生きる喜びおすそ分け34

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 つまり、がっつかれている。
 え、マジで? という驚きは当然あった。何かの勘違いかと、その考えを否定しようと思考を巡らすのを、彼の舌が阻止してくる。結局、熱烈という感想は変えようがなくて、嬉しいのと可笑しいのとで、相手の口の中に笑いを零した。
「んっふふっ」
「嬉しそうな顔」
 やっとキスを中断してくれた相手に真顔で指摘されたけれど、その真剣な顔からは間違いなく興奮がにじみ出ていたし、逆に相手の余裕の無さがひしひしと伝わってくるみたいで、やっぱり嬉しくて可笑しい。
「そりゃあ」
 こんなの、嬉しくないわけがないだろう。ふへへと笑いながら、煽るつもりで、相手と繋がる腰を軽く揺らす程度に前後させてみる。
 こちらを見つめる彼の目つきが少し鋭くなって、なんだか怒ってるようにも見えるけれど、でもそれを怒らせたなんて思わない。こちらの思惑通り、煽られてくれているだけだろう。
「ね、早く、」
 続きをと急かす前に、相手の腰が動き出す。早急に繋がってしまったせいか、慣らすみたいに何度も、浅い場所から奥深くまでを彼のペニスが出入りする。
 それなりに切羽詰まった感じに見えたけれど、それでもいきなりガツガツ腰を振ってこない辺り、ちょっと残念ではある。でもそれはそれで安心もしていた。だってそれは間違いなくこちらの体を気遣ってくれる動きだし、じわじわと快感を引き出されていくのを今まさに感じてもいる。
「は……ぁ……ぁあ……」
 ゆっくりとした動きに、吐息に混ぜて喘ぎを漏らした。彼に腕を掴まれて体を起こしたままだから、そうしている間にも、太陽はぐんぐんと上昇を続けている。
 厳密にはもう日の出は終わっているのだろうけれど、朝日を浴びながら屋外でセックスしている、という事実に興奮と言うよりは感動していた。なんかもう、本当に、色々と凄い。
「ああ、俺、このために、生きてた」
 いつもの口癖が口からこぼれ出る。でもそれは、この瞬間を手に出来た事への幸福を噛みしめるような、この瞬間をくれた相手への感謝を述べるような、どこかしみじみとした呟きだった。確かにいつもの口癖だけど、いつもみたいに楽しくはしゃいで口に上らせるような軽々しさはなくて、それは多分相手も感じたんだろう。
 腕を掴んでいた手が外されて、そのまま胸の前に回って来たかと思うと、ぎゅっと抱きしめられた。
「君を知れば知るほどに、君を手放せなくなる気がしてくるよ」
「えっ?」
「抱いてる相手に、しみじみと、このために生きてた、なんて言われる男の気持ち、わかる?」
「それは、言われたことがないので……」
「うん。俺も初めて言われた」
 はぁ、と熱い吐息が耳に掛かる。それだけでも相手の興奮が伝わってくるようでゾクゾクするのに、釣られたように熱い息を吐き出すのに合わせて、はむっと耳を食まれて甘く声を上げてしまった。
「ひゃぁあんっ」
 結構大きく響いてしまったことに、声を上げてからびっくりして、体が跳ねる。
「うん。可愛い声だけど、もうちょっと抑えようか」
「だれの、せいだと」
「まぁ、それは俺のせいだけど。というか部屋戻ろうか?」
 ベッドの上でゆっくり続きをした方が良くないかという誘いに、嫌だと首を振った。
「このまま、ここで、したい」
「声気にしながらするの、辛くない?」
 結構気持ちよくなってきてるでしょという指摘に頷きながらも、だって、と思う。
「辛くても、絶対、楽しい思い出に、なるから」
 だからこのままここでしてって言えば、抱きしめる腕が外されて、さっき指で慣らされていた時のような体勢に戻される。つまりは、風呂の縁の岩に手を置いて、お尻だけ相手に突き出す形だ。

