トキメキ4話 意識される

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 なんだか意識されてるな~ などと苦笑していられたのは、神崎を寮まで送った翌日の練習時くらいまでで、週の半ばを過ぎてもギクシャクされたままでは不安にすらなってくる。
 あからさまな神崎の不調に、今日はそろって練習後に監督からのお呼び出しを食らってしまった。挙句、今のままでは2人とも次の試合には出せないという御達しと共に、お互いいい大人なんだからきちんと話しあって解決しなさいと諭された。
「すみません……」
「や、謝られてもな」
 監督の話が終わると共に、隣からしょげきった声が聞こえてくる。謝るくらいなら意識するのを止めるか、せめて監督の言うように、話し合うなりして解決の糸口を探してもらいたい。現状では、遠井が話し合おうと歩み寄った所で、神崎が逃げてしまうのだから困りものだ。
「神崎さ~」
 そんな二人に割り込んできたのは豊島だった。三年ほど前に移籍して来た選手で、遠井と同じ年というのも手伝い、普段から行動を共にすることが多い。遠井がなにかと神崎を構ってしまうのを、良く面白げに見ている。お前は神崎を甘やかしすぎだと笑いながらも、一緒になって構っていることも多いのだから、なんだかんだで豊島も神崎を気に入っているんだろう。
「はいっ」
 硬い返事は更に小言を言われると思って身構えたせいだろうけれど、豊島は言葉を続ける代わりに、ニヤリと笑って神崎の腕を掴んだ。そしてすばやい動きでグイと引き寄せ、その身体を遠井の方へ向けてくる。思わず遠井もそれに倣い、二人に向き合うよう身体の向きを変えた。
「正直に話してみな、神崎。先日のお泊りで、いったいハルに何された?」
「う、やっ、別に何も……」
 強い力で押さえられているのか、身体の向きを変えられないらしい神崎は、困ったように視線を彷徨わせた後で顔を斜め下へと向けてしまう。
「まともに顔も合わせられないで、何も、ってこたないだろ。こいつが何か悪さしたってなら、俺がお前の代わりに怒ってやるぞ?」
「いや、もう、その、本当に、ハルさんは何も悪くないですからっ」
「てことは、神崎の都合で、ハルは次の試合に出れないかもってことでいいのか? それはお前、余計に重くなるぞ、色々と。ハルのせいでこうなったーって言っといた方が良いんじゃないか? ん?」
「で、でも……、俺が、勝手に……」
 俯く顔の目元が赤くなって、ジワリと涙が浮かぶさまに、遠井はもういいよと二人の会話を遮った。
「俺が何かしたってなら、言って欲しいとは思うけど、今の神崎はそれどころじゃなさそうだし。試合に関しては、もし出れなくても、神崎の不調に振り回されてる俺自身の未熟ってことでいいから」
 先に戻れと言いながら、軽く手を振り追い払うような仕草を見せれば、豊島も諦めたように神崎を掴んでいた手を放す。神崎は遠井と目を合わせないままに深く頭を下げた後、逃げるように走り去っていく。
 自分のこぼす溜息が、やけに大きく響いた。
「で、ホントに、何もしてないわけ?」
 豊島の興味の矛先は、次にはやはり遠井へと向いたようで、好奇心半分・心配半分の表情を見せている。
「したよ」
「え、何をっ!?」
「あいつのゲロの後始末」
「う、うー……ん。ちょっと、そういうのとは違くないか、あれは」
「いや、だからさ、脱がしたんだよ、服。洗ってやるから脱げって言ってさ、ひん剥いたわけ。向こうは覚えてないみたいだけど」
「で?」
「で、汚れ物を洗濯機に突っ込んでリビング戻ったら、パンツ丸出しで気持ち良さそうに寝こけてた」
「から、思わず襲ってしまったと……」
 女日照りなら合コンでもセッティングするか? などと、豊島はどこか真顔で問うて来る。男なんか襲うかと返しながら、遠井は相手を小突いた。
「だから、あいつをベッド運んだ後に、床上に残されたブツの始末をしてたんだって、俺は」
「それのどこに、神崎がお前をあそこまで意識する要素があるっての?」
「覚えてなかったからだろ? ゲロって服脱いだこと。で、朝、裸同然のカッコで俺の隣で目が覚めて、ビックリしたわけだ」
「何のドラマだよ。って、まさかお前も裸で寝てたとか?」
「や、俺は着てたけど」
「なんだかな~ なぁ、本当にそれだけなの?」
 それだけなのかと聞かれても、遠井の知る範囲ではそれ以外に要素はないように思えた。起きた時の神崎の慌てようからすると、あの状況に相当気が動転していたんだろう、くらいにしかわからない。だからといって、あれがここまで意識される程のことにも思えないから不思議なのだけれど、それは神崎が何も言わないのだから仕方がなかった。
「神崎ってさ、相当純情?」
「かもな。練習態度も真面目だし、愛だ恋だも同じくらい真面目に考えてる可能性はある。正直俺だって、感謝される事はあっても、意識される事になるなんて思ってなかったよ」
「いやでも、あれかも。真面目すぎて、先輩に迷惑掛けまくったのが申し訳なくて顔も合わせられない、とか?」
「ああ、それもありかな」
 そう返しながらも、それはないなと思う。真面目だから、それを気にしての行動ならまずは謝り倒すだろう。けれどあの日の朝、動揺しまくる神崎に前夜の粗相を謝罪された記憶はない。
「それにしたって、問題あるぞ、あれは」
「わかってるんだけど、こっちもあんまり強く出れないし」
「なんでっ! つかさっきも、せっかく捕まえたのに、なんでさっさと開放してやるかな。監督じゃないけど、一度ちゃんと話し合った方がいいぞ、お前ら」
「話し合った方がいいってのは、俺だって思うけど。なんていうか、もしかして可哀想な事したかも、とも、思ってるんだよな。いくら俺が発端で神崎が潰れたんだとしても、俺が介抱したりしないで、あいつの同期に世話押し付けてれば良かったのかも」
「可哀想って、なんつーか……ホント神崎に甘いな、お前」
「そうかもな」
「自覚あるなら、もうちょっとどうにかならないのかよ。本当にさっき話したことだけしかしてないってなら、お前にゲロの始末させたってのも含めて、そんなのズルズル引きずってる神崎が明らかに可笑しいだろ? 俺はてっきり、酔った勢いでやっちゃった、とか、そういう恐ろしい想像までしてたぞ?」
「そりゃ確かに怖いな。てか、やめてくれ」
 遠井は思いっきり顔をしかめて見せた後、そろそろ行こうと告げて歩き出す。さすがに皆引き上げてしまって、練習場に残っているのは二人だけになっていた。結構話しこんでいたから、あれだけ慌てて去って行った神崎と、ロッカールームで顔を合わすこともないだろう。
「悪かった。でもホント、お前自身が巻き込まれて調子落としてる状態なんだから、さっさとなんとかしろよ?」
 遠井を追かけるように背中に届いた謝罪と心配に、やはり遠井は、わかってるよとしか返す事が出来なかった。

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