いつか、恩返し26

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「ねぇ、好き」
 笑い混じりに飛んできた声に、またか、とは思わなかった。好きだと思った気持ちをただ零しているだけ、とか言っていたけれど、さすがにこれは違うとわかる。
 応じてくれと願う気持ちと、こちらがそれに気づいて応じるだろう確信とが、微妙に混じった色合いの声音だと思う。ねぇ、お前は? と続かなかった、彼の声を聞いた気がした。
「あー……俺も、好き」
 ふふっと柔らかな笑いが漏れて、しみじみとした声が嬉しいなぁと続くから、姿は見ていないのに、嬉しそうにはにかんでいる姿が容易に想像できてしまう。
「あのさ、俺、ちゃんとお前のこと好きになってるよ?」
「うん。それは知ってる」
「もしかして、もっと俺にも好きって言って欲しかった?」
 好きだ好きだと繰り返し口にだすのは、こちらにも同じように、好きだと言葉に出して言って欲しい気持ちがあっての事だったんだろうか。しかしそれはすぐに、あっさり否定されてしまう。
「言ってくれたらそりゃ嬉しいけど、お前が感じてる裏ってやつとは違うかな」
「で、それを言う気はやっぱないの?」
「いや、言うよ。でも本当に、ただただ声に出して好きって言いたい、伝えたいって気持ちが大半なんだよ」
 そこは信じてねと言うので、信じてるよと返した。別に疑ったりしていない。
「ただ、好きだ好きだって聞かされるお前が、俺のお前が好きって気持ちを意識して、お前の中の俺を好きって気持ちを育ててくれそうな気がすると言うか、そういうの狙う気持ちもなくはない。のも事実。で、あとこれ言っちゃったら、お前意識的にそうしてくれちゃうだろうから、なんかちょっと、さすがに言うの躊躇った」
「あー……その、言ってることは理解したんだけど……」
「したんだけど……?」
 途端に不安そうな声になるのも含めて、くっそ可愛い、なんて思われている事実を、突きつけてやるべきなのかは少々迷う。
 理由を聞きながら、なんだそれ、と思っていたのだ。いっぱい好きって言ったら、こちらの好きも育つかもだなんて、そんな事を考えていたとは思わなかった。
 好きになってる、というこちらの言葉に、すんなり知ってると返してくるくせに、でも本心ではもっともっと好きになって欲しいと思っていたらしい。でも直接それを言うことが出来なくて、もしくはなるべく直接言いたくはなくて、そんな健気で可愛らしい努力を重ねていたのかと思うと、たまらない気持ちになる。
「いやぁ、なんつうか、お前、ホント俺に対して健気すぎて困る」
「ああ、ごめん。さすがに自分でも、随分と健気でいじらしい努力をしてるなって、笑いたくなる事あるわ」
 だから言いたくなかったのもあると、苦笑交じりに告げられて、そうじゃないと思う。
「困るってそういう意味じゃない。なんなら今からもう一回抱きたいくらい可愛いこと言ってる自覚、ないだろ」
「えっ?」
「もっかい抱きたい。そこそこ寝たし、体、大丈夫だろ?」
「え、そりゃ、いいけど。え、本気で?」
 本気でと返しながらも、立ち上がることもしなかったし、振り返ることすらしていない。だってまだ、聞きたいことが残っている。
 この際だから、いつか恩返ししたい気持ちを利用してでも欲しいもの、とやらを聞き出しておこうと思っていた。だってそれもきっと、健気で可愛らしい要求なんじゃ、という気がしてならない。

続きました→

 
 
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