雷が怖いので9

1話戻る→   目次へ→

 口の中を舐め啜られる気持ちよさに翻弄される。頻繁に背筋をゾクゾクと這い上がる快感に、全身粟立つ肌が収まらない。膝は震えて足に力が入らず、相手の両腕を縋るように握っている手の握力だって、せいぜい腕が落ちてしまわない程度でしかなく、結局のところ、座り込まずに済んでいるのは両足の間に差し込まれた相手の腿に支えられているからだ。
「んっ、ぁっ、……ふぁ……ぁ……」
 鼻にかかった甘えるような吐息が、自分から漏れているなんて信じがたい。
「キスだけでこんなトロトロになって恥ずかしいね。気持ちよくなって腰揺すって、俺の足に勃起ペニスすりつけてる自覚、ある?」
 自覚はないわけではなかったが、指摘されると本気で恥ずかしい。カッと頬が熱くなって、目の奥が痛い。なんだか泣きそうだった。
「ああ、自覚はあるんだな」
 腰が揺れてしまわないようにと体に力を入れたせいで、自覚があるとバレてしまった事が、更に恥ずかしさを増していく。
「どうして止めるの? もっとたくさん腰振って、気持ちよくなっていいんだよ?」
 足の間に挟んだ相手の腿が持ち上がって軽くゆすられた。そんな小さな刺激だって、キスで蕩けた脳みそと、ガチガチに反応を示す股間のナニには強烈な快感を生む。
「んあああっっ、やっ……や、めて……」
「キスを? 自分でできるって言った事なのに?」
「ちがっ」
「じゃあ、何をやめて欲しいって?」
「あんま……いじわる、しないで……」
 言ったら一瞬変な沈黙と空気とが流れて、それから心底おかしそうに笑う声が聞こえてくる。
「いいね。凄く斬新。でもここが何のための部屋か、俺がどういう性癖持ちか、思い出そうな」
 もっといっぱい虐めてって言われてる気分にしかならないよと、やっぱり笑うように告げられて、再度唇を塞がれた。
「んんっ……」
 口の中の、歯の裏側から上顎とを擦るように舐められて、ゾクゾクとした気持ちよさにうっとりと目を閉じる。また腰を揺すってしまいそうで、崩れかける膝と添えてるだけになっている手にどうにか力を入れて、乗ってしまっている相手の腿から腰を浮かそうと試みたところで、ズクリと痺れるように重い腰を両手で掴まれてしまった。掴まれた場所にビリビリとした快感が走って、けれど次の瞬間にはもっとはっきりと強い刺激に翻弄される。
 強い力で相手の腿に押し付けられた股間を、先ほどの比ではなく、揺するというよりはグリグリと擦られた。
「やぁああっ、ダメっっ、やっ、やぁっ」
 背をのけぞらせて逃げようとしたせいでキスからは開放され、代わりに悲鳴に似た嬌声が部屋に響く。
「ん、気持ちぃな」
 うっとりと諭すような声に、ぐらぐらと気持ちが揺れてしまう。まるで気持ちが良いことを褒められているみたいだった。
 けれどそれと同時に湧き上がる恐怖。だって人から与えられる性的な刺激に、あまりにも不慣れだった。恋人と呼べるような相手が居た時期は短く、キスは出来たがそれ以上の関係には進めなかった。しかも今こうして自分を気持ちよくさせている相手は恋人なんかじゃないし、女の子でもない。
 怖くなって、なんだか混乱してきて、なのに固くなったペニスへの刺激は容赦ない。このまま続けられたら、間違いなく達してしまう。
「やっ、やだっ、気持ちぃの、やだぁっ」
「オナニー見せてくれるってならここでやめてもいいけどどうする?」
「やだっ、も、むりっ、むりだからっ……い、イッちゃうから……」
 逃れようと身を揺すったら、背後の壁にぐっと背中を押し付けるように詰められた。壁と相手とに挟まれて、圧迫感と恐怖とが増す。もはや脳内はパニック寸前だ。
「ははっ、なんかもう必死だね。俺の声聞こえてる?」
 この状態で逃すわけないでしょうという言葉と、塞がれてしまう口と、追い立てるみたいに注ぎ込まれる快楽と。
「ん゛ん゛ん゛っっ」
 全身がビクビクと震えて、とうとうイッてしまった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので8

