理解できない43

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 もし隠しているなら暴かれたくないのかも知れないと思えば、尚更聞きにくい。ついでに言えば、何も隠されてなかった時にどうするのか、というのも問題だ。
 何かしら理由があって抱きたいと言わないだけで、巧妙に隠されているのだとしたら。もしくはこちらがぼんやりと見逃していただけなら。次にどうするかはそれなりに手がありそうだった。
 でも本気で、もう抱かなくてもいいと思われていた場合に、自分がどうしたいのかはわからない。というか、考えていなかった。
 そっちの可能性だって、ないわけじゃないのに。
「企みっていうか、の続きは?」
 黙ってしまったせいで続きを促されたけれど、こんな場面になって思い至った事実の方に気を取られて、続く言葉は出てこない。
 相手をじっと見返しながら、抱きたい気持ちがないのだと言われる事を想像してしまう。
 セックスなんて、しなきゃしないで楽だと思う気持ちは確実にあるし、相手も同じように考えているなら、それは喜ばしい事かも知れない。自分から求めようとは思わない、というだけなら、自分だって同じだった。なのに。
 嬉しいよりも、苦しい感じで胸が痛い。
「あー……とりあえず、今、何考えてるか口に出す気は?」
 大丈夫だから言ってみろと、何がどう大丈夫なのかもさっぱりわからないような事を言われて、でも、きっぱりと大丈夫と言われると、それだけでなんとなく安心してしまう。安心して、話してみようかと思ってしまう。
 自分のことなのによくわからない、この矛盾した気持ちを、彼なら上手に解きほぐして、わかりやすく教えてくれるかも知れない。だって、自分よりもよっぽど、自分を理解してくれている。いつかみたいに、どんだけお前を見てきたと思うのって、言ってくれるかも知れない。
「俺のこと、抱きたい気持ち、なくなっちゃった?」
「は?」
「前に、早くもう一度抱きたいって、言ってたの、どうなったのかなって、思って」
「ああ、そんなことも言ったか」
「やっぱ、今はもう、抱かなくていい、って、思ってる?」
 言われて思い出した、みたいな言い方に胸の痛みが強くなって、吐き出す声が少し震えてしまった。
「抱きたい気持ちはちゃんとあるよ!?」
 じわっと涙が滲んでしまえば、相手が焦った様子で声を上げる。
「今だって、早くもう一度抱きたいとは思ってるし、二回目をどう誘うかだって今も悩んでる」
「嘘だっ」
「嘘じゃないよ。ただ、急いではいないし、抱かなくても満足できてる部分は大きくて、そのせいで、もう抱かなくてもいいんだとお前に思わせたのはあると思う」
 気持ちのままに声を荒げてしまえば、こちらの気持ちを落ち着けようとしてか、相手の言葉はことさら柔らかにゆったりと吐き出されてくる。だからこちらも、気持ちを落ち着かせるように、一度大きく息を吸って吐いてから口を開いた。
「でも、早く抱きたいのに急いでないって、おかしくない?」
「おかしくないだろ。早く抱きたいとは思っても、お前を急かして抱くんじゃ意味がないんだって」
「でも俺、もう、気持ちは育ったと思うんだけど」
「まぁ、育ってはいると思うけど」
「つまり、まだ足りないから、抱こうとしないだけ?」
 これは想定外だぞと思いながら聞けば、そうじゃなくてと否定されてよくわからない。
「気持ちが足りないって話ともちょっと違ってて、何て言うか、お前がさ、そこまで俺に抱かれたいと思ってなさそうと言うか、今の状態を気に入ってそうというか、」
「えっ、待って。つまり、俺のせいで抱きたいって言えないって話?」
 これもある意味想定外だ。何かしらの理由があって巧妙に隠されている、って部分は想像通りなのかも知れないけれど。

