聞きたいことは色々46

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 どういう状況なんだこれ、という驚きと混乱とで、ダラダラと溢れていた涙はピタリと止まった。二人に挟まれてしまって顔なんか見れる体勢じゃないし、ひっそりと息を詰めて自分を挟む二人の様子を伺うしかない。
「腹立たしいって何が?」
 先に口を開いたのはお兄さんだった。
「なにもかも。俺を好きで別れる気はないと言ってたくせに、あっさり掻っ攫われる気でいるこいつにも。死んだ男をいつまでも想い続けて俺を受け入れなかったくせに、よりにもよってこいつに特別を渡す気でいるアンタにも。結局、誰にも選ばれない自分自身にも」
 腹が立ってると繰り返す声は凪いでいる。腹が立っているというわりには、強い憤りなどが滲む声ではなかった。
「好きにすればいい。勝手にしろ。正直、そう思う気持ちのが強いのに、わかったと頷いてこいつの手を放すのがどうしても嫌だ。ただ、俺を排除して二人で幸せになろうとしてるのが許せないだけかもしれない、という気もしてる」
 同じ奪われるにしても、全く知らない男が相手だったならここまでの執着心は湧かなかった気もする、らしい。ということは、こんなに執着されてるのも結局のところ、奪っていく相手がお兄さんだからってことなのか。
 そりゃ、好きだから執着してるなんて、言ってくれるはずがない。まぁ好きを知らないポンコツ、が事実の可能性もあるけど。でも本当に知らないのかは疑わしいな、とも思ってしまった。
 お兄さん的には旦那の代わりになんか全くなれない拙い「好き」だったとしても、彼的には本気で好きだったから叔父の代わりを努めようとした可能性。
 旦那という絶対的な存在が居たから好きを隠す必要があったなら、伝え聞く元カレ相手の態度にも納得がいく気がする。そして今も彼の好きがお兄さんに向かっているなら、自分との付き合いの違和感というか、好きとかどうでも良さそうな感じに納得がいくんだけど。
 あれ、どうしよう。
 昨日、お兄さんと食事に行ったことに不満そうだった彼に嫉妬ですかと聞きそうになったけれど、その感覚も実は結構的を得ていて、お兄さんに頻繁に食事に誘って貰っているという部分に嫉妬されてた可能性まで見えてくるんだけど。
 ええ、どうしよう。
 考えるほどに、彼の好きがお兄さんに向かってる気がしてくる。
「君の意見は?」
「ふぇっ!?」
 もう泣いてないよねと聞かれて妙な声を上げてしまった。というか全然聞いてなくて、彼らの話がどういう方向で進んだのかさっぱりわからない。
「すみません、聞いてませんでした」
「妙なところでのんきだよな」
 背後からの少し呆れた声は彼のものだ。
「身勝手にもほどがあるとは思うけど、どうしても君に捨てられたくないみたいなんだよね。で、それ聞いてやっぱり振れない! みたいになる? 絶対俺に乗り換えたほうがいいと思うけど、少なくとも今はまだ、俺よりこいつのが好きでしょう?」
「あの、その前に一つ確かめたいことがあるんですけど」
「うん、何?」
「お兄さんが俺を心配して彼のフォローするの止めたら、俺への執着はなくなるんじゃないですか?」
「ん? どういうこと?」
「全く知らない男に奪われるならここまで執着しなかったかもって言ってましたよね。つまり相手がお兄さんだから、俺を手放したくないんですよね?」
「あー俺への嫉妬的な?」
 さんざん抱いてきた男にガチネコちゃんな恋人奪われるのは悔しいよねと苦笑されたから、お兄さんはやはり気づいてないらしい。
「じゃなくて。お兄さんと幸せになる他人を見たくないから、そうなりそうな俺を手放したくないんじゃないかって」
「あー……それもまぁ、ありそうでは、ある」
「彼が好きなのって、お兄さんですよね?」
「うん、待って。てかどこからそんな話が?」
 俺らの話も耳に届かないくらい考えふけってたのってそれなの? と驚かれながら、促されるまま考えていたアレコレを語ってみた。

