お世話係の繁殖期3

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 ただいま、と言って雇い主が部屋に入ってきたのは夕方だった。
「あれ? 早くね?」
 雇い主の寝室となった際に設置された時計を、思わず二人して確認してしまう。
「発情が始まってたらまずいと思って急いだ」
 ベッドとある程度距離をおいた椅子に腰掛ける自分を見ながら、大丈夫そうだなと頷いている。
「まだもう少し平気そうなら、先に食事を摂っておこうか」
「わかった、です」
 頷いてエネルギーバーを取りに行っている間、ベッドへ近寄っていった雇い主がニンゲンにただいまのキスを与えているのが目の端に映っていた。
「今夜のうちには始まるはずだから、お前の夕飯は少しお預けだ」
「全然オッケー。てか俺はここで待機でいいのか?」
 食べなくても一緒の席には着こうかと言われて、エネルギーバーにして本当に良かったと思う。
「そういや食事するとこなんか初めてみるな。てかお前らの食事ってこれが普通?」
 一緒にテーブルまでやってきたニンゲンが、皿の上に盛られたエネルギーバーを不思議そうに見ている。
「匂い少ない、選んだ。近くいる、大丈夫か?」
「あー、うん。美味しそうとはとても思えない匂いがほのかにしてるのはわかる。けどまぁ、これくらいならダイジョブそう」
「良かった」
「お前の機転には本当に助かってるよ」
 その後は、普段自分たちがどんなものを食べているかを説明しながら、手早くカロリー摂取を済ませていく。
 保護してここへ連れてきた初期に出していたスープの具材が、自分たちがよく口にする基本の食材だ。と教えれば、どうやら記憶に残っていたようで顔をしかめられてしまう。
「見た目すごかったけど、味に関してはわかんないんだよな。結局好物ですら食べれなくなってたわけだし、元の体だったら、見た目はともかく味はいい、とかなってた可能性あるかな?」
「可能性はあるんじゃないか。人間界から取り寄せた食材は普通に美味しくいただいたからな。不味いとも飛び抜けて美味いとも思わなかったから、こちらの食材と味にそこまでの差はない気がする」
「食ったの?」
「お前が食べれないからといって、廃棄するのはもったいないだろう」
「俺も食べた。美味しかった」
 雇い主はこちらの食材と大差ないと言っているが、ここの食材より明らかに美味しいと思ったものも中にはあった。特に好物だと言っていた果実類は、なるほどと思う美味しさだった。
「さて、そろそろベッドへ移動しようか」
「の前に、お前らちゃんと口濯いで。そのままキスされんの、さすがにちょっと抵抗ある」
「あ、歯磨きセット、ある」
「あるのか!?」
 驚いたのは雇い主の方で、確かにリストには載ってなかった。
 エネルギーバーへの変更は相手も一緒に食べるものだし許可を取ったが、その他の追加物品はわざわざ確認を取っていない。
「必要、ちょっとでもありそうなの、色々追加した」
 発情中は体力を使うからカロリー摂取は推奨されているし、見合いの場では食事量なども当然チェックされるし、食事も摂れないほど熱中してるとなれば監視の目が厳しくなるらしいとは聞いている。場合によっては危険とみなされ中断されるとも。
 ただ、一人で処理する場合は食事なんかとらないでひたすら自慰にふける、というタイプもかなり多いらしい。というか自身も、一人の時は腹が減ったら食べるくらいの感覚だった。
 パートナー持ちはパートナーによるようで、見合いと違って監視の目があるわけじゃないから、一人で処理するのと同じようにひたすらヤりまくるペアもいる。というか割とその傾向が強いと聞いたことがある。
 つまり繁殖期とは、かろうじてカロリー摂取はするものの、睡眠時間すら相当削るのが普通だし、歯磨きなんて完全に意識の外になる。
 まぁ、今朝なりゆきで番登録した相手はパートナーではなく監視官だし、ニンゲンを抱くのは仕事の一環だけど見合いと違って相手は発情してないわけで、繁殖期の常識なんてきっと欠片だって通用しないんだろうけれど。
 それがわかっているから、繁殖期の引きこもり用リストにはなかった、ただの引きこもり生活に必要そうなものをあれこれ追加していた。

