そっくりさん探し3

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 友人となった彼とはその後、たまにこちらの友人も交えたりしつつ、積極的に遊び歩いていた。人数は居たほうが何かと楽しいが、でも家庭持ちやら趣味持ちやら忙しそうにしている友人が多いのでそう頻繁に付き合わせるわけにもいかず、結局二人で遊んでいる方が圧倒的に多かった。
 元々、一人でふらっと観光地なりに出向いてそこの特産品やら名産品やらを味わうのが趣味、みたいな生活をしていたせいで、その趣味に相手を付き合わせてるともいう。
 温泉地へ行けば日帰り温泉を利用したりもするし、公共交通機関を利用するときは昼からお酒を飲むことも有るが、今のところ特に不満はなさそうだし、結構楽しんでくれているとも思う。
 こちらとしても、一緒に楽しんでくれる相棒が出来たのは有り難かった。
 一人でも楽しめるけど、美味しいものや綺麗な景色を共有できる相手がいる、という喜びはやはり大きい。
 ただ二人きりで観光地へ出かけるそれが、デートと言えないこともない、ということに気づいたのは最近で、なんでそんな思考になったかと言えば、相手の態度が何やら怪しくなってきたせいだ。
 最初の頃は何もかもが新鮮だという感じで、彼の意識は訪れた観光地の方へ向いていたのだけど、出歩くことに慣れたからか彼の興味がこちらへも向いてきた気がする。と思ったのが既に数ヶ月前のことで、最近は、なんだか意識されてる? みたいな気配を感じることが増えた。
 気の所為、ではないと思う。しかしきっかけは思い当たらないし、いつからという明確な時期もわからない。
 恋愛経験もあまりなさそうというか、それどころじゃなかったっぽい話を聞いたことが有るし、男が恋愛対象とか以前に、相手に関心を持って一緒に過ごしてくれる相手が今まで居なかったせいで勘違いをしている可能性が高そうな気はする。
 友人が恋人を兼ねたら一石二鳥、とまで思ってるかはわからないが、恋愛に興味が湧いたなら女の子紹介する? とか言ってみた方がいいのかどうかも少し迷う。
 ついでに、もしいつか告白されてしまったらどうするかも考えた。
 有りか無しかで言ったら有りなんだけど、残念ながら、相手に対してこちらも恋愛感情があるからではなく、無理と思わなかったから試してみてもいい、くらいの感覚なので、それを正直に伝えて相手がそれでいいならって感じになるだろうか。
 男と付き合ったことはないからそれはそれで面白そう、みたいな気持ちも若干あって、むしろ告白してくれないかなという期待も実はある。が、どう考えても真剣な想いに対する態度ではない自覚も有るので、もし真剣な告白を受けてしまったらいっそ丁寧にお断りするのが優しさかも知れない。いやでも好奇心が勝ちそう。
 などとあれこれ悩んでいたら、さすがに相手にも気づかれたらしい。
 混んでいたせいで少し遅くなった昼食を食べ終えたところで、相手が少し困った様子で苦笑する。
「もしかして、俺が悩ませてます?」
「えっ?」
 今日はかなり口数が少ないのでと指摘されてしまった。確かにそうだったかも知れない。
「ごめん。確かに君のことであれこれ考えちゃってた」
「ですよね。その、さすがに気づかれてるかなとは、思ってたんですけど」
「あー……俺のこと、好きになっちゃった? みたいな?」
「やっぱりわかりますよね」
 否定はされなかったが、ついでのように溜息が漏れていたから、相手もどうやらその想いを持て余しているようだ。
「ちなみに俺とどうなりたいとかどうしたいとかの希望は? ある?」
「特にはないです」
「ないんだ」
「というか何を望んでいいのかもわからないって言うか、そもそも俺に選択権ないですよね?」
「え、なんで?」
「なんで、って、俺が勝手に好きになっちゃって困らせてるんだから、その俺をどうするかはあなたが決めるんじゃ?」
「いやそんな一方的に委ねられても。てかまず俺が何を悩んでるかを確かめようよ」
「えっ?」
「でも取りあえずは場所移動しようか」
 人気店らしく未だに席が空くのを待っている客が途切れないので、早めに退席したほうがいいだろう。それに話の内容的にも、もう少し人目を気にしたい。
 といっても、観光地なのでどこもかしこもそこそこ人がいて、ゆっくり落ち着いて話せる場所なんて急に思いつかなかった。
 

続きました→

 
 
