昔好きだった男が酔い潰れた話(目次)

キャラ名ありません。全7話で短めです。
元高校同級生で部活仲間だった2人の話。視点の主は高校卒業時に相手に告白して一度振られています。
現在年齢20代半ば。
酔いつぶれた相手を連れ帰ったらなんだかんだあって最終的には恋人になります。

視点の主は180cm近く、相手は男性にしては小柄という設定で体格差あり。
ただし行為はキスまで。
相手はタチネコ両方経験ありで最後リバ発言あります。

下記タイトルは内容に合わせたものを簡単に付けてあります。

1話 飲み会
2話 連れ帰った酔っぱらい
3話 帰ってなかった
4話 告白とセックスの誘い
5話 相手の前カレ話
6話 ちょっとタチが悪い
7話 恋人になったので

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話7(終)

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 肯定を返せば喜ぶのかと思っていたが、彼はどこか困った様子で、眉間にシワを寄せたまま乾いた笑いをこぼす。しかも「バカだな」というオマケまで付いてきた。
 まさかそんな反応とは思わず、こちらの眉間にもシワが寄る。
「何が気に食わないんだ」
「わりと、なにもかもだよ」
 ふぅ、と大きくため息を吐いた後、彼はゆっくり立ち上がる。何をするのかと思えば、小さな座卓を回りこんでほぼ真横に立たれた。
 体は座卓に向いているので、首だけそちらを向けるように斜めに仰ぎ見れば、その顔を固定するように両頬を手で挟まれ、あっと思った時には唇が塞がれていた。しかもそのままぐいぐいと唇を押し付けてくる。さすがにやめろの気持ちを込めて、伸ばした腕で相手の服を掴んで引いた。
 あっさり唇が開放されてホッとする。しかしそれもつかの間で、頬に添えられていた手が肩にかかったかと思うと、思い切り体重をかけられて後ろに転がるはめになった。咄嗟に腹に力を入れたので、背中や頭を打ち付けるようなことにはならなかったが、それでも何が起きたのか頭がついていかない。混乱する中、腹の上にまたがるように座った相手を呆然と見上げるしかなかった。
「お前はちょっといろいろ誤解してるよ」
「何、を……?」
「お前と恋人になっても、楽しめないのは俺じゃなくってお前って話。今現在お前を好きって言ってるのも俺で、セックスしたいのも俺。そんな俺に付き合って、恋人になってセックスまでしてくれようとするお前が理解できないよ」
「それは、俺だってお前が、……」
「今もまだ、俺を好き?」
 一瞬言葉に詰まってしまったのは、つい数時間前までは、彼への想いは消化されきったと思っていたからだ。
「好き、……だ」
 それでもどうにかそう返す。好きだと言われて恋人の有無を聞かれたさいに、恋人になってくれと言われたらと胸が高鳴ったのも事実だからだ。
 彼がセックスなどと言い出さず、恋人になりたいと言ってくれていたら、そのまま素直に受け入れていただろう。それはやはり、自分の中に彼への想いがまだあるからだとしか言えない。
