竜人はご飯だったはずなのに19

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 たしかあの時は、世話係の彼の権限ではどこまで話していいかわからないというのと、人である自分が彼らの繁殖について知るのは良くないと思うと言われたんだった。さて、こちらの彼はどういう判断をするんだろう?
「なぁ、お前らって好きな相手と繁殖期が揃わなかった場合って、どうすんの? 繁殖行為も仕事の一つってのは聞いたけど、好きとか関係なく繁殖期同士でセックスしてんの? それとも子供作れなくても、好きな相手とセックス楽しんだりする?」
 知っちゃいけないことなら言わなくてもいいけどと付け加えれば、相手は少し考えたあとで口を開く。
「仕事として行う子作りはもちろんある。繁殖期同士のものが顔を合わせて、合意に至れば子を作る。正確には、繁殖期が来た雌の目に叶えば、自分の子を成せる」
 圧倒的に雌の数が少ないんだと言った相手は、雌の竜人と戦ったことはないだろうと聞いてくる。言われてみれば確かに、雌の竜人なんて一度も見たことがない。
「彼女たちは大切に守られていて、子を産み育てるのが仕事で戦闘はしないんだ」
 仕事で行う繁殖の場合、自分の子を成せるとは言いつつ、その生まれてくる子供に会うことすら出来ないらしい。繁殖に関しては雄は種を提供するまでが仕事で、雌ともその繁殖期間だけの付き合いになるようだ。
「なら仕事じゃない子作りは? 夫婦で繁殖期揃わなかったらどうすんだよ」
「そもそも雌雄で夫婦という概念が、特別な階級のものにしか当てはならないんだが、そういった階級のものであれば例の薬を使って雄が雌の繁殖期に合わせて自身を発情させて対応する」
 人の世界とは繁殖のあり方が大きく違うのはわかっているから、理解できなくても仕方がないと彼は言う。
「えーと、じゃあ、その特別階級以外は、好きになった女口説いて結婚して一緒に暮らしたり、好きな女に自分の子を産んでもらって一緒に育てる、みたいなことは出来ないってこと?」
「そもそも特定の場所で守られ生活している彼女たちと、成人後に会話できるのなんて、繁殖期のお見合いくらいなんだが」
「マジか。てことは繁殖期に数少ない雌に選ばれなかった奴って、その性欲どうすんだよ」
 聞けば当然一人で処理すると返された。ただし幾つかの例外パターンもあるようで、一番多いのが別種族の雌との合意あるセックスで、その次が同族の雄相手の合意あるセックスで、数はかなり少ないが別種族の雄に相手をして貰うこともなくはないようだ。
 ごくごく稀に、相性が抜群に良い相手となら、別種族との間でも子が成せる場合もあるようだし、相手次第だけれど育児に関われる可能性も高くなる上に、ハーフの子はどういった力を持って生まれてくるか全く謎なところも大層魅力的らしく、常から別種族の雌と懇意になる機会を狙っている雄は多いらしい。
 ついでに言うなら、禁止されていて発覚すれば下手したら殺されるほどの罪になるのが、合意のない相手をむりやりに襲うことで、繁殖期の己の理性に自信がない奴らが閉じこもるための、専用施設まであるというのだから驚きだった。
 そして、好きな相手の発情を受け止めるのが嬉しい、というのは、同族の雄が相手を務める場合の話らしい。受け止める側は発情しているわけじゃないから、基本的には気持ちが良くなれるわけではないけれど、それでも好きな相手との行為は素晴らしいというのが定説だそうだ。
「基本的にはってことは、気持ちよくなれる場合もあんの?」
「雌雄での夫婦という形態は特別階級にしか存在しないと言ったが、雄同士で決まった相手と長年続けているペアはそこそこ居る。相性が良い相手と何度も行為を繰り返すと、発情して無くても気持ちよくなれるらしいとは聞いたことがあるが、ペアを組みたいような相手が居るわけでもなかったし、さすがにその詳細までは気にしたことがなかったんだが……」
