ここがオメガバースの世界なら5

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「じゃあ俺は?」
「へ?」
 思考がまとまったのか、閉じていた口を開いた相手から出てきた言葉の意味がすぐにはわからず、間抜けな声が口から漏れた。
「ここがオメガバースの世界なら、俺も、きっとαなんだろ?」
 この前姉貴に言われたと続いた言葉から、それでオメガバースに関する単語を知っていたのだと思い当たる。言われてみれば納得というか、情報源はそこしかないよなとわかるのだけど。
 家族は一応彼女が腐女子なことを知っている、とは聞いていたけれど、まさか弟を腐トークに付き合わせているとは思わなかった。思わず彼女の方に向き直って見つめてしまえば、荒ぶる気持ちの発散相手にはちょうどいいのよと肩を竦められてしまう。
 ちょっと良くわからない。素敵な作品に出会ってしまった時などの荒ぶる気持ちは想像がつかなくもないんだけど、自分にとってはこのお茶会こそがその発散場所だった。でもその言い分からすると、彼女にとっては違うんだろうか。
 ただ、それを聞けるような状況ではないようだ。彼女に言葉を返すより先に、リビングドアの前から動く気配がない彼の、答えを急かすような声が背後から飛んできた。
「で、どうなんだよ」
「え、あの、どうって言われても……」
 再度振り返り彼と視線を合わせはしたが、求められている答えがわからない。というよりも、そもそも質問の意図がよくわかっていない。
「俺も姉貴同様、隣に住んでて一緒に育ってきたαってことになんじゃねぇの? だったら相手が俺でも、番になりたいとか思うわけ?」
「そ、れは……」
 思うよと言っていいのか迷ってしまったのは、どう見たって肯定されるのを待っている様子ではないからだった。苛立ちを抑えているらしいのが見てわかるし、肯定なんてしたら気持ちが悪いと言われそうで怖い。
 言い淀んでいたら、大きなため息を吐かれてしまってビクリと肩が跳ねた。
「つまり、結局のとこ姉貴狙い、ってことだろ?」
 ああ、そうか。彼女に対して恋愛感情はない、という話を信じられずにいて、だから自身を引き合いに出してこちらを試してきたんだろう。それがわかっていたら、ちゃんと即答で番相手は彼でもいいのだと返したのに。
「ち、ちがっ」
 慌てて否定はしたけれど、相手はもちろん納得なんてするはずがない。
「俺と番になろうとは思わないくせに?」
「番にしてくれんなら、俺は、お前でもいいよ」
「嘘つき」
「嘘じゃないってば!」
 即答出来なかった時点で信じて貰えないのはわかっていた。でも本当に嘘じゃないし、それどころか内心喜んでさえいる。もしここが本当にオメガバースの世界なら、今すぐ項を差し出して、そのまま彼の番になってしまいたいくらいだ。
「信じられないなら、噛んでも、いいよ」
 湧き出す気持ちのまま、相手に首筋を差し出してみる。
「噛む?」
「番になる時は、αがΩの項を噛むのよ」
「なんだそれ」
 どうやら番というシステムは知っていても、どのようにして番になるかは知らなかったらしい。彼女の説明に、呆れた声を返している。
「本当に番になれるわけじゃないし、無意味と思うなら噛んだりしなくていいけど。でも、告白だのプロポーズだのじゃなかった、ってのは、信じて欲しい」
 言い募れば再度深いため息が聞こえてきた後、ずっとドア前から動かずにいた相手が近づいてくる。
「おら、出せよ、首」
「え、本気?」
「は? お前が言ったんだろ」
「そうだけど。あー、じゃあ、どうぞ?」
 ここで躊躇って抵抗するのは悪手だと嫌でもわかる。
 差し出した項に軽く歯を立てられた後、さした痛みもないまま離れて行かれたのは拍子抜けだったけれど、それは彼に知識がないからだとすぐに察した。ちょっと残念に思ってしまったけれど、痕がつくほどガッツリ噛まれずに済んだことを安堵するべきところだろうこともわかっている。

