親切なお隣さん6

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 お隣さんの夕飯を作る日々は楽しかったし、こちらとしてもかなり有り難かったけれど、そんな生活が出来るのは長期休暇中だけだってことをすっかり失念していた。つまり講義が再開するのに合わせて、夕飯作りが難しくなってしまった。
 暑い日中はなるべく家に居たくなくて、夏の間は昼間にバイトを入れまくっていたけれど、講義がある平日は夕方からのシフトになるのと、賄い付きなので夕飯はバイト先で食べられるからだ。
「というわけで、朝と日曜は変わらず作れますけど、平日の夕飯は無理そうです」
「ああそっか。残念だけどそれは仕方ないね」
「代わりに朝飯、もうちょっと豪華にしたりも出来ますけど。ああ、あとは作り置きとか?」
 レンチンして食べれるようなものを冷蔵庫に用意しましょうかと提案してみたが、少し迷ったあと、魅力的だけどやっぱり一緒に食べれないのは寂しいからとお断りされてしまった。
 それで一旦話は終わったと思ったのだけど、いざ講義が再開して今日から夕飯は作れませんよというその日の朝、昼用にと作っていた握り飯を目ざとく見つけた相手に、自分の分はと聞かれて驚く。
「えと、考えてませんでした。てか昼って弁当持ってくの有りなんですか?」
「別に問題ないけど」
「一緒には食べれないすけど、それは?」
「この部屋で一人で作り置き食べるのは寂しいなって思ったけど、お弁当は別な気がする。というか多分、お昼楽しみってなる気がする」
 お弁当作ってって言ったら作ってくれるの? と聞かれて、そりゃ作れってなら喜んで作るに決まってると思う。さすがに喜んでとまでは言わなかったけど。
「いっすよ。お米ももうアンタの出す食費から買ってるんで、今日のこれも、自分の分だけ握ってんのちょっと後ろめたいとこあったんで。てか作る前に聞けばよかったのか」
 聞けば最初から自分の分もと言われたかも知れないし、最初から、だったらお弁当作ってって言われたかも知れない。
「今日は今から米炊くのむりっすけど、じゃあ、1個持っていきます?」
「や、明日からでいいよ。君の分の昼ご飯減っちゃうでしょ。てかお昼っておにぎりだけなの? それとも学食でおかず買ったりする感じ?」
 ご飯だけでも持参したら食費浮くもんねと言われて、そっすねと同意はしたけれど、夏休み前にそんな贅沢をする余裕は正直なかった。無料で提供されているお茶があるから、学食そのものは利用していたけれど。
 お隣さんのお陰でちょっとは余裕が出来たから、今日の昼は、言われたみたいにおかずやら味噌汁やらを購入してみてもいいかもしれない。
「えと、おかず学食で買うのが楽なら、弁当作り面倒じゃない?」
「朝飯作るついでに作るんでダイジョブす。当然おれの分も作っていい、って思ったら、そっちのが有り難いんで」
 バイト先で賄いが出るとはいえ、そこまで健康面に気を遣ったような食事が出るわけもなく、夏の間は朝と夜とお隣さんのご飯を作るという名目で野菜も肉もモリモリと食べてしまっていたから、朝と日曜だけになってしまうのを惜しむ気持ちはこちらもかなり大きかった。
 ホッとした様子で、なら良かったと言った相手が、既に明日の弁当に思いを馳せながら楽しみだと笑う。
「あの、一つ問題があって」
「え、なに?」
「握り飯持ってく、みたいなのは前からやってましたけど、まともに弁当ってのを作ったことがないんすよね」
「そうなんだ。それはますます楽しみかも」
「え、なんで?」
「だってお弁当に君の試行錯誤が反映されてくってことでしょ? じゃあ、開けた時どんなだったか写真撮って、感想添えて送ってもいい?」
「マジ、すか?」
 うん、と力強く肯定した相手が、ほんと楽しみだよと言って笑った。

続きました→

 
 
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