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そっくりさん探し2

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 奢りますという連絡が来て向かった先では、随分と顔つきの変わった男が待っていた。晴れ晴れとして、といえるほどの陽気さはないが、それでも大分穏やかな顔つきになっている。
 初めて会ったときは思い詰めてると思ったし、一年ぶりに会ったあの日は、初めて会ったときよりかなりやつれてるなと思っていた。なので、他人事だけどなんだか安心してしまう。
 ゆっくり話せるようにと半個室の居酒屋を予約してくれていたので、そこへ移動したあとは、酒を交えながらようやく相手の事情を聞いた。
 早くに両親を亡くしたこと。実質妹を育てていたのは彼なこと。自身が学歴で苦労した分、妹の大学進学に反対はしなかったこと。なのに進学後は勉学よりも遊びに夢中で無断外泊も増え、交友関係や男との交際にかなり口を出しまくってしまったこと。いつの間にか帰ってこなくなったこと。慌てて探したが住民票なども移されていた上に閲覧制限が掛けられていて、自力では探せなかったこと。有り金はたいて頼んだ興信所がイマイチ頼りにならなかったこと。そもそも妹の交友関係を全く把握できていなかったこと。それでも諦めきれずに金が溜まったらもう一度調査を依頼しようと思っていたこと。などだ。
 なかなか苦労の多い人生だったようで大変面白く聞かせてもらったが、一通り話し終えたあとで一息ついた相手は、ようやく長々と語りすぎたことを自覚したらしい。
「す、すみません。ずっと相槌打ちつつ話聞いてくれてたから、俺ばっかりこんなに話しちゃって」
 こんな苦労話聞かされても困りますよねと肩を落としてしまうから、いや全然、と否定を返しておく。
「普通に楽しく聞いてた。苦労はしたんだろうけど、今日は穏やかな顔してるせいかな。苦労話が深刻なほど、妹さん見つけられてホントよかったって思うし、それ手伝えた俺凄い! みたいな気持ちにだってなるだろ?」
 知り合いにそっくりさん知らない? って聞いて回っただけで、そう大したことはしてないのだけれど。まぁ、たまたま顔が似てたってだけだけど、それでも自分の手柄には違いないので。
「というか前提はわかったけど、妹さんとは和解できたと思っていいんだよな?」
「あ、はい。一応は」
 いきなり消えたから凄く心配したってことは理解してもらえて、ちゃんと謝っても貰えたらしい。
「赤ん坊抱いてたけど、相手の男とはちゃんと結婚してんだよな? そっちも大丈夫そうだった?」
 聞いてないはずはないと思って話を振れば、思ったよりもまともそうな相手でした、と苦笑とともに返ってきた。
「大学生に手ぇ出して妊娠させて大学辞めさせた男、って思うとやっぱり許せない気持ちはあるんですけど。ただあの頃妊娠したなんて聞いたら、絶対堕ろせって言ってたと思うし、相手の男刺しに行くくらいしてたかもだし、そう言われて否定しきれなかった俺より、俺から逃がす手伝いしてしっかり結婚してお腹の子を妹ごと守った男の方を選んだだけって言われると、俺が言えることなんてないっていうか」
 その時の会話を思い出しているのか、ははっと乾いた笑いをこぼす相手は悲哀に満ちている。
「ちゃんと幸せだって言ってましたし、相手の両親が良くしてくれるとも言ってたんで、あいつのことはもう、大丈夫、です」
 新しい連絡先は聞いたけれどこんな自分じゃ困ったら頼れとも言いづらくて、今後は甥っ子のお祝いごとに贈り物をする程度の付き合いができればいい、らしい。多分それくらいはさせてくれると思う、と続いた声はどこか頼りない。
「寂しい?」
「え?」
「妹さん見つかって幸せそうで安心はしたけど、完全に自分からは手が離れちゃって寂しいのかな、と」
 実質君が育てたようなものなんでしょと言って、娘を結婚に出す男親の気持ちじゃないのと指摘してみる。
「ああ……そっか、そうなのかも」
「あ、自覚はなかった?」
「です、ね。なんか気が抜けたっていうか、今後どうしようっていう漠然とした不安? みたいな方が印象が強くて。そっか、これ、寂しいのか」
 妹さんを探すという目的がなくなって、次の目標とかがない状態か。
「寂しいなら俺と遊ぶ?」
「え?」
「いやまぁ俺じゃなくてもいんだけど。ずっと妹さんのために仕事優先して頑張ってきたんだろ? だったらこれからは自分のために時間使えばいいし、手っ取り早く、友達と遊びに行くのはって思っただけ」
 趣味を見つけるのでも彼女作るのでもいいと思うよと言ってから、勝手に判断は良くないなと思って、なにか趣味有る? 恋人いる? と聞いてみる。
 相手はやっと少しおかしそうに笑った。
「無趣味だし恋人もいないです。ついでに言うと友達もいないんですけど、あなたは俺を友達って思ってるんですか?」
「今日で終わりにならなくて、また飲みに行ったりどっか出かけたりする機会があるなら、友達ってことでいいんじゃない? って思ってるけど」
「じゃあ俺と、友だちになってください」
 いいよと即答したら、相手はやっぱりおかしそうに笑う。
「こんな風に友達できるとか、考えたことなかった、です。てか友人づきあいもかなり疎かにしてきてて、友達と何するかとかも正直あんまりわからないとこあるんで、かなり頼り切りになる予感がするんですけど」
 大丈夫ですか? 今ならまだ撤回してもいいですよ、と続く声がからかい混じりで、でも不安に揺れているようにも感じたので、問題ないよと返す声が柔らかに響けばいいと思った。

