気付いた時にはもう全部手遅れだった1

我ながら悪趣味だなあの続きです。  最初の話から読む→

 酷い我儘だと呆れながらもどこか嬉しそうに笑った相手が、空の酒坏に酒を注いで勧めてくれたのが嬉しくて、潰れるつもりで注がれるまま杯を重ねていく。
 許された。受け入れられた。そう思ってしまったからだ。
 実際、あの後は明らかに自分たちを包む気配が柔らかに変化したと思う。
 おかげでふわふわに気持ちよく酔うことが出来たし、相手はそんな自分を仕方がないという顔をしながらもアパートへ連れ帰ってくれたし、ベッドに座らせた後で飲んでおけとグラスに注いだ水を運んでくれた。
 ああ、これは全部、告白される前と同じだ。
 嬉しくて、安心して、急激に襲う眠気にしたがい瞼を下ろす。くすっと笑った気配と、可愛いなと聞こえた言葉に眉を寄せたが、そんな細やかな抗議に、相手は益々笑ったようだった。
 まぁいいやと目を閉じたまま体を倒そうとしたら、それを阻止するように両腕を掴まれる。もう眠いのになんで邪魔をするのだと、さすがにムッとして渋々重い瞼を押し上げれば、思いの外近くにあった相手の顔に驚き息を飲んだ。
 ちゅ、と小さく響いた音と、軽く吸われた唇と、ぞわっと背筋を走った何かと。
 キスされた。そう気付いて、ますます驚き目を見張る。そうしているうちに二度目のキスが唇の上に落ちた。
「な、んで……」
「恋人になったんだから、キスくらいしてもいいだろう?」
 ああやっぱり、自分たちは恋人になったのか。なんてことをぼんやり思う。
 じゃあ恋人として宜しく、などという宣言は何もなかったが、どう考えたって自分の言葉は恋人になってというお願いだったし、相手はそれを受け入れたから自分をこうして連れ帰っている。酔っていたって、それくらいはちゃんとわかっていた。
 わかっては、いたけど。
「でもお前とセックス、考えられないよ?」
「わかってる。考えなくていい」
 大丈夫だと囁く甘い声。抱きしめるように背に回った腕が、優しく背をさすってくれる。
 そうか、考えなくて、いいのか。
 安堵とともに再度瞼を降ろせば、優しくて柔らかなキスが繰り返された。もう、驚かなかった。だって恋人になったんだから、キスくらい、したっていい。
 優しく甘やかしてくれるキスにうっとりと身を任す。任せきってしまえば、与えられるキスはなんとも気持ちが良かった。
 唇を柔らかに吸われるのも、時折繰り返し聞こえてくる可愛いという囁きも、心ごとなんだかこそばゆい。クスクスと笑う声は遠くて、笑っているのは自分自身だと、頭の隅ではわかっているのにどこか現実感が乏しかった。
「んっ、……んっ、……ぁ、はぁ……ふはっ」
 誘い出されるようにして差し出した舌を、ピチャピチャチュルチュルと舐め啜られて鼻から甘やかな息が抜ける。ぞわぞわと粟立つ肌がオカシクて笑う。
 ゾワゾワゾクゾク擽ったいのは舌だけじゃなかった。いつの間にか相手の唇は唇以外にも落とされていて、温かで大きな手も体中のアチコチをさわさわと撫でていた。
 ふはっと熱い息を吐けば、そこを重点的に舐めたり吸ったり撫で擦る。そうするとゾワゾワが這い上がって、笑いが溢れていく。ゾワゾワするのは楽しくて、多分少しキモチガイイ。
「ぁ、あっ、きも……ちぃ……」
 素直に零せば、嬉しそうにそれは良かったと返ってくるのが、自分もなんだか嬉しかった。

続きました→

 
 