続きます
もうしばらくの間、更新は夜になりそうです

 
 
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聞きたいことは色々45

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 社内にも彼が把握しているゲイやバイの社員がいる、という話は初期に一度聞いていたけれど、どうやら近辺でゲイが集まれる場所なんか限られてるって話らしい。そういうお店やらが知り合いの性指向を知るきっかけ、ということもそこそこあるようだ。
 デート先にもかなり気を使ってるとは言われたけれど、そういや知り合いに見つかる可能性なんか考えたこともなかった。正直にそう言えば、相手はあっさり知ってると返してくる。
「そこ気づいてたら外でキスさせないだろ」
 最初から気づいてたらそうだったかもしれないけど、デート中に掠め取られるキスにドキドキすることをしっかり自覚済みの今はどうだろう。じゃあもう外でのキスも無しで、とは言えそうになかった。
「なるほどね。デートどうするかも擦り合わせが必要そうだ、というのはわかった」
 というかそもそも、別れ話が成立してしまったら彼とはデートをすることがなくなるのか。
「まぁ初っ端から俺の趣味で振り回す気なんかサラサラないし、さっきも言ったけど、あげたいものがいっぱいあるの。まずはそっち優先したいから、デート先とかデートの内容とかもこの子の要望優先するよ。お前のお陰でこの子が満たされてない部分はっきりしてるし、お前よりはマシな恋人やれる自信しかないから」
 だからこの子は俺が貰うねと言い切られた彼は、酷く嫌そうに顔をしかめている。
「というわけで、お前も了承ってことでいいよね?」
 肯定も否定もないまま黙ってお兄さんを睨む彼は、何を思っているんだろう。
 あんなに自信満々に自分のほうがマシな恋人になれると言い切られたら、そう簡単に否定なんて出来ないだろうとは思う。
 つまり沈黙は肯定。彼との恋人関係はこれで終わってしまった。
 そう思ったのはもちろん自分だけじゃない。行こうと肩を抱かれて、お兄さんと一緒に彼に背を向けた。
「待て」
「まだなにかある?」
 隣のお兄さんが顔だけ振り向くのを、自分は追わずに前だけを見続ける。振り向いて彼の顔を見たくなかった。
「了承できない」
「なんで?」
「なんで、って」
「お前が執着したくなるほどいい子なのはわかってるけど、お前この子泣かすじゃん。もう手ぇ放しなよ」
「嫌だ。だってまだ俺を好きだろう?」
「そうだよ。だからこれは、お前より俺を好きになって貰おう計画なんだよ」
 ちょっとでもこの子を想う気持ちがあるなら邪魔しないでの言葉にも、やっぱり彼の「嫌だ」が返っているから、またしても欠片も想われてない事実を突きつけられてるみたいで苦しくなる。同時に、お兄さんを説得できるような言葉を何も持たないまま、ただただ嫌だと抵抗する彼の執着を、嬉しくも思っているらしい。嬉しいことが、どうしようもなく、悲しい。
 だぱっと涙が溢れてきて、どうやら涙腺は昨夜ぶっ壊れてそのままらしい。
 慌てて涙を拭えば、すぐに隣のお兄さんにも気づかれて、やっぱり慌てた様子でギュッと抱きしめられてしまう。
「ゴメン。連れてこなければよかったね」
 二人だけで決着つけるべきだったと謝られて、ゆるく首を横に振って、いいえと返した。
「ここまで嫌がられると思ってなかったから、それを見れただけでも良かった、です」
「俺は流石に、こんな駄々っ子じみた抵抗されるとは思ってなかったんだけど」
 好きを知らないポンコツな弟でゴメンと謝られて、泣いているのにちょっとだけ笑ってしまった。
 こんなに執着してくれてるのに、それを好きだからだとは言ってくれない。という虚しさに気づかれている。
「腹立たしいな」
 不意に聞こえた彼の声はとても近くて、ビクリと体が跳ねた。だけでなく、背中を覆う熱を感じてそのまま体が硬直する。
 どうやら背後から彼に抱きしめられた、らしい。お兄さんの腕が背に回ったままだから、つまりはお兄さんごと抱きしめられてるのかもしれない。

