親切なお隣さん12

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 家族の話や生い立ちなどの、踏み込まれたくない時に見せるのと同じ顔をしてると指摘されて、そんなにわかりやすく顔に出ているなんて知らなかったなと思う。だからいつも、さっと察して話題を変えてくれるのか。
 あれこれ顔に出る相手を素直な人だと思っていたけど、あまり人のことは言えないのかも知れない。でもこんな指摘、人からされるの初めてなんだけど……
 と思ったところで、そんな指摘を受けるほど他者と長く時間を共有したことがないせいか、と気づく。2年間、ほぼ毎日顔を合わせて一緒に食事をしてきたのだ。家族とだって、こんな生活はしたことがない。
「もしご家族の許可が得られたら、おれとの結婚を考えてくれたりする?」
「は?」
「だっておれ自身に何かがあってお断りされてるわけじゃないなら、周りの障害を取り除いていったら、いつかはOKして貰えそうじゃない?」
 うーん、前向き。と思わず呆れてしまって、泣きそう、なんて思ってた気持ちが霧散する。
 いやまぁ、この人のこういうとこに多分かなり救われているし、だからこそ惹かれてもいるんだろうけれど。一緒にいると、嫌な気持ちを引きずることが少ない。
「家族の許可が欲しいなんて思ってないす。ただ、祖父さん死んで俺が家戻るって思ってるっていうか、俺の大学生活にちょっかい出さないようにしてくれてたのも、多分祖父さんなんすよ」
 自分の学費と同じかそれ以上、弟に援助してる可能性が高いはずだ。だから渋々ながらも口出しせずに放置しててくれるのだと思っていた。
 遺産がどれくらいあったのかは知らないが、それで賄いきれる問題かはわからない。
「うちのゴタゴタに、アンタを巻き込みたくない、す。金持ってる男を恋人だの伴侶だのにしたなんて知られたら、アンタにたかりに来るかもだし、弟がアンタに何するかちょっと想像つかないっていうか……」
「ああ、そういう感じか。というか弟さんが危害加えに来そうな感じ?」
 お兄ちゃん子なの? と聞かれて、全然と首を横に振ったものの、どう説明したらいいのかわからない。うちの王様なんですよ、なんて言って通じるとはとても思えなかった。
「あー……弟にアンタ取られたら、さすがに俺も立ち直りにどれくらいかかるかわからないな、みたいな?」
 そんなことするとは思えない。と言い切れないのが弟の怖いところだ。自分の利がデカいと判断すれば、兄の恋人を奪うことに躊躇なんてしないと思う。
 でもって、それが可能なくらいに、弟は多くの他人にとって魅力的な人物だ。ということを、自分は知ってしまっている。
「え、さすがにそれは……」
「ないって言い切れないくらいには、凄い弟なんですって」
「実際に会ったことがない以上、絶対にないから信じて、は信じてくれそうにないよね」
「まぁ、そっすね」
 うーん、と腕を組んで悩み始めてしまった相手に、夕飯冷めますよと声を掛けた。今更という気もするくらい、とっくに冷めきってるけど。
「あ、ああ、ごめん。お腹減ってるよね」
 食べようと言って箸を持った相手が、いただきますを告げるのに合わせて、自分も再度いただきますと唱えて箸を取る。
 その後はいつも通りというか、さっきまでの結婚云々とは全く関係がない雑談ばかりで過ごした。
 いつも通り、後片付けを済ませ明日の朝用の米を炊飯器にセットして、じゃあまた明日と玄関に向かえば、いつも通り後を追ってきた相手が、いつもならまた明日と応じるところを、何か言いたげに見つめてくる。
「なんすか?」
「あのさ、さっき肝心なとこ聞きそこねたんだけど」
「はぁ、なんすか」
「その、君もおれのことが好き。……って、思ってても、いい?」
「あー……」
「今はまだ、おれとの結婚を検討出来ない、ってのはわかったけど。でも俺を想う気持ちが全くなかったら、ああいう断り方は、君ならしない。……よね?」
