生きる喜びおすそ分け8

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「お、やっとこっち向いたな」
 目ぇ真っ赤と苦笑しながら伸びてきた手が、そろりと目元を撫でていく。
「俺に触られて、嫌じゃない?」
 黙って頷けば、そう、と苦笑を柔らかな笑みに変えて、目元を撫でてくれたのと同じ優しさで、さらさらと髪を梳くようにして何度も頭を撫でてくれる。なんだこれ。
「あの、……」
「うん、なに」
 黙ってされるがままで居るのも限界で、おずおずと声を掛ければ、やっぱり柔らかな声が続きを促す。
「ぐずぐず泣いて、ちっとも楽しいとこ見せれてないのに、俺と別れようとは思って、ない?」
「思ってないよ。少なくとも、俺から別れようって言う気はないね」
「楽しく生きてるとこ見せれないなら、期待はずれだから別れてって言う、って」
「確かに言ったし、生きてて良かった〜とか、このために生きてた! とか言いながら、君が幸せそうに笑ってる顔見ると、釣られて俺の人生もそう捨てたもんじゃない気になれていいってのは事実なんだけど、あー……」
 そこで一度、迷うように言葉を探した相手が、生きがいがない人生って気持ちの起伏が薄いって事でもあるんだよねと続けた。
「だからさ、これ、変な意味で受け取ってほしくないんだけど、さっきみたいに泣いてるのとかもさ、全く期待外れな反応ではないんだよね。人生謳歌してんなぁって風に思っちゃうというか、幸せって笑ってるほうが絶対にいいんだけど、泣いてたって俺からすればやっぱりキラキラして見えるんだよ」
 思いつめていきなりラブホという今日のこの選択すら、エネルギーが満ち溢れてて圧倒されると言った相手は、それから少し申し訳無さそうな顔をする。そして、泣くほど辛い想いを抱えさせた張本人が言っていいことじゃないってのはわかってるから、そこも含めて、今後このお付き合いをどうするかを考えて欲しいと言った。
「あの、俺が楽しく生きてるのを傍で見てたいらしい、ってのはまぁ、わかってるんですけど、その、俺のこと、どれくらい好きって思ってくれてますか?」
「それは恋愛感情で、って意味だよね?」
「はい」
 ガチで惚れてる? なんてことを聞かれて否定できなかったせいで、恋人って肩書だけじゃやっぱりもう無理なくらいには、自分の中の想いを自覚してしまっている。
「だって、俺が楽しく生きてるのを傍で見るだけなら、恋人じゃなくてもいいかなって、思うというか。恋人としてじゃなく、友人でも、別にまんま会社の上司と部下って形でも、デートじゃなくてただのお出かけ、すればいいじゃないですか」
 いくらでも付き合いますよと言えば、今思い当たったとでも言うみたいに、少し驚いた様子でなるほどと呟いている。
「あー……そうだな。抱かれたいって言われて、あれこれ調べて簡単にその気になれるくらいには、恋愛感情的に好きだと思ってる、つもりだけど」
「あれこれ、調べて……」
「うん。調べた。君がシャワーしてる間、男同士でどうすれば気持ちよくセックス出来るか、必死に検索かけてたよ」
 部屋に戻ったとき、いやに真剣な顔で携帯を眺めていたのはそのせいか。
「調べて、その気になれた?」
 聞けばやっぱりうんと頷いて、どこか照れくさそうに、今はもう性的対象として見れてるしちゃんと勃つと思うよと続けた。釣られたようにこちらまでなんだか照れくさい。
「あと、恋人って関係を解消して、新たにデートじゃなく一緒に出かける関係になったとするよね。そしたらいつか君に新しく恋人ができると思うんだけど、その惚気話を羨望なしに聞ける自信はさすがにないかな」
 一度言葉を区切った相手に、少しの間じっと見つめられてドキドキする。けれどこちらの期待に気づいたらしい相手は苦笑して、嫌なことを言うけどと前置くから、一気に緊張してしまう。
「もし、君がどうしても別れたいと言うなら、残念だとは思うけれど、君を手放して元の生活に戻るつもりだよ。デートじゃなく、一緒に出かける友人のような関係にはならないし、なれない」
「な、んで……」
「さっき言った通り、君の新しい恋を、一緒に楽しんだり純粋に応援してあげることが出来そうにないから」
 そのくらいには好きだけど、でも一般的な恋人関係で求められる愛情には全く足りてない自覚はあると言って、相手は気まずそうに苦笑を深くする。
「だからさ、次のデートで、判断して欲しいんだよね。俺が頑張ったところで全く足りないのか、どのくらいの頻度で頑張れば満足できそうか」
「頑張る、頻度」
「そう。まぁ、過去の経験的に、年に一回か二回くらいなら頑張れそうなんだけど、月イチでとか言われると、俺が持たないからゴメンって話になる、かもしれない。から、これ聞いて呆れ返ってもう嫌だって思うなら、まぁ、今すぐ振られても文句は言わずに大人しく身を引くよ」
 どうすると聞かれてズルいと言えば、とっくに知ってると思ってたけどと言いながら苦笑を柔らかな笑みに変えたから、ますますズルいなと思った。

続きました→

 
 
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