聞きたいことは色々2

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 他に聞きたいことはと言われても、ゲイが事実なら相談乗ってくださいよと気軽に言える雰囲気はなかった。襲われたわけでも犯されたわけでもなく、退学を過去のこととして吹っ切れているなら、それはそれとして色々話を聞いてみたいのだけど。
 そんなこちらの躊躇いはダダ漏れなのか、相手は不快そうにため息を吐き出している。
「一応聞くけど、俺を好きだとか言い出す可能性ある?」
「え、いや、さすがに。あ、感謝はしてますし、恋愛的な意味での好きはないけど、好意はあります。半年だけだったけど、あなたが家庭教師してくれたから今の俺がある、みたいなとこがあるのは事実ですし」
「なんだそれ」
「勉強の面白さ、みたいなの教えてくれたのが、あなただったんですよ」
 そっか、と吐き出す声はそっけないのに、でも少しだけ気配が緩んで、どことなく嬉しそうに見えた。
「もう一度会えたら絶対お礼言いたいとは思ってたんで、良かったです」
 ありがとうございましたと頭を下げれば、相手は驚きを見せたあとで少し気まずそうな顔になる。
「ああ、うん。あー……こちらこそ、わざわざ、ありがとう」
 多分、こちらの目的が感謝を伝えることだったと認識したんだろう。聞きたいことじゃなくて、伝えたいことがあって躊躇っていただけ、と思ったのかも知れない。
「じゃあ、これでお前の気は済んだ、ってことでいい?」
 その確認に、躊躇いなく頷けたら良かったのに。
「やっぱまだ何かあるのか」
 眉を寄せて考え込む相手の気配は、またしても警戒が滲んでピリついている。
「あ、や、その……」
「言っとくけど、下衆な好奇心に付き合う気はないからな?」
「え?」
「特に隠す気ないから過去のアレコレを脅しに使うのは無理だぞって言ってんの。男とヤれるからってお前に抱かれてやるとかないから」
「いやいやいやいや」
 あまりに慌てて「いや」を繰り返すだけのバカみたいな否定をしてしまった。
「そこ否定すんのか」
「え、そりゃしますよ」
「男同士のセックス、絶対興味あると思ったのに」
「えっ、えっ、なんでわかるんすか!?」
 ほらな、という顔をされて失言に気づく。でも逆に、それを指摘されてしまったら、当初の目的も言えるような気がしてきた。
「あ、や、その、興味あるのは事実ですけど、その、あー……あの、抱きたいとかじゃなくて」
「ああ、抱かれたい側か」
「う、あ、」
 言葉に詰まれば、ふーんと言いながら品定めでもするようにジロジロ見られて、めちゃくちゃ居心地が悪い。
「未経験?」
「うぅっ……」
 そうですとも言えず、頷くことも出来ず。ただただ言葉を詰まらせていただけなのに、相手はそれを肯定と取ったらしい。まぁ、間違ってはいないんだけど。
「抱いてやろうか?」
 その言葉の意味を理解するのに、しばし時間を要した。呆然と相手を見つめてしまえば、ふいに伸びてきた手がサラリと髪を梳くように撫でたあと、ふにふにと耳を揉んでくるから、慌てて椅子から立ち上がる。だけでなく、逃げるように数歩後ずさってしまった。
「からかわないで下さいよっっ」
 相手はおかしそうに笑っていて、先程までの警戒の滲むピリついた気配は霧散している。
「お、おれは、ちょっと相談に乗ってほしいと思ってただけで」
「ゲイ仲間として?」
「まぁ、そう、です」
「いいよ」
「え?」
「相談乗るって言ってるの」
「えっ、いいんですか?」
「うん。だからいいよって」
 やっぱりおかしそうに笑った相手と、就業後に飲みに行くことが決定した。

続きました→

 
 