続きました→

 
 
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そっくりさん探し1

「あのっ、すみません」
 電車を降りたところで声を掛けられ、ついでに逃さないとでも言うように服の裾を掴まれてしまったので、無視できなくて振り向いた。
 そこにはなんだか思い詰めた表情の青年が立っていて、一人の男の名前を告げる。
「御本人、もしくはご家族の方、ですか?」
「いや全く知らない」
 本当に聞いたこともない名前だったのに。
「本当ですか?」
「本当に」
 そう肯定してもまだ疑り深く見つめてくるし、服も掴まれたままだ。
「その男が俺に似てるとして、なんで探してるのか聞いてもいい?」
 単純な好奇心だった。あとまぁ暇だった、というのもある。むしろ後者の方が比率はでかい。
「その、本当に探してるのは妹で」
 多分消えた原因がその男、ということらしい。見せられた写真に写っていた男は、確かに自分に似ている。かもしれない。
 いや正直そこまで似てるともいい難いような……?
 まぁいいか。
「本気で探したいなら興信所とかは?」
「使った結果知ったのが、この写真と男の名前。あと前に住んでたって住所くらいで」
 追加で調べてもらうには金が足りなかったらしい。本当に知りたいのは妹の居場所で、本当に繋がってるのかもわからない男の情報に大金を掛けられない、という面もあるのかも知れない。
「で、俺に声かけたのは、たまたま見かけたとかそんな理由?」
「そ、です」
「じゃ、一応連絡先交換するか」
「えっ!?」
 人違いだったのになんで、という顔をされた。もちろんただの好奇心とは言わない。
「友人知人に俺のそっくりさん知らないかって聞いてみようと思って。もし何かわかった時に、あんたの連絡先が必要だろ」
「いいんですか!?」
「いいけど、そんな期待されるのは困るな」
 思い詰めた暗い表情をしていたのに、一転してキラキラの目で見つめられてさすがに焦る。
「わかってます。大丈夫です。よろしくお願いします」
 本当にわかってんのか? と言いたくなる勢いで連絡先交換を済ませたあと、相手は引き止めたお詫びと協力の御礼にと言って、自販機で飲み物を1本買ってくれてから帰っていった。
 5分にも満たない邂逅だったその男とは、多分きっとそれっきり。そう、思っていたのに。
 ちょっとそのそっくりさんに自分自身が会ってみたい気もして、幅広く友人知人にそっくりさん知らない? と声を掛けまくっていたら、とうとう知ってるという相手と出会ってしまった。
 どうやらそいつも、似てるなとは思ってたらしい。名前を確認すればドンピシャだった。
 その男と直接会えないか、場を設けて貰えないかとお願いしつつ、あの出会いからおよそ1年ぶりに初めてのメッセージを送る。
 こちらの都合で日程を組むので一緒に行くのは無理かもしれないが、だったら妹さんの名前を聞いておきたい。
 そんな内容に、絶対予定を空けると返ってきたので、そっくりさんの知り合いだという相手には、参加者が一人増える旨を伝えてその日を待った。
 当日、初めて会ったそっくりさんとは、並ぶと結構違うけど確かに似てる気もすると言い合って笑った。そしてその後、なんでそっくりさんを探すことになったかという経緯を軽く説明して、最後に、本当に君を探してたのはこの人だと言って、そわそわとこの時を待っていた男のことを紹介した。
 そっくりさんはすぐに事情を理解した様子で、呼びますと言って電話をかけ始める。電話はすぐに繋がって、どうやら目的の妹さんが今からこの場へ来てくれるらしい。
 展開が早い。
 30分足らずで現れた女性の腕には赤ん坊が抱かれていて、まぁ予想通りという気はした。男が原因で姿を消したなら、まず最初に疑うのが結婚を反対されての駆け落ちだ。
 この先は多分込み入った話になるのだろうと思って、一旦お開きと言うか、紹介者と共にその場から離脱する。
 落ち着いたらでいいから奢ってと言っておいたから、そのうち連絡が貰えるだろう。その時に、じっくり話を聞けばいい。

続きました→

 
 
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