続きました→

 
 
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聞きたいことは色々44

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 戻ったリビングに彼の姿はなかったので、そのまま彼の部屋へと突入すれば、ベッドに寝転んでいた彼が驚いた様子で上体を起こす。
「もう終わったのか?」
 不審気なのは、前回長々と寝室にこもって話していたからだろう。
「いや全然。てか昨日のお前のやらかしのケアどころじゃなくなって、お前の了承が必要になったんだよね」」
「なんだそれ」
「うんまぁ詰まる所、お前からこの子を奪いたいんだけど」
 だからこの子と別れてとド直球に告げていて、さすが宣戦布告というだけはあるスピード感だった。ただまぁわかったと即座に了承されることもなかったけれど。
 執着という言葉を使われてたくらいだから当然の反応なんだろうけれど、それでも、あっさり了承されずに済んだことにどこかホッとしても居る。
 正直彼との交際が詰んでいると感じる部分もあって、事情を知りまくったこの人にならいっそ奪われてみるのも有りかもみたな気持ちから、なんだか流されるまま了承した感じになってしまったが、彼に対する想いが変わったわけではないのだから、彼がこの話にどんな反応をするかは気になって当然だと思う。お兄さんのように興味津々で楽しめはしないし、どちらかというと不安でいっぱいだけど。
「は?」
「恋人との他愛ないイチャイチャとか、想い合う相手とのセックスとか、経験させてあげるのに必要っぽいからお前この子から手を引いてよ」
「待て待て待て。了承するわけ無いだろそんなの」
 恋人作る気ないくせに何言ってんだというツッコミは当然だと思う。だって同じことを自分も聞いた。
「まぁちょっと事情変わったよね。3週に1回程度デートしてセックスするだけのお付き合いを恋人って呼んでいいなら、俺もこの子となら恋人になれるどころかお前よりはマシな恋人やれるはずだし、ワンチャン、この子がまた俺に、人生をともに歩みたいほどの特別をくれる可能性もあるかなって気になったわ」
「はぁ? 何言われてそんな気になったんだか知らないけど、そいつにアンタの伴侶が務まるわけ無いだろ。ラブホ嫌がるレベルだぞ?」
 うんまぁそこはホントに「ワンチャン」でしかないというか、そこまで本気の話ではない気もしてる。ただ好きを育てまくった先でとか言ってたのと、めちゃくちゃ好きになってしまったらプレイ的なセックスでも受け入れてしまう可能性が高いことは昨夜実証済みだし、しっかりケアされたらまたしてもいいよって思ってしまうのかもしれない、とは思っている。放置されて泣きまくった結果、あんなセックス繰り返されるのは困るって話になったわけだし。
「俺のことも好きになってって言ったら、素直にどこまでも好きになっちゃうんだって。でもって俺の一番とか特別とかが欲しくなるんだってさ。俺は既にこの子にあげたいものがいっぱいあるから、この子が差し出してくれる好きによっては俺の特別をあげちゃう可能性もあると思うよ」
 特別をあげる可能性がある子だからお前から奪って大事に大事に育ててみたくなっちゃった。らしい。
「大事に、ってのはつまりそいつが嫌がるようなことはしないって話?」
 無理だろと言い切ってしまうくらい、彼から見たらこの人も問題有りってことだろうか。
「俺がしたいことでこの子がしたくないことがあるなら、まずは話し合いじゃないの。逆も当然話し合うべきだよね。でもお前と違って口説かないでとか言われないから」
 好きを育てるお付き合いをするんだよと、得意げに告げる相手に、彼は呆れた顔をしながらフッと鼻で笑う。
「セフレは切ってワンナイトな遊びとかもなしだし、ゲイが集まるような店に連れてくのもなしだけど?」
「セフレ居たりワンナイトとかやってるの知られてるし、それはセックス頻度と絡めて話し合う予定だけど、ゲイが集まる店NGって何? 連れてかれたことないとは聞いてるけど、彼自身、理由知らなそうだったけど?」
 旦那さんが亡くなってからの下半身事情は聞いていたので、話し合いをする気があるってだけでちょっとホッとしてしまう。ついでに言うと、およそ3週に1度でしかセックスしないのにほぼ1回の射精で満足して終わる彼に、セフレやらワンナイトやらがなかったらしい事実に少し驚いてすら居た。
 ゴムはしっかり使ってくれるし、フェラもほとんどされたことがないしさせられたこともないし、アナルを舐められたりもなかったから、もし他で遊んでても一切わからないようにしてくれてるならそこは目をつぶろうと思っていたし、当然、わざわざ確かめたこともなかった。
「会社バレの可能性」
「あー……そういう話」
「え、会社?」
 見ててと言われていたから基本口を挟むつもりはなかったのに、気づけばそう問いかけていた。

