イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった23

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 多少スッキリはしたが、胸の痛みもムカつきも消えず、結局、トイレから戻った後はそう長居せずに店を出た。
 時間はそこまで遅くなく、終電まではまだ時間がある。けれど当然どちらも2軒目などの話題は出さなかったし、言葉少なにただただ駅へ向かって歩いていた。
 時折酒で足元がふらつくのを、気をつけてと言いながら支えてくれる腕に、やっぱりなんだか胸が痛い。だって大学時代と違って、このまま家まで連れ帰ってもらえるわけじゃない。私立の男子校で双方電車通学だったから、今日は互いの実家の中間地点あたりで飲んでいて、駅へ着いたらそれぞれ逆方向の電車に乗るのだ。
 一緒にいたって話が弾むわけじゃないのに、というよりも友人と過ごす楽しい時間を潰したのはどう考えたって自分なのに、駅まであと数分のこの土壇場で、別れがたく思っているのがひどく苦しい。
 今日ので呆れられて、次の誘いが掛からなかったらどうしよう。
 そう思ったら足が止まってしまった。就職を機に住む場所の距離は開いたが、毎日通学するのは躊躇う程度の距離でしかないから、中間地点で会おうとするなら双方そこまで負担にならないとわかっていたのに。何度かあった誘いを今日までのらりくらりと躱していたくせに。次はもうないかもと思ったら、こんなにも惜しい。
「どうしたの?」
「あー……思った以上に酔ってる、っつか、こんなで無事、家に帰りつけんのかな、って、思って」
 ちょうど腕を支えられている時だったので、名残惜しい気持ちをそんな言葉で覆い隠して時間稼ぎをはかってしまった。きっと、酔いがもう少し覚めるまでどっかでお茶でも、という誘いを掛けても変には思われないはずだ。けれどこちらが口を開くより先に、相手が話し始めてしまう。
「じゃあタクシー捕まえる? それとも泊まるとこ探す?」
「へ?」
「家まで送ったらさすがに俺が帰れなくなりそうだし、お前の家からタクシーで帰るのはさすがにキツイんだよね。だからもしタクシーで帰るってなら、少しは俺もお金出すよ」
 こんなに酔わせた責任が俺にもありそうだしと、心配そうな顔で告げる相手の声は優しい。といよりも、さっき相手の恋人絡みの話で少し空気がオカシクなった以外、相手はずっと変わらずに優しいんだけど。
 でもそれがますます、これで最後かもと思わせてもいた。だって大学時代なら、店で吐くほど飲んだら多少は嗜める言葉があった。はっきり呆れる様子を見せていた。
「泊まるとこ、は?」
「そこそこ大きな駅だし、飛び込みで入れそうなビジネスホテルとかありそうじゃない?」
 少し離れた駅の反対側にラブホ街があることは知っているが、相手のいう泊まりはそこではなかったらしい。まぁ、向こうにラブホ街があるよ、なんて言われても、じゃあ泊まりでなんて言えるわけがないんだけど。
「じゃ、泊まる」
「わかった。じゃあ取り敢えず、あそこに見えるホテルで聞いてみようか」
 言われて指さされた方へ視線を向ければ、確かにホテルらしき建物がある。
 そして結果から言えば、無事に部屋は空いていて、あっさりチェックインが終了した。ただし、部屋はシングルで、今現在、この部屋の中にいるのは自分ひとりだ。
 ベッドに突っ伏しながら、恥ずかしさと後悔とで悶絶している。だってこんなの、想定外もはなはだしい。
 だって、ロビーの椅子に座らされていたから、カウンターでのやり取りは一切聞いていない。だから、鍵を手に戻ってきた相手に促されて部屋へ行き、一つしかないベッドを見た後でさえ、まさか自分ひとりのための部屋だとは思わなかった。
 足元がおぼつかないほど酔ってるのはこちらだけで、相手は自力で帰れるのだから必要がない。と言われてしまえば、お前も一緒に泊まれとは言えない。それでも一緒に部屋に来たってことは、それなりの下心があるのだろう。なんて思ったのさえ、どうやらこちらの勘違いだった。
 酔っ払いを無事に部屋まで送り届けるのが目的だったようで、一通り説明を済ませるとさっさと帰ろうとするから、思わず、する気かと思ったと告げてしまったのは多分未練で、そういう関係は終わったことと、彼女が出来たんだろうと指摘されたことが恥ずかしい。
 彼女が出来たのだから、相手の誘惑にも勝てるはずと思っていたはずが、自分から誘ってどうする。彼女が出来たのは最近で、まだそこまで深い関係にないとはいえ、その瞬間、彼女の存在をすっかり忘れていた自分に嫌気がさす。自分自身に裏切られたような気持ちだった。
 宿泊先を探そうかと言われて、自分だけがその気になっていたなんて。これはもう、恥ずかしいというよりは、なんだか惨めだった。
 部屋を出る間際に、じゃあまた、と告げていった相手の言葉には少しばかり救われているけれど。でも本当に次の誘いが来るかわからないし、次の誘いが来たとして、その誘いに乗れるかもわからない。
「はぁ〜……」
 深い溜め息が、顔を埋めた枕に吸い込まれていった。

続きました→

 
 
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