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聞きたいことは色々1

 中学生の頃、ほんの半年足らず家庭教師を付けられていた。息子のできの悪さにとうとう気づいてしまった親が、どっかから連れてきたその人は近所に住む高校生だったから、知り合いのツテとかでお安く勉強を見てくれそうな人を探したんだろう。
 半年足らずで終わってしまったのは先生が遠方に越してしまったからで、バカ過ぎて匙を投げられたわけでも、教え方が下手だとこちらからクビにしたわけでもない。
 どちらかというと勉強嫌いだったはずなのに、先生が来てくれる日が待ち遠しいと思う程度にはその時間を気に入ってもいたし、たった半年の付き合いでしかなかったのに、その後の人生にもそれなりの影響を受けたと思う。なんせ、彼が通っていた高校を受験し合格してもいる。
 そして就職を果たした現在、配属された先でその彼と思しき人物と再会した。といっても、本当にその本人なのかの確認は出来ていない。
 相手は全く覚えてなさそうだし、こちらとしてもそこまで確信を持てていない。なんせ、相手は名字が変わっている。
 でも絶対あの人だと思うんだよな、というくらいには面影があった。特に、口元のホクロなんかはかなり印象的だ。
 覚えてますかと聞けば済む話なのに気軽に確認できないのは、彼が引っ越した原因と思われることにも関係がある。親が離婚して引っ越したとか性が変わったとか、そんな単純な話だったら良かったのに。
 でもそんな単純な話だったら、こんなに意識してなかっただろうとも思う。確認して、お久しぶりですと笑って、ちょこっと昔話やらを懐かしんで終われていたはずだ。
 話しかけたくて、でもアレコレ確認するのも憚られて、そんな挙動不審が相手に伝わらないはずがない。
 結局相手から、何か言いたいことがあるなら話を聞く時間を作ろうかと提案されてしまって、会議室に連れ込まれてしまった。
「で、気になってるのは俺の噂?」
 告げる相手の表情も声も固い。まるで何かを警戒するようなピリつく気配をまとっている。
「は? 噂、ですか?」
「あれ? 違った?」
「違います」
 噂ってなんだろうというのは当然気になったが、じゃあ何と問われて覚悟を決める。別にそうオカシナことを聞くわけじゃない。
「あの、多分俺、あなたに家庭教師してもらってたことがあって」
「えっっ?」
 実家の場所と時期と当時の彼の名字と半年だけという部分を伝えれば、どうやら相手も思い出したらしい。
「ああ、なるほど……それは確かに、俺だなぁ」
「ですよね」
 こちらはホッと安堵の息を吐いたが、相手の纏う気配がそれで緩むことはなかった。
「当然、それ聞くの躊躇ってただけ、ってわけではないよね?」
「そ、れは、そう、なんですけど」
「気になるのはあんな時期に引っ越した理由?」
 どこまで知ってるのと聞かれて、やはり躊躇う。
「どこまでって、あ、噂ってこれか」
 色々言われてたけど何が真実かなんて知らないしと思ったところで、最初に問われた噂に思い当たってしまった。というか彼が引っ越したあと、人伝に聞いた彼の話は、つまりは噂でしかない。
「多分違う。あ、いや、どうかな。噂になっててもオカシクはないか」
 少し考える素振りを見せたあと、相手は言葉を少し変えて再度質問してくる。
「俺が引っ越した理由、なんて聞いてる?」
 もし自分が聞いた話が事実だとしたら、それを告げるのは相手の古傷をえぐることにならないだろうか。そう思って躊躇えば、過去のことだし吹っ切れてるから言っていいよと促される。
「その、同級生の男に、校内で襲われた、から」
「ああ、それで躊躇ったのか。俺が男に犯された過去持ちとか思ってた?」
「違うんですか?」
「襲われてないし犯されてもないよ」
 断言されて、またしてもホッと安堵の息を吐く。事実じゃなくて、本当に良かった。
「じゃあ、恋人と、校内でエッチしてたのがバレた方?」
「それも微妙に違うけど」
「微妙に?」
「男相手に校内でエロいことしたのがバレた、は事実だな。ついでに言っとくと、今後俺がゲイって噂を聞くこともあると思うけど、それ事実だから。隠してるわけでもないけどオープンにしてるわけでもないから、聞いたら適当に流しといて。もしくは俺に確かめればって言っといて」
「え、あ、はい」
 知りたかったのはまさにそれではあるのだけれど、こんな簡単に認めてしまうとは思わなかった。というよりも、本当にゲイなんだという衝撃を、どうやり過ごせばいいのかわからない。

続きました→

 
 
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