弟の親友がヤバイ7

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 順番に話すねと言った弟の最初の話題は、やはり中二のあの時期のことだった。
 手を出してしまった直後くらいからだろう。急によそよそしくなって、家に呼んでものらりくらりと躱されて、問い詰めたら「お前の兄さんを好きになったゴメン」と謝られてビックリした。という最初の所で、さっそく待ったをかける。
「好きになった? その段階で? あんな目に合わせた相手をか? 嘘だろ?」
 疑問符ばかり飛ばす自分に、弟の罪だよね~という言葉と苦笑が突き刺さった。
「まぁ、好きになったっていうか、性癖を自覚させられた、ってのが正しかった気もするけど。あいつ女ダメみたいだし」
 後はショックで好きだと思い込んだ可能性とか? と続けてくる弟の言葉が胸に痛い。ちょっと脅しておこう程度の軽い気持ちで、本当に、随分と酷いことをしてしまっていた。
「それで俺さ、兄さん好きでもいいから友達やめないでって頼んだの。家に遊びに来てとは言わないから、これからも一緒に遊んでってさ」
 そうして普段は普通に親友として過ごしていたらしいし、彼の想いにわざわざ触れることもなかったようだが、でも色々気付いていくよねと弟は少し重めのため息を吐いた。
「高校入ってから、あいつかなりモテだしたけど、でも全部きっぱり断ってたし。断る理由が好きな人いるからだし。たまに俺が兄さんの話とか出すと凄く楽しそうに聞いてるし。でさ、聞いちゃったの」
「何を?」
「今もまだ兄さん好きなの? って」
 しかも肯定とやっぱり謝罪の言葉とを出されて、兄の何がそこまで彼を惹きつけるのか、気になって相当しつこく聞いたらしい。
「それでようやく聞いたのが、兄さんに手コキされてイかされたのが忘れられないとか、なんじゃそりゃだよ」
 頭にきてその話聞いた日に一回兄さん殴ってると言われて、いつだったか八つ当たりみたいにして殴られたことがあったのを思い出す。珍しい癇癪起こして理由も聞けないままだったが、まさか原因がこれだったとは思わなかった。
「その頃には俺も自分があいつを、親友ってだけじゃなく、そういう意味でも好きなんだろうって自覚あってさ。というかそんな理由で兄さん好きになってんなら、俺で良くね? って思うよね」
 これもう完全に、自分が手を出した事が発端で、弟がそっちに目覚めた系だと頭を抱える。
「ほんっとーにすまなかった」
「え、それ、何に対する謝罪?」
「色々だよ。お前の親友どころかお前まで男に恋愛感情抱くようになったとか、これもうどう償っていいかわからないレベルで動揺してる」
「いや別に、そこはどうでもいいって」
「どうでも良くない」
「だって兄さんが手ださなくたって、あいつの性癖は多分変わらないし、女は好きにならないと思うし、あいつが男ありってわかってたら、俺はやっぱりあいつをそういう方向で好きになっちゃうもん。それどころか、あいつが男なしだったとしても、好きになってたかもしれないし」
 すげーいい奴なんだよと語る弟に、わかるよと返した。弟があの男を特別に思っていて、大好きだなんてことは、昨日の二人を見ていたら疑う余地もない。ただそこに、恋愛感情まで含まれているとは、流石に思ってなかったけれど。
「話戻すけど、手コキされてって聞きだした後くらいからは、まぁそれなりにぶっちゃけた恋愛相談的なこともしてたわけ。兄さん好きって気持ちと、でもやっぱりそれなりに恨む気持ちとはあるでしょ。まぁ恨む気持ちがあるって自覚させたの俺だけど」
「はい待って。恨む気持ちを自覚させた? お前が?」
「まぁね。だってあいつ、自分の気持の整理もしないで、闇雲に兄さんの影追っかけてたからね。酷いことされたって自覚あんまりなかったからね」
 自己防衛かもねと言って弟は続ける。
「じゃあなんであいつ家来なくなったの? 兄さん好きならむしろ会いに来ればいいじゃん。それしないの兄さんに怯えてたからじゃん。好きって言いつつ怖かったんじゃん。あいつは兄さんにもっと怒っていい。ってのをけっこう時間かけて自覚してもらった」
「なんとなく読めてきたけど、昨日の復讐って、やっぱお前の発案?」
「え、ちょっとそれ、ネタばらし早くね?」
「何年お前の兄貴やってると思ってんの。あーでもまぁ、ちょっと納得できる部分もある」
 なんか全体的にアンバランスで、復讐と言いつつもすぐ泣きそうになっていた。
「ちなみに兄さんの手縛ったのは俺。色々考えてたけど、ソファで寝てくれて本当良かったよ。一応気は使ってタオルとか巻いたの正解だったっぽいね」
 弟の視線が手首に注がれて、そういやかなりガッチリ拘束されていた割に、痕などは残っていないことに気づく。
「そりゃどうも。で、復讐って何させるつもりで、本来の落とし所ってなに? あいつに俺を抱かせることまでは考えてなかったんだろ?」
「基本やられたことはやり返す。だから兄さんむりやりイかせるのだけが目的だったよ。まさか勃たないとか思ってなくて、完全に想定外。あいつめっちゃテンパってたと思う」
 それはどうかな。とは藪蛇になりそうで口にしなかった。
 弟はあの日自分がどんなセリフを掛けながら彼に触れたのかまでは聞いていない。弟の計画に乗って、それ以上のことをしようと考えていた可能性はあると思う。そうでなければ、弟に手を出されたくないなら抱かれろなんて話がサラッと出てくるとは考えにくい。
「一応聞くけど、それ成功してたら、その後どうするつもりだった?」
「告白?」
「誰が誰に?」
「あいつが兄さんに。てか、振られたって言ってたから、告白はもうしたんだって思ってた。正直、兄さんがその場でOKするかは五分くらいの確率って俺は踏んでたんだよね。それはあいつにも言ってあった」
「その数字、どっから出てんの」
「弟として過ごしてきた時間から? てかさ、俺の計画では、兄さんがあいつにむりやりイかされるじゃん? でもってあいつが、昔やられた事が忘れられなくて好きになりましたって告白するじゃん? 兄さん絆されてOKするか、ゴメンちょっと考えさせてって反応かなと思ってたの。でもって俺に相談してくると思ってた。泣くほど酷いフラレ方になる想定はゼロだった。おかげですげー焦って、兄さんじゃなくて俺にしなよとか言っちゃったの本当に下手うった。まさか二人の間で、俺に手を出す出さないなんて話が出てると思ってなかった」
 弟は酷く苦々しげに言い募る。
 後半部分は独り言のような愚痴に近いが、前半部分は確かに、そういった流れで告白されてたら、抱かれる覚悟まで決めたくらいだから告白を受け入れてたかもしれないし、さすがにちょっと待ってと保留して弟に相談していただろう可能性も高いなと思う。
「あー……まぁ、お前の読みは間違ってないよ。勃たなかったけど」
「そこは正直頑張って欲しかった」
「無茶言うな」
「でさ、あいつ確実に兄さんが俺をそういう意味で好きって誤解してるけど、どうしよう?」
「それ、俺に否定しに行けって言ってんの?」
「言ってる。てか兄さん的には今の話聞いててどうなの? あいつの気持ちに応えてやろうって気が少しでもある? それとも俺と幸せになってねって感じ?」
 さすがにすぐに答えられなかった。
「俺と幸せにってんでもいいけど、誤解といた上で、俺とのことに反対しない祝福する応援するくらいの事は言ってもらうからそのつもりで」
「うっ……わかって、る。けどさすがにちょっと、考えさせてくれ」
 適当に答えられるよりいいけど、でもなるべく急いでと言って弟は立ち上がる。
「あんな状態、ちょっと放置してたくないから」
 思わずそうだなと同意すれば、弟の表情が少しだけ和らいだようだった。
 取り敢えず部屋戻るけど、気持ち決まったら声かけてと残して、弟はリビングを出て行った。