「だからさ、俺はちょっとタチが悪いってさっき言ったろ。昨夜の段階で、お前の気持ちは俺に向いてなんかなかったって知ってるよ。酔ったせいにして悪いけど、無自覚になんとなくどころじゃなく、思いっきりお前煽ったし誘ったよな。元々素養があった所にそんな真似されて、気持ちぶり返したみたいになってるだけだから。俺以外の男にそんな気になったことないお前が、俺に付き合ってこっちの世界に踏み込む必要なんてないんだよ。俺はお前と恋人になりたいわけじゃない」
 黙って聞いていたら、見下ろしてくる彼の顔がどんどん泣きそうになる。まったくバカはどっちだと思った。
「俺の気持ちを否定するなと、俺もさっき言ったはずだぞ。お前が無自覚だろうと酔った上だろうとそれこそ本気でだろうとそんなのは関係ない。誘われた結果、俺の中にお前に対する気持ちが生まれたならそれでいい。むしろタチ悪く煽った自覚があるってなら、責任持って自分から、恋人になれと言ったらどうだ?」
「じゃあ……」
「言えって」
「恋人に、なって」
「いいぞ」
 即答して笑ってやったら、ようやく相手も笑顔になってほっとする。しかしその安堵もやはり長くは続かない。
「じゃ、セックスしよっか」
「は? まさか今からか?」
「当然でしょ」
 ニヤリと笑いながら腹の上で腰を揺する。正確には下腹部で、もっと言うなら限りなく股間の上に近い場所だ。
「ちょ、待て待て待て」
「出来ないとかやりたくないとかは言わせないよ?」
「言うつもりはないがせめて日を改めて」
「ヤダ。てかなんで?」
「準備的なものが必要だろ。ほら、色々と、主に俺の知識的な方面で!」
 必死に言い募ったら、呆気にとられた顔をした後で笑い出す。
「心の準備が出来てるならそれでいーじゃん。後は経験者な俺に任せなよ」
「不安しかない」
「もしかしてセックスでイニシアチブ握りたいタイプ?」
「というより、むしろお前がそうじゃないのか?」
 付き合いの長さから言っても、今現在、人の腹の上で煽るように腰を揺するその顔の楽しげな様子から言っても、そうとしか思えない。
「あれ? わかる?」
「わかりやすすぎるくらいにな。てかお前に好き勝手されたくないから日を改めてしよう」
「やだなー何言ってんの。好き勝手したいから今すぐしようって言ってんじゃん。まぁお前初めてだし、今日今すぐお前に突っ込んだりはしないからさ」
「は? 待て待て待て。俺が突っ込まれる側とか聞いてない」
 まさに青天の霹靂だった。いっきにこの体勢に危機感を覚え始める。
「だから突っ込む側でいいってば。今日のとこは」
「今日は、って何だよ。今日は、って!!」
「お前焦りすぎて面白い」
「まじめに聞いてんだよっ。お前俺に突っ込むつもりなのか?」
「絶対嫌ってなら考慮はするけど、まぁ俺も男なんで好きな子は抱きたいよね?」
「まさか、上司の事も……?」
「あ、言ってなかったか。上司どっちかって言ったらネコの人だったんだよね」
「ネコの人?」
「抱かれる側のが好きな人。と言っても最初はそんなの知らなくて、俺が抱かれる側だったわけだけど。ってわけで、お前に抱かれることも出来るから安心して俺に任せなさいって」
 自分に体格も声も似ているらしい上司相手に抱いた経験ありと宣言されて、これはもう本気で別の覚悟が必要そうだと思った。
「さっそく後悔してる?」
 けれどそれでも、その言葉に返す言葉は決っている。