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理解できない42

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 いつだったか、早くもう一度抱きたいと思っていると、言われたことがあったはずなんだけれど。こちらの気持ちが育つのを楽しみに待っている、とも。
 でもそう言われたのは一度だけだし、今も同じように思っているとはとても思えない。
 気持ちが離れたわけでもなさそうだし、不満がある様子だってないし、多分間違いなく、交際は順調に進んでいるはずだ。なのになんで、抱きたいと言ってくれないんだろう。抱きたいと思っていたはずの気持ちは、一体どこへ行ってしまったんだろう。
 気にはなるものの、はっきりと問い詰めるべき問題なのかがわからない。だって不思議には思うけれど、不都合は特になかった。むしろ抱きたいと言われない方が都合がいい面も多い。
 なんせ、抱かれるには何かと準備が必要だ。いつ相手がその気になってもいいように、常に体を準備しておく、なんて態度を相手が望んでいないのは明白だったし、そうやって準備をしてしまったら、せっかく準備したんだから抱いて欲しいと考えてしまうだろう。そんな理由で抱かれたがるのだって、絶対に望まれていない。
 つまり、そう思って体の準備なんて全くしていないから、いざ抱きたいと言われたら、慌てて体を慣らす羽目になってしまう。今日は抱きたい気分だ、なんていきなり言われたって断るしかないだろうから、抱きたいなんて言い出さないなら、それはそれでありがたい事じゃないかとすら思えてくる。
 でももし、相手もそれをわかっていて、気持ちが盛り上がってこのまま抱きたいって思っても、どうせ無理だと口に出さずに居るだけだったら……
 いやでも、このまま抱きたい、みたいなギラついた様子は見た記憶がない気がする。触れ合う時の相手は、だいたいいつも、満足げで楽しげで、甘やかな優しい顔をしていると思う。
 それとも、見逃している可能性はあるだろうか。そういえば抜き合うような時はいつも、安心しきって相手の手に心ごと体を委ねてしまうし、素直に喘ぐ方が相手が喜ぶようだから、相手のくれる快楽に浸ってばかりで、相手のことを注意深く観察するなんて真似はしたことがなかった。
 しかし、そう思って相手の様子を探ろうとしたら、あっさり気づかれ、今日は気が乗らないのかと問われてしまった。
「そういうわけじゃ……」
「じゃあまた、何か企んでる?」
 今回は何? なんて聞かれたって、正直に言えるわけがない。まぁ抗った所で、気づかれた以上は聞き出されてしまうんだろうけれど。でもそう思ったからって、こういうわけでと素直に事情を言えるかは別問題だ。
「というかさ、なんですぐ、何か企んでるって思うの」
「いやでも実際、何か企んでんだろ?」
「だからなんでそう言い切れるのって聞いてんだけど」
「何も企んでなかったら、というか思い当たることがなかったら、お前はこういう反応しないから」
「こういう反応って?」
「教えるわけ無いだろ。意図的に反応が変えられるかはわからないけど、もし今後、出来るようになられると俺が困る」
 気づけないと大事なものを見逃しそうだと続けた相手の手が頬に添えられ、すっと顔が近づいてきて、ちゅっと唇に軽い音を立てた。
「で、どうしたら教える気になる?」
 頬に添えられていた手が頭に移動して、あやすみたいに何度か撫でられる。髪を梳いて頭皮を滑る指先が気持ちいい。
「企みっていうか、」
 促されるまま口を開くものの、どこまでなら口に出せるかを瞬時に考える。だってまだ迷っていた。抱きたい気持ちがどこへ行ってしまったのか、こちらが気づいてないだけで今も隠し持っているのか、直接問いただしていいのかどうか。