続きました→

 
 
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「弟の親友がヤバイ7」への2件のフィードバック

  1. 弟くん、本当に親友のこと大切に想ってるんですね―。
    そこまで話・・というか相談しあえる仲ってなかなか居ないと思う。

    そしてお兄さんっ。
    どーしましょーねー(ププp)。最初に気付いてヤってしまったのは確かに☓☓だったけどその後の展開が~~。
    まさかのお兄さん大好き! になっていたとわ。。
    素面で真剣に考えて、どんな結論になるのか、かぶり付きで覗きたい。

    でも、真剣な気持ちには正面から答えてあげないと失礼だもの、それはやってくれるよね。

  2. mさんいつもコメントありがとうございます(*^_^*)

    視点の主(兄)は今やっと弟経由で親友くんの気持ちを聞いただけなので、次回は「親友くんは兄を好き」を踏まえた上で、親友くんと主とで話ができたら良いなと思ってますが、そこに弟も一緒に参加するかは現在まだ迷い中です~
    真剣な気持ちには正面から答えてあげたいですよね!
    でもまずは親友くんが自分の言葉でちゃんとお兄さんに告白してくれないとと思ってしまってるので、早く決着付けたい気持ちはあるんですが、まだもうちょっと終われそうにないかもです(;´д`)

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