彼女が出来たつもりでいた4(終)

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 気づいてたんですかと言われて、まぁ多少は気になってたよと返す。
 次なんてない方がいいに決まってるけど、もし次があるなら、今度こそもっと上手く助けてやりたい、みたいな事を思っていたのは事実だ。先程八つ当たりした面もあったと言ったように、色々と反省や後悔もあったので。
 だから姿が見えたら、不躾にならないよう注意しながらも、気にしてはいた。
 格好から大学生か専門学生と思っていたので、最近見ないなと思った夏頃、そうか夏休みかと納得して、そういえばそれきり忘れていた。なぜなら、夏が終わっても彼は戻ってこなかった。
 まぁ、もしかしたら自分が気づかなかっただけかもしれないけれど。ただ、ここ最近を思い返しても、朝の電車に目の前に座る男の姿はなかったように思う。
「夏頃見かけなくなって、学生は夏休みなんだなって思ったとこまでは、はっきり覚えてるよ。そこから先はイマイチ自信ないけど、夏休み明けてからも戻っては来なかった、よな?」
 気づいてなかっただけかもだけどと自信なさげに続ければ、男の姿で一緒に乗っては居ないですと、なかなか衝撃的な言葉が返ってきた。
「女装して一緒に乗ってたことなら、あります」
 さすがにそれは気づきようがないなと思う。なんせ、バレンタインにチョコを貰うまで、彼女の存在には一切気づいていなかったし、添えられていた手紙にも、帰宅時に見かけてと書かれていたから出勤時に姿を探すような事だってしていない。
「ただ、朝はやっぱり色々と大変で」
 女装で大学に通っているわけではないことや、朝の方が痴漢遭遇率が高いなど、衝撃的な話はまだまだたくさんありそうだ。というか、すっかり女装に目覚めて女装で生活している、という話ではないらしいことに驚いた。だってあまりに違和感がなさすぎて、日常的に女性として過ごしていてもなんら不思議じゃない。
「だから、あなたにバレたくなかったから、めちゃくちゃ研究したし、練習もしたんですってば」
「まるで俺のため、みたいな言い方だけど」
「俺のためですけど、それはあなたに女性と思って貰うためだから。というか、引かないんですか? 割と、ストーカー染みたことしてる自覚あるんですけど」
 午前の講義がない日にわざわざ女装して同じ電車に乗り込み、自分が降りた後で折り返して一度帰宅し着替えているだとか。帰宅時間に時々見かけると思ったのも当然偶然などではなく、こちらの仕事が終わって駅に現れるのを待たれていただけだとか。それだってやっぱり、自分と同じ電車に女装姿で乗り込むためだけに来ていたらしいし。
 確かにこちらの行動パターンを把握されているし、ストーカーっぽいとは思う。思うけど、気になるのはそっちじゃない。
「まさか、女装が好きってわけじゃなく、俺に女と思わせるためだけの女装なの?」
「はい」
「なんで!?」
 あっさり肯定されて、驚き聞き返せば、だって恋愛対象は女性ですよねと断定口調で返された。しかも好みの女性のタイプまで指摘されて、だいたい当たっている上に、彼の女装も一応それらが意識されているのだと気づいてしまった。
「ああ、うん、これはなかなかのストーカーだ」
 苦笑すれば、申し訳なさそうにすみませんと謝られてしまう。別に咎める気も責める気もないし、彼(彼女)への気持ちが冷めるとかドン引きだとかって気持ちも湧いていない。
 男のままでは見向きもされないと思った故の苦肉の策だったというなら、むしろ見事としか言いようが無い気もした。
「そんなに俺が好き?」
「……はい」
 直球で聞けば、躊躇いながらもはっきりと肯定が返される。
「じゃあさ、新しく始めようよ」
「始めるって、何を?」
「そのままの君との、恋人関係を」
「えっ?」
「男の娘ってわかっても、別れる気だって思った瞬間に引き止めたくらいには、この関係に未練があるんだよね。話聞いてても、ドン引きってより、なんていうか、色々凄いと思うことのが多かったし。男の君のことも、普通に好きになれる気がするし。というか、好きだよ」
「俺、を?」
「そう。今、目の前で、やけくそ気味に色々教えてくれてる男の子を」
 キスしてもいいかって聞いたら、泣きそうな顔で、本当に男でも気持ち悪くないのかと聞き返された。騙して彼女になったのに怒ってないの、とも。
「まぁ、確かに男を恋愛対象として見た過去ってなかったけど、だってもう、好きだって思っちゃった後だから。最初っから男のままアタックされてたら逃げてた可能性はあるから、むしろ女装で近づいたのはいい手だったかもよ」
 男なんて絶対無理ってほど、ゲイとかホモとかに嫌悪感を持ったことも無いから、同性の恋人は初めてだけどきっとなんとかなると思う。
「ねぇ、俺の、恋人になって?」
 ぼろっと涙をこぼしながらも、はいと頷いてくれた相手に腕を伸ばす。二人の間に挟まるローテーブルに乗り出すようにして、引き寄せられるように腰を浮かした相手を捕まえて、その唇をそっと塞いだ。

<終>

 
 
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