 少し言いにくそうに言葉を切った相手は、受け入れる側が訓練すれば発情無く快感を受け取れるようになるのは事実だと、自分の体で実感していると言って、困惑と羞恥を混ぜたような顔をした。

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竜人はご飯だったはずなのに18

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 毎日それなりに忙しくしていても、たまに一日まるまるオフだという日がある。そんな日は当然、昼間から目一杯キモチガイイ行為に耽る。
 食事のセックスは夜から朝にかけてだったけれど、彼の寝室がこの部屋になってからは、夜遅くに行為をねだることはしなくなった。早く戻れた日に少しと、オフな日にたっぷりと。それでだいたい満足できる。
 長時間触れ合うときは、だいたい最初は人型だ。加減は覚えてもらったから、元の姿だってそうそう傷つくことはないのだけれど、こちらが竜人の姿で触れられるのを好むように、相手が人型で触れ合うのが好きだと言うので、相手がある程度満足行くまでは人の彼に触れられる。
 鋭い爪を持つ竜人の指をアナルに突っ込むなんて真似はさすがに出来ないが、人の指なら尻穴の中を色々イジれる、というのが相手にとってかなりポイントが高らしい。
 尻穴に味覚はないものの、やっぱり唾液を送り込まれる方が体が喜ぶのがわかるし、どうしたって指より舌で舐めて貰うほうが好きだけど、唾液という圧倒的な快楽物質なしに指だけでイカされるのも悪くはない。これは食事ではないと思い知るような、純粋な快感が嬉しい。互いに性器が勃たない状態での触れ合いだけれど、肌を触れ合わせて想いを通わせ気持ちよくなるこの行為は、間違いなくセックスだろと思う。
 それと最近は、人型の間に立場を変えて、相手のアナルを弄ってみたりもしている。指で弄られるだけで気持ちよくなれるのだから、もしかしたら、相手だって中を弄られる快感で絶頂を極められるようになるかもしれない。
 まぁ、魔法で人型になるというのが、どこまで同じになれるものなのかはわからないけれど。
 ただ、自分の体で気持ちが良いと感じることを、相手の体にも試しているうちに、少しずつ相手の体も変化しているようだった。しかもその変化はどちらかというと、竜人の姿のほうが顕著だった。
 人型のアナルは深く弄ってもなんとなく気持ちがいい程度らしいのに、竜人のスリットは随分と敏感になってしまって、指を突っ込んでかき回しても、舌を突っ込んで舐め回しても、感じ入って甘い吐息を零す。かといって湧き始めた快楽に身を委ねきることは出来ないようで、戸惑いの滲む恥ずかしげな様子がたまらなく自分の中に残る雄の部分を刺激する。
 彼を絶頂に連れていきたい。もっともっと気持ちよくさせたい。そして今後もし勃起機能が回復するなら、その時はこのスリットにペニスを差し込み、何度も突き入れかき回してやりたい。
 そんな欲求を漏らせば、相手はあっさり、当然そのつもりでいると返してきたから驚いた。でも言われてみれば納得する部分も多い。
 こちらはスライムに嬲られまくって体の機能を変えられているし、初めて彼に抱かれたときはとにかく飢えきって死を待つような状態だったから、男に抱かれるという行為を否応なく受け入れてきてしまった。けれど彼は違う。抵抗感がかなり強そうなのに、それでも拒むこと無く触れさせてくれるのが嬉しくて、でもなぜ許すのかはなんとなく聞けずにいた。
 だって仕事として仕方がなく受け入れてくれているだけだって知ってしまったら、やっぱりそれなりにショックを受けるだろうなって、わかっていたからだ。
「もしかして、いつか勃起した時には相手しろって、言われてたりする?」
 だから嫌々でも受け入れて弄らせてくれるのか、とまではやっぱり聞けない。
「強制はされていない。拒否権はある。ただ、現段階でお前に誰かを抱きたい衝動が起きた場合、相手は私かあの子の二択しかないからな」
「つまり、アイツにそんな相手を務めさせるのは可哀想、みたいな理由で、お前が抱かれる気でいる?」
