聞きたいことは色々24

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 さすがに黙って受け入れられるわけもなく、とっさに自身の口を手で覆って隠した。
「やっぱダメ?」
 口を手で覆ったまま肯定を示すように何度も頷いてしまえば、可笑しそうに笑ってから頭をくしゃくしゃっと撫でられる。
「いい子だねぇ」
 頭から手が離れると同時に寄せられていた顔も離れていったので、ホッとしてこちらも口から手を離す。
「からかって……あ、もしかして、試されて……?」
「や、一応本気で誘ったけど」
 ちなみにダメな理由は? と聞かれて、普通は了承しないんじゃ? と思ったけれど、正直ちょっと自信がない。こんな風に誘われたら乗ってしまうのが普通、という可能性も捨てきれない。
 ゲイの自覚を持ちながらも長年同士に出会う努力をいっさいせずに悶々としてた自分は、ゲイコミュニティの中での交流が盛んだったっぽいこの人や彼とは、普通に対する感覚が多分絶対に違う。
 いやでもここ、一応彼氏の家だし。まぁ家主はこの人らしいけど。だとしても、この部屋に今居ないだけで、恋人と呼ぶ相手が同じ家の中にいるわけだし。
 と考えたところで、ふるふると頭を振ってしまう。
 いやいやいや。彼が居ない場所だってこんな誘いに応じちゃダメだし、応じる気はないはずなんだから。少なくとも、自分のなかの常識では。
「教えてもらえない感じ?」
「や、恋人いるんで。片想いみたいなもんだけど、一応ちゃんと好き、なんで」
 健気! と驚いているのか喜んでいるのかわからないテンションで告げた後。
「じゃあアイツが俺に抱かれろって言ったら?」
 俺が頼んだらアイツは交ぜてくれるかも、の言葉に現実感が増していく。本気で頼みそうだし、頼まれたらダメって言わないんだろうなとも思ってしまう。
 だってそういうのが当然、みたいな関係だったみたいだし。
「あれ、泣くほど嫌がられてる?」
 想像してじわっと涙が浮かんだことにあっさり気づかれて、あなたが嫌なわけじゃなくて、ととっさに口走ってしまった。
「恋人いるのにその人以外に抱かれる、って状況がなんかもうツライっていうか。しかもその恋人が横で見てるんですよね? 何考えて見てられるんだろとか考えたら、ヤなこと色々想像しちゃって」
 過去に楽しんでたって話だから、恋人が別の男に抱かれてるのを見ても興奮できるってことなんだろうし、他の男に抱かれてるのを平然とした顔で見られたら絶対に悲しい。しんどい片想いが始まっていることを自覚した今はもう、自分ばかりが好きなんだという事実を突きつけられる結果が見えている。
「交ぜてってのは、俺と君のセックスを横で見てるってよりは、一緒に楽しむ、だと思うけど?」
「よくわかんない、です」
「えー……と、二人がかりで君の気持ちぃとこ撫で回したり、交代で君の中に入るから、入ってない側がやっぱり君の気持ちぃとこ撫でられるとか。あとは、あー……や、まぁ、確かに君が安心して楽しめるプレイの幅は狭そう、かなぁ」
 楽しいのは俺達だけ、ってことになりかねない。の言葉は多分当たっている。
「あの、いつか俺が失恋したら、その時もしあなたがフリーだったら、一回くらいは抱かれてみてもいい、です。ちゃんとセーフセックスしてくれるなら、ですけど」
「え、1回だけなの? フリー同士でも?」
「や、だってあなた、俺の次の恋人になってはくれないでしょう?」
「あー、うん。確かに。恋人とかパートナーとか、ちょっと俺には無理かなぁ」
 死んじゃってもずっと好きなんだよねと笑う顔は儚げだった。肯定してくれて、良かった。
「あの、どんな人だったんですか、とか聞いても大丈夫ですか?」
「とんでもエピソード満載だけど、ダイジョブそう?」
「た、多分?」
 甥っ子カップルと恋人交換とか抱かれろって言って相手を連れて来る以上に、まだまだとんでもな話が出てくるんだろうか。でもこの人がそこまで惚れ込む相手がどんな男だったのか、聞いてみたい気持ちのほうが強かった。

続きました→

 
 