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理解できない41

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 デート先に相手の家が追加されてから先は、そこで過ごす事が大幅に増えた。代わりに、彼が実家へ戻ることは減った。
 休日におじさんもおばさんも不在という確率は低かったし、いきなりドアを開けられるような事はないとわかっていたって、やはり鍵の掛からない自室よりは完全に二人きりで過ごせる空間が気楽なのは、自分も相手も同じだろう。
 勝手に食事が用意されることがないので、イチャイチャの内容に食事の準備というのが増えたのも、実のところ結構楽しんでいる。以外なことに、相手はそれなりに料理ができた。
 以外というのは、自分は全くと言っていいほど料理なんて出来ないからだ。お茶くらいは自分でも入れるけれど、基本的には食材も調理器具も勝手に触っていいものじゃない。
 勝手に使っても怒られはしないと思うし、料理を教えてくれと頼めば嬉々として教えてくれそうな気もするが、勝手に料理をしてみたことも習いたいと頼んだこともなかった。
 そしてそれは相手も多分同じだっただろうと思うからだ。この家に招かれる以前に、彼の手料理を食べたことはなかったし、キッチンに立つ姿を見たこともない。
 一人暮らししてから覚えたと言っていたけれど、まず、自分で作ろうと考えた事が凄いなと思う。素直にそう言えば、お前は金がないと言ってカップ麺とかで済ませそうだと返されたけれど、その可能性は大いにある。いつかは自分だってあの家を出るつもりだけれど、毎食外食やら弁当を買って済ますような金銭的余裕がある生活が送れるとは到底思えない。
 まぁ多分、あっさりそれを認めた上に、せめてご飯くらいは自分で炊けよと言った相手に、炊き方なんて知らないと返してしまったのが、大きいのだろうと思う。イチャイチャと一緒に食事の準備をする、の本当のところは、半強制的に自炊手段を叩き込まれているに過ぎない。
 それでもそんな風に過ごす時間を楽しいと思えているし、いつか一人暮らしになった時に本当に自炊するかはともかく、出来ないよりは出来た方がいいだろうから感謝だってしてる。もちろん恋人としてのスキンシップだって増えていて、ハグやキスはかなり頻繁にするし、触れ合っていればだいたいは抜き合いにも発展してしまうから、性的にも満たされていて大きな不満はない。
 不満はないけど、不思議ではあった。不思議というか、本当にこれでいいのかな、という疑問のような、不安のような感情だ。つまりは、いい加減、突っ込めばいいのにって話でもある。
 焦らしてやろうなんて気はもうないし、気持ちだって多分もうちゃんと育っていると思うのだ。ハグの合間に、キスの合間に、抜き合うその時に。好きだと言われば好きだと返すし、自分から好きだと告げてキスをねだることだってある。
 そんな時、相手は満足そうに笑っているから、そろそろ試してみたっていいんじゃないのと思ってしまう。セックスの合間にやり取りする好きだって、そう大きく変わると思えない。
 でも抜き合う以上の触れ合いに発展したことはないし、まだ抱かないの? と聞いたこともあるけれど、どうしても抱かれたいなら考えると返されてしまった。焦らしてやろうなんて考えたから、こちらが抱かれたくて仕方がなくなるまで焦らしてやろうって魂胆かと思ったけれど、どうやらそれも違うらしい。抱かれたいって言えば、焦らさず抱いてくれる気はあるようだ。
 そこまでわかっているのだから、気持ちは育ったはずだから抱いてくれと言えばいいのかも知れない。でも特に抱きたいとは思っていない様子の相手に、自分から抱いてくれと言い出す理由がなかった。

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理解できない40

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「忘れてると言うよりは、当時全く自覚してなかっただろうから、もっと早く好きになってればとか言えるんであって、高校時代のお前に、誰かを好きになるような気持ちの余裕なんて全然なかっただろう」
 どういう意味かと問うて返された答えに、言われてみればそうだったと思い出す。
「あー……確かに」
「もしあの頃に俺のお前への気持ちが恋愛感情だと知ったって、同じ想いを返そうより先に、それをどう利用すれば高校生相手に抱く気になるかを考えただろうよ」
「まぁ、同じ想いを返されたいって誘導されなきゃ、そうなるよね」
「誘導したらしたで、想いを育てさえすれば抱いて貰える、みたいに考えそうだったけどな」
「ああ、うん、確かにそうかも」
 指摘されるたび、その通りだと思ってしまうくらい、本当によく覚えている。というよりも、よくそこまで見ていたな、という気持ちが近いかも知れない。
「そう思うと、なんで今、そんな気持ちになれてんだろ? って逆にちょっと不思議になるな」
 高校を卒業したってだけで、余裕が生まれるものなのだろうか。と考えると、そんな簡単な話には到底思えなかった。
「それを成長って呼ぶんだろ」
「そ、っか……」
「まぁ、卒業したら抱くって約束が果たされたから、というか、今までの礼を体で払わないとって気持ちが落ち着いたから、ってのが大きそうだとは思うが」
 高校時代はどうやって抱かせようか、卒業したら本当に抱いて貰えるのか、って気持ちが強すぎたし、卒業後は分割払いで今までの礼を体で払うのだと思い込んでも居たわけだから、誰かと恋愛をするなんて気持ちを持ちようがなかったんじゃないかと言われてしまえば、そうなのかも知れない。
「なんか、ほんと、俺のこと、俺以上によく知ってるよね」
「どんだけお前を見てきたと思ってんの」
 少し呆れた声音に、やっぱりまた、その通りだなと思う。初めて出会ったあの夏からずっと、彼には成長を見守られてきた。きっととてつもなく大きな愛で。
「うん。ありがとう」
 嬉しいと笑ったら、一瞬面食らった様子で驚いていたけれど、すぐに柔らかに笑った顔がゆっくりと近づいてくる。
「なら、良かった」
 そんな囁きとともに唇が塞がれて、ちゅっと唇を吸い上げていく。ちゅっちゅと柔らかなキスが繰り返される中、彼に体を預けるつもりで体の力を抜いていけば、支えるように背を抱かれてキスもだんだんと深まっていった。
 さっきみたいな一方的な乱雑さのないキスが気持ちいい。ゆっくりと探られる口内から、触れ合う舌先から、ぞわぞわと快感が広がっていく。
 再度服の下に差し込まれた手には、やっぱりビクリと体が跳ねてしまったけれど、それは肌に触れた手に引き出された快感からであって、驚きも焦りも混乱もない。そのまま彼に体を預けきって、気持ちいいに集中していいのだと、わかっている。
 ただ、気持ちよくなれば当然下半身が反応してしまう。もぞっと腰を動かしてしまえば、こちらの状態は相手にもすぐに伝わった。
「ここまでにするか? それとも、抜いてやろうか?」
 そんな二択、選ぶまでもないのに。
「して。抜いて」
「んー、でも、お前、俺を焦らしたいんじゃなかった?」
 ニヤッと笑われて、うっ、と言葉に詰まってしまう。意地が悪い。そんな企みは浅はかだったと、とっくに認めている。
「そんなの無理って、も、わかった、ってば」
 実際今だって、焦らしたいんだろ? なんて言っている彼よりも、間違いなく自分の方が焦らされている。
「ね、焦らさないで、よ」
 甘えるみたいに自分から顔を寄せて唇を触れ合わす。キスの続きをせがむように差し出す舌は、願い通り相手の唇に食まれて吸われ、上半身を撫で回していた手がようやく下半身の膨らみに触れた。

