今更嫌いになれないこと知ってるくせに23

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 凄いなと思わず零した本音に、甥っ子は少し嫌そうに片眉を持ち上げながら、何が? と問いただしてくる。
「俺が18の時には、そこまで色々考えられなかったから。逃げることしか思いつかなくて、ただひたすら逃げて、ちゃんと失恋もしないまま適当な相手と体の関係だけ覚えて、気持ち引きずってるから結局誰とも恋人関係が続かなくて、年だけ食って恋愛事そのものからだんだん縁遠くなって、ますます体だけの相手としか関係できなくなってる」
 ひどい告白の内容に、さすがに甥っ子も驚いた様子で、軽く目を瞠っていた。
「俺も、逃げる前に義兄さんに告白して、ちゃんと振られておけば良かったのかも知れない。そこで逃げたからすっかり逃げぐせが付いて、さっきも姉さんに、昔はそこまで臆病者じゃなかったハズだって言われたよ」
「それさ、変わりたいって気持ち、あるの?」
「あるよ。あるから、来たんだよ」
「父さんに告白する気?」
「違っ、あ、いや、結果的には似たようなことはしたけど、」
「は? 告白したの!?」
 随分と驚いた様子の大きな声に、言葉は途中で遮られてしまった。
「し、してない。告白はしてない」
「じゃあ似たような何したわけ?」
 もともと義兄との間であったことは甥っ子にも話すつもりでいたので、まずは簡単に、待ち伏せしていた義兄に連れられ、半ばむりやり近所を散歩してきた事情を話す。
「義兄さんはさ、俺が義兄さんを嫌ってるから、似てるお前を嫌ってると思ってたっぽいんだよな。それを否定してたら、俺が大学行ってからほとんどこっち戻らない理由が、義兄さんを好きだったからだってバレちゃった。嫌いだから戻らないわけじゃなくて、その逆で逃げてたんだって話」
「それで父さんはなんて? 振られたの?」
「振られるとかって話にはなりようがないな。今もまだ好きで居るのか聞かれたけど、それはすぐに否定したし。実際に会って話したら、気持ちはとっくに終わってるんだって、実感できたから」
「終わってんの?」
「うん。ちゃんと終わってる。それを確かめることすら怖くて、今まで近寄らずにいたんだよ」
「臆病者だから?」
「そう」
 否定なんて出来るはずもなく肯定すれば、甥っ子は言葉を探す様子で暫く沈黙した。なんとなく話しかけられる雰囲気ではなく、結局甥っ子の次の言葉を待ってしまう。
「あのさ、まさかと思うけど、にーちゃん実は俺を好きで、だから逃げて拒絶してたとか……ある?」
「それ、義兄さんにも聞かれたな」
 義兄とのやり取りを思い出しつつ思わず苦笑してしまったが、甥っ子はそれどころではないと言いたげに答えを急かした。
「で、なんて答えたの?」
「義兄さんには、似てるけど全然違うって返したよ」
「どういう事?」
「お前がダメな理由なんて、お前にはもう散々言ってる。お前が俺の甥っ子で、義兄さんの息子だからだ。好きになったらダメな相手だって、お前を可愛いとか愛しいとか思うたびに何度も繰り返して思ってた。それでも結局どんどん惹かれてくから、どうしようもなく怖くて、お前傷つけてでもお前と離れたかった」
 本当にごめんと言ってみるものの、それに対する応えはない。やはりまた何かを考えているようで、今度は先程よりも更に長く待たされた。
「変わるつもりがあって、ここに来たって、さっき言ったよね?」
「ああ」
「逃げるの止めるって事はさ、それって要するに、俺を好きって認めるって事じゃないの?」
 その後、もちろん恋愛的な意味でだよ、という補足が続く。
「そうだな」
「俺を好きなの?」
「うん、好きだ。とっくに手遅れで好きになってる」
 なんで今更と呟くように吐き出して、一度ギュッと固く目を閉じた後、甥っ子は数回深呼吸を繰り返す。それからゆっくりと開かれた目は、また冷たく鋭い光を灯していた。
 あまりに身勝手過ぎる言い分で、また彼を傷つけてしまったのだろう。しかしそれなら、いったいどうすれば良かったのか。