「そ、っすね」
「じゃあ、君もおれを好きってことで」
 一応、いいよね? と疑問符付きで問われる形ではあったけれど、眼の前にあるのは、ダメと言われることを想定している顔じゃない。期待に満ちた顔は、いいですよという肯定待ちというよりは、こちらからの「好き」を待っているように見えて仕方がない。
「あー……好き、です。俺も、アンタが」
 観念してそう告げれば、相手は、嬉しそうに笑って良かったと言った。その笑顔が近づいて、慌てて目を閉じたけれど、チュッと小さな音を立ててその唇が触れたのは額だった。
 玄関の段差はあるが数センチだし、喪服が借りれるくらい身長にそう大きな差なんてないのに。つまり、わざわざ伸び上がって額を狙ったってことだ。
「え、なんで口じゃないんすか? プロポーズまでしといて、まさか未だにガキ扱いすか?」
「え、いや、そんなつもりは……」
 いいの? と聞かれて、何をいまさらと返せば、今度こそその唇が自身の唇に落とされた。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん11

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 あからさまに落ち込んだ様子の相手を前に、どうすりゃいいんだ、と思う。
 結婚なんて誰相手にも考えたことがない。それどころか、誰かとお付き合いしたことすらないのに。
 だって自分と付き合ったって、楽しいことも面白いこともきっとない。目当てはきっと別のところにある。というか弟に近づくための足がかりにされるだけだろう。
 親からもさんざん警告されたし、ずっとそんな疑心暗鬼の中で過ごしていたから、実家にいた頃は人と親しくなりすぎるのをなるべく避けてすらいた。
 この人は弟のことなんて何も知らないのに。でもこの先も何も知らないままとは限らない。自分から言わなくたって、知られてしまう可能性はゼロじゃない。
 存在を知られるだけならまだしも、もしもこの人と弟が出会ってしまったら。恋人です、とか、パートナーです、なんてのをあの弟に知られてしまったら。
 親同様、弟だって兄の大学進学を不快に思っているのは明白だ。彼は我が家に君臨する王様だから、兄が自分のために働かないことに多分かなり苛立っている。ここ数年の彼の不調を自分のせいだと驕る気はないが、全く無関係でもないんだろう。
 祖父という防波堤が崩れたこの先、もう、守ってくれる人はいないのに。この人を我が家の歪みに巻き込みたくはなかった。
 お隣さんに向かう好意はあるし、この人にご飯を作り続けたいなって気持ちや、パパ活してくれないかなと思う気持ちもあるし、それが恋愛感情と呼ばれるものと言えるのかは良くわからなくても、結婚したいほど好きって言ってもらえたのは、多分間違いなく嬉しい。家族のことがなければ、この人との未来を検討するくらいはしてたと思う。
「君に、恋愛する気持ちの余裕も、金銭的余裕も、ないのは知ってる」
 アレコレぐるぐる考えて黙ってしまえば、顔を上げないまま、相手がとうとう話し出す。
「おれの厚意をただの善意って思ってて、君を好きって気持ちを隠してたつもりはないどころか、そこそこあからさまにしててさえ、大家さんとか同様に、御飯作ってくれるから感謝してるくらいの感覚で受け止められてたのも知ってる。君からすれば、御飯作るのは食費負担が第一の目的だってのもわかってるし、簡易的なパパ活みたいなものだってのもわかってる。でももっとおれからお金を引き出せないか、みたいな様子が全然ないし、さっきなんて、お金関係なくおれとエロいことしたい、みたいに言われて、その、思わず期待、した」
 口を挟むことなく、というよりも何も言えないまま聞き続けてしまったら、最後、困らせてごめんと謝られてしまった。
「あー……その、びっくりはしたけど、嬉しかった、すよ」