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ここがオメガバースの世界なら4

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 またしても胸の奥が締め付けられるように痛い。
 だって姉の恋人として釣り合いが取れていないと失格の烙印を押さてしまった自分は、当然、彼の恋人としても釣り合いが取れてはいないのだ。
 こちらの想いがバレていなくたって、彼女は自分を異性として意識したりはしない。同様に、もし仮に女として生まれていたとしても、きっと彼には相手にされない。だったら、発情期がありαの本能を揺さぶり誘惑できる、オメガバース世界のがまだ望みがある。
 ここが、オメガバースの世界なら良かったのに……
 キュッと唇をかみしめて、でもここは第二性なんてない世界だ、と思う。Ωもβもαもないこの世界で、もしものタラレバ妄想話に、オメガバースをたいして知らないだろう相手に口出しされたくはなかった。
 自分に告白したつもりはなく、相手も告白されたなんて思っていないのに。双方が否定しているのに納得せず食い下がる相手に、どう説明すれば理解してもらえるんだろう。
「ここはオメガバースの世界じゃないんだから、もしもオメガバースの世界ならどうするか、なんて話に本気の告白が混ざるわけないだろ」
 相手の発言から、オメガバースをある程度は認識できているのはわかっている。けれどきっと、オメガバース世界におけるΩがどのような存在か、はっきりと認識できてはいないだんろう。腐男子じゃないってはっきり否定されてしまったから、自ら好んで読むことまではしていないはずだ。
「どういう意味だよ」
「オメガバースをどこまで理解してるのかわからないけど、Ωってだいたい酷い扱いされてるんだよね。そんな世界で自分がもしΩで、隣に小さな頃から一緒に育ってきたαが居るなら、早めに番になりたいって思うのはそんなに変な話ではないと思う、って意味」
 さきほどの妄想相手は間違いなく彼だったし、彼という想い人がいる状態で、事故ってその姉と番になりました、なんてのは悲惨でしかないんだけど。でも想う相手が別にいる、という状態でさえなければ、彼女のことも番相手として意識したと思う。
 だったら、自分に想う相手が居ることを知らない彼になら、彼女と事故でいいから番になってしまいたいと望むことはおかしくないと、理解してもらえるんじゃないだろうか。
「番になれたら他のαを誘惑することがなくなる、ってだけでも、Ωにとっては早めに番を見つけることは有益なんだよ。レイプされる危険が減るし、すでに番がいれば、見知らぬ相手とか嫌いな相手とうっかり番になっちゃうこともない。はっきり言えば早いもの勝ちの世界だし、Ωからは番の解消が出来ない場合がほとんどだから、自分に不利益を運んでくる可能性が低いαを見つけたら早めに番になることを考えるよ。そういうΩとしての利益優先だから、事故でいいから番になりたいって言ったところで、それは恋愛感情なんかじゃないでしょ?」
「つまり姉貴は、お前にとって不利益を運んでこないアルファってこと?」
「まぁ、そうだね。あ、でも、もし番になりたいΩが既にいるなら、もちろんうっかり番にならないようには気をつけるよ。好きだからΩの特性を利用して無理やり自分のものにしたい、なんて意味じゃないし」
 飽くまでも、そこに恋愛感情なんてありませんと明言しておく。相手は「ふーん」とこちらに曖昧な相槌を送ったあとは、何かを考える様子で口を閉ざした。
 Ωとして当然の選択、という言い方をしたけれど、馴染みがなければやはり理解は難しいかもしれない。こちらとしては、恋愛感情はないし告白ではなかった、という部分さえ納得してくれるなら、オメガバース世界におけるΩの生き方なんてものにまで理解を拡げてくれなくていいんだけど。
 だって腐男子でもない相手には、まったく必要な知識ではないのだから。