1話戻る→   目次へ→

 本採用となった例のバイト初日は翌週の土曜日で、再度あの家を訪れたのは昼過ぎだった。夜間のほうが時給が良いというわけじゃないから、だったら何時からでも構わないと言ったらそうなった。
「で、今日はいくら稼いで帰りたい?」
 会って早々そんなことを聞かれても、すぐに言葉は出ない。少し考えてから一万くらいと返したら、ただ立ってるだけで終えるつもりなら六時間半超える感じになるけどチャレンジするかと、絶対に面白がってる顔で尋ねられた。
「それ、上乗せするから何かしろって意味、ですよね?」
「まぁそうなるね」
「俺に何を、させたいんですか?」
 自分から出来そうなこと申告してくれてもいいけど何かある? という言葉にはさすがにクビを横にふる。
「じゃあ前回もちらっと言ったけど、手っ取り早くオナニーして見せてくれたら一万円。別に服着たままお漏らしでもいいけど。他は……さすがに初っ端からあちこち弄らせろは嫌だろなぁ。でもキスくらいならさせる?」
 口にと言われたので、やっぱり少しだけ考えてから、まぁいいかと頷いた。
「なら回数制限無しで、触れるだけなら三千円。口の中まで好きにしていいってなら六千円。後は服全部脱いで立っててくれるなら時給五百円上乗せ、かな」
 どうすると聞かれて考える。まずオナニーだのお漏らしだのは考えるまでもなく論外だ。キスは出来ると言ったけれど、問題は触れるだけで済ませてもらうかどうかで、もし触れるだけなら残り七千円分となり、それを立って過ごすなら服を着て四時間半強。全裸になれたらちょうど三時間半といった感じだろうか。もし口の中まで許したら、残り四千円分なので、服を着て二時間半強。全裸で二時間だ。
 男としては若干小柄で童顔ではあるが、中学高校と普通に運動部に所属していたし体はそれなりに鍛えているので、男相手に裸を晒すことにはそこまで抵抗がない。けれど相手はバイを公言して、こんな自分を明確に性的対象として見ているわけで、そんな男の視線にまで耐えられるかはわからなかった。しかもまたエッチな動画でも見せられたら、内容によっては勃ってしまうかもしれないし。と思ったら、やっぱり服を脱ぐのはためらわれた。
 時給五百円の上乗せは魅力的に感じないこともないけれど、でもそれは時間が長くなるほど影響が大きくなるものであって、口の中までのキスを許すなら服を着ても来なくても差は四十分程度でしかない。
「えと、なら、口の中までのキス、で」
「それだけ?」
「それだけ、で」
「いいよ。じゃあ、行こうか」
 そう言って連れて行かれたのはもちろん防音室で、前回と同じ場所に立って相手を見上げる。
「割と簡単に許可したってことは、深いキスの経験はあるんだよな?」
 掬うように顎を持ち上げられて、まずは軽いキスが一つ。
「まぁ、多少は」
「なら、された経験は?」
「どういう、意味?」
「お前がまだ経験したことないようなキス、してやりたいよな。って意味」
 覚悟してと唇の上で囁くように言われて、ゾワリと肌が粟立ってしまった。
 再度触れた唇が、今度は離れるときにちゅうと軽く唇を吸っていく。そうやって何度も軽く吸われて、まだ口の中へは一切侵入されていないのに、既に腰が重く感じてしまう。
「お前は本当、可愛いね」
 迂闊でという言葉は続かなかったけれど、でも多分、そういう意味なのだろうと思った。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので7