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生きる喜びおすそ分け33

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 思ったまま口に出してしまえば、確かにそう思ってるよと返されてびっくりする。
「え、あの、じゃあそんな、無理、しなくても……」
 先程も、こちらのして欲しいを出来るだけ叶えるための旅行だ、みたいなことを言われたけれど、これもそれの一つだというのなら、無理して頑張ってくれる必要はない。そんなに頑張らなくても、もう、こちらの気持ちは彼との交際を続ける方向で決定しているのだから。
「あー違う違う。ありえないと思ってると言うよりは、使ったほうが絶対にいいと思ってる、って方が近いかな」
 無理なんかしてないよと宥めるみたいな優しい声が背中に降って、更にその後、ねぇわかってるのと、なんだか甘やかな声が続いた。
「わかってる? って?」
 何をわかって欲しいのか、すぐには見当がつかないまま疑問符をつけて繰り返す中、アナルに相手のペニスの先が押し付けられるのがわかる。これがゴムの膜のない感触、と思っただけで、ぞわっと快感が広がる気がした。
「俺も、使わずにするのは初めてだよ、ってこと」
「えっ!?」
 自身の発する驚きの声に、挿れるよという相手の声が混ざる。グッとアナルに圧が掛かって、相手のペニスを迎え入れようと、その場所が開いていく。
「ぁあっぅんんんっっ」
 驚きに開いた口から思いの外大きな声が漏れてしまって、慌ててまた片手で口を覆った。
 痛みはないけれど、昨日よりも圧迫感がキツくて苦しい。体勢の問題と言うよりは、多分、慣らし足りていない。ローションの量も、足りてないのかも知れない。あと、今日はまだイカされていないから、勃ってはいるけれど、興奮度合いが昨日とはやはり全然違う。
 露天風呂で、というシチュエーションに興奮する部分は間違いなくあるけれど、外で、という部分に緊張してないとは言えないし、声を抑えることに意識が向く分、キモチイイに集中しきれない。
「ん、狭っ……大丈夫? 痛くない?」
 相手も苦しそうに息を吐いてから、こちらを気遣う言葉をくれる。宥めるように背中を撫でてくれる。
「いた、くはない、です」
「そっか。でも昨日より苦しいよね」
 急いじゃったからと申し訳無さそうに言われて、首を横に振った。だって相手は欠片だって悪くない。
「俺が、たのんだ、せい、だから」
「うん。ね、体、起こせる? まだ苦しいかな」
 促されるまま上体を起こそうとすれば、手伝うように相手が腕を引いてくれる。そうして頭を上げた先、太陽は既に半分以上水平線から顔を出していた。
「あっ……」
「やっぱり顔を出す瞬間が見たかったかな。ごめんね。急いだけどちょっと間に合わなかった」
「いえ……」
 雲ひとつない快晴ではなく、あちこちに薄い雲が広がる空だからだろうか。気象条件なんてよくわからないけれど、赤くて丸い太陽の形がはっきりとわかる。昼間の太陽なんて直視できるものじゃないし、日の出ももっと眩しいものかと思っていた。
 じっと見つめてしまう先、太陽はぐんぐんと空へ向かって上昇し、あっという間に水平線からの距離を開いていく。
「すごい……」
「そうだね」
 呆然とした呟きを肯定されてハッとする。
「随分真剣に見入ってたけど、もしかして俺の存在忘れてた?」
 慌てて振り向けばそんな事を言われてしまって、しかもそれをすぐには否定できなかった。
「お尻におちんちん挿れられてるのに?」
「ぅ……ぁ、それ、は……」
 言い訳すらも思い浮かばず口ごもってしまえば、相手がおかしそうに笑い出す。
「いいよ。そこまで見惚れるほどの日の出が見れて良かった。それより、いつもの言ってよ」
「いつもの?」
「このために生きてた、ってやつ。あれだけ見入ってて、そこまでの感動はなかった、とは言わないでしょ」
 素直に頷いたけれど、でもその言葉を繰り返す気にはならなかった。
「あなたの恋人になれて、本当に、良かった」
「えっ?」
 驚く顔にニヤリと笑ってみせる。
「俺、あなたの恋人って事を満喫して、あなたが俺を最高に幸せにしてくれるってのを、あなたに教えるために、生きてるのかも」
 大げさって笑われるつもりの言葉だった。もしくは自信過剰と苦笑されるかと思っていた。
「君は、本当に……」
 言葉に詰まった相手の顔が迫って唇が塞がれる。ちゅうと唇に吸い付く勢いが強くて、ちょっと痛い。口を開いて差し出した舌を、絡め取って吸われる力も、食まれる力も、ちょっと痛いと感じるくらいに強かった。

