思っていた。
「はっかの味を舌で転がして」が攻め視点で、受けが高校に入学した春の話。ここで、攻めの気持ちに恋愛感情はなかったと受けが知る。
続編に当たる「まるで呪いのような」は受け視点で、攻めの高校受験が終わった頃の話。
恋愛感情ではなかった攻め相手の片想いが辛くなってた受けが、攻めの激しすぎる執着を自分なりに納得して幸せを見出す話なのですが、受けが何度も泣きます。攻めも一度は泣きます。つまり、どちらかが泣きそうだったり、泣いてしまっている場面がかなり多いです。
今回、あまり激しい性表現はしてないつもりですが、行為中、流血はないものの受けが痛いと喚くような噛み付き表現があります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

はっかの味を舌でころがして

まるで呪いのような
1話 幼馴染の進学先
2話 合格祝いを持って
3話 恋人をやめたい
4話 もう待てない
5話 修正不能の人生
6話 キモくて怖い執着心
7話 もう逃がす気がないから
8話 謝りたくない
9話 ゴメン
10話 自分の内側
11話 お互い様
12話 春休み初日
13話 妄想の中身
14話 妄想を実現(R-18)
15話 何度も噛まれる
16話 仕切り直す
17話 正常位がいい(R-18)
18話 抱かれる(R-18)
19話 もう両想いを疑わない

 
 
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チョコ味ローション買ったんだって

 大学はとっくに春休みに突入していて、だから冬休み中になんだかんだあって付き合う事になった恋人から、バレンタインは一日デートしようって提案されたのは、当たり前に嬉しかったしチョコだってちゃんと用意した。すぐに冬休みは終わって試験期間に入ってしまったし、ちょこちょこ会ってはいたものの、デートと銘打って二人きりで出かけるのは初めてだった。
 待ち合わせて映画を見て、ランチして。ところどころ恋人扱いかなって思う場面はあるものの、基本的には友人だった頃のお出かけとそう大差がない。ただ普通に楽しいところに、妙なソワソワ感が混ざり続けるのは新鮮で、なんだか面白かった。
 さすがにまだチョコは渡せていないし、相手からもチョコ云々の話は一切ないけれど、でもきっと鞄の中にはちゃんとチョコが用意されているんだろうなというのはわかる。時折チラチラと不自然に視線が鞄を見つめるから、彼もどう渡そうかいつ取り出そうか迷っているのかもしれない。
 というか、チラチラと鞄を見つめるたびに、だんだん相手のテンションが落ちている気がするのがめちゃくちゃ気になっていた。
 午後はカラオケかボーリングか、少し移動して水族館なんてのもかなりデートっぽいねと言っていたものの、ランチセットのデザートがテーブルに乗ってもまだ午後の行き先が決まらずにいる。というか相手がイマイチはっきりしないというか、ノリが悪い。
 出来れば二人きりになりたいからカラオケが嬉しいけど、でもカラオケなんてあまりにありきたりで、普段から適度に利用しているせいでデートらしさはないなと思うし、せっかくだから水族館とか行ってみたい気もしないこともない。水族館なんてもう何年も足を踏み入れてないし。
 なんてことを考えながら、一部口にも出して、相手の決断を待つ。こちら任せでいいならそう言ってくるはずの相手だから、どうしようだのどれも悪くないだの言いながらもはっきりココがいいと言わない相手に、正直ちょっと焦っても居た。だって絶対おかしい。
 デートしようって言われた時の、今日顔を合わせた最初の頃の、楽しみで仕方がないみたいな相手の雰囲気は、今はもう消えてしまった。
 映画を見てご飯を食べただけだけど、何かやらかしてしまったのかもしれない。友人なら許せたけど、恋人と思ったら許せないとか。そういうの、ありそうな気がする。
 はっきり意思が決まってるなら言ってきそうだから、午後のデートに乗り気ではないけれど、キャンセルしたいと言い切るほどではなく迷ってる結果かもしれない。
「あのさ、どうしたの?」
「どうしたって、何、が?」
 またチラッと鞄を見つめる相手に掛けた声はあからさまに沈んでいて、相手は驚いた様子で慌ててこちらに視線を戻した。
「午後、出かけるのやめる?」
「えっ?」
「ここ出たらバイバイして、午後はお互い好きなことに時間使うんでもいいけど。それとも他に、どっか行きたいとこでもある?」
「あ、あ、ああ……ある、っつうか……あー」
 焦り過ぎでどもり過ぎな上に、酷く気まずそうな顔をしたかと思うと、がっつり俯きながらポケットから取り出した携帯に何やら打ち込んでいる。
 他に行きたいところがあったのか、とか。なんで言わないんだろう、とか。携帯持って何やってんだろう、とか。言葉には出さずに脳内でグルグル考えていれば、自分の携帯が着信を告げて小さく震えた。
 送信者は目の前の相手で、届いたメッセージにサッと目を通した後、一度顔を上げて相手を見つめる。
「返事は?」
 恥ずかしそうに顔を赤くしてそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに返事を要求する相手に、小さく笑ってからいいよと返した。
「え、マジで?」
 抱かせてとか抱いてとか直接的なことを送られていたら、さすがにもう少し待って欲しいと渋ったかもしれないけれど、メッセージにはラブホ入って二人きりでイチャイチャしたいと書かれていたから、こちらからしてもそれは嬉しい提案だ。
 キスは何度かしていたし、その時の互いの雰囲気でその先も十分ありな関係なんだって自覚はあったものの、さすがに難しいなと思っていた。主に、場所という面で。なんせお互い実家からの通学組な上に、揃って母親は基本在宅している。
「うん、まぁ、お互い実家だとそういうとこ使うしかないよね、とは思うし」
 言いながらも携帯を弄って返信を送る。ラブホに行くのは構わないけど、男同士だと断られることがあるって聞いたことがあったから、その辺大丈夫なのってのを確かめておきたかった。
 もし全く想定していないで言っているなら、この店を出る前に、男同士でも入れそうなホテルを検索した方がいいだろう。
「あー……うん、それは調べてあるから、大丈夫。なはず」
「わかった。じゃあ、そろそろここ会計しよっか」
「あ、待って」
 再度携帯に何やら打ち込んでいるから、それが届くのを黙って待てば、やがて携帯が震えてメッセージが表示される。
 どうやら彼がチラチラと気にしていたあの鞄の中には、チョコの香りと味がするローションが入っているらしい。

バレンタインなので連載中のは一回お休み。チョコの香りどころか味までチョコな舐めれるローションてのが本当にあるらしい。

 
 
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