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ここがオメガバースの世界なら3

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 胸の痛みにそっと目を伏せながら、先程まで彼女と楽しんでいた会話を必死に思い出す。何が告白だったのか、彼の言葉を聞いても全くわからなかったからだ。
 確かにオメガバースの話をしていた。そして、彼女にも指摘されたが、もし第二性が存在していたらきっと自分はΩだろう。
 成長期がこれからくる、などと楽観視出来る要素がまるでないし、身長は同世代の男性平均にはかなり足りないまま成長が止まる未来しか見えない。運動神経だってなければ、頭だってそう良くはない。運動神経を鍛えるよりはまだ可能性がありそうだったので、必死に勉強を頑張った結果、地域でそれなりの高校へ通えているのが現状だ。
 でも隣に住んでいる幼馴染の姉弟は違う。お隣さんなので当然彼らの両親ともそれなりの付き合いがあるが、もし第二性が存在する世界ならα家系と呼ばれているだろう優秀さを家族全員が所持している。同じ高校へ通っていたって、彼女のようにたいした試験勉強もしないまま成績上位をキープするような真似はできっこないのだから、頭の出来が違いすぎる。
 だから、きっとΩだろうと指摘された時に、彼女ならαだろうと返したし、それを否定されることもなかった。というよりは、彼女もそれは認めるところなんだろう。次にされた質問が、隣同士の幼馴染でαとΩだったらどうしてたか、という内容だったからだ。
 もし自分がΩで、隣に住む幼馴染がαだったら。多分間違いなく番相手として意識する。
 オメガバースの世界で自分がΩならα男性との間に子を為せるし、オメガバースを描いた作品はいろいろあるが、だいたいは第二性による結婚が許可されているから、想い人であるαと番となって結婚したいと思うことを後ろめたく思う必要はない。
 お隣さんと運命の番、だなんてことまでは望まないけれど、Ωの特性を利用した誘惑くらいは仕掛けてしまいそうだ。なんらかのアクシデントで望まぬ相手と番になってしまう話はありふれているし、事故による番からでもいいから、とりあえず相手を自分のものにしてしまいたい。
 Ωに誘惑されて本能に抗えずに番になってしまったαを被害者としている作品もあるし、相手の意思を無視して番として自分のものにするのだから、それは事実だと思う。けれどそう思ってしまうくらいには、自分の想いは育ってしまっている。それにどのみちこの世界には番システムなんてないのだから、妄想でくらい自己中に夢見たっていいだろう。
「あ……もしかして、事故でいいから番になりたい、って言ったやつ?」
 彼女の問いかけに、運命の番までは望まないけど事故でいいから番になりたい、と返したのは事実だ。でも番になりたい相手はもちろん彼女ではなかったし、彼女の質問だって、自分と彼女の弟である彼を指して「隣同士の幼馴染」と口にしていたはずだ。
 口に出さなかった2人の間で通じている前提条件を知らずにいれば、自分からきっとあなたはαだろうと指摘した彼女相手に、「事故でいいから番になりたい」と言ったように聞こえたとしても不思議はない。
「それが告白じゃないならなんなんだよ」
 どうやら当たりだ。でも、番になりたいと思った相手は彼女じゃなくてお前の方だよ、なんて言えるはずもなかった。それをわかっている彼女も、違うって言ったでしょとは言ってくれても、こちらの恋情を隠したままの説明が難しいのかそれ以上の言葉はない。
「まさか、告白すっ飛ばしたプロポーズか? 確か番って、結婚みたいなもんだったよな?」
「ち、違うって」
「だから何が違うんだよ。姉貴とじゃ釣り合いとれない自覚があんだろ。でもΩだのαだのの世界なら事故って番になっちまえば、互いに他の相手には誘惑されない体になる、だったかで自分に縛っておけるもんな」
 厳しい声に、お前なんかに姉を渡してたまるか、というような彼の気持ちが透けて見えるようだった。