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生きる喜びおすそ分け32

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「勃ってるね」
 ホッとした様子の声が掛けられ、あっという間にペニスを握っていた手が外され、お尻の中からも指が抜けていく。ちょっと残念な気持ちを混ぜながらも、指を抜かれて一息ついているその横に、相手の手が伸びてきて置かれたゴムのパッケージを摘んでいった。
 背後でカサリと音がする。相手の準備が終わるのを体勢を変えずに待っていれば、ちょっとじっとしててねと声が掛けられると同時に、相手が覆いかぶさるようにして腰から腕を回してくる。
「ぁんっ」
 またペニスを握られて小さな声をあげたものの、次には予想外の感触を感じてギョッとした。
「えっ、ちょっ、なにを」
 慌てて自身の股間を覗き込めば、なぜか自分のペニスにコンドームを装着されかけている。
「せっかくコンドーム持ってきてくれたから、君に使おうと思って」
「は?」
「お風呂の中とか庭とかに君のが飛んだら、後々、ちょっと面倒そうでしょ」
 背後から直接見もせずくるくると器用にコンドームを根本まで下ろしていくのを、そんな言葉を聞きながらただただ見つめてしまった。というか、風呂場を汚さない気遣いなんて頭からすっぽ抜けていた。
「で、でも、そしたら、あなたの分が」
 言いながら、一つの可能性に思い至って、ドキドキが加速していく。ローションですら取ってこいと言わなかった相手が、足りないゴムを今から取りにいくはずもない。
「ゴム無しでして、いいんだよね?」
「ほ、ほんとうに?」
「本当に。まぁ、今更ダメって言われたら、日の出見ながらのセックスは諦めて、って話になっちゃうんだけど」
 ダメって言わないでしょ、と続いた言葉には嬉しいと返した。だって昨日、一緒に露天風呂に浸かりながら、勃った相手にナマでいいから挿れてと言った時には、けっこう引かれた感じがしていた。
 男同士だから妊娠リスクはないけど、性病リスクとか考えないのって言われて、ナマでもいいよと軽々しく口に出してしまったことを悔いていたのに。
「でも、お尻に直接なんて汚い、とか、性病リスク、とか」
「そりゃあ多少のリスクはどうしたってあると思ってるけど、でも、上手に洗えてるのはわかってるし、それに、ゴム無しでしたこと無いなんて言われたら、ねぇ」
 性病リスクの話を出されて、今までの恋人だったり体の関係を持った友達だったりと、コンドームなしでセックスをしたことは無い話はしていた。女性相手はそれこそ妊娠リスクを考えてしまうし、男の恋人がいた過去はない。
 男相手なら妊娠リスクがないって部分の方が自分的には大きくて、性病リスクなんてものは頭になくて、恋人が男ならナマでしてもいいんじゃないのと浮かれていたのは事実で、だからこそ、性病リスクの話を出されて結構焦ってしまったのだ。誰とでも気軽にゴム無しセックスを楽しんできた、みたいな誤解をされるのだけは絶対に嫌だった。
 結果、抱かれた経験持ちというのは既に知られているにも関わらず、男の恋人がいたことはない、なんて話をする羽目になってしまったけれど。恋人でもない相手とも気軽にセックスは割と事実ではあるのだけれど、とっかえひっかえめちゃくちゃ遊んできたわけでもないし、さすがに女性の経験人数までうっかり喋ったりはしなかったものの、男との経験は一人だけで回数も片手で足りる数だって事まで暴露してしまったけれど。
 抱かれ慣れてないのはわかってるって言ったのに正直だねと笑われて、それでその話は終わってしまったし、ゴムやローションがないからダメとは確かに言われなかったけれど、夜まで温存させてという理由で抱いてはくれなかったから、そういう言い回しで避けたのは相手の優しさで、ゴムなしでセックスなんてありえないと思っているのかと思っていた。