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理解できない39

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 なんでと問えば、その気になってない相手に触ってもきっと楽しくないと思うからだと返された。
「無理強いする気もないし、乗り気じゃないお前相手に手ぇだす理由がないって」
 続いた相手の言葉に、そういやそういう人だったと思い出す。相手を焦らすというのは、思ったよりもずっとずっと難易度が高そうだ。というかもう、無理だと諦めたほうがいいような気さえしてくる。
「あーああーもー! 知ってた! 知ってたそれ」
「え、何だよ突然」
「結局さ、そっちが俺を抱きたくて仕方なくなるより先に、俺が抱かれたくて仕方なくなるやつでしょこれ」
 やけくそ気味に言い放てば、呆気にとられた様子でしばし眺められた後、何かに思い当たってしまったらしい。
「あー……つまり、俺がお前を抱きたくて仕方なくなるまで、お前に手を出させない予定だった?」
 企んでたのはそれだろうという指摘に、渋々と、ちょっと焦らしたかっただけだよと白状する。
「だって高校時代、俺は散々焦らされたわけだし」
「なるほどな。ただ、言わせてもらえば、お前が高校生だった時期、俺は焦らされただけじゃなく、煽られまくるのを散々耐えても居たんだが?」
「ん? どういうこと?」
 聞けば盛大に溜息を吐かれてしまった。
「お前が抱いて貰えなくて辛かったって言うなら、俺だってお前を抱けなくて辛かったって言ってんだ。しかもお前の抱いて貰えないって、お礼を受け取って貰えない、みたいな話だっただろうが。好きなのに抱いて貰えないって話じゃなかったろ」
「それはそうだけど、」
 あの頃の気持ちが、好きなのに抱いてくれないだったら何か変わってたのかと聞きたかったのに、反論は許さんとばかりに彼の言葉が続いていく。
「こっちは好きな子から無邪気に、絶対食えない据え膳チラつかせられてたようなもんだぞ。その俺の心労が、散々焦らされたなんて言ってるお前の苦労に劣るとは到底思えないね」
 どうだとばかりに言い募られて、そう言われてしまえば、自分だけが焦らされていたわけじゃないのは確かだろう。今度は自分が焦らしてやりたい、なんて事を思ってしまったのは浅はかだったと認めるしか無い。
「それはわかった。けどさぁ、もし俺があの時期に既にあなたを好きって思えてたら、あなたが言うところの子供相手でも、恋人になったり据え膳食べたり出来たわけ?」
 あんなに年齢を気にしていた相手が、気持ち一つでそれを覆すはずがない。どうせ抱いてくれないなら、好きなのに抱いて貰えないって状況になる方が、もっと辛かったはずだ。と思った所で、彼の憤りがわかってしまった。
 なるほど。好きな子に手を出せなかった相手の方が、より焦らされていたに違いない。
 なんてことをあれこれ考えていたせいで、彼の答えがすぐには理解できなかった。
「もしあの頃のお前の中に、自発的に俺への気持ちが湧いたってなら、喜んで、恋人になってたろうさ」
「…………は?」
「恋人には、なってた」
 間抜けな音を口から漏らしてしまえば、相手は重要なところを繰り返してくれる。
「え、嘘でしょ。高校生だよ? 子供だよ?」
「さすがに抱いてくれに応じるのは無理だけど、好きだって言いあったり、デートしたりは出来るだろ。というか、二度目を躊躇ってる今の状態がまさにそれだろ」
「ああ、そっか。てかなんで俺、もっと早く好きになろうって思わなかったんだろなぁ」
 勿体ないことをしたと言ったら、やっぱり少し呆れた顔と声で、成長していて何よりだと言われた。解せない。