1話戻る→   目次へ→

 結局、二時間持たずにギブアップ宣言をした。ただただ壁際に立っているだけの自分を、気まぐれに観察される状態への肉体的・精神的苦痛が限界だったというよりは、トイレに行きたい生理現象を我慢できなくなったせいだ。
 その場で漏らして見せたら一万上乗せすると言われたけれど、さすがにそれは無理過ぎた。しかし、ただただ立って観察されることは、実のところそこまで苦痛ではなかった。
 じっと動かずに居ろとまでは言われなかったし、適度にその場足踏みや簡単なストレッチで体を動かすことをしても、相手はむしろ面白がってそんな自分を楽しげに見ていた。もちろん会話だってなかったわけじゃない。
 こちらは学生証まで見せてしまったが、相手はいまいち自身のことを話したがらなかったので、会話の内容はどうしたってこの部屋や彼の性癖や今後するかもしれないバイトの詳細だった。
 お試しだから今日は繋がないと言われていたのもあって、お試しが終わったらギチギチに繋がれて身動き取れなくされるのかも聞いてみたが、それじゃあお試しの意味がなにもないだろと呆れた様子で言われたので、ますますこの部屋の本格さ加減が不思議でもあった。相手はすぐにそんなこちらの疑問に気づいたようで、何をするかは相手次第だよと教えてくれた。
 SMというとサディストとマゾヒストの略が一般的かも知れないが、スレイブとマスターという関係性を示す場合もあるらしい。どうやら彼は、エムな相手の要求に最大限応じてやりたいエスだそうだ。
 なのにエムでもない自分相手にこんなバイトを持ちかけているのが心底不思議だったが、彼の目からすると、自分も相当エムな部類の人間らしい。そんな自覚は欠片もなかったが、断言されると否定もしずらい。というか、この部屋から逃げ出してないあたり、否定は出来ない気もした。
「だからな、何をされたいかの自覚もないお前みたいな相手は、ちゃんと性癖探るところから始めるの」
 てわけでと言ってニヤリと笑った相手は、対面の壁に置かれた大型テレビを見るように指示したかと思うと、そこにエッチな動画を流し始めた。どれも短編どころかかなり短く切り取られた行為の一部分で、男女も女女も男男も三人ももっと大勢なのも、キスをしてるだけってものからやっぱり相当ハードなプレイまで盛り沢山だ。
 それら一連の動画の、何に反応するかを見られたのだというのは、言われなくてもわかる。
 そんな動画を見せられた後だったのもあって、トイレに行きたいといった最初は、漏らせではなくここで抜いてと言われた。提示された金額はやっぱり一万だったので、目の前で漏らすのと同レベルというのがいまいち納得行かない。いやでも一万上乗せでオナニーが見せられたかというと、無理だとしか思えないから、結局金額は問題じゃないのかもしれない。
 ギブアップして部屋内設置のトイレに駆け込んだ後は、最初のテーブルに戻って二枚の紙を渡された。
 その紙にはバイトの時給やら契約に関する事が書かれていて、相手の名前やここの住所や電話番号もしっかり書いてあって、なんと判子までも押されている。さすがにバイト内容の詳細は記されていないけれど、口約束じゃ何かと不安だろうからと言った相手の、妙な律儀さをなんだか面白いなと思った。
 そしてバイトする気があるなら、ここに署名捺印して持ってきてと、同じ内容が書かれたもう一枚の紙の下部を指差す。勢いその場で署名をしてしまったが、さすがに判子はない。代わりに、気持ち決まってるなら拇印でもいいけどという言葉に頷いて、拇印を押して彼に渡した。
「契約成立、ってことでいいのかな?」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。じゃあ、次回の日程を決めて、その後、今日のお試し分の支払いをしようか」
 そう言って手渡された本日のバイト代は、二時間分三千円と、最後に額と鼻の頭と両頬への一回ずつのキスを持ちかけられて断らなかった分の上乗せ二千円の、合計五千円だった。
 オナニー披露やお漏らし披露が一万円で、唇に触れない軽いキスが二千円とか、正直その価格設定がさっぱりわからない。
 つい、なんで二千円なのかと聞いたら、そんなの適当だよとあっけらかんと返されて脱力した。
「でもまぁ、慣れて抵抗感なくなってきたなと思ったら金額は下げていくから、自分を高く売りたいならそのへんも頑張って。うまく俺を騙して」
 そう続いた言葉に、それはちょっと難しそうだと思った。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので6