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我ながら悪趣味だなあ

結果から言うと、告白は大失敗だったの続きです。視点は逆になってます。

 我ながら悪趣味だなあ、と目の前の男をながめながらしみじみと思った。
 目の前で届いたばかりの焼き鳥の串を口に運んでいる男は職場の同期で、こんな風に仕事帰りに一緒に食事を摂るようになったのはもう随分と昔だ。
 仕事の愚痴を聞いてもらって、慰めるように酒を注がれて、気分良く酔っ払ったついでに相手の家に上がり込んで泊めて貰う。長いこと続いていたそんな生活は、けれど二ヶ月ほど前に終わりになった。
 好きだから恋人になって欲しいと告白されてしまったからだ。
 既に酔い始めていたのもあって、最初は相手が本気だなんて全く気づかなかった。なんの冗談だと、無理過ぎる提案だと、咄嗟に零した言葉に相手が驚いたように目を瞠って、それから自嘲するような笑みを見せたから、ようやく本気の告白だったと気付いて愕然とした。
 相手にそんな告白をさせたのも、そもそもそんな想いを抱かせたのも、自分だという自覚はある。多分、相手は色好い返事が貰えるものと思っていただろう。だから自分が零した言葉に、まずは驚いたように目を瞠ったのだ。
 もちろん意図的に誘惑したわけではないが、振り返ってみればそう思われても仕方がない態度を取り続けていた。相手が大した文句も言わずに受け入れてくれることに胡座をかいて、無神経に甘えきっていた結果だ。
 そして今現在も、ある意味無神経に甘え続けている。酔い潰れさえしなければ、多少の愚痴には今後も付き合ってやると言った相手を、遠慮なく食事に付き合わせている。
 悪趣味だなと思うのは、自分に惚れている男を、その気もないのに食事に誘い続けている点だ。誘えば嫌がることなく応じるが、告白から先、相手から誘われることは一切なくなった事を考えたら、相手は自分との食事をもう楽しんでなんか居ない。
 それに自分だって、この時間を楽しんでいるかと言えばかなり微妙だった。
 深酒をしたらもう食事に付き合わないと宣言されているから、こうして一緒に食事をする際に飲む酒の量は極端に減っている。仕事の愚痴は聞いてくれるが、慰めるように注いでくれる酒はなく、ふわふわと気持ちよく酔えはしない。
 なんて、つまらない。
「そんな顔しなくても、大丈夫だって」
「へ? 何が?」
「炎上しかけてるプロジェクト」
 助っ人が来てくれることになったんだろと続いた言葉に、そういやそんな愚痴を聞かせていたんだっけと思い出す。
「でも助っ人さんおっかない」
「そうか? あんま怖いイメージはないけど」
「見た目はな。でも機嫌悪いとメチャクチャ怖いよ、あの人」
「そうなんだ?」
「うん、そう」
 大きくため息を吐いて、酒を煽る代わりに机に突っ伏した。すぐに寝るなよの声が落ちてきて口を尖らせる。眠いわけじゃない。
 以前なら、こんな時は戯れに伸ばされた手が頭を撫でてくれたのに。
 その手がもうなくなってしまったことを、こうして繰り返し確かめながら、胸を痛めている自分はもしかしたらマゾかもしれない。
 たいして楽しくもない時間をわざわざ作り出して、戻らない時間に思いを馳せて、自分自身を傷つけて。でもそうやって繰り返さなければ、胸を痛めて苦しまなければ、変わってしまった自分たちの関係を受け入れられないのだ。
「しんどい……」
 優しくされたい。甘やかされたい。でも恋人になりたいわけじゃない。男とセックスする自分なんて考えられない。
 もう一度大きくため息を吐き出したら、呆れる様子の小さなため息が返されて、それから大きくて温かな手が頭の上に乗せられた。
「よしよし。お前は頑張ってるよ」
 優しく頭を撫でてくれる手にキュウンと胸が締め付けられる。なんだか泣きそうになる。なのに。
「婚活でもしてみたらどうだ?」
「は?」
 唐突な話題にビックリして、慌てて頭を上げた。
「まぁ結婚はともかく、彼女を作ってみたらいいのにとは思ってる」
「な、なんで?」
 尋ねる声は上擦ってしまった。だって自分と恋人になりたいと思っているはずの男に、そんなことを言われる意味がわからない。
「愚痴を聞いた後、慰めて甘やかして元気づけるのは恋人の役目だと思ってるから、かな。母性の強そうな、優しい彼女を作ったらいい」
 平然とそう告げる穏やかな顔をマジマジと見つめてしまう。
「本気で、言ってんの?」
「ああ」
「俺を好きって言ったくせに?」
「もう、振られてる」
「そんな簡単に諦められる想いで、人振り回してんのかよ」
「告白なんかして、済まなかったとは思ってる」
 思わず荒れてしまった語気に相手はやっと苦々しげな表情になったけれど、吐き出されてきた言葉は更にこちらを苛立たせた。
「後悔してんのかよっ」
「後悔は、してる。だからこそ、お前に彼女が出来たらいいのにと思うのかもしれない」
「なんで!?」
「お前に彼女が出来て、俺と離れて、それでお前が幸せそうに笑っているのを見れたら、きっと今度こそ本当に諦めが付くから」
 まだ、諦めきったわけじゃない。そう言っているのも同然の言葉に、ホッとしている自分がいて忌々しい。だってそれじゃまるで……
「お前が、いいよ」
 諦めるように言葉を吐いた。だってもう認めるしかない。
「どういう意味だ?」
「愚痴を聞いてもらった後、慰めて、優しく甘やかしてくれるのは、お前が、いい」
「俺と恋人なんて、無理すぎるんだろう?」
「お前とセックスとか、考えたくない。けど、甘やかすのが恋人の役目だってなら、それは、お前がいい」
 酷い我儘だなと呆れた声が返されたけれど、でもその顔はどこか嬉しそうに笑っていた。