 今更だという彼の気持ちも、痛いほどにわかる気がした。気持ちを切り替えて勉学に励んでいたのは明白なのに、その気持ちを大きく乱すだろう事を言ってしまった。
 逃げずに向き合うというのは、本当になんて難しいんだろう。逃げないことと、相手を思いやることは、きっと両立出来るはずだ。それが出来ないのはやはり、今まで逃げることしかしてこなかった自分の未熟さなのだと思った。

続きました→

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに22

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 ベッドからの甥っ子の視線は、なんだか監視されているようで居心地が悪い。そんな中、それでもなんとか食べきると、それを待っていたとばかりに甥っ子が口を開いた。
「それで? 関係大有りってことは、わざわざここまで、俺に自宅から通える大学に行けって説得しに来たわけ?」
 余計なお世話すぎだよと吐き捨てる声は心底嫌そうだったが、それに怯んでいる場合ではない。
「というかまず、お前俺に嘘ついてたろ」
「嘘って?」
「うちのそばの大学でも良いって言われてたんだろ。むしろそっち推奨気味だったらしいじゃないか」
「それが何? もし言ってたら何か変わってたの? 近くに住むなら恋人になる気があった、とか言い出す気じゃないよね?」
 淡々とした口調で問われて言葉に詰まってしまった。もし最初から言われていたら、あの時甥っ子の想いを受け入れたのかといえば、やはりそれはまったくの別問題だ。遠距離であることが問題なわけじゃない。
「だいたいさ、にーちゃん俺に興味ないよね。行きたい大学も、学部も、何を学びたいと思ってるかとか、どんな仕事に就きたいと思ってるかとか、一度だって聞かれてない」
 口調は淡々としたままだが、見つめてくる視線は鋭く冷たかった。そこにあるのは深い怒りか悲しみか。もしくはもっと別の感情なのか、その声音と表情からは読み取れなかった。
 わかっているのは、その言葉の通り、一度だって自分が彼にそれらを尋ねなかったという事実だけだ。興味がなかったというよりは、突然現れた男が成長した甥であることも、その男が大学受験を控えた身であることも、その受験生と何故か一緒に暮らしていることにも、今ひとつ現実味がなかったという方が正しい気もするが、そんなものはただの言い訳でしかないこともわかっている。
 あんな形で追い出して、彼を酷く傷つけた事は重々承知していた。しかし負わせた傷の大きさを目の当たりにすれば、どう償えるのか検討もつかないと思う。
 同居生活中、こんなに鋭く冷たい視線を浴びる事は一度たりともなかった。義兄に抱かれる夢を見た日の朝、押し倒されて無理矢理に弄られた時でさえ、怒りも悲しみも自嘲もその顔の上にちゃんと乗っていたのに。家を出て行く間際だって、泣きそうな笑顔を残していったのに。
 彼から表情を奪ったのもきっと自分なのだろう。罪悪感と後悔と。冷たい視線を浴びながら、身が震える気がした。
 それでも、もうこれ以上逃げては行けないという気持ちから、目をそらすことは出来ない。なのに掛けられる言葉も持ってはいなかった。
 結局黙ったまま見つめることしか出来ない自分に、甥っ子は焦れた様子で溜息を吐き出した。
「押しかけて一緒に暮らしてみて、かなり意識されてると思ったし、このまま押せば落ちそうとかも思ったりしたけど、にーちゃん好きなの父さんだったとか誤解もいいとこだし、結局一回きりの思い出すらくれなかったよな。あんなに拒絶しといて、なのにそっちの大学狙えとか言う気なの? 正気で? 俺に毎日泣き暮らせっての? 俺達が一緒に暮らせばいいって案も聞いてるなら、家からと爺ちゃんちからの援助で、もっと広い家に住みたいとかって下心でもあったりする?」
「そんなんじゃない。そんな下心ない。だってお前、こっちの大学、悪く無いって思ったんじゃないのか? 行きたいと思った大学を、俺のせいで候補から外すなんてさせたくない」
「その大学へ通うメリットと、にーちゃんのそばで暮らすデメリット考えたら、どう考えてもデメリットがでかいんだからしょうがないだろ。失恋引きずって大学生活ままならないとか困るから」