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生きる喜びおすそ分け31

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 体の準備はしてあるのでと伝えたけれど、相手の困惑顔は変わらなかった。
「いやでも、だからって、じゃあ入るねってスルッと挿れられるようなものじゃないでしょ」
「ですかね。でもちょっとくらい痛くてもいいというか、多少強引に突っ込んでくれていいですけど」
「すぐそういうこと言って煽らない」
 痛いより気持ちいいほうがいいでしょと言いながら、こちらの差し出すゴムを受け取って相手が脱衣所を出ていくから、慌ててその背を追いかけた。
 さっさと湯の中に入った相手が、海の方角を眺めながら、まぁまぁの広さがある風呂の中をウロウロと歩いている。思わずそれをジッと眺めてしまえば、やがて立ち止まってこちらを呼んだ。
「早くおいで。日の出見ながらするんでしょ」
 ゴムを受け取ったことが了承とわかっていながらも、言葉にされるとやはり嬉しい。簡単にかけ湯してから、相手の元へと急いだ。
「この位置なら海見えるし、ここでいいかな」
「あ、はい」
「一応の確認だけど、抱かれながらって、体を繋げた状態で、って意味だよね?」
 指で慣らしたりもセックスの一部だと思うんだけど、そういう前戯を全部含めた抱かれながらではないよね、と続いた言葉に、もちろん体を繋げた状態でという意味だと返す。
「君のして欲しいには極力応えてあげたいけど、これはそういう旅行だけど、でも抱かれながら日の出が見たいはダントツにハードル高いからね? わかってる?」
「わかってます。凄く嬉しいし、めちゃくちゃ楽しみ、です」
 にっこり笑って告げれば、頬に相手の手が添えられて、すぐに相手の顔も寄ってくる。ちゅっと唇を吸われて、でもそれは深いキスにはならずに離れてしまう。ちょっと残念。
「もう。それ言われたら弱いの知っててやってるでしょ」
「そりゃあ」
「じゃあ時間もなさそうだし、まずはどこまで準備できてるのか確認させて」
 言われるまま、風呂の縁となった岩に両手をついて、相手にお尻を突き出した。右手の近くに、先程渡したゴムのパッケージがポンと置かれているのが、自分が持ち込んだものなのになんとも生々しい。
「触るよ」
 既に腰というかお尻の両方の膨らみを包み込む手のひらが、左右に開くように力を掛けている中でのそのセリフに頷けば、晒されたアナルにぴとっと指の腹が押し付けられる。触れたままで軽くゆすられた後、それはぬぷっとアナルの中に侵入してきた。
「っ……ふっ、……ぅ……」
 ぬるぬると指を前後されて、あっさり息が荒くなる。でもまだ指一本だし、専用庭とは言え外だし、前立腺を狙ってこねられても居ない。
「うん。思ったよりは柔らかい。指増やすよ」
「は、はいっ」
 その後、二本に増えた指はすぐに三本に増えて、その太さを慣らすようにぐちゅぐちゅとアナルを擦りたてる。昨日みたいな気持ちよさはない。本当に、性急にただただ拡げられている。
「ぁ、んっ、んんっ」
 それでもグッグと指を突かれるのに合わせて、殺しきれない音が鼻から漏れてしまう。
「苦しい?」
「へ、っき、です」
「じゃあ今から少し気持ちいいとこ弄ってくけど、びっくりして大声あげないようにね」
「はぅんっ」
 はいと返事をしようとしたのに、それより早く弱いところをグリッと押されて、慌てて口を閉じた。ああごめん、とは言われたものの、そのままグニグニと前立腺を狙って弄られ、こちらは声を噛むので必死だ。このままだと口を開いて喘いでしまいそうで、左手を持ち上げ自らの口を覆うように押し隠す。
「ふぅんんっ」
 まるで口を押さえたのを見たからそうしたとでも言うように、直後にペニスを握られゆるく扱かれ、声をあげない代わりにビクビクと体が跳ねてしまった。痺れるみたいに気持ちよくて、でもかなり苦しい。