「まさか。彼にだって拒否権はある。あの子は確かに初心だけれど、芯はしっかりしてるから、彼の意に沿わなければ応じないよ。まぁお前が本気で頼み込んだら、頷くとは思うがな」
 好きな相手の発情を受け止めるのは喜ばしいことだからと続いた言葉に、そういや似たようなことを聞いたことがあるなと思った。

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竜人はご飯だったはずなのに17

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 結果から言うと、プロポーズ云々はひとまず棚上げされてしまったものの、彼の寝室がこの部屋になった。つまり、一日の終りに彼は毎回この部屋を訪れ、同じベッドに入って眠っていくわけだ。
 それなりに忙しいのか、カーテンが閉められて随分経過してから戻ってくることも多かったし、何の連絡もなく一晩中姿を見せない日もなくはない。でもそういう時は謝ってくれるし、お詫びの名のもとに甘やかして構ってくれるから正直どうでもいい。というか、ほぼ毎日会えるってことが以前の生活と違いすぎて、たまに会えない日があるのなんてホントどうでもいい。
 もちろん、世話係の彼も相変わらずこの部屋には出入りしていて、朝と夜にカーテンの開閉と共に食事の液体を運んでくるし、日中のほとんどを彼と過ごす。口直しのキスは貰わなくなったし、誘惑しまくることもなくなったけれど、そんな自分の変化を、食事担当の彼と上手くいっているからだと言う理由で喜んでくれている。
 ただ、食事としてのセックスは、あれ以来一度もしていない。生きるためのエネルギーは朝晩の液体で補えたし、味の改良は着々と進んでいるし、口直しとしてではないキスをたくさん食事担当の彼が与えてくれるから、体の奥が疼きまくって精液を搾り取りたいって欲求が湧かなくなった。精神的な満足というのはやはり大事らしい。
 強い薬で体を発情させなければならないと知ってしまったし、そんな負担をかけてまでセックスで食事をする必要なんてない。というのも、大きな理由の一つだ。
 もの凄く正直に言ってしまえば、大きなペニスで奥を突かれることで得る快感はやっぱりあったし、結局一度きりになってしまった、竜人姿の彼の勃起ペニスへの未練もある。でも、あの日こちらが望んだとおりに、食事目的じゃないイヤラシイことを重ねるうちに、ペニスに貫かれなくたって十分気持ちよくイけるようになった。
 当初望んでいた以上の生活に激変して、こちらとしては大満足なのだけれど、少しだけ問題があるとすれば、あの日勃ちかけたペニスがあれ以降結局無反応という辺りだろうか。
 もちろん自分的にはどうだっていいんだけど、彼らがどうでも良くないらしいというか、人としての機能を取り戻させたがっているというか。多分、モンスターの餌食になって肉体改造までされてしまった人間たちを、もとの体に戻してまた人間界で生活できるようにしたいっぽい計画な気がしている。
 体の機能が完全に戻ったって、今更人間界へ戻ろうなんて欠片も思えないだろう。けれど、同じような目にあって元の生活に戻れるなら戻りたいってヤツのために、モルモットを続けるのは構わない。あんな目にあって精神が壊れること無く生き続けていること自体が、そうとう稀なケースで、自分自身が彼らにとって超貴重なサンプルだってのも、わかっているつもりだ。
 竜人本来の彼のペニスで絶頂した、という部分が引き金の可能性があるから、いずれ食事目的ではなくこちらの勃起を促す目的で、セックスをする日が来るかもしれない。ただ、今のところは様子見だそうだ。
 食事目的ではない彼との行為で、もっと深く感じるようになれば、反応する可能性があること。もしかしたらもっと効力の弱い低リスクな薬が出来るかもしれないこと。世話係の彼の繁殖期の周期が2年程度なこと。最悪10年待てば食事担当の彼の繁殖期が来ること。