 それに、と甥っ子は言葉を続ける。
「父さんの顔見るたびに色々と思い出して辛くなるのに、このまま家から通える大学を狙うのだって無理。というか元々家から通える大学に行く気はあんまりなかったから、実質、にーちゃんが俺を受け入れてくれるかどうかだけが問題だったわけ」
 最初っからずっと一貫して、それだけが目的で押しかけ生活を続けていたのだと彼は言う。
「大学生活は最低でも4年あるのに、近くで生活しながらずっと気持ちを隠し続けるなんて無理だし、失恋して気まずいまま生活を続けるのも辛すぎる。もし振られるとしたら今が一番いい時期だと思って実行した。結果予想以上にダメージ食らったけど、でもこんなダメージ、入学後に受けてたらもっと取り返しつかない。辛い気持ちもあるけど、でも後が無くなって勉強にも身が入ってるから結果オーライだよ」
 苦笑顔はやはり辛そうだったけれど、それが本心からの言葉だという事は、しっかりと伝わってきた。
「急に進路変更したみたいに思ってるのかもしれないけど、元々にーちゃんが俺に落ちなかったらそうしようと思ってた案に切り替えただけだから。親は遠方行かせたくないみたいだけど、でももう諦めてもらうしかないよね」
 だから気にしないでと、こんな場面でさえ、こちらを気遣う言葉をくれる。先程までの鋭く冷たい視線も緩んで、辛そうな苦笑顔は変わらないはずなのに、そこに彼の優しさが滲んでいた。
 大人びているのか懐がでかいのか、10も年下の高校生が、とてつもなく格好良い男に見えてしまう。それと同時に、自分との違いをまざまざと見せつけられる気がした。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに21

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 汗だくになって戻ったら、玄関先で待ち構えていた姉に、義兄と二人、夏の昼時に1時間近くも散歩なんてバカじゃないのと怒られた。義兄が姉をなだめつつも追加でお叱りを受けている間に、先にシャワーを借りて汗を流す。
 取り敢えずで借りたラフな短パンとTシャツでリビングに戻れば、入れ替わりで義兄が汗を流しに行った。
 キッチンの姉に喉が渇いたと言えば、勝手に飲んでと麦茶のボトルとグラスが渡される。姉は本日の昼食を作っているようで、どうやら昼メシは冷やし中華らしい。
 一応形だけ何か手伝うかと声をかけたが断られ、しかしなんとなくその場にとどまったまま、麦茶を飲みつつ出来上がりを待ってしまった。
 義兄は姉に何かを伝えただろうか?
 何か聞いたかと問えば良いのかも知れないが、ヤブヘビになっても嫌だなと言う気持ちから躊躇ってしまう。やがて盛り付けを終えた姉は、ようやくこちらをしっかりと振り向き、呆れ混じりの苦笑を見せた。
 あんたって昔はそんなに臆病者じゃなかったハズなのにねとため息混じりに告げると、仲直りできたとしか聞いてないわよと、やはり呆れた口調で続ける。そもそも喧嘩してたのも初耳だけど根掘り葉掘り聞かれたくないから逃げてたんだろうし、過ぎたことを今更どうこう言う気もないからこれから先のことを考えてと言いながら、姉は大きめのお盆に冷やし中華2皿と空のグラス1つを置いて差し出してくる。
 意味がわからずそのお盆を見つめてしまえば、甥っ子の部屋に持っていくようにと言われた。そういえば最近は部屋に引きこもって勉強しているという話だったか。というよりも、どうやら義兄と顔を合わせることを避けているらしい。
 理由はわかりきっている。ひしひしと負い目を感じながら、手の中のグラスをお盆の上に置いた。2つのグラスになみなみと麦茶を注いでから、じゃあ行ってくると言ってそのお盆を受け取り甥の部屋へと向かう。
 姉の家に上がること自体が10年ぶりくらいだけれど、何も言われていない以上、甥の部屋の場所も変わっていないんだろう。迷うことなく辿り着いた部屋のドアを叩けば、少ししてドアがそっと開かれる。
「手ぇ塞がってっからもっと開けて」
