いつか、恩返し3

1話戻る→   目次へ→

 彼女さえ作ればの言葉通り、さっさと彼女を作るのかと思った従兄弟は、けれど結局一人のままだった。距離はおいたし互いの部屋に行き来するようなことはなくなっても、連絡まで一切取らなくなったわけではないから、もちろん理由は聞いた。
 噂に踊らされて恋人まで作るのは相手の思う壺だしバカらしいから、だそうで、そう聞けば納得も行くのだけれど、ゲイ疑惑も従兄弟が自分に片思い中という噂も、なくなるどころかますます信憑性が増している。
 こちらは気にせず彼女と仲良くしてろと言われたって、誰からの告白だろうと全て突っぱねている従兄弟の話は、どうしたって耳に入ってくる。それを聞かされる自分の反応も含めて、完全に一部の生徒の娯楽対象なんだと思った。
 だって従兄弟への告白も、どう考えたって本気と言うより、断られる前提の遊びになっている。ゲイ疑惑があるのだからと、女子だけでなく男子も混ざっていて本当にタチが悪い。
 従兄弟の方に新しく出来た友人たちも徐々に従兄弟から離れてしまって、こちらは気が気じゃないのに、従兄弟本人だけはなんの問題もないよと言い切り平然としていた。
 耐えきれなくなったのは自分の方だった。孤立していく従兄弟を放っておけないからと、別れを切り出した自分に、彼女はこうなるのも時間の問題だと思ってたからと言って、あっさり別れを受け入れてくれた。
 それを伝えた従兄弟には、呆れと怒り半々に、随分馬鹿なことをしたなと言われたし、こんな事をしてこの後どうなるかわかっているのかとも聞かれたけれど、覚悟済みだよと返せば溜め息一つで許してくれた。
 だって本当に、どれだけ平然とした姿を見せられても、いつだって人の輪の中心に居たような従兄弟が一人きりで立つ姿を、遠くから見ているだけなのが辛かった。一度は親しい友人のように近づいてしまった後だったから尚更だ。
 助けてなんて一言だって言われていないから、恩返しどころか恩の押し売りみたいになっているけれど、迷惑かという問いにはちっともと返されたから、彼女と別れて従兄弟の傍に戻ったことを後悔する気持ちは欠片もわかなかった。
 従兄弟のために彼女と別れた、という噂は当然あっという間に広がったし、聞かれれば正直に、従兄弟をあのまま放っておきたくなかったからと彼女にも告げた理由を話したし、付き合うのかという問にも、そのつもりだと返した。もちろん従兄弟も了承済みだ。
 恋人になるような関係性ではないけれど、それを否定したってどうせ信じやしない。だったら相手が欲しい答えを与えてやればいい。彼らの思惑通り自分たちがくっついてしまえば、従兄弟は恋人持ちとなって遊びとからかい目的な告白に付き合わされる事もなくなる。
 しかも、はたからすれば、彼女持ちだったこちらの幸せを壊さないようにと噂が始まった初期にさっさと離れて、全てを一人で抱えて耐え続けた結果こちらが絆された、という流れに見えるだろう。つまり従兄弟は一途に思い続けた相手とようやく結ばれた果報者だし、事実そう思うやつらが居るようで、おめでとうだとか良かったねだとか言われることもあるらしい。
 最初に陰口やら噂やらを話していた、従兄弟にふられたのが気に入らなかった女子には、どうやら、君のおかげで手に入らないはずの相手と付き合えるようになったから感謝していると、思いっきり笑顔を振りまいてきたそうで、さすがに従兄弟も腹に据えかねるものがあったようだ。めちゃくちゃ悔しそうな顔をしてたからスッとしたと、久々に晴れ晴れと笑う顔を見れたから、やっぱり彼女と別れて良かったと思ってしまったし、内実はともかく従兄弟と恋人となったことへの後悔もなかった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です