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聞きたいことは色々43

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 だって亡くなった旦那さんのことを今も想っていて、だから恋人を作る気はないって話だったはずだ。
 それに、恋人として幸せにできる自信があったらとっくに彼から奪ってる、みたなことも言ってたような気がする。いやまぁ、幸せには出来ないから、彼との恋人関係はそのままでとか言ってる可能性もあるのか?
 だとしたって。
「いやいやいやいや」
 とりあえずで否定だけ多量に重ねてしまえば、やっぱダメかぁと可笑しそうに笑っている。
「もしかしてからかってます?」
「いやかなり本気の提案」
「恋人は作る気ないんじゃ?」
「それはそう。だからアイツから奪って君を俺だけの恋人にする気はやっぱりないんだけど、二番目として受け入れて貰えたら、間違いなくしてあげられることが増えるよね。というか、しんどいなぁって時に、浮気がどうとか考えずに甘やかされて欲しいって心底思ってるし、恋人としたかった色々で諦めちゃってるようなこととかを、俺が代わりに提供できたらいいなとも思ってる」
 他愛ないイチャイチャとか、想いが返るセックスとか、と続いた言葉に、間違いなく気持ちは揺れてしまったけれど。
「そんなのされたら本当に好きになっちゃうから」
 なんせ惚れっぽい自覚はある。友人を好きになったら困るからと、男友達とはなるべく二人きりで会うのを避けてきたくらいだし、相手に想いがないのを感じながらも、恋人って関係でデートとセックスを繰り返しただけで結局本気で惚れてしまったのが現状だ。
「俺のことも好きになってって話なんだけど」
「だからそれがダメっていうか」
 そういや彼からも最初の夜に「好きになっていい」という言葉を貰ったんだよな、というのを思い出していた。
「もし好きになりすぎたら、今度こそ救いがないじゃないすか」
「んん? どういうこと?」
「俺が本気で好きになってあなたの一番になりたくなっても、俺だけを特別な恋人にしてくれるわけじゃないんですよね。そんなの結局、しんどい片想いが増えるだけです」
「なるほど。俺が二番目の恋人の座を得ちゃうと、君は俺の一番が欲しくなっちゃうと」
「好きになっていいよって言われたら、バカな俺は素直にどこまでも好きになっちゃうんすよ。好きになるのセーブできてたら、今こんな事になってないんですって」