「えっ? ってかええっ!?」
 あんまり驚いているから、どうやら何も聞いていなかったようだ。肩でドアを押すようにして部屋に入り込んでも、甥っ子は呆然とこちらを見ているだけだった。
「これどこ置けばいい?」
 勉強机の上は参考書やノート類が広げられているし、まさか床に下ろすわけにも行かず、お盆を持ったまま問いかける。
「何しに来たんだよ」
 ようやく最初の驚きが収まったようで、甥の発した声は不審げで、苛立ちを抑えている様子が窺えた。
「進路、変えたいんだって?」
「進路を変えるわけじゃない。希望大学を変えただけ」
「あー、うん。だからそれ。随分遠くの大学らしいな」
「にーちゃんに関係ない」
「関係おおありだよ。それでこっち戻ってるんだから」
「なんでだよっ」
「それよりこれどーすんの。昼メシ。このままこれ持って突っ立ったまま話しろって?」
 参考書の上に置いても良いのかと聞いたら、軽い舌打ちの後でテーブル出すよと返された。引っ張りだされてきた折りたたみ式のローテーブルは、自宅のよりも更に一回り小さくて、二人分の冷やし中華の皿と麦茶のグラスを置いたらほぼいっぱいだ。
 そんな小さなテーブルを挟むように向い合って座れば、慣れない距離の近さになんだか落ち着かない。それは相手も同じようで、頂きますと小さく呟くように告げた後は無言のまま、勢い良く皿の中身をかっこんでいく。
「そんな慌てて食べなくても……」
 鋭い視線に一瞥されて、言葉は尻すぼみになって最後は小さな溜息を漏らす。
 結局、こちらが半分ほどを食べた辺りで、皿をカラにした甥っ子は立ち上がってさっさと距離を置いた。しかも、こちらの背後の勉強机へ向かうのではなく、正面に位置するベッドに腰掛けてこちらをジッと見ている。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに20

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 土曜の朝に家を出て、実家近辺へは10時を少し過ぎたあたりに到着した。姉から伝わっているかもしれないが、親へは何も言わずに戻ったので、実家へは寄らず直接姉の家へと向かう。
 姉宅の前をウロウロと行ったり来たりしている人物については、道の角を曲がったところからはっきりと見えていた。随分とあからさまに不審なその人物が、義兄であることに途中で気づき歩を止める。姉には昼前には行くと言っておいたから、要するに自分の到着を待たれているのだと思った。
 なぜ義兄が自分を待っているのかがわからなくて、頭なんてその姿を認めた瞬間から真っ白だ。湧き出る不安に、回れ右して逃げ帰りたい衝動。けれどそれを必死で耐えた。
 呆然と立ち尽くす自分にやがて向こうも気づき、嬉しそうな笑顔とともに名前を呼ばれた。笑顔に安堵しつつもギクシャクと会釈を返して、それからゆっくりと歩み寄っていく。
 きっちり頭を下げつつお久しぶりですと堅苦しい挨拶を告げても、相手はやはりニコニコと笑いながら、けれど有無を言わさぬ強引さを持って、ちょっと散歩に付き合ってと言った。
 躊躇いは大いにあったが、結局歩き始めてしまった義兄を追いかけ、その隣に並んで歩く。どこへ向かって歩いているのかもわからないまま、義兄の振ってくる他愛無い話に付き合って居るうちに、だんだんと気持ちが落ち着いていくのがわかる。
 ずっと逃げ続けていたけれど、いざ二人きりになってみたら、普通に会話ができている。心が騒いでトキメイて切なくなって、抱きつきたい抱きしめたい衝動を、なんとか堪えながら逃げ出す隙を必死で探す、なんて現象はどうやらもう起こらないらしい。
 この人のことがあんなにも好きだったという記憶は間違いなくあって、けれどもうその気持ちで苦しくなることはなかった。そういう恋をしていたのだという、どこか甘酸っぱく恥ずかしい思い出でしかなかった。
 ホッとしてそれから、若いころの義兄によく似た甥っ子のことを思い出す。彼も後20年位したら、今の義兄のような外見になるのだろうかと、以前より少しだけ全体的にふっくらとした義兄を見つつ考える。しかし見ながらも、少し不思議な違和感を感じていた。