 嬉しいの単語に反応して、バッと顔が上がったのが可笑しくて、少しだけ笑ってしまう。笑われて気まずそうな顔になったけれど、でも探るみたいな視線はこちらを向いたままだったから、本当に、と付け加えておく。
「なら、」
「けど検討は無理っす」
「そ、そっか」
「はい。すみません」
「いや……というか、おれがなにか変われば、検討してくれたりする? それとも、おれが何しても、おれと付き合うのは無理そう?」
 未練がましくてごめん、と言ったあと、でも聞いておきたいと食い下がられて、小さく息を吐いた。どう考えても無理なんだけど、はっきり無理って言ってしまうのが、自分自身嫌だった。
 だって、この人との未来なんていう幸せそうな夢を、自分の手で潰さなきゃいけないのは苦しい。潰したくない。夢だけでいいから、もうちょっと見続けていたい。
「なんかあるんだ?」
 期待の滲む声に首を横に振ったけれど、でもやっぱり無理だとは言えなかった。
「もしかして、このオンボロアパートから引っ越ししたくないこっちの希望は飲みたくない的な……?」
 だから言えないの? と見当違いにもほどがあることを言い出すから、さすがに慌てて否定の声を上げる。
「ち、違っ」
「うんまぁ、本気でそう思ってたわけじゃないけどさ」
 ふふっと笑われて、凄い深刻な顔してるからつい、なんていう、言い訳なのか良くわからないような言葉が続いた。
「家族絡みの何か、なんだね」
 落ち着いた穏やかな声に、なぜか泣きたいような気持ちになる。
「なんで……」
 こぼれた声は小さく震えてしまった。

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親切なお隣さん10

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 はあぁぁ、と大きく息を吐いてから、いただきますと箸を手に取る。いまだ目を見張ったままこちらを見続ける相手に、食前に話すべきじゃなかったなと思う。なんとも気まずい。
 というか、お隣さん相手にパパ活したい、ってとこから更に踏み込んだ話はするべきじゃなかったんだろう。あの言い方じゃ、お隣さんとエロいことがしたいと申し出たのと同じで、支援対象の子供からエロい目で見られてたなんて知ったら、驚いても仕方がなかった。
 言い訳が許されるなら、自分の体を安売りするなと言われたように、性的なサービスで金銭を得ることに対する否定だとしか思ってなかった。この人自身が男性の大家さん大好きだし、これだけ一緒に食事してたら恋人がいないことも、結婚願望がなさそうどころか彼女という存在すら欲してなさそうなことも知ってるし、むしろ男のがワンチャンあるんじゃとか思ってたのも事実だった。
 今はまだ驚きがその心中を支配してるっぽいけど、このあとどんな話が相手の口から出るのか、さっぱりわからないのがちょっと怖い。
 キモいとか思われて、食事作りをお断りされるのが一番困る。あ、いや、奨学金が無理な時は学費貸すって話が無くなるほうが問題か。
 お断りと説教までは覚悟できてたけど、お隣さんに切られる覚悟なんて出来てない。いやホント、なんであんなこと言っちゃったんだろう。
 お隣さんの食事を作り続けたいなんて欲求で、今の生活が変わらないような就職先を探す気で居る。というのは言わずに我慢できたのに。
 でもあれだって、そんな理由で就職の幅を狭めるな的な説教を予想しただけで、そうしたいこちらの好意を否定される想定ではなかったか。
 この人自身が、大家さんにも階下の老人にも昔お世話になった好意を隠さないのだから、この人にお世話になっている自分も、この人への好意を示していていいのだと思っていた。
 もう一度大きく息を吐いて、持っていた箸を置く。
 逸らしていた視線を相手に向けてしっかりと見返せば、そこにはもう驚きの顔はなく、何かを思案しているようだ。
 ああこれほんと、失敗した。胃のあたりがキュウキュウと痛い。