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ここがオメガバースの世界なら2

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 2人きりでのお茶に躊躇いはあるのに、それでも繰り返し訪問してしまうのは、その時間が楽しいからにほかならない。話し始めてしまえばそちらに熱中して、抵抗感も躊躇いも霧散してしまう。
 あまりに熱中してしまうから、お茶の時間はアラーム付きだ。家族の誰かが帰宅する前にお開きにして、訪問者が自分であることをなるべく隠しておきたかった。
 いくら同じ高校へ通い同じ部の後輩になったからとはいえ、上がりこんでお茶までしている理由をそう何度もごまかせるわけがないし、万が一会話を聞かれて腐男子バレするのも怖い。なのに。
 楽しげに話をしていた彼女の口が突然閉じて、目が大きく開かれる。その目が自分を通り越してリビングのドアを見つめていることに気づいて振り返れば、そこには難しい顔をした想い人が立っていた。
「な、んで……」
 思わず確認した時計は、お開きになる予定まで30分以上の余裕がある。それに、一番に帰宅するのは母親だとも聞いている。スポーツ推薦で高校入学した彼は今日も部活で出かけていて、帰宅はかなり遅くなるはずではなかったのか。
 この時間に彼が帰宅してくる想定はまるでなかった。
「体調悪くて早退した」
「そう。それで、いつから立ち聞きしてたの?」
 難しい顔をしているのは体調が悪いせいかと、彼の体調を一番に気にかけた自分と違って、目の前の彼女が硬い口調で問いかける。
「立ち聞き?」
「入ってくるときの様子がおかしかったもの」
「10分、くらい?」
 様子がおかしかったのは具合が悪いからじゃと口に出す前に、あっさり立ち聞きしていたことを認める返答をされてしまってザッと血の気が引いていく。10分程度の間に、自分はどんなことを口にしていただろうか。
「玄関に男物の靴があったし、楽しげに聞こえてくるのも男の声だし、相手、確認しておきたくて。つか、あんたらって付き合ってんの?」
「は?」
 慌てて先程までの会話を思い出そうとしていたが、一気に思考が停止する。
「ただのお友達だけど。でもそう言ったところで信じる気、ないでしょ?」
「だって彼氏にすんなら自分の趣味に理解あるやつじゃなきゃ無理、って言ってたじゃん。それに家に誰も居ないのわかってて来てんだろ」
「彼氏なら自分の部屋で話せばいいし、ちゃんと彼氏として家族に紹介するわよ」
「じゃあまだ彼氏じゃないってだけで、これから彼氏になんの?」
「会話の内容聞こえてたなら、こそこそお茶会してた理由だってわかるでしょうに」
「会話聞こえたら聞いてんだけど。告白されてたじゃん」
「えっ……?」
 鈍くなった思考でも一応は2人の会話の内容を拾っていて、意味のわからなさに戸惑いが漏れた。
「あれは私への告白なんかじゃないわよ」
「ええっっ!? ちょ、え、待って、待って」
 告白と取られるような発言をした記憶がまったくない。なのに彼女には思い当たることがあるらしい。
「告白ってなんのこと?」
「ほら、本人も全くの無自覚じゃない」
「だってもしお前がオメガなら、姉貴はきっとアルファなんだろ?」
 答えてくれるのは彼女の方だと思ったのに。しかも、オメガだのアルファだの、どう考えたってそれが何を指すかわかっている口調で彼の口から零れ出たことで、またしても思考が停止する。思わずポカンと彼の顔を凝視してしまった。
「なん、だよ……」
「え……腐男子、なの?」
「違ぇっっ!!」
 即座に激しい否定が返ったし、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしているから、胸の奥がズキリと痛んだ。