 あんなに似ていると思っていた義兄と甥っ子だけれど、こうして義兄本人と会って話していると、実はそんなに似ていないような気がしたからだ。いやでも似ていると感じたのは昔の義兄であって今の義兄ではない。そう考えてはみるものの、今見ている義兄はやはり、昔散々お世話になったあのお兄さんが年を重ねた姿なのだとはっきり認識できている。
 義兄の横顔をチラチラと見ていたら、当然それには気づかれたようで、ふいに振り向いた義兄とまっすぐ見つめ合うことになってしまった。歩きながらずっと穏やかな笑い混じりの会話を重ねていたのに、振り向いた義兄に笑みはなく、随分と真剣な顔をしていて息を呑む。
 しかしそれは一瞬で、義兄は困った様子で苦笑しながら、そんなに似てるかなと言った。実際はそんなに似てないと思うよと続けた義兄は、昔の写真出してきてもいいけどとまで言うから、それが何を指しての言葉かはすぐにわかった。
 どこまで知ってるんですかと尋ねた声は、緊張からか掠れてしまう。
 義兄は少し迷う素振りを見せた後、うちの子が君を大好きで、でも父親である俺と似てるからって理由で振られたらしい、って事はなんとなくわかってると返された。更に、俺のことは嫌いでも息子は別と考えて彼自身を見てやってくれないかと続いた言葉に、大いに慌てる。
 散々避けて逃げていた理由を、今更、あれは好き過ぎて近寄れなかったなどとは言えない。けれど、違います誤解です嫌ってないですと繰り返せば、少し驚いた顔をしたあと、納得がいったと言いたげに頷かれてしまった。
 ああ、とうとうバレた、と思った。
 しかし知られてももう、それに恐怖するような感情も不安もなく、かといって気持ちが高揚することもない。義兄へ向かっていた想いはとっくに終わっているのだということを、再確認しただけだった。
 今も? という質問に首を振りつつイイエと返せば、ホッとしたように笑いながら、頭なでても良い? などと聞いてくる。そしてすぐ、は? と聞き返しただけで了承など告げていないのに、伸びてきた手がガシガシと頭をなでていった。しかも、ありがとうとごめんなの言葉付きだ。
 好きになってくれてありがとう。何も言わずに今まで距離を置いてくれてありがとう。結果、家族とずっと疎遠にさせて本当にごめん。
 勝手に逃げまわっていたのはこちらの方で、感謝や謝罪など貰う立場にはないのに、そんなことを言われてしまって、たまらず涙がこみ上げる。しかしここは人通りは少なくとも屋外の路上で、いい大人が感極まったからとべそべそ泣くわけにもいかない。
 グッと堪えていたら、もしかしてうちの息子のことも好きで避けてたりする? という追撃が来て、こらえきれずにボロリと涙が落ちていった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに19

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 甥っ子と過ごした楽しい日々と、成り行きで触れてしまった甘い時間。必死で求めてくれたのに、結局逃げて泣かせて、あんな顔で帰してしまった罪悪感。
 甥っ子が居なくなっても、一人の時間に考えるのは甥っ子のことばかりだった。
 彼の想いを受け入れていたら、恋人になろうと言えていたら。そんなもしもを考えては、親のことや姉や義兄の事、世間の目や彼の将来などを理由に、思いとどまったことを正当化しようと試みる。うまく行きっこないし問題は山積みだ。なのに考えても考えても、そこに未練は残っていた。
 嫌いだと言われた。言い聞かすように何度も繰り返された。だからもう遅いという想いと、まだ間に合うのではという想い。
 ではもしも間に合ったとして、彼の元へ行けるのか。行って直接、彼の求める言葉を吐いて、これからも好きでいてくれと請うことが出来るのか。
 そんなこと出来るわけがない。してはいけない。それなのに、そうしてしまえたらと思う気持ちが、日々膨らんでくるような気さえする。
 こんなに気持ちが乱されるのはいったいいつ以来だろう?