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聞きたいことは色々4

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 聞きたいことは色々あるが、一番聞きたいのは「恋人の探し方」だ。高校時代、多分校内に男の恋人を持っていた彼に、どうやってそんな身近なところで恋人を見つたのか聞きたかった。
 戻ってきた相手と乾杯を済ませ、それで相談って何? と聞かれて、真っ先にそう答えたら、相手はいきなり渋い顔になってしまう。
「あ、嫌な思い出になってるなら……」
 そうだ。校内で致していたのがバレて退学、なんて目にあってるのだから、思い出したくもない嫌な記憶になっている可能性は高い。
「あー、いや別に。ただ、どうやって身近で恋人捕まえるんだと言われても、まず間違いなく、お前の参考にはならないだろうなと思って」
「そんな特殊な……?」
「特殊と言えば、特殊な方法ではあるかな」
 なんだそれ。めっちゃ気になる。参考にならないとしても、聞いてみたい。
「ちなみにどんな?」
「あー……俺ってそこそこ顔がいいから」
「あ、ですよね。わかりました。確かに全く参考にならない」
 そうだ。相手は顔の作りがいい。ハンサムとか格好良いとかの形容はあまり似合わなくて、どちらかというと綺麗とか可愛いよりだけれど、間違いなく見目が良い。
 そりゃわざわざ自分から探そうとしなくたって、好きだと言ってくれる男の一人や二人、すぐに捕まるに違いない。
「待て待て待て。それ絶対わかってないやつ」
「告白されて付き合うって方法は、俺には確かに無理ですね」
「だから、お前にゃ無理だ、ってのはそこじゃないんだって」
 周りにカミングアウトする気ないだろと相手の言葉が続いた。
「カミングアウト……」
「俺は告ってくる女子には男が好きなゲイだって返してる。もちろん、高校の頃もそうしてた」
 身近で相手見つけたいならゲイだって隠さなけりゃいいだけ、と言われて、今度はこちらが眉を寄せた渋面を作ってしまう。確かにそれは一理あるが、自分にも真似出来るかと言われたら出来ないだろう。
「身近に拘る理由は? 出会い系とか試さないの?」
 距離の問題なら同地域に絞って探すことも出来るだろうと言われて、距離の問題じゃないと首を横に振る。
「気が乗らないっつうか、その、怖い気持ちが強くて」
「怖いって何が?」
「知らない人と、恋人だとかセックスだとかを前提に会うのが?」
 相手が性病とかを持ってたらとか、セーフセックスしてくれない可能性とか、考え出したら不安なんてきりがない。ある程度人となりを知ってる相手を好きになりたいし、好きって気持ちを自覚してから、恋人になったりセックスしたりに進みたい。
「乙女〜、てかピュアっピュアだなぁ」
 言ったら相手には笑われてしまったけれど、でも口調ほどバカにされた気がしないのは、こちらを見つめる視線が柔らかだからなんだろう。
「ちなみに、残念だけど、社内に特定の相手が居ないゲイとかバイって、多分今、居ないよ。まぁ俺が知る限り、でしかないから、俺に知られるのは嫌だっていう隠れゲイが居ないとも限らないけど」
「そ、なんですね」
「てわけで、俺が立候補しておこうか」
「は?」
「俺いま一応フリーなんだけど」
 好きになっていいよと笑われて、何を言っているんだろうと思う。てかまたからかわれてるのかも知れない。
「警戒心しか湧かない」
「遅すぎない?」
「え?」
「警戒心。今更湧くの、遅いなぁって」
 お前を抱けるよって言った男の家にノコノコ上がり込んでシャワーまで浴びて、何もなく帰れる気でいるの? と続いた言葉に、頭の中に疑問符がグルグルと巡った。
「それってどういう……?」
「病気持ってないし、ちゃんとゴム使うから安心していいよ」
「いやいやいや。好きになった相手と、恋人になってからセックスしたいて、言いましたよね? てか抱くんですか? あんたが? 俺を?」
 嘘でしょと言ったら、何が嘘なのと平然と返されてしまう。
「いやだって、あんたも抱かれる側なんじゃ?」
「未経験とは言わないけど、基本抱く側だね。てかそれ、俺の顔に騙されてるよ」
 ごめんね抱かれる側のが似合いそうな可愛い顔のタチでと笑う顔は、なんだか凄く楽しそうだった。

続きました→

 
 
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