「あの、無理って言われるのもパパ活なんかダメって言われるのもわかってて言ってるんで、俺としては、さっきのは聞かなかったことにしてくれていいんすけど」
 相手が忘れてと言った失言を、忘れるなんて無理と言い返した自分が、聞かなかったことにしてくれと言うのは都合が良すぎるだろうか。
「それに、アンタの目を盗んでどっかの誰か相手にパパ活しないのも、ホントっすから」
「それは疑ってないよ。というか一つ確かめたいんだけど、いい?」
「どーぞ」
「おれと、結婚前提のお付き合いをしませんか?」
「は? 結婚?」
「って言ったら、検討する?」
「いやだから、結婚ってアンタ、何言い出して」
「結婚っていうか、パートナーシップ制度ね」
 うちの自治体にもあるよと言われて、へぇそうなんだ、とは思ったし、そんなの知らなかったけど。
「いやいやいや。急すぎ。ってかアンタ結婚願望なんてないだろ」
「なくはないよ」
「嘘つくな!」
「ホントだって。てか前にも言ってると思うんだけど。おれと、結婚してくれるような相手がいないだけだよ」
「いやだからそれが……え、マジで?」
 いや確かに、結婚に対して、相手がいればね〜みたいな濁し方をされたことはあった気がする。でもそれを、結婚したいけど相手が見つからない、という意味に取るのは無理だ。
 だってこの人がモテナイなんて思えない。この人と結婚したい女が見つからないなんて思えない。
 その気がないから探してない。とか、その気がないからお断りしてる。って考えるのが普通じゃないの?
「えと、その、なんかよっぽどヤバい性癖、とか……?」
「んー……性癖、ではないけど、特殊な要望を持ってるのは事実だよね」
「ちなみに、それってどんな……?」
「まずこの狭いオンボロアパートから引っ越したくない。って部分で大半が引くでしょ」
「あ〜……」
 それはそうだ。てか結婚したあともここに住み続けたいのか。その発想はなかったけど、言われて納得する程度には、この人がここの暮らしを気に入ってるのは知ってる。大家さんとも階下の老人とも、関わり続けていたいんだろう。
「あと2年ほど前から、食事はなるべくお隣に住む大学生が作ってくれたものを食べたい。ってのが増えて、詰んだよね」
「待て待て待て待て。え、なにそれ?」
「君に無理強いする気はないから、君がもう無理って言うまでは君のご飯を食べたいなってだけ。で、いつまで食べれるかわからないから、今は結婚よりそっち優先したい、って話だけど」
「いやいやいや。そんな執着するほど凄い飯なんか作ってないだろ」
「ご飯の味だけじゃなくて。君といっしょに食べる時間とか、君が持たせてくれたお弁当を開ける時のワクワクした気持ちとか、そういうの全部含めて、だよ。てかそろそろ気づいて欲しいんだけど」
 え、何を? と思った気持ちは相手に筒抜けだったようで、相手が諦めに似た溜め息を吐いた。
「おれが君を、恋愛的な意味を持って好きだ、ってことに」
「はああああ???」
 盛大に驚いてしまえば、相手はがっくりと肩を落としたかと思うと、机に両肘をついて顔を隠すように俯いてしまう。
 はぁあああ、と、相手からも盛大な溜め息が吐き出されてきた。

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親切なお隣さん9

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「ごめん、アレはほんと失言だったというか、その、できれば忘れて欲しい、です」
 そんなことを言われて、じゃあ忘れます、なんて言うわけがない。
「無理っす」
 じっと相手を見つめて待てば、やがて観念したように大きく息を吐いた。
「下心っていうのは、その、学費貸したら卒業後も君に確実に関われるなって、思って」
「は? なんすかそれ」
「いやだって、君が卒業後にどんなとこに住んでどんな仕事するかとか、まだ全然未知数でしょ」