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生きる喜びおすそ分け30

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 眠る相手の体を軽く揺すって、意識が浮上した所で一緒に日の出を見ませんかと告げれば、相手の目がゆるりと開かれていく。部屋は薄暗いが、どこか眩しそうに目を細めている。眩しそうと言うよりは、眠そう、かも知れない。
「日の出?」
「です」
 ぼんやりと聞き返されて肯定した後、思い出してと言うように言葉を続ける。
「昨日、女将が言ってたじゃないですか。晴れたら部屋から日の出が見れますよって」
 部屋から見れるということは、当然、デッキにある風呂からだって、その先の庭にある風呂からだって、日の出が拝めるということだ。
「ああ、うん、聞いたね」
「そろそろ薄明るくなって来てるんで、どうですか。それとももっと眠らせてよって言います?」
「いや、大丈夫。いいよ。一緒に日の出を拝もうか」
 だんだんとはっきりとした口調になった相手が、のそりと身を起こしてベッドから降りてくる。
 あっさり起きて貰えて良かったと思いながら、若干急かし気味に寝室を出て、部屋の窓を開けてデッキに降りた。気持ちが急くのは、どうせなら繋がった状態で日の出が見たい、なんてアホなことを考えているせいだ。
「庭の方、行っていいですか」
「ダメじゃないけど、デッキからのが景色はいいよ?」
 庭の風呂へはデッキから階段を降りていかねばならないし、そもそも庭園を堪能して貰う作りになっているから、その言葉通り、景色を見るならデッキに設えられている風呂に浸かるほうがいい。でも庭の風呂からでも一応は海が見えたので、きっと日の出も問題なく見れるだろう。
「おっきなお風呂でのんびりしたい」
 周りに草木が植わっている方が青姦っぽさが出て良さそう。なんて思ってることは、さすがに言えなかった。
 じゃあ庭でと言われてホッとしながら、置かれたサンダルを履いてデッキ端の階段へと向う。
「慌てなくてもまだ大丈夫でしょ。というか気をつけてよ」
「ぅっ、はい。わかってます」
 繋がって日の出が見たいんですよ、とはやっぱり言えないので、はいと返して、階段を降りきった所で一度深呼吸した。焦っちゃダメだ。
「そんなに楽しみ?」
「ええ、まぁ。日の出なんて、なかなか見る機会もないですし。特別な朝、ですし」
「ん、ふふっ、特別な朝、かぁ」
 笑いをこらえるみたいな、どこかふわりとした声音に、何を特別扱いしてると思っているのかなと思う。
「だって特別な朝、ですよね?」
「そうだね。初めての旅行だし、昨日までとは確実に関係も変わってるからね」
「わかってるじゃないですか」
「うん。言われれば、なるほどって思うようにはなったかな。君に色々と鍛えられてる感じがする」
 君がたくさんの特別を教えてくれるから、色んな特別を意識できるようになってきてると続けられた言葉に、胸の中がほわんと暖かい。誇らしいような気持ちで、嬉しかった。
「特別な思い出、まだまだ増やしますよ」
「うん。日の出、楽しみだねぇ」
「だけ、ではないんですけどね」
「だけじゃないって?」
 庭の風呂の横に立てられた、簡易な脱衣所に入って着ていた浴衣を脱ぎついでに、浴衣の袂に忍ばせていたコンドームのパッケージを取り出し差し出す。
「えっ?」
「あなたに抱かれながら、日の出が見たい、です」
「えっ、ちょっ、えぇ……」
 困惑しきっている相手に、さすがに無茶ぶり過ぎたかなと思いながら、ダメですかと聞いてみる。
「ダメっていうか、これだけ渡されても」
 ローションは? って聞かれるってことは、露天風呂で突っ込む、という行為そのものはNGってわけではないらしい。