 好きになるのがセーブできるなら、友人に惚れてしまって気まずくなったり疎遠になったりせずに済んでた。好きなるのがセーブできてたなら、彼のことをあっさり振ることが出来てたかもしれないし、恋人を続けるにしてもきっとこんなに泣かずに済んでた。
 今、多少なりとも救いになってくれている相手まで、そんな対象にしたくなかった。好きになってなんて言われたくなかった。
 そんな遣る瀬無い気持ちを吐露してしまえば、そっか、という言葉とともに伸びてきた手が宥めるみたいに数度頭を撫でていく。
「じゃあ、大事にしてあげるからアイツ振って俺のものになる?」
「は?」
「俺が、俺のことも好きになってって言ったら、俺のこと好きになってくれるんでしょ。それが辛い片想いになるってわかってても、止められないんでしょ。だったらいっそ、奪っちゃうのもありかなって。それに、」
 一度言葉を切ってじっと見つめてくる目がなんだか怖い。
「本気で俺の特別になりたいって思えたなら、その覚悟ができるなら、俺の特別をあげることも出来なくないよ」
「覚悟、って……」
「旦那に無理やりつきあわされて、とんでもセックスしてたわけじゃないのは知ってるよね?」
「はい」
「君の今の価値観だと俺の特別になるのは無理そうなんだけど、大事に大事に俺への好きを育てまくったら、そこ乗り越えてくる可能性あったりする?」
 あるともないとも答えられなかったけど、無理ですと即答しなかっただけで、どうやら可能性アリと判断されたらしい。
「あと旦那は俺に抱かれたがらなかったけど、俺は俺の特別にはきっと抱かれたいって思うはずだから、俺に童貞食われる覚悟も必要かも」
 どう? と聞かれてもやっぱり何も返せなかった。この人を抱く自分を想像することは出来ないけど、絶対無理だ嫌だという拒否感情は湧いてない。少なくとも、今はまだ。
「ムリムリムリ、とは言わないんだ?」
 ガチネコちゃんなのにと言われてしまったし、それは確かにそうなんだけど。
「だ、って」
 んふふと満足気に笑ったあと、スッと立ち上がってこちらに手を差し出してくる。よろしくって意味かなと思いつつその手を握り返せば、立ち上がるよう促すように手を引かれた。
「あの……?」
 素直に立ち上がりはしたが、意図がよくわからない。と思ったのもつかの間。
「じゃあ取り敢えず宣戦布告しに行こうか」
 随分と楽しそうに声を跳ねさせているから驚く。
「えっ!?」
「俺のほうが君の恋人にふさわしい、っていう主張をしに行くんだから、ぜひ君にも見てて欲しい」
「ほ、本気で?」
 もちろん本気と返す声もやっぱり楽しそうで、どう考えても、彼がどう返答するかに興味津々って感じだった。