< 終 >

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話6

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 それらを指摘して、もう一度わからないと言ったら、相手は困った様子で無理だよと返す。
「だからなんで無理なんだ」
「だって、そんなの……お前が好きって言った頃の俺と、今の俺じゃ違いすぎるし」
「それを言ったら俺だって随分と変わってるはずだろう。ああ、それとも、お前は今の俺だから好きなのか」
 年に数回会うかどうかの相手だから、好きだなんて事が言えるのかもしれない。昔の記憶に少しばかり現在の情報を足しただけのイメージに好きだと言っているのなら、それも仕方がないのだろうか。
「違うっ」
 そんな思考を払うように、強い声が否定を返す。
「あの頃は男相手のどうこうを考えられなかっただけだって言ったろ。自分がそっちの側って自覚してたら、お前の告白だって受けてたよ。それで、上手くいったかは別として」
 弱々しく付け足された最後のセリフが気にかかる。
「まるで付き合っても上手く行かないみたいな言い方だな」
「行くわけ無い。そもそもお前、なんで俺に告白なんてしたんだよ。お前こそ、男なんて恋愛対象外だろ」
「確かにお前以外の男に告白したことも、告白されたこともないが、お前が好きだと思った気持ちまでお前に否定される覚えもないぞ」
「俺がそう思わせただけだ。って言ったら?」
「意味がわからない」
「自分で言うのも何だけど、俺はちょっとタチが悪い。その上司いわく、無自覚に男誘うんだってよ。言われりゃ確かにそういうとこあるかもって思うよ。俺、男友達にちやほやされんの、基本的に好きだしな」
 自嘲気味の乾いた笑いがなんだか痛々しい。
「ようするに、俺の事も無自覚に誘ってたと言いたいのか」
「そう」
「それの何が悪いんだ」
「は?」
「ようするに自覚がなかっただけで、あの当時からお前は俺を好きだった、という告白だろう?」
「はああ??」
 あまりに驚かれてこちらも驚いた。そんなに的はずれな返答をしたつもりはなかったが、相手は小さく吹き出した後、もう我慢できないと言いたげに笑い始めてしまう。
「お前のそういうとこ、ホント、好きだよ」
 斜めにポジティブでと続いたそれは褒め言葉ではなさそうだったけれど、しおしおと萎れた様子よりは笑ってくれていたほうがマシだったので黙っていた。
 やがてひとしきり笑い終わった後で、彼は酷く真剣な表情で見つめてきたから、自然とこちらも次の言葉を待って居住まいを正す。
「俺はお前が思ってるより色々問題抱えてると思うんだけど、それでも俺と恋人になってって言ったら、お前、オッケーする?」
「聞き方が卑怯だ」
「そうだね」
 あっさり肯定を返した彼は更に続ける。
「お前が恋人になってって言わない理由をあんまり聞くから、言ってみただけだもん。お前に見えないだけで、障害は俺の中にいっぱいあるって話」
「俺に見えないのはお前が話さないからだろう。お前の抱えてる問題とやらは、やはり俺には話せないのか?」
「色々ありすぎてどう話せばいいのかわかんないって。ただ、俺は自分自身の事で手一杯だから、恋人になんかなっても楽しいとは思えないよ」
 それこそセックスメインでもない限りと続けた彼は、ニヤリと笑ってセックスしてみる? と聞いた。そこに話が戻るのかと思ったら思わず溜息がこぼれ落ちる。
「ほらな。お前さっき、俺以外の男に告白したことも、男に告白されたこともないって言ってたじゃん。てか彼女いた事もあったよな。セックスは女としか経験ないんだろ? でもって俺とするつもりもない。ならそんなお前が俺と付き合って何すんの?」
「するつもりがないとは言ってない」
「溜息ついたくせに」
「そこに話が戻るのかと思っただけだ」
「何度も、恋人になれって言わない理由を繰り返し聞いてきたお前に、それ言われたくないんだけど」
 不満気に唇を尖らせる様子に、確かにそうだなとは思った。
「お前にとってセックスはどの程度重要なんだ?」
「どういう意味?」
「俺がお前とのセックスに応じたら、俺と恋人になる事に意味が見いだせるのかと」
 恋人になんかなっても楽しいとは思えない。と言った先ほどの彼の言葉が頭のなかにこびりついていた。
「楽しい事がなにもないのに、恋人になっても仕方がない。という理由なら、わからなくはないからな」
「あー……」
 彼は微妙な面持ちで、溜息にも似た声を発した後。
「セックスするかどうかはすごく重要。って言ったら、お前、俺と、セックスする?」
 恐る恐る訪ねてくるので、もちろんするときっぱり告げた。