続きました→

ちりつもの新刊は『我ながら悪趣味だなあ、と目の前の男をながめながらしみじみと思った。』から始まります。shindanmaker.com/685954

 
 
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結果から言うと、告白は大失敗だった

 結果から言うと、告白は大失敗だった。相手に同じ意味での好意があると思っていたのは気のせいだった。
 今、目の前で驚き戸惑う相手は職場の同期で、仕事帰りに何度も一緒に食事に行った仲だ。この個室居酒屋だって、いつもはもっと遅い時間だけれど何度か利用している。
 酔ってほんのり頬を上気させた相手が、職場では決して見せない緩んだ顔で、甘えるように愚痴を吐き出す姿がたまらなく好きだった。それに相槌を打って、空の酒坏に酒を注いでやって、酔いつぶれる寸前の相手を仕方ないという体で家に連れ帰り、自分のベッドに押し込む。さすがに同じベッドに潜り込む真似はしたことがなく、その場合の自分の寝床は狭いソファになってしまうが、それすら翌朝、申し訳なさそうに何度も頭を下げる相手の姿を思えば苦ではなかった。
 最初は完全に潰れた相手を仕方なく連れ帰っただけだったが、今では故意に相手を潰れる手前まで酔わせている。
 そんな日々の中で育ってしまった想いに、どうやら目が曇っていた。
 繰り返し潰れる寸前まで酔いつぶれるのは、相手だって何かしらの思惑があるのだろうと思ってしまった。一緒に住んだらお前をソファで寝かさなくて済むからいっそルームシェアでもする? なんて言い出した相手に、一緒に生活をしてもいいほどに相手の気持ちも育っているのだと期待してしまった。
 実は自分のベッドの中で寝息を立てる相手を前に、これは据え膳で手を出さないのはむしろ失礼なんじゃ、なんて事まで思ったことがあるのだが、今にして思えば実行に移さなくて本当に良かった。
 慎重で真面目な自分の性格を疎ましく思う事も多々あるが、きっとそのお陰で目の前の相手を酷く傷つける結果にはならなかった。そう思うことで、この気まずい空気ごと、諦め飲み込む覚悟を決める。
「驚かせたなら悪かった。気持ち悪いと思うなら今すぐ帰ってくれて構わない」
「気持ち悪い、とまでは思わないけど、正直よくわかんない。お前の考えてること」
「そうか?」
「大事な話があるって言うから、この前俺が軽い気持ちで言ったルームシェアの話、なんか真剣に考えちゃったんだろうとは思ってたけど、だからってまさか告白されるとは思ってなかったし」
 確かにルームシェアをしないかと持ちかけられたりしなければ、告白をもっと先延ばしにしていた可能性は高い。
「そうか」
「そうか、じゃなくてさ」
 不満げな声に、けれど何を言えばいいかと迷っているうちに、まぁいいやと相手は言葉を続けていく。
「つまり、お前とのルームシェアが無理だって事は、わかった」
「すまない」
「もし俺が、お前の告白を受けて恋人になったとして、同棲だったら、するの?」
「何言ってんだ。俺の恋人になる気なんてないだろう?」
 お前が好きだから恋人になって欲しいと告げた最初の、「え、何その冗談、無理過ぎ」という相手の素直な言葉が、自分たちの関係の全てを物語っている。
「だからもしもの話だってば」
「だとしても、いきなり新しく広い部屋を借りて一緒に住むことはしないだろうな」
「あれ? じゃあ、ルームシェアしたいって言ったのと、この告白って無関係?」
「なわけないだろ。俺をソファで寝かせるのが気になるってのが理由だったんだから、お前が恋人になってくれたら、ベッドを買い替えてお前には合鍵を渡すつもりだった」
「あー……なるほど。お試し半同棲な」
 相手はうーんと唸りながら、空になった酒坏に自ら日本酒を注ぎ入れて一息に煽った。更にもう一杯と徳利へ伸びる手から、慌てて徳利を遠ざけるように取り上げる。
 さすがに完全素面での告白はできなくて、ある程度腹を満たして酒も進んだ上で告白したから、このペースで残りの酒を煽ったらまたはっきりと酔われてしまうと思った。今日はさすがに酔われても困る。今日はと言うか、これから先は。
「これ以上飲むな」
「なんでだよ」
「お前が酔いつぶれても、もう連れて帰らないからな」
「え、なんで? って……あーまぁ、当たり前だよなぁ……」
「多少の愚痴には今後も付き合うが、酒は控えろよ。出来ないなら、お前と飲みに行くことそのものをやめるからな」
「マジか」
 酔い潰れる手前まで相手に酒を注いでいたのは自分なので、自分さえ気をつければそうそう連れ帰らねばならないほどの状態にはならないはずだけれど、相手はいたく不満そうに口を尖らせた。