 社宅のある会社に入るかも知れないし、金銭的に余裕が出来たらここから出ていきたいって思ってるかも知れないし、と続いて、そんなの全く考えてなかったと思う。というか就職後にここを出ていくことなんて欠片も考えたことがない。
 確かにまぁまぁ不便な場所だし、安さに見合ったオンボロさだけど。
「それにここを離れないんだとしても、今みたいに一緒に御飯食べれるかもわからないし」
 出てく気なんか更々ないんですけど、という気持ちを察したらしい相手が、更に言葉を重ねてくる。確かに、就職先によっては休みが合わないかも知れないし、出勤時間も帰宅時間も就寝時間もどうなるかわからないし、今とは生活リズムがかなり変わってしまう可能性がある。
「あー……」
 なにか言いたくて、でも言葉は上手く出てこなかった。
 卒業後も変わらず、この人のご飯を作る日々を想定していたなんて、その事実をどう捉えれば良いのかわからなくて気持ちがざわついている。
 卒業後もご飯を作って欲しいのかを確かめたことなんかない。もし生活が変わって今後はもう作れないと言ったら、相手は残念だと口にするかも知れないが、あっさり引いてしまうんだろう。
 今の生活が変わらないような就職先を探せなんて、この人は絶対に言わない。わかっているのに、勝手にそういう選択をする気でいた。しかも祖父が亡くなる前からそういう意識でいたのだから、もはや食費援助が目当てとも言い難い。
 つまり気づいてしまったのは、この人にずっと食事を作り続けたいと思っている、という自分自身の欲求だった。
「どうしたの?」
 口を半端に開いたり閉じたりしていたから、相手が訝しむのは当然だ。でもこの気づいてしまった事実を、相手に伝えていいとは思えなかった。
 だってそれを知った相手が、純粋に喜んでくれるイメージがわかない。むしろ嫌がられそうな気もするというか、就職の幅を狭めるなと説教されそうな気がしなくもない。
「その、俺が思ってた下心と、かなり違ったな、って思って」
 言葉に詰まっていた理由は違うけれど、これも一つの事実ではある。だって下心、なんて言われたら、エロ関係かなと思っても仕方ないと思う。いやでも最近パパ活について考えまくってたせい、という気もするから、これも相手には全く非がない、こちらの思い込みでしかないのか。
 パパ活なんてしちゃだめだよって言ってた人が、エロい下心でお金を貸そうとするわけがなかった。
「君が思ってた下心って?」
「俺とパパ活してくれる気になったのかな、みたいな?」
 あっさり借金許可が降りた上に、奨学金が借りれるかも知れない情報まで貰って、切羽詰まった金策はほぼ不要になったけれど。でも元々は、お断りと説教覚悟で、この人にパパ活を提案するつもりでいたんだった。
「えっ!?」
「前にちょっと言ったじゃないすか。食費以外にもお金出してくれんなら、エロいサービスもしますよ、って」
「ねぇ待って。それ、お金貸す話じゃなくない?」
「エロいサービスしたら割り引いてくれるってなら、めちゃくちゃ張り切って頑張りますけどね」
「もう。そういうことは言っちゃダメって言ったろ。自分の体を安売りしない。というか、食費負担だけじゃなくて、御飯作ってくれるお礼というか手間賃? もっとちゃんと払おうか」
 いくらぐらいが妥当かな、とか考え始めてしまった相手に、慌てて待ったをかける。
「いや要らないっす」
「でも、学費用意する必要が出来たなら、少しでも取れるとこから取っといたほうが良くない?」
 割とマジにパパ活考えてない? と指摘されてしまって、当たってるけどハズレてるとも思う。
「学費は借りれそうなんで、アンタの目を盗んでどっかでパパ活、なんてことはしないから大丈夫す」
「本当に? 絶対だよ?」
「はい。でもそれはそれとして、アンタが俺を買ってくれたら良いのにな、ってのも、割とマジに思ってるのは事実すね」
「え、じゃあやっぱり手間賃を、」
「いや要らないっす。つか金じゃなくて、アンタが俺とエロいことしてもいい、って思ってくれたらいいのに、の方」
