どういう状況なんだこれ、という驚きと混乱とで、ダラダラと溢れていた涙はピタリと止まった。二人に挟まれてしまって顔なんか見れる体勢じゃないし、ひっそりと息を詰めて自分を挟む二人の様子を伺うしかない。
「腹立たしいって何が?」
先に口を開いたのはお兄さんだった。
「なにもかも。俺を好きで別れる気はないと言ってたくせに、あっさり掻っ攫われる気でいるこいつにも。死んだ男をいつまでも想い続けて俺を受け入れなかったくせに、よりにもよってこいつに特別を渡す気でいるアンタにも。結局、誰にも選ばれない自分自身にも」
腹が立ってると繰り返す声は凪いでいる。腹が立っているというわりには、強い憤りなどが滲む声ではなかった。
「好きにすればいい。勝手にしろ。正直、そう思う気持ちのが強いのに、わかったと頷いてこいつの手を放すのがどうしても嫌だ。ただ、俺を排除して二人で幸せになろうとしてるのが許せないだけかもしれない、という気もしてる」
同じ奪われるにしても、全く知らない男が相手だったならここまでの執着心は湧かなかった気もする、らしい。ということは、こんなに執着されてるのも結局のところ、奪っていく相手がお兄さんだからってことなのか。
そりゃ、好きだから執着してるなんて、言ってくれるはずがない。まぁ好きを知らないポンコツ、が事実の可能性もあるけど。でも本当に知らないのかは疑わしいな、とも思ってしまった。
お兄さん的には旦那の代わりになんか全くなれない拙い「好き」だったとしても、彼的には本気で好きだったから叔父の代わりを努めようとした可能性。
旦那という絶対的な存在が居たから好きを隠す必要があったなら、伝え聞く元カレ相手の態度にも納得がいく気がする。そして今も彼の好きがお兄さんに向かっているなら、自分との付き合いの違和感というか、好きとかどうでも良さそうな感じに納得がいくんだけど。
あれ、どうしよう。
昨日、お兄さんと食事に行ったことに不満そうだった彼に嫉妬ですかと聞きそうになったけれど、その感覚も実は結構的を得ていて、お兄さんに頻繁に食事に誘って貰っているという部分に嫉妬されてた可能性まで見えてくるんだけど。
ええ、どうしよう。
考えるほどに、彼の好きがお兄さんに向かってる気がしてくる。
「君の意見は?」
「ふぇっ!?」
もう泣いてないよねと聞かれて妙な声を上げてしまった。というか全然聞いてなくて、彼らの話がどういう方向で進んだのかさっぱりわからない。
「すみません、聞いてませんでした」
「妙なところでのんきだよな」
背後からの少し呆れた声は彼のものだ。
「身勝手にもほどがあるとは思うけど、どうしても君に捨てられたくないみたいなんだよね。で、それ聞いてやっぱり振れない! みたいになる? 絶対俺に乗り換えたほうがいいと思うけど、少なくとも今はまだ、俺よりこいつのが好きでしょう?」
「あの、その前に一つ確かめたいことがあるんですけど」
「うん、何?」
「お兄さんが俺を心配して彼のフォローするの止めたら、俺への執着はなくなるんじゃないですか?」
「ん? どういうこと?」
「全く知らない男に奪われるならここまで執着しなかったかもって言ってましたよね。つまり相手がお兄さんだから、俺を手放したくないんですよね?」
「あー俺への嫉妬的な?」
さんざん抱いてきた男にガチネコちゃんな恋人奪われるのは悔しいよねと苦笑されたから、お兄さんはやはり気づいてないらしい。
「じゃなくて。お兄さんと幸せになる他人を見たくないから、そうなりそうな俺を手放したくないんじゃないかって」
「あー……それもまぁ、ありそうでは、ある」
「彼が好きなのって、お兄さんですよね?」
「うん、待って。てかどこからそんな話が?」
俺らの話も耳に届かないくらい考えふけってたのってそれなの? と驚かれながら、促されるまま考えていたアレコレを語ってみた。
続きます
もうしばらくの間、更新は夜になりそうです
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