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ここがオメガバースの世界なら1

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 隣の家には同じ年の男の子と2つ上の女の子が住んでいて、子供の頃は当然同じ年の男の子と仲良しだった。けれど中学に上がって同じ運動部に入った結果、同学年で誰よりも早くレギュラー入りした相手と、万年補欠で練習試合に数度、それも僅かな時間しか出られなかったような自分との間にはだんだんと目に見えない溝ができ、卒業して別々の高校に通い出した後は見かけたら挨拶を交わす程度の仲になってしまった。
 なのに今現在、相手の家のリビングでお茶を飲んでいるのは、招待者が彼ではなくその姉の方だからだ。
 彼女の進学先を知らなかったわけではないが、同じ高校へ進学したところで、お茶に呼ばれるような関係になるなんてことは、当然考えていなかった。しかし、中学時代まったく活躍できなかった部活へ再度入部するはずもなく、かといって他に入りたい部活も見つからず、まぁいいかと帰宅部となっていた自分を、ある日彼女が誘いに来た。
 新入部員の確保に失敗したそうで、このままでは廃部になるから名前を貸せ、というやつだ。もちろんもっと穏やかな口調で頼まれたけれど、弱みを握られ餌をチラつかせながらの「お願い」なんて脅迫でしかない命令だった。
 といっても最初は本当に、彼女が卒業するまで自分がその部に籍を置いてさえいれば良い、とだけ思って誘ったのだと思う。間違いなく、家に招いて一緒にお茶をする仲になる気はなかったはずだ。入部届を渡した後、一応は後輩になったのだからと気遣われたり、以前よりも親しげに挨拶をしてくれるようになったのだって、彼女からすれば特に意味のある行動ではなかったらしい。
 けれど弱みを握られ脅された身だったから、彼女の変化が部の後輩へ対する自然な態度だなんて考えつかなかったし、混乱してもいた。入部届さえ渡せば後は用済みとなって、前以上に疎遠になる想定しかなかったからだ。
 だって彼女の弟に恋愛的な意味で想いを寄せる男の存在なんて、気持ち悪いに決まってる。
 彼女の態度の意味をグルグルと考えすぎて憂鬱になり、そのせいで彼女を心配させ、不調を気にするその態度に追い詰められるようにして、限界を迎えたのは入部届け提出から1ヶ月ほど過ぎた辺りだっただろうか。心配する彼女に、どういうつもりですかと問いかけた。
 これ以上何をさせたいのか。なぜ罵らないのか、避けないのか。気持ち悪いと思わないのか。
 胸の中に渦巻く不安やら焦燥やらを半泣きで吐き出す自分に、彼女は随分と驚いた後、想いを利用するような真似をして申し訳なかったと謝ってくれた。更には、弟への恋情を知っていると伝えたのは応援したい気持ちがあったからだ、などと言い出し、こちらの恋情を暴いた代わりにと彼女の秘密を一つ教えてくれた。
 彼女はいわゆる「腐女子」というものらしい。
 まぁ彼女の秘密を知る人間は結構いるようなので、恋情を暴いた代わりというよりは、同性への恋愛感情を気持ち悪いと思わないことや、応援したい気持ちがあることの理由として、腐女子だからだと教えてくれた可能性の方が高いのだけれど。
 腐女子を公言している女子が中学のクラスメイトにいたおかげで、「腐女子」が何を指すかは知っていたし、漏れ聞く会話からBLという男同士の恋愛を扱う物語が世の中にたくさんあるらしいことも知っていた。
 読書そのものが比較的好きだし、男を好きになってしまった身として、男同士の恋愛物語が気にならないはずがない。けれど、それっぽい漫画の一部を目にしたことがある程度で、一つの物語を最初から最後まで読んだ経験はなかった。
 弟はいるが腐女子な姉など自分には居ないし、本屋で買えるのだろうことはわかっていても、そんなものを探したりましてや手に取れるはずがなく、ネットであれこれ読めるということも知らなかったし、そもそも個人でこっそりネットを閲覧できる環境が出来たのだって高校に入学してからだ。携帯は高校の入学祝いだった。
 結論から言うと、彼女とは腐仲間としてお茶をしている。
 彼女から借りたり、携帯で読めるオススメ作品を聞いたり、まんまとBL世界に嵌ったせいで、すっかり腐男子の仲間入りをしてしまったからだ。
 今の所自分が腐男子だということを知っているのは彼女だけで、たまに向こうの家族が出払っている時などに呼ばれて、一緒にお茶をして腐トークに花を咲かせる時間が出来た。
 自分の想いは未消化なまま彼女の弟へと向いたままだし、完全にただの腐友ではあるのだが、一応異性なので、家族が出払っている時を狙って訪問することへの抵抗感はある。ただ、家族がいる中で自室に通すのは誤解を生むだろうし、そもそも自室に入れたくはない。かといって家族が居る前で堂々と話せる内容でもない。という彼女の主張と、誰の目があるかわからない家の外は論外。というこちらの主張により、今のような状態に落ち着いた。

続きました→

 
 
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