 言ったらめちゃくちゃ大きく目を見張られて、まぁ想定外だったろうなと思う。なんせ、自分もその事実にさっき気づいた。
 勝手にこの人の食事を作り続けようと思っていたのと同じだ。お断りと説教がほぼ確定なのに、それでもパパ活を持ちかけてみようと思ったのは、自分自身がこの人としたいからだと気づいてしまった。

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親切なお隣さん8

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 駅前にあるクリーニング店に出していた喪服を引き取ったあと、同じ並びにある小さな洋菓子店の前で立ち止まる。2年前、大家さんへのお礼を買って以来一度も入店していないその店に、一人で入るにはやはり勇気がいる。
 そもそも、今後めちゃくちゃ節約が必要になることが確定しているのに、ここで千円以上の出費が許せるのかどうか。クリーニングだって、礼服だからとお値段お高め設定だったから、結構な額が飛んだのに。
 でも買わなくて済んだ分を考えたら、お礼はしたほうが良いんだろう。それに喪服を借りただけじゃなく、お隣さんが居てくれてよかったって、また助けられたなって、思っているんだから。
 祖父の葬儀で数日留守にすると伝えたとき、急な訃報に動揺し混乱する気持ちを宥めてくれて、喪服含めて持参したほうが良さそうなものの存在を思い出させてくれて、しかもそれらを素早く揃えてくれた。何かあったら何時でも連絡しておいでと言って送り出してくれた。待ってるよと言ってくれた。
 しんどい現実を突きつけられても、親の望み通りになんかならないとか、絶対諦めないとか強く思えるのは、ここが自分にとっての帰る場所だと思っているから。というのも大きい気がする。
 お隣さんには、本当に、凄く、感謝している。何かお礼の品を買って渡したことはないから、いい機会、とも言えそうだ。
 それにお断りと説教覚悟で例のアレを一応提案してみようかと思ってたりもするので、その前にちょっとご機嫌を取っておきたい下心的なものもあった。だってここでちゃんとお礼を用意したら、間違いなく喜んでくれるから。
 そんなことをあれこれ頭の中でこねくり回しながら購入したのは、今回も以前とほぼ同じゼリーの詰め合わせだ。時期もあの時と同じく夏だし、自身が苦手なものを贈答品に選ぶとも思えないし、多分問題ない。
 その判断は間違っておらず、帰宅した相手が食卓につくのを待って、喪服のクリーニングが済んだことを告げながらゼリーの詰め合わせを差し出せば、相手は嬉しそうに頷きながら受け取ってくれた。
 よく出来ました、と口に出されてはいないけれど、きっと似たようなことは考えているだろう。素直な人なので、そういうのは顔を見ればなんとなく伝わってきてしまう。
「役に立ててよかった」
「ほんと助かりました。それで、あの、図々しいの承知で、ちょっと相談したいことが……」
「え、いいの?」
 嬉しい、とこぼれた小さな声まで拾ってしまって、あれ? と思う。相談したいって言っただけで、なぜ喜ばれるかわからない。
「あの、いいの? ってのは?」
「あーいや、ほら、最近ちょっと様子おかしかったけど、原因ってどう考えてもお祖父さんのことだと思ってたから、こっちから踏み込んで聞いていいのか迷ってて」
 家族の話とか生い立ちとか話すの苦手でしょと指摘されて、その通りだし、散々気を遣って貰っていたのも感じていたのに、気づいてなかった。というか最近様子がおかしかった、というのを自覚してなかった。
 でも金策に悩みまくって今の生活にどうパパ活を取り入れるか、なんてことまで考えてたのは事実だから、傍から見たら様子がおかしく見えても仕方がないかも知れない。
「あー……その、俺の大学の学費、出してくれてたのが祖父さんなんすよ」
