オメガバースごっこ9

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 一度大きく息を吸って吐き出した。
 少し距離を置いて頭を冷やそうとベッドから腰を浮かし掛ければ、慌てたように伸びてきた手がシャツの裾を握り込む。相手の思惑に乗って襲いかかりたくないこちらの気持ちは、やはり相手には伝わらないようだ。
「ま、待って」
 声も手も震わせながら、それでも必至に引き止められてしまい、ダメだと思うのにそれを振り払うことは出来なかった。
「お、怒った……?」
「怒ってるわけじゃ、ない、けど……」
「けど、なに?」
「こんなん飲んでしたくねぇ」
 飲み慣れたものではないどころか、一度も飲んだことがない。これを飲んでどの程度興奮するものなのかわからない。
 相手の興奮具合を考えたら、それが相手の望みだったとしても、同じように興奮するのは危ないのではと思っても仕方がないと思う。
「飲まなくても抱ける、って意味なら、お願いだから、それ飲んで、して」
「なんでだよっ」
「発情期には、同じだけ興奮しててくれなきゃ、いやだ」
 番のアルファが側にいるのに一人だけ発情してるのなんて惨めで恥ずかしい、らしい。なんかそんなの読んだことある気がするな。
 ということは、本当にオメガバースの世界だと思って対応すれば良いのかも知れない。つまりは、目の前にいるのが自分の番のオメガで、発情期を迎えていて、現状自分がその誘惑に抗えているなら抑制剤が効いてるってことでいいんじゃないのと思ってしまった。
 確かオメガの誘惑に抵抗できるアルファ用の薬があったはずだ。番の居るアルファ用ではなく、番を持たないアルファが見知らぬオメガの発情期に巻き込まれないためのものだった気もするけれど。
 でも番相手には効果がない、なんて話は読んだ記憶がない。オメガが服用する抑制剤はたいがい番のアルファにも効果があったから、アルファが服用する抑制剤だってきっと番相手にも効果があるだろう。
「却下だ」
 ここが本当にオメガバースの世界だったとしても、理性をふっとばして本能任せに番のオメガを抱き潰す必要なんてない。少なくとも自分なら、番の発情期に簡単に誘惑されないよう、対策すると思う。
「きゃ、っか、って……」
 がっかりを通り越して青ざめた顔を見ながら、手の中のドリンク剤を床に向かって転がした。
「防ぎようのない突発的な発情で事故ってやっちまう話はよく読んだけど、番との初めてのセックス、発情期の衝動に任せて終えたいアルファなんていんのかよ」
「でも、番が居るΩの発情期には、番のαが相手してくれるのが普通で」
「相手しないって言ってないだろ。理性ぶっ飛ばして抱き潰さないように、抑制剤飲んでる、とでも思っとけ」
「えっ……」
「抑制剤ってのはフェロモンに反応しないってだけで、勃たなくなるわけじゃないもんな」
 少なくともそんな状況に陥ったアルファを読んだことはないので、抑制剤で勃起不全が起こる世界があったとしても、それはきっと特殊な設定ってやつだと思う。
「えっ、そんな、えぇ……」
「あと、一人で発情してんのが惨めで恥ずかしい、なんて思いをさせる気もねぇから心配すんな」
「は? え?」
 全く想定になかった対応をしているんだろう。戸惑い動搖しまくっている相手に、番のオメガが発情期に助けを求めてきたていで、存分に甘やかしながら抱いてやるよと宣言してやった。

続きました→
 

 
 
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