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生きる喜びおすそ分け29

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 暗い中で目が冷める。一瞬慌ててしまったが、すぐに旅行中だったと思い出す。更に言うなら、やっちまった、という気持ちでいっぱいだ。
 夕飯は部屋から少し離れた個別の食事処で頂いたが、おいしい食事と一緒にお酒も結構飲んでしまって、部屋に戻った後でちょっと休憩のつもりがそのままガッツリ寝落ちたらしい。すぐそこにベッドがあるからと、ベッドに寝転がったのが間違いだった。
 夕飯の後で、もう一度抱いて貰う予定だったのに。こんなことなら、一度目のセックスを終えた後、少し眠っておいたらという勧めに従って昼寝をしておけば良かった。もしくは、昼寝よりも優先して一緒に入った露天風呂で、もっと真剣に誘えばよかった。
 気持ちのいいセックスを終えたばかりの二人が、裸で湯に浸かってただただ景色を眺める、なんて状態になるはずがなく、いたずらするみたいに互いの体に触れ合った。もちろん、積極的に手を伸ばしたのはこちらだけれど。
 三度も出してゆるくしか勃起しなかったこちらと違って、一度しか射精していない相手は結構しっかり勃たせていたけれど、そのままの勢いで再度突っ込んではくれなかったし、手や口でイかせるのも拒まれた。いくらセックス直後で緩んでいたって、ローションもゴムも用意していた訳じゃないから、その場で突っ込んでくれなかったのは仕方がない。でも、フェラはもっと真剣に、続けたいって言えば良かった。口に出してって、もっと本気で頼み込めば良かった。
 若くないから夜まで温存させてよと言われて、夕飯の後でもう一度抱いてくれると約束してくれたから、手を引いてしまった。だって、お付き合いを続ける結論が出た後だけど、夜ももう一度頑張ってくれるって言われたら、期待しないわけにいかない。
 じゃあ夜は抱き潰されたいなぁなんてことを冗談交じりに言えば、そうやってハードルを上げまくるの止めない? なんて返しながらも、無理だともダメだとも言わないのだから、本気でしてって言ったらきっとチャレンジしてくれるし、多分、叶えてもくれるんだろう。
 どちらかというと、本気でそれを望めるのか、って問題な気がする。だって強引にイカされまくるのは結構怖い。でも、お尻だけでイカされてしまったあの強烈な快感も忘れられない。だから怖いけど、彼に手管の限りを尽くされ抱き潰されてみたいと思う気持ちは、間違いなくあった。
 なのに、気づけば夜明けが近そうだ。
 起こしてくれれば良かったのに。とはいえ、寝落ちる気はなくベッドの上にダイブしたはずが、気づけば掛布の中で寝ていたのだから、絶対に声は掛けられてるし、なんなら体だって動かされている。その時に、起こそうという努力くらいは、きっとしてくれたに違いない。
 寝てる体に突っ込んでくれたって良かったのに。疲れ切って深く寝入ってしまっていた自分が悪いのは重々承知していながらも、そう思う気持ちが止められない。
 はぁあと大きく息を吐いて起き上がった。嘆いたって過ぎてしまった時間は戻らないのだし、時間はまだある。朝食は七時半だったはずだから、三時間もあれば準備と後始末の手間を考えたって、もう一度抱いて貰うのになんら問題ないだろう。
 この時間から抱き潰して貰うのは無理だろうから諦めるしか無いけれど、じゃあもういっそ、抱かれながら夜明けを迎えるというのはどうだろうと思う。もちろん、部屋の中でではなく、明けていく空の下で。
 離れの部屋と言っても、広い庭には垣根があって、その向こうには隣の離れ用の露天風呂があるのだろうことはわかっている。そもそも隣に客が居るのかすら定かでないし、この時間に隣の客が露天風呂を利用する確率はかなり低いとも思うが、露天風呂で突っ込まれたいなんて本気で言ったらさすがに引かれるだろうか。
 まぁ本気で引かれたり嫌がられたら、その時は大人しく部屋に戻って抱いて貰えばいいか。さすがにそれを拒否したりはしないだろう。
 そこまで決めたら善は急げと、まずは自分の体の準備をしようと風呂場へ向かった。

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