続きました→

有坂レイの新刊は『結果から言うと、告白は大失敗だった。』から始まります。shindanmaker.com/685954
有坂レイさんは、「夕方の居酒屋」で登場人物が「言い訳する」、「鍵」という単語を使ったお話を考えて下さい。shindanmaker.com/28927

 
 
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おっさんの蔵書(目次)

キャラ名ありません。全7話。
半放置子だった視点の主が、雑多な蔵書目当てで近所宅に出入りしているうちに、家主でゲイだということを隠していない、一回り以上年上のおじさん相手に興味を持ってしまう話。
セックス描写は視点の主 ✕ おっさんのみですが、視点の主が抱かれる側になった事もあるとわかる描写が含まれています。
視点の主がおっさんへの恋愛感情を認める所までで、恋人という関係にはなっていません。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 大学卒業前に
2話 えっちな蔵書を読みに通う
3話 感想を言い合う楽しさ
4話 煽られて
5話 寝室で押し倒される(R-18)
6話 抱かれるのだと思ってた
7話 恋人になりたい

 
 
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初恋は今もまだ(目次)

キャラ名はありません。共通10話+親友4話+友人6話の全20話です。
社会人になっても時々飲み会をしてる高校時代の友人グループで、長いこと親友への恋心を抱えている視点の主と、やっと視点の主への恋心が芽生えた親友と、その親友が視点の主を試したことに怒った友人との三角関係っぽい話。
10話から先分岐して、親友と友人とそれぞれ別の恋人エンドを作りました。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
エロ描写は控えめで挿入はなしですが、それっぽいシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 親友の爆弾発言
2話 トイレへついてくる友人
3話 友人の提案
4話 恋人宣言
5話 手をつないだ帰り道
6話 デートに来たのは
7話 親友とカラオケ店へ
8話 親友からの告白
9話 友人に会いたい
10話 白紙に戻して