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聞きたいことは色々42

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 一度ギュッと抱きしめられた後はすぐに腕の力が緩んで、宥めるみたいに背中をさすりだす。
 性の匂いがない他者との触れ合いは、想像以上にホッとしたし嬉しくもあった。自身の性指向を自覚してからは友人らとの他愛ない接触にも怯えて避け気味だったけれど、もしかしたらその反動とかもあるのかもしれない。
 でも同時に、この腕が恋人のものではないことが苦しくもあった。恋人が出来たら、こういう触れ合いも普通にできるんだと思っていたせいだ。
 恋人相手なら抱っこであやされるのもきっと嬉しい。そう考えた事で思い出してしまった。
 ファーストキスから何もかも、思い描いていた恋人らしいことが出来ていないことを、またしても突きつけられるような思いだった。
 なのに恋情だけはしっかり育って、想いが返らないのがわかっているのに、自分から相手を振って離れることも出来ない。
 お兄さんの協力を得れば、次の恋人は探せるかもしれない。引きずる失恋も了承済みの恋人候補を探し出してくれるかもしれない。とは思うんだけど。
 でもこの好きを抱えて次の恋人を探すのにはやはり抵抗があるし、自分から振ったら相当な未練を残す自信しかない。
 振られたらさすがに諦めるしかないんだけど。さすがにそうなったら縋ったりせず引くつもりだけど。
 現状相手にその気がなさそうなのも、それどころかこの関係の維持を望んでくれているのも明白だから。それを振り切って好きな相手を自ら振るのなんて、無理だとしか思えない。
 色々詰んでるのでは、みたいな気持ちもあって、そんな中であれこれと気を遣ってくれる人が居るのは本当に有り難かった。たとえそれが、愛した男の甥っ子で戸籍上でも弟である彼の、恋人をフォローしなければという気持ちからくるものであっても。
 過去には彼やその恋人たちを交えたセックスを受け入れていたような人だし、価値観は明らかに違うっぽいのに。でもスルッと寄り添ってくれるから。彼よりもよっぽど自分を理解してくれていると感じてしまうし、彼の言葉よりもこの人の言葉のほうがスルリと飲み込めてしまう。さらに言えば、こちらを案じてくれる気持ちもそれを表す言葉や態度も、真っすぐで凄くわかりやすかった。
 今現在この身を優しく包む腕の中は、思いやりと優しさでいっぱいだ。想いがない恋人との触れ合いばかりを重ねてきた身には色々と沁みるものがある。
 もし最初からこの人が恋人だったら……
 なんて、そもそも彼と恋人関係にならなかったら出会うことすらなかった人なのに。案じてくれる気持ちは恋情とは別物で、この人には忘れられない特別な人が居て、それがわかっているから身をあずけることが出来ているのに。
 ついそんなことを考えてしまったのもなんだか苦しくて、そっと相手から身を離す。たいして力のこもっていなかった腕の中から抜け出るのは簡単だった。
「やっぱり嫌だった?」
「いえ。ただその、やっぱりこれも浮気かも、みたいな気持ちになっちゃって」
「んん〜浮気判定厳しぃ〜」
 じゃあ仕方ないねと軽く肩を竦めるだけで済ませてくれるから、素直に好意だけを受け取れない自分が悪いのにと、ますます申し訳なくなってくる。
「すみません」
「や、別にいいと思うよ。そもそも俺は君をセックスに誘った実績持ちだし、君だって恋人が居なかったら応じてくれる気があるわけだし」
 そんな二人がベッドの上で抱き合うことに警戒心が湧くのもわかるよと納得されてしまったが、そんなことは全く考えていなかったし、相手に対する警戒心で身を離したわけでもないので少しばかり焦ってしまう。
「や、そんなんじゃなくて。ただ、こういうの恋人とするの憧れてたなぁみたいなのを思い出しちゃって、なんかその、これ以上はダメだ、みたいな」
「ん? それはもしかして、俺を意識しちゃったっていう報告?」
「や、違っ……」
 違わないかもしれないけど、それは認めちゃダメだろう。そう、思ったのに。
「本当に? 恋人とこういうことしたかったなら、いっそ俺とも恋人にならない?」
 あいつとも恋人続けたままで構わないし浮気って言われないようにするから、と続いた言葉に思いっきり混乱した。