 なんて聞かされて、長命種族ゆえののん気さってのは、やっぱりあるのかもしれないと思った。後、世話係の彼とのセックスが計画に組み込まれていたのは驚きだった。だったら先に、繁殖期中のそこらの竜人とセックスしてみるのが手っ取り早そうなのに。
 ただこれは、世話係の彼も食事担当の彼も揃って酷く言葉を濁すので、気づくのに時間がかかったけれど、つまりは雌ならまだしも雄の人間なんかとセックスできるわけねーだろ、と多くの竜人が思っているということだった。繁殖期であれば肉体は発情しているから、仕事として割り切って応じてくれる相手を探すことは可能かもしれないけれど、どう考えてもそんな事務的なセックスに感じて勃起するタイプじゃないからただの無駄だという判断は、多分正しい。
 さらってきた人間を開放しようという動きはそこそこあるものの、モンスターの餌食になって肉体改造までされた人間を、保護して生かして元の生活に戻れるようにしようなんて活動はかなり細々としたものらしいから、見つけてくれたのが彼らだった自分は、間違いなく相当運がいい。元々、保護した以上は最後まで責任持って世話してくれる気でいたらしいけれど、さすがにこんな関係になるとは思っていなかったと言った彼は、濃厚な唾液をたっぷり口内に流してくれた後で、でもこの生活も悪くはないと笑った。

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竜人はご飯だったはずなのに16

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 ベッドの上で広げた足の間に、頭というか口先を突っ込まれ、伸ばされた舌で尻穴に唾液を送り込んでもらう。人の姿のときとはやっぱり全然違う。舌の長さや厚みが違うのは当然だが、鼻も口先も押し付けられていないのに、人のときよりも奥まで舌が届いているのがわかる。
 たまらなく、気持ちがイイ。
 本当はもっと竜の頭を肌で感じられたらいいんだけど。でももっと奥にと頼んだって、これ以上顔を寄せてはくれないだろうし、何かを察した彼によって足を押さえられているので、足を閉じて彼の頭を挟んでやることも出来ない。
 それでも、気持ちが良いと喘いで、もっと奥まで欲しいとねだり、キツく押さえられているわけではないから腰を揺すってみせる。
 あまり暴れるなと掛けられる言葉を無視して腰を揺すり続ければ、だんだん押さえつける力も強くなっていく。気をつけてくれているのだろうけれど、たまに爪の先が肌に刺さる痛みにゾクゾクする。痛めつけられたい被虐趣味なんてないけれど、本当の姿で触れて貰っているのだとわかるのがたまらない。
 ただ、こちらがどれだけこの行為を喜び、快楽に体を震わせたって、彼からすれば食事の疑似行為でただの奉仕で、なによりこの体を傷つける事は禁忌だった。
 唐突に、突き放されるようにして彼の舌も手も気配も遠ざかっていく。ビックリして身を起こせば、彼がこちらの腿を凝視しながら固まっていた。
 その視線をたどるように自分の脚へと目を向けて気づく。彼の爪によって裂かれたらしきところから、わずかに血が滲んでいた。
「あー……こんなの気にしなくていい。っつってもやっぱ無駄、だよな」
「すまない」
「いや多分、謝るのこっちの方。お前が押さえつけてくるの嬉しくて、かなりお前煽った自覚ある」
「押さえつけられるのが、嬉しい? のか?」
 酷く困惑させている。さんざん重ねた食事タイムは、基本的には優しさと楽しさと気持ち良さで満たされていて、無理やりされたいなんて様子を見せたことはなかった。
「というかお前の爪が肌に当たってチクってするのが、人じゃないお前が触れてくれるんだって思えて、凄く嬉しかった。お前の頭挟ませてくれないし、もっと奥にってどんだけ言っても、ケツ穴に口先押し付けてもくれないから」
「私の硬い皮膚が擦れたら、お前の肌に傷がつく」
「それはわかってるんだけど。わかってるつもりだったけど」
 でも調子に乗って爪を立てさせて、結果あっさり放り出されたことを思うと、やっぱり考えなしだったかもしれない。
