オメガバースごっこ2

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「俺の怪我を喜んだのがあいつだけだったから」
 バカ正直に、独占欲に気づいたからなどと伝えるつもりはなかったので、代わりにその独占欲に気付かされた彼の言動を伝えた。
『喜んだ? すごく残念がっていたと思うんだけれど』
「俺が怪我したせいで、あいつに色々世話して貰ったり自主練につきあわせたりしたの、迷惑だったとか一言も言わねぇどころか、一緒に遊ぶ時間が増えて嬉しかったとか言いやがるから」
『ああ、なるほどね』
 健気に尽くされて絆されちゃったか、と続いた言葉はどこかからかいを含んで聞こえていたから、その通りだと思うもののなんだか少し腹立たしい。想定の範囲内ではあるが、身近で発生したネタを楽しまれている気がする。
「で、あいつの方はどうなんだよ」
『どう、って?』
「無理強いしたつもりはないし、俺と付き合ってもいいって思ったから了承したのはわかってるけど、あいつが俺と付き合う利点って何?」
『え?』
「姉貴と楽しくやりとりするためのネタ扱いされるのも多少は覚悟してたけど、速攻電話掛かってくるとは思わなかったし、さっきも言ったけど、あいつを手放したくないっつうか、番契約がないこの世界であいつを自分のものと言える状態にしたくて、今現在俺が取れる手段として恋人になってもらった、って形になってるはずなんだけど、それ、あいつどこまでちゃんと認識してる?」
 お前のことが欲しいと、確かに口に出して言ったはずだ。
「BL本の読みすぎで感覚おかしくなってる自覚はないわけじゃねぇけど、付き合いで読んでるっつうか、時間あったし世話にもなってるからあいつの好きなものを俺も知っておきたい、くらいの気持ちだから、俺に、腐男子の仲間入りした意識はねぇんだよ。オメガバース持ち出して口説いたけど、腐男子同士で本の中の世界を試してみよう、みたいな感覚だと、俺の方は結構困る」
 絶対に、何が困るのかという追求があると思っていた。なのに電話の先で黙り込んでしまった姉は、大きなため息を聞かせてきた後、もっとちゃんと二人で話し合いなさいと諭すように言った。そんなこと、付き合いだしたと聞くなり茶化すような電話をかけてきた相手に言われたくはないのだが。
「姉貴がすすんで首突っ込んできてんだろ。まぁ、俺の方に協力してくれないのは想定内だからいいけど。じゃあ他に、あいつが俺に聞いてくれって頼んだのは?」
 聞きたかったのは交際申込みに至った決め手だけかと続けた声は、自分でも分かる程度には棘があったけれど、そんなものに怯むような姉ではない。
『頼まれたとわかってるなら、尚更、ちゃんと二人で話し合いなさいよ。あと、電話したのは、早急にあなたに伝えて置きたいことがあったからよ』
 何かと思えば、今後恋人として関係を進めていくつもりがあるなら、BL本を参考にしたりせずリアルの男同士の行為についてきちんと勉強しておけ、という話だった。当たり前過ぎて呆れてしまったが、その当り前という認識があるかどうかがとても重要で、どうしても確認して置きたかったらしい。
「しかし、よく実の弟相手にそんな助言する気になるな」
『それはあなたが、オメガバースを持ち出して口説いたからでしょう』
 発情期がないのも、勝手に濡れないのももちろんわかっている。本当にオメガなら楽にセックスできるのにと考えたことがあるのは事実だし、本当にオメガなら良かったという発言をしたのも事実だけれど、セックス中に、お前がオメガなら楽に突っ込めるのに、などというデリカシーの欠片もない暴言を吐く予定はない。
 ただ、楽だったろうな、と考えずに居られるかはちょっと自信がないのと、それを相手に気取られないよう隠しきれるかという部分は少し危ない気もする。姉が心配して口を出してきたことを考えたら、そこは気合を入れて充分に気をつけるのが良さそうだ。

続きました→

 
 
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