1話戻る→   目次へ→

 今日行くはずだったバイトは何時間働く予定だったかと聞かれて、素直に五時間だと答えたら、じゃあ取りあえずで今から五時間お試しするかと提案された。時間の確認はいつも携帯で済ますので、今回もちらりと携帯に目を落とし、それからよろしくお願いしますと伝える。
「じゃ、こっち来て」
 おいでと呼ばれて向かったのは、パーテションで仕切られた部屋の奥だった。
「えっ?」
 部屋の奥が見えたところで足は止まってしまう。だってそこに見えたのは楽器なんかじゃなかった。
 童顔だからって頭のなかまで子供の訳がなく、むしろ見た目が子供に見えてしまう反動というか意地のようなものから、対女性ならエロいことに対する興味は人並みかそれ以上にある。だからこの部屋と、足を止めてしまった自分に、振り返って楽しげに笑ってみせる男のヤバさに鳥肌が立った。
「お試しって言い出したことは評価するけど、エロ無しでどんなことをさせられるのか聞かないあたり、どこまで行ってもお前は迂闊で危機感がないよな。ま、そこがいいんだけど」
 頭でははっきりとこの男はヤバイとわかるのに、なぜか視線は相手の笑顔に釘付けで逸らせない。
「いい顔だ。多分お前はこのバイト、向いてると思うよ」
 そんなことを軽やかに告げられても、もちろん嬉しくはないのだけれど、これってどう考えてもSM用プレイルームですよねってのがあからさまなあれこれを目にしても、やっぱり無理と言って逃げ出さないあたり、相手の指摘も間違っては居ないのかもしれない。というか、なぜ、逃げようという気にならないのか不思議だった。
 時給千五百円と更にこちらの働きに対して上乗せしてくれるらしい提案への魅力だけではない。……はずだ。
 家に連れ込まれた最初から、ずっと相手のペースに飲まれているのはわかる。もちろん自分が迂闊で警戒心が薄いのも事実だろうけれど、警戒心を抱かせない相手の雰囲気もマズイと思う。マズイというかこの状況で一番ヤバいのは多分そこだ。
 わかっているのに逃げ出せない。目の前で楽しそうに笑う男を怖いと思えない事への、漠然とした恐怖だけは胸の中に広がっていく。
「あの、俺、いったいなに、させられるんですか?」
「そうだな。今日はお試しなわけだし、そこの壁にでも立ってて貰おうかな」
 そこの壁と示された場所の一部からは鎖が垂れていて、その鎖の先には黒い何かがつながっている。何かというか、多分、手錠的なもの。だからきっと、そこに繋がれていろということなのだろう。
「五時間、ずっと……?」
「出来るならそれでもいいけど、まぁ無理だろ。だからお前がもう無理って言い出すまで、だな」
「俺がもう無理って言ったら、ちゃんと終わりにして、くれるんですか?」
「お、ちょっと警戒してる?」
「まぁ、さすがにここまであからさまだと……」
「そこは信用して。なんて言う気はないな」
「ないのかよ」
「ないね。もしかしてこのままずっとここに繋がれて、誰にも知られることなく助けもこないまま、結局あれこれエロい開発とかされちゃうのかも。とか思って不安になってくれたら最高だよな」
 なるほど、そういう性癖か。
「でもさっきも言ったけど、俺は自分の性癖と結構うまく付き合えてる紳士だし、今日はちょっとだけのお試しだからさ。繋いだりしないよ」
「は?」
「これ見たらここに張り付けられると考えるのは当然だけど、でも今日はこれは使わない」
 壁から垂れる鎖に触れる。そして男は、お前はただここに立ってるだけでいいんだよと続けた。
「ただ、立ってる、だけ?」
「そう。立ってるだけ。もちろんその間お前を存分に観察するけどな。お前が肉体的に、もしくは精神的に、耐えられなくなったら今日はそこでおしまい。次をどうするかはとりあえずお前がギブアップした後に考えよう」
 時間の経過はわからない方がいいから携帯は出してと言われて、そういや部屋の中に時計はないのだなと気づく。
「携帯弄って時間つぶしなんてのも当然ダメだからな。何もせずにただ立ってるだけってのもかなりキツイと思うけど、ま、時給千五百と思って頑張ってみな。てわけでほら、出して」
 差し出された手の平に携帯を乗せれば、いい子だねと随分と甘やかな声が聞こえてゾクリとした。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので5