 だってやはり彼は特別だった。自身の興味と好奇心とで都合よく関係してきた、今までの相手とは違う。
 そんな風に、甥のことばかり考える日々のなか、姉から1本の電話が入った。
 かわいい息子に一体何をしたのだという怒りの電話に血の気が引いたが、まさかバカ正直に致した内容を伝えられるはずもない。ゴニョゴニョと濁しているうちに、互いにおかしな状況に気づくこととなった。
 進路で揉めていたというのは確からしいが、彼の自宅から通える場所のほか、どうやらここの近辺にある大学も提案していたらしい。たまたま彼の希望する進路に合う学科があったからとのことだが、そういえば、自分の大学時代の生活やらは色々話して聞かせた記憶があるが、甥っ子自身の進路についての話なんてほとんどしなかった。
 むしろなかなか実家に帰らない自分を案じて、甥っ子をここに送り込んでやれという思惑があったようで、それには自分の両親も賛成していたという。どうやらこちらの大学を選ぶなら、両親も多少援助するという話になっていたらしい。代わりに、たまには様子を知らせてほしいとか、出来れば帰省時に一緒に連れ帰ってほしいとか、勝手に夢を膨らませていたようだ。
 いっそ二人で住んだら生活費が節約できて良さそうだなどと、こちらの意向はまるで無視して話が進む中、勝手に話を進めるなと怒った甥が、本人に聞いて確かめると家を飛び出したというのが、彼がここへやってきた経緯なのだと姉は言った。
 もちろんそんな話は初耳だ。
 それでも、こちらの都合も聞かずに勝手に盛り上がる姉と母に怒っていただけで、甥自身もそこまでその話を嫌がってはいなかったはずだと姉は続けた。甥っ子が母から実家の味付けを教わっていた事も、それが自分に振る舞うためだということも、姉ももちろん知っていた。怒って飛び出したのも半分はあんたのとこ押しかけるためのパフォーマンスと言い切った姉に、母親ってのはなんだかんだ子供の行動を見透かしているものなのかなとも思う。
 しかもなんだかんだここにいる間、数回電話で連絡を取り合ってもいたそうだ。
 日中、件の大学に見学へ行っていたなんて話も、もちろん自分はまったく知らなかったが、そこでそれなりに手応えを感じてもいたようだ。前向きにこちらへの大学進学を検討したいと、そこそこ楽しく生活をしてるらしいことが伺える報告に、安心していたのにと言って姉は溜息を吐いた。
 そんな甥が、ここから帰って暫く部屋にこもった後、遠方の国立大学を狙うと言い出したそうだ。学費と下宿に掛かる費用と、祖父母からの援助がない事を考慮しての選択だという事はわかるが、それよりも姉が問題にしているのは、実家からも叔父である自分からも逃げようとしている事らしい。
 あんたの二の舞いにしたくないと言った姉は、ここで遠方への進学を認めたら、自分のように甥っ子が実家へほとんど帰らなくなるだろうと危惧していた。そして多分それは現実になるだろうと自分ですら思う。
 一緒に暮らすのが無理にしても、生活圏が被るのすら嫌なほど、かつてはあんなにも可愛がっていた甥っ子を排除したいのかと問われ、咄嗟にそんなことはないと否定を返す。しかし、ならば一体どんな仕打ちをしたら、何を言ったら、実家からすら逃げ出したいと思うような事になるのだと言われて言葉に詰まる。
 帰宅後こちらでの話を避けて、暗く沈んでいる時間が多いのも気になるのだと言った姉は、あんたのせいだから責任持ってなんとかしろなどと言う。彼が沈む原因も遠方へ逃げたがる原因もわかっているが、責任を持ってなんとかしてしまうのが問題なんだと、姉相手に説明できるわけもない。
 ためらう様子に、姉は再度溜息を吐き出した。
 とにかく一度こっちに帰ってこれないのと言う、伺いの言葉は自分にとってはもはや命令と脅迫に近い。結局、週末に一度実家へ戻ることになってしまった。

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今更嫌いになれないこと知ってるくせに18

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 嫌いだと言われるたびに頷いて謝ってを繰り返すうちに、その間隔がだんだんと開き、やがて静かになる。それでも暫くは抱きしめたまま動かずにいた。