「ああ、なるほど。いいよ。いくら貸せば良い?」
「は? え? ちょちょちょ」
「あれ? 借金の申込みじゃなかった?」
 早とちり? と聞かれて、早とちりですとは返したけれど。
「え、あ、あー……卒業後に絶対返しますって言ったら、それ信じて、俺に金貸す気があるって、マジ、すか?」
「マジだけど。あーでも下心はあるから、俺に借りるより公的な……てか学費の話なら、まず奨学金とかは考えないの?」
「は、え、下心?? って奨学金は……」
「お祖父さんが学費出してくれててバイト三昧なら、今は借りてないんだよね? 奨学金、借りられる条件とかって調べたことは?」
 下心が気になりつつも、相手が奨学金の話を進めてくるので、こちらもそれに応じる形になってしまう。
「あります、けど」
「無理そうだった?」
「保証人、絶対断られる。っつうか、親は大学辞めて戻ってこいって言ってるくらいなんで」
 親は健在なんすよと言ったら、知ってると返ってきた。喪主はお父さんって言ってたでしょと指摘されるまで忘れてたけど、そういや言ったかも知れない。
「でも、かなりバイト頑張ってるし、基準値以上の給料があれば大丈夫なはず」
 親と不仲で絶縁してたりする子供でも学べるように、奨学金が借りられる制度があるらしい。それは知らなかった。
「マジすか。えと、調べてみます」
「大学内にそういうの相談できるとこもあるんじゃないかな。多分」
「マジか」
「そういうのは、あるかも、って思って探さないと気付けないものだったりするよね。あともし奨学金が無理そうなら、俺が貸せるから大丈夫。で、ここのとこ考えてたのって、今後の学費のことだけ?」
 他に何か心配事とか悩みとかあるなら聞くよと言われて、心配事でも悩み事でもないんですけど、と前置いてから。
「さっきの、下心って何すか?」
「や、その、あれは……」
 聞いたら相手があからさまに動揺した。

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親切なお隣さん7

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 お隣さんに食事を作るようになっておよそ2年が経過した大学3年次の夏、学費だけなら出せるからと大学進学を勧めてくれた祖父が他界した。もうすぐ定年退職を控えた59歳で、お正月に会ったときには、再雇用して貰えるし、まだまだ働けるから何の心配もいらないと胸を張ってくれていたくらい元気だったのに。
 突然の訃報に面食らいながらも参加した葬儀は散々だった。祖父が大学の学費を出すことを、実両親が忌々しく思っていたのはもちろん知っていたが、まさか葬儀の席で、顔を合わせたほぼ直後に遺産の話をされるなんて思ってなかった。
 勝ち誇ったような顔をした父に、お前に遺産を受け取る権利はないぞと言い切られ、大学なんかさっさと辞めて、実家に戻って就職しろとかなり強気な態度と言葉で命じられた。もちろん、実家に金を入れろという意味だ。
 実際問題、3年次後期と4年次丸々の学費分の当てなんて欠片もない。お隣さんのお陰もあってそれなりに貯金は溜まっていたから、3年次後期分くらいはなんとかなりそうだけど。でも4年次分が圧倒的に足りなかった。
 もちろん、言われたとおりに大学をやめて実家に戻る気なんて更々ない。諦めたくないし、諦めない方法を探すつもりだった。だって諦めてしまったら、ここまで学費を出してくれた祖父にだって申し訳無さ過ぎる。
 といっても現状かなりみっちりとバイトを入れていて、これ以上バイト時間を増やすのは色々と難しいかも知れない。無理して体を壊して医療費かかってバイトも休んで、なんて目にはあいたくないし、食事面は大丈夫にしても、ある程度の睡眠時間だってしっかり確保しておきたい。
 手っ取り早く短時間で高時給の単発バイトを副業で、的なことを考えたときに、どうしても思い浮かべてしまうのは、いわゆるパパ活的なアレだ。なぜなら、過去にそれでお小遣いを得たことがあるからだ。