1話戻る→   目次へ→

 出入り口のドアノブに飛びついたものの、それはびくともしない。まさか鍵がかかっていて閉じ込められている?
 そんな想像に一気に血の気が引いていく中、背後からゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。
「っやー、お前、ほんっと、面白れぇー」
 振り返って精一杯睨みつけてやったが、それすら相手の笑いを刺激するだけのようだ。
 あまりにも激しく笑われて、緊張も焦りもいまいち本気になれず、なんだか気が抜けていく。若干途方にくれながら見つめる先、相手がゆっくりと立ち上がる。
「別に鍵かけてお前をこの部屋に閉じ込めてるってわけじゃないんだよねぇ」
 へらへらと笑う顔はどこかバカにされているようで、けれど、部屋の中に気を取られてドア閉じるの見てなかっただろという言葉には否定を返せなかった。
「迂闊で危機感なくて、ほーんとかっわいー」
 近づいてくる男にちょっとどいてと促されて数歩横へずれれば、二箇所ほど取り付けてある金具をいじった後、よいせの掛け声とともにあっさりドアが押し開かれる。
「はい、これで出ようと思えば出れるわけですが、さてどーする?」
「どーするって、言われても……」
「まぁ、俺がこうして入り口に突っ立ってたら、お前にゃ多分無理だよな」
 俺押しのけてここから脱出するの。などと楽しげに言われたが、わかってるならどいて欲しい。けれど同時に、どいてくれる意思がないこともまるわかりだった。
「わかってんならどいて下さいよ」
「どくわけないって、わかってる顔してるくせに」
「なら、どうすればいいんですか? どうしたらどいてくれるんですか?」
「わーそれ自分で言っちゃう? ほんっと可愛いなお前」
 聞いたらまたバカにされたらしい。ついムッとしてしまったら、とりあえず時給千五百でどうよと、へらへらしていた顔を急に真面目な顔に変えて告げられた。声音ももちろん、ふざけた様子は一切ない。
「えっ?」
「単純にお前の時間を買うのに一時間千五百。俺はバイでお前も性的対象になるって言ったけど、これでも結構紳士だから、というかお前に興味はあるけど別にそこまで飢えても居ないから、無理にお前をどうこうしようなんて気はさらさらない。けどもしお前が俺に何かさせてもいいってなら、それはまた別に料金上乗せしてやるよ」
「えっ?」
「バカ丸出しで俺に何されてもいいとか言えるなら、月一回、俺に抱かれるだけで八万入手も可能だぞ。って言ったら、バイトとしてはそこそこ魅力的じゃないか? もちろんこれは何されてもいいなんて軽々しく言うなよっていう警告でもあるけど、でもそう悪くない提案だと思うから、ちょっと本気で考えて」
 本気で考えろと、本気で言われている。そう感じるには十分すぎるほど、相手の持つ雰囲気が先ほどまでと違う。
 確かに時給千五百円は魅力的だ。こちらの希望を大幅に上回る好条件だとも思う。でもこれを受けたとして、「愛人」という職業は正直どうなんだと感じる程度には、人生それなりに真面目に生きてきた。まぁエロいことはしなくてもいい関係でも、愛人と呼ぶのかイマイチ疑問ではあるけれど。
 もし今ここで、はっきり嫌だ無理だと言ったら、引き止められることなくこの家から出ていけるのだろう。興味はあるけど飢えてないという言葉もまた、間違いなく本音だと思う。
 だからこの棚ボタとも言える好条件バイトを掴むなら、ここで頷く以外の道はない。チャンスはきっとこの一度だけなのだ。
 本気で考えてを本気で実行している自分に、相手は急かす様子もなくただただじっと待っていてくれる。
 愛人という単語に抵抗はあるが、気になるのはそこだけだったから、そこにさえ目をつぶる事ができればいい。エロいことを許可する気なんてないし、エロいことをしないのなら、それはもうただ一緒に時間を過ごすだけの少しオカシナ友人関係のようなものじゃないのかとも思う。
 その関係に時給で千五百円も払うというのがあまりに異質ではあるが、多分、下心込みの値段なのだろう。バイで性的興味があるとはっきり言われているのだから、きっと口説かれたり笑われたりバカにされたり面白いとか可愛いとか言われるための値段。
 そんなの絆されて頷かなければいいだけで、問題は、この男にうっかり絆されて、何かされてもいいと思うようになる可能性があるかどうかって気がする。そんな可能性絶対無いから大丈夫と、自信を持って言えないあたりちょっと不安といえば不安だ。
「あの、お試し期間とか、無理ですか?」
 聞いたらもちろんいいけどと返された。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので4