 腕の中の男が、あの小さかった甥が成長した姿なのだということは、もう納得ができている。泣いて拗ねて口をとがらせるなんて姿を、義兄相手に妄想したことがないから、あの時点でこれは義兄ではないのだとはっきり認識したようだ。いちいち可愛い仕草の端々に、幼かった頃の彼の姿が見えていた。
 そして、内からあふれるこの愛しさは、相手が甥だからというだけではないようだという事も、さすがにもう自覚している。甥っ子が成長した姿なのだと、わかっていつつも受け入れきれる前から、トキメイて心揺すられていたのだから、ただ認めたくなかっただけで当然といえば当然なのかもしれない。
 けれど自覚したからといって、甥っ子の気持ちを受け入れて恋人になれるかはまた別問題だ。どう考えたって、たとえ本人が否定したって、10も年下の子供を誑かしたとしか言えない状況に、どうしたって責任を感じてしまう。親や姉や義兄に顔向け出来ないと思ってしまう。
 ずっと逃げ続けた人生で、逃げることに慣れてしまった。特定の恋人と長く続かない理由も、そんな自分の逃げ癖のせいだということは、なんとなく理解はしている。わかっているから、性に緩くて適当に遊べる相手以外とは、あまり付き合わなくなってしまった。
 今回こうして甥っ子を酷く泣かせてしまったように、優柔不断で逃げ腰の態度は確実に相手を傷つける。そして結局は自分自身も辛くなって苦しむのだ。
 大きくため息を吐き出しても、腕の中からの反応はない。
 確実に眠ったであろうことを確認するように、そっと体を離して寝顔を覗き込む。真っ赤になった目元に唇を寄せる。
「お前が俺を嫌いになっても、俺はお前がずっと好きだよ」
 きっと義兄への想いを引きずってきたように、ここまではっきりと自覚した以上、甥っ子への想いもまた、これからは引きずって生きていくんだろう。
 このまま本当に嫌ってくれるなら、きっとその方がいい。そう思うことこそが逃げ癖なのだと自嘲するものの、別の道を選べそうにはなかった。
 
 
 ぐだぐだと考えているうちに自分も眠ってしまったようで、平日の朝よりは少し遅い時間に、朝ごはん出来たけどと躊躇いがちに声をかけられ目を覚ます。ゆっくりと体を起こし、ぼんやりとテーブルと甥っ子とを交互に見ながら、昨夜のあれは夢ではなく紛れも無い現実だったと思い知る。
 きっちりと服を着込んだ甥っ子の目元は未だ赤く、その顔には当然笑顔はなかった。
「おはよ。ご飯、食べれる?」
 むりやりに作られた笑顔が痛々しい。
「もちろん食うけど、……」
「食うけど?」
「いや、まさか、まだ飯作ってくれるとは思ってなくて」
「あー、うん……最後かなって思って」
 朝ごはん食べたら帰るねという宣言に、わかったと頷く以外に出来るはずもない。胸の痛みに少しばかり顔を顰めてしまったら、心配と不安とを混ぜたような顔を向けられたけれど、甥っ子から言葉がかかることはなかった。
 結局、会話も少なくどうしたって気まずい朝食を、食後の片付けまできっちり終えてから、甥っ子は既にまとめられていた荷物を手に立ち上がる。
 駅まで送るかという申し出は断られ、それでもさすがに玄関先までは見送りに出た。
「長々とお世話になりました。居座って本当にごめんなさい」
 靴を履いてから振り返り深々と頭を下げる。
「いや。こっちこそ色々ごめん。後、メシ美味かったし、掃除とかもけっこう助かってた。ありがとう」
「なら、良かった」
 ふわっと笑う顔が可愛くて、本当に名残惜しい。抱きしめて帰るなと言ってしまいたい衝動をなんとか堪えていると、おずおずと伸ばされた手が遠慮がちに服の裾を握って引いた。
「あ、あのさ、……」
「うん」
「最後に、……いや、やっぱいいや」
 するりと服に掛かった手が落ちていくのを咄嗟に掴んでしまったら、ふにゃっと顔を崩して泣きそうに笑う。
「最後まで未練たらしくて本当にごめんね。バイバイにーちゃん、元気で」
 掴まれた腕を振りほどきながら一歩後ずさると、クルリと踵を返して玄関ドアを開けて出て行く。
 泣きながら帰るのだろうかと思うと胸がギチギチと痛むのに、目の前で閉じたドアを自ら開けて、その背を追いかけることはやはり出来なかった。

続きました→

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