続きました→

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話5

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 泣きそうな顔に、隠しておきたいことなのかもしれないと思う。だから無理に話す必要はないと続けたけれど、相手は緩く首を振って口を開いた。
「ちょっと手痛い失恋した、ってだけだよ」
「振られたのか?」
「簡単に言えば、そういうことだね」
「複雑に言うと?」
「もう少し正確に言うなら、付き合ってると思ってたのは俺だけで、セフレに切られたって感じ?」
「そうか」
 目の前の男とセフレという単語には確かに違和感しかないので、本気で好きだった相手からお前はセフレだったと言われて捨てられたのだとしたら、それは相当辛かっただろうとは思う。思うが、そこから彼が自分へ興味を向ける理由はやはりわからなかった。
 わからないがそれを突っ込んで聞いていいのか躊躇ってしまえば、それに気づいた様子で相手の方から口にする。
「そっからどうしてお前を好きだって話になるのか、わかんないよな」
「そうだな」
「俺はその人に本気だったつもりだけど、相手からすると俺も同じというか、相手は俺が、お前の代わりを相手にさせてると思ってたらしい」
「俺も知ってる奴なのか?」
「いや知らない。会社の上司、……だった人」
 会社の上司という単語に、頭の中で何かが引っかかった。
「あっ!……って、えっ、いやでも」
 彼が飲み会に顔を出さなくなったのはここ3年位の話で、大学卒業後暫くはまだ頻繁に顔を見せていたし、社会に出れば当然のように会社でのことも話題に上がる。
 その頃、上司がお前に似てて色々とやりやすい、というような事を言われたことがあった気がする。どの辺が似てるのか聞いたら、体格とか声とか雰囲気的なものと言われて、性格ではなく体格や声や雰囲気が似ててやりやすいの意味がわからないと思った記憶がある。
 それらを口には出さなかったのに、彼はその想像を言い当てるように肯定した。
「多分それであってる」
「お前の相手って、男……なのか?」
「この流れで女の恋人と思って聞いてたお前にビックリだよ」
「そうか。いやなんか、俺が振られたのは俺が男だからだと思ってたんだ。男も恋愛対象になるんだな」
「それもあってる。あの頃は、男は恋愛対象外だったよ。というか、男の方が好きな性癖を、まだ自覚してなかった」
「お前、男のほうが好きなのか?」
 それは衝撃の事実だった。
「そうっぽいね。ちなみに、最初にそれを意識させたのはお前」
 それは自分の告白を指しているのだろうか。聞けばあっさり、そうだと肯定が返った。
「でも、それがなくても、いつかは気づいたと思うよ。女の子と付き合ったこともあるけど、なんか違うって思ってたから。それに、決定的にしたのはお前じゃなくてその上司だし」
「その上司だが、俺に似てたから好きだったのか?」
「俺にそのつもりはなかったけど、指摘されて否定はしきれなかったかな。実際、お前に似てたから接しやすかったわけだし、それがなければそういう関係にもならなかったし。暫く飲み会に顔出さなかったのは、お前に会うの避けてたからだし」
「俺を、避けてた……?」
「そう。会うの、なんか怖かった。なんで怖かったか、今なら理由もはっきりわかるけど、その頃は無意識に避けてた感じ」
「その理由は聞いてもいいのか?」
「そんなの……だって、お前に会ってお前が好きだって気づいたら色々とまずいじゃん。それ自覚してなかったけど、相手はそういうとこも気づいてたっぽいね。だから確かに、俺は振られて落ち込む資格すらないのかもしれない」
「その上司との関係は終わったんだよな?」
「終わってるよ」
「それなら、俺に恋人になって欲しいと言わない理由は?」
「は?」
 唐突に話を戻しすぎたようで、呆気にとられた顔をする。
「その上司に似てるから俺を好きだと言ってるわけじゃないんだろう?」
「違うよっ。何言ってんだよ。ちゃんと話聞いてたのかお前」
「ちゃんと聞いてたからわからないんじゃないか。お前と俺が恋人になることの障害が見つからない」
 こちらに相手への気持ちが残っていることは見ぬかれているし、相手も自分を好きだと認めている。互いに恋人と呼ぶような相手も居ない。なのに恋人になりたいとは言わない理由が、やはり自分にはわからなかった。

