追いかけて追いかけて24

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 選択肢なんてないまま肯定を返せば、相手はそれじゃあと言って口を開く。
「恋人になって」
「えっ?」
 全く予想外の言葉に呆然となって、思わず相手の顔を確かめてしまう。どんな顔でそんなことを言ったのか気になった。
 じっとこちらを見ていた相手は本気かと聞くのも憚られるくらい真剣な顔をしているから、頭の中ではぐるぐると、なんと答えればいいかを探してしまう。
 だって本当に意味がわからないというか、お腹の中を洗うよって話をしてたはずなのに。恋人にもセフレにもならないって言って、最後に一回だけ触れ合おうって話でここに来たはずなのに。
「即答できないくらいには、迷って貰えてるのかな」
「いえ、恋人には、」
 状況が飲み込めないだけで、彼と恋人になることを迷っているわけじゃない。慌てて恋人にはなれないと言おうとしたら、遮るみたいに相手も口を開く。
「うん。わかってる。でもここにいる間だけ、恋人にならせてよ」
「ここに、いる間……」
「そう。俺との恋人関係を拒否するのは、世間体を気にするから、だろ?」
「世間体?」
 そういえば、人からどんな風に思われるか、見られるか、みたいなことを気にしたことはなかった。それを気にしてたら、本人にも周りにも、もう少しちゃんと想いを隠すなりしていただろう。教授に恋をしているみたいだと言われて、腑に落ちたなどと納得してる場合じゃない。
 しっかり否定もせず気持ちを本人にも周りにもダダ漏れさせた結果が、本人からの告白だったり、後輩からのレイプ未遂だったりに繋がっているのに、世間の目が怖くてなんて、どの口が言うんだって感じだと思うんだけど。さすがに今更感が酷い。
「違うの?」
「あーいや、まぁ、違いません。多分」
 それでもはっきり違うと言えないのは、男女の恋人が当たり前だって思っていることや、だから女性も恋愛対象になるなら女性を選ぶべきだと思っていることなどは、突き詰めれば世間体が気になるってことに繋がっていないとは言えない気もするからだ。当たり前から外れた生き方はなにかと大変だろうって気持ちは確かにある。
「多分?」
 眉間に少しシワを寄せ、低めの声で聞き返されて、思いっきり疑問を持たれてしまったと思う。これは間違いなく追求される。
「もうちょっと詳しく話して」
 ほらやっぱり。そう思いながらも、諦めて口を開いた。
「えと、その、俺自身がどう思われるかはあんま関係ないから、世間体とかはっきり意識したことなかったって、だけです。けど、あなたが世間からどう見られるかは確かに気になるから、世間体を気にして恋人になれないってのは、当たってます」
「は? 俺?」
「そ、です」
「俺から誘ってるのに、俺がどう思われるかを、君の方が気にするの?」
「どう思われるか気にするってより、当たり前ができる人なんだから、俺なんかを相手にしてないで、当たり前を進んでって欲しいんですよ。当たり前を進むってのが、俺の中では世間体を守ることと同義だから、世間体が気になってあなたとは付き合えない、です」
「当たり前って、何? どんなこと?」
「それは、女性とお付き合いして、結婚して、子供作って、みたいな人生?」
「つまり、君が俺との交際を拒否すれば、俺が他の女性と交際を始めるはずだ、みたいなことを考えているわけ?」
 どんどんと低くなる声と、険しくなる瞳に、ぶるりと体が震えてしまう。こんな彼は知らない。今度こそ間違いなく怒らせたのだと悟って、血の気が引く思いがした。

続きました→

 
 
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