「やっぱ、もう二度としない、とか言い出す感じ?」
「なぜ、私、なんだ」
 ああこれ、また世話係の彼に頼めって言われるパターンだ。でも世話係の彼とは、性的な方面で深い関係になるつもりはなかった。少なくとも、目の前の男が、自分よりも彼をと勧めてくるうちは。
「そんなの、お前がいいから以外の理由があるかよ」
「食事とセックスがセットになっているから、いやらしい事を頼むのは私にと、思い込んでいるだけじゃないのか。あの子に舐めてもらった事はまだないんだろう?」
「あいつのが上手に舐めれて、俺を傷つけること無く、もっと気持ち良くしてくれるはずだって、そう言いたいわけ?」
「まぁ……そうだ、な」
 聞けばやはり、少し躊躇ったあとで肯定された。
 そりゃ確かに、彼に頼んだらもっと気持ち良くなれる可能性はある。ただしそれは今ではなく、将来的に、というやつだ。彼なら、こちらがどうすればより気持ち良くなれるかを、一緒に探ってくれるはずだからだ。
「俺さ、風呂入った時に、あいつに体洗ってもらうのめちゃくちゃ好きなんだけど、それ知ってる?」
「お前の体を、直接手の平で擦って洗っている、という話は聞いているが、それが何か?」
「俺の体に傷つけたら大変なのはあいつも一緒どころか、多分、あいつの方が問題になるよな。でも、あいつは俺のお願いに折れて、ゆっくり俺への触り方を覚えてくれただけなんだよ。お前みたいに魔法で人の姿になるって逃げが出来ないから、最初の頃はホントおっかなびっくりで、ちっとも気持ち良くなんかなかった」
 一度言葉を切って、何が言いたいかわかるかと聞いてみる。相手は渋々ながら頷いているから、多分、ちゃんと伝わっているだろう。
「俺は、アイツじゃなくてお前に、尻穴舐められるだけでイケるくらい上手になって欲しい。ついでに言うなら、繁殖期じゃないお前を性的に気持ちよく出来る方法があるなら、それを知りたいし実践したい。食事目的じゃなく、もっとお前といやらしいことがしたい。人の姿じゃない、そのままのお前と、したい」
「まるで……」
 戸惑う相手の顔に、ゆっくりと朱がさしていく。竜人は表情が読みにくいと思っていたこともあるけれど、とっくに慣れたし、慣れれば簡単にわかってしまう。
「プロポーズを受けているような気分だ」
 さすがに飛躍しすぎだと思ったけれど、それは人の常識で考えてしまうからなんだろう。彼らの繁殖に関する話は詳しく聞けていないし、そもそも結婚という概念があるらしいことすら今知ったのだけど、それならそれでいいかなと思ってしまう気持ちもある。
「プロポーズだっつったら、受けてくれんの? でもって俺と一緒に、この部屋で新婚生活とかしてくれんの?」
 言いながら、それってかなり理想的な生活なのではと思う。もしそうだってなら、本気で結婚してくれと頼み込みたいくらいだ。
 しかし相手は酷く狼狽えてしまって、なかなか次の言葉が出ないようだった。

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竜人はご飯だったはずなのに15

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 さすがに相手も驚いたようで、対面に腰掛けることはせず、座るこちらの脇に立って心配げに顔を覗き込んでくる。世話係の彼じゃないから、宥めるように背を撫でてくれる手はない。
「どうした。この場合、私はどうすればいい?」
 世話係の彼を呼んで来たほうがいいかという言葉に必死で首を横に振り、なんとか咽る合間にちょっと待ってと絞り出す。それだけでも苦しくて、背中を撫でてとまでは頼めなかった。
「ん゛っ、……んんっ、あ゛ー……」
 ようやく吐き気も収まって、脱力するように椅子の背に体をもたれかけながら、大きく息を吐く。
「何アレ。さすがに吐くかと思った」
 多分かなり初期の頃の味に近い。そう思うと、あれでも随分と味の改良がされているらしい。今となってはよくこんなもの飲めてたなと思うけれど、やはり慣れと飢えなんだろう。飢えた体には、こんな味でもこの液体が必要だった。