親友1 今の気持ち
親友2 キスしてみたい
親友3 親友姉登場
親友4 キスだけじゃ、足りない(R-18)

友人1 他人事にはさせない
友人2 友人はバイセクシャル
友人3 初恋の終わり
友人4 キスされたくない?
友人5 友人の部屋へ
友人6 触られてみた結果(R-18)

 
 
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2回目こそは

 大学付属の私立高で出会ったそいつとは、高校と大学の7年間、なんだかんだつるんで一緒に居ることがかなり多かった。さすがに就職先は別で、ものすごく遠くはないものの仕事帰りにちょっと誘えるような近さではない距離に離れて、あまりの喪失感にようやく自分の気持に気付いた。
 気付いたばかりで動揺の酷い中、相手から近くまで行く用事ができたから飲もうと誘いが掛かって、結果、アルコールの力を借りて勢いで告白した。驚いたことに両想いだった。
 そしてそのままの勢いでヤッてしまったが、さすがにそれは失敗だった。無知は罪だ。しばらくケツ穴が痛くて泣いた。
 でもその程度で気持ちが変わることはなく、距離はあっても月に一度か二度は時間を作って会うようになったし、旅行の計画なども立てた。初回の失敗が尾を引いて、突っ込むようなセックスはないものの、手で抜きあうような事は何度かしていた。
 そんな関係が一年弱続いた頃、相手に後ろを弄りたいと言われた。どうしても無理なら自分を開発するから、そしたらお前は俺を抱けるか? とも聞かれた。要するに、お前と繋がるセックスがしたいと言われて、後ろを弄る許可を与えた。彼を抱けないことはないけれど、どちらかと言えば抱かれたい。だってあれはあれで、痛かった以外は結構良い思い出になっていたのだ。
 そんなわけで今現在、たっぷりのローションと共に、彼の指がその場所を拓こうとしている。
「ァッ……んっ……も、そろそろ……」
「まだ、だ」
 彼自身、初回がトラウマ気味なのか、結構拡がったと思うのになかなか挿れてはくれない。痛みはほぼないし、多分もう大丈夫だと思うのに。
 ハフハフと喘ぎながら、若干疲れて目を閉じた。中に入っているのは指だけど、彼のペニスが出入りするイメージを重ねて見る。というよりは、以前抱かれた時の事を重ねた。
 多少酔ってはいたが、何度も繰り返し思い出していたのもあって、容易に思い出せる。好きだと繰り返されながら、激しく熱を穿たれ求められ、体は痛いのにそれでも胸の中はトロトロの幸せに満ちていた。
 早くあの時みたいに、たくさんの好きと一緒に激しく突かれたいなと思う。いやでも、今指が出入りしてるくらいのスピードで、時間を掛けてゆっくり捏ねられながら、好きって言われてキスされるのも多分きっとたまらなく幸せだ。
「ぁっ、…あっ、ぁんっ……!?」
 零す自分の声が甘ったるく響いてしまい、慌てて目を開け両手で口を覆う。妄想で善がるなんてさすがに恥ずかしい。
「なんで口隠すんだよ。いい声、聞かせてくんねーの?」
「だっ、って……」
 手の中に吐き出す声はくぐもっていて、相手にははっきり届かなかったかもしれない。
「お前のいい声、聞きたい」
 じゃあ早く突っ込んで、あの時みたいに好き好き言って。なんて言えたら良いのかもしれないけれど、手で口を覆ったまま首を横に振るのが精一杯だった。
「まぁ、声我慢してるのも、可愛いっちゃ可愛いけどさ」
 可愛いなんて言われて、体の熱が上がっていく気がする。
 一度想像したらそう簡単にリセットは出来ず、目を閉じなくても、好きだ好きだと繰り返す相手の声が頭のなかを回っている上、そんな追撃をされたらたまらない。手で口を覆っていても、零す息の甘さも熱さも到底隠し切れない。
「ふぅっ、んんっ、ん、んんっ」
「そろそろ、いいか?」
 ようやくかと思いながら必死で頷けば、やっと指が引きぬかれていく。足を開かれ熱い塊が押し付けられて、期待がゾクリと背筋を走った。

 
 
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