続きました→

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話4

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 結局洗濯を自分が、カップ味噌汁を相手が用意するという事になり、洗濯物を簡単に仕分けた後スイッチを入れて戻れば、座卓の上には湯気を立てるカップみそ汁とおにぎり数個とが並んでいた。
「そういやお前、俺に何も聞かないの?」
 黙々とそれらを食べていたら、同じように黙々と朝食を消費していた相手が、ふと手を止めて口を開く。
「正直なんかお前の話聞くの怖い。……気もしてる」
 本音だった。
「でも何か困ってるなら、もし力になれることがあるなら、協力はしたいと思ってる」
 よっぽどのことがあったんだろと続けたら、相手ははじめ驚きに目を瞠り、それから困ったような照れくさそうな顔になって、ほんの少し俯き視線を落とす。
「あー……やっぱ好きなんだなぁ……」
 彼自身に言い聞かせてでも居るような小さな声ではあったが、聞き取れないほどの声量でもない。ただ、何が好きなのかはわからなかった。
「何が好きだって?」
「何って、そりゃ、お前のことがだよ」
「は?」
「うんまぁ、ものすごく今更な事言ってる自覚はちゃんとある」
 顔を上げた彼はとても真剣な表情をしていて、その言葉が嘘でも冗談でもないのだということは、否が応にもはっきりと伝わってくる。
「ところでお前、今、付き合ってる奴、いる?」
「い、ない……」
 好きだと言われて恋人の有無を聞かれるということは、つまり恋人になりたいという話なのだろうか。高校を卒業してそろそろ2桁年という今になって、あの時叶わなかった想いが叶うのか。
 そんなことを思ってドキドキと胸が高鳴ったのは一瞬だった。
「っそ。じゃ、ちょっと俺とセックスしてくんない?」
「はああああ?」
 なんでそうなる。意味がわからなすぎて声を張り上げてしまった。
「声でかいって」
「いやだってオカシイだろ。何がちょっとセックスだ。自分が何言ってるか、お前わかってんのか?」
「わかってるよ。当たり前だろ」
「お前、まだ昨日の酒残ってるだろう」
「いやいやいや。酔ってないって」
「お前がなんか色々オカシくなってるのは充分伝わってるけど、酔ってないなら、せめて俺がわかるように順序良く話してくれ」
「お前が好きな事に気づいたので、お前とセックスがしたいです」
「おいこら。それは話す気ないって事でいいのか?」
 少し低めの声で威圧的に告げれば、相手は観念したように小さく息を吐き出した。
「酔いつぶれたの失敗だったって言ったろ。本当は、酔った振りでお前のキス奪えたらくらいのつもりだった。さすがにあの店でそこまで出来る雰囲気なかったし、定番なら誰か潰れたらカラオケかファミレス行きだろ。どうにかカラオケに持ち込んで、人数減るから今度こそお前の隣キープしようって計画だったんだよ」
「その計画にも色々突っ込みどころはあるが、取り敢えず、それで本気で潰れて俺の家に泊まりになった結果、色々すっとばしてセックスしようになる理由を聞いてるんだが?」
「色々すっとばしてはいないよね。酒のせいにして、お前にベタベタ絡んで甘えて、キスして」
「ちょっとまて。キスしたのか?」
「え? したよね?」
「知らん」
「ああ、そう。もう寝た後だったかな。じゃあ勝手に奪ってゴメン?」
「軽いな」
「そこそんなに重要な話じゃないから」
 寝てる間にキスされたかどうかなど、今現在の話の内容的には確かに瑣末な事ではある。知らない間にキスされていただなんて事実に、もやもやとする気持ちの解明も持って行き場もないまま、そこにこだわり続けるわけにもいかずに話の先を促すしかなかった。
「まぁそんなわけで、場所が違うけどやろうと思ってたことは全部した。お前が好きだって気持ちも確信した。セックスに関しては、お前に俺への気持ちは残ってないって思ってたけど、もしかしてそうでもないのかなって思ったら、ちょっと欲が出ただけ」
 無理ならいいよとあっさり今までの言葉を翻して、彼は朝食の残りを口にする。釣られて自分も朝食の続きへ戻ったが、頭のなかは彼の言葉をぐるぐると反芻していた。
「なぁ」
 結局全てを食べきってから、どうしても納得がいかずに声をかける。
「何?」
「セックスしようじゃなく、恋人になろう、という選択肢はなかったのか?」
「ないね」
「どうして」
「今更過ぎる自覚はあるって言ったろ。お前の恋人になりたいなんて言える立場にない」
「いきなりセックスしようと言われるより、恋人になってくれと言われたほうが、まだ受け入れやすいんだが?」
「そうだね。でも言わない」
「なぜ?」
 問いかけを繰り返せば、困った様子で言いよどむ。
「本当は、何があった?」
 確信があったわけではない。けれどそう告げた時の驚いた様子と、なんだか泣きそうに歪んだ顔に、すぐさまそれは確信に変わった。