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理解できない38

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 キュッと唇を引き結べば、ふーんの声と共に、ジロジロと見られる視線を感じる。ドキドキが加速していくのは、もちろん期待や興奮ではなくて、きっと緊張だとか焦りに違いない。
 未だ視線を逸らしているせいか、彼の顔がグッと寄せられてくる。無理矢理にでも目を合わせようとしているのかと思って、咄嗟に目を閉じてしまえば、そのまま口を塞がれた。
 キスをされるような雰囲気ではなかったと思う。しかも、口を開けと言わんばかりに閉じた唇の隙間を相手の舌が舐め突いてくるから、迎え入れるように口を開きながらも、何が起きているんだと脳内は結構混乱していた。
 スキンシップが増えるのに合わせて、キスをすることだって増えたけれど、スキンシップの延長だからか、唇が触れ合うだけみたいなキスも多かった。たまに悪戯するみたいに舌が触れ合うこともあったけれど、相手の欲を感じるほどの深さになったことはない。
 そのことに不満を感じたことはない。高校時代は彼の唇が自分の体のどこかに触れるってこと自体がほぼなかったのだから、その彼と唇同士触れ合わせるキスをしてるってだけでも充分に特別を感じられたし、自分たちが恋人だということを意識できた。
 つまり、完全に二人きり同様に、こんなキスもあのラブホ以来だった。でもあの時みたいに、体の力を抜いて彼に体を預けられない。気持ちよくなることに集中できない。
 なのに相手はお構いなしに口の中を好き勝手弄ってくるし、服の裾を捲るようにして、彼の手が入り込んでもくる。素肌に彼の手が触れる。
 驚いて体が跳ねた。ますます混乱して、焦って、どうしていいかわからない。
「なぁ、嫌なら少しくらいは抵抗してくれ」
 やがて相手の顔が離れていき、やっとキスから開放されたとホッとする間もなく、どこか困った様子の声が掛けられ目を開けた。声だけじゃなく、顔も心配と困惑を混ぜたみたいな表情をしている。
「別に、やだったわけじゃ……」
「でも全く乗り気じゃないのは事実だろ?」
 積極的に触れに行っても、全く喜ぶ様子がなかった。という指摘に、そんなことないよと言える態度じゃなかったのは認めるしか無い。
「だってどうすればいいのかわかんなくて……」
「うん。だからそれ、お前が何か変なこと企んでるせいだろ?」
 その指摘にも当然、違うとは言えなかった。
「どうしても言いたくないなら、もう暫く聞かずに居てやってもいいけどさ。でも幾つか確認させてくれ」
「確認?」
「そう。俺と恋人になったのを後悔してるとか、恋人やめたいとか、思ってない?」
「思ってない! 思ってるはずないっ!」
 慌てて否定する声は思っていたよりずっと大きかったのか、驚いた相手が体を反らす。そうして離れた距離を縮めるように、今度はこちらから身を寄せてギュッと抱きついた。
「恋人やめるとか、言わないで」
「そんなこと言ってないし、言う気もないし、思ってもないって」
 呆れたような声は同時に笑いも含んでいて、優しく背中を撫でられる。
「というか、どっちかというと、それは俺が言うはずだったんだけど」
 恋人やめるとか言うなよと耳元で甘く囁かれて、同じように、そんなこと言う気もないし思ってもないと返してやった。
「良かった。でさ、乗り気じゃないってなら待つのは全然構わないんだけど、」
「え、全然構わないの?」
 がばっと相手から身を離して、その顔をまじまじと見つめてしまう。相手はこちらの勢いに驚きの表情を見せてはいるが、吐き出す声は至って平静だった。
「構わないよ。てかそこに引っかかんの?」
 相変わらず気にする所が想定外と言われてしまったけれど、待たされても全然平気とか言われているに等しいそれを、気にせずにはいられない。

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