1話戻る→   目次へ→

 黙って口を閉ざせば、勝ち誇ったような顔をされたが、そういや相手の男は何歳くらいなんだろう?
 そこまで年上に見えないのは口調が割合雑なのと、今みたいな顔がどこか子供っぽさを滲ませているせいだ。しかしそれを尋ねるより先に、相手から質問が投げられた。
「で、見事にバイトはクビらしいけど、お前これからどうすんの?」
「そんなの、新しいバイト先探すとこからやり直しに決まってんでしょう」
「どんなバイト探してて、月に幾らくらい稼ぐ必要があるんだ?」
「どんなって、そこそこの時給でできれば土日祝日のみ出勤で……あっ」
 ぺらぺらと喋りかけて慌てて口を閉ざす。危機感薄すぎと言われたばかりなのにと思ったら、さすがに恥ずかしくて顔が熱くなった。
「何赤くなってんの。エロい系バイトでも探してた?」
「ち、違いますっ! というか、あなたに話す必要ない話題じゃないですか、これ」
「あー……危機感?」
 頷いたら、今更過ぎと笑われて悔しい。
「危機感覚えたってなら別に話さなくたっていいけどさ、俺がお前を雇う可能性あるよ、っつったらどーする?」
「え?」
「俺ね、これでも結構稼いでんだよね。だから大学生の小遣い稼ぎ程度なら付き合えっかもなーって、割と本気で思ってんだけど」
 月に幾らくらい稼ぎたいのと再度問われて、最低五万でできれば八万くらいと返せば、その程度でいいんだと余裕の表情を見せられた。マジか。
 というかどんな仕事で雇ってくれる気でいるんだろう?
「えっと、なんの仕事、されてるんですか?」
「ん? 俺の仕事を手伝ってって話じゃない。もし本気で俺に雇われる気があるなら、勤務先はここ」
「え、じゃあ、家政婦的な?」
 一人暮らしなので最低限の家事はするけれど、この家結構広そうだし、とても自分の手に負える気がしない。しかしそれはあっさり否定された。
「残念。ハウスキーパーは既に入れてる」
 にやりと笑われて、あれこれやっぱり迂闊過ぎたかもと思ったが、どうやらもう遅すぎた。
「簡単に言うなら愛人契約? と言っても、エロいことはそっちが出来る範囲内でいい」
 さすがにすぐには意味が飲み込めなくて、相手の顔を見つめたまま必死で告げられた言葉を脳内で繰り返す。
 愛人契約? エロいこと? この男相手に? 俺が?
 考えたところで、頭のなかに疑問符が増えていくだけだった。
「あ、やっぱ意味わかんねーか」
「や、だって、そりゃ、……俺、男だし。てか男に手なんか出さないって証明のそれなんですよね?」
 それと言って指を向けたのは、もちろん録画しっぱなしというビデオカメラだ。
「違う。それは子供に手を出さない証明用。俺自身は男も女も対象になる、いわゆるバイってやつ」
「俺、も、対象に、なった……?」
「ショタ趣味なんてなかったはずなんだが、大学生って聞いたら、さすがにちょっと興味湧いたな。あと、お前けっこー面白い」
「面白い、ですかね?」
「面白いな。というか、即座に無理だとも言わねーし、この変態とか罵っても来ないとことか、かなり面白い」
 聞いても、それのどこが面白いのかさっぱりわからない。そんな気持ちはそのまま言葉になって吐き出された。
「意味がわからない」
「じゃあ単語変えるか。この状況で愛人になれって誘われてんのに、頭に疑問符並べながらぼけっとこっち見つめてくるとこがめちゃくちゃ可愛い」
 本当に危機感ねぇなと笑われて、慌てて椅子から立ち上がった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