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聞きたいことは色々41

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 夕飯を食べそこねたことは知っていたし、お家デートで映画をレンタルした流れでそのまま寝室で致したことも知っていたのか、乱れたベッドに対するコメントはなかった。それどころか全く気にならないらしく、前回と同じようにベッド端に腰掛けると、おいでと言わんばかりに両腕を広げて見せる。
 ただ、さすがにその腕の中に自ら収まりには行けなかった。
 いやだって、このベッドでアレコレしたという記憶はまだ生々しいし、恋人である彼にだって正面から抱っこされてヨシヨシなんてされた経験はないし、そもそも抱っこされてヨシヨシなんて行為は親相手ですら遠い記憶の中にしか存在しない。
 いやまぁ昨日、おいでと広げられた腕の中に自ら収まりに行ったのも覚えてはいるんだけど。でもあれはセックスのお誘いという認識だったし、今目の前に広げられている腕とは全く別のものだと思う。
「もしかして抱っこも浮気の範疇だった?」
 広げられた腕を避けるようにして隣に座れば、腕を下ろしながら困ったように笑う。
「いや、浮気以前に成人男性が抱っこされてヨシヨシって、って思っちゃって」
「あー、そこに抵抗あるかぁ」
 最近知り合ったばかりの、恋人のお兄さんってだけの男だもんなぁ。という自己分析に、そうですねとは返さなかった。だって抱っこされてヨシヨシが平気と思える相手なんか一人も居ない。
「誰が相手とか関係ないです。誰かに抱っこされてあやされる自分、ってのが受け入れがたいと言うかまず想像が出来ないと言うか」
「たとえば相手が恋人だとしても?」
「しないですよね?」
 なんせ昨日、映画を見ながらですらあんなに器用にこちらの性感を煽ってきたような相手だ。ただ抱きしめてヨシヨシあやしたり宥めたり出来るイメージが欠片もない。
「いやあいつの話じゃなくて」
 今後甘やかしたがりの恋人が出来たと仮定して、それでも成人男性が抱っこでヨシヨシされるのなんて変だって言って拒むのかと聞かれて、それに肯定は返せなかった。
「それは、嬉しい、かもしれません」
「うん。じゃあやっぱ、俺との関係がまだ、抱っこしてヨシヨシに抵抗ある段階ってだけだよね?」
「そ、ですか、ね?」
「うん。だってね、大人になっても、男でも。誰かに甘えたい時はあるし、甘やかされて癒やされるのは普通だと思うし、ハグは優秀」
「ハグは優秀」
「そうそう」
 思わず繰り返してしまえば、相手が可笑しそう頷きながら笑う。
「御飯食べる前に一回ハグしたでしょ。あの時、ちょっとだけだけど笑ったの覚えてる?」
「覚えてます」
 つい先程の話だし、笑えてるなら大丈夫、みたいなことを言われてその腕から開放されたのも印象的だった。というかもしかして、あれも抱っこされてヨシヨシの部類に入るんだろうか。だとしたらそこまで身構えたり抵抗感を覚える必要はないのかもしれない。
 いやでも流れで抱きしめられてしまうのと、広げられた腕に抱っこされに行くのではやはりかなり違うような気もする。
「じゃあその時以外、一切笑ってなかったのは? 覚えてる? というか自覚ある?」
「覚えて、ない、です」
 言われてみればそうだったかも、くらいの自覚ならあります。と続ければ、そうだったんだよと、少し強い口調で断定されてしまった。どこか憤りややるせなさを感じるような、苦しげな声だったようにも思う。
「ご飯は食べれてたからとりあえずそっち優先したけど、ほんと、見てられなくて」
 一転して弱々しい声になってしまって、思わずすみませんと謝ってしまえば、悪いのはどう考えても君じゃなくてアイツだから謝罪なんか要らないんだけど、と言いながらもじっとこちらを見つめてくる。
「えと……」
「つまり、謝罪は要らないけど、どうしてもハグはさせて欲しい。さっき抵抗されなかったから、多分、そこまで心情的に俺に拒否感抱いてるわけじゃないと思うんだよね。今も、手ぇ伸ばして抱きしめちゃえば諦めて抱っこされてくれそう、みたいに見えてはいるんだけど、でもちゃんと君の口から許可が欲しい。もしくは、君から抱っこされに来て欲しい」
 こちらに体を向けた状態で再度腕を広げられて、やはり躊躇う気持ちはあるのだけれど。
「ハグは優秀?」
「そう。ハグは優秀だから」
 お願い抱きしめさせて、という柔らかに響いた声に抗いきれず、広げられた腕の中に身を倒した。

続きました→

 
 
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