「おかしいな。味は良くなっていると聞いていたのだが」
「あんな不味いの、久しぶりすぎ。てか口直しを要求する」
「キスか?」
「そーだよ」
 相手に向かって顎を突き出し、大きく口を開けて待つ。思わず肯定したけど、どう考えてもこれは、キスを待つと言うより唾液を垂らされることを待つ姿だなと思う。
「ぁぃ?」
 おそるおそるといった様子で両頬を相手の手に包まれて、咄嗟に口を開けたまま「なに?」と問いかける。
「動かれると怖い」
「ああ、」
 なるほど。世話係の彼と違って、この彼には竜人の姿で触れてもらうことが殆どなかったんだった。今、こわごわと頬に添えられている手だって、もちろん初めて触れられている。
「口ン中唾液ためて、舌に乗せて差し出して」
 ためた唾液を落としてくれてもいいんだけど、どうせならその舌に触れたい。パクリと喰んで舐め啜りたい。
 言われるまま閉じた口をモゴモゴと動かした後、不鮮明な発音で「こうか?」と言ったらしい相手が、濡れた舌を伸ばしてくる。
「うん、そう。そのままジッとしてて」
 頬を包む手を振り切るように、グッと相手の口先へ顔を寄せた。甘いは甘いのだけれど、やはり濃厚さが段違いだと思いながら、口の中へ迎え入れた相手の舌をくちゅくちゅと舐めしゃぶる。
 ここ暫く世話係の彼からの口直しもなかったせいで、本当に久々に味わう旨味を、うっとりしながらひたすら堪能した。
 肉厚の長い舌にチュウチュウ吸い付いていると、体の奥がぎゅんぎゅん蠢いて、足りないもっとと訴える。勃ちあがった性器で塞がれ、擦られ、腸内へたっぷり精液を注がれたいと、ハクハクと尻穴が開閉してしまう。
 それが無理だってことは、わかっているけれど。
「抱かれたい」
 口を離して、熱を持った息とともに訴えれば、相手は少し困ったように苦笑して、それは無理だと返してきた。
「ん、知ってる。だから、さ」
 椅子の上に両足を持ち上げ、腰を突き出すようにしながらM字にした足を開く。下着はないので、はしたなく息づく尻穴も丸見えだろう。
「こっちにも、ちょうだい」
「話がしたいと、聞いてきたんだが」
「話はしたいけど、これは、あんな不味いの持ってきたお前が悪いよ」
 いつも通りなら、口直しが無くても耐えられたはずだ。ここ最近は世話係の彼との口直しのキスを断っていることだって、きっと知っているはずだ。
「ただでさえお前の唾液ってめちゃくちゃ美味いのに、今の俺に口直しでそれを与えたらどうなるか、わかんなかったの?」
「キスは飽くまで口直しで、抱けないなら舐めてとは言えないんじゃなかったのか」
「それ、世話係のアイツだったらの話だろ。今、眼の前に居るのがアイツなら、抱かれたくてたまらないからお前を呼んでって頼むけど。でも、今眼の前に居るのはお前なんだから、抱けないなら舐めて、であってる」
 早くと急かしたら、せめてベッドへ移動してくれと頼まれた。ただでさえ竜人の姿のままで触れるのは怖いのに、椅子の上なんて狭い場所でどうこうするのは心臓に悪いということらしい。
「なら連れてって」
「しかし」
「力加減誤って、多少傷ついたっていいから。それより俺に触ることに、慣れろよ。アイツに出来るんだから、お前だって出来る」
「簡単に言わないでくれ。小さな彼と私とでは、加減する力も大きく違う。こんなことになるなら、人の姿で来ればよかった」
 人の姿だと力も弱まるのかと思ったら、人の肌は柔らかくどこもかしこも滑らかで鋭い爪などもないから、触れ合って傷つけてしまう可能性が段違いということらしかった。しかもやっぱり魔法はかなり苦手らしく、今すぐこの場で簡単に人の姿になることは難しいらしい。それはある意味ありがたかった。
「人の姿が嫌だとは言わないけど、俺はやっぱり、この姿のお前にも、もっと色々触れて貰えるようになりたい。だからまぁ、力加減、頑張って」
 抱き上げてというように腕を伸ばせば、ようやく諦めたような小さなため息の後で、たくましい腕がそっと体に回された。

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竜人はご飯だったはずなのに14

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 話し相手もゲーム相手も風呂も断って、ひたすら暇な時間を一人で過ごす。朝夕に飲まされる液体の味は一向に美味しくなる気配はないけれど、比較的マシなレベルを維持していたから、口直しのキスもねだらない。
 世話係の彼は心配そうにはするけれど、もう、話をしたいとか触りたいとは言わずに、こちらの体調に変化がないか、何か要望はあるかを確認して部屋を出て行く。
 要望は、食事担当の彼に会いたい、と繰り返している。抱かれる食事がしたいのではなく、ただ会いたいのだと、繰り返し伝えた。
 世話係の彼を拒絶し、食事担当を呼べと繰り返すこちらに、彼らがどういう判断を下すのかはわからない。世話係の彼では手に負えない、という状況を作り出すことは、世話係の彼がこの仕事を外されるリスクを負うことでもある。
 でもこのまま世話係の彼と友好的な関係を深めていって、世話係の彼さえ傍にいれば問題ないだろうと判断されるのは困る。問題ないからとこのまま食事の頻度を下げられて、食事担当の彼と会える機会がどんどんと減っていく未来を、本気でどうにかしたかった。
 そんなこちらの気持ちを、世話係の彼は了承済みだ。嘘の報告は出来ないから、本当に接触を最低限に控えて、互いにそっけない態度を取っている。
 正直に言えば世話係の彼がリスク含めて丁寧にアレコレ考えてくれた中から、一番手っ取り早そうなものを選んで決めた計画だけれど、即効性があるのもがキツイのは定石だ。何もすること無く静かな部屋に一人で居ると、ベッドの中でただただ死を待っていたあの時を思い出してしまってゾッとする。
 あの時は近づく死にホッとする気持ちもあったけれど、そう思うと、今はもう死にたいとは欠片も思っていないらしい。竜人たちのモルモットで、セックスが食事で、むりやり生かされているはずなのに、自分に関わってくれる二人の竜人があまりに優しいから、死ぬことも、この生活から必死で抜け出すことも、考えられなくなっている。
 ただ、この生活を続けてもいいと思うには、間違いなく二人とも必要だった。世話係の彼はそれをわかってくれているから、こうして協力してくれるけれど、食事担当の彼にはこれからそれを理解して貰わないといけない。そう思うと気が重くもなって、不安が増していく。
 早く会いたいのに、会うのが怖い。
 そんな不安定な気持ちを持て余しつつ、待つこと数日。例の液体を持ってカーテンを開けに来たのは、世話係の彼ではなく食事担当の彼だった。
 日中も暇を持て余して寝てしまうからか、ここ数日の生活リズムなんてメチャクチャで、ベッドの中で横になっていたけれど深く眠っては居なかったから、すぐに誰が入ってきたのかわかって慌てて身を起こす。
「おはよう」
「おは、よう」
 目があってなんとか挨拶を交わしたものの、ひどく緊張しているのがわかる。戦略だの駆け引きだのは全く得意じゃないのに、これからこの彼相手に、食事以外でもっと会いたいというこちらの要望を飲んでもらわなければならないのだから当然だ。
「たしかに酷い顔をしてるな。起きてこれるか?」
「大丈夫」
 そうかと言った彼は真っすぐテーブルセットに向かい、そこへコップを置くと、今度はカーテンへ向かっていく。
 彼がカーテンを開けて戻ってくるのと、こちらが椅子に腰掛けたのは、ほぼ同時だった。
「どうしても私に話したい事があると聞いてきた」
「ん、来るの、待ってた」
「でもまずはこれを飲んでからだ」
 頷いてテーブルの上のコップを手に取り、いつも通り一息に飲み干したが、どうやら油断していた。ここ暫くそこそこ安定したマズさだったのに、久々のゲロマズさに驚いて、暫く咽てえずいて大変だった。

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