続きました→

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話3

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 目覚めると隣りにいたはずの男の姿は既になかった。さして広くもない1K間取りのこの家の中で、完全に気配を消すのは難しい。シンと静まり返った部屋の空気に、どうやら帰ったらしいと結論づけた。
 まさか連れ帰ったことそのものが夢だなんてことはないはずだ。夢うつつに何やら返事をした記憶は朧げにあるから、多分、それが帰るという相手へ返した言葉だったのだろう。
 本当に、あれは一体何だったのか。彼に一体何があったのか。
 気にはなるが、改めて呼び出して問いただすかというと、そんな真似はきっとしない。
 昨夜は自分自身もそれなりに酔っていたから、感覚全てが鈍っていたと思う。それで良かったと思うのは、目覚めてスッキリとした思考の中、昨夜のいろいろを思い返して今更ドキドキしているからだ。
 どうせまた最低でも半年は会う機会なんてないのだから、自分から彼に近づいて、せっかく鎮火した想いにわざわざ燃料を投下してやる必要はない。むしろ次に会う時までに、ざわついてしまった気持ちを鎮める事が重要だ。
 昨日のことはシャワーでも浴びてさっぱりして忘れてしまおう。
 なのに、シャワーを浴びて部屋に戻ったら、先程まで居なかったはずの、というか帰宅したはずの男が、何故かベッドに腰掛けていた。
「あ、……ええぇっっ!?」
「なにそんな驚いてんだ」
「いやだって、お前、帰ったんじゃ……?」
「コンビニ行ってただけだって」
 苦笑とともに指さされた先を視線でたどれば、座卓の上に見慣れたコンビニの袋が置かれている。中身はどうやらおにぎりとカップ味噌汁らしく、これは多分、朝食を買ってきたということなんだろう。
「声かけたし、お前はちゃんと返事もしたけど、……どうやら覚えてないっぽいな」
「なんか返事したのは、なんとなく、覚えてる」
「まぁいいや。俺もシャワー借りていいよな? タオル貸して。後お前、今日の予定は?」
「タオルは脱衣所の脇の棚に重ねてあるの使っていい。後、今日は特に予定ない。あえて言うなら部屋の掃除と洗濯と買い出し」
「おっけ。わかった。朝飯は俺がシャワー出たら一緒に食おう」
 先に食うなよと釘を差して、相手は今しがた自分が使用していたバスルームへと消えていく。ガサゴソと動き回る気配の後、カタンと風呂場の戸が閉まりシャワーの流れる水音が聞こえてから、ようやく金縛りが解けたようにその場にへたりこんだ。
「ええええぇぇ…………」
 思わず漏らす吐息のような声は、自分でもわかるほど戸惑いに満ちている。
 反射的に対応してしまったが、よく会話が成立したなと思うくらいには動揺していた。
 そうこうしているうちに、あっさりシャワーを終えて戻ってきた相手は、部屋の中で座り込んでいる自分に怪訝な顔をしてみせたが、こちらはそれ以上にオカシナ顔を見せただろう。なぜなら相手は、下着一枚という出で立ちだったからだ。
「ちょ、おまっ、服っ」
「あーうん。下着はあるんだけどさ、なんか着るもの貸して?」
 ようするにコンビニには朝飯を買いに行ったというより、替えの下着を買いに行っていたということなのかもしれない。
「な、なんで……?」
「洗濯すんなら俺の服も一緒に洗っちゃおうと思って? 天気いいし夕方には乾くだろ」
 夕方まで居続ける気かとか、洗濯までさせる気かとも思いつつ、それでも嫌だとは口に出来なかった。昨日着てた服を着てさっさと帰ってしまえと思う気持ちはゼロではないが、やはり彼をこのまま帰したくない気持ちの方が強いらしいのだから、なんだかんだ一度は男であることをこえて告白するほどに惚れこんだ想いは根が深い。
「なんかズボン落ちそう」
 ラフな上下セットの部屋着を渡せば、小柄な彼にはやはり大きすぎるようだった。袖と裾とはまくればいいが、ウエストの差はどうしようもない。
「仕方ないだろ。不安なら自分のベルトでも巻いとけよ」
「あとお前の匂いがする」
「やめろ」
「まぁいいや。取り敢えず朝飯食おう。味噌汁用にお湯沸かしていい?」
「俺がやるからお前座っとけ」
 その格好で部屋の中をウロウロされる方がなんだか色々と心臓に悪い気配が濃厚だ。なのに、じゃあ洗濯機回してくると言って、結局じっとおとなしく座っててはくれないらしい。

続きました→

 
 
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