 もちろんその時も必要にかられてだったし、もっというなら年齢もかなり偽っていた。そもそもバイトできる年齢だったら、そんなものに手を出してなかっただろう。あのときだけは、成長期が早めに来てて本当に良かったって思っていた。
 最初の約束よりかなり多めに払ってくれたから、多分相手は気づいてたけど。でもそこはお互い様というかなんというかで、はっきりと年齢を確認されることはなかった上で、かなり気を遣ってくれていたような気もする。
 多めに払ってくれたおかげで、そんな真似をするのは1度きりで済んだのもかなり有り難かったし、少なくとも、想像してたよりは酷い時間じゃなかった。
 だからこうして、今また再チャレンジするかを迷っているわけだけど。でもあれが相当幸運だったレアケース、という認識もちゃんとある。多めに支払ってくれたのだって、今の認識だと、口止め料的なものだった気がしている。アレがバレたらヤバいのは、どう考えても圧倒的に相手側だろう。
 問題は、実家周辺に比べたら供給も多そうだから、たいして稼げない可能性の高さだろうか。あと、お隣さんの存在が微妙にネックでもあった。
 バイトの時間を減らす気はないから、長期休暇中か日曜の夜に副業になるんだろうけれど、お隣さんといっしょに夕飯を食べていたらそれなりに遅い時間になってしまう。かといって、今日は夕飯作れません、と言ったら理由は絶対聞かれるだろう。これは経験的にも絶対だ。
 1度くらいなら誤魔化せても、繰り返し誤魔化し続けられる自信がない。
 いっそお隣さんが買ってくれたら良いのに。なんてことをチラリと思ったりもするが、そんな提案をしようものなら、盛大な説教が始まってしまいそうだ。というか、相手にそんな気が全く無いのも、実は既に知っている。
 お弁当を作るようになって暫くして、彼女が出来たって誤解されてるみたいだと報告されたときに、そんな話がチラリと出たのだ。もちろんその誤解は解いていて、隣に住む大学生の男の子が食費全額負担で作ってくれてると話したら相当驚かれたとかなんとか。まぁ、でしょうね、という当然とも言える話だったのだけど。
「女の子だったら絶対手放すな嫁にしろって言うのに男じゃなぁ、とか言っててさ。男の子じゃなきゃこんなお願いそもそも出来ないのにね。というかエアコン壊れたならうち泊まる? とか誘えないでしょ」
「女の子相手でも言いそうっすけどね。で俺が女だったとしても、そう言われてホイホイ泊まってるかも知れないですけどね」
「ダメでしょそれは」
「女の子だったら襲ってました?」
「だからそもそも泊まりなって言わないってば」
 じゃあどうしてたんだと聞いたら、随分悩んだあとで大家さんに連絡すると返ってきた。大家さんは既婚者で奥さんがいるから、女の子も任せられるはずとかなんとか言ってたけど、だとしても、相変わらず大家さんへの信頼が厚い。
「なら男で良かったす。けど、そのままお隣さんとこんな関係になるとか、あの時は全く思ってませんでしたけどね」
「ほんとにね。てかこの関係ってなんなんだろ、って思うことはあるよね」
 友達とは言い難いし、やっぱ雇用関係に近いのかな。と言われて、思わず。
「パパ活とかじゃないんすか」
「は? え?」
「パパ活、っす。援助されてデート、的な」
「デート……」
「お金貰って一緒に食事したりするみたいっすよ」
「いやいやいや。お金払ってないし。ただの食費だし。てかこれがパパ活じゃ全然割に合ってなくない?」
「食費だけって言うけど、それでも結構援助されてんですけどね。それにもし食費以外にも払ってくれる気があるなら、エロいサービスとかも、まぁ、出来そうな範囲でなら」
 まぁ当然お断りされたわけで、というかパパ活なんかしちゃダメだよと、そういや釘を差されたんだった。

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