続きます

 
 
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お世話係の繁殖期2

1話戻る→

 繁殖期が近いから今日は忙しいことと、今夜からこの部屋で過ごす事を告げれば、ニンゲンは思った通りに喜んで、その後ずっと興奮を隠しきれない様子で、こちらが運び込む大量の物資に興味津々だった。
 やっと一通りの準備を済ませて一息吐けば、待ってたとばかりにニンゲンがベットの上からこちらを誘う。
「俺、ベッドまだダメ」
 ベッドからそこそこ距離を離した位置に椅子を置いてそこに腰掛ければ、起き上がってベッドの縁に腰掛け直したニンゲンが、「まだダメ」の意味を聞いてくる。
「繁殖期始まる、俺、困る」
 ベッドに乗ったら手を伸ばされるのは明白で、スリット辺りを撫でられでもしたら間違いなく繁殖期に突入してしまう。
 もやっとした胸の重さや体の怠さが付きまとうから、兆候が出たら可能な限りさっさと始めるほうがいいけれど、逆に言うとある程度は先延ばしもできる。子を成したい気持ちが強い雄は、発情の開始を引き伸ばして見合い回数を増やすと聞いたことがある。
「んん? 繁殖期始まったからここ泊まるって話だったろ?」
「これから始まる。あの人帰ってくる前、始まったらダメ」
「えっ?」
 驚かれて首を傾げる。
 ニンゲンは運び込んだあれこれを積み上げた辺りに視線を送って、あれはもしかして二人分かと聞いて来た。
 指差す先には水の入った大きな瓶が2つと、エネルギーバーが詰まった中サイズの箱がやはり2つ置かれている。
 見合い中に提供される食事は当然こんな簡素なものではなかったし、リストに乗った携帯食だってある程度食事を楽しむ要素を持ったものが並んでいたけれど、それをエネルギーバーに変更したのはこのニンゲンのためだった。
 ここへ連れてきた最初、彼は人間界から取り寄せた好物だったという果物にすら拒否反応を示していたのだけれど、その際によく「臭い」と口にしていたのを覚えている。
 雇い主の寝室がここになってから先も、この部屋の中で雇い主が自身の食事をしたことはなかったはずだ。
 こちらの食事の匂いで彼を不快にしたくはなかったし、発情期間をやりすごすためのエネルギー摂取ができればいいだけだし、だったら匂いの少ないエネルギーバーのほうが妥当な気がした。
「そう。あの人、俺の3倍、食べる」
「あれって何日分?」
「用意、6日した。少し多い、安心」
「そんなもんなのか。てか繁殖期って何日くらい続くものなんだ?」
「俺、始まったらだいたい4日」
「へぇ。俺は、ってことは個人差けっこうある?」
「体大きい、長い。代わり発情頻度、少ない」
 あいつは? と聞かれて前回どうだったかと記憶を探る。
「10日はない、くらい?」
 繁殖期休暇を取ると聞いてから次に顔を合わせるまで、多分10日くらいだったはずだ。だからそれよりは短いのだろうけれど、開始と終了のタイミングまでは把握していないので正確な日数は知らない。
「てことは、あの薬って本来の繁殖期に比べたら全然効果薄いんだな。一晩しか持たないで、相手満足できるもんなの?」
 あいつで10日ならメインで使ってる奴らの繁殖期ってもっと長いんじゃないのと聞かれたけれど、それに対する答えは持っていない。知ってても教えて良いのかは迷う内容だから、知らないで良かったとすら思ってしまうけど。
「俺それ知らない」
「あーお前とは無縁の話ではあるか」
「そう」
 まぁ子を成すために使われる薬という話だから、一晩相手できれば問題がない可能性は高い。もしくは、薬を使って子を成す必要がある階級の者たちなら、ある程度連続使用が可能なのかもしれない。

続きました→

 
 
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お世話係の繁殖期1

竜人がご飯シリーズの続きですが、視点がお世話係の小さな竜人です。

 起床時のからだのダルさに発情を予感して、朝一番に雇い主へ報告すれば、どうする? などと聞かれて首を傾げた。
「分かってると思うが拒否権はあるし、子を成す方を優先しても一向に構わない」
 前回の評価が高いから今回も雌とマッチングできる確率は高いぞと言われたけれど、やはり首を傾げてしまう。
「子を成す方を優先しろとの命令でしょうか。私はそれでも構いませんが、彼がガッカリしませんか?」
 特定のパートナーが居ないこちらからすれば、繁殖期に誰かを抱くという行為は仕事の一環だけれど、囲われて関わる相手が極端に少ない彼にとっては待ち望んだ繁殖期ではないのか。
「ガッカリはするだろうが、そこはまぁなんとでも」
 独占欲やら嫉妬やらを伝えれば納得はして貰えるはずだ、という言葉を否定する気はない。
 保護対象であり研究対象でもある彼には人権的なものがないから、パートナーとして番う事は出来ないけれど、実態はどう考えたって互いを好き合った番だからだ。
「だったら最初から、俺のものに手を出すな、と言ってくださいよ」
「そうは言ってない。むしろお前に抱かれて幸せそうに善がる姿を見たい気持ちは断然強い」
「じゃあ何が問題なんです?」
「今の話に問題を感じないなら問題ない」
 なんだそれ。と口に出しはしなかったが、多分顔には出ていた。しかし説明をくれる気はないようで、そのくせなにやら後ろめたさでもある様子で、僅かに視線を逸らしながら引き出しから何枚かの紙を取り出し差し出してくる。
「ではこちらの書類にサインを」
 繁殖期休暇の届けの他、ある意味かなり特別な存在である彼と繁殖行為を行うための申請書類、そして最後に、目の前の男との番い届け。
 最初の2枚は何の問題もない。というか出して当然の書類という認識だけれど、最後の一枚を前にさすがに手が止まった。
 思わず顔を上げて相手の顔を見つめてしまえば、相手も困った様子で苦笑している。
「言いたい事はわからなくもないが、手っ取り早く同席するのに必要と判断した」
「手っ取り早く、同席……どうせき?」
 繰り返しながら、なるほど、と思う。他者に抱かれるパートナーを見るなら、当然そこに一緒に居なければならない。
 普通、見合いが成立した相手との行為は独立した部屋の中で2人きりで行うものだ。といっても鍵は掛からないし、毎日最低1回は食事の提供という名の視察が入る。
 見合い前に検査やら審査やらがあるものの、発情に飲まれて暴走してしまう事故が起きてしまうことはあるからだ。
 タイミングによっては真っ最中に視察、ということも起こる。つまり他人に行為を見られる可能性は、見合いにだって存在する。という知識はあるのだけれど、前回初めて成立した見合い中は無事に避けれていた。
 ニンゲンに発情期や繁殖期はなく、彼にとって行為とは主に食事であり、そこに同席するのは自身と好きあったパートナーではない素面の、しかも自分にとっては雇用主だ。そんな2人相手に自分だけが発情した姿を晒す。という事実に気づいて顔が熱くなる。
 問題を感じないなら問題ない、と言われたことの意味をやっと理解した。
「さすがにアレと発情中のお前を2人きりにはさせられないだろう。かといって私もそれなりに忙しい身で、お前の繁殖期に合わせた休暇なんか取れるわけがない。が、番となれば番の繁殖期という理由で休暇申請が通るんだ」
 それは知ってる。わかっている。これは必要な書類なのだと、もう理解は出来ている。
 けれどわかっていると答えるどころか頷くことも出来ず固まっていた。
「やはりやめるか?」
 無理はしなくていいぞと苦笑されて、ようやくぎこちないながらも首を横に振って否定を示した。そうしてから、最後の1枚にも自身の名を記す。
「本当にいいのか」
「喜んでもらえるのがわかっているので」
「そうだな。ではこちらを」
 渡された紙には水やら携帯食やらシーツやらタオルやらの物品名が並んでいて、横に数字が書かれている。
「これはなんのリストですか?」
「パートナーが居る者たちが繁殖期に用意するもの、らしい。食事類なども持ち込んで引きこもるそうだ」
「ああ、なるほど」
 それらを揃えて、今夜から彼らの部屋で過